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あの頃の君ぞ

     小孊生の頃の君は、ズル䌑みばかりしおいたね。
     月に䞀回は必ずズル䌑みをしおいた。仮病っおや぀だ。
     頭が痛い。熱っぜい。おなかが痛い。先ずは元気のない声で、それらしく母芪に蚎える。おでこに手を圓おられ、アッカンベヌをされ、そしお氎銀の䜓枩蚈が枡される。
     そこからの君は芋事だった。垃団の䞭で䜓枩蚈を逆に振ったり、毛垃で擊っおみたり、目盛が䞊がり過ぎたら振っお戻しおみたり、君は本圓に手際よかった。
     目暙は床。高すぎず䜎すぎずの、仮病にはもっおこいの数字だ。䜓枩蚈が割れお、䞭の氎銀がコロコロず転げお倧隒ぎになったこずもあったけれど、そんな倱敗も䞀床だけだった。
     母芪が䜓枩蚈の目盛を芋る。君の仮病に気が付いおいたかもしれない。それでも心配しおくれおいたんだろう、䜕も蚀わずに孊校ぞず電話を入れおくれた。
     「おずなしく垃団で寝おなさい」ず蚀っお圌女が襖を閉めれば、ミッションは完了だった。

     孊校が嫌いだったわけではないず思うんだ。仲のいい友達だっおいたし、テストだっお頑匵っおいた。脱脂粉乳は錻を぀たんで飲んでいたけれど、そんな理由で君はズル䌑みなんかしないだろう。

     本を読むために、君はズル䌑みをしおいたんだ。孊校を䌑んでも、垃団の䞭で本を読むこずは、誰も䜕も蚀わなかったからね。
     せがんで買っおもらった「䞖界の文孊」は党郚で䞉十巻だった。それは毎月1冊ず぀、お米屋さんから届けられおいた。君のズル䌑みは、い぀も本が届いた翌日だった。
     それを端から端たで、䜕床も䜕床も、よく飜きもせず読んでいたなっお感心するよ。

     それからも、君の本奜きはずっず続いおいたからなぁ。䞭孊生の時に貰っおいたお昌のパン代で、文庫本が二冊も買えた。倧孊時代のバむト代も、食べるこずよりも読むこずに䜿っおいた。お腹が空いおも本を買っおいた。片っ端から文庫本を読み持り、叀本屋街をハシゎしおは、お気に入りの䜜家の党集を探しお歩き回っおいた。君はい぀も本ず䞀緒だった。

     そんな「あの頃の君」には、「今の私」のこずは想像できなかっただろう。

     私は幎前に脳梗塞に倒れおしたった。
     埌遺症ずしお右同名半盲が蚺断された。右偎の芖界に芋えないずころが出来たんだ。正面を時ずすれば、時から時の方向だ。
     「回埩の芋蟌みはないですよ」っお医者はあっさりず蚀った。そしお「慣れるしかないですね」ず蚀葉を足した。

     私は本を読たなくなった。本を読むこずが苊痛になっおしたったんだ。
     どうだ。君には信じられないだろう。
     暪曞きの文章ならば、どうにか文字を远いかけるこずも出来るが、長時間は無理なんだ。瞊曞きの文章はもっず蟛い。次の行ぞず移る時に、どうしおも行を読み間違えおしたう。話の蟻耄が合わなくなる。それを䜕床も繰り返しおは、手にした本を床に叩き぀けおしたうこずも䜕床かあったよ。

     私だっお望んではいない。望んではいないが珟実なんだ。
     あちらこちらを調べたくり、いろいろなリハビリだっおやったよ。そうしお普段の生掻には慣れおはきたけれど、本を読むこずが蟛いこずには倉わらなかった。あの頃の元気な君が矚たしいよ。

     でも、そんな埀生際の悪い私も、ようやくに諊めが぀いたんだ。
     本棚の本はすべお凊分をした。ゎメン、あれだけ君が苊劎しお買った本も、もう凊分しおしたったよ。それからの私は、䞀冊も本を買ったこずはないよ。

     その埌も、䜕床か脳梗塞を発症した。䜕床も入院した。
     そしお「今の私」は、最埌の悪あがきを楜しんでいる。
     垃団の䞭に入る前には、むンタヌネットに接続する。そしお、あの頃に君も読んだいろいろな小説の朗読を、毎晩のようにしお聎いおいるんだ。
     目を閉じお静かに朗読を聎きながら、その声を瞌の裏で掻字に倉えお、それをドンドンず、ドンドンず远いかけおいく。
     仮病の垃団の䞭で倢䞭にペヌゞをめくっおいた「あの頃の君」ず䞀緒だよ。
     䜕も倉わっちゃいないさ。

    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

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