
この星が、好きなのだ「ゼットンはウルトラマンになりたかった」最終話
静寂だった。
爆炎が消え、煙が晴れ、破壊された大都市にわずかな風が吹いた。
ウルトラセブンは地面に倒れたまま、眼前の光景を見つめていた。
ネオ宇宙怪獣軍団は、もういない。
空は、まだ赤い。しかし血のような禍々しさは失われ、どこか薄く、夜明け前の色に近づいていた。
ゼットンはゆっくりとセブンに近づいた。
歩くたびに地が揺れる。しかし、その歩みは静かだった。威圧ではなく、ただ静かに、近づいてくる。
セブンは動けなかった。エネルギーが尽きていた。ビームランプは完全に消え、カラータイマーも沈黙している。
それでも、目だけは開いていた。
ゼットンが、すぐそこに立った。
見上げれば、あの黒と白の甲殻。あの異形の顔。かつてウルトラマンを——自分の兄弟を——葬り去った、最強の宇宙恐竜。
セブンはゆっくりと口を開いた。
「な、なぜ……そこまでして」
声が掠れた。
「仲間を……裏切ってまで、あなたは……なぜ、ここに来たのか」
ゼットンは答えなかった。
しばらくの間、ただそこに立っていた。
胸の発光体が、ピコン、と一度だけ、静かに光った。
それから、ゼットンは空を見上げた。
赤い空の向こう、薄く透けはじめた夜明けの色を、じっと見つめた。
「私は……」
電子音が、低く、ゆっくりと響いた。
「この青い……地球が、好きなのだ」
セブンは息を呑んだ。
「人も、やさしく……」
ゼットンの声は、うまく続かなかった。言葉を持たない生き物が、言葉を絞り出しているような、そういう電子音だった。
「この星を……護りたいと、思った」
間があった。
「それだけだ」
セブンは何も言えなかった。
言葉が出てこなかった。光の国で学んだすべての言葉が、この瞬間、何の役にも立たなかった。
ゼットンはもう一度、空を見た。
赤はだいぶ薄れていた。青が、少しずつ戻ってきていた。
ゼットンの胸の発光体が、ピコン、ピコン、と穏やかに鼓動している。
それはもう、戦いのリズムではなかった。
ただ、生きているものの音だった。
了