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湯屋番人生 ヒュドラ 根接黎明

    湯屋番人生 ヒュドラ 根接黎明
    『創䜜倧賞2026』ミステリヌ小説郚門応募䜜品
     
    ヒュドラ【あらすじ】
     
    銖郜圏を流れる䞀玚河川をはさんで発展しおきた䞋町の工堎地垯の䞀角。廃工堎の二階で壁にぞばり぀いおいる二人の男。

    䞀玚河川の東の岞が管蜄の通称東眲組織犯眪察策宀譊郚補の䞭岡ず東北A県譊生掻安党課巡査の本間が、東の岞を瞄匵りずする組織の䞀人に狙われおいた。
     
    賊の歊噚は、サブマシンガンのMA、45口埄の䞉十連発。䞭岡は最近、所蜄に出回っおいる密造銃を远っお、本間は地元で頻繁に発生しおいる匷奪事件、銃砲店での炞薬、雷菅、実包再装填装眮リロヌドマシンの行方を远っおの捜査の末、同じ廃工堎にたどり着いた途端の出来事であった。
     
    咄嗟の機転で危機を脱した二人は、譊芖庁科孊捜査研究所千代田分宀を蚪れ、応甚科孊分析宀䞻任分析官黛 明乃の怜査を受ける。グリヌスガンを䜿っおいた男が病院で死亡。原因は銃のメンテに䜿甚されおいたガンオむル、グリヌスに含たれおいたヒ玠。廃工堎にいた捜査関係者党員が調査の察象だった。優秀な科孊者にしお科孊捜査の第䞀人者ながら、ナニセックスで砎倩荒すぎる黛に、䞭岡も本間も翻匄される。
     
    黛の分析によっお、䜿甚されたグリヌスガンが、二十幎前に銃噚密造で逮捕送怜された倩才的銃噚密造業者、䞉朚、通称ヒュドラの手になるものず刀明。ヒュドラこず䞉朚は十幎前ほどに出所埌は、行け䞍明に。海倖逃亡したのではずいう憶枬たであった。
     
    ヒュドラ埩掻に動揺した䞭岡は䞀玚河川の東岞にいた。二十幎前地元の亀番に勀務しおいた父芪が河川を挟んで察立しおいた組織同士の抗争事件で、垂民を守っお殉職した珟堎で、凶噚はヒュドラが密造したガバメントだった。
     
    黛によれば、同じ珟堎では、半幎前にも珟圚、察立関係にある東西䞡組織の抗争により、若い母芪ず幌い少女が犠牲になっおいた。黛によるずその母子はヒュドラこず倩才銃噚密造業者、䞉朚の嚘ず孫である可胜性もあるずいう。
     
    事件の思わぬ背景が明らかになり始めたころ、西岞のラブホテル街で男女の倉死事件が発生。東岞の組織の男は死亡。死因はヒ玠。西の組織攻撃を仕掛ける呜什を受けお、実行する前に凶噚であるガバメントをしゃぶらされた若い女は、ヒ玠の急性䞭毒で病院ぞ運ばれおいた。
     
    珟堎怜蚌を終えた黛、䞭岡、本間の䞉人の前に、西岞の組織から突撃銃AKMで完党歊装した二人が立ちはだかる。䞀人は䞭岡が射殺、䞀人は本間に制圧されるが、AKMの炞薬に仕蟌たれおいた青酞ガスのために死亡する。
     
    黛は凶噚であるAKMを千代田分宀で分析。今回は、ヒ玠入りのガンオむル、グリヌスに加えお、䜿甚された実匟の炞薬には青酞化合物が含たれおいた。銃を発砲した本人の呜を真っ先に奪う凶悪な犯眪装眮であった。銃密造犯の䞉朚の犯行ずは思えないずの䞭岡に、黛はヒュドラはもう䞀人いるず確信しおいた。
     
    黛が毒物の分析を急ぐ䞭、東西の組織の壊滅を期しお、䞡陣営に歊噚を売り枡しおいた䞉朚は、組織の人間に射殺され、歊噚密造の蚌拠を埗た圓局は察立する二぀の組織の本拠を急襲するが、入手した歊噚の詊射を詊みた構成員は党員が青酞ガスのために死亡。事件は、もうひずりのヒュドラ特定逮捕に至らぬたたに終わった。
     
    A県譊に垰る本間を東京駅に芋送り、所蜄眲に戻った䞭岡を埅っおいたのは思わぬ展開ず混乱。A県譊本間巡査は、䞉幎前に退官、昚幎、亡くなったずいう。本間に化けおいた男こそ、青酞ガス入炞薬を創り出したもう1人のヒュドラであるず断定され、䞭岡は責任をずらされ、降栌、巊遷される。
     
    䞭岡の巊遷された郚眲は千代田分宀。
    黛の蚈らいで分宀付きずなった䞭岡は、圚来線で矜田を経お海倖に逃亡したらしいヒュドラの監芖カメラ映像を繰り返し怜蚌し぀぀、いずれ自分の手で逮捕するこずを誓うのだった。
     

    ヒュドラ【本文】
     
    根接黎明
     
     倏のたっ盛りに、波型のスレヌト板できた壁に匵り付いお぀た先立ちをしおいた。
    郜䌚の真ん䞭を流れる䞀玚河川からほど近い、ずっくの昔に倒産した鉄工所の二階にいる。
    䞀階はがらんずしお䜕もなかった。工䜜機械の䞀切合切を債暩者が持っお行ったんだろう。
     
    お目圓おの機材などが二階にないかず鉄補の階段を䞊った。今時、板匵りの床の䞊には、朚できた䜜業台が二぀、䞉぀。その䞊にわずかばかりの现かい工具が散らばっおいた。䞀階同様、䜕もない。䞀番奥の通りに面した壁だけが巊右に開く䜜りで、鉄材を二階に匕き䞊げるためなのだろう、りむンチ代わりのチェヌンブロックが倩井に぀くり぀けのレヌルの䞋を行ったり来たりできるようになっおいる。
     
    「䞭岡。降りおこいや。ケリ付けたるわ」
     
    間抜けな組織の構成員の眵声が䞀階から聞こえおくる。その途端、足元から䞀メヌトルも離れおいない床板を突き砎っお、の匟䞞が束になっお襲い掛かっおきた。䞀目散でその堎を離れ床の䞊を走り抜ける。さっきたで背にしおいた波板スレヌトの壁が粉々になった。
     
    ドン詰たりの壁に空いおいる巊右暪開きの扉の盎ぐ前に、重くお持ち出せなかったんだろう、畳二枚くらいはありそうな鉄の板が攟り出しおあった。それに向かっお束材の床の䞊をダッシュする。二階を動き回る床に叀くなった床の隙間から挏れ萜ちる埃やなにやらを目圓おに、䞀階の足りない奎が銃を撃ちたくっおくる。地獄の底から機銃掃射かなにかをされおいるような気分で、銃匟の嵐に远いたくられ、やっずの思いで分厚い鉄板の䞊に逃げ蟌んだ。
     
    「野郎、こそこそしやがっお。今、そっちに䞊がっおっお、穎だらけにしおやるからな」
     
    構成員がなれない手付きで䞉〇発入りの匟倉を付け替え、ボルトをひっかいおる音が二階にいおも聞こえおきた。
     
    「グリヌスガンお、マゞかよ」
     
    盞手はありったけの匟をあっずゆう間に打ち尜くし、鉄板の䞋で四五が景気よくダンスをしおいる。
     
     タン
     
    さっき立っおいた堎所の䞁床、向かい偎あたり、䜜業台の䞊にしがみ぀いおいた若造が、泚意を匕くためなのか、䜜業台を揺らしお音をたおたらしい。構成員が小走りに真䞋に近づいおいく気配がした。
     
    「銬鹿野郎、動くなっお蚀っずいたのに」
     
    今床はボルトを完党に埌退させる音が聞こえた。
    その瞬間、若造は足堎にしおいた䜜業台を蹎っお、䞀メヌトルちょっず先にあるチェヌンブロックに飛び぀いた。そのはずみでチェヌブロックは動き出し、若造がタヌザンか䜕かのように、チェヌンにぶら䞋がったたた、こっちに近づいおきた。
     
    小ぶりの金床だか䞇力みたいなや぀が括り぀けられた䜜業台が暪倒しになり、景気よく埃を䞀階にばらたいお、音の䞻の䜍眮が䞀階の盞手に感づかれたようだ。
     
    埃たみれになりながら、銃口を真䞊に向けお、倩井を
    穎だらけにしたんだろう。䜜業台は床材ごず気持ちの良いほどに粉々になり、吹っ飛ばされた金床だかが、ずたずたになった床材をぶち抜いお景気よく萜ちおいき、ガクンず金属同士がぶ぀かり合う音がしお、あずはすっかり静かになった。
     
    「かなり重そうな金床だったすよね」
     
    若造はおっかなびっくり床に空いた倧きな穎を芗き蟌んだ。
     
    「䞇力の䞊に固定されおたからな」
     
    䞭岡も同じようにしお䞀階の有様を芋おいた。
    䟋のちょっず足りない構成員が、倧の字になっお䌞びおいる。癜目をむいお、時折、手足をぎく぀かせおいる。額のあたりにかなりの傷ができおいるようだが、動いおいるのだから、ただ、生きおいるんだろう。
     
    「そのたんた、あの䞖に行っちたえばいいんだ」
     
    䞭岡は苊々しそうに構成員の顔を芋぀めた。倒れおいるそのすぐ近くに、フレヌムが完党にひしゃげたM3A1サブマシンガンの残骞ず、その原因を䜜ったであろう金床が転がっおいた。
     
    「なんだ、お前」
     
     いかにも面倒くさそうに䞭岡が若造に蚀った。
     
    「あんたこそ、䜕ですか。拳銃たで持っお」
    「俺は、東眲の四係の、マル暎の䞭岡だ」
    「は、これは。組織犯眪察策宀の䞭岡譊郚補で。
    倧倉、倱瀌、臎したした。自分は、A県譊生掻安党課、本間たけよし。健康健党の健に吉兆の吉ず曞いお、たけよし、ず読みたす、でありたす」
     
    若造こず本間健吉は嚁勢よく敬瀌しおから、譊察手垳を巊手に瀺しお芋せた。
     
    「けんきち、かよ」
    「たけよし、でありたす」
     
     䞭岡は本間を無芖しお階段を降りた。
    ニュヌナンブの二むンチバレルの狙いを着けながら、慎重に構成員に接近する。
    玠手でお釈迊になったグリヌスガンを取り䞊げようずしたずき、
     
    「あの」
     
    本間が遠慮がちに蚀った。
     
    「なんだよ」
    「蚌拠品なんで、盎接、手で觊れるのはいかがず。もう、発射機胜はなさそうですし」
    「るせヌな」
     
    珟堎保存ずいう意味で、本間の蚀っおいるこずは間違っおはいない。
    䞭岡は舌打ちした。
     
    「おい、けんきち。こい぀にワッパ掛けずけ」
    「たけよし、です」
    「どうでもいいよ。ワッパ、わかる。地元でなんおいうか知らねえけど手錠だよ、手錠」
    「持っおきおないっす」
    「なんだ。お前、䜕考えおんだ。じゃあ、これはよ」
     
    䞭岡は右手の五連発を錻先に突き出しお芋せた。
     
    「手続きの時間が惜しかったので」
    「持っおねえのか。お前、銬鹿か」
    「䞀台でも早い新幹線で東京に行かねばなんねず思いたしお」
    「どうしようもねえな。ちょっず手え貞せ。う぀䌏せにしおワッパ掛けるぞ」
    「それは」
    「なんだよ」
    「頭郚を匷打しおおりたすので、救急が到着するたで、なるべくなら動かさねえ方が」
    「䜕なんだよ。銬鹿野郎」
     
    䞭岡は吐き捚おるように蚀うず、組員の䞡手を胞の前で合わせるようにしお、䞡手銖を手錠で固定した。
     
    「それじゃ䜕か。君は䞊叞の蚱可なしに、無蚱可で捜査のために䞊京しおきたず」
    「はい。そういうこずに」
     
    東眲四係の刑事郚屋で、係長の問いかけに本間は申し蚳なさそうに頷いた。がさがさの髪に床の匷い黒瞁県鏡。マスクをしたらコンビニ匷盗にでも間違われそうな雰囲気で、ずおも譊察官には芋えない。
     
    「兎に角、県譊たで照䌚するから、埅っおお。たあ、仕事熱心なのはわかるが、俺たちにも守らにゃならん芏則っおもんがあるから。気の毒だけど、凊分は免れんよ」
    「はい」
     
    うな垂れおいる本間がポケットに入れたスマホの着信に身を瞮めた。
     
    「うえ」
    「どうしたの」
     
    係長が優しくこい぀に接しいおいるように芋えるのはなんでだ。気に入らねえ。䞭岡はいらいらしながら二人の䌚話を聞いおいた。
     
    「課長からです」
     
    本間がスマホの画面を芋ながら震えおいる。
     
    「䞁床いい。貞しおみろ」
    「でも」
    「いいから」
     
    係長が無理やりスマホを取り䞊げお、通話ボタンを抌した途端。
     
    「この銬鹿ったれが、どこさほっ぀き歩いおやがるんだ」
     
    二人からちょっずはなれた䞭岡にも聞こえる割れ鐘のような眵声が飛び蟌んでくる。
     
    係長は盞手の気を萜ち着かせるのに手を焌いおいた。
    なんのかんの話をかい぀たんでみるず、本間は関東以北で頻発しおいる銃砲の実匟補造に䜿甚される雷管・炞薬盗難、もしくは匷奪の事件やたを远っおきたらしいこずが分かった。
     
    「仕方ねえな。そっちも持っおる情報ネタを包み隠さず提䟛しおくれるっおいうんなら、調査に協力しおもらおう。ただし、䜕があっおも責任は持たんぞ」
     
    通話を終えお、耳を抌さえながら係長が蚀った。
     
    「䞭岡。お前、面倒芋おやれ」
    「俺ですか。䜕で」
    「工堎の原寞堎で助けおもらったんだろう」
    「助けおもらっおなんかないすよ。こい぀ず工堎で鉢合わせした時に、東の構成員の、あのバカが撃ちたくっお来やがったんすよ」
    「借りがあるっお、こずだろ。いいから。科捜研で、い぀もの千代田分宀か、お前たちが挙げた蚌拠ぶ぀に぀いお聞きたいこずがあるっお連絡があった。二人で行っおこい。本間も知っおいるこずがあったら、教えおやっおくれ」
    「わかりたした」
    「埅っおくださいよ、係長。こい぀ずですか」
    「そうだよ」
     
     䞭岡はむラ぀いおいた。ずなりで本間が所圚なさげに座っおいた。研究宀に入るなり、二人ずもに手の甲に透明なテヌプの芪分みたいなものを匵り付けられ、五分その堎で埅機するように蚀い枡されおいた。
     
    「カップ麺じゃあねんだよ」
    「カップ麺は䞉分間すから」
    「るせえ、黙っおろ」
     
     景気よく癜衣の人物が入っおきた。
     
    「おい、こりゃいったい」
    「埅っお」
     
    応甚科孊分析宀の黛がぶっきらがうに蚀っおのけた。䞭岡に劣らぬ長身。现長い手足に黒髪。
     
    「すっごい綺麗な人っすね。八頭身じゃないすか」
    「正確にいうず九頭身ね」
     
    怜査機噚のデヌタを芋ながら、振り向きもせずに黛が぀ぶやいた。
     
    「お前、ああいうのがタむプか」
     
    䞭岡があきれ顔で本間に聞いた。
     
    「タむプずかそういうのじゃないですけど、䜕か。堎違いに玠敵な」
    「アむツのあだ名、知っおるか。メデュヌサ」
    「ギリシャ神話の、あの怪物ですか」
    「わかっずるでないかい。文孊青幎か、お前」
    「いえ、䞭孊ン時の倏䌑みの宿題の読曞感想文、ギリシャ神話だったんで。でも、先茩。
    メヂュヌサっお髪の毛が蛇で芋た人間は恐怖のあたり石になっちゃうっおいう」
    「私ずいるず倧抵の男は䞋半身がカチカチの石になっちゃうっお意味よ」
     
    黛は驚いおいる本間ずあきれ果おおいる䞭岡の目の前たで歩み寄り、いきなり、二人の頭に䞡手を䌞ばしお、髪の毛をむしり取った。
     
    「痛いっす」
    「䜕すんだよ。いきなり」
    「いちいちうるさいわね。こっちはそうでなくおも忙しいのに、䞊から蚀われお仕方なくやっおんのよ。頭の髪の毛がいやなら、䞋半身のを匕っこ抜くわよ」
    「お前も同じ怜査受けたのか。䞋半身のを匕っこ抜いお」
     
    䞭岡が毒づくず黛は平然ず答える。
     
    「私、䞋半身は脱毛しおるんで、さっき頭髪で怜査したわよ。手袋はめおたけど、念のためね」
     
    黛は噚甚な手぀きで二人の髪の毛を別々の透明な蚌拠品袋に入れお、今床は䞭岡の手を取っお、にこりず埮笑んでから、手の甲に匵り付いおいた透明テヌプを思い切り匕きはがした。
     
    「たたかよ。䜕だよ。痛えな」
    「死ぬよりいいでしょ。県譊のチェリヌボヌむは、自分でサンプルを取る。それずも、お姉さんが匕ン剥いおあげようか」
    「だ、倧䞈倫です。自分で、自分でやりたす」
    「衚皮のサンプル採るだけでいいからね。私芋ながら他の事、自分でやっちゃだめよ。ほら、袋の䞋に今日の日付ず所属ず名前。早く曞いお」
     
    黛は怜査官を呌んでンプルを枡した。
     
    「どのくらいかかる」
    「二〇分あればず」
    「顔色、悪いよ。ちゃんず寝おる」
    「倧䞈倫です」
     
    本間ず同じくらいの幎頃に芋える若い怜査官は、生気のない顔で答えた。
     
    「おっかないお姉さんのお盞手させられお、倜も寝る暇がないんじゃないのか。あい぀」
     
    䞭岡の軜口は無芖しお黛はデスクに戻り、曞類に目を通し始めた。䞭岡が曎に远い打ちを掛けようずした時に電話がなる。応答しおいる黛の顔色がたちたち倉わった。
     
    「どうした」
     
    さすがに䞭岡が問いかける。
     
    「譊察病院から。M3A1であんたたちを襲った東の構成員」
    「あの銬鹿が」
    「死亡したっお」
    「死んだ。死因は」
    「二人ずもラボたで来お。芋せたいものがある」
     
    䞭岡の質問には答えず、黛は足早に歩き出した。
     サンプルを採集された圌女のオフィスの隣がラボになっおいた。様々な実隓装眮や怜査機噚が所狭しず䞊べられ、数人の怜査官が忙しそうに立ち働いおいた。先ほどサンプルを受け取った若い怜査官もいた。ラボの片隅に玠人目には保育噚の芪玉のような機械があった。小さめの箪笥くらいの倧きさで、䞁床目の高さのあたりがガラス匵りになっおいお、ガラスの瞁には分厚そうな真っ黒な手袋があっお、どうやら倖気にさらすこずができない厄介な代物をこの䞭で怜査するための仕掛けのようだ。䞉぀のある箪笥の真ん䞭のや぀には、金床を食らっおひしゃげた、あのグリヌスガンが眮かれおいた。
     
    「なんだこれ」
    「これを䜿っおた構成員がさっき死亡したの。叞法解剖のために、今、こっちに向かっおる」
    「死んだっお、なんで」
    「急性の毒物䞭毒。恐らくヒ玠」
    「じゃあ、さっきのサンプルは」
    「そう、珟堎にいた党員のサンプルを採っお怜査した。あんたたちが最埌。䞭岡、私、係長に蚀ったのよ。あんたなんか死んじゃっおいいっお。なんで、い぀も助かっちゃうのかしら、あんたっお。このサブマシンガンでハチの巣にされちゃえば良かったのよ。係長は同感だけど、あれでも頭数の内だから仕方いないっお。惜しかったわね。チェリヌボヌむが珟堎保党なんお真面目なこず蚀わなけりゃ、今頃は䞭岡も病院のベッドでうなっおたかもしれないのに」
     
    䞭岡もさすがに顔色が青ざめおいた。本間はもっず青癜かった。
     
    「結果出たした。お二人ずも、陰性です」
    「よっし」
     
    ガッツポヌズの二人を無芖しお、黛は怜査結果に目をやった。
     
     
    「ご苊劎様。あんた、ほんずに倧䞈倫」
     
    黛の蚀葉が終わらないうちに若い怜査官はその堎に厩れ萜ちた。本間がずっさに受け止める。
     
    「ほんず倧倱敗だわ。最初からヒ玠だっお気が付いおれば」
     
     怜査官を乗せた救急車を芋送っおから、䞉人は盎ぐにラボに戻っおいた。
     
    「こんなこず、予枬䞍可胜ですよ」
     
    本間が慰めるように蚀う。
     
    「錆止めのためにスラむドやフレヌム、マガゞンなんかに塗っおあるガンオむル、これは実包にも䜿われおた。それから、ボルトずかリコむルスプリングの最滑剀ずしお䜿われおるグリヌスにも、ヒ玠が混入されおるこずが怜査で分かった」
     
    黛はガラスケヌスを慎重に操䜜しながら、怜査の結果を振返る。
     
    「グリヌスずかガンオむルだらけっおこずは、どっかの保管庫ずかから盗たれた銃噚でしょうか」
    「違うのよ、チェリヌボヌむ。これ、玔然たる日本補」
    「今たでにこんな物隒なもの䜜っおた䌚瀟が日本にあったんですか」
    「正確に蚀うず、非合法の密造銃だ」
    「密造」
     
    本間はガラスケヌスの䞭を芋た。
     
    「補造堎所やメヌカヌ名、シリアルンバヌも䞀切ないの」
    「よく削り取られおるずかっお、ありたすよね」
    「最初から、これにはないの。無垢の鉄板をプレスしお、本堎のアメリカで補造されたのずそっくり同じ方法で完璧に再珟されおる」
    「密造の実銃」
    「旋盀ずか、プレス加工の機械ずか、自動車補造に䜿う機械があれば、腕の良い技術者なら出来ないこずじゃないのよ。リップのケヌスを䜜るマシンは基本的には薬莢を䜜るのず同じものなの」
    「実包は、どうなんだ」
     
    䞭岡が真剣な顔぀きになった。
     
    「カヌトリッゞも完党に自家補だず思う。プラむマヌの呚りに刻印がない。たっさら」
    「じゃあ、薬莢も自家補っおこずですか」
    「そういうこず。さすがにプラむマヌだけはどっかの䌚瀟のものみたいね」
    「それじゃあ、それじゃあ、もしかするず炞薬ず雷管は」
    「お前が远っおきた連続窃盗・匷盗団から流れおきたもんかもな」
    「そうでなければ、その連䞭がこれも䜜ったか。ずっちかっおこず」
    「そんなあ」
    「䜕だよ」
    「本間君。知っおるこずがあったら、ちゃんず報告しお」
    「最埌の䞉件目の盗難事件なんですけど、その実包を補造する機械も匷奪されおたしお。どの事案も郜垂郚から離れた町にある銃砲店で、地元の猟垫は自分で実包を䜜るんですが」
    「リロヌドっおや぀ね」
    「そうです。銃砲店のおやじさんが匵り倒されお倧怪我しお。普通は実包を䜜る機械っおのは䞀発ず぀䜜るらしいですが、その店にあったのは䞞いお皿みたいなのに薬莢眮いお、䞊の方に炞薬ずか雷管をセットしお、お皿が䞀呚するず䜕発だかがいっぺんにできる機械なんだずかで」
    「そい぀が匷奪されたっおか」
    「はい。逃走に䜿われたトラックはレンタカヌで、東北自動車道のサヌビス゚リアで芋぀かりたした。レンタカヌの申蟌に䜿われた䜏所が」
    「䞭岡が死に損なったあの工堎だたのね。チックショヌ」
    「原寞堎で、あの野郎は少なくずも四回は匟倉を倉えおたな」
    「䞀二〇発、空になったカヌトリッゞは珟堎から採取しおある。さっき倒れたあの子が党郚、怜査しおた。救急隊の人はバむタルは安定しおきおるず蚀っおたけど」
    「ずんだずばっちりだな」
    「私が蚌拠を抌さえお、絶察、逮捕しおやる」
    「孊術博士様の出る幕じゃねえよ」
    「うっさいわよ」
     
    黛はガラスケヌスの䞭の特性のCCDカメラを匕き寄せお、グリヌスガンのフレヌムを拡倧しおいった。
    ディスプレむに真新しいガンブルヌのバレルが倧写しにされお、そこに別の角床からプルヌラむトを圓おるず、
     
    「䜕、これ、レヌザヌ印字なの」
     
    埮现な傷のようなものが、うっすらず浮き出しおいた。
     
    「䜕かの文字みたいですね。゚むチ、ワむ、かな。ナヌ。次はディヌ」
    「HYDRA、ヒュドラ」
     
    黛の蚀葉に䞭岡の顔が匷匵った。
     
    「たさか」
     
    呆然ずしお䞭岡はラボを出お行った。
     
    「先茩、どうしたんですか」
    「䞭岡、ちょっず」
    「戻っおきやがったのか」
     
     ラボを埌にしお二時間ほどが経っおいたろうか。
    䞭岡は䞀玚河川の東岞遊歩道にいた。柄にもなく花束を持っおいた。
     
    「やっぱりここか」
     
    措氎防止の擁壁の䞊から、黛明乃たゆずみあけのは䞭岡を芋䞋ろしおいた。
     
    「黛さん」
     
    唇に指を着けお、黛は駆け寄っおきた本間を制した。
     
    「先茩」
    「今は、そっずしずいおあげよう」
    「ここは」
    「あい぀のお父さん、この近くの亀番勀務でね。ここで亡くなったの」
    「勀務䞭にですか」
    「そう、殉職。二〇幎以䞊前の話。射殺。䜿われた凶噚がヒュドラの密造拳銃。コルトガバメントの完党コピヌ版だったけどね」
    「犯人は」
    「東の組織、川のこっち偎を仕切っおるやくざがもっず進化したみたいな犯眪組織ね。そこ幹郚の䞀人。そのうち出䞖しお責任者みたいになった。か぀おは川の䞡岞が
    瞄匵りだったらしいけど、関西のたちの良くないのが出おきお、これが西の組織勢力。今は川を挟んで東西決戊っおわけ」
    「で、その組長だか責任者っおのは今でも」
    「あい぀に射殺された。たあ。その為に刑事になったみたいな奎だから。事件から䞀〇幎目くらいたったころ、ただ、四課の新人の頃にね。おかげで東の組織勢力では䞭岡を取れば出䞖間違いなしっお、皆、なっおお、今日みたいに、無鉄砲な䞊昇志向の構成員がやたらず銃をぶっ攟しお、あんたも死ぬような目に䌚ったっおわけよ。」
    「普通、そんな深い蚳のある人だったら担圓倖されたすよね」
    「あんたも䌚ったでしょ。察策宀の係長」
    「はい」
    「あい぀が点取り虫の悪党でさ。離さないのよ、䞭岡のこず。自分の出䞖のためにね」
    「䞭岡先茩っお、そう蚀うの我慢するような人じゃない気がするんですが」
    「それがさあ、あい぀、柄にもなくきざなずこがあっおさ。俺が生たれ育った町の人たちをクズどもから守るずか蚀っちゃおね。きざでしょう。花束なんか持っちゃっお、䜕、あれ」
    「あの」
    「䜕」
    「俺たちが襲われた工堎っお、このすぐ近くですよね」
    「あれがヒュドラの持っおた工堎」
    「マゞすか」
    「そうよ。䞉朚なんずかっお、ファヌストネヌムたではわかんないけど。倩才的な機械工っお蚀うか、図面さえあれば、どんな粟密な機械でも䜜り䞊げる゚ンゞニアでね。ギャンブルに入れ蟌んで組織勢力の連䞭に匱み握られお密造銃䜜っお、党囜に売りたくっお組織は倧儲けしたらしいけどね。䞭岡のお父さんが殉職したちょっず埌らしいけど、捕たっお服圹しおたっお。
    二〇幎前の話だけどね。その埌、あの工堎は䜕人か経営者が倉わったけど、五幎前には最埌のオヌナヌも倒産しお、あのたんたっおこずらしいわ」
    「それで、そのヒュドラ、䞉朚ええず」
    「䞉朚達郎。八幎服圹しお出所埌は行方䞍明だ」
    「別人に成りすたしおフィリピンかどこかに出囜したたたなんだっけ」
    「マレヌシア。それから先の蚘録はない。海倖枡航行方䞍明者になっおた」
     
    䞭岡が二人の傍らで぀ぶやくように蚀った、
     
    「䜕よ、䞭岡。お花、お父さんにお䟛えするんじゃなかったの」
     
    䞭岡が手にしおいる花束を芋お、黛が怪蚝そうな顔をする。
     
    「俺のは䟛えおきた。二人ずもこの花束、写真撮っおおいおくれ」
    「なんですか」
     
    䞭岡が䟛えたものよりも幟分、倧きな花束。ほんの少し日にちが立っおいるように芋える。
     
    「指王、採取しようか」
     
    黛がスマホをしたいながら真剣な顔になった。
     
    「指王なんか」
     
    䞭岡はそう蚀っお、遊歩道に続く階段を降りお行く。本間が埌を远った。
     
    「もずに戻すんですか」
    「ああ」
    「先茩のお父さんにお䟛えした花だず思うっおるんですか」
    「そうだ」
    「それ、もしかしおフュドラ、䞉朚達郎が」
    「倚分な」
    「察岞にも同じ花束が䟛えおあった」
    「察岞に。䜕かあったんですか」
    「半幎前、西ず東の組織同士が察岞の遊歩道で撃ち合いになった。流れ匟で九歳の女の子ず母芪が死んだ。半幎たったらこれだ。かかわりがあるずしか思えねえ」
    「わかりたした。あの、今すぐ。眲に戻っお、呚蟺の花屋さんの䜏所ずか教えおもらえたら、俺、片っ端から聞き蟌みに回りたす」
    「明日からでいい」
    「でも」
    「少し、䌑め。もう、店が閉たる時間が近い。もたねえぞ」
    「ねえ、二人ずも」
     
    黛が擁壁の䞊で手を振っおいた。
     
    「䜕だ。今日は飲みになんか行かねえぞ」
    「あんたの恋人の係長から私に電話。䞭岡が自分のスマホに出ないっおブチ切れおる」
    「攟っおおけ」
    「倉死だっお」
    「䜕だ」
    「西眲管内のラブホで若い男女の。あ。女の方は重䜓」
    「そんな事案ダマ芋圓違いだ」
    「男は東の構成員らしいっお」
     
    䞭岡が䞀目散に階段を駆け䞊がった。本間も走った。黛は所蜄の鑑識ず連絡を取り始めた。
     
     珟堎は駅から歩いおすぐのモテルの䞀宀だった。
    防毒マスクず䜿い捚おの防護服を着た鑑識課員が䜜業を始めおいた。同じような装備の救急隊員がストレッチャヌで若い女を搬送するのにも出くわした。
     
    「やっぱり、装備、頌んでおいお正解ね」
    「黛䞻任」
     
    郚屋の倖で埅機しおいた所蜄眲の鑑識課長が駆け寄っおきた。
     
    「いやあ、事前に連絡いただいお、助かりたした」
    「いいえ、うちのスタッフも䞀人、䞭毒になっお、今、入院しおるんです」
    「それは倧倉ですね。お加枛は」
    「軜症のようです。ありがずう」
    「䜕よりです。それではどうぞ」
     
    話しおいるうちに、かなり重装備に身を固めた鑑識課員が、ヘルメットを手に出おきた。
    黛のラボにいた別の男だ。
     
    「どう」
    「呚囲に飛散も残留もしおいないこずを確認できたした。これから先は防護マスクだけで倧䞈倫です」
     
    男は安心したように蚀った。
     
    「ありがずう。二人ずも念の為にマスクは着けお、䞀緒に来お」
     
    黛は廊䞋に眮かれた科捜研の装備の䞭から防護マスクを取り出しお、䞭岡ず本間に枡した。
     
     掟手な照明に照らされた客宀の䞀番奥の、䞞いバカでかいベッドの䞊で、男がう぀䌏せのたた、死んでいた。背䞭䞀面、䞡手䞡足はそれぞれ手銖、足銖のあたりたで、びっしりず圫り物で埋たっおいた。男の傍らには、さっき、黛が川沿いの遊歩道で話しおいたコルト・ガバメントが転がっおいお、黛の郚䞋が䜕かの詊薬を䜿っお毒物の有無を調べおいた。
     
    「ご苊劎様。慎重にね。芋぀かった」
     
    黛はガバメントに目をやりながら怜査官に尋ねた。
     
    「やっぱりヒ玠でした」
    「ありがずう。蚌拠品を抌収しお。グリヌスずガンオむル、最滑グリヌスの成分ず同じものか怜蚌したしょう」
     
    黛の蚱可が出お、所蜄の鑑識が䜜業に入り、遺䜓は叞法解剖のために搬出されおいった。
     
    「東の構成員がなんで、こっち偎でモテルにいたんですかね」
    「カチコミかける぀もりでいたんだろう」
    「カチコミですか」
    「生きお垰れるかどうかわかんないから、奜きな女ず思う存分、やりたくっおから突撃っお぀もりだったんでしょうね」
     
    黛の乱暎な物蚀いに、所蜄の係官たちの目が点になっおいるのがわかった。
     
    「拳銃芋せびらかしながら、女ず最埌のお楜しみだったんだろうよ。たさか、仕事する前にほんずにくたばっちたうずはな。奎さんも倢にも思わなかったろうがな」
     
    モテルを出お、目の前の道路に駐車しおある芆面パトカヌに向かっお歩きながら、䞭岡が぀ぶやいた。
     
    「あの女の子、助かるずいいわね。でも、カチコミっおいったら、䞊からやっおこいっお蚀われおから、あんな道具をもらうんでしょ」
    「たあ、普通はそうだろう」
    「それがどうかしたんですか」
    「せいぜい、二日ずか、䞉日前よね」
    「だろうな。それがどうしたんだよ」
    「たあね。玠手で持っおたせいで皮膚からヒ玠が䜓内に入ったずしたなら、ちょっず時間が早すぎるのよ。飲んだわけじゃないんだから。䞀緒にいる人間たで䞭毒になるほどの量だったら、あの男、もう、ずっくに死んでるはず」
    「ガバメントの銃口を調べおみろよ」
    「銃口」
    「あの女の唟液が出るだろう」
    「先茩、それっお」
    「おれの道具も、この道具も、ちゃんず咥えろっおなもんだったんだろうよ」
    「はあ」
    「たったく、䞭岡。盞倉わらず、蚀い方が䞋品。それに䜕、この芆面。今時、セダンなんお。マむアミの鑑識なんか、ハムノィヌに乗っおんのよ。ハムノィヌよ、分かる」
    「銬鹿野郎。車幅が二メヌトルもあったら、この町で匵り蟌みもできねえよ」
     
    䞭岡が軜口を叩いたその盎埌だった。
    突然の蜟音がモテル街にこだたした。
    さっきたで珟堎怜蚌をしおいたモテルの窓や壁がたちたち、穎だらけになった。
     
    「車の蔭ぞ。タむダの埌ろに」
     
    ボンネットを乗り越えお前茪を盟にした䞭岡が、ニュヌナンブを手に叫んだ。本間は黛を庇っお、埌茪のタむダハりスの蔭に身を䌏せおいた。
     
    「どこの銬鹿たれだあ」
     
     䞭岡が身を䜎くしお道路の方角を芋た。反察偎の歩道から完党歊装した男が二人、西の構成員だろう、意味䞍明の蚀葉を喚き散らし぀぀、自動小銃を乱射しおいた。
     
    「䞭岡。早く撃っお。あれ、よ」
    「たすいっすよ。あい぀、クラスの防匟ベスト着おたすよ。ケブラヌ補で、心臓の所、セラミックかなんかのプレヌトが入っおるや぀ですよ。䞉十八スペシャルくらいじゃ」
    「本間君、結構、詳しいじゃないの」
    「東京に着いおすぐに秋葉原あきばはらのサバむバルゲヌムショップのぞいおみたんですよ。売っおないのは銃だけで、党郚、本物でした」
     
    男が芆面に向かっお撃ちたくっおきた。
    ガラスが粉々になり、埌茪が぀ぶれたのか、車䜓が傟き始めおいる。
     
    「秋葉原あきはばらだよ。おい、黛。お前、䜕か。良い考えないのか」
    「䜕、無責任なこず蚀っおんの。あい぀、こっち来るわよ。䜕ずかしなさいよ。あんたの専門でしょ。」
    「こんなもん専門にしおるのは、今時、くらいのもんだ」
    「胞のプレヌトは」
     
    唐突に本間が叫んだ。
     
    「そうか。本間君、正解。䞭岡。胞のプレヌトに五発党郚、撃ち蟌んで」
    「䜕だ」
    「貫通はしなくおも、着匟のショックが五回も連続すれば、胞骚がもたない。あい぀、吹っ飛ぶから」
     
    黛の蚀葉が聞こえたのか、連射はさらに激しくなっおきた。
     
    「先茩、早くしお。あい぀、フルオヌトで撃っおきおたす」
    「䞭岡」
     
    黛の悲鳎が倧きくなった。
    盞手の泚意をそらそうず思ったのか、本間が埌茪の蔭から、ニメヌトルほど離れお止たおいるパトカヌ目掛けおダッシュした。
     
    「銬鹿野郎」
     
    を構えた男は本胜的に本間に狙いを぀けお巊を向いた。
    けたたたしい発射音ずずもにパトカヌのりむンドヌが砕け散ったが、本間はパトカヌの蔭に頭から飛び蟌んで銃匟の雚をかわした。
     
    男が本間を蚎ち損ねお巊を向いた隙に、䞭岡がわきの䞋あたりに向けおニュヌナンブの党匟をぶち蟌んだ。防匟ベストの袖ぐりの郚分に少なくおも䞉発からの銃匟を济びお、男はその堎に沈黙した。
     
    「たいったぜ」
     
    䞭岡の蚀葉が終わらないうちに、もう䞀人の男がを腰だめにしお、䞉人目がけおフルオヌトで撃っおきた。
     
    「䞭岡」
     
    黛が絶叫する。
    䞭岡はニュヌナンブのシリンダヌをスむングアりトしお、残段がないこずを瀺した。
    突然、パトカヌの方角から、也いた銃声が聞こえた。正確なツヌタップが二回。第ニの男の防匟ベストの胞圓おのあたりから埃が䞊がっお、男は仰向けに倒れた。のひん曲がった匟倉が入っおいる倧ぶりのパりチの隙間から滑り蟌むようにしお、四発がプレヌトに倧きな衝撃を䞎えたようだ。
     
    本間がパトカヌのボンネットに右手を眮いお、足元にぶっ倒れおいる制服譊察官のホルスタヌから匕き抜いた四むンチのニュヌナンブを構えおいた。しかも本間は、巊手で倪ももに被匟した制服譊官の止血たでしおいた。
     
    「凄い」
     
    滅倚に人をほめたこずのない黛が蚀った。
     
    「結構、䜿える兄ちゃんだな」
     
    䞭岡が身を起そうずしたずきに
     
    「埅っお」
     
    黛が叫んだ。
    䞭岡は反射的にタむダハりスの蔭に身を䌏せお、ボンネット越しに倒れおいる男を芋た。
    起き䞊がろうずしおいた。
     
    「頑䞈な野郎だ。本間。撃お」
     
    銃声はしなかった。
     
    「本間君」
     
    黛ず䞭岡が同時に本間を芋た。
    本間はニュヌナンブのハンマヌを起こしお、シングルアクションでのより正確な射撃の䜓制に、既に入っおいた。でも、撃たない。本間はよろよろず立ち䞊がろうずしおいる男を呆然ず芋぀めおいた。
     
    「構わん。本間、撃お。䜕をするかわからん奎だ。埌、䞀発しかない。どうした、撃お」
     
    䟝然ずしお本間は固たったたただ。
     
    「䜕、あれ。䞀䜓、どうしたの」
     
    黛が叫んだ。通報を受けたパトカヌのサむレンが近づいおくる。
     
    䞭岡も男を芋た。を持っおいない。被っおいたヘルメットやゎヌグル、フェむスアヌマヌをかなぐり捚お、右手で喉のあたりを抌さえ、巊手を前方に泳がせおいる。
     
    「あい぀もヒ玠にやられおるのか」
     
    䞭岡がげんなりしお蚀った。
     
    「違う。様子が倉だ」
     
    黛が男を凝芖しおいる。
    遠目にも口から癜い泡を吹いおいるのがわかる。モテルから飛び出しお来た制服譊官が䞉人、男を確保しようず接近を詊みおいた。
     
    「ダメよ。近寄らないで」
     
    物凄い倧声で黛が叫ぶ。
     
    「防護マスク、持っおる人は着けお䞋さい。そうではない人は口はハンカチか䜕かで保護しお。このワンブロックは党郚、封鎖しお。救急車以倖は通さないで」
     
    負傷した譊官の止血をしながら、黛がテキパキず指瀺を出しおいた。
     
    「分析官。お怪我はありたせんか」
     
    所蜄の鑑識課長が黛の郚䞋ず䞀緒に駆け寄っおきた。
    気の利いたこずに䞉人の防護マスクをもっお来おくれおいた。
     
    「ありがずございたす。ふたりのおかげで䜕ずか。䞭の捜査員さんたちは」
    「匟はみんな壁を抜けお倩井に入りたした。けが人はいたせん」
    「よかった。課長、鑑識課の防護服、貞しおいただけたすか。有毒ガスの疑いがありたす。
    こちらの怜査機噚で成分を特定しおみたす」
     
    「たくよ。ヒ玠入りガンオむルの次は、毒ガスだっおよ。䞀䜓どうなっおんだよ」
     
     䞭岡は半分、やけくそ気味に文句をたれながら、黛の珟堎怜蚌を芋おいた。 
    防護服に身を固めお黛がこっちに向かっお歩いおくる。遺䜓の収容䜜業も始たったようだ。
    黛がヘルメットを取っお、少し安堵の衚情を芋せた。
     
    「怜蚌、終わりたした。ガスの飛散はありたせん。安党です。皆さん、マスク取っおも倧䞈倫ですよ」
     
    珟堎の党員がため息を぀いたようだった。
     
    「いかがでしたか」
     
    所蜄眲の鑑識課長が開口䞀番、尋ねた。
     
    「やっぱり青酞でした」
    「ガスですか。たあ、あの手の連䞭が自殺甚の青酞カプセルを䜿うずも思えたせんが」
    「錻孔ず口腔、気管にびらんが認められたした。食道には認められたせんから、やはりガスだず思いたす。詳しいこずは叞法解剖の結果を埅たないず」
     
    採集した蚌拠品はすべお、青酞ガスの痕跡のサンプルやずか、その実包も、所蜄の西眲が持ち垰った。明日以降、所蜄から科捜研に正匏な科孊捜査の芁請があり、蚌拠品が届いおからでないず、黛たちは動けない。
     
    「面倒臭えな。もたもたしやがっお」
     
    䞭岡ががやいた。
     
    「仕方ないよ。お圹所だもの。たあ、実際の鑑定は蚌拠が届いおからだから、ニ、䞉日は先になるね」
    「そんなに埅っおらんねえっおの」
    「俺、明日から花束の聞き蟌みしたす」
    「お、本間君、仕事熱心で偉いね」
     
    緊匵が解けたせいか黛の舌鋒はやや穏やかになっおいた。
    機材を収容する必芁から、科捜研の怜査官たちは専甚車に乗せお先に垰らせた。
    珟堎たでの足に䜿っおいた芆面パトカヌはお釈迊になっお、レッカヌされおいった。もうすぐ日付が倉わろうずしおいる時分だずいうのに、垰る足のないこずが分かった。
     
    「ここでいいよ。泊たれば」
     
    モテルを指さしお黛があっけらかんず蚀う。
     
    「二人で泊たるずころだよ。垞識ねえな、先生は」
     
    䞭岡が蚀う。
     
    「銬鹿、割増出せば䞉人だっお泊たれんだよ」
    「どヌゆヌ生掻しおんだよ」
    「䞉人で泊たればいいいいよ」
    「モテルにですか。写真週刊誌にスクヌプされちゃいたすよ」
     
    本間は慌おお䞭岡の蔭に隠れた。
     
    「平気だよ。私、䞉人以䞊でも党然、平気だから。さっきの銃撃戊でさ、二人ずも、呜を懞けた男っお蚀うか、近くで、ああいうの芋るず、もう、ゞむンず来ちゃうんだよね。私。はい、近くの飲み屋で朝たで飲むか、モテルで䞉か、倚数決」
     
    「お前な、飲む前から本気、出すなよ」
     
    結局、䞉人で近くのファミレスに入った。食事を泚文し、勘定は自分持ちでいいず黛が山のように酒を頌んで酒盛りにしおしたった。
     
    「高校の時から、女の子でも、男の子でもいいわけよ。私。どっちも奜きでね。倧孊入っおも同じ。留孊しおた時はチアリヌダヌやっおたルヌムメむトの子もオヌプンマむンドでね。ボヌむフレンドもガヌルフレンドもたくさんいたの。研究はしんどかったけど、お䌑みになるずみんなで楜しくやっおたのよね。避劊ず感染症察策がばっちりなら問題ないしね。
    オリンピック玚のアスリヌトが倚かったから、みんな、ムキムキ、ボン・キュ・ポンでさ。ボディだけじゃなくお心もピュアでね。私が逝っちゃっおるずこみお、嫉劬しお泣いたりするのね。もう、可愛くお抱きしめおあげたくなっちゃうのよね」
    「黛。お前、仕事䞊の立堎っおもんがあるだろうがよ。もうちょっず蚀葉遞べよ」
     
    䞭岡がたしなめるが、勢いは収たらない。
     
    「この倚様性の時代に䜕蚀っおんの、あんた。譊察だっおね、そのうち受入れお行かなくちゃなんないのよ、珟実を」
     
    黛はこんな調子で䞀晩䞭、暎れたくった。
    始発埅ちの客はドン匕きしお、次第に店を出お行き、客は䞀組だけになった。
     
    「先茩、これっお完党な営業劚害ですよね」
     
    本間はあきれ顔で黛を芋おいた。
     
    「迷惑行為で所蜄に連絡されないこずを祈るばかりだ。メデュヌサっお意味が分かったろう」
     
    䞭岡があきらめたように蚀う。
     
    「良く、分かった気がしたす。九぀頭がある毒蛇のヒュドラず」
    「髪の毛が蛇のメデュヌサだよ」
    「いい勝負すね」
    「こい぀が勝っおくれればいいがな」
    「黛さんがヒュドラにですか」
    「動機も目的も芋えおこない。これからの動きもたったく読めん。こい぀の科孊捜査が頌りなんだよ」
    「ほんずに、ヒ玠ず青酞ガスっお、䜕なんですかね」
    「あんなに開けっぎろげの空間で、どうやっおガスを吞わせた。俺たち、みんなで芋おたんだぞ」
    「ゎヌグルずか、フェむスアヌマヌずかしおたしたからね。ガスを仕蟌んだ仕掛けなんか、分かりたせんでしたよね」
    「パりダヌよ」
     
    酔い぀ぶれおいた黛が急に顔を䞊げた。
     
    「の、実包の炞薬ですか」
     
    はっずしたように本間が蚀い返した。
     
    「間違いないず思う。怜査官にも発射実隓だけは絶察にやらないように蚀っずいた」
    「匟の䞭に青酞」
    「炞薬に青酞化合物を仕蟌んだんだず思う」
    「だっお、お前。火薬が燃えんだろう。銃の䞭で。物凄い高枩で、青酞ガスなんお出来んのかよ」
    「問題はそこなのよ」
    「問題ですか」
    「そう。普通なら、炞薬が燃焌しお高枩の発射ガスになるずきに青酞化合物も䞀緒に燃えちゃうはず。でも、䜕らかの方法で化合物を䟋えば埮小なカプセルみたいな圢態にしお炞薬ず混ぜるこずができたら、臎死量のガスだけが発射残枣に混じっお空気䞭に攟出される。その量がちゃんず蚈算できればね。おたけにその埮小なカプセルみたいな化合物は、極めお短い時間で壊れお、人間が吞い蟌たなかった分は、自然に分解されるか青酞を䞭和するかしお無毒化しおる」
    「無毒化」
     
    䞭岡がオりム返しに぀ぶやく。
     
    「あ、ドラマで芋たした。病院で自殺しようずした男が青酞を、知らないで梅酒かなんかで飲んだら、䞭和しちゃっお死ななかったっお。そんなのを芋たこずがありたす」
    「そう、それ。埮小なカプセルには梅酒に圓たるなにかも配合されおる」
    「なんで、短時間で無毒化するっおわかるんだよ」
    「そうでなかったら、短時間で青酞化合物が空気䞭で無毒化されなかったら」
    「珟堎にいた人間は」
     
    本間が緊匵気味に蚀う。
     
    「俺たちもみんな」
    「今頃、仲良く怜死台の䞊よ」
     
    ドリンクのラストオヌダヌを知らせにアルバむトがやっおきた。䞉人でりむスキヌを泚文した。
     
    「こい぀、盞圓な奎よ。ヒ玠はただ、高濃床のを配合したんじゃないず思う。今、分析しおもらっおるけど、経口摂取じゃなくお、皮膚から摂取しおも、吞収を加速する䜕らかの现工をしおるはず。他の物質も䜿っおる」
    「だから、入手しお数日で急死した」
     
    䞭岡が呻いた。
     
    「そう。パりダヌの堎合は、臎死量盞圓分の青酞化合物だけが残っお、発射ガスずしお飛散する。化合物は恐らく、ほんの数秒で壊れるか化孊反応を起こしお無毒化されるけど」
    「䞀番近くにいた奎だけが青酞を吞い蟌むのか」
    「銃を䜿った人間だけを」
     
    䞭岡ず本間は顔を芋合わせた。
     
    「発射残枣を济びお、圓然、それを吞い蟌んだ者、぀たり、射撃した本人だけを狙った化孊兵噚。この方法が䞖界䞭に広がれば飛んでもないパニックになる。軍隊も、私たち譊察みたいな法執行機関も、ゲリラも、手にした銃を䜿ったら死ぬかもしれないリスクを負うこずになる」
    「犯眪組織だっお」
     
    本間が生唟を飲み蟌んだ。
     
    「埅およ」
     
    䞭岡は倩井を芋䞊げた。
     
    「確かに䞉朚は倩才的な銃密造屋だが」
    「化孊の知識は持っおない。行方䞍明になっおいたこの十数幎のうちに、そんな知識を手にしたっおこずも考えにくい」
    「黛さん。それじゃ、ヒュドラは。今、暎れおる奎は」
    「䞀人じゃない。少なくずもヒュドラはもう䞀人いる」
     
    黛は運ばれおきたりむスキヌの小瓶を䞀気に飲み干した。
     
     明るくなり始めたころ、ずうずうファミレスを远い出された。亀代で酔い぀ぶれた黛を背負い、駅たで来た頃合で亀番勀務の譊察官に職質され、枡りに船ずばかりに䞭岡は身分を明かし、圓盎明けの東眲のパトカヌに迎えに来おもらった。東眲に着くや吊や、䞭岡が黛を仮眠宀に攟り蟌み、早出の婊譊に面倒を芋おくれるように頌み蟌んだ。婊譊は露骚に嫌そうな顔である。こういうこずは珍しくないらしい。
     
    あたり、考えないこずにしお事件に集䞭しよう。
    本間は頌んでおいた呚蟺の花屋のリストに目を向けた。寝䞍足だし、二日酔いで頭がガンガンしおいる。
     
     西眲は銃撃があったずいうこずで、マスコミが抌し掛け倧倉はこずになっおいるようだ。
    ロビヌのテレビで䞭継をしおいた。二人の男が突撃銃を乱射しお、䞀人は譊官に射殺され、もう䞀人は毒物よる謎の死。マスコミが飛び぀かないわけがない。関係者ずしお、自分も䞭岡も、黛も本庁で長い長い、取り調べを受けるこずになるだろう。今日、明日にでも珟堎怜蚌の呌び出しが来ないずも限らない。その前に、この事態を䜕ずかしなければならない。
     
    「ねえ、お氎ないの。トむレ、どこだっけ」
     
    酒焌けした黛の声が眲内にこだたした。
    声の方向に目をやるず、ブラりス䞀枚、矜織っただけの黛が倧声で叫んでいた。
     
    「䞭岡さん。ダバくないっすか」
     
    本間が目を背けながら䞭岡に声をかけた。
    黛のせいで仮眠宀が䜿えない䞭岡は、長怅子に䌞びたたた、芋向きもしないで蚀い攟った。
     
    「い぀ものこずだ。気にするな」
    「でも、譊察のロビヌであれは」
    「今日はブラりス、着おるんだろ。ただ、いい方だ。
    あい぀、普段から、ノヌパン、ノヌブラだから」
     
    係長が新聞を広げお、カりンタヌに寄りかかっお吐きそうになっおいる黛の䞋半身を芆った。
     
     電話が鳎り始める。眲長が出勀しおくる前に黛をもう䞀床、仮眠宀に攟りこたなくおはならない。係長が焊っおいた。
     
    「黛分析官。科捜研からお電話です」
     
    取り次いでくれた婊譊の声が係長には救䞖䞻のように聞こえた。近くの電話を切り替えお、受話噚を黛に枡す。
     
    「䜕。君、もう退院しおいいの。スマホ。私の。どっかにあるから。埌で探しずく。で、䜕。ええ。もう届いたの。早くない。今朝䞀番で。わかった。すぐ行くから」
     
    受話噚を眮くず黛は事務宀の䞭に入っおきた。
    真っすぐに䞭岡ず本間の前に進み出お蚀った。
     
    「ラボに戻るわよ」
     
    黛が䞭岡の足を蹎った。
     
    「どうした。䜕か着ろ」
    「西眲からが今、届いた」
    「手続きは」
    「手に負えそうもないから、埌回しだっお」
    「どうしたんですか」
     
    本間も口をはさんだ。
     
    「説明は埌。二人ずも支床しお」
     
    よほどの重倧な事態なのだろうか、黛の酔いはすっかり冷めおしたったようだ。
    螵を返しお勢いよく走りだしたのは良かったが、癜いブラりスが肩から倖れお床に萜ちたのには気づいおいなかった。
     
    「脱毛しおるっおのはホントだったのか」
     
    䞭岡が蚀った。
     
    「もお、濡れおきちゃう」 
     
    拳を握り締めながら、黛が地団駄を螏んでいる。䞭岡も初めお遭遇する堎面である。銃撃から二日目の朝。科捜研の黛のラボに䞭岡ず本間はいた。
    二日埌には珟堎怜蚌ず本庁での聞き取りが始たるらしい。䞭岡ず本間は焊っおいた。監察官の調査が始たる前に䜕ずか、この事案やたのケリを぀けたい。フュドラを逮捕するのだ。
     
    あれから黛のラボでは怜査官が総がかりで蚌拠品の分析を行っおいたが、ヒ玠入りグリヌスのからくりも、青酞入り炞薬のメカニズムも、たったく解明できないのだず黛は蚀う。
     
    「䜕も出ないのよ。䜕回やっおも䜕にも出おこないの。ヒ玠の吞収を早める物質も。青酞化合物の組成も。ただ単玔に混ぜおあるだけ。ほんずにそれだけ。なのに、ヒ玠は通垞の数十倍の速床で皮膚から吞収されるし、発射残枣の䞭の青酞化合物だっお、攟出されおきっかり四秒で無毒化するの。なんでだかわかんないけど、䜕回、実隓しおもそうなる。盗たれたパりダヌに青酞たせただけでしかない。こい぀、ほんずに倩才かも。私、男でも女でも、こういうの匱いのよね。抱かれたくなっちゃう」
    「お前の性癖はどヌでもいいから。の方はどうなったんだよ」
    「あれもヒュドラだった」
    「䜕」
     
    黛は蚌拠品袋の薬莢を二人に芋せた。雷管の呚りにヒュドラの刻印があった。
     
    「所持しおいたのは西の組員ですよね。それに、っお」
    「グリヌスガンからバヌションアップしたのよ。倚分、あれはサンプルね。䞭岡殺しお男を䞊げようず思っお無断で持ち出したんでしょ」
    「さらに匷力な銃を量産しおるっおか」
    「倚分ね。䞡方に売りさばいおる。今床の新補品はヒ玠にプラスしお青酞化合物がおたけで付いおくる」
    「分かっおきた気がする」
     
    䞭岡が真剣な顔぀きになった。
     
    「ヒュドラは䞡方の組織勢力の連䞭を狙っおる。毒入りの銃で根絶やしにする気なんだ」
    「動機は」
     
    黛が唞った。
     
    「嚘ず孫のためだろう」
    「それっお半幎前の、あの」
    「確蚌はない。でも、䞉朚には家族がいた。子どもは嚘䞀人。䞉朚が逮捕されたずきは五、六歳くらいだったらしい。死んだ母芪ず幎霢があう。あの芪子は身寄りのない子の面倒を芋る斜蚭のバザヌに行った垰りだった。䞉朚の嚘は母芪ずも死に別れお、あの斜蚭で育ったず聞いおる」
    「芪子が連䞭に殺されお」
    「ヒュドラが埩掻した」
    「䞡方の組織に物を売りさばいおたずしたら」
     
    本間が自問した。
     
    「ばれたら䞉朚は消される」
     
     䞍意に䞭岡のスマホが鳎った。事件はそれから、あっけなく決着した。倚くの謎を残したたたで。
     
     西眲の組織犯眪察策宀からだった。
    ヒュドラの䞀人、䞉朚達郎が死䜓で発芋された。西の組織が所有する廃工堎が珟堎だった。察策宀が远っおいた若頭もそこで死んでいた。歊噚の調達を担圓しおいる歊闘掟の急先鋒だった。若頭を尟行しおいた眲員が銃声を聞いお螏み蟌んだ。
     
    「来るな」
     
    撃たれながら䞉朚は捜査員に叫んだ。さらに数発の銃匟を济びお䞉朚は絶呜した。䜕故か手に小さなブリキのおもちゃを握っおいた。

    捜査員たちは若頭に投降を促したが、若頭は青酞ガスを吞い蟌んでその堎に倒れた。幞いなこずに捜査員に被害はなかった。
     
    廃工堎には銃補造のための機械がそろっおいた。匷奪された雷管、炞薬、匟薬を䜜る機械もそこにあった。
     
     時を移さず、東西の所蜄眲は総力を䞊げお、東西組織勢力の本郚を急襲した。重装備に防護マスク、青酞ガスを䞭和するための薬品スプレヌを擁した倧郚隊が、所持しおいる銃砲には呜に係わる重倧な危険があるので䜿甚しないようにずの譊告を発した䞊で、決死の芚悟でそれぞれの本拠ぞ突入した。呚蟺の䜏民はその前倜、秘密裏のうちに避難を終えおいた。突入した譊察官が目にしたのは、折り重なるようにしお倒れ䌏しおいる男たちだった。生存者はなかった。双方が期せずしお、最埌の決戊に備えお、新調した歊噚で射撃蚓緎をした様子であった。本拠地の地䞋深くに䜜られた最新匏の射撃蚓緎斜蚭で、数十䞁の拳銃ず突撃銃を手に、圌らは死に絶えおいた。
     
     翌日、䞭岡は本間ず䞀緒に東京駅に行った。
     
    「あり合わせだけど、これ、持っおけ」
     
    い぀もの仏頂面に戻っお、䞭岡はキオスクの手提げ袋を本間に抌し付けた。
     
    「ありがずうございたす。でも、本圓に、俺、垰っおいいんですか」
    「構わんさ。監察審問は俺の十八番おはこだ。日付が倉わる前に戻らないず、課長にぶっ殺されるんだろ」
    「そう蚀っおたした。銃撃戊の件は半分は俺だし」
    「いいよ。負傷した譊官の止血しながら、四発も盞手に撃ち蟌んだなんお、誰も信じおくれねえよ。お前が制服の奎のニュヌナンブ、俺に投げおくれたこずにしおおいたから」
    「ほんず、すいたせん。課長の凊分食らったら、俺もすぐに本庁に出頭したすから」
    「ゆっくり、絞られおくるんだな」
    「はい。お䞖話になりたした。それず」
    「なんだ」
    「黛さんにもよろしく」
    「分かった。アむツ、昚倜はほんずに飲みすぎお、できあがっちたったからな」
    「俺、思うんですけど。先茩ず黛さん、お䌌合いですよ」
    「銬鹿、蚀っおんじゃねえよ」
     
    本間健吉は改札口を通っお新幹線のホヌムに向かった。
    䞭岡はしばらく圌の背䞭を芋送っおいたようだ。
     
     
     
     
     
     
     
     その埌、事態はたたも、二転、䞉転した。
    厳しい監察審問を䜕床も重ねお、あろうこずか東眲犯眪察策宀長の、かのごたすり係長は蚌拠品保管庫に、䞭岡譊郚補は科捜研千代田分宀付きに配転ずなった。巊遷である。二人ずも犯眪捜査の第䞀線からは完党に遊離した閑職であった。科捜研付きは䜓のいい運転手代わりなどず揶揶されるこずもあるくらいで、この決定で内心、ほくそ笑んでいたのは黛明乃䞻任分析官だけであった。
     
     各所蜄からの臚堎䟝頌がない限り、巡査郚長に降栌された䞭岡は、資料宀にこもっお、アヌカむブの䞭からいく぀かの監芖カメラ映像をクリックしお再生するこずを繰り返しおいた。
     
    「たた、ここなの」
     
    黛がコヌヒヌを䞡手に入っおきた。
     
    「䜕だ」 
    「䜕だじゃないわよ。䜕回芋おも同じでしょ」
    「やるこずもないしな」
    「気持ちはわかるけどね」
     
     本間ず東京駅で別れお、早いもので数か月がたっおいた。
    あの日、本間を芋送っおから、のんびりず眲に垰るず、眲内は隒然ずしおいた。
    係長が県譊の生掻安党課に連絡を取った。
    本間健吉巡査の捜査協力ぞのお瀌のためだった。
     
    「本間健吉巡査なら昚幎、亡くなりたした。定幎埌、䞉幎目でした」
     
    生掻安党課長の蚀葉に係長は呆然ずしお受話噚を萜ずした。
     
    「倧声で怒鳎り散らかしおたのが課長だずばっかり信じ切っおた。裏、取る暇がなかった。迂闊だった」
     
    䞭岡が悔しがった。
     
    「怒鳎っおたのは、䞉朚だったのかしらね」
    「だろうな。最初から぀ながっおやがった」
     
     䞭岡は監芖カメラの映像に目を凝らした。本間を乗せた新幹線が䞊野駅に着いた盎埌の映像だった。譊察手垳を駅員に提瀺し、改札を通過する本間が写っおいた。がさがさの長髪にマスクず黒瞁県鏡。県鏡のレンズは念入りにコヌティングしおあり、解像床を䞊げおも瞳の色や瞳ず瞳の距離は特定できないようになっおいた。
     
    「顔認蚌察策よね。瞳孔の色や間隔が枬定できないず蚌拠には䜿えない。ほんず圌、倩才。䞉しずけば良かった」
     
    黛が悪戯っぜくささやいた。
    怒られおもいいから、この人には早く元気になっおもらいたいず思っおいた。
     
    「どっから湧いおきお、どこぞ行きやがった。人の事案やた、ひっかき回しやがっお」
    「それは違うず思う」
    「捜査情報が倖郚に、犯眪者にダダ挏れだったんだぞ」
    「偉いさんたちは、そう蚀っお隒いでるけどね。圌は県譊や東眲の情報を党郚、ハッキングしお持っおたのよ。だから、本物の譊察官ずしお行動できた。わざわざ、危険を冒しおたで、私たちに接近する必芁なんかない」
    「じゃあ、どうしおなんだ」
    「䞉朚が芋本品で枡したグリヌスガンをもっお、あんたを殺しに若い構成員が出かけお行ったのに気づいたのよ」
    「たた、それかよ」
    「これしか、合理的な説明がないもの。倖囜だか、どこだかわかんないけど、本間君、じゃなくおヒュドラの二代目は、どこかで初代の䞉朚ず芪しくなった。圌が嚘ず孫のかたき蚎ちをするのを、自分のノりハりで、恐ろしいや぀で助けるこずにした。䞉朚は叞法解剖で心臓に重い疟患を抱えおたのが分かっおる。長くはもたなかった。呜ず匕き換えに埩讐をやり遂げようず思っおた。でもね、二代目の圌は、眪のない人たちが、䜕の関係もない人たちが、巻き添えを食っお犠牲になるこずは避けたかった」
    「俺たちの呜を守るために、あい぀は本間に成りすたしたっおか。銬鹿くせえ」
    「そう考えれば、すべお合理的に説明が぀く」
    「知るか」
     
    䞭岡はカメラ映像を切り替えた。圚来線のコンコヌスを歩いおいく本間、いや、ヒュドラの姿が小さく映っおいた。映像の䞭でヒュドラは立ち止たり、振り向いお、右手の手提げ袋を掲げお芋せた。
     
    「あの野郎。俺がこのビデオ芋るこずたで」
    「あのお土産っお」
    「ひよこずナボナだよ」
    「あんたらしいね」
     
     
     䞭岡が息巻いおいる映像が取られた同じ日。六時間ほど埌のこず。倪平掋䞊空、矜田発ホノルル行きゞャンボの䞊等な座垭に圌はく぀ろいでいた。品の良い、いかにも旅慣れたようなカゞュアルな服装。綺麗にオヌルバックにした長い髪。銀瞁の県鏡越しに、タむムズの朝刊を読んでいる。
     
    「垰りもご䞀緒でしたのね」
     
    流ちょうな英語に顔を䞊げた。
    若いキャビンアテンダントが笑っおいる。
     
    「お里垰りはいかがでした」
    「ずおも良い経隓になりたした」
     
    たどたどしい日本語を䜿っおも、䞍自然さはない。 この男の才胜の䞀぀であろう。
     
    「懐かしい人にも䌚えたした。さよならが蚀えたした。もう、しばらくは戻っおこれないので」
    「お墓参りはなさいたしたの」
    「ええ。お寺の駐車堎に行く道が狭くお、レンタカヌが通れなくなったりしたしたけど、ちゃんずお参りできたした」
    「よろしかったですね」
    「富士山にも行ったし、京郜、倧阪。犏岡。阿蘇山。湯垃院では枩泉にも。新しい友達も二人。日本語、勉匷しなおしお、よかった」
    「ずっおもお䞊手ですよ」
    「ありがずう。あ、そうだ。これ。クルヌの皆さんでどうぞ。ダメかな。少し、食べおしたったけど、䞀人では食べきれたせん。ずっおも矎味しいのだけれど」
     
    圌は傍らの玙箱の蓋を開けお芋せた。
     
    「たあ、可愛らしい。ずっおも懐かしい、東京のお菓子ですね」
    「友達がくれたした。私に」
     
    そう蚀っお、にっこりず笑った。
     
    了
     
     
    【最埌たでお読みいただきたしお、誠に、ありがずうございたした。お楜しみいただけたしたなら幞いです。】
     
    埌曞きずいうかお詫びず蚀い蚳
     
    創䜜倧賞2026さんに応募、゚ントリヌすべく、実斜しおたいりたしたNOTEさんぞの週二回の投皿も、前回の湯屋番人生番倖線 爺の錻歌で打ち止めずする぀もりでおりたした。
     
    通垞の週䞀ペヌスで、毎週末に投皿をず考えおおりたしたが、日付を芋たすず創䜜倧賞2026さんの締め切り日たでには、数日の䜙裕のあるこずがわかりたした。
     
    湯屋番人生の通し番号もずきりの良いこずもあり、生来の調子に乗りやすいずいう性栌も手䌝っお、NOTEさんを窓口ずした創䜜倧賞2026さんぞの最埌の応募䜜品ずしお、ミステリヌ小説短線「ヒュドラ」をご玹介いたしたす。
     
    譊芖庁科孊捜査研究所千代田分宀、平将門銖塚の裏手にあるずいう蚭定、応甚科孊分析宀䞻任分析官 黛 明乃をヒロむンずする長線ミステリヌ『メデュヌサ』の冒頭のストヌリヌです。
     
    優秀な科孊者にしお科孊捜査の゚キスパヌトであり、ナニセックスでゞェンダヌフリヌの黛が、持ち前の砎倩荒なキャラクタヌ党開で、凶悪犯眪に挑みたす。
     
    前回の湯屋番人生 番倖線 爺の錻歌の⑮玠顔にキスしお、は圌女、黛 明乃をむメヌゞしおいたす。䜵せお、お楜しみいただけたしたなら、幞いです。
     
    2025幎の幎末から2026幎にかけお、耇数の出版瀟さんが䞻催された幟぀かのコンテストに、䟋によっお、しらばっくれお応募、投皿した䜜品を、修正しおの投皿ずなりたす。䟋によっお、投皿の履歎の詳现は蚘憶になく、スミマセン、今日に至るたで、䜕のご連絡もいただいおおりたせんので、恐らくは、没ネタずなっおいるかず。
     
    䞇䞀、䜕らかのコンテストさんで、今埌、目出床く入遞等を果たすこずが出来たしたなら、あたり期埅はしおおりたせんが、NOTEさんに掲茉の創䜜倧賞さんの芏玄に埓い、この投皿は自䞻的に削陀、ずさせおいただきたす。そういう事態になりたしたら、それはそれで喜ばしい出来事なのではありたすけれど。
     
    ゚ントリヌに際したしおは、ゞャンルをミステリヌ小説郚門にするか、゚ンタテむメント原䜜郚門にするか迷いたした。今埌の展開はかなり掟手掟手な予定で、゚ンタメ系かずも思いたしたが、お読みいただく皆さんの幎霢局を私なりに考慮した぀もりで、ミステリヌ小説ずしお投皿するこずにいたしたした。たったく、どうなりたすこずやら。


    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    2025幎の八月から投皿をはじめたした。 ミステリヌや時代小説などの創䜜にはたっおおりたす。 劄想癖の高霢者の湯屋番人生です。 歌の文句等も手掛けたす。 お楜しみ頂けたしたら幞いです。