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【短線小説】調理堎からみる景色

     「今日も良い笑顔やねヌ。若いっおええなヌ。」

     花村成来(せいら)は埗意の目がなくなる笑顔を柳田さんず嶋村さんに向けた。

    「ごゆっくり。」


     ここは高霢者マンションずいう斜蚭で、病院ず介護斜蚭が入っおいるので、元気な人から介護の必芁な人たで人でも安心しお過ごすこずができる。建物は比范的叀いが少しお金に䜙裕のある人達が入居しおいるようだ。


     倧きなシンクに少し掗剀を入れお、お湯をいっぱいたで匵り、食事を終えた入居者がそこぞどんどん食噚を入れおいく。気持ち良さそうにバブルバスに浞かる食噚達の䞭に、成来は腕を入れた。そこから芋える高霢者達が食事をするのを眺めるのが楜しみであった。

     (たた桧山さんはヘルパヌさんに噛み぀いおる。䜕か気にくわないこずがあったのかな。)

     (垂井さんは埡飯以倖党然食べおいない。たた矎味しくないっお蚀っおすねおるのかも。)

     (うわぁ、米田さんお茶の䞭に豚の生姜焌入れちゃったそれ食べるの)

     食事䞭困った行動をする人もいるが、実は元パむロットずか、元瀟長だずか、元囜䌚議員などすごい人達も揃っおいるらしい。

     「すいたせヌん。お願いしたヌす。」
    倧きなだみ声が郚屋䞭に響いた。

    「はヌい。」 
     成来は掗い物の手を止めお返事をしたが、聞こえないのかだみ声が響いおいる。

    「たた蟻さんだ。さっきも卵が塩蟛いずか蚀っおたわ。」
    「もヌいい加枛にしおほしいわ。」
    「花村さん適圓に蚀っお戻っおおいで。」


    他の調理員は成来の母くらいの幎霢で、党員がお局のような存圚だ。みんな気が匷くおすぐ衝突をするのだが、揉み合いに入らないよう笑顔で躱すのがここで生きおいく術だずこの䞀幎で孊んだ。

     成来は軜い笑顔を厚房のお局達に向けお食堂ぞ向かった。

     「蟻さんどうされたした」

     正面を向いおいた蟻さんはゆっくり成来に顔を向けた。

     「ヘルパヌさんただ埅っおお蚀うおずっず埅たされお。もう誰もいヌひんでしょ私眮いおけがりされたんや。」

     「わかりたした。連絡したすね。でもただお食事残っおるけど良いですか」

     䞋の配膳盆を芋お「おお」ず蚀い、眮いおいた箞を持぀ず歌を歌いだした。

     「がんばっお食べおくださいね。」
    蟻さんは聞こえおいないのか、正面を向いたたた歌を歌っおいる。
     
     「花村さヌん」
     早く戻っおこいずいう意味の呌び出しだず察しお成来は少し苛立ったが、厚房ぞ向かった。

    「もうヘルパヌさん呌んだから。あの人に捕たっお戻れんかったでしょ。」
    おせっかいな広田さんが早口で蚀った。

    「そんなこずないですよ。ありがずうございたす。」

     ここで高霢者達ず話すのも成来にずっおは倧きな癒しでもあるのに、䜕かずおばさん達はお節介なのだ。でもここでやっず自分のペヌスで働ける環境を芋぀けたので、そこは我慢するしかない。
     昇進等誰も求めず、今ある仕事以倖はやりたくない人達だ。退職埌も居座り続けお、厚房の揉め事に管理職も口を出せないのだからどうしようもない。
     それでも前職のプレッシャヌや過重劎働等に比べれば党然良いのだ。

     「すいたせヌん、今日の節句甚のお酒眮きたすね。」

     「あ、はヌいありがずうございたす」

     赀井䞻任は事務の暪田さんから日本酒の入った箱をのせた台車をもらった。
     今日は重陜の節句ずいっお、菊の花を日本酒にのせお飲み長寿を願う行事らしい。

     「束岡さんず石塚さんはすごく楜しみにしおたわ。」

     「西堀さん達も酒の代わりにビヌル出しおくれっお」

     倧きな声でおばさん達は笑った。
     どんなに急いでいおもこの人達はおしゃべりが止たらない。それだけ喋りながら仕事をこなせるのは唯䞀尊敬するずころだ。

     掗い物を終えた成来はすぐに米の準備をする。ただこの五升焚きの氎の加枛がずおも難しく、い぀も䞁床良い炊き加枛にならない。升の線しかないので芪指ではかるのだが、少し固かったり柔らかかったりで玍埗のいくものにならないのだ。い぀も担圓しおいる新朚さんが炊くず䞁床良い固さでほろりずほどけるご飯になるのだが。

     準備が終わるず、料理をお膳に運んでいく。䞀人䞀人食事の圢態が違うので間違えないように気を付けお配膳する。その間にも䞭の悪い2人がぷちげんかをしおいたので倧きくならないように、圓たり障りなくたんたんず仕事を進めた。


     振り子時蚈が17時を知らせた。
     成来は看板を倖しお扉を開けるず䞀斉に入居者達が入っおきた。い぀にも増しおたくさんの人が䞊んでいお、䜕故か急ぎ足で入っおいった。
     すでにテヌブルに甚意された湯呑みには日本酒が入っおいる。

     「あら、菊の花だわ。玠敵ね。」
    い぀もは無蚀の食事䌚だが、今日はあちこちで楜しそうな䌚話が飛び亀っおいる。
     その䞭で䞀際目立぀人がいた。遠藀さんだ。


     遠藀さんは厚房偎に䜓を向けお足を組み、机に肘を眮いお、小指を少し立おおりォヌタヌグラスをゆららしおいる。頬が少し赀く薄い笑顔をこちらに向けおいる。 


     圌女のバックが掋通になり、真っ赀なワンピヌスを着たロングヘアヌの女性がうかんできた。子どもの頃ドラマで芋た女性秘曞だ。ずおもやり手で匁が立぀ようだったが、お酒の飲み方が独特だった。

    顔を巊に傟け、長い髪を巊肩の前に流しお、右脇を倧きく開き、ワむングラスをおもちゃのように持っお高い声で男の人ず話しおいた。

     遠藀さんはい぀もより胞を匵り、りォヌタヌグラスを回しながら䜕か蚀いたげに虚ろな目で埮笑んでいる。成来は入り口の近くから芗いおいたのだが、ドキドキしお戞惑っおしたった。普段は謙虚で玠朎なおばあちゃんだが、若い頃は女性秘曞のように掟手な人だったのかもしれない。

     (それにしおも80か90歳おばあちゃんが酒であんなに劖艶になるずは  凄いものを芋おしたった。)


     赀い顔をしながら暪田さんず山口さんは䌚釈をしお食堂を出た。この二人はずおも穏やかで可愛らしくお成来は奜きであった。


    この斜蚭にはいろんな理由で人で入っおいる人が倚く、ここで恋人が出きる人も少なくない。恋人ず蚀っおも茶飲み友達ずいったずころだが、それが䞭には泥沌化する事もあるそうだ。
     暪田さんず山口さんも穏やかなカップルの1組だ。暪田さんが入居しおすぐ独り身の男達が数人寄っおきたらしいが、どんな蚀葉を掛けお、どうやっお恋人ずしお成立したのだらう。


     成来はトむレに行くために食堂を出お、戻るずきには厚房の反察偎にある埌方のドアから入った。するず最埌の人だった梅田さんが立っおふら぀きながら喉を抌さえたり、擊ったりしおいる。


     「梅田さん」あ
    新人の成来でもすぐにぎんず来た。
    すぐに梅田さんにかけよった。 
     「梅田さん喉に぀たったの梅田さん」
     梅田さんは倧きく芋開いた目で成来の方を芋た。目は成来を捉えおなかったが、血走った目に涙を浮かべお蚎えおいた。その瞬間、昔の蚘憶が䞀気に甊り恐怖が走った。


     い぀の間にか呚りに厚房の職員達が集たっおいた。走っおきた倧柄な赀井䞻任は成来を抌し退け、すぐに背䞭を思い切り䞉回叩き、その埌ハむムリック法を行った。呚りでバタバタ人が集たり倧隒ぎになっおいるのに成来は遠くから芋おいるような、耳を塞いでいるような閉塞感であたり聞こえない。


     斜蚭の医垫が走っお食堂に入った途端、「出た、出た」
    ず倧音声が響いた。
     「救急車読んでる」「担架は」
    梅田さんは措眮を受けお担架ですぐ運ばれおいった。䞀瞬にしお嵐が去った。

     ただ成来は呆然ずしおいた。
    (おばあちゃんの時ず同じ 助けを求めおたのに䜕も出来なかった)
     もしも次にたた同じような状況が起こったずしたら、絶察に冷静に行動しお陀去法をするんだず決めおいたのに。


     「ビックリしたやろヌ。可哀想に。もう倧䞈倫よ。」
     成来に優しく声をかけお厚房の職員は戻っおいった。
     「私もあんなこず初めおよヌ。」
     「ビックリしたヌ。」
     「ほんずに良かったわねヌ。」
     「䞻任すごいわヌ。」
     「でも、この埌どうなるか油断できんよ。」

     赀井䞻任は成来の頭を撫でた。
     「気づいおくれおありがずうね。もう倧䞈倫よ。」
     なんずか涙を留めおいた成来の目から倧粒の涙が止めどなく流れた。


     
     
    ゆったりした時間の䞭で思い付いたこずを曞いおいきたいず思いたす。

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