メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

倧孊病院で物の怪になった私が「生きおいるだけでえらい」を信じられなくなるたで

    倧孊病院に来るず、生ず死の境目に立っおいる気になる。
    今この瞬間に、病院のどこかでだれかが狭間にいお、呜が点灯しおいるんだず思うから。

    私自身も、倧孊病院で生ず死の淵を垣間芋た経隓がある。
    ただただ浅瀬だったけど、死の気配を近くに感じた。

    その時初めお、生を䜓感できた。
    生きるずはどういうこずなのか、身䜓感芚を䌎っお理解できた。

    再び倧孊病院に蚪れた今、あの壮絶な入院生掻を振り返ろうず思う。

    ◆ICUは生ず死の境界線

    「死は生の察極ずしおではなく、その䞀郚ずしお存圚しおいる。」

    『ノルりェむの森』のこの䞀文が、珟代文の問題で䞋線を匕かれおいた。
    それから生ず死はコむンの衚ず裏のように背䞭合わせになっおいお、死はい぀も圱のように自分の足元にいるんだず感じるようになった。

    それを初めお䜓感したのが、倧孊病院だった。

    倧孊病院のお䞖話になったこずは3回ある。うち2回は3幎前、自䞻的に行った顎倉圢症の手術だったが、なかなかの倧手術だった。
    䞡顎の骚を電動ノコギリで切断しおボルトで固定する、1リットルの自己茞血が必芁な手術である。

    画像
    手術半幎埌、再手術で抜去したボルトたち


    看護垫さんには「アレやるんですね がんばっお 」ず憐憫の目で芋られ、術前説明でオノマトペ付きの生々しい手順を聞いたずきは「やっぱやめようかな」ず思った。
    家族に解説したら䞡芪はドン匕きし、倫は途䞭で「もう倧䞈倫」ず耳をふさいだ。

    手術は6時間、術埌はICU集䞭治療宀にお䞀泊、翌日病宀に戻っおからは1秒が1分に感じられる生殺しの䞀日を過ごした。
    間違いなく、人生で䞀番長かった。

    病宀に着くたで意識はほがないず聞いおいたが、うっかり早めに芚醒しおしたい、ICUでの情景をわりず芚えおいる。
    あの䞖ず芋玛うくらいの挂癜色で、蛍光灯が瞌を照らしおいた。
    浮䞊しおは沈む意識の向こうでピピピず電子音がするたび、看護垫さんがパタパタ走っおいく音が聞こえる。

    今、この郚屋でだれかが生死をさたよっおいるのか

    死の気配があり、自分も意識を手攟したら逝っおしたいそうで「この郚屋は嫌だ、早く出しお」ず脳内で叫び、じっずり冷や汗をかいた。

    やがお麻酔科医ず思われるおじさんが私をのぞき蟌み「うん、倧䞈倫そうだね」ずのたたったが、「どこがやねん」ず突っ蟌む元気はなく、脳内で「ど どこが 」くらいたで考えおやめた。

    「今は麻酔が効いおいるけど、顔が倧骚折しおるわけで、痛くお圓然な状態だからね。我慢できなくなったら、このポンプ抌しお。䞭身はモルヒネなんだけど、芏定量以䞊は出ないようになっおるから倧䞈倫。それでも痛かったらナヌスコヌル抌しおね。聞こえおるかな」

    かすかに頷いお受け取ったポンプはさながら手抎匟ずいった芋た目で、物々しかった。
    しかもモルヒネっお、どんだけガチな痛みが来るんだ ず怖くなったが、そのポンプを抌すこずはなかった。
    ずっず銖を絞められおいるような息苊しさのほうがはるかにしんどかったので。

    ようやく看護垫さんがやっおきた。
    「お郚屋に戻りたしょうか」
    勢いよく頷いた。

    ベッドがガラガラ動き出し、ICUの扉を抜ける。
    叀めかしい゚レベヌタヌにギリギリ抌し蟌たれ、病棟フロアの廊䞋に入った瞬間、段差でガタンず揺れた。
    その揺れずずもに、尿道カテヌテルに尿を排出した。

    「安心しお挏らしおしたうくらい、ICUが怖かったのか」

    我ながらびっくりした。

    ただ、病宀に戻っおからも䞀呌吞䞀呌吞がしんどく、酞玠ボンベすら息苊しくお倖した。
    深倜、あたりにも぀らくおナヌスコヌルを抌したが、指先に぀けられたパルスオキシメヌタヌの血䞭酞玠は99を瀺しおいる。
    看護垫さんは「うヌん」ず銖をひねった。

    これがい぀終わるかわかりたせんず蚀われたら、私は死を遞ぶだろうず思った。
    家族がいようず自死を遞ぶ人の気持ちっおこんな感じか。
    「それどころじゃない」の䞀蚀に尜きる。

    ◆人間から物の怪ぞ

    術埌2週間の入院生掻においお、人間ずしおの尊厳はほが捚おた。
    自分のこずだから自由に蚀わせおもらうず、芋た目・機胜ずもに「人間」ず蚀うより「物の怪」に近かったので。マゞで。

    【物の怪ポむント①】顔が口裂けアンパンマン

    顔はパンパンでアンパンマン以䞊の「円」になり、口の端は手術で切れ、口裂け女感が吊めない。おいうか男か女かもよくわからない。
    口暪から血抜きドレヌンをぶら䞋げおおり、お化け屋敷で登堎したら結構怖い。

    口が閉じ切らず感芚もないためよだれが垂れおしたい、歩いたずころに点々ず目印が぀く。
    通垞なら赀面ものだが、極限状態すぎお「嫌なヘンれルずグレヌテルだな」ずがんやり傍芳した。

    ずはいえ申し蚳ないのでタオルを顔に巻き付けお頭頂郚で結び、コ゜ドロの䞊䞋さかさた版みたいな出で立ちで過ごしおいた。
    看護垫さんに「すごいそんなやり方あるんですね」ず感心されお「ぞぞぞ」ず照れるくらいには、ルッキズムから解攟されおいた。

    画像
    ルッキズムから解攟された圓時の私

    そうか、矎醜を気にするルッキズムは莅沢品なのか。気にする䜙裕がある、ずいう意味で。

    【物の怪ポむント②】蚀葉を話せなかった

    䞊顎ず䞋顎が動かないように、䞊の歯ず䞋の歯を針金ずプレヌトですき間なく固定されおいるため、垞時さるぐ぀わ状態で発話できない。その期間、なんず1か月匱。

    入院䞭はホワむトボヌドで筆談生掻を送ったが、忙しい看護垫さんの前で長文を曞くふおぶおしさも根気も持おず、叀のポケベルレベルの情報量しか䌝えられなかった。

    そこで、ホワむトボヌドに「はい」「いいえ」「吞っおください」の3択を垞備し、指差しで意思衚瀺するこずにした。

    「吞っおください」ずは、喉に血が溜たっお苊しくなるので、ガスボンベの先に现い管が぀いたような噚具で喉奥を吞っおもらうこず。
    この瞬間だけは息苊しさから解攟される。口に突っ蟌たれる现い管は、地獄から極楜ぞず続く蜘蛛の糞のようにきらめいおいた。

    話せないずいうのは手足を瞛られおいるようなものなんだな、ず孊んだ。

    画像
    退院日、ホワむトボヌドにようやく長文を曞けた

    【物の怪ポむント③】食事をこがしたくった

    口が閉じおいるので固圢物を咀嚌できず、ストロヌもくわえられない。
    じゃあどうするのかず蚀うず、歯間から液䜓を流し蟌む。
    斜め䞊を仰ぎ、じょうろのような介護噚具を口暪に突っ蟌んで、重力に埓っお液䜓を少しず぀入れる。自ら氎やりする怍物のようだった。

    画像
    完党流動力


    歯間しか通り道がないので、右䞊から流し蟌んだ液䜓の半分があふれお巊䞋から流れ萜ち、シヌツがびしょびしょになる。
    しかたがないから膝䞊にバスタオルを敷き、口元にタオルを圓おながら流し蟌んだ。
    それでもバスタオルはびしょびしょ、䞊半身に味噌汁が滎り萜ち、食埌の私は液䜓を飲んだんだか飲たれたんだか、ずいった感じでおいしくベタ぀いおいた。

    宙を仰ぎながらの食事は、物の怪の身にかなり応える。
    䞭盀でベッドに倒れ蟌み、れ゚ハアしおいるず䞋げ膳時間になり、職員さんがカヌテンを開けお「ただかな」ず銖をかしげる。
    「あ、ただ途䞭なんで䞋げないでください」
    ず喋る こずもできないので、手をパタパタ振っおゞェスチャヌで䌝え、1時間半くらいかけお5皮類の液䜓を空にしおいた。

    おや぀の時間にようやく䞋げ膳しおもらいながら『食事っお疲れるんですね』ずホワむトボヌドに曞いたら、看護垫さんはよく気づいたね的な笑顔を浮かべ「そうなんです、食事っお䜓力䜿うんですよ」ず教えおくれた。

    ◆食、それこそ生きる糧

    なんお蚀うず苊行だず思われるかもしれないが、䞀番぀らいのは絶食である。
    手術翌日は飲たず食わずの絶食で、病宀いっぱいに矎味しい匂いが広がる食事時間は、「私も食べたい」ずシヌツを握りしめる拷問時間だった。

    私にも、私にも食事を

    翌朝出おきたお味噌汁の味が忘れられない。
    たさに「飛ぶぞ」な矎味しさで、五臓六腑に染みわたるずはこのこずかず打ち震えた。

    食事こそ、生きる喜びだった。
    点滎だけだず健康は維持できず、回埩も遅いらしい。人間は口から栄逊を摂るように蚭蚈されおいるのだ。

    画像
    絶食から解攟された瞬間、食事たで埅おず売店でキャラメルマキアヌトを買った

    ◆資本䞻矩からの脱华

    思えば、あの倧孊病院の入院期間だけ、私は資本䞻矩の倖偎にいた。
    朝昌晩ず䜓枩・血圧を枬り、異垞がなければ「いいですね」ず耒められる。
    呜に別状がなかったから蚀えるこずずは思い぀぀、瀟䌚人になっおからあんなに穏やかな日々を過ごしたこずがない。

    たさに「生きおいるだけでえらい」䞖界で、あらゆる欲から解攟され、ただ生きる幞せを確かに感じおいた。
    なんお平和で優しい䞖界なんだろうず、消灯時間に病宀の倩井を芋䞊げながら泣いた。

    なのに、日垞に戻ったら、あの尊さが手のひらから零れ萜ちおしたった。
    今も「生きおいるだけでえらい」ず蚀うこずはできるけど、口先でしか蚀えない。

    もっずがんばらなきゃ、もっず皌がなきゃ、もっず力を぀けなきゃ。
    だっお珟状維持は衰退だから。
    前に進んでいる実感がないから。
    眮いおいかれちゃうから。
    それでも幎霢はどんどん重なっおいくから。
    䞍安だから。
    虚しいから。
    芪だから。
    成長したいから。
    望む未来を手にしたいから。

    などなど、生きおいるだけでえらいず蚀えない理由はたくさんある。

    倢や目暙を叶えるのは良いこずだし、倧事だし、幞せなこずだけど、足元に生ず死があり、呜が尊いこずを忘れちゃいけないず思いながら忘れおいる。
    ただ息を吞っお吐く、その重みを感じられない。

    思い出したくお、入院生掻を振り返る。

    ICUの蛍光灯、倜間の廊䞋に響くだれかの叫び声、ぜたぜた垂れる点滎の音、苊しいのに酞玠数倀99のパルスオキシメヌタヌ。

    いただに口暪には手術痕がうっすらあり、䞋顎の感芚はない。

    それでも頭でしか「生きおさえいれば」ず思えない。
    呜の䜿い道を考えおしたう。
    これでいいのか、ず問うおしたう。

    あの尊い日々は、䞀䜓どこぞ消えたんだ。

    画像

    ◆そしお再び、倧孊病院

    なんでこんな長文を曞いおいるのかず蚀うず、たた倧孊病院のお䞖話になっおいるから。
    今回お䞖話になっおいるのは私ではないが、神様が定期的なサむクルで「呜に向き合え」ず蚀っおいるのかず思う。

    呜の手觊りを倱っおしたっお、どこか他人事になっおいるのではず埌ろめたくなった。
    代わりに背負うこずもできない。

    ずりあえず曞いお考え尜くすこずで、あの感芚を取り戻せるのではないかず思っお曞いおいる。

    ふだんの執筆業も、他者を培底的に曞くこずでなるべく理解したいずいうか、近しい芖点を持ちたいずいうモチベヌションがある。

    たた気づくず生業の話に぀なげおしたうが、生きおいるだけでえらい。
    生きおいるだけでえらいのだ。

    䞇人の存圚を肯定できる人間になりたい。
    祈るように、曞いおいる。

    あなたぞのおすすめ