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「声を聞けば分かる」は、もう通用しないかもしれない。AIが家族の声をまねる時代に、家族で決めておきたい5つのこと

    「大丈夫よ。あんたの声なら、電話ですぐ分かるから」

    Cさん(46歳・会社員)が、一人暮らしの母(76歳)に詐欺の話をすると、母はいつもこう言って笑います。

    きっかけは、職場で聞いた話でした。いまのAIは、短い録音があれば、その人の声に似せた音声を作れてしまう。もし、息子の声そっくりの電話が母にかかってきたら——。

    母の「声なら分かる」は、これまでは一つの守りでした。けれど、声そのものがまねされるなら、その守りは当てにできなくなります。

    この記事では、架空の家族「Cさん一家」を例に、

    ·       電話を使った詐欺が、いまどれくらい起きているのか

    ·       AIで声がまねられると、何が変わるのか

    ·       声に頼らずに家族を守るために、家族で決めておきたい5つのこと

    を、警察庁などの公的な資料をもとに整理します。どれもお金をかけずに、今週中に始められることです。読み終えたら、次に親へ電話するときに話す内容が決まっているはずです。

    電話の詐欺は、いまも過去最悪の水準

    まず、数字を確かめておきます。

    警察庁の「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」によると、令和7年(2025年)の特殊詐欺(電話などで相手を信じ込ませ、お金をだまし取る詐欺の総称)は、

    ·       認知件数(警察が把握した件数):27,832件

    ·       被害額:1,423.1億円

    で、どちらも過去最悪でした。被害額は前年のおよそ2倍(+98.0%)です。

    家族や警察官などを名乗る「オレオレ詐欺」だけで14,489件、被害額は1,138.1億円。そのうち、警察官などを名乗る「ニセ警察詐欺」が10,859件・998.7億円を占めています。

    そして、犯人が最初に接触してくる手段は、電話が約8割。詐欺の入口は、いまも電話なのです。

    AIで声がまねられると、何が変わるのか

    警察庁のオレオレ詐欺の案内ページには、犯人が最初に「風邪をひいて声が変わった」「携帯が壊れて番号が変わった」などと言って信用させる、と書かれています。

    裏を返せば、これまでの犯人は声が本人と違うことを、言い訳でごまかす必要がありました。家族が「声がおかしい」と気づけば、そこで止まる余地があったわけです。

    AIで声がまねられると、この「声の違い」という手がかりが弱くなるおそれがあります。

    アメリカの連邦取引委員会(FTC:消費者保護を担うアメリカの政府機関)は、2023年3月の消費者向けの注意喚起で、詐欺犯はネットに投稿された家族の短い音声と、声を複製するプログラムがあれば、家族の声をまねられると警告しています。アメリカの連邦捜査局(FBI)も2024年12月の注意喚起で、犯罪者が生成AIで家族の声の短い音声を作り、緊急事態を装って送金を求めることがあると伝えています。

    日本の警察庁も、SNS型ロマンス詐欺の案内ページで次のように書いています。

    SNS上に公開された写真や翻訳アプリ、AIなどを利用すれば、誰でも簡単に他人になりすますことができ、本人の音声、動画を作ることができてしまいます。

    一方で、正直にお伝えしておくと、警察庁の令和7年の統計資料(確定値)には、AIで声をまねた手口の件数は示されていません。日本でどれくらい起きているのかは、この記事では確かめられませんでした。

    それでも、備えておく意味は十分にあります。これから紹介する5つは、AIの声に限らず、いまのオレオレ詐欺やニセ警察詐欺にもそのまま役立つ守り方だからです。

    家族で決めておきたい5つのこと

    ポイントは一つです。「声で本人かどうかを判断する」のをやめて、「手順で確かめる」に切り替える。そのための約束ごとを、家族で先に決めておきます。

    1. 「電話でお金の話が出たら、一度切る」を家族のルールにする

    警察庁のオレオレ詐欺のページには、被害を防ぐために、こう書かれています。

    電話でお金の話が出たら、一旦電話を切り、すぐに家族などに相談しましょう!

    大事なのは、これを親だけのルールではなく、家族全員のルールにすることです。

    Cさんは母にこう伝えることにしました。「もし僕から『お金がいる』って電話があっても、一度切ってね。本物の僕なら、切られても怒らないから」。

    子どもの側が「切っていい」と先に言っておくと、親は切ることへのためらいが小さくなります。「息子を疑うなんて悪い」という気持ちこそ、つけこまれやすいところだからです。

    2. かけ直す先は「前から登録してある番号」と決める

    同じ警察庁のページには、「家族にかけ直して本物かを確認」とあります。FTCも、本人の番号だと分かっている番号にかけて確かめるよう勧めています。

    ここで気をつけたいのは、電話で言われた「新しい番号」にはかけないことです。犯人は「携帯が壊れて番号が変わった」と言ってくることがあります。かけ直すのは、前から電話帳に登録してある番号だけ。つながらなければ、ほかの家族にかけて確かめます。

    Cさん一家では、母の電話帳に「本物の番号」として、Cさん・Cさんの妻・Cさんの妹の3人を登録し、「誰か一人につながるまでお金の話は進めない」と決めました。

    3. 家族だけの「合言葉」を決める

    アメリカのFBIは、2024年12月の注意喚起で、家族の本人確認のために、秘密の言葉やフレーズを決めておくことを勧めています。

    合言葉は、声をいくらまねされても、知らない人には答えられません。決めるときのコツは次のとおりです。

    ·       SNSやブログに一度も書いたことがない言葉にする(ペットの名前や出身校など、調べれば分かるものは避ける)

    ·       親が忘れにくいものにする(家族の思い出にまつわる言葉など)

    ·       紙に書くなら、電話の横ではなく、家族にしか分からない場所にしまう

    なお、合言葉は「答えられたから本物」と決めつけるための道具ではありません。答えられなければ、その場でお金の話は終わり。そういう使い方をします。

    4. 「そもそも電話に出ない」ための設定を、親と一緒にしておく

    警察庁は、何よりも犯人と話をしないことが大切だとしています。犯人の電話を受けないための設定は、今日からできます。

    固定電話の場合

    ·       国際電話の利用休止:警察庁によると、令和7年に特殊詐欺に使われた電話番号の約75.5%が国際電話番号(「+1」「+44」など、+から始まる番号)でした。普段、海外と電話をしない家庭なら、固定電話・ひかり電話の国際電話の発信・着信を無償で休止できます。申込みは「国際電話不取扱受付センター」(0120-210-364、通話料無料。オペレーター案内は平日午前9時〜午後5時、自動音声案内は24時間)かWebから。警察庁は、手続きが難しいと感じる人は最寄りの警察署へ連絡するよう案内しています。ほかにも条件があるので、申込みの際に確かめてください。

    ·       番号表示・非通知拒否サービス:かけてきた相手の番号が電話に出る前に表示され、非通知の電話には音声メッセージが応答して、電話が鳴りません。NTT東日本・NTT西日本では、70歳以上または70歳以上の方と同居している契約者なら、月額利用料・工事費が無料になります(申込みが必要)。

    ·       防犯機能付き電話:着信前に「この通話は防犯のために録音されます」などのメッセージが流れたり、通話を自動で録音したりする電話機です。警察庁の案内では、自治体によっては補助金などがあるとされています。

    携帯電話の場合

    警察庁は、+から始まる番号や見知らぬ番号からの着信は「無視」するよう呼びかけています。そのうえで、非通知の着信の拒否、電話帳に登録していない番号からの着信の拒否、留守番電話を使い、録音で相手が分かってからかけ直すことなどを勧めています。

    年代によって注意したい電話も違います。警察庁の資料では、特殊詐欺の被害は20代〜50代では携帯電話、60代以上では固定電話によるものが多くなっています。親の固定電話と、自分の携帯電話の両方を見直しましょう。

    5. 家族の「声」をネットに出す範囲を話し合う

    FTCの注意喚起にあるとおり、声のまねには「ネットに投稿された短い音声」が使われることがあります。

    SNSに、子どもや孫の声が入った動画を、誰でも見られる設定で載せていないか。家族で一度、公開範囲を確かめてみてください。すべてやめる必要はありませんが、家族や友人だけに見える設定にするだけでも、知らない人の手に渡る機会は減らせます。

    これは、声を守るためだけでなく、「孫の名前」「通っている学校」など、犯人が話を作る材料を渡さないことにもつながります。

    困ったときの相談先

    ·       警察相談専用電話「#9110」:生活の安全に関わる悩みごとなど、緊急ではないけれど警察に相談したいとき。

    ·       消費者ホットライン「188」:近くの消費生活センターなどの相談窓口を案内してもらえます。

    ·       今まさにお金を渡しそう・犯人が家に来るなど、緊急のときは110番です。

    まとめ

    ·       令和7年の特殊詐欺は27,832件・1,423.1億円で過去最悪。入口の約8割は電話

    ·       AIで声がまねられると、「声が違う」という手がかりが弱くなるおそれがある(日本での件数は公表資料では確認できず)

    ·       声で判断するのをやめて、手順で確かめる。そのために家族で5つを決める

    ·       お金の話が出たら一度切る(家族全員のルールに)

    ·       かけ直すのは、前から登録してある番号だけ

    ·       家族だけの合言葉を決める

    ·       国際電話の休止・番号表示・留守番電話で、そもそも出ない

    ·       家族の声が入った動画の公開範囲を見直す

    ·       今日できること:次に親へ電話するとき、「僕から『お金がいる』と電話があっても、一度切ってね」と伝える

    この先の有料部分で読めること

    ·       親に切り出すときの声のかけ方(怖がらせずに伝える3つの入り方)

    ·       15分で終わる「家族の電話ルール」会議の台本

    ·       合言葉の決め方と、当日の使い方の手順

    ·       電話の横に貼っておける「お金の電話が来たら」メモのひな形

    ·       親の固定電話・携帯電話の設定チェックリスト

    ·       「もしかして詐欺?」と思ったときの判断の流れ

     
     

    如月

     
     
    「知らなかった」で損をしない、暮らしと仕事の実用ノートです。介護、お金と税金、AIの使い方、働き方。公的な情報で確かめてから、具体例と文例つきでやさしく書きます。読み終えたら、ひとつ行動できる。そんな記事をめざしています。

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