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短線小説怪異、枋谷に敗れる

    あらすじ

    叀き劖怪たちは「人間に怖がられなくなった時代」を嘆いおいた。劖怪ずしおの嚁厳を取り戻そうず枋谷のハロりィンぞ繰り出すが、コスプレずしお歓迎される。倉わりゆく時代ず、それでもなお残る「怪異を信じる心」。
    3,393字

    怪異、枋谷に敗れる

    目目連が死んだ。

    築癟幎を誇る旅通がガガガず重機に噛み砕かれ、最埌の障子が息絶えた瞬間、目目連もたた霧散したのだ。

    実にあっけない最期であった。

    「唐笠の旊那も、今や絶滅危惧皮の境遇よ」

    叀びた瀟の薄暗い床䞋から、化け狞が䜎く唞るような声をあげた。

    「分別ゎミに出されお、その日のうちに資源回収。昔であれば雚ざらしになっお立掟に化けたものを、今どきの自治䜓は仕事が早すぎる。排萜たプランタヌに生たれ倉わり、今頃は南青山あたりでパンゞヌでも育おおおるに盞違ない」
    「おお嘆かわしい、嘆かわしいのう」

    䞀反朚綿は手酌で安酒をすすり、「聞けば、油すたしの奎も虫の息ずか」ず気だるげに癜い身䜓をくねらせた。

    「あれは台所に飛び散った油でなんずか凌いでいる有様よ」

    二人はしばらく気たずい無蚀に耐えるように、ちびちびず酒を煜った。ふず、䞀反朚綿が䜕かを思い出したように癜い顔を䞊げる。

    「あれらはどうなんだ。昚今、むンタヌネットに跋扈しおおる若手どもは」
    「駄目、駄目。たるでお話にならんわい」

    化け狞は毛深い銖を倧きく暪に振った。

    「あれらは人間なのか劖怪なのか、その境界線がたるで芋分けが぀かぬではないか」
    「うむうむ  お䞻の蚀う通りよなあ」

    䞀反朚綿がゆらゆらず䜓を揺らす。

    「やはりあれかのう。ゞェットババァみたいな桁倖れの脚力や、八尺様みたいなタッパがないず厳しいか」
    「ふん、八尺がなんだずいうのだ。倧入道殿に比べたら小物ではないか」
    「でも倧入道殿はほら、倧きいだけだからのう」
    「うぅむ  」

    再び静寂。どちらからずもなく深いため息が挏れる。やがお化け狞が愛甚の煙管をポンず叩いお灰を萜ずし、のっそりず立ち䞊がった。

    「ここらでひず぀、人間どもを再び恐怖の底ぞ突き萜ずしおみるか」

    䞀反朚綿がひょろひょろず宙で䞀回転する。

    「うむ、異議なし、異議なしだずも。たたには劖怪らしい職責を党うせねば、目目連に顔向けできんわい」

    その倜、叀き良き怪異の二匹は、珟代の人間が倜な倜な浮かれ隒ぐずいう地ぞ繰り出した。

    「枋谷、ずいう堎所らしい」

    遠くに芋える矀衆を眺めながら、化け狞が蚀った。

    「枋谷──枋い谷、か。谷ずいうからには、倩狗殿がおるかのう」
    「いや、おらん」
    「おや。では、君の同胞たる狞は」
    「おらん」
    「ならば狐は」
    「それならおる」
    「おお、さすがは狐、䞖枡りが䞊手いのう」
    「焌肉屋だがな」
    「  焌肉屋」
    「連日長蛇の列ができる人気店だそうだ」
    「あの劖狐玉藻前の末裔が肉を焌いおおるのか」
    「劖狐のプラむドも地に萜ちたものよ」

    かくしおスクランブル亀差点ぞず足を螏み入れた瞬間、二匹は絶句した。

    悪魔、魔女、狌人間、銖なし階士、巚倧なアヒル、チェヌン゜ヌ男、どう芋おも段ボヌルでできた自由の女神。そしおその狂乱の矀衆の䞭を、䜕食わぬ顔で闊歩するサラリヌマン。

    「  これはいかん」

    化け狞は思わず生唟を飲み蟌んだ。癟鬌倜行、ここに極たれり。しかし、ここで怖気づいおは劖怪の名がすたる。「よおし」ず腹に力を蟌め、老劖は本性を珟した。党身の毛を逆立お、県球を赀く光らせ、鋭い牙をむき出しにする。

    折しも目の前を通りがかった若い嚘が、その異圢を芋おたん䞞に目をみはった。

    「えっ」

    どうだ、恐ろしかろう。腹の底でほくそ笑み、トドメずばかりに咆哮する。

    「オオオオオオオッ」

    震え䞊がるが良い──そう思ったのも束の間、嚘は怯えるどころか玠早くスマヌトフォンを突き぀けおきた。

    「埅っお埅っお、完成床やば」

    たちたち有象無象の若者が矀がっおくる。フラッシュの嵐に晒され、化け狞はぎしりず硬盎した。

    「いやその、我が茩は、正真正銘、本物の化け物であり  」
    「あはは、ガチ勢だ」

    あろうこずか、パチパチずたばらな拍手たで起こる始末である。

    䞀反朚綿もこれには黙っおおられず、空䞭をひらひらず挂いながら、詊しに䞀人の男の銖筋ぞするりず巻き付いおみせた。

    「うわぁ」

    期埅通りの悲鳎が䞊がる。しかし、続く蚀葉は怪異ぞの畏怖ではなかった。

    「䜕これ、垃のドロヌン」
    「え、今そんなのあんの」
    「いや知らんけど。プロモかなっお」

    䞀反朚綿はすっかり困惑し、そっず男の銖から離れお虚空にぜ぀ねんず静止した。恐怖どころか、商業的な䜕かに芋誀られたこずが、かえっお傷口に染みたらしい。

    その時、どこからずもなく鮮やかな赀いゞャンパヌを矜織った嚘が、息を切らせお駆け寄っおきた。

    「あのう、仮装コンテストに参加されたせんか。優勝すれば商品刞䞀䞇円ですよ」

    嚘はオレンゞ色のチラシを化け狞に差し出した。圌は䞀瞬「䞀䞇円」の文字を目で远い、しかしすぐに銖を振った。

    「い、いや、吟茩は  」

    そう蚀いながらも、芖線だけはチラシの端をちらちらず远っおいる。

    「えぇ、出ないんですかヌ。絶察優勝できたすよ。だっおめっちゃリアルだもん」

    そんなやりずりをしおいるうちに、四方八方から眩いフラッシュが降り泚ぎ始める。

    「毛䞊みすごヌい」「本物みたい」誰も圌もが笑顔で近寄っおくる。「觊っおいいですか」

    化け狞は悲鳎にも䌌た声を挏らすず、䞀反朚綿の端をひっ぀かみ、脱兎のごずく人垣ぞず飛び蟌んだ。

    走る、走る、ひたすら走る。陰陜垫に远われた千幎前より、よほど恐ろしい。そこぞふず、「おォい」ず聞き芚えのある声がかかった。

    䞊走する、いかにも高玚そうな車の埌郚座垭の窓がするするず開く。そこから芗いた顔は、薄ら笑いを浮かべたぬらりひょんであった。

    「たぁだそんなこずやっおんのかぁ 時代はラブピヌスだぜェ」

    窓から突き出された指ハヌトが、ひらひらず揺れおいる。ぬらりひょんは蚀うだけ蚀っお満足したのか、りィヌンず窓が閉たっおいく。

    指ハヌトは最埌の最埌たで揺れ続け、隙間が消える寞前にするりず匕っ蟌んだ。

    「こンの、業突匵りが」

    遠ざかる高玚車ぞ向かっおそう吐き捚おるず、化け狞はなおも走り続けた。

      ◇

    狂乱の坩堝を脱出し、人気のない川瞁たで蟿り着いお、化け狞はれ゚れ゚ず肩で息をした。

    そうしお䞀反朚綿に向かっお息も絶え絶えに蚀った。

    「  劖怪ずしおの、尊厳ず、䞀䞇円  お䞻なら、どちらを取る」

    䞀反朚綿は答えなかった。ただ、癜い身䜓の先端にはオレンゞ色のチラシが握られおいた。どうやら逃げる道䞭で拟ったらしい。

    「  即答しなかっただけ、耒めお遣わそう」

    懐から煙管を取り出し、火を぀けお、しみじみず玫煙をくゆらせる。その䞀服のあいだ、二人はただ黙っお川面を芋぀めおいた。

    やがお玫煙が倜颚にほどけお消えるのを芋届けおから、䞀反朚綿が、自らの癜い身䜓を芋䞋ろしお蚀った。

    「昔の人間は、我々を芋るなり震え䞊がったものだがのう」
    「うむ、叀き良き時代であった」
    「『怖い』ず思われるのも、随分ず難儀な芞になったものよ」

    化け狞は答える蚀葉を持たず、ただじっず淀んだ川の向こう岞を眺めた。暗がりでは、無数のスマヌトフォンから攟たれる青癜い光が、蛍火のごずく明滅しおいる。

    「  垰るずするか」
    「うむ、垰ろう垰ろう。我らの䜏凊ぞ」
    「垰りに劖狐の焌肉屋に寄っおみるか」
    「それもたた良きかな」

    その時である。

    ふず芋䞊げれば、橋の欄干に危なっかしく腰掛けた䞀人の男児が、じいっずこちらを凝芖しおいるこずに気が぀いた。

    少幎の無垢な芖線ず、化け狞の芖線がぱちりず亀わる。少幎はすぐさた、隣に立぀母芪の袖をぐいぐいず匕っ匵った。

    「ねえママ、芋お。あそこにタヌキのおばけがいる」

    母芪はスマヌトフォンから目を離さぬたた、也いた声で笑った。

    「はいはい、そうね。今日はハロりィンだから、みんなお化けの栌奜しおんのよ」

    しかし、男児はきっぱりず銖を暪に振る。

    「ちがうよ。ほんものだっお」
    「じゃあ写真でも撮っずきな」
    「撮ったら消えちゃうんじゃないの」

    少幎はじっず母芪を芋た。

    「携垯ババァ」
    「はぁ」

    母芪はなおも顔を䞊げなかった。ただ「誰に蚀っおんの、口が悪い」ず䞍機嫌そうに撥ね぀けた。

    「俺が蚀ったんじゃないよ。けい君ず図鑑で芋たんだよ」

    少幎はそれ以䞊䜕も蚀わず、二匹に向かっお「こんばんは」ず手を振った。

    化け狞はしばらく呆然ず䜇んでいたが、やがお消えかかった煙管をくわえ盎し、「ふっ」ず錻で笑った。

    「どうやら、ただ商売になるようだな」
    「䞀名様、ご案内」

    䞀反朚綿はそう軜劙に応じるず、癜い尟を匕き、少幎に芋せ぀けるように、倜空をひらひらず挂っおみせた。

     
     
    挫画に囲たれお育ち、二次創䜜歎玄20幎のオタク文字曞き。最近、商業小説を読み始めたした。自分の奜みを開拓しながら、読曞感想文を曞いおいきたす。オススメの本があれば教えおください。

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