
この世はカップル動物園
「今度あの映画観よ!」
エスカレーターでスーパーの地下に降りている途中、前にいるカップルの女が男に上目遣いで言う。
別の日。青果コーナーで野菜の高いことを嘆き、どうしたものかと顎をさすっていると、向こうの方でカップルが、「あ!いちごの匂いがする~」「いい匂いだね」と旬なネタで盛り上がっている。
また別の日。家に帰って食べる物を物色中のカップルがおり、彼女が「これにするー!」と弁当か何かを手に取って言うと、彼氏が
「それだけで本当に足りるの? ○○(彼女の名)は大食いなんだから...」
と侮辱しているのか、心配しているのかよくわからぬテンションで問いかけていた。
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あの......家でやってもらってよろしいか?
女性に縁がないのは私のせいだが、だとしてもこうして幸せなリア充のプライベートを一方的に見せつけられねばならぬ筋合いはないはずである。一体、何の罰なのだ。
カップルは私の前に姿を現すな、と言っても叶わぬが、せめて互いにしか聞こえぬよう会話してもらえるかね。私が君らの方に接近して聞こえたというレベルの話ではないのだよ。
と言ってもそれが出来れば、最初から赤の他人に聞かれて恥ずかしい、プライベートな会話を公然と垂れ流してはいないわけで、土台無理な話である。私もそんな風に二人だけの世界に没入してみたい。あぁ、私のかわいい彼女はいずこ...
こうなるともう頼りは科学しかない。世の電機メーカーは喫緊の課題として、カップルの痴話ばなしを検知・遮断してくれる“カップルノイズキャンセリングヘッドフォン”の開発に全力を捧げて欲しい。
実際問題、1対1の男女間で構成される会話を感知し、それがノロケたトーンであるかを検出するだけである。Shazam(注:外で流れている曲を一部分聞かせ、何の曲か特定するアプリ)があんなに簡単に曲を特定出来て、これが格別難しいとは思えない。
もしそんなヘッドフォンが出来れば、飛ぶように売れると保証するが、まったくそんな兆しは見られない。私がエンジニアであれば自主開発するのはもちろん、ベゾスやマスクならとっくに莫大な投資をしている。
トンボでさえがつがいとなって、私のすぐ目の前を鬱陶しく飛んで行く。虫にまで煽られ嘲笑されているようで、延々と罵声を浴びせたいほど腹が立つ。
腹が立つと言えば良い年の夫婦が、スーパーの通路で距離を取って練り歩き、アレが切れた、コレ買っとこうなどと大声でやり取りしているのも腹が立つ。ここは貴様らの家ではないと叱りつけてやりたくて仕方ない。
言ってわかる頭は持ち合わせていないから諦めて立ち去るしかないが、こうしたまるで自分の家の中にいるかのような振る舞いの恥知らずは観光地でもしばしば現れ、旅情というものが一瞬で台無しである。
しかし私として目下の問題は、カップルに幸せなサマを露出され、嫌が応なく恨み、妬み、嫉みの負の三大感情を掻き立てられることの方にある。彼女が欲しくてそれが叶わないにしても、そうしたカップルさえ目に触れなければ、私の心はもう少し平穏だったはずなのだ。
公然猥褻罪ならぬ、公然リア充罪を制定して欲しいぐらいだが、そんな刑法が出来ればカップルは片っ端からしょっ引かれ、近未来ディストピア小説的展開となり、そんなことはまずありえないので、私のような独り身の者はこれからも目の前に現れたカップルの生態を、指を咥えて観察するしかないのだ。
この世はカップル動物園。
追伸、最新のカップルノイズを紹介すると、「あ!きのこのお惣菜があるよぉ!」という女子の無邪気な発言があった。ここまで来ると男としては流石に気恥ずかしいというか鬱陶しいだろうと、痛々しく感じてしまった。私はそうした感情と無縁で良かったと胸を撫で下ろし、安らかに床に就いたのであった。
......いいや?!全然羨ましいが?!!(覚醒)