
『箱に入ったラーメン』
母が友人と出かけた帰りに、サービスエリアでラーメンを買ってきた。
しかも、なかなか立派な箱に入っている。
箱のたたずまいがもう、「私はただのラーメンではありません」みたいな顔をしていたので、私は完全に、生麺タイプを想像していた。なんなら、ちょっとご当地の名店感まで感じ取っていた。
なので、「これは気合い入れて食べなあかんな」と思い、いそいそと準備を始めた。
トッピング用にニラもやし炒めまで作った。ラーメン屋で言うところの“ひと手間”である。
そして満を持して箱を開けた。
すると、中から出てきたのは、その地方のインスタントラーメン4袋。
えっ。
いや、インスタントラーメンが悪いわけじゃない。
でも、こっちは完全に、生麺を迎え入れる態勢やったし、気分としては、高級旅館やと思って玄関くぐったら、急に実家やった、みたいな感じ。
一応ちゃんと作って食べた。
インスタントラーメンとしたら、普通に美味しい方やと思う。でも、私の脳内では、すでに“サービスエリアで売ってるちょっと良いやつ”のハードルが完成してしまっていたので、麺もスープも「まぁ…うん…」という感じになってしまった。
しかも、買ってきた母自身も、インスタントラーメンとは思ってなかったらしい。
結局ふたりで、「思ってたんと違ったなぁ」と言いながら食べた。
その日の夕飯は、妙に期待値の高かったインスタントラーメンになった。
『551の豚まん』
「豚まん買ってきたでぇ! 551の!」
買い物から帰ってきた母が、2階にいる私に向かって叫んでいた。
別に、私が551好きというわけではない。けど母の中では、「551=娘が喜ぶ」という公式が完成しているらしく、時々買ってきてくれる。
まぁ、普通にうれしい。美味しいし。
私:「ありがとぉう」
返事だけして、下に降りようとしたものの、なんやかんやでもたもたしていたら、下から母の声がした。
「あれっ? 豚まんがない!」
ん?
「あれっ? 忘れてきたかも!」
ただならぬ気配を感じて、急いで下に降りると、母はもう車に探しに行っていた。
しばらくして戻ってきて、一言。
「やっぱり無かったわ。忘れてきたんやわ。」
どうやら、別の買い物をした時に、551の袋だけ台の上に置き、そのまま華麗に置き去りにしてきたらしい。
そして母は続けた。
「いや、匂いがせぇへんから、おかしいとは思っててん。」
名探偵みたいなことを言うてるけど、気づくの遅い。確かに、551は存在感がすごい。
袋を持った瞬間から、 「私は今、豚まんを運んでいます」 という空気を全身から放ち始める。
電車なら、一車両に知らせるレベル。
だから逆に、匂いがしない時点で、551側も「今ここにいませんけど?」くらいのサインは出してたんやと思う。
母:「あーあ。残念。」
私:「ホンマやな。」
でも、あの時いちばんショックを受けてたん、多分、台の上にぽつんと置き去りにされた551やと思う。ほんまそれ。
『蟹』
買い物から帰ってきた母が、なんだか興奮気味に私を呼んだ。
「聞いてぇ! 魚屋行ったら、蟹のほぐし身がめっちゃ安かってん! ほら見て!」
差し出されたパックを見る。
298円。
たしかに安い。
「ホンマやなぁ。安かったな」
そう言いながら何気なくパッケージを見て、私は気づいてしまった。
「あれ? でもこれ、『カニちゃいまっせ』って書いてあるで」
母:「うそっ!」
私:「ほら、ここ」
母:「うわっ! ほんまやっ!」
そこに入っていたのは、蟹じゃなかった。
カニカマやった。
しかも、かなり堂々としたカニカマ。
パッケージ全面から、 「私はほぼ蟹です」 みたいな顔をしている。
でも、よく見たらちゃんと 『カニちゃいまっせ』 と自己申告してる。関西人らしい、ちょっとユーモアのあるネーミング。
いや、ユーモア出してる場合ちゃうねん。もっと大声で止めてほしい。
「待ってください!! 私カニ違います!!」 くらいの勢いで訴えてくれな、母みたいなタイプは油断する。
母はしばらくパックを見つめたあと、
「そら安いわ。」
と、静かに言った。
たしかに、蟹のほぐし身298円ならかなりお得やけど、カニカマで298円となると、逆にちょっと高い気がする。
でもあのカニカマ、かなり演技派やった。うちの母、完全に騙されてたもん。