
EUの対外関係と共通通商政策──noteで読む現代ヨーロッパ経済 第13回
本シリーズは、神奈川大学経済学部で開講している筆者の「欧州経済統合論」および「現代ヨーロッパ経済研究」の講義内容をもとに、一般読者向けに解説したものです。前期・後期の講義内容を順に、歴史編、制度・政策編、各国経済編の構成でお届けします。
📌今回のテーマ
EUは対外的にどのような通商政策を展開してきたのでしょうか。今回は、共通通商政策の成り立ちから米国や中国との緊張関係、そして日本との経済連携協定まで、EUの対外経済関係の全体像を見ていきます。
共通通商政策の確立とメガFTAの時代
EUの共通通商政策は、1958年のローマ条約にさかのぼります。ただし1990年代までは関税以外の通商政策は加盟国の権限であり、各国が異なる政策をとれば単一市場が分断されかねないという問題がありました。単一市場の形成とEU企業の競争力低下への対応から、1990年代半ばには通商政策のほとんどがEUレベルで実施されるようになります。
2011年にWTOのドーハ・ラウンドが行き詰まると、各国は自由貿易協定(FTA)を通じた市場開放へ軸足を移しました。日EU・EPAやTPP、米EUのTTIPなどメガFTAの交渉が本格化した背景には、中国など新興国の台頭とEUの世界経済における地位低下がありました。
米国との通商関係、TTIPの挫折からトランプ関税へ
2013年に交渉が始まった環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定(TTIP)は、米欧間の市場アクセス改善や規制の調和を目指すものでした。しかし遺伝子組換え食品や投資家対国家の紛争解決(ISDS)条項などをめぐり意見が対立し、2017年に発足した第1次トランプ政権のもとで交渉は事実上停止します。
バイデン政権では米欧協調が強まったものの、2022年のインフレ削減法(IRA)が欧州企業を事実上優遇措置から排除したことでEUは反発しました。さらに2025年発足の第2次トランプ政権は、鉄鋼・アルミニウムや自動車への追加関税を発動し、自由貿易を重視してきたEUの通商政策は大きな挑戦を受けています。
対中デリスキングの現実
2023年1月、フォンデアライエン欧州委員長は世界経済フォーラム(ダボス会議)での演説で、中国を念頭に、分断を意味するデカップリングではなく、リスクを低減するデリスキングの必要性を強調しました。中国はEUにとって最大の輸入相手国であるため、完全な分断は現実的でないという判断がその背景にあります。
ただし実際には、太陽光パネルの多くを依然として中国からの輸入に頼っており、電気自動車の対中輸入比率もここ数年ほとんど変わっていません。政策として掲げる宣言と、実際に生まれる効果との間には隔たりがあり、域内での代替生産を誰が担うのかという課題には、まだ十分な答えが示されていません。
日本との経済連携協定(EPA・SPA)
一方、2019年に発効した日EU・経済連携協定(EPA)は双方の関税を広く撤廃・削減し、世界のGDPの約3割、貿易の約4割を占める自由貿易圏を生み出しました。欧州委員会の試算では、この協定によりEUの対日輸出は32.7%、日本の対EU輸出は23.5%拡大すると見込まれます。日本からはしょうゆや日本酒、自動車などの関税が撤廃され、EU側からもワインや衣類などの関税がなくなるなど、双方の消費者にも身近な変化をもたらしました。
あわせて締結された日EU・戦略的パートナーシップ協定(SPA)は、気候変動や安全保障、科学技術など経済以外の分野の協力を法的拘束力のある枠組みとして定めており、EPAとSPAは互いに補完し合う関係にあります。
📖キーワード
共通通商政策:関税や貿易協定の締結など、対外的な通商に関する権限をEUが一括して担う政策です。1958年のローマ条約に起源を持ち、1990年代半ばにほぼEUレベルでの実施が確立しました。
メガFTA:複数の国や地域にまたがる大規模な自由貿易協定の総称です。WTOでの多角的交渉が停滞する中、2010年代以降に世界各地で交渉が活発化しました。
環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定(TTIP):EUと米国の間で交渉されていた自由貿易協定です。規制の違いをめぐる対立などから合意には至らず、交渉は事実上停止しています。
デリスキング:特定の国への過度な依存を減らしつつ、貿易関係そのものは維持していく考え方です。関係を断つデカップリングとは異なります。
日EU・経済連携協定(EPA):2019年に発効した日本とEUの間の経済連携協定です。双方の関税を広く撤廃・削減し、世界有数の規模を持つ自由貿易圏を形成しました。
日EU・戦略的パートナーシップ協定(SPA):日本とEUが締結した協定で、気候変動や安全保障、科学技術など経済以外の幅広い分野での協力を定めています。EPAと補完し合う関係にあります。
本記事は講義スライドをもとにAI(Claude)を活用して執筆しています。内容の最終的な責任は筆者にあります。