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「まだあの日にいる」#9エピローグ

     本庄駅前の路地裏――黒いベールをかぶり、うつむく占い師の前に、一人の客が立ち止まった。

    「あなたもここに座ったんですね」
     占い師は顔を上げた。だが、言葉が出ない。

    「あなたは誰を説得したかったんですか?」
     穏やかだが、やや問い詰めるような雰囲気に、二人の間に緊張が走る。

     占い師が沈黙を破る。
    「何人もいました」
    「何人も?」
    「東京へ行った人もいました」
    「……」
    「結婚を迷った人も」
    「……」
    「プレッシャーに、押しつぶされそうになった人も」
    「……」
    「それから……」

     再びの沈黙。立ったままの客が、占い師を見下ろしながら続ける。
    「じゃあ……あなた自身は? 今のあなたなら、過去の自分を説得できますか?」
     占い師は小さく笑った。

    「無理ですね」
    「どうして?」
    「どこで失敗したのか、わからないから」
     少し笑う。
    「本当に失敗だったのかも、わからないから」
     客は黙っている。

     占い師は、本庄駅の方を見て続ける。
    「人生って……答え合わせなんて、できないんですよね」
     
     客は微動だもせずに聞いている。
    「だから、死ぬときに『悪くなかった』って思えるように生きるしかないのかも」
    「……」
    「死ぬ、その瞬間までわからないんですけどね」

     客は満足そうににっこりとほほ笑んだ。
    「できているじゃないですか」
    「え?」
    「もう説得できてます」

     占い師は、客を見つめて立ち上がる。
    「それが、難しいんですけどね。まぁ、頑張ってみます」
     
     黒いベールを外し、手渡す。客は深くうなずいて受け取った。

     立ち去ろうとする占い師。数歩進んだところで振り返る。
    「あなたは、以前どこかで……」
     そう言いかけて、占い師は口ごもった。
     首を振って、再び歩き出す。

     客は占い師のいた席に代わりに腰を下ろし、黒いベールをかぶる。

     そして、次の通行人に問いかける。
    「あなたは、過去の自分を説得できますか?」

     
     
    AIに仕事を奪われそうな会社員。 「あのとき、ああしていれば」ばかり頭をよぎる毎日。 ここでは、うまく整理できなかった感情について書いていきます。 小説になるのか、エッセイになるのか、ただの記録になるのかは、まだわかりません。

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