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Photo bynagi_ooooooo

メディア翻訳から考える「変な家」

    はちもり

     「変な家」がすごいです。不動産ミステリーと呼ばれている本作は、間取り図の些細な"変"な部分から謎を解き明かしていく物語です。最初は憶測でしかなかった謎解きが、最後にはとある一族のとても奇妙な歴史につながります。予測できない話の広がり方が魅力的だと感じています。
     更に、この本は人気がすごいです。はじめは1つのWEB記事として書かれましたが、それが動画になったらバズり、映画化・漫画化したらバズり、勢いが止まりません。様々なランキングを総なめしていて、時代は「変な家」です。
     今回は、映画「変な家」、漫画「変な家」にもフォーカスをあてながら、書籍「変な家」がすごい理由を考察していきます。イチオシの作品なので、まだ読んでいない方もこれを読んで、自分の気になった「変な家」をぜひチェックしてみてください。
    ※直接的なネタバレは含んでいません。

     私がすごいと思う点は「変な家」では実は何も起きていないということです。
     本作は主人公である「筆者」の一人称視点で話が進んでいきます。第一章から第三章では1つずつ間取り図が登場し、筆者とその友人「栗原」が協力して推理を進めます。第四章ではそれらの謎が1つにまとめられて、物語が終わります。
     各章で"筆者"がどこにいたか、場所をまとめてみると面白い発見があります。
    第一章:筆者の自宅
    第二章:喫茶店で人物と面会 → 栗原の家 → 1つ目の変な家の外観を視察
    第三章:レンタルスペースで複数人と話す
    第四章:ある人物の自宅
     これから分かることは、「変な家」とタイトルに掲げてずっと家の話をしているのにも関わらず、その場所自体はほとんど登場しないことです。一度だけ外観を見に行ったのみで、中には入っていません。
     そう、この小説は「間取り図を見て推理する」というコンセプトが最初から最後までずっと続いているのです。一見すると地味ですが、だからこそ「変な家」はすごいのです。その地味さが面白さにつながり、大衆に評価されていると考えました。
     一つ目に、「読みやすさ」があります。地味でなく、派手に色々起きたとしましょう。多くの登場人物があっちこっちを行き来し、状況が次々と変わるなど、たくさんのアクションがあるストーリーは、文章での表現が難しくなります。読み手も何が起きているかを把握することが大変です。映像として伝えた方が分かりやすいかもしれません。地味であれば、文章で伝えやすく、受け取りやすくなります。その結果、より多くの人に支持される作品となっているのです。
     二つ目に、「安心感」があります。本作はミステリーの中にヒトコワ系ホラーが含まれています。変な間取り図から人間の怖さが次々と現れていきます。ホラー作品は興味を惹きますが、怖すぎるものは見たくない人も多いです。「変な家」はその上手い塩梅を突いています。怖さはあるのですが、直接的な怖さが無いのです。具体的には、筆者が解き明かした謎自体にはヒトコワが含まれていますが、筆者の現実の状況には怖いことが全く起きていません。なぜなら、ただ普通の場所で過去に起こったできごとを推理しているだけで、筆者の身に怖いできごとが襲い掛かることはないからです。これにより、読者の怖いものが見たいという欲求を、筆者が怖いものの現場を推理、想像しているというフィルターがかかった状態で満たしてくれています。一段階クッションがあるので間接的にホラーを楽しむことができ、大衆に受け入れられています。
     私がすごいと思った二つの箇所は映画「変な家」、漫画「変な家」から実証することができます。書籍版では実際の場面が地味だから文章として読みやすく、安心して読み進められる。これと真逆のことが映画版、漫画版で起きています。
     映画版では筆者が変な家の中にたくさん入り込んで調査をします。変な家の中にいる時間が映画全体の半分ほどを占めているのです。書籍版の「間取り図を見て推理する」という要素もありますが、実際にその間取りを見に行ったら、何が起きるかという要素が濃いです。もはやミステリーではなくホラーアクション映画として見ることができます。
     漫画版では映画版よりは筆者の動きが地味に、書籍に忠実になっています。しかし、第三章では実際に変な家に侵入していました。現在連載中で、今後の動向が気になります。映画と書籍のちょうど中間という印象です。
     個人的には、どちらのメディア翻訳もかなり面白いものに仕上がっていると思います。あえて書籍な地味な部分を改変することにより、映像や絵の中で動きが生まれて、より楽しめるものになっています。
     興味深かったのは、原作改変に対して反感を示すコメントがインターネット上で散見されたことです。特に映画について、「書籍のミステリーの雰囲気を期待して見に行ったのに、ただただ怖がらせようとしてきて嫌だった」という意見がありました。ジャンプスケアと呼ばれる突然大きな音を出して怖がらせる手法が使われていたことに嫌悪感があった人もいたそうです。映像ならではの表現方法に好き嫌いが生じるということは、原作の書籍版には発生しない問題であったため、メディア翻訳の難しさを感じました。しかし、翻訳することによって新たな面白さという価値の創出ができることは良い側面です。
     それぞれのメディアに適した表現方法を考えるために、1つの作品が複数のメディア媒体で使われている事例を見てみることは有用だと思います。「変な家」はどのメディアでも評価されているという意味で、斬新なテーマと魅力的なストーリーがすごいです。

    紹介した本
    雨穴(二〇二一)『変な家』飛鳥新社



     
     
     
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