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    <title> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </title>
    <description>言葉と音で夜の物語を紡いでいます。短編、エッセイ、散文詩などで揺れる大人の恋心やロマンチックな世界のなかで、時には旋律と重ね、静かな余白に灯りをともす物語を届けます。読んだあとに、胸のどこかがそっと甘く疼くような、そんな夜の物語を綴っています。どうぞ静かな時間に、そっと読んで。</description>
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    <copyright> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </copyright>
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      <title>水槽の中の星</title>
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      <description><![CDATA[<p name="1b4909a0-3429-4bb8-be5b-fd80a17173e2" id="1b4909a0-3429-4bb8-be5b-fd80a17173e2">これは、私が負け続けた記録だ。<br>一人の女に、である。<br>出逢った瞬間から先手を取られ、気づけば頭の中の大半を占領され、白旗を何本上げたか数える気にもなれない。<br>小説として書くには、あまりにもリアルすぎた。エッセイとして書くには、あまりにも感情的すぎた。<br>恋愛に勝ち負けがあるとすれば、私は完敗だ。だが、こんなにも幸せな敗北はなかった。これは、そんな日々の正直な記録だ。<br> <br> <br>夕立が通り過ぎた後は、必ず一日が生まれ変わる。<br>いつも、そう思う。あの黒く分厚い雨のカーテンが旅人のように去ってしまうと、突然、脳裏に彼女が現れる。勿論、彼女は幽霊ではないから、それは私のイメージでのことだ。<br>でも、現実以上に彼女の肌の温もりや、キーの高い笑い声、あの堪らない甘い香りに襲われて、突然シャワーのように夜が落ちてくる。どうして、こんなことになったのだろう。この苦しいほどの感情。<br> <br>“好き”という言葉が浮かぶけど、すぐにどこかに飛んで行ってしまう。この感情に”好き”なんて言葉はあてはまらない。軽すぎる。そして、安易じゃないか？そう言う声がどこかで聞こえる。<br>「愛してる？」う～ん…、これも違う。ちょっと重すぎる。<br>なんてことを考えながら、この気持ちを表す言葉を探したりする。そんな日は幸せな日だ。<br> <br>彼女に関してはいろんなことを考える。それだけ、私の頭は彼女にすでに占領されている。もう、私の気持ちの中では、数本の白旗も上がっている。でも、こんなことは彼女には内緒にしてある。彼女はプライドの高い人だ。だから、こんなことが解ったら、何を言われるか解ったものではない。知れたら、あっと言う間に占領されてしまうだろう。<br>しかも、彼女は頭の良い人だ。だから、弱みを握られたらもう逃げ場はない。どこにも安全地帯はなくなってしまう。そしたら、もう逃げ出すしか手はない。相手に好きだということが100パーセント握られてしまったら、恋愛では負けだ。とっておきのカードだって使えない。完全にお手上げだ。だから、いくつものポーズを用意しておく必要がある。<br> <br>「そんなに好きなんかじゃないよ。」って思わせておかなくちゃ。だけど、私は根が素直で単純なので、この鉄則をなかなか実行できないでいる。軟弱な男だ。自分でも情けなくなる。<br>彼女を前にするとそれまでの鉄の決意が甘く溶けてしまう。それほどに彼女は魅力的だ。あの横顔、あのスタイル、あの髪の匂い、あの腰のあたり、悪戯な瞳、自分がどんどん負けていくのが解る。キスをしたら、もうお仕舞いだ。もう、彼女の言いなりだ。<br> <br>彼女はもはや私の領地を大分占領してしまった。そして、今のところ失地回復する見込みはない。ますます、領地を奪われるばかりだ。<br>ここで、私は怒らなくてはなるまい。でも、怒る相手はこの私自身だから、これも困ったことだ。<br>「何か打つ手を考えないと大変なことになるぞ！」<br>と誰かが頭の中で叫んでいるけど、半ば負け戦なのでそれほど真剣にもなれない。<br> <br>思えば、最初に出逢ったときに、先手をバシッと決められたのが、この敗因の大きなところだ。<br>彼女は「あなたが好きなのかどうか解らない。」<br>なんて、先制攻撃を仕掛けてきた。私は予想もしなかったミサイル攻撃に、いとも簡単にダメージを受けてしまった。あの上野の精養軒グリルでのことだ。<br>ランチを味わうところではなく、茫然と窓の外の木々が風に揺れているのを見ていた。<br>え！私を好きではないのか？私の心はただただ、狼狽していた。なら、いままでのメールのやりとりは何だったんだ！あの情熱的な甘い言葉、嵐の前のような夜はどこへ消えた！反撃する言葉も見あたらず、後ろ足を車に轢かれた猫みたいにずるずるしていた。それが最初の敗戦記録だ。<br> <br>でも、私にも勝ち戦だってあった。一度目の勝ち戦は浅草ビューホテルでの出来事だ。<br>静まり返った通路の柔らかい絨毯を音もなく踏み、ダブルの部屋のドアの前で、心臓の高鳴りが煩いくらいに響く中、引き金を引くように、ドアをノックした。<br>その日の彼女は私のお気に入りの黒のミニ。あのタイトスカートだ。視界に入った瞬間、あの裾のラインはこれから幕が上がる劇場のカーテンのように魅惑的に私を迷わせた。迷わせたどころではなく、心の中では、半ば野獣となって、雄叫びの一つも上げたい衝動に駆られていた。はやる気持ちをかろうじて抑え込み、テーブルに腰を落とす。<br> <br>「待った？」<br>「ううん。そうでもないわ。」<br>視線を絡ませながら、二人でワイングラスを傾けると、すぐに頭はアルコールで熱病のようになってしまった。それを知ってか、彼女は悪戯っぽく私に笑いかける。<br>「さっきから、ぼーっとしてどうしたの？」<br>あ～、彼女に余裕を持たせてしまった。このままではまずい。出だしから敗戦濃厚だ。何とかこの窮地を脱しないと。<br>「いや、いろいろ思い出しちゃってね。」<br>「何を思い出したのよ？」<br>「初めて君と会った日のこと。」<br>「私もときどき、振り返ることがあるわ。私たち、不思議な出会いだったしね。」<br>「そうなんだよ。だから、今、こうしていることが何か信じられなくて。」<br>そんな、どうでもいいことを言いながら、視線の奥のベッドをちらっと見て、誘うタイミングを計ろうとしたが、鼓動が激しくて、顔がほてるばかり―<br> <br>「私のどこが気に入ったの？」<br>やや挑戦的な強い視線に圧倒されている。<br>ここは一歩間違えると、崖に落ちるな。そんな危険を孕んだ言葉だ。これは罠か？ミニスカートとは言えないな。でも、真実のかなり重要な部分を占めていることは事実だが。<br>「仕事に向かう姿勢に先ず惚れたんだよ。」<br>これなら、当たり障りがない答えだろう。我ながら上出来だ。<br>「なんだぁ～、それだけなの？」<br>むむ、これは彼女の期待を外したようだ。作戦変更。<br>「実は、本音を言うとね…」<br>そう言いながら、様子をうかがった。その瞳の表情に情熱的な何かが見え隠れしてる。なら、その方向に路線変更だ。<br>そう思った瞬間、彼女は足を組みなおした。その動きは極めてスローモーションで、私の脳裏に何度も繰り返して映し出された。目の前でミニスカートの裾が割れ、充実した太ももが姿を現し、ゆっくりとクロスしていく。あまりにも、刺激的な映像がクロスカウンターのように、ガツンと私の頭を直撃した。喉が急激に渇き、ワインをぐっと飲み干した。<br> <br>「どうしたの？大丈夫？」<br>相変わらず、上から目線に少し苛立った。<br>「ベッドに行きたいの？」<br>甘い言葉がブラッドオレンジの唇の洞窟から漏れる。<br>その瞬間、目の前で劇場の幕が開いた。彼女は今、この夜に生まれ変わり、新しい文字盤の上で、最初の時を刻み始めた。<br> <br>そこから先の記憶は曖昧だ。<br>その後、何度もキスをして、グラスを更に傾け、夜の底へと降りて行った。<br>やがて、二人のベッドは南の風を孕んだ帆船になった。<br>ブリーズを頬に受けながら、見上げれば南十字星がギラついていた。<br>「私、こんな幸せは初めてだわ。」<br>「私もだよ。」<br>何度も彼女を抱き、私は何度も彼女に抱かれた。どこを航海しているのかはわからなかった。ただ、<br>果実の香りが漂い、熱を帯びた風に帆がはためいていた。そして、見上げれば今にも落ちてきそうな、こぼれるような無数の星が煌めいていた。南へと向かっているのだろう。<br>「このまま、時間が止まってしまえばいいのに。」<br>私の胸に抱かれて、彼女はつぶやいた。<br> <br>これは勲章のように輝いた戦勝記録の一つだ。生きていて良かった。そんな気にもなった。戦いはこれからだと思った。<br>そんなにセックスが上手かった訳ではない。きっと、私の優しさが彼女にうまく届けられたのだと思う。優しさは負けない武器だ。この優しさだけは自信がある。これは私の過去からの贈り物だ。<br> <br>さて、どうしたら彼女にいつも勝てるだろう？<br>まあ、好きになったという大きなハンデはあるにしても方法はある筈だ。決定的な手段はある。でも、使えない。彼女を失ってしまってはもともこもない。もっとベッドで彼女を虜にしてやるか。でも、そんな人ではない。そんな女だったら好きにはならないだろう。<br> <br>そして、夜が落ちてくれば、いつだって彼女は私の主役に踊り出る。奴隷となった私の頭の中でぐるぐると、堂々巡りが始まる。好きだけど、好きなんかじゃない。と言って、愛してるって言葉にすると、なんだか妙だ。こんなことを迷路の中で考える。でも、抜け道がいつまでたっても見つからない。すると迷路の上に彼女の笑顔が見える。<br>「どう、私の勝ちでしょ？」<br>その顔は輝かしくそう言ってる。自信たっぷりの顔だ。幾分、尊大な空気も流れている。私は憎々しく、その顔を見上げる。<br> <br>でも、やっぱり、私の負けさ。君は広大な水槽のような時間の中を悠々と泳いでいる。私はそんな彼女を遠くから見ている。蜃気楼のような、不明瞭な空気のような時間が流れていく。私の好きな女は、やはり私の中にしかいないのだろうか？こんな想いが大波のように繰り返しやって来る。音のしない水槽の中で、ゆらゆらと光が揺らめくブルーの中で、ひっそりと愛し合ったらどんなに素敵だろうか？<br> <br>私は初めて彼女を抱いた日を思い出す。<br>それはもう、1年前のことだが、同時についさっき起こったことなのだ。こんな時間は特別だ。時間なんて流れない。いつまでも私の隣にいる。夏の夕立の後の、水溜まりのように微睡んでいるだけだ。<br>夢の塊のような彼女はベッドの上で、不思議な果実になっていた。それは私の夢の形だった。<br>そして、彼女の輪郭に指で触れると、波のように揺めいて、夜の影を映していた。私は彼女の中に溶けて、消えていった。目眩がするほど、甘美だった。<br> <br>私は生まれて初めて女を抱いたような気がした。真空地帯で抱いているようだ。私を取り巻いていた日常は、すっかりどこかに消えてしまった。彼女は私のエリーゼになろうとしている。この夜を迎えてから、今までの夜は背景になってしまった。彼女は、私の過去の夜の意味を変えようとしている。<br> <br>こんな夜は何度もあった筈だが、と思い返しても真っ白なページしか見えてこない。何人の女を抱いたところで、いつだって、一人の女を完璧に抱いた試しはなかったような気がする。<br>といっても完璧に抱く？それは、恋愛に必要だろうか？過去に埋もれてしまった、どうしても思い出せない女たち。それは夢の記憶よりも儚い、それこそ白昼夢のような出来事だった。彼女たちは現在と切り離された孤島となって、過去の海へと航海を続けている。<br> <br>でも、私達二人は、お互いに勝利を分かち合った日もあった。<br>忘れもしない、あの上野での一日だ。夢のようなひととき、というのはまさにこの日のことだと思う。確かに夢を見ていた。しかも現に。こんな経験は人生に何度あることか。世界は美しく輝き、目に入るもの全てが、今生まれたばかりだった。世界は新鮮で、そして、その素顔は可憐で、神秘的で、真理さえ顔を覗かせていた。<br>明るい太陽のもとで、私達は森の小動物のように無邪気に幸福だった。緑に染まった空気を吸い込んで、透明な日の光を浴びて、自然に帰って行った。二人の気持ちは完全に一つに重なり合った。それはその夜の二人よりも深く重なり合っていたのかも知れない。<br> <br>翌日、駅で彼女を見送るときは夏の夕暮が迫っていた。夜がグラデーションのように静かに落ちようとしていた。その時ほど、彼女を愛している真実を胸の内に深く感じたことはなかった。<br>今よりもその時の私達は、本当の私たちだったような気がする。その時に二人の原型はでき上がったと思う。なによりも穏やかで、安息を感じさせる幸福が、波のように静かに私を浸していた。その波の音は今だって、時々聞こえることがある。いつだって、海を近くに感じられることは、幸福に違いないのだ。<br> <br>本当のことを言えば、これは私の強がりでも、なんでもないことなのだが、彼女と別れようと思ったことがある。きっと、彼女には想像もできないことだろうと思う。しかし、事実だ。この感情は不思議なことに、いつも彼女を愛しているという感情と同居している。どこからこの感情がやって来るのか、自分でもわからない。そして、その感情に襲われたところでふっと消えていく。私の中の誰かの悪戯なのか、そうした自分が顔を出すことがある。これは私の戦勝記録に入るのだろうか？<br> <br>ある日、彼女は不意に、言葉の奥に嫉妬を忍ばせて、<br>「ほかの女と寝たでしょう？」<br>突然、意表を突く。私はとっさに返事に窮する。ああ、文法を超えた表現が必要だ。<br>寝たとか寝ない、とかの一元的な返事では、それは私の返事ではないよ。男と女は違う。私は伝えたいと思うけれど、同じ動物同士でライオンとキリンがお互いに私と君は違うよ、なんて言ってもわかり合えるのだろうか。<br> <br>でも、私の好きな、そして、愛してると言ってもいいほどの彼女が、他の男に抱かれたとしたら、私自身でも私の反応が心配だ。予測できないところがあるからだ。地球が逆転するかも知れない。そしたら、時間は昨日に戻ってしまうよ。それでもいいの？<br> <br>男の生理で説明するのは簡単だけれど、そしたら、<br>「女だって、女の生理があるのよ。」<br>なんて言うだろうな。男と女がイーブンの関係だ、とは言っても測れるところでの話しではないか。本質的に違うじゃないか。そして、私は過去に遡って、他の女との夜をちらっと思い出してみることにした。<br>けれども、ほとんど何も思い出せないのだ。その中には完勝の女だって数人いた筈だ。けれども、何の感慨もない。さっぱりと忘れてしまった。<br>あるのは乾燥した砂漠のような事実。ただそれだけだ。不思議な静けさ、風さえ吹いていない。<br>自分でもなんだか寂しい。きっと、その女が彼女じゃなかったからだ。だから、自分が寂しくなったのだと思う。そして、哀しくもなった。<br> <br>と言う訳で、私は他の女と寝た。言葉にするといとも簡単だ。ああ、そうか、で全てが終わりそうだ。しかし、この言葉は二人の世界を変形させていく。口に出した瞬間から、彼女は聞いた瞬間から、世界は歪みはじめる。一つの事実は二人を浸食し始める。なにやら、重い空気が垂れ込めて嵐が近くなる。暗雲が二人を襲って来る。感情が熱を帯びて、不吉な前兆があたりに立ちこめる。<br> <br>まあ、この辺で私も男としての意地を少しは見せなくてはなるまい。でも、この少しのバランスがなかなか難しいところでもある。なにしろ、負け戦でのスタートなのだから、致し方ないことだ。あまり意地を張ったりすると命取りになってしまう。どちらにしても、彼女に私の魂は奪われてしまっているのだから。<br> <br>でも、私はギリギリの意地は見せようと思っている。私に惚れてる女だっているんだ。この辺で私は急に気が強くなった。ひょっとしたら、彼女に勝てるのではないか？酔いの醒めないうちに、一つ勝負に出ることにした。<br> <br>「ああ、寝たさ。それがどうかしたかい？」<br>自分でも意外な程の強気な口調に、我ながら惚れ惚れもした。そのセリフを言ったのは誰かと思ったほどだ。完全に我を忘れた感じだ。<br>「ああ、俺は男だなあ―」<br>なんて感慨に耽ったりした。ほんの一瞬ではあるが。<br>彼女は私をじっと見た。それは、永遠のように遠い記憶を連想させるほどだった。あたりに静寂が流れた。私はそのとき、夏の森を思い浮かべた。夕暮れになると蝉たちが、森が鳴いているように美しいハーモニーを奏でていた。この記憶は時々、私を不意に襲う。何故だか哀しい気持ちにさせる、あの美しい調べはどことなく郷愁を感じさせた。また、その郷愁が自分のどこにあるのかも不思議なことだが。<br> <br>きっと、生きていること、それ自体が郷愁なのだろう。何故なら、生きているってことは、そのまま、実に哀しいことのように思えるからだ。毎日、人生を失い続けるってことは、哀しくなくてなんだろう。それこそ、生きていることの儚さではないだろうか。なんてことを思いながら、彼女の反応を待っていた。<br> <br>「それじゃあ、私と一緒だ。良かった。」<br>唇から、ギラっとナイフが光った。<br>「え？」<br>私が先手を打ったのに、後手に回ってしまった。<br>目の前に深い崖が現れて、その深さにくらくらきた。とっさに、これはいつもの彼女のジョークに違いない。<br>そうだ、それだと、私は自分でも意外にほど陽気な声で<br>「うん、うん、わかってたよ。君なら、俺なんかよりずっといい男が目白押しだろうし、きっとその男のほうがよっぽど似合ってるよ。」<br>なんて、余裕さえ見せて、しかも無理して笑ってもみた。そのせいで顔が引きつったのが自分でも解った。でも、嘘だろ？<br> <br>「本当？良かったわ。わかってくれて。今まで言うの、恐かったのよ。あなたって、大人ねえ。見直したわ。」<br>あれ？これは事実なの？ マジかい？ 今度こそ、本当に崖に落ちて行くのかと思うと、目の前が真っ暗になった。私は大人なんかじゃないぞ。そんな話は聞きたくない。早く、本当のことを言ってくれ。全くこの女は飛んでいる。ようやく、オアシスにたどり着いたかと思うと、これだ。ふざけすぎじゃあないか。<br> <br>今までだって、こんなシーンは何度かあった。そんな劇場をいくつも持ってる彼女だ。今夜だって、そんな劇場の、一つの幕が開いたに違いない。そうだ。それに決まってるさ。でも、こんなところも彼女の魅力でもあったんだ。でも、今は早くそのふざけたシーンに幕を引いて、いつものように、にっと笑ってくれ。それでまた、仲直り。二人で大笑いしようじゃないか。<br> <br>今夜の出し物はなかなかだったよ。危うく騙されるところだったよ。全くお前は油断のならない女だぜ。ところで、今夜はどんなふうに抱かれたいんだ。言ってみろよ。あのときは随分感じてたぜ。今夜もあれでいこうか？<br>「どうしたの？そんなに私が他の男と寝たのが嬉しいの？」<br>え！私は耳を疑った。そして、彼女の顔をじっと見た。まじかい？本当に寝たの？そんな馬鹿な。<br> <br>好きな男ができるのは、まあ可能性としてはあるけど、寝るとなるとちょっと違うんじゃあないかい？ ここに俺という男がいるんだぜ。まあ、こうみえても俺は自分でも十人並以上だと思っている。俺と寝たい女だって何人もいるんだ。でも、俺は寝ない。誰とだって寝るなんてことはしない。俺だってプライドはある。女なら誰にでも発情するもんじゃあない。俺の血を騒がせるのは、お前だけだ。<br> <br>寝たって？ジョークだろ？確かにお前はいい女だ。あのタイトの黒のミニスカート、そして、匂うような色気のある顔、なかなかいいぜ。そりゃ解るよ。男だったら、黙っちゃいない。そのチャンスを虎視眈々と狙うさ。堪らない女、それがお前さ。今だって、お前を押し倒して、思いっきり抱いてしまいたい。後のことなんてどうでもいい。情熱で火傷したってかまわないさ。<br> <br>そんなときだ、日常という奴がどこかにすっ飛んで、アフリカの地平が見えて来るのは。どこかで大きな音が響いたり、祭りの準備でもしてるようなざわめき、空気が色めきだって、すぐそこにドラマが迫って来る。そして、その舞台で俺達の人生が出逢うのさ。<br>ベッドは二人だけの客船になって南回帰線を越して、頭上に南十字星が輝くだろうさ。俺はお前が好きだ。俺だってこんな自分に気がつかなかった。俺が思ってるより、お前を愛している。ときどき思うんだ、こんな気持ちを世界の誰かに、大声で叫んでみたいって。でも、それが誰なのかは解らない。でも、お前以外の誰かにこの想いを知らせてみたい。そんな衝動に駆られる。<br>他の男と寝たって？嘘だろ？嘘と言ってくれ。お願いだから。<br> <br>「私ね、一人の男じゃ満足できないタイプなのよ。」<br>そんなことは聞いてないよ。俺だって、他の女と寝たことはあるさ。でもね、それはあくまでも遊び、遊びなんだな。解るよね？<br>男ってそんなものなんだよ。生理的に違うんだよ。男はね。一人の女を深く愛したら、他には女なんかいらない。愛ってそうしたものだろう。<br>それじゃあ、なんだい？俺一人じゃあ満足できないって訳だ。そんなことをまさか本気で言ってる訳じゃあないだろ？<br>あ～、ここで俺は潔く、怒ったり、キザな捨てセリフでも言って、へこましてやりたいところだが、またしても顔は逆に、にたにたとだらしない顔になった。どうして、はっきりと言えないのだろう。情けない。全く。<br> <br>「寝たって、冗談だろ？」<br>その瞬間、彼女の返答が急にそら恐ろしくなった。<br>すると、その恐怖は段々大きくなってくる。最初、軽く笑ってすまそうとしていたものが、その恐怖に圧されて、周り中に響くような大声で笑っていた。皆が驚いて振り向く。あ～あ―、哀しくなるほどの醜態だ。しばらく男をやめてやるか。深くて暗い崖の底が揺らめく。<br> <br>生きてることって、なんでこんな切なくて哀しいんだろ。私は孤独だ。それなのに、彼女は…<br>もう、人生に愛想も尽きた。死んでやる。まあ、そう言ってもいられない。この悲劇的な局面を打開しなくちゃ。さて、どうしたものか。<br>どうして、こんなに彼女を好きになってしまったのだろう。最初はそんなでもなかったのに。<br> <br>ある時、彼女の優しさに包まれて、そして、その大きさにほだされてしまった。そして、あっと言う間に彼女の中に落ちていった。ああ、これが彼女の罠だったのかも知れない。それから、彼女は私の夜空にいつも輝く星になった。<br>好きなんだな。そして、忘れられないんだな。私の部屋の何号室かはわからないけど、彼女が私に住み着いてからもう1年になる。逢えない時は、私は自分の中に住んでいる彼女に逢いに行く。<br>廊下を足音を忍ばせて、そっと歩いて行く。そして、彼女の部屋の前に立つ。大きな幸福の前に立ったように、私の気持ちは穏やかに凪いでいく。ここに彼女はいる。このドアを開ければ、その向こう側に彼女はいるのだ。<br>そのドアはやがて、海へと続いていくだろう。そして、海流の中の島にたどり着くだろう。その島で彼女にプレゼントした、あのブルーグリーンのピアスは南の太陽のしたで、どんなきらめきをみせるのだろう。<br>そして、あのピアスは風に揺れて、耳には聴こえなくとも、きっと繊細な響きをたてながら、彼女にだけそのメロディーを奏でるのに違いない。それは私の想いをのせて、私の見てきたものや、私の孤独を風のように囁くだろう。<br> <br>「ねえ、そんなマジな顔してどうしたの？嘘よ。今までのは全部嘘。本気にしたの？あなたしかいないわ。私の愛する人は。わかっているのに。マジでそう思ったの？嘘に決まっているじゃないの。私があなた以外の男に抱かれると思ってるの？お馬鹿さんね、あなたって。でも、約束して、これからは私以外の女を抱かないで。だって、とってもあなたを愛してるんだもの。あなたを失いたくないの。」<br> <br>私はへなへなとなって、ぐったりして、ぼうっとした。<br>またかい。今度はひょっとすると、なんて思った。でも、いい加減にしろよ。そんなに男をからかうなよ。そんなに男を見くびっていると、大変なことになるんだぞ。急に愛想が尽きて、他の女に走るかも知れないからね。そしたら、もう手遅れだ。いいのかい？<br> <br>そして、勝負はお預けになった。彼女は私の彼女に戻った。愛してるってことは切なく、そして、哀しいくらいに幸せなことだ。俺はお前に惚れてるぜ。こんな自分が私は好きだ。ひょっとしたら彼女以上に好きかも知れない。でも、内緒にしておこうと思う。だって、彼女に嫉妬されるかも知れないからね。<br> <br>長い髪、繊細な顔のライン、いつだって私を悩ませている、あのウエストのあたり、彼女を一度抱いてしまったら、もう逃げられない。彼女の虜になってしまう。<br>でも、そうなっても、心を奪われてしまってもいい。とっても幸せだ。<br>「彼女の悪戯っぽい瞳の中に私が映っている。私はその瞳の中の自分に話しかけた。<br>「幸せかい？」<br>彼は軽くウインクをして見せた。私もウインクを返した。<br>「ウインクしなくたって、わかってるわよ。あなたが私を愛していること。」<br>彼女は微笑んだ。」<br>「ねえ、私、これからどんなふうに、あなたに抱かれたいと思ってるか、解る？」<br>わかってるさ。もう、あれから一年になる俺達じゃあないか。<br> <br>上野の森に夕暮れが迫って来た。初夏の爽やかな風が頬を通り過ぎて行く。これから夜が静かに幕を開く。歩きながら、彼女を見つめた。<br>西の空の星に明かりがいくつか灯った。夜がそこまでやって来た。これから、彼女に教えてあげるんだ。どんなにあなたを愛しているのか、そして、その情熱がどんなに俺を苦しめているのかを。でも、もうこの想いは言葉では語れない。<br>だから、ベッドの上で優しく、激しく彼女に教えてあげようと思う。あなたのいない人生がどんなに寂しいか、あなたなしでは生きていけないかを。<br>とっても、愛してるんだ。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n5df2c646f9d4'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 19 Jun 2026 12:11:04 +0900</pubDate>
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      <title>青いカーテンの店</title>
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      <description><![CDATA[<p name="0cb323a0-35d6-4453-8b6e-480b1fde936e" id="0cb323a0-35d6-4453-8b6e-480b1fde936e">静かな春の夜だった。<br>部屋で仕事に疲れた邦彦はノートパソコンを閉じ、椅子の背にもたれかかった。画面の残光が消えると、窓辺のカーテン越しに揺れる街灯の光だけが、部屋の空気を薄く染めた。疲れは肩から首へ、首からこめかみにじわりと移り、考えごとはいつのまにか同じ場所をぐるぐると回っている。<br>ふと立ち上がった。冷たい夜風に当たりたくなり上着を羽織って外に出る。<br> <br>暖かく、靄のかかった月がぼんやりと空に浮かんでいた。遠くの丘も森も霞んで、すべてが影絵のようだ。さっきまで耳鳴りのようにまとわりついていた一日の雑音が、路地の静けさに吸い込まれていく。<br>どこかで犬の遠吠えが響いている。外に出てはじめて、夜が更けていることに気がついた。<br> <br>「コーヒーが飲みたいな」<br>いつものカフェはまだ開いているだろうか。邦彦は歩きながら、夜の静けさに耳を澄ませた。夜更けの風が少し生ぬるく頬をなでる。角を曲がれば、見慣れた店だ。<br>だが、店は閉まっていた。扉には「CLOSED」の札がぶらさがり、店内のカウンターに置かれたシュガーポットが月明かりを受けて細く光っている。仕方なく踵を返しかけたとき、背後に足音が近づいて来た。<br> <br>「こんばんは。お疲れさま」<br>振り向くと、一人の男が立っていた。背は高くない。やや痩せた顔立ちで、目元に疲れが滲んでいるのに、声には奇妙な柔らかさがあった。<br>「私もこの町内に住んでいます。私もコーヒーにありつけるかと思って来たんですが、閉まっていて。……近くに、いいカフェがあるんです。良かったら、ご一緒にいかがですか？」<br>不思議と警戒心はわかなかった。<br>同じ町に住んでいると言ったこと、人柄が良さそうなこと、そして、彼も同じようにコーヒーで疲れを癒そうとしていたのだろう。それに帰ってもすぐに眠れそうになかった。<br>躊躇う間に、男は「すぐ近くなんです」と付け足した。<br>「じゃあ、ご一緒しましょう」<br> <br>二人は並んで歩き始めた。舗道に影が二本、長く伸びて並ぶ。男はことさらに話しかけてこない。ときおり、街角の植え込みに目をやり、そこに咲く名も知らぬ白い小花にわずかに足を緩めたりする。やがて人通りの絶えた裏通りへ入った。看板の塗料は擦れ、文字は判別できない。だが、入口に青いカーテンが垂れ、その裾を夜風が静かに揺らしていた。<br> <br>「ここです」<br>扉を押すと、鈴の音がやわらかく鳴り、甘い花の香りが漂った。店内は薄暗く、客はまばら。古いランプシェードが各テーブルの小さな島を照らし、島と島の間は、海のような影に沈んでいる。奥からはピアノの音が流れていたが、弦が少し緩んでいるようだ。<br> <br>二人は向かい合ってテーブルに腰をおろした。明るい灯りの下で男の顔を見た瞬間、胸の奥がざわっとした。従兄に似ている。事故で亡くなったはずの、あの従兄に。似ているのは輪郭だけはない。鼻の脇にある大きなほくろ。そして、笑う前に一瞬だけ視線を落とす癖、しばらく茫然としていた。<br> <br>「妙なことを言うようですが」邦彦が声を低める。<br>「ここにいる人たち、どこかで会ったことがある気がするんですが」<br>男は微笑み、少しだけ首を傾げた。<br>「ええ、そういう場所なんです」と言いかけ、それ以上は言わずに立ち上がった。<br>「少し挨拶してきます」奥の席の人々と目を合わせ、軽く会釈を交わした。<br> <br>残された邦彦は、壊れたオルゴールのようなピアノの音に耳を澄ませた。奇妙な旋律だった。子どもの頃、何度も見た遠い夢の中から聞こえてくるようだった。<br> <br>「……邦彦さん？」<br>女の声がした。振り向くと、栗色の髪を肩に落とした女性が立っていた。年齢は自分と同じくらいに見えた。彼女は少しためらいがちに席についた。<br>「もう、お忘れでしょうか。私、あなたに傘を貸したことがあるんです。音楽室の窓の下で。突然の夕立で、あなたの白いシャツ、肩から袖にかけて透けて……」<br>「その時、あなたがそのお礼にくださった絵本をまだ持っています」<br> <br>記憶がゆっくりと蘇ってくる。中学の校舎の裏、合唱コンクールの練習で賑やかな音楽室。窓の下で、雨宿りをしながら貸してもらった透明なビニール傘。お礼に渡したのは、本屋で見つけた、色鉛筆の匂いのする小さな絵本。水車のまわりには白い花が咲き、赤やオレンジの鳥が梢に佇んでいた。<br>「どうして、今になって……」邦彦は自分に向かって問いかける。<br>彼女は静かに言った。「私はあの本の中の世界に、ずっといるような気がするの。水車の音と、鳥の色と、白い花の匂いと……。そこで時間が止まってしまって、誰かがページをめくってくれるのを待っているみたい。でも、今夜、ようやくあなたに会えた。もう一度、あのページを開いてくれるなら、私——」<br>不意に、外で車のクラクションが短く鳴った。<br>「迎えが来たようです。また、春の夜に」<br>その言葉を残して、振り返らずに青いカーテンの向こう側へ消えた。<br> <br>やがて、柱時計が十二時を告げた。客たちは一人、また一人と席を立ち、互いに目を合わせ軽く会釈をしてから扉へ向かった。やがて男が戻ってきた。<br>「この店は気に入りましたか？」<br>男は微笑んだ。「ここは、記憶に閉じ込められた人が集まる場所です。時間の島が漂流して辿り着く港、とでも言えばいいかな。忘れてしまった人も、忘れられなかった人も、ここにやってきます」<br>「さっきの彼女も、その一人ですか」<br>「さあ、それは——」男は肩をすくめる。<br>「あなたが思い出せば、わかるでしょう」<br> <br>店を出ると、外気は少し冷えていた。四つ辻に差しかかると、男は指で先を示した。<br>「私の家は、この先の三軒目の奥にあります。緑のアーチが目印です。これも何かのご縁でしょう。いつでもおいでください」そう言って、静かに角を曲がっていった。邦彦はその後ろ姿を数歩追い、角を覗くと、男の背中はもう青い影の重なりの中に溶けていた。<br> <br>数日後の晩。仕事を終えた邦彦は、またあの夜のカフェに行きたくなった。だが、通りを何度行き来しても、青いカーテンの店は見当たらなかった。そうだ、あの男の家を訪ねてみよう。四つ辻に立ち、角を曲がり三軒目を数えた。だが、そこに緑色のアーチはなかった。<br>近所の住人に尋ねると、「このあたりに、そんなアーチの家なんてないですよ」と笑われた。<br>「夢でも見たんじゃないですか」<br> <br>夜、書棚の奥を探っていると一冊の本が、突然、音を立てて抜け落ちた。表紙の角は擦れて白くほころんでいた。表紙を開くと、そこにはあの水車。周囲には白い花、梢には赤やオレンジの鳥。色鉛筆の粉の匂い。<br>「……彼女にあげた絵本が、なぜここに？」<br>ページをめくる指先がわずかに震えた。最後のページの余白に、見覚えのない筆跡。震える文字で、こう書かれていた。<br>——思い出してくれて、ありがとう。きっと、またあのお店で会えるわ。<br>インクは、まだ乾いていないように見える。指で触れれば、滲んでしまいそうだ。耳の奥で、あの古びたピアノがオルゴールのように鳴りはじめる。<br> <br>数日後、邦彦は絵本を枕元に置き、ベッドに入った。夢の中で彼は、幾度も同じ角を曲がった。青いカーテンは波のように大きく揺れ動き、風のように舞っていた。彼女はいつも背を向けたまま、一言もなく店を出ていく。<br>しかし、朝が来る直前、彼女が振り返った。そのとき目と目が、確かに重なった――その瞬間、目覚まし時計が鳴り響き、夢から覚めた。<br> <br>それから暫く経った、静かな夜。<br>久し振りに彼はまた絵本を開いた。<br>水車の流れはより勢いを増し、白い花は川の向こう側まで広がり、さらに青い鳥がどこからかやって来て、梢に止まっていた。最後の余白の文字のそばにはインクのしずくが光っていた。確かに、ここに誰かがいたのだ。<br>再び最後のページをめくると、余白には新たな一行が刻まれていた。<br>——ページをめくって。怖がらないで。<br> <br>震える指で次のページをめくる。そこには闇が洞窟のように広がっていた。次第に目が闇に慣れてくると、洞窟の中に月の光が青白く差し込み、奥のほうで青いカーテンが揺れている。<br>ふと気が付くと、洞窟の中にいつの間にか入り込んでいた。少し歩くと青いカーテンの前に辿り着いた。<br>こわごわしながらカーテンを開いた。すると、あの店の扉が見えた。開けようとしたとき、ぼんやりと見慣れた部屋の天井が見えた。<br> <br>「夢だったのか、、、」<br> <br>——また、春の夜に。<br>声にならぬ言葉が胸の奥で脈打つ。<br>彼は悟った。この世界は無数の時間の島を抱え、青いカーテンの向こう側で、忘れられたものと忘れられないものが、ひとつに溶け合っているのだ。<br> <br>夜はまだ深く、月はなお高い。<br>遠いどこかで古びたピアノが、やがて彼を再び静かな眠りの彼方へと連れ去った。<br>そして、夢の中で青いカーテンがゆっくりと開き、扉の開く音がした。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/nd1e681538f23'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 13 Jun 2026 14:23:21 +0900</pubDate>
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      <title>19歳、夏の恋</title>
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      <description><![CDATA[<p name="2280b583-9b2c-4494-a9f7-bc19b2421043" id="2280b583-9b2c-4494-a9f7-bc19b2421043">静かな夜に、そっと音を添えて読んでください。</p><p name="bca33e20-ff6d-4407-9f2a-fae294e87272" id="bca33e20-ff6d-4407-9f2a-fae294e87272">La Nuit Bleue は、音と言葉が寄り添うための、<br>小さな夜の物語です。再生ボタンを押したら、<br>ゆっくりページをめくってください。<br>あなたの心に、ひとつだけ青い灯りがともりますように。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n681ec85f3aa8'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/232930619/profile_a4fc8dfcb62229e88b9d321757d462a6.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 20 Dec 2025 18:06:19 +0900</pubDate>
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      <title>名前を呼べなかった、あなたへ</title>
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      <description><![CDATA[<h2 name="6625fa58-746d-483c-b023-2bab46a5354a" id="6625fa58-746d-483c-b023-2bab46a5354a">La Nuit Bleue ― </h2><figure name="7055ae17-5783-4bda-a022-b59ebdbca1bc" id="7055ae17-5783-4bda-a022-b59ebdbca1bc"><blockquote name="7055ae17-5783-4bda-a022-b59ebdbca1bc"><p><b>静かな夜に、そっと音を添えて読んでください。<br>La Nuit Bleue（ラ・ニュイ・ブルー） は、音とことばが寄り添うための、小さな夜の物語です。<br>再生ボタンを押したら、ゆっくりページをめくって。<br><br>あなたの心に、ひとつだけ青い灯りがともりますように。</b></p></blockquote>
<figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n2dac8e5eb1ff'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 11 Dec 2025 16:31:12 +0900</pubDate>
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      <title>灯りをひとつだけ残した夜</title>
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      <description><![CDATA[<h2 name="484b9a68-9a26-452b-827f-45fd14ceffca" id="484b9a68-9a26-452b-827f-45fd14ceffca">La Nuit Bleue ― </h2><figure name="34409acf-5246-4d3c-bc59-724185674f4e" id="34409acf-5246-4d3c-bc59-724185674f4e"><blockquote><p name="2cce8a90-2b62-44c9-bbbd-e085f88272fe" id="2cce8a90-2b62-44c9-bbbd-e085f88272fe"><strong>静かな夜に、そっと音を添えて読んでください。<br>La Nuit Bleue（ラ・ニュイ・ブルー） は、音とことばが寄り添うための、小さな夜の物語です。<br>再生ボタンを押したら、ゆっくりページをめくって。<br><br>あなたの心に、ひとつだけ青い灯りがともりますように。</strong></p></blockquote>
<figcaption></figcaption></figure><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n9adc159bbd8c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 29 Nov 2025 19:35:37 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「夕暮れの砂浜で君と」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="6ce0e186-1b9e-42a8-bdbd-a2c9426fedc0" id="6ce0e186-1b9e-42a8-bdbd-a2c9426fedc0">潮騒が寄せては返す音が、静かな砂浜にやわらかく響いていた。<br>夕暮れ前の海は、まだ薄い青さを残して光を抱き、遠くにはカモメが低く旋回している。<br>二人の影は、細長く砂浜に伸びていた。<br> <br>「ねえ、波ってさ」<br>少女が足元に広がる水のきらめきを見つめながら、かすかに笑った。<br>「なんど来ても、すぐに消えてしまうのに、どうしてこんなに綺麗なんだろうね」<br>「……そうだな」<br>少年は砂を指で掬いながら応えた。<br>「でも、消えるから綺麗なんじゃないか？もしずっと残ってたら、きっと退屈だ」<br>「退屈？」<br>少女は振り返って、細い眉を少しだけ上げる。<br>「じゃあ、私もすぐに消えちゃったら……退屈しない？」<br>「そんなことない」<br>少年は思わず声を強めた。<br>潮騒が一瞬、静まり返ったように思えた。<br>「君は……君だけは、消えないでほしい」<br>少女は目を丸くし、そしてふっと笑った。<br>「不思議。波よりも、ずっと遠くまで聞こえる気がする。君の声」<br> <br>「ねえ、初めて会ったとき、覚えてる？」<br>少女は波打ち際に足を伸ばして、濡れるのも構わずに砂を蹴った。<br>「夏祭りの屋台で、かき氷のシロップを二人とも同じ味で頼んだの。いちご」<br>「覚えてるよ」<br>少年の胸に、その赤いシロップの冷たさと甘酸っぱさが、今も鮮やかによみがえる。<br>「君の口の端にシロップがついてて……言えなくて、ずっと気になってた」<br>「どうして言わなかったの？」<br>「だって……初めてだったから」<br>少年は耳まで赤くなった。<br>「君と話すのが。声を出すのが。だから、何も言えなかった」<br>「ふふ、かわいいね」<br>少女の声は潮風よりもやわらかい。<br> <br>波が寄せ、二人の足元をさらった。<br>濡れた砂が冷たくて、けれど心臓は熱を帯びている。<br>「ねえ」<br>少女が囁くように言った。<br>「私、来年はこの町を出るかもしれない。お父さんの仕事の都合で」<br>「え……」<br>少年は息が止まった。<br>世界が一瞬、静止したように思えた。<br>「行かないで……」<br> <br>少女は潮風に髪を揺らし、ゆっくりと彼を見つめる。<br>「でも、海は消えないでしょ？ここに来れば、また波の音は聞こえる」<br>「波は同じに見えて……違うんだ。さっき君が言ったみたいに。来ては消えて、もう二度と同じ形にはならない」<br>少女は目を細めて笑った。<br>「じゃあ、いまのこの波は、二人だけのものだね」<br> <br>二人はしばらく黙って、ただ波を眺めた。言葉は要らなかった。<br>潮騒がすべてを包み込んでいたから。<br>けれど、少年はどうしても言わずにいられなかった。<br>「君がいなくなっても……僕は忘れない。今日のことも、君の声も」<br>少女の目に、夕陽が映り込んで揺れる。<br>「私も。あなたといると、世界が新しく生まれ変わるみたい。さっきの波みたいに、すぐに壊れちゃいそうなくらい」<br> <br>そして、彼女は砂浜に指で小さなハートを描いた。<br>でも、波が押し寄せ、すぐに消し去っていった。<br>「ほら、こんなふうに」<br>少女は微笑む。<br>「消えても、ここに描いたことは確かだったでしょ？」<br>少年はうなずいた。<br>「たとえ消えても、僕の中に残る」<br>二人は見つめ合った。<br>その時、潮騒の音が一層強く響き、夕闇に消えていった。<br> <br>「……手、つないでもいい？」<br>少年の声は波に溶けていった。<br>少女は答えずに、そっと手を伸ばした。<br>その指先は、少し震えていた。<br>二人の影が重なり合い、長く伸びて、海に届こうとしていた。<br>波は寄せては返し、永遠を刻み続けていた。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n97e771e7ac43'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/232930619/profile_a4fc8dfcb62229e88b9d321757d462a6.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 27 Sep 2025 17:42:16 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「青とオレンジの点滅」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="97830b9c-d596-4695-bb95-fee98e49b82b" id="97830b9c-d596-4695-bb95-fee98e49b82b">博は携帯に何度も目をやった。<br>夏の夕立は、まるで天から叩き落とされるように地上へと雨をぶつけていた。傘を握る手は湿った風に冷え、肩口から滴り落ちる雫が首筋を伝って背中へとしみ込んでいく。<br> <br>「こんな女のことなど、綺麗さっぱり忘れてやる！」<br>風に揺れる傘の中で、吐き出すように呟いた。<br>しかし、手の中の携帯は青い光を返し、画面の中の彼女は微笑んでいた。見透かしたような笑顔。<br>その奥で文字が浮かんでいる。<br> <br>――「私のこと好きだったの？全然、気がつかなかったわ」<br>――「私、ほんとは結婚してるの。でも、心から好きだったら、そんなの関係ないわよね？」<br>――「関係ないわよね？」<br> <br>その言葉は、半ば開いた唇の奥の暗い洞窟で反響していた。博は崖の縁に立たされたように、足元がふいに崩れるのを感じた。結婚しているなんて、一度も考えもしなかった。再び携帯が震え、青い点滅を繰り返した。<br><br><br>「今、どこなの？」<br>そのメールに押し出されるように、博は待ち合わせの店のドアへ駆け込んだ。中へ入ると、店内は雨宿りの人々でざわめいていた。エアコンの風が頬を撫で、湿ったシャツが一気に冷えていく。テーブル席に座る彼女は、すでにグラスを片手にしていた。<br> <br>「ありがとう。来てくれたのね」<br>彼女は微笑み、指先をひらりと掲げた。<br>その薬指にはゴールドの指輪が光っていた。夕立の後の夏の光を映して、やけに眩しい。<br>「どう？似合う？」<br>彼女は小首をかしげた。<br>博は言葉を探したが、ただ口を開いて、ようやく絞り出すように言った。<br>「……結婚していたなんて、思わなかった」<br>「婚約指輪のつもりだったの？でも、あなたも結婚してたわよね」<br>「……今は一人だ」<br>「だったら、話すわ。私、もうすぐ離婚するの。でなかったら、あなたを部屋になんか連れてこないわ」<br>「本当に？」<br>「嘘をついてもしょうがないじゃない。あのときは、あなたを試してみたの」<br> <br>博は目を逸らし、沈黙を抱えた。<br>そのとき、彼女の携帯が震え、オレンジ色の光が点滅した。<br>彼女は視線を一瞬だけ画面に落とし、すぐに戻した。<br>「旦那から。彼、別れたくないのよ。一緒になる前はあんなに好きだったのにね」<br>彼女は苦笑した。「私ってわがままなのかしら？」<br>そう言うと、バッグを開き、小さな紙袋を博の前に置いた。<br>「はい、プレゼント！」<br>博は袋から箱を取り出し、蓋を開いた。<br>そこにあったのは、彼女の指に光っていたのと同じ指輪だった。<br>「……同じ指輪じゃないか」<br>「そうよ。これは私たちの恋愛記念日ね」<br>またオレンジの光が明滅し、せわしなく彼女を呼んでいた。<br>博はその光を見つめながら、ふと、遠い惑星から送られる信号のように思った。<br>触れれば、そこからすべてが崩れてしまうのではないか――そんな恐怖を孕んでいた。<br> <br>雨はいつの間にか止んでいた。<br>窓の外には青空が広がり、大きな入道雲がむくむくと空を覆いはじめていた。グラスの氷がかすかに鳴り、夏の午後が再び息を吹き返していた。<br>だが博の心には、まだ夕立が降り続いていた。<br>青の点滅とオレンジの点滅――二つの光に翻弄されながら、彼は静かに指輪の重さを掌に感じていた。<br>記念日と呼ぶには、あまりにも脆い一瞬を抱え込んだまま。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n07d5eaa311f3'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sun, 21 Sep 2025 14:37:11 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/gufi/n/n07d5eaa311f3</link>
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      <title>エッセイ「酔うという名の逃避行」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="3d639e5d-f4bf-468a-8570-8ef5718eb1d7" id="3d639e5d-f4bf-468a-8570-8ef5718eb1d7">生きていると、いろいろあるのがこの世の常です。<br>だから、たまには暖簾の向こう側へ行きたくなるのです。<br>簡単に言えば、憂さ晴らしです。<br>溜まった現実のホコリを、一気に酒精の風で吹き飛ばすために。<br> <br>浮世の義理や人間関係の綱渡りから、ちょいと足を踏み外して、あえて網に落ちてみるのも一興。<br>羽目を外す、というより、羽目のないところでふらふら歩いてみるのもまた、人生の旅のひとつじゃないかと思うのです。<br> <br>「いいじゃないか、たまには」<br>そう呟きながら、グラスに注がれた琥珀色の液体にそっと口をつける。<br>誰に迷惑をかけるわけでもない。<br>ただ、自分が自分に休憩を与えているだけ。<br>そうでもしなければ、漱石の言葉ではないが、「とかくこの世は生きづらい」。<br>まったく、その通りだと思います。<br> <br>仕事をすれば仕事の義理がある。<br>上司の顔色、部下の失敗、取引先の無茶ぶり。<br>家庭を持てば家庭の理屈がある。<br>妻の機嫌、子どもの教育、親の介護、町内会の草むしり。<br>生きるとは、終わりのない気持ちの調整作業にほかならない。<br>心の水平線を保つために、日々、微調整、さらにまた微調整。<br> <br>こうしなければならなかった、ああしてはいけなかった、いや、あのとき思い切ってやればよかったのではないか。<br>過去は無言でこちらを責め、未来は不安という仮面を被って手を振ってくる。<br>そんなとき、どうしたって、酒という名の親友に会いたくなるんです。<br> <br>「なあ、今日もひとつ付き合ってくれよ」<br>そうつぶやくと、酒は無言でうなずいてくれる。<br>気の利いたジョークも言わない代わりに、説教もしてこない。<br>まったく、いい奴です。<br> <br>そして、あれほど重たかった心が、ほんの数杯でふわりと軽くなる。<br>不思議なことに、飲んでいるうちに世の中がちょっとだけマシに見えてくる。<br>嫌な上司の声も、なんだかミュージカルの一幕に聞こえてきて、昨日の失敗すらも、単なる人生のワンシーンのように思えてくる。<br> <br>酔いが回ると、あげくの果てに突然、天啓が下りてくるのです。<br>「そうだ、こうすればいいんじゃないか！」<br>妙案、名案、奇抜なアイデアのオンパレード。<br>ひょっとしたら私は天才ではないかと、鼻の穴も膨らむばかり。<br>メモ帳に走り書きしたそのアイデアは、確かにその夜は輝いていました。<br> <br>……ところが。<br>朝、カーテンの隙間から差し込む光の中で目を覚ますと、机の上にはしわしわのメモ紙。<br> <br>野菜で会社を救う<br>「な、なんだこれは……？」<br>どんな革命的な発想だったのか、もう思い出せない。<br>ただ、しぼんだ紙風船のように、それは無残にも机に横たわっている。<br> <br>でも、不思議なことに、後悔はあまりないのです。<br>確かに、アイデアは消えてしまったかもしれない。<br>しかし、あの一晩、私は大いに笑い、夢も見て、現実の鎖を外していた。<br>つまり、束の間の自由の中にいた。<br>それだけで充分だったのかも知れません。<br> <br>人生には、時には現実からの“合法的な逃亡”が必要なのです。<br>真面目に、誠実に、堅実に生きていればいるほど、たまにはバランスをとらないと心がパンクしてしまう。<br>酔うというのは、ただの現実逃避ではない。<br>人生に必要な“脱線”なのです。<br> <br>同じ線路ばかりを走っていれば、景色の変化もなく、いつしか心もすり減ってしまう。<br>ほんの少しの寄り道、ささやかな脱線が、後になって「酔ったあの夜もまた、私の人生の一幕だった」と微笑みながら振り返らせてくれる。<br> <br>だから、私は思うのです。<br>「人生は、真っ直ぐでなくていい。たまには曲がれ！寄り道しろ！酔え！」<br>誰にも迷惑をかけない範囲で、自分だけの逃避行を愉しむこと。<br>それが、自分を守り、生き延びる術なのです。<br> <br>さあ、今夜も一杯だけ。<br>現実のしっぽを引きずりながら、私は親友が待つ、あの場所へ足を運ぶのです。<br>──乾杯！人生に乾杯！脱線に乾杯！<br>そして何より、乾杯！懸命に、真っすぐに生きるあなたに！</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n4f99e8b7f217'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 26 Aug 2025 17:39:38 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「森のアトリエ」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="74727697-bfa8-4820-97fe-6307dc5c3f18" id="74727697-bfa8-4820-97fe-6307dc5c3f18"><br></p><p name="f1a4e64d-54a2-4a08-bd2f-285bf66b2480" id="f1a4e64d-54a2-4a08-bd2f-285bf66b2480"><strong>◆第一章「出会いは部室」　</strong><br><strong> </strong><br>春の午後、大学の美術棟、その最も奥にある部室は、ほんの少し湿った油絵の匂いに満たされていた。<br>新歓も落ち着き、部室にいる学生たちはまばらだった。<br>その中で、澪はふと、その気配に導かれるように、窓際のキャンバスの前に立つ一人の青年に目を留めた。<br>彼は、片隅で静かに絵を描いていた。まるで現実世界と切り離されたように。<br>細い指先が、絵筆の先端を滑らせ、キャンバスに青を重ねていく。<br>その目は真剣というより、夢の中を覗き込んでいるようだった。<br> <br>「……なに描いてるの？」<br>思わず、言葉がこぼれていた。<br>彼は驚いた様子も見せず、ゆっくりと顔を上げた。<br>睫毛の影の下から現れた瞳は、まるで薄曇りの空の色をしていた。<br>「空の下にある音。」<br>「は？」<br>「風が街の角を曲がるときの音とか、雨がアスファルトに触れる音。目に見えないものを描いてみたかったんだ。」<br>詩人みたいなことを言う、と澪は思った。<br>けれど、嘘ではないようだ。<br>彼の声には、奇妙な説得力があった。<br>「変わってるね。……あなた、名前は？」<br>「蒼。君は？」<br>「澪。」<br>互いの名前を口にしたとき、不思議とその響きが自然に馴染んだ。<br> <br>それから数日後、部内の課題でペア作品を制作することが発表された。<br>抽選で組まれたのは――蒼と澪。<br>「うそ！よりによって、あの空の音の人？」<br>部員たちの前ではそう文句を言いながらも、澪の内心には微かな期待が芽生えていた。<br>蒼の世界の見方は、現実主義の澪にとって奇異でありながら、心の中でどこかに忘れていた何かを呼び起こすものだったからだ。<br> <br>放課後の美術室で、二人は初めて本格的に向かい合った。<br>テーマは「境界」。<br>「私は、“今”と“過去”の境目にしたい。忘れたい記憶と、それでも感情は消せないような。」<br>「僕は、“現実”と“夢”の間がいいな。どこにも存在しない場所。そして、時間も流れない。」<br>「……やっぱり変わってる。」<br>でも、それでいいのかもしれない。<br>言葉を交わすたび、澪は自分がこの“変わった人”に、少しずつ惹かれていることに気づいていた。<br>ある日の放課後、蒼がふとつぶやいた。<br>「ねえ、澪。もし、キャンバスの中の世界に入れたら、君は行ってみたい？」<br>「絵の中に？……バカみたい。」<br>「本気で訊いてるんだよ。」<br>澪はふっと笑い、でも目を逸らした。<br>――もしかしたら、私はこの人となら、本当にどこにでも行けるかもしれない。<br> <br>その瞬間、教室のドアが開いた。顧問の芦原先生が顔を出した。<br>「ちょうどいい。二人にぴったりな場所がある。夏にうちのアトリエで、個別講座をやる予定だ。参加しないか？」<br>その言葉は、まるで運命が用意した招待状のようだった。<br>蒼は澪を見て、にこりと笑う。<br>「行こう。絵の中の音を、もっと探したい。」<br>澪もまた、小さく頷いた。<br> <br><strong>◆第二章「秘密のアトリエ」</strong><br>夏の陽射しが強まる頃、澪と蒼は、芦原の案内で山奥にある古びたアトリエへと足を運んだ。<br>車が舗装道路を離れてから三十分、木々が深く茂る山道を進むうちに、街の気配は完全に消え去った。<br>そこに現れたのは、緑の蔦に覆われた、年季の入った洋館のような建物だった。<br> <br>「ここが、先生のアトリエ……？」<br>「空気が、違うね。時間の流れまで変わったみたいだ。」<br>蒼がそう言うのも無理はない。<br>セミの声すら遠く、ただ風の音だけが静かに木立を揺らしていた。<br>芦原は、「昔、恋人と暮らしていた家だ」とだけ呟いて、玄関の古びた扉を開けた。<br>部屋には油絵の匂いと、どこか乾いた木の香りが漂っていた。<br> <br>一階は明るい作業部屋、二階には個室がいくつかあり、ふたりは隣り合う部屋に泊まることになった。<br>数日が過ぎるうちに、澪はある違和感に気づき始めた。<br>アトリエのどこかに、明らかに「使われていない空間」がある。<br>芦原が決して立ち入らず、扉に鍵をかけている部屋、二階の奥、階段の脇にある扉だ。<br>「あそこ、何の部屋なんだろう……」<br>夕方、澪がぽつりと呟いた。<br>蒼はすぐに察したように、にこりと笑う。<br>「夜になったら、探検してみようか。」<br>まるで子供のような言い方だったが、不思議と胸が高鳴った。<br> <br>その夜、芦原が買い出しに出た隙を見計らい、二人は階段をそっと上がった。<br>扉には古びた鍵がかかっていたが、探すと、部屋の引き出しの奥に小さな鍵が眠っていた。<br>「行くよ……」<br>鍵を回すとガチャっと大きな音を立てた。<br>その音に驚いて、思わず二人は顔を合わせた。<br>錆付いたような、その音はやけに響いた。<br> <br>開いた扉の先は、屋根裏へと続く急な階段だった。<br>埃を踏みしめながら上がると、そこには静寂だけが広がっていた。<br>古びた家具、使い古されたイーゼル、そして、ひとつだけ布をかぶせられた一つの絵画。<br> <br>「これ……」<br>蒼がおそるおそる、ゆっくりと布を引いた。<br>そこには、深い森の中に立つ男女が描かれていた。<br>朽ちかけた木々と差し込む光、そして、向かい合うふたり、その男は若い頃の芦原先生ではないか？<br>だが、女の顔は見たことがなかった。<br>けれど、どこかで見た気がする――澪は心の底でざわめく何かを感じていた。<br> <br>「……この女の人、誰？」<br>蒼は絵に近づき、そっと触れようとした。<br>指先がキャンバスに触れたその瞬間、部屋の空気が震えだした。<br>「え……？」<br>絵の中の木々が微かに揺れたように見えた。<br>風もないのに、澪の髪がふわりと舞った。<br>「ねえ、蒼、これって……」<br>言いかけた瞬間、絵の中から光が広がった。<br>部屋が歪んでいく。<br>二人の身体が、引き寄せられるようにキャンバスへと吸い込まれていった。<br>「蒼――！」<br>「澪！」<br>視界が渦を巻き始め、足元の感覚が消えた。<br>次に目を開けたとき、二人は見知らぬ場所に立っていた。<br>そこは、まぎれもなく――あの絵に描かれていた、森の中だった。<br> <br><strong>◆第三章「記憶の森」</strong><br><strong> </strong><br>澪は自分の息が震えているのを感じた。<br>そこは深い森の中。<br>空は薄桃色に染まり、風が木々の間をすり抜けていく。<br>すべてが現実とは異なるやわらかい輪郭を持ち、まるで息づく絵画の世界のようだった。<br>「……ほんとに、私たち、絵の中に入っちゃったの……？」<br>澪の声に、蒼は黙って頷いた。<br>彼の目もまた、信じがたい現実を受け入れきれずに揺れていた。<br>ふたりは森の小径を歩いていくと、やがて静まり返った湖にたどり着いた。<br>その岸辺に、小さなアトリエのような建物が建っていた。<br> <br>「ここって、先生の……アトリエ？」<br>木造の扉を押すと、軋む音とともに静寂が広がった。<br>壁には何枚もの絵が飾られていた。<br>しかも、そのほとんどは部室で見覚えのある作風だった。<br>そして、その傍らに「1995年」のカレンダーが、、、<br><br><br>「ここって、もしかして、先生の記憶の中なんじゃ……」<br> <br>澪の言葉に、蒼が一枚の絵の前で立ち止まった。<br>「見て……これ。中央の二人。芦原先生と、女性……」<br>その女の顔を見て、澪は息を呑んだ。<br>――自分に、よく似ていた。<br>まるで、鏡の中のもう一人の自分。<br> <br>そのときだった。背後から声が響いた。<br>「君たちが来てくれるのを、ずっと待っていた。」<br>蒼と澪の前に現れたのは、若き日の芦原先生だった。<br>そう言うと、驚いて目を見張っている私たちに、森にまつわる話を語り出した。<br> <br>――昔、この森でひとりの女性と出会った。<br>そして、私たちはやがて深く愛し合うようになった。<br>でも……彼女は、或る日、突然姿を消してしまった。<br>それ以来、私はこの絵を何枚も描き続けた。<br>彼女がこの森に帰ってくるように願い、そして、彼女を取り戻すために。<br>けれど、彼女は現れなかった。<br>そして、最後に描いたこの絵を残した。<br>彼女が、この絵の中から、この森に戻ってくれると信じて。<br> <br>澪はそっと口を開いた。<br>「でも、どうして私たちが？」<br>「君の中に、彼女の面影があったからだ。」<br>先生は寂しそうに微笑んだ。<br>「ありがとう。ここで逢えて良かった。」<br> <br>すると、空が急に白く輝き始め、木々が淡く崩れていく。<br>風が色となって舞い、森もアトリエも、全てがひとつの絵の中に還っていった。<br> <br>◆<strong>終章</strong><br><strong> </strong><br>――気が付くと、ふたりは屋根裏にいた。<br>あの絵は、ただ静かに立てかけられていた。<br>もう何も語らず、けれど確かに何かを語り終えたかのように。<br> <br>その夕方、アトリエに戻ってきた芦原が、静かにふたりを見つめた。<br>「先生、屋根裏のあの絵の女性は……？」<br> <br>澪が尋ねると、芦原は短く息を吐き、微笑んだ。<br>「結婚を約束した恋人だったが、もうこの世にはいない。でも、いつも会っているよ。記憶の森の中で。」<br>澪の胸の奥が、熱く、やさしく締めつけられた。<br> <br>数週間後、学園祭。<br>展示室の中央には、蒼と澪の共同作品が飾られていた。<br>その絵の中の“ふたり”は、森の中のアトリエで見つめ合っていた。<br> <br>澪がその絵を見つめながら囁いた。<br>「ねえ……私、あなたと出会うために、この部に入ったのかもしれない。」<br>蒼は微笑んで、そっと彼女の手を握った。<br> <br>遠くから芦原はそんな二人を優しく、見守っていた。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/nc2c4121937a0'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 22 Aug 2025 18:10:04 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ「魂の筆跡 ― 芥川「秋山図」と再読の衝撃」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="17bfbf62-4a39-4581-9260-2222fa4c8023" id="17bfbf62-4a39-4581-9260-2222fa4c8023">時おり、ふと懐かしい記憶に導かれるようにして、学生時代に読んだ文学作品を読み返すことがあります。<br>書棚の文庫本の背表紙を目で辿りながら、太宰治、芥川龍之介、梶井基次郎、向田邦子、立原道造——錚々たる作家たちの名に指が触れると、まるで旧友に再会するような静かな高揚を覚えます。<br>再読という行為は、ただ懐かしさに身を委ねるだけではありません。<br>むしろ、かつて気づかなかった深淵な言葉の襞、物語の奥に流れる感情のうねりに、今の自分の感性が新たに反応しはじめる——そうした発見と驚きにも満ちています。<br>そう、名作とは、読む者の人生の深まりに呼応して、自らもまた表情を変えるのです。<br> <br>なかでも、私が近年、何度も何度も繰り返し手に取っているのが、芥川龍之介の短編『秋山図』です。<br>比較的知られていない作品かもしれませんが、その奥行きと余韻の深さは、彼の代表作に勝るとも劣らないものがあります。<br>同時に再読している『戯作三昧』や『或日の大石内蔵助』も実に味わい深く、言葉の一つ一つに、しみじみと、人生の奥行や深みを感じさせる作品です。<br> <br>ところで、そんなある夜のことでした。眠れぬままに目を覚ました私は、ぼんやりとした意識のまま、ラジカセのスイッチを入れました。<br>NHKの「ラジオ深夜便」から、静かな語り口が流れてきました。<br>番組では「作家の手紙の収集家」について語られており、その中で芥川の原稿にまつわるエピソードが紹介されたのです。<br>私はそれを聞くと、まるで雷に打たれたような衝撃を受けました。<br>語り手によれば、芥川の原稿は、出版直前まで推敲と修正を重ねた跡が無数に残っており、元の文章がほとんど見えないほどだったというのです。しかも驚くべきことに、修正すべき余白が足りなくなると、芥川はすでに修正済みの部分に紙片を貼りつけ、その上からさらに訂正の文字を加えていたと。<br> <br>私は言葉を失いました。<br>芥川龍之介といえば、日本文学史に燦然と輝く「天才作家」。<br>彼の作品は、まるでモーツァルトの音楽のようにで、最初から完成された形で降りてきたのだと信じ込んでいたのです。<br>湧き出す泉のように、何の迷いもなく筆を運び、天衣無縫のように、完璧な文章を一気に仕上げていたのに違いないと。<br> <br>しかし、真実は違った。<br>そこには、作家・芥川の苦悩と執念があった。<br>命を削るような緊張感の中で、ひと文字ひと文字を推敲し、また、削り、また、書き直し、紙の上で言葉と格闘していた姿があった。<br>その姿は、時には狂気すら帯びていたに違いない。<br>創作とは、ただ美しいだけの営みではなく、魂の闘争なのだと、まざまざと見せつけられたのです。<br>静かに語られるその逸話の向こうに、私は筆を握る芥川の姿、彼の額に滲む汗を身近に見たような気がしました。<br> <br>『秋山図』は、まさにそうした芥川の筆魂が結晶化したような作品です。<br>天才とは、何も容易く作品を生み出せる者のことではない。<br>精神の限界を超え、常人には見えない世界にまで手を伸ばし、最後の一筆に至るまで、魂を削ってでも「真実」を探し求め、彫刻のように、文字を刻んでいく者、それが天才なのかも知れません。<br> <br>この「秋山図」は実に不思議な画に纏わる物語です。<br>是非、ご一読をお薦め致します。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n00cea8b7b08c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 02 Aug 2025 14:40:45 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ 「リルケ 魂の深淵に触れる言葉」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="1ee23873-7fa6-43ec-8de5-790ab882b9b0" id="1ee23873-7fa6-43ec-8de5-790ab882b9b0"><br></p><p name="b20153db-34bb-4f6c-9d21-3a004449dc70" id="b20153db-34bb-4f6c-9d21-3a004449dc70">いろいろな本を読んできましたが、心にこんなに深く、杭のように立ちはだかり、魂に突き刺さる本は少ないかと思います。<br>リルケ「若き詩人への手紙」は、詩作に悩む青年が直面する生死、孤独、恋愛などに対して、詩人リルケが深い共感と啓示に満ちた手紙を書き送ったものです。<br>長文になりますが、その一節をご紹介させていただきます。<br><br>リルケ「若き詩人への手紙」の一節よりー１<br>「私は批評がましいことは一切したくないのです。<br>一つの芸術作品に接するのに、批評的言辞をもってするほど不当なことはありません。<br>それは必ずや、多かれ少なかれ結構な誤解に終るだけのことです。<br>物事はすべてそんなに容易に掴（つか）めるものでも言えるものでもありません。<br>ともすれば世人はそのように思い込ませたがるものですけれども。<br>たいていの出来事は口に出して言えないものです。<br>全然言葉などの踏み込んだことのない領域で行われるものです。<br>それにまた芸術作品ほど言語に絶したものはありません。<br>それは秘密に満ちた存在で、その生命は、過ぎ去る我々の生命のそばにあって、永続するものなのです。」<br><br>リルケ「若き詩人への手紙」の一節よりー２<br>「あなたは御自分の詩がいいかどうかをお尋ねになる。<br>あなたは私にお尋ねになる。<br>前にはほかの人にお尋ねになった。<br>あなたは雑誌に詩をお送りになる。<br>ほかの詩と比べてごらんになる。<br>そしてどこかの編集部があなたの御試作を返してきたからといって、自信をぐらつかせられる。<br>（中略）<br>そんなことは一切おやめなさい。<br>あなたは外へ眼を向けていらっしゃる。<br>だが何よりも今、あなたのなさってはいけないことがそれなのです。<br>誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。<br>ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。<br>あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい。<br>それがあなたの心の最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。<br>もしも、あなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい。<br>私は書かなければならないかと。<br><br>深い答えを求めて自己の内へ内へと掘り下げてごらんなさい。<br>そして、もしこの答えが肯定的であるならば、もしあなたが力強い単純な一語、「私は書かなければならぬ」をもって、あの真剣な問いに答えることができるならば、そのときはあなたの生涯をこの必然に従って打ちたてて下さい。あなたの生涯は、どんなに無関係に無意味に見える寸秒に至るまで、すべてこの衝迫の表徴となり証明とならなければなりません。」<br><br>以上、長文となりましたがご紹介させていただきました。<br>このような純粋な、魂が美しく覚醒されるような文章に、私は滅多に触れることはできません！<br>感動のあまり、新潮文庫より引用させていただきました。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/ne3ccd30723ff'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 02 Aug 2025 11:45:58 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「あの１９歳の夏」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="3845d8f7-d6bd-4ff5-900d-9c7b28dafd36" id="3845d8f7-d6bd-4ff5-900d-9c7b28dafd36">こんな夢を、あなたは見たことがありませんか？<br>夏の朝、まだ静かな時間にふと目が覚めて、窓の外を眺めると、どこか見覚えのある風景を思い出す。<br>やがて、どこかで蝉が鳴き始め、空気がじんわりと熱を帯びてくる。<br>まだ、時間がまどろんでいるようなそんな時に、ふと目を閉じれば、あの頃に引き戻されてしまうのです。<br> <br>あの夏、私は19歳で、彼女はひとつ年上の20歳でした。<br>歩きながら、私は彼女のアパートへ向かっていました。<br>でも、胸の奥の逢いたい気持ちが次第にふくらんで、ただ歩くことが、もう、もどかしくて、ついには駆け出していました。<br>走れば走るほど、スピードは速くなり、風が頬を撫で、身は軽くなり、道は滑走路のように真っすぐに伸びて、足は地を離れて、私はまるで空を飛んでいるようでした。<br>やがて、彼女の部屋が遠くに見えてきました。<br>窓のピンクのカーテンがふわりと風に揺れています。<br> <br>「着いたよ」と、心の中でつぶやきながら、私は地面にそっと着地しました。<br>コンコン。<br>ノックの音が、夏の空気の中に沈んでいった。<br>「来たの？」<br>ドアの向こうから、彼女の声がしました。<br>寝起きの、少しだけ掠れた声。<br>ドアが開き、彼女が現れました。<br>すこし大きめのTシャツ。<br>髪はまだ寝癖のままでしたが、私を優しく包み込むような笑顔でした。<br> <br>「走ってきたの？」<br>「うん、どうしても、君に会いたくなって。歩いてたら、もう我慢できなくなって」<br>「ふふ、それって夢の中みたいなセリフね」<br>「夢なんだよ。ずっと、夢を見てるみたいなんだ。こうして、君に会っている今も」<br> <br>彼女は笑いながら、私の手をそっと取って、部屋の中へ引き寄せた。<br>カーテンの隙間から差し込む朝の光が、ふたりの間に射し込む。<br>「ほら、外見て。きれいでしょう？」<br>窓の外には、風に揺れる緑の梢。<br>朝の光がその葉の一枚一枚に降り注ぎ、まるで信号のようにキラキラと瞬いていました。<br>「まるで、今から何かが始まるよって、合図みたいだね」<br>「うん。僕も、そう思ってた」<br> <br>その時の気持ちは、どう表現したらいいのでしょう。<br>世界が全く新しく生まれ変わったような、そんな気がしたのです。<br>空も雲も太陽も林もまわりの風景もすべてがたったいま、生まれたように見えたのです。<br>言葉では言い表せない穏やかで、それこそ現実にバラ色に染まった世界がそこにはありました。<br> <br>それから何年も経ち、季節はいくつも巡り、彼女は郷里に帰り、あのアポートも今は、なくなってしまったけれど。<br>時折、夏の朝に目が覚めると、ふと、あの滑走路を思い出すことがあります。<br> <br>もしかしたら、今のこの現実こそが夢で、或る日、目を覚ましたら、あの19歳の夏に戻っているのではないか。<br>そんな風に思えてならない瞬間があります。<br> <br>あなたはどうですか？<br>今の現実が、じつは長い夢であって、もう一度、あの滑走路を夢中で走って、ピンクのカーテンの部屋で彼女が笑っている。<br>そんな世界に戻れるとしたら？<br>もしかしたら、それは夢ではなくて、ずっと続いている愛の物語の、ほんとうの始まりなのかもしれません。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/nf3ea7f172c96'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 19 Jul 2025 11:09:39 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ「愛という名の業火」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="6a38d213-eae6-412b-81dc-66f67961bd2f" id="6a38d213-eae6-412b-81dc-66f67961bd2f">以前、渡辺淳一の『失楽園』を読んだことがある。<br>これは、ただの小説という枠には到底収まりきらない、まさに人間という存在の深層にまで踏み込んだ、魂を激しく揺さぶるような作品でした。<br>一言で言えば「凄まじい！」<br>それ以上の言葉が、果たしてあるのだろうかと思うほどに。<br>ストーリーの展開はもちろん、特筆すべきはその描写力の凄絶さ。<br>生身の感情、生々しい肉体、逃れられない欲望、その全てが脈打ち、呼吸し、私の感覚に食い入ってくる。<br>それは単なる性愛描写を超えた、もはや生命の根源を描き出すような熱を帯びていました。<br> <br>そして、男と女の関係とは果たして何なのか。<br>そうした疑問を読者に強く問いただすようだ。<br>ふと考えれば、結婚、家庭、社会的役割、倫理、常識、それらの名のもとに私たちは、どれほどの衝動や情熱を押し殺して生きているのだろう。<br>『失楽園』の二人の愛は、そうした柵をすべて薙ぎ払って、ただ「生きる」ことと「愛する」ことの本質へと突き進んでゆく。<br>それは美しい愛の結晶というよりも、もはや痛切に狂おしく、見る者の心をえぐるような凄絶さを帯びていました。<br> <br>また、性愛とは何か。<br>男と女が出会い、触れ合い、溶け合い、やがてすべてを焼き尽くしてしまうような、あの激しさは、どこから来るのか。<br>あの業火のような愛の本質は、人間に、いやこの自然界に、誰が与えたものなのか。<br>あの世界の向こう側には、一体何があるのか。<br><br><br>そんな問いを、読みながら何度も何度も、心の奥深くに投げかけられているような気がしました。<br>もはやそれは、「恋人」「結婚」「不倫」といった概念をはるかに超えた、向こう側の世界でした。<br>『恋愛小説』というジャンルで語るにはあまりに狭く、小さすぎる。<br>愛という名のもとに、すべてを手放し、突き進むその尊さと恐ろしさを抉り出し、これほどまでに容赦なく徹底的に描いた作品は他にそうありません。<br> <br>読み終えた時、ふと、ジャン＝ジャック・ベネックス監督の映画『ベティ・ブルー』のことが思い浮かびました。<br>この映画もまた、愛に身を投じ、常軌を逸しながらも、奔放に、誰よりも真っ直ぐに生きた男女の物語。<br>「愛すること」にすべてを捧げ、「正しさ」や「常識」を粉々に打ち砕きながら、ただ相手の存在そのものに命を預けてゆく、赤裸々な姿。<br>そこには、『失楽園』と共鳴しあうものが強くありました。<br> <br>こうした作品に触れると、ああ、私たちはなんて打算的に、用心深く生きているのだろう。<br>恋愛すらも、感情すらも、あらかじめ用意された“枠”の中でしか動けないように設計された人生のようだ。<br>だけど本当は、誰の中にも、あのような激しさと狂おしさが眠っているのではないか。<br>ただ、それを現実社会の枠組みの中で抑えつけ、生きているだけなのではないか。<br>そんな素朴な、けれど深い疑問が心に横たわっていました。<br> <br>そう、『失楽園』は、私の心の奥に眠っていた感覚を、確かに呼び覚ましたのです。<br>それは、決して現実に体験したわけではない。<br>けれども、作家の筆によって、私は確かに「その世界」の中で束の間であれ、登場人物と同じように生きたような気がしている。<br>文学とは、芸術とは、これほどまでに人の内側に食い込み、感情やその人の人生を揺さぶる力を持っているのか。<br>それをまざまざと見せつけられたようでした。<br> <br>本物の芸術には、時代も、場所も、常識も超える力があります。<br>それは人間の根源へと至る扉を開け、そこにある光と闇を、正面から照らしてみせる。<br>『失楽園』は、その扉の先にある世界を、恐ろしいほどの真実味とともに描き切った作品です。<br>私はそれを読むことで、もはや「読んだ」という言葉すら生ぬるく、「体験した」と言うほかない感覚を味わいました。<br>あれはもはやフィクションではなく、確かに人間の一つの「真実」の姿なのだと。<br>そう思わせるほどの力と魂が込められていました。<br>読んだ後は、数日間は茫然としてしまいました。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/ne7b3cd959268'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Fri, 18 Jul 2025 14:40:30 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ「昭和の味 〜忘れられない味〜」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="edc04152-ee06-4b90-9afc-09a617698bfe" id="edc04152-ee06-4b90-9afc-09a617698bfe">さて、毎度のことながら、今日のランチは何にしようかと迷っている。<br>たかが昼ごはん、されど昼ごはん。<br>この選択の時間が、意外にも小さなドラマを生む。<br>頭では「栄養バランスの良いものに」と考えているのに、なぜかお腹の声は「カレーライス」とか「炒飯」とか、もっと素朴で懐かしいものを叫んでくる。<br>なぜだろう？ 何かがしっくりこない。<br><br>その時、ふと、池波正太郎の『昭和の味を求めて』というエッセイが頭をよぎった。<br>ご存じだろうか。<br>『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などの名作を書いたあの池波正太郎が、食通として綴った珠玉の食エッセイである。<br>この本は、ただのグルメ本ではない。<br>むしろ、料理という入り口から、昭和という時代そのものを立ち上がらせる、昭和探訪記でもある。<br><br><br>とんかつの衣が立っていたあの頃のラードの匂い。<br>浅草の食堂で供される小鉢のひとつひとつが、どこか職人の矜持を纏っていたあの時代。<br>池波の筆は、料理の湯気の向こうに、まるでフィルムのように「昭和」を映し出してくれる。<br> <br>数年前、私はその本を読んでいるうちに、どうしても紹介されていたそのお店に、無性に行きたくなって、ある老舗を実際に訪ねてみた。<br>暖簾をくぐった瞬間、思わず目を閉じる。<br>と言うのは、どこかに、ひょいと昭和が顔をのぞかせてくれるのではないか、そんな淡い期待を抱きながら。<br> <br>しかし、目を開ければ、そこにあるのは平成も通り越した令和の光景。<br>テーブルや内装こそ昔の面影をやや残しているものの、スタッフの制服も、壁に掛けられたメニューも、どこか小綺麗で現代的だった。<br>出された料理の味は、もちろん丁寧に作られていたけれど、本にあるような “あの頃の味”ではなかったように思えた。<br>「やはり、昭和はもう、あの本の中にしかないのだな」<br>そう、少しばかり寂しい気持ちになった。<br>でも、それは決してネガティブな感慨ではなかった。<br>むしろ、あの本の中の“昭和の味”は、時を経るほどに、自分の中ではより深く郷愁を増していく気がしたのだ。<br> <br>思えば、その頃の駅前のラーメン屋、商店街の惣菜屋、銭湯帰りに立ち寄った焼き鳥屋。<br>どこにも、今よりも少しゆっくりと時が流れていた。<br>湯気が立ちのぼるその一皿に、人々の会話と、笑顔と、優しさが染み込んでいた。<br>そういう空気ごと味わっていたからこそ、記憶の中の“昭和の味”は、ただの料理の味ではなく、「街の風景」や「街の匂い」、そして「その時代」をも含めた味わいだったのだと思う。<br> <br>しかし、現代のランチタイムに、そんなノスタルジーを抱えてしまうのは、少し不器用な生き方かもしれない。<br>それでも、頭の中で、池波の文章の一節がふと蘇るたびに、私は昭和という時間のトンネルを、こっそりとくぐっているのだ。<br> <br>そして、今日の昼ごはん。<br>思い切って、駅裏の古びた喫茶店に入ってみた。<br>メニューには「ナポリタン」「ピラフ」「ハムトースト」どれも郷愁を感じさせるメニューばかり。<br>思わず、頬が自然に緩む。<br>迷った末に頼んだのはナポリタン。<br>鉄板の上でジュウジュウ音を立て、ケチャップの香りが懐かしさを呼び起こした。<br>口に入れた瞬間、ふわっと蘇る、あの時代。<br><br><br>テレビでは大相撲。<br>母がアイロンをかける音。<br>裏の路地から聞こえる子どもたちの笑い声。<br>味だけではない、時代そのものが、そのひとくちの中にあった。<br>昭和の味とは、きっとそういうものなのだろう。<br>舌で味わい、心で思い出す。<br><br><br>そして、忘れたくないものが、自分の中にまだちゃんと残っていることに、少し安堵するのだ。<br>ほんの一皿でいい。<br>あの頃を思い出させてくれる料理に、またいつか出会えますように。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/na1d7c0348724'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 17 Jul 2025 17:32:37 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ「読書という名の青春」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="7e7fa09c-52cf-400f-97c4-cb247476762e" id="7e7fa09c-52cf-400f-97c4-cb247476762e">学生時代から、本が好きでした。<br>ただ「読む」だけではなく、本のページをめくるたびに、そこに広がる世界に身を投じこんでいきました。<br>すると、ページの向こう側には、過ぎ去った時代やさまざまな人生が静かに息づき、ページをめくっていくと、やがて、どういうわけか、現実の風景すら少し変わって見えてくる。<br>そんな、不思議な体験の連続だったのです。<br> <br>大学ではフランス文学を専攻しました。<br>言うまでもなく、フランス文学の名だたる作家たち、モーパッサン、ドーデ、フィリップ、バルザック、ランボー、ボードレール、そしてサン＝テグジュペリといった錚々たる作家たちが私のそばにいてくれました。<br> <br>そして、図書館の棚に並ぶ本の背表紙は、新たな精神世界を開くひとつひとつのドアでした。<br>そのドアをノックして、そのページを静かに開ければ、そこから見知らぬ国への旅が始まります。<br>遠い国、遠い時代の魂がみるみる今に蘇り、私に力強く語りかけてくる。<br>そんな時空を超えた体験に、胸が高鳴ったものです。<br> <br>大学のゼミでは、プルーストの『失われた時を求めて』に取り組みました。<br>とにかく難解で、最初の数行を読んだだけで頭を抱えたのを覚えています。<br>テーマが「時間」と「記憶」なのですから、それも当然かもしれません。<br>あの長大な文章の中で、過去と現在、意識と無意識、記憶と現実が交錯し、読者を容赦なく深みへ引きずり込む。<br>いざ自分の発表の順番が近づくと、その翻訳のために図書館にこもり、何度も辞書を引き、文章の意味を追いながら、言葉を探し求める作業は、まるで迷路を彷徨う感覚でした。<br> <br>それでも、なぜか心は満たされていました。<br>モーパッサンの小説に出てくる、洒落た会話のセリフなどを読むと、その粋な表現に、思わず本を閉じてうっとりしたこともあります。<br>ああ、こういうセリフは、日本語ではなかなか出てこないな、と。深いため息。<br>文化の違いと言ってしまえばそれまでですが、国ごとに育まれた感性や言葉の奥行きを、文学は如実に映してくれるのだと、身をもって知った瞬間でした。<br> <br>もちろん、フランス文学だけにとどまらず、日本文学やロシア文学、ドイツ文学にも手を伸ばしました。とにかく興味を惹かれる本は、片っ端から読み漁ったものです。<br>今思えば、あの頃が一番贅沢でした。<br>なによりも、「時間」という名の宝物があったのです。<br>若いゆえの、あの圧倒的な自由と余白。<br>真っ白い、広大な野原のようなノートの上をどこまでも歩いて行ける、そんな自由がありました。<br> <br>また、脳の構造が違うのかと思うほど、時間の流れが全くゆっくりだった。<br>一週間がとても長く、一ヶ月先のことなど、まるで遠い未来のように感じられた。<br>通学時間も片道一時間以上かかったので、往復でちょうど一冊読めるくらい。<br>混み合う電車の中、吊革につかまりながら読み進めると、読み終えるころには、自分が少しだけ変わっているような気がしていました。<br> <br>高校時代には、枕元にスタンドを置き、深夜でまでページをめくっていました。<br>モームの『人間の絆』や『月と六ペンス』などに夢中になり、気づくと夜が明けていたこともありました。面白くて、面白くて、もう止められなかった。<br>夜更けの部屋で一人、本と対話していたあの時間。<br>窓の外は静かで、誰にも邪魔されない、純粋な「読書の宇宙」がそこにありました。<br>思えば、あの頃はすべてが鮮やかでした。<br>言葉のひとつひとつが心に染みて、読んだ物語の登場人物たちがまるで友人のように隣にいた。<br>今ほど自分の人生の輪郭がはっきりしていなかった時代だからこそ、どんな物語にも自分を重ねて、生きていたような気がします。<br> <br>年月は流れました。<br>今では読む本のジャンルも幅広くなり、小説だけでなくエッセイやノンフィクション、なども楽しむようになりました。<br>でも、あの頃のような「熱中」は、どこか遠い日の風景となってしまった気がします。<br> <br>それでも、ふとした瞬間に、あのとき読んだ一節や、深夜に灯していた小さなスタンドを思い出します。<br>懐かしさと、少しの切なさが胸に広がります。<br>あの読書の日々は、間違いなく自分が本当に「生きていた」と実感できる時代だった。<br> <br>フランスの詩人アナトール・フランスのこんな名言がある。<br>「もし私が神だったら、私は青春を人生の終わりにおいただろう。」<br> <br>まさに！</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/neb0f9d538b10'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Thu, 17 Jul 2025 15:57:22 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ『土曜の夜と日曜の朝 ―矛盾の中に生きる』</title>
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      <description><![CDATA[<p name="5259a269-4e7c-432d-a093-7d35679e0ecf" id="5259a269-4e7c-432d-a093-7d35679e0ecf">アラン・シリトーという作家がいる。<br>彼の代表作に『土曜の夜と日曜の朝』という小説がある。<br>イギリスの労働者階級を描いたその物語は、後に映画化もされ、社会に大きな波紋を広げた。<br> <br>タイトルそのものが象徴的だ。<br>土曜の夜と日曜の朝。<br>つまり、一週間の労働を終えてようやく訪れる、つかの間の「自分だけの時間」だ。<br>週5日、あるいは6日、職場に縛られ、時間に拘束され、心までもが「業務」や「役割」の名のもとにすり減らされていく。<br>そんな日々のなかで、たった一晩と、翌朝だけが、自分の人生に戻ってこられる貴重な時間帯なのだ。<br>この短い時間に、登場人物は自由を謳歌し、夢を見、愛し、酒を飲み、踊り、あるいは沈黙する。<br>そのすべてが、一週間という時間を売った「借り物の人生」の後にようやく訪れる、本当の「自分」の時間なのだ。<br><br><br>だが、日曜の午後には、また元の場所へと引き戻される。<br>自由は一瞬で終わりを告げ、再び機械の歯車の一部となる。<br> <br>それは他人事ではない。<br>私たちの多くもまた、大小の違いこそあれ、同じような生活のリズムで生きている。<br>自分の望んだ仕事ではないけれど、生きていくためにはやらざるを得ない。<br>心のどこかにやりたいことがあるのに、それを封印して、日々をこなす。<br>そして、誰もがそうしているから、自分もまた当然のように「働くとはそういうことだ」と納得してしまう。<br> <br>けれど、果たしてそれは“当たり前”なのだろうか？<br>誰の心の中にも、その人なりの純粋な欲求や夢がある。<br>しかし、それを押し殺して現実的な選択を重ねるうちに、自分の“原型”がどんどんと摩耗していく。<br>その摩耗に気づいてもなお、私たちは生きていかなくてはならない。<br> <br>ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』には、こんな印象的な一節がある。<br>「自分のしたいことをするのが、なぜこんなに難しいのだろう」<br>まさに、その通りである。<br>したいことはあっても、社会の中では「できること」「許されること」「損しないこと」が優先される。<br>その結果、人は純粋さを封じ、打算で生きる術「妥協」を身につけていく。<br>純粋に生きようとすればするほど、痛みを伴う。<br>だが、打算で生きることは、ある意味、確かに楽ではある。<br>深く悩むこともなく、他人の評価を気にして自分を偽ることも、それなりにうまくやれば居心地が良い。<br>それでも、空虚な心の中の純粋さを消し去ることはできない。<br>無理に蓋をしても、何かの拍子に、胸の奥からじんわりと滲み出してくる。<br> <br>人間は実に奇妙な生き物だ。<br>合理性を持ちつつも、非合理なものに強く惹かれる。<br>生き延びるために他人に合わせながら、心のどこかでは「自分だけの真実」を求めてやまない。<br>その矛盾が、人間を人間たらしめているのだろう。<br> <br>もしかすると、私たちが生きていくということ自体が、矛盾と折り合いをつける、毎日の作業なのかもしれない。<br>妥協、あるいは打算で納めるか。<br>しかし、その矛盾に真っすぐ正面から向き合ったときにこそ、自分の「生き方」というものが見えてくるのだろう。<br>すべてを妥協し、打算に任せてしまえば、確かに気は楽だ。<br>しかし、それでは人生があまりに空虚だ。<br>純粋さを抱えたまま、この複雑な現代社会をどう渡っていくのか。<br>その葛藤こそが、人間の成長の糧なのではないかと思う。<br> <br>「若きヴェルテルの悩み」の著者ゲーテにもこんな一節がある。<br>「人間は努力する限り迷うものだ」<br> <br>土曜の夜と日曜の朝に、ふと胸をよぎる切なさ。<br>それは、私たちがまだ、自分の中の「真実」を捨て切れていない証拠なのだろう。<br>たとえ短くとも、自分の心の「真実」という宝石に対峙する姿勢がある限り、私たちは、自分を生きていると言えるのだと思う。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n1f8b41c7a909'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 15 Jul 2025 18:01:37 +0900</pubDate>
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      <title>エッセイ「偶然という名の脚本家」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="bfa979a2-ed41-4c4e-ad92-b807a34aac3b" id="bfa979a2-ed41-4c4e-ad92-b807a34aac3b">男と女の出会いというものは、ときおり“偶然”の風に乗ってやってくる。<br>あのとき、ふと立ち寄ったカフェで、隣の席に座ったあの人。<br>たまたま時間をずらした通勤電車で、視線がふっと重なったあの一瞬。<br>今思い返しても、なんてことのない出来事の中に、不思議な温度が宿っている。<br>「そういえば、あのとき、、、」<br>ふと、思い出す場面。<br>それは、記憶の奥にしまわれた宝石のような時間であり、同時に、人生という長編映画の中に挟み込まれた短い予告編のような瞬間なのかもしれません。<br>「この世に偶然なんてものはない、すべては必然である」<br>そんなことを言っていた哲学者がいましたね。<br>言われてみれば、確かにその通りなのかもしれません。<br>偶然という名の舞台の裏には、見えない糸を巧みに操る脚本家が、裏で存在しているような気がします。<br> <br>でも、どうでしょう？<br>「私には、そんな偶然の出会いなんて、ひとつもなかったわ」<br>そう口にする人もいます。<br>けれど、実は出会いがなかったわけではなく、ただそのとき、心のセンサーのスイッチがオフになっていたからでは？<br>アンテナを立てていなければ、流れてくるラブソングも雑音にしか聞こえません。<br> <br>ふと気づけば、日々の暮らしは“出会い”の連続です。<br>通勤途中の駅のホーム、職場でのすれ違い、友人の紹介、行きつけの店のカウンター、ご近所の犬の散歩コースなどなど。<br>人生とは、まるで終わりのないカメオ出演の連鎖。<br>誰かが誰かの背景に登場し、時に主役の座を奪い合う。<br>それはほんの刹那で、時間では測れないほどの短さだけれど、視線と視線がぶつかるその一瞬に、確かに何かが生まれている。<br> <br>まさに一目惚れ、ですね。<br>ちなみに、フランスでは“一目惚れ”のことを「クー・ド・フードル（coup de foudre）」と呼ぶそうです。<br>直訳すると「雷に打たれるような恋」。<br>あるいは「瞼が一度瞬く、そのわずかな間に落ちる恋」とも。<br>なんともエレガントで、ウィットに富んだ表現ではありませんか。<br> <br>恋というのは、意識的にはしませんよね。<br>「好きになろう」と思って好きになる人なんていません。<br>それはいつも、気がついたらすでに足を踏み入れている“物語の中”。<br>まるで、先に進んでしまった気持ちに、あとから心が追いついていくような。<br>そんな世界に惹かれるというのは、もしかしたら今の私はその物語の圏外にいる証かもしれませんね。<br> <br>日々、淡々と過ぎていく生活。<br>冷蔵庫の中の牛乳の賞味期限を気にする日常。<br>郵便受けに詰まったチラシの束。<br>同じような朝が来て、同じように日が暮れていく<br> <br>そうした毎日に、ふとした瞬間に、ドラマという名の彩りが恋しくなるのです。<br>誰かとすれ違ったその瞬間に「もしや」と思えるような高揚感。<br>それがあるからこそ、人は“生きている”と実感するのではないでしょうか。<br> <br>そう思うこの頃、私はそっとつぶやいています。<br>「劇場は、いつだって開かれている。しかもその舞台は、私自身が主役のステージ。そろそろ照明が点く頃だ。さあ、幕を上げよう。きっと、偶然という名の脚本家は、今夜もきっと、次の出会いの台本を書いているはずだから。」</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n9d92d9b9167f'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 15 Jul 2025 15:14:07 +0900</pubDate>
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    <item>
      <title>エッセイ『ほんとの鰻と昭和の母』</title>
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      <description><![CDATA[<p name="03844f62-0e58-4959-b187-44a8060d3996" id="03844f62-0e58-4959-b187-44a8060d3996">気持ちをスカッとさせたい。<br>なんというか、こう、胸の奥にたまったモヤモヤを、炭火の煙で一緒に燻して昇天させたいような気分になること、ありませんか？<br>そんなとき、私がふと足を運んでしまうのが「鰻屋」です。<br>とは言え、財布に優しくないのが、この鰻。<br>よくよく考えれば、昔の“ごちそう”が今では高級料理。<br>なので、迂闊にはお店には行けません。<br>そんなわけで、今回もお財布との相談の結果、いつものように中国産に落ち着いたわけです。<br><br>でもまあ、たま〜に無性に食べたくなるんですよ。<br>まるで吉野家の牛丼のように。<br>あの、急にスイッチが入ったかのような「いま、食べなきゃ！」という衝動。<br>いや、牛丼と鰻を一緒にするなと怒られそうですが、食欲のスイッチは時に理性を飛び越えます。<br>で、いざ食べてみると、これがなかなかどうして、イケる。<br>中国産だって、ちゃんと鰻。充分、充分。<br>「おまえは誰だ」と尋ねたら、ちゃんと「鰻です」と名乗れる資格はある。<br>まあ、当たり前ですね。<br>ところで昔からの言い伝え。<br>「鰻に梅干しはあたる」と。<br>まるでロミオとジュリエットのように、出会ってはいけない運命？<br>本当にそうなのか、試してみようかと思ったことはありませんが。<br> <br>以前「ほんとの鰻」を食べたことがあります。<br>中国産も“本当の鰻”なんですが、ここで言う「ほんとの鰻」とは、そう、“国産”のやつ。<br>ブランド鰻。高嶺の花。あれはもう、別格でした。<br>ふっくらとして、皮まで柔らかく、炭の香りが鼻腔をくすぐる。<br>その場の空気すらご馳走の一部になる、あの至福。<br>そして、あのタレ。<br>甘くて、少し焦げてて、米粒一つ一つに絡んでくるあの味。<br>肝吸いを啜りながら、思わず「生きていて良かった」と心の中で呟いてしまいます。<br>「これは、ほんとの鰻だ」と、思わず口に出したとき、ふと、あの詩がよぎりました。<br>智恵子抄の智恵子みたいに、<br>「東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいという。阿多多羅山の山の上に、毎日出ている青い空が智恵子のほんとの空だという。」<br>そんな感じでしょうか。<br>つまり、私は鰻にほんとの空を見ていたのです。<br> <br>しかし、「ほんとの鰻」は高い。<br>気軽には食べられません。<br>まるで昔の初恋の人のように、会いたくても簡単には会えない存在。<br>だから、私は中国産で充分幸せ。<br><br>それにしても、思い出すのは子供の頃の晩御飯。<br>「うまくないなあ〜」なんて口走ろうものなら、すかさず母親が言われたものです。<br>「腹が減ってないからだ」<br>ごもっとも。<br> <br>いま思えば、あれもまた、食育の一環だったのでしょう。<br>飽食の時代に生きる今、私たちは“贅沢の味覚”を持ちすぎたのかもしれません。<br>いや、間違いなく贅沢になった。<br>食卓に鰻はなくても、貧しいながらにも、小皿の上の総菜に小さな感動や、ちょっとした発見があるなら、それはもう立派な“ほんとの味”なんだと思うのです。<br> <br>夕暮れになると、どこかの台所で、鍋がコトコト音を立てている。<br>その湯気の向こうに、亡くなった母親の笑顔が見えるような気がします。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/nfa9db637cb3c'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 15 Jul 2025 15:07:36 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「夏の匂いと、君の声」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="a573c2ea-e94a-45ab-b76f-c450fbfa460f" id="a573c2ea-e94a-45ab-b76f-c450fbfa460f">窓の外で、雨が降っている。<br>目を閉じたまま、聡は雨の音を聞いていた。<br>柔らかな雨音は遠い記憶の中に沈み込んでいった。<br>微かに草の匂いがする。雨に濡れた木々の匂い。<br>葉の緑が風に揺れるたびに、鮮やかな光を放つ。<br>それは確かに、あの夏の午後の匂いだ。<br> <br>「聡、窓、閉めて」<br>耳元の声で目が覚めた。<br> <br>しかし、目を開けると、見慣れた白い天井があった。<br>心電図モニターの電子音が規則正しく響いている。<br>点滴の管が腕に刺さり、胸の奥には鈍く刺すような痛みが残っている。<br>そうだ、ここは病室だ。<br>ただそれだけを理解するまでに、少し時間がかかった。<br> <br>意識が朦朧とするたびに、あの部屋の記憶が押し寄せてくる。<br>十九歳の夏。<br>彼女のアパートの窓辺。<br>林の緑が風に揺れ、淡いピンクのカーテンがふわりと膨らむ。<br>どこかで鳥が鳴き、柔らかな陽射しがベッドに差し込んでいる。<br>彼女は窓際に立ち、白いシャツを着たまま振り返って、微笑んだ。<br>「聡、ほら、雨、降ってきたよ」<br>夕立のような激しい雨音が遠くのほうから急速に近づいてくる。<br> <br>次の瞬間、現実が割り込んでくる。<br>麻酔が切れてきた。<br>激しい痛み。<br>喉は乾き、吐き気がこみ上げてくる。<br>聡はナースコールのボタンを探り、押そうとする。<br>けれど、その動きだけで、身体中に激痛が走った。<br>視界が滲み、再び意識が暗転していく。<br>誰かの足音が急に近づいて来る。<br> <br>「夢だったのか……」<br>次に目を覚ましたとき、そう呟いていた。<br>いつの間にか麻酔が効いている。<br>病室は静かだった。カーテンが僅かに揺れている。<br>どこかで誰かが小声で話している気配がしたが、すぐに遠のいた。<br>夢と記憶と現実の境界がもはや曖昧だった。<br>医者からは、すでに余命が少ないことを告げられていた。<br>膵臓がん、ステージ４、もう手術も、抗がん剤も限界だと。<br>激しい痛みと昏睡の狭間で漂ううちに、どこまでが現実がなのか、もう分からなくなっていた。<br> <br>「聡、また、寝てたの？」<br>聞き慣れた、あの声がした。<br>今度は目を閉じたまま、その声に耳をすませる。<br>彼女の声だ。<br>その響きが、胸の奥を震わせる。<br>愛おしくて、切なくて、甘く、苦しいほど懐かしい。<br>目を開ければ、彼女はいないだろう。<br>それは分かっている。<br>あの3年前の事故のことも、冷たくなった彼女の手のことも、全部覚えている。<br>けれど、それでも。<br> <br>聡は目を開けた。<br>窓の傍に、彼女がいた。<br>白いシャツを着て、素足のまま立ち、雨に濡れた木々を見ていた。<br>肩まで伸びた髪が、僅かに揺れる。<br>「……なんで？」<br>声にならない声が漏れる。<br>彼女が、振り返った。<br>「どうしてって顔してる。私が来ないわけないじゃない」<br>そう言って、彼女は微笑んだ。<br> <br>それは、十九歳のあの午後と同じ笑顔だった。<br>激しい夕立、木々の匂い、窓から差し込む夏の光。<br>そして、彼女の存在、すべてが、記憶と同じだ。<br>「ねえ、聡。窓、閉めて」<br>聡は震える指で、ベッドの縁を掴んだ。<br>「夢……なのか？」<br>彼女は黙って、近づいてきた。<br>指先が頬に触れる。<br>体温が伝わる。<br>まるで、現実のように。<br> <br>「夢でも、現実でも、そんなの、どうでもいいじゃない」<br>耳元で囁く声が、甘く響く。<br>「大事なのは、今、ここにいるってこと」<br>「ねえ、聡。私ね。アフリカに行ってみたい」<br>「アフリカ？」<br>「海岸でライオンが寝てるらしいよ」<br>「ライオンが海岸で？」<br>「そうだよ。寝ているライオンを見てみたいんだ」<br>彼女は微笑んでいた。<br>聡はそんな海岸がアフリカにあるのだろうかと思った。<br> <br>また、激痛で目が覚める。<br>心電図モニターが信号のように点滅を繰り返す。<br>病室の天井を見つめながら、聡は小さく息を吐いた。<br> <br>彼女はもうこの世にいない。<br>でも、目を閉じれば、あの声が聞こえる。<br>そして、指先に彼女の体温が蘇る。<br>彼女と過ごした記憶だけは、どこまでも鮮明で、紛れのない現実だった。<br> <br>痛みが激しくなってきた。<br>ナースコールのボタンを握った。<br> <br>「聡、窓、閉めて」<br>耳元で、また彼女が囁く。<br>彼女の部屋に風が吹き込み、淡いピンクのカーテンが揺れる。<br>激しい夕立に叩かれた木々の匂いが部屋に広がった。<br>雲の切れ目から、夏の光がときおり、鮮やかに射し込む。<br> <br>そして、聡は静かに、目を閉じた。<br>そこには、白いシャツを着た彼女が窓際に立っている。<br>聡は後ろから彼女を抱き締めた。<br>「ねえ、聡。一緒にアフリカに行こうよ」<br>むせ返るような、夏の匂いの中に、彼女の甘い香りが風に舞っていた。<br> <br>病室では、医師が無言で聴診器を当て続けていた。<br>やがて、心電図モニターの静かな電子音が途切れた。<br>外では、雨が上がり、窓の外の葉が、陽射しを浴びて鮮やかに光っている。<br> <br>「聡、窓、閉めて！夕立が強くなってきたわ」</p><p name="42a73c71-0b13-45e7-84e3-7f18cb05d60e" id="42a73c71-0b13-45e7-84e3-7f18cb05d60e"><br></p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n3a06f4eeae62'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 05 Jul 2025 11:20:54 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「小さな花」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="7741e795-88bc-48ba-862d-6ee47a6749d7" id="7741e795-88bc-48ba-862d-6ee47a6749d7">舗道の脇に、名もない小さな花が三つ咲いていた。アスファルトのひび割れから顔を出し、風に揺れている。<br> <br>「ねえ、こんなところで一生を終えるなんて、つまらないと思わない？」<br>白い花がふいに口を開いた。<br>「私、ずっと思ってたの。こんな場所じゃなくて、もっと素敵なところで咲きたいって。たとえば……銀座の有名な花屋さん。お金持ちやモデルさんたちが出入りするショールームに飾られて、まるでステージでスポットライトを浴びてるみたい。そして、誰か素敵な人に選ばれて、豪華な部屋で最後まで大切にされて……そんな人生がいいなって」<br>白い花は夢見るように空を見上げる<br> <br>すると、隣の年長の赤い花が、ふっと笑った。<br>「そう思うのは、悪いことじゃないわ。でもね、それが本当の幸せかどうかは別よ」<br>白い花はえっと驚いて目を丸くした。<br>「だって、ここじゃ誰にも見られないわ。ただ、踏みつけられるか、風に揺れてるだけじゃない」<br> <br>赤い花は静かに言葉を続けた。<br>「ここには、自由があるわ。風が頬を撫で、お日様が私たちを優しく照らす。夜になれば星が瞬き、雨が降れば大地が潤う。そして、何より……あの紳士が通るじゃない」<br> <br>赤い花が振り返ると、舗道の向こうから、いつもの紳士が歩いてくるのが見えた。年のころは七十を越えているだろうか。背筋は伸び、瞳は穏やかで、いつも優しい微笑を湛えている。<br> <br>「私は、あの人の眼差しを見るたびに思うの。ここに生まれてよかったって」<br>「でも……銀座の花屋さんなら、もっと豪華で、もっとみんなに注目されて、美しさを保つ美容薬だってもらえるし、枯れずに長く生きられるのよ」<br>「ええ、確かにそう。でも聞いたことがあるわ。銀座のあのショールームの中では、花たちが見栄を張り合い、人を陥れるような噂話や争いが絶えないって。本当の幸せは、そういう場所にはないのよ」<br> <br>そのとき、紳士が二人の前で立ち止まった。<br>「まあ、なんて可憐なんだろう」<br>老眼鏡を直しながら、彼は白い花と赤い花を交互に見つめ、ふっと微笑んだ。<br>白い花は胸を高鳴らせた。いよいよ、夢が叶う時かもしれない。彼が摘み取って、連れていってくれるのかも、と。<br>だが、紳士はポケットからハンカチを取り出し、そっと地面のゴミを拾うと、何もせずにそのまま通り過ぎた。<br> <br>「どうして摘んでくれなかったの……」白い花が呟く。<br>「あなたはまだ知らないのね」赤い花が優しく言った。<br>「摘まれるというのは、終わりを意味するのよ。土から離れた花は、どれほど綺麗でも、いずれ枯れてしまう。私たちは根を張り、土と繋がり、風に吹かれ、太陽を浴びてこそ、生きていられるの。ここで咲き、ここで枯れる。それが、本当の意味で“生きる”ということよ」<br>白い花は、しばらく黙っていた。<br> <br>その後も紳士は毎日、二人の前を通った。時には立ち止まり、微笑み、時には静かに歩き去った。<br> <br>やがて、白い花は満開の時を迎えた。小さな体を空いっぱいに広げ、朝日に輝くその姿は、銀座の花屋にも負けないほど美しかった。<br>「ねえ、私……ここでよかったのかもしれない」<br>ある日、白い花はそう呟いた。<br> <br>赤い花は優しく頷いた。<br>「気づいたのね。誰かに見せるためじゃない。誰かと比べるためでもない。ただ、自然に自分のままで、風に揺れ、陽を浴びる。それでいいのよ。みんながみんな、自分の思うようには生きられないの。でも、自分の置かれた場所で幸せに生きることができるのが、それが本当の幸せなの」<br> <br>季節が巡り、二人の花はやがて枯れ、種となり、大地に還った。<br> <br>次の春、また同じ場所に、小さな芽が顔を出した。<br>その隣で、年老いた紳士がふと立ち止まり、微笑んだ。<br>「また、君たちに会えたね」<br>二人は風に揺れ、静かに、幸せそうに微笑んでいた。<br> </p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/nb5a567c829e5'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Mon, 23 Jun 2025 18:46:17 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「口説くには早すぎるが、黙るには遅すぎる」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="b71c9da3-b7ea-4c80-9f3f-04eb7acd18b4" id="b71c9da3-b7ea-4c80-9f3f-04eb7acd18b4"><br></p><p name="6643c90f-7451-4cf6-9004-ff1f921fbd70" id="6643c90f-7451-4cf6-9004-ff1f921fbd70"><strong>第1章：口説くには早すぎるけど、黙るには遅すぎる</strong><br><strong>都内のとあるホテルのバー「Bar Lune」午後4時前。</strong><br><strong>まだ明るいが、照明はすでに夜の顔。静かなジャズが流れている。</strong></p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n7449dd09b41d'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/232930619/profile_a4fc8dfcb62229e88b9d321757d462a6.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Wed, 18 Jun 2025 16:37:47 +0900</pubDate>
      <link>https://note.com/gufi/n/n7449dd09b41d</link>
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      <title>短編小説「妖精がくれた夜の箱」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="5abcd32a-1d4b-439b-860c-73efcd6f9635" id="5abcd32a-1d4b-439b-860c-73efcd6f9635"><br></p><p name="eafdb640-7a27-46b8-8ddb-ea5b6657c226" id="eafdb640-7a27-46b8-8ddb-ea5b6657c226">第1章     5月の森と目の見えぬ少女<br>森の奥に樫の木々に囲まれた小さな小屋に、盲目の少女リセは母とふたりで暮らしていた。きこりの父は数年前、倒木の下敷きになって亡くなり、それ以来、母は森から離れず、少女を守りながら静かに日々を送っていた。<br>リセの瞳は何も映さない。けれど彼女は森のすべてを知っていた。風の匂い、土の湿り気、小鳥たちのさえずりやリスの笑い声までが、彼女には語りかけてくる。それは動物たちの言葉がリセにはわかるから。<br> <br>そんなある日、五月の風が森をくすぐるように吹いた昼下がり、リセは牧場の柵のそばでひとりの少年と出会う。彼の名はレオン。羊飼いで、まだ年若く澄んだ声を持っていた。<br>「君、よくここに来るの？」<br>リセは顔を上げ、風に乗ってくる彼の声を確かめた。<br>「……ええ。羊たちの鈴の音が好きなの。」<br>レオンは不思議そうに彼女を見つめた。<br>少女の瞳は白く濁っていたが、その穏やかな微笑みに、言い知れぬ温もりを感じた。<br>「でも、こんな私でもいいのかしら？」<br>そんな不安を抱きながら。<br>やがて、何度か言葉を交わすうちに、彼は彼女と会う時間を心待ちにするようになった。<br> <br>そんなある日、リセは枝の上の鳥たちと戯れていた。小さな囀りが笑い声のように空に舞っていた。だが、突如として空が裂けた。鋭い羽音とともに、一羽の鷲が現れ、鳥たちに襲いかかったのだ。<br>「逃げて――！」<br>リセは足元の小石を手に取り、音のする方へ全力で投げつけた。鷲は驚いたのか、翼を広げて空へと舞い戻っていった。<br>その様子を、木陰からレオンは見ていた。驚きとともに、彼の胸に確かなひとつの感情が芽生える。目の見えぬ少女が、森の誰よりも強く優しいという事実に、心を揺さぶられたのだった。そして、こうした感情が何なのか、まだわからなかった。<br> <br>第2章     妖精の小さな箱<br>リセは心の奥にレオンへの想いを育てていた。声が近づけば心が晴れやかになり、彼の笑い声が空気を震わせるたび、目が見えずとも明るい色彩が胸に広がった。<br>けれど、ある日、彼の態度が微かに変わったのを感じた。<br>「……レオン、何かあったの？」<br>問いかけても、彼は「ううん、なんでもない」と答えるだけだった。<br>だがそれは、彼がリセの目が見えないことに初めて気づいた日から始まっていた。森の中で手を引こうとして、彼女がそれに気づかず立ち止まったとき――その瞬間、彼の中で何かが揺らいだ。<br>「自分の言葉や表情は、彼女に届いているのだろうか？」<br>そんな問いが彼の心に陰を落とした。<br>それを悟ったリセの心はひどく痛んだ。彼の声が少し遠くなるたびに、心がちくりと裂けた。<br>「目の見えない私は愛される資格はないのかしら？」<br>そしてある夜、涙が止まらなくなった彼女は、森の奥の静かな湖へと歩いていった。<br> <br>湖面に月が浮かんでいた。風もなく、鳥も鳴かない。ひとり、湖の縁に膝をついたとき、月面から光が揺らめいて現れた。<br>「そんなに哀しい顔をして、どうしたの？」<br>声は柔らかく、それでいてどこか懐かしい。リセが顔を上げると、そこには月明かりに包まれた妖精が立っていた。<br>「私はただ……はじめて人を好きになって、怖くなったの。」<br>彼女は小さく微笑み、小さな箱を差し出した。<br>「これを持っていて。今夜のように心が凍えたら、開けてごらん。」<br>そして、ふわりと風が吹いたとき、もうそこに姿はなかった。<br><strong> </strong><br>第3章　青いブローチ、そして、<br>それから幾日が過ぎた。<br>リセはその箱を開けることもなく、ただ静かに日々を過ごしていた。外を歩けば風がレオンの声を思い出させ、羊の鈴の音が胸を締めつけるから。だから彼女は森にとどまり、音の少ない時間を選び、そっと暮らしていた。<br> <br>けれど、ある朝――。<br>五月の光が森を染めるころ、彼女はなぜかふらりと牧場の近くの道を歩いていた。胸の奥で、なにかが囁いていた。<br>そのときだった。<br>チリン……チリン……<br>あの鈴の音が風に乗って聞こえてきた。あまりにも懐かしく、切なく、心の奥に触れてくる。<br>「……レオン？」<br>声が漏れた瞬間、足音がぴたりと止まる。<br>「リセ……ひさしぶり。」<br>少年の声は以前よりかすかに震えていた。優しさと後悔が入り混じる、そんな響きだった。<br>「元気だった？」<br>笑おうとした唇がわずかに震えるだけだった。<br>ふたりの間に流れる空気が軋むように感じられた。<br>「……ごめん。僕は、君の目が見えないってことに、どう向き合えばいいか分からなかったんだ……怖かったんだ。」<br>リセはただ、風の音に耳をすませていた。<br>やがて、彼女は静かに踵を返し、何も言わず家に戻った。<br> <br>その夜、リセはようやく小さな箱を取り出した。月の光が窓から差し込み、部屋が淡い銀色に包まれる。ゆっくりと蓋を開けると、風が舞い込んできた。<br>壁が震え、部屋が透明になり、目の前に湖が広がった。そこに、あの妖精が再び現れていた。<br>「……また会えたね、リセ。」<br>「……私はもう、何も願わないつもりだったの。」<br>妖精は首を振り、そっと微笑んだ。<br>「けれどあなたは心のどこかで、まだ問いを持っている。愛って、何だろうって。」<br>リセはうなずくかわりに、ただ黙っていた。<br> <br>すると、妖精はリセの手を取って、月の光をかざした。<br>空気が揺れ、光の粒が舞い始めた。<br>気が付くと、リセの手の上に小さな青いブローチが現れた。<br><br>そのブローチの中で、羊飼いの少年と、目の見えぬ少女は、森の中で寄り添い、互いの愛を確かめ合うように向かい合って、微笑んでいた。<br>「これは……？」<br>「あなたが感じたすべての愛と心の傷、それがこの形になったの。そして、これはあなたが、これからどんな愛を選ぶかを教える“窓”になるわ。」<br>「……選ぶ？」<br>「愛は、与えられるものじゃなく、選び続けるもの。見返りも保証もなくても、それでも信じたいと願う心。その心の痛みも、すべてがあなたの光になるから。これを忘れないでね。」<br>リセは、指でブローチをなぞって、自分の微笑に触れた。涙が、ひとしずく頬を伝った。<br>「私は……レオンを愛している。でも今、私はこのブローチの中の自分をもっと愛している。」<br>妖精は嬉しそうな表情を浮かべると姿を消していった。<br> <br>翌朝早く、リセは外に出た。森の葉は陽の光を浴びてきらめき、風が頬を撫でる。<br>そして、聞きなれた鈴の音が再び近づいてきた。<br><br>「リセ！」<br>レオンだった。息を切らしながら駆け寄ってきた。<br>「もう一度だけ、話がしたい。君に……伝えたいことがある。」<br>リセは少し考えて、ゆっくりとうなずいた。<br>「なら、今度は私の心の声も聞いて。私の愛を。」<br>レオンは深くうなずいた。<br>ふたりは並んで座った。<br> <br>目に見えなくても、リセは彼の震える気持ちを、風の中で感じていた。<br>愛は目に見える形じゃない。<br>それは姿でも、目に見える言葉でもない。<br>それは誰かの孤独に触れ、なお離れずにそばにいること。<br>そして、もし去っても、許し、祈り、灯を絶やさぬこと。<br> <br>そうして、少女の心には、新しい風が吹いた。<br>それは、心の奥に静かに種を蒔き、いつかどこかで花開く、ひとつの“愛のはじまり”だった。</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n1eb19a4ed29a'>続きをみる</a>]]></description>
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      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Sat, 14 Jun 2025 17:12:18 +0900</pubDate>
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      <title>短編小説「雨の向こうに、きみがいる」</title>
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      <description><![CDATA[<p name="c10d285f-d8b5-41d0-b721-390e62a70fbe" id="c10d285f-d8b5-41d0-b721-390e62a70fbe">六月の終わり、渋谷の交差点。<br>夕方五時、傘を持たずに家を出たことを後悔しながら、優は駅前のコンビニに駆け込んだ。急な雨だった。梅雨とは名ばかりの、嵐に近い濡れ方に、足元はすっかりびしょ濡れだ。<br>ビニール傘を買おうとしてレジに並ぶと、隣の列に彼女がいた。<br>長い黒髪。白いブラウスに、黒のロングスカート。どこか儚げな雰囲気だった。<br>見覚えがあった。大学の講義で何度か見かけたことのある人だ。だが、話したことはなかった。<br>彼女も優に気づいたようで、微かに目を細めて笑った。<br><br>「……傘、買うの？」<br>「うん。持ってくるの忘れて」<br>「よかったら、一緒に入る？」<br>彼女が差し出したのは、一本の折りたたみ傘。濡れるのを覚悟していた優にとって、それはまるで魔法のような言葉だった。<br>名前は七瀬澪（ななせ・みお）。文学部で、詩を専攻しているという。<br>「詩なんて、今どき流行らないよね」と彼女は恥じらうように笑う。<br>その声は、雨音に溶け込むように優しく、耳に心地よかった。<br><br>二人は、無言のまま歩いたり、ときどき、たわいのない会話を交わしたりしながら、駅から少し離れた並木道まで来た。そこには、彼女のお気に入りのカフェがあるらしい。<br>「ここ、あんまり知られてないけど、静かでいいの」<br>レトロな雰囲気の小さな店。店内には古いジャズが静かに流れている。<br>カフェラテを頼み、温もりのある木目のテーブル席につくと、彼女は小さな手帳を鞄から取り出した。古びた革のカバー。開くと、びっしりと文字が並んでいた。<br><br>「詩を、書いてるんだ」<br>そう言って見せてくれたページには好きな人を想う言葉が、繊細な筆致で綴られていた。<br>「好きな人がいるんだね？」と優が尋ねると、彼女は少しだけ視線を伏せた。<br>「……たぶん、そうだった。もう、いないけど」<br>その瞳に、辛い過去の痛みのような、淡い影が射した。<br><br>しばらく黙っていた彼女は、ふと何かを思い出したように、優に向き直った。<br>「ねえ、優くん。……夢、見ることってある？」<br>「夢？」<br>「現実じゃありえないような、でも確かに皮膚感覚で感じるような、そんな夢。たとえば、何年も前に出逢ったはずの人なのに、今、初めて会ったような気がしたり。これも夢の一つかしら」<br>優は一瞬、答えに詰まった。今、優が彼女に感じたのも「デジャヴュ」だったから。<br>ただの大学の顔見知り、そう簡単に割り切れるような感覚ではなかった。<br>「.....あるよ。たまに、誰かとすれ違った時に、不思議な感覚になることも」<br>「私もそうなの。今日も、そうだったの」<br>彼女は言った。<br>「あなたと傘に入った瞬間、あ、また逢えたって思った」<br>胸の奥が熱くなった。雨音が遠ざかって、時間がふと止まった。<br><br>その後も二人は、何度か逢った。それも決まって雨の日に。<br>あのカフェで、大学の中庭で、書店で。<br>いつも彼女は、どこかからふらりと現れて、優と話し、そしていつの間にか帰っていった。<br>七月の終わり。優はようやく勇気を出して聞いた。<br>「澪って、いつも突然現れて、すぐにいなくなるよね。……電話番号、教えてもらってもいい？」<br>澪は少し困ったように笑った。そして言った。<br>「……ごめんね。スマホ持ってないの」<br>「え？」<br>「それにこの世界じゃ、きっと繋がらないから」<br>意味がわからなかった。けれど、彼女は続けた。<br>「でも、また逢えるよ。雨の日には、きっと」<br><br>その翌週から、優は彼女に逢えなくなった。<br>雨の日も、晴れの日も、どこを探しても澪の姿はなかった。<br>大学にも、名前の登録がないと言われた。<br>けれど、優は信じている。<br>カフェで彼女が書き残した詩の最後の行が、今も心に残っているからだ。</p><p name="53fc9673-b208-4f34-97d2-faacc3abddc5" id="53fc9673-b208-4f34-97d2-faacc3abddc5">「雨の向こうに、きみがいる。その夢は、きっと幻じゃないわ」</p><br/><a href='https://note.com/gufi/n/n8613af41a7b6'>続きをみる</a>]]></description>
      <note:creatorImage>https://assets.st-note.com/production/uploads/images/232930619/profile_a4fc8dfcb62229e88b9d321757d462a6.png?fit=bounds&amp;format=jpeg&amp;quality=85&amp;width=330</note:creatorImage>
      <note:creatorName> レイニーブルー / Nocturne Blue  ―  </note:creatorName>
      <pubDate>Tue, 20 May 2025 17:54:24 +0900</pubDate>
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