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maemochi
【短編小説】おばあちゃんのミカン
冬になると、決まっておばあちゃんの家にミカンが届いた。
段ボールいっぱいの温州ミカンは、甘くて、ちょっとだけ酸っぱい。
子どもの頃、それが楽しみで仕方なかった。
おばあちゃんは無口だけど、手紙をよくくれた。
「風邪ひいてない? ミカン食べなさいね」
震えるような文字で、ひらがなだらけの手紙が、箱のすみっこにそっと入っていた。
大学進学を機に、実家を離れ、ミカンの季節も気にしなくなっていた。
就職してからは、連絡さえろくにしなくなっていた。
ある冬、実家に帰ると、母がミカンの箱を見せてくれた。
「今年も届いたよ。おばあちゃん、入院してるのにね。」
え? 入院?
母は続けた。
「自分で箱詰めできないからって、農家の人に頼んだんだって。あの人らしいよね。」
箱の中には、いつも通りの甘いミカンと、少し歪んだ手紙があった。
「〇〇ちゃん、元気ですか。
ミカン、すっぱいのがあったらごめんね。
来年は自分で箱詰めしたいなあ。」
涙が止まらなかった。
小さな段ボールに詰まっていたのは、果物じゃなかった。
たくさんの愛だったんだ。
おばあちゃんは、その冬、静かに旅立った。
ミカンの匂いだけが、部屋に残った。
あれから数年が経った。
今年もミカンを注文した。
あの味に、少しでも近づきたくて。
ミカンを食べながら、あの手紙を思い出す。
「来年は自分で箱詰めしたいなあ。」
——きっと、今も天国でそう思ってくれている。
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