
「明延鉱山の人魂」
もう何十年も前の話だよと、親戚のおじさんから聞いた話。
かって昔には、兵庫県養父市に日本有数の金属鉱山があったんだ、明延(あけのべ)鉱山と言われててその当時は大いに賑わってたんだ。
遠くを眺めながら、おじさんは語り出した。
当時は中学までその鉱山町の横にズラーッと繋がる労働者用の長屋に住んでてな、隣の声は丸聞こえで今思うと笑えるな、プライバシーなんてなかったからさ。

壁が薄いので、子供は壁越しに会話したらしい。
あの時は、親父が酒を沢山飲んでたな・・。
明延鉱山の仕事が嫌だと、いつトンネル崩落で死ぬかもしれないから出て行こうと話しててな、落盤事故で知り合いが死んだらしい。

母が俺に早よう共同浴場に行ってきな!
そう言うので、行ってきまーすと機嫌の悪い親父を横目にさっさと家を出て夕暮れの道を進んでいったんだ。
鉱山町の各家庭は風呂が無い、男たちは汗と粉塵まみれで帰ってくるので仕事終わりに共同浴場に直行するんだ、当然町中から来るから大変混んでいる。
さっさと次の人のために風呂を上がり、湯上がりに脱衣場の窓から気持ちのよい風が入ってくるので、黄昏時の山々を眺めていたその時だ。
なんだあれは?!と声が上がった、声のした方向の窓を見て驚いたよ、なんと人魂だよ!

人魂が空に飛んでるんだよ、凄くよく見えたし、周りの屈強な男たちがウォーとか声出しまくってな、脱衣場にいた人はみんな見てたと思うぞ。
なに?その人魂の特徴をより詳しくだって?
そうだな・・人魂の尾の部分が特徴的だったなぁ、尻尾の部分がとにかく長かったんだ。
青白い色の人魂だった。
長い尾を揺らめかせながら、浴場の周りを飛んだあと、やがて山の方へと向かっていく人魂を眺めてたな・・。

現在は見る影も無く、静寂に包まれていた。
そんなことがあったんですね、僕も明延鉱山を見てみたいなーと話すと、「やめとけ、もう鉱山は閉山して昔の賑わいはないぞ」と一喝された。
現代は人魂の話は聞かなくなった。
昔は、人魂は人体に含まれるリンが燃えることで現れると語る人もいた。
しかし、人魂とリンとの関係は古くから伝わる俗説であり、科学的に確立された説明ではない。
だが、土葬ではなく火葬が主流となってから、人魂の話を聞かなくなったような気もする。
この国の国土は決して広くなく、火葬は埋葬に比べて土地を必要としない。
そうした事情から、これからも火葬が主流であり続けるだろう。
戦後の厳しい時代、日本の経済を支えた鉱山では崩落事故などによって多くの人々が命を落としたという。
もし人魂に意志があるのなら、その青白い光は何を訴えかけていたのだろうか。
未練や苦しみではなく、ただ仲間たちに最後の挨拶をしに来ただけだったのならば――。
そう願わずにはいられない。
合掌