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恋わからん私が、キクラゲで結婚した話(後編)


    1週間後の直島の旅は、パンクから始まった。

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    前編はこちら

    私の地元岡山の宇野港に辻さんと集合。すでにレンタカーで淡路島を巡っていた辻さんは、瀬戸内を満喫してニコニコしていた。「私が高校の頃、ここのセブンイレブンでアメリカンドッグを買い、海でぼんやりしてたんですよ〜」などと話しつつ、フェリーの受付をして車ごと直島に行く。車の列に並んでいたら、前のタクシー運転手さんが辻さんを呼び止めて

    「この車パンクしとるよ!!」

    と教えてくれた。
    なんだって!!タイヤがパンク!?

    もう受付を済ませたので、島のガソリンスタンドで処置をするしかなさそうだ。

    「そっか〜」と辻さんが謎に落ち着いており、
    「一度レンタカー屋さんに電話して、タイヤ処置をしていいのか、保険対応がどうなっているのか指示を仰いだ方がいいですよ?」と私の方が焦ってしまう。
    あー確かにと、辻さんがその場で連絡し、直島のガソリンスタンドに直行。

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    スペアタイヤに交換してもらっている間、
    待合でぼんやり話す。ごめんねと謝られるけど、私は何度も来てる場所だから辻さんの時間が減るだけです、気にしなくていいですよと伝える。窓から潮風が吹き込んで気持ちいい。

    「辻さんって、動じないですよね。日記にバックパッカーしてた話を書いてましたけど、大変なことに巻き込まれがちなんですか?」

    「あはは、どうだろう。大学の時はずっと寝てばかりだから、これじゃいかんと旅に出たよね。思いつきで鑑真号っていう船で上海まで行って、そこから寝台列車でタイの国境に近づいて……」

    「いい名前ですね鑑真号。なんとか到着するけど失明しそう(笑)」

    「でも移動中も到着先でも、やってることって本読んで寝てるだけなんです。秋田の家にいるのと変わんねーって思いました」

    「変わらなさの感覚少しわかります。私、初めて海外行ったのがカナダで、1か月ほどホームステイしたんですよ。書類では飼い犬1匹のはずだったのに、子犬が産まれて、めちゃくちゃ犬まみれになったお宅で。すごく良くしてもらったけど、海外に行ったくらいじゃ自分は何も変わらないなって思いました。発見はもちろんあるけど、自分そのものはそんなに変わらない」

    「変わらないよねえ。それをわかるために外に出ていったのかな」

    「辻さんが、1番大変だった旅ってどんなのです?」

    「うーん、インドかな。定番のお腹壊すやつ。前と後ろの両方から体の内容物が噴出してすごかった。人は管だなあってしみじみ思って。タクシーに乗って『ホスピタル〜ホスピタル〜』って呻いたら運転手さんが同情してくれて、なぜか彼の家に泊まることになったんです」

    「え!? 危なくないですか?」

    「なんか大丈夫でした。彼の子どもが寝てるハンモックを譲ってもらって、寝かされて。『This is energy』ってゲータレード渡されて。飲んで寝たら良くなりました。お礼にマージンの入るお土産屋に行ってくれってお願いされ、翌日行きましたよね。多分いい人だったんだと思います」

    「ディス イズ エナジ〜!!」

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    そうこうしている間に、タイヤはなんとかなり、直島巡りをスタートすることができた。アクシデントがあっても終始和やかな空気。辻さんは誰かのせいにしたり、自分は悪くないって主張しないんだなあ。そんなことしたって状況は変わらないもんな。

    地中美術館のモネの部屋でゴロゴロしたあと、南寺のジェームズ・タレルな真っ暗空間でぼんやりする。行くのが大変な方の草間彌生のかぼちゃもみる。私一人だと自転車で巡るところが車だからとても楽ちん。「これが大人の余裕ってやつですか!」と辻さんの運転に感謝した。

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    帰り際、夕陽を眺めていたら沈黙になる。
    いつもみている景色で落ち着く。

    すると沈黙に耐えられなくなった辻さんが
    突如ダジャレを言い出したのである。

    「あははは!! なんでダジャレを!!! ああー気を遣ってくれたんですね。ありがとうございます」
    「えへへへ」

    海に沈む夕陽をみていたら世界がどんどんオレンジ色になっていく。
    島々をむすぶ水面が、夕凪で真っ直ぐになる。

    辻さんが次なるダジャレをいう前に、今の気持ちを言葉にしようと頑張ってみる。

    「……こういう時って、綺麗って言葉じゃ足りない気がしません? 学校帰りによく一人で海みてましたけど、言葉でも写真でも捕まえようとするほど、その不足がわかるんです。だから静かにそのまま受け止めるしかないんですよね……。自分ルールを発動しちゃってすみません」

    「いやいや、そんな謝らなくても」

    「なんていうか……頭の中の言葉が静かになるんです。それが心地よくて。だから、無理に喋らなくて大丈夫ですよ」

    「……はい」

    「私は今の沈黙を心地いいなって思ってます」

    「……」

    ●

    こうして二人で沈黙した。
    辻さんが何を考えていたかわからないけど、少なくとも私は、居心地がよかった。

    この直島の後、辻さんからこんなメッセージをもらう。

    【思いつきくらげ】
    2008年09月07日16:55

    直島、どうもありがとう。
    ぶじ大阪で車を返して、ガード下の串カツ屋で酔っ払ってから帰ってきました。

    キクラゲ短歌を作ってみたよ(途中)。
    こんな感じで、グミちゃんのイラストを付けると
    けっこう面白いような気もするが、どうかな。


    『僕はキクラゲ(仮)』

    ひっそりと森の深くの木に居ます 目立たないけど僕はキクラゲ 

    炒めもの、和えもの、煮もの、昨日あたりお会いしました キクラゲですが

    華がない 主役にならない 味がない 歯ごたえはある? キノコですから  

    ●

    休日は土手のベンチに腰かけて雲を眺めて過ごしています

    編み物が趣味です 赤いマフラーを今は作っているところです

    木耳、と書きます 森のざわめきを静かに聴いているところです

    雨の日は未熟ながらも傘としてカナブンなども宿りに来ます

    大きくなったらシイタケになりたいな でもなれないな キクラゲだしな

    そして私はこう返信する。

    【Re: 思いつきくらげ】
    2008年09月07日23:39
    この前の直島はどーもどーもでした。
    あの過酷スケジュール!
    しかしながら、ガード下で酔っぱらっている辻さんを想像すると
    なんかかわいいです。

    そして、タンカー!
    おぉー。キクラゲの会・会長感動です。
    いろんなことができそうでちょっとドキドキしました。

    ゆるくてステキオーラが漂っているので
    この雰囲気をなにかかたちにしてみたいですー。

    辻さんに対する思いに、ドキドキするような気持ちはなかった。意識してないからあんなに話せるわけだし。

    でも、一緒にいてすごく楽なのはわかる。ただただ楽しい。タイヤがパンクしても動じなくて、いろんな体験をしてて、自分の言葉をもっている人。それを飾らずに出せる人。

    彼といるとなんだか勝手に言葉がでてくるのだ。

    そして、極め付けに短歌が送られてきた。
    向こうも勝手につくってくれている。
    しかもキクラゲ!!

    こんなにたくさん!?と驚いたけど嬉しかった。これを投げても大丈夫な人って思ってくれたことが幸せだから。


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    その3ヶ月後、私はあるものをネットで発見する。

    「第1回Be絵本大賞」
    審査員は谷川俊太郎をはじめとする豪華メンバー。新しい絵本を募集しているらしい。

    ここでバチーンとキクラゲ短歌のことを思い出した。あの辻さんの短歌でキクラゲくんを主人公とした絵本をつくればいいのでは!?!?

    締切は……あと10日。

    10日?!


    短歌はある。私が絵を頑張るだけだ。
    色はこの際捨てよう。黒と白とキクラゲくんのアイコンでつかった黄色の3色で構成する。絵本つくったことないけど、キクラゲくんに大きな背景を合わせたらたぶん気持ちいいよね。

    ……なんかいける気がする!!!

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    そのままの勢いで、ひとまず絵を描いてみる。おお、いいじゃん。2〜3枚ほどサンプルをつくり、辻さんに企画書を送信する。急なことは重々承知なのですが、どうでしょう?と。実は辻さんからキクラゲ短歌をもらったとき、絵本にするといいかもとぼんやり思った経緯も添えて。

    そうしたら辻さんから

    おもしろい!じゃないですか。
    サンプルも見ました。
    やりましょう、やりましょう

    と返信がきたのである。
    かくして、我々の
    「10日で絵本つくれるの?!タイムトライアル!」
    がスタートしたのだった。

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    そこからは怒涛の日々だった。
    私はまず短歌に絵をつける作業をする。そして辻さんは新しい短歌づくりと推敲。ネット上にやりとりできる場所をつくって、そこに絵やコメントをバンバン投げ込む。4日で見開き15枚の絵が完成し、そこから何度もリテイク。辻さんは仕事の空き時間にずっと短歌を考えてくれた。短歌も絵も出来上がったらとりあえず投げてみて、素材としてストックし、頭が元気な時に構成を考える。
    そしてある程度かたちになったら、信頼できる友人にみせる。感想をフィードバックして再考する。

    忙しいけどたのしい。
    どんどんいいものが出来上がっていくから。

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    煮詰まったときも「ちょっと朝の散歩してきます」などと書き込む。
    すると

    【2008年12月17日05:11】辻一郎
    村上春樹が、困ったときは「ウナギ」に相談する、
    ウナギが何なのかは、うまく言えないが、ウナギ的な何かだ。と言ってます。僕達にとっては、キクラゲがウナギだよね。(←意味不明に近い文)

    【2008年12月17日19:56】後藤グミ
    そうか、遠くからキクラゲくんを観察するんじゃなくて
    直接キクラゲくんに聞いちゃえばいいのですね。

    こういう謎なやりとりをしたり。

    【2008年12月18日22:06】辻一郎
    だー、電話でお酒飲んじゃって、とか言わなきゃよかった、ごめん。
    でもグミちゃんのイラスト、というか後藤グミが、良いです。ほんとうだ。
    書くので、描いてね!

    【2008年12月18日23:12】後藤グミ
    辻さんのすてきな短歌がはじめにあったから
    なんとかイラストを描けているようなものなので
    本当に、うれしいのです。
    描くので、書いてくださいね!

    ストレートに褒めあったり。
    どこまでも創作の熱に飲み込まれていればいいのが心地よかった。
    つくるのたのし〜〜!!

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    そんなときに、辻さんからこう伝えられる。

    【2008年12月20日03:10】
    あと、グミちゃんは僕を中学生男子くらいとして扱うように。
    「短歌が好きです!」とか言われると、気持ちが揺れてしまうの。
    中学生なので、短歌と自分を区別できない。

    下手すると結婚とか迫りそうなので、淡々とやりましょう。
    (だいたいにして、このジャズ的セッション?は、なんとなくヤらしい所があると思う)
    (まあ、コール&レスポンスはコミュニケーションの基本か)
    引かないでね。
    淡々と、お願いします。

    一読して、なんて誠実なんだ!と思った。
    とにかくいいものがつくりたいと伝わってくる。私は作品と自分を分けて考えられるけど、辻さんはそうではないんだな……。しかし、結婚とか迫りそうって、またそんな冗談を〜。え? 恋愛的な何かが働いてるの??

    ……ああわかんない!!
    でも今必要なのはその誠実さに私も答えることだよな……と、こう返信した。

    【2008年12月20日04:56】
    えぇと、了解しましたと、この場合言えばよいのでしょうか。

    話し出すと長いのですが
    私の人間関係が変わっていまして、小学校低学年の頃から幼なじみの男の子ととても仲良しでした。(お互い一人っ子どうしで本当に家族みたいでした)

    だから
    「あの先輩カッコイイな、きゃー、ドキドキ」
    みたいな、キラキラした恋愛手順を踏むことなく
    男女でいるけど、"お互い空気"みたいなまったりとした関係を長いこと続けたのです。

    だからなのか、
    「すきになること」が私はよくわからないのです。


    いかに長く、安定したつきあいをしていくかのスキルは多少なりとも身に付いてはいると思うのですが、そうなる前段階の「このひとすきだな」という自分の中の恋愛感情がわからない。

    高校そして大学とほぼ男子校みたいな環境だったのもあり、
    男性慣れはしていて
    (異性の友達もたくさんいる)
    (というか、自分が男の子みたいな気分になっている)
    女の子同士の関係より、男子的フランクなつきあいがすきだ、と
    仲良くはできるのですけど……。

    親友のかっこよくて、建築もできる恋愛マスターなひとからは
    「ゴトーは、ほんとに恋愛偏差値低いよねー」と散々にいわれる日々。

    なんというかもう、わーって感じなんですよ(笑)。

    あー、何書いているんだろうな、私。
    コメントしにくい内容でごめんなさい。
    さらに混乱させてしまったらごめんなさい。
    ただ、このことを辻さんに知ってもらいたくて。

    なので、後藤グミは男子的あつかいで
    淡々とよろしくお願いします。

    これが、私がはじめて「恋がわからない」と他人に伝えた言葉だ。

    当時、仲良くなることはできても、相手が望む関係にどうやったってなれないのがわかり、アプローチを断っていた。断るとみんな落胆する。俺を男としてみれないから、俺が足りないからダメなんだねって。

    それは違うんだよ!!!と声を大にして言いたい。
    気持ちのベクトルが違うだけで、あなたのことはとても大切に思ってる。私に「恋」ってフォルダが存在しない、それだけなの。今ならそう話せる。

    アロマンティックなんて言葉を知らない当時、これらのことがうまく伝えられなかった。幼馴染との関係が恋をわからなくしてるのか?と考えたりもした(これは違うと後にわかる)。「お互いハッピーになれない気がする」という直感で好意を断ることしかできず、ひたすらに悲しい。
    昨日までの大切な友達が告白でいなくなってしまうから。

    だからこの性質を辻さんにも知ってもらわなきゃと思った。私はこういう人間です、と。それを当時の言葉でMAX伝えたのが上記メッセージなのである。不格好だけどこれが私の誠実だった。

    ●

    そして辻さんはこのメッセージに対し

    【2008年12月20日05:03】
    おっけい、了解。

    と短く返して、そこからずっと絵本の話をしてくれた。
    救われた、と思った。


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    残り4日となったところで、我々の師である枡野浩一さんに絵本をみてもらう。プロの歌人からみて、この作品はどう映るのか。

    即座に返信が来て、そこに素晴らしいアイデアが書かれていた。

    【2008年12月21日14:22】
    これって最初に歌があって、
    それに絵をつけたのかな?

    今ある絵をもとに、
    また逆に歌を書き下ろすくらいの気持ちで
    取り組むと、
    絵と言葉の距離が出て、
    絵本ならではの表現になると思います。

    図星だった。
    ずっと、辻さんの短歌→私の絵
    で作業をしてきたから。
    短歌から発想して絵を描いていた。でも枡野さんは

    辻さんの短歌→私の絵→辻さんの短歌
    の順で作ったものがあってもいいんじゃないかと。

    私の絵を翻訳して、辻さんが短歌をつくる?!?!

    そんな方法があったとは!

    ●

    ここから、辻さんがめちゃくちゃ頑張って短歌を量産してくれた。たとえキクラゲから離れたとしてもよい短歌であれば、その引力でなんとかなるから、いろんなタイプの短歌をつくってくれた。

    当時の書き込みに

    【2008年12月24日00:32】
    なんかどっちが本業なんだかわからなくなってきた(笑)

    とあるくらい、激務をこなしつつ、絵本制作をやり込んでくれた。
    そして、完成したのがこちらだ

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    この頃、仕事として絵を描くことがあったけど、それらは与えられた指示を守って、その上での飛躍を考えるものだった。

    でもこれは仕事じゃない。何してもいい。
    自分の翻訳が、辻さんに届いてそれが短歌になる。
    こんなに嬉しいことがあるんだなあ。


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    そして絵本は完成した。
    制作を始めるとき、以下の内容を共通認識として私は辻さんに伝えた。

    【2008年12月14日19:11】
    絵本だからといって「子どもな君たち向けにつくってみたよ」と媚びることは絶対しちゃいけないとおもうのです。というか、子どもの目って媚びている本とそうでない本を大人以上に見分けている。
    子どもは大人より、気高くシビアな読者かも。

    そしたら辻さんも同意してくれた。

    【2008年12月14日22:34】
    ほんとうにその通りと思います。
    僕は子どもの頃、「大きくなったねー」と言われるたびに、
    「しばらく会ってないんだから、こっちだって大きくなるわい」
    と思ってました。言わなかったけど。
    子どもは、見分けます。

    だから、大人の本気を全力で絵本にぶつけた。
    わからない?って下に見た不安を抱くんじゃなくて、
    「つくった我々はこれがいいと思っている」という自信を、そのまま子どもを信頼して投げた。たとえわからなくても、伝わるものは伝わる。

    提出フォームの送信ボタンを押したとき、ものすごく晴れやかな気分だった。私たちはこれを、最後までやれたから。

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    パソコンを閉じた後、眠いのに眠れなくて、真冬の静まり返った住宅街を一人で歩く。息が白いのが嬉しくて、気づいたらこんな遠くまで来てしまった。

    丘の上にある民家の屋根に、増設した物干し台がある。
    そこにゆっくり朝日が差してくる。

    よくわからんけど美しいと思った。
    後から無理やりつくった場所がもつ、おかしみと、かわいらしさ。

    私も
    ああなればいいんだろうか。

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    2011年の初夏。
    岡山の後楽園で結婚式をした。

    私が高校時代、図書館帰りに豚まん食べた川の中洲にある日本三名園。

    ここに至るまで「好き」って言葉を恋愛的に一度も使ってない気がする。
    ひたすらお互い勝手にやりたいことを「してもいいですか?」って質問して、それに応えたり、応えなかったり、別の案を出したり。そうやって関係をゼロからつくった。

    白無垢を着て、外をみる。
    雨予報だったのにいつのまにか晴れて、芝生がツヤツヤ輝いている。

    絵本の結果は一次選考通過に留まった。20/2000くらいの位置。
    もったいないから、自家製本して披露宴の引き出物に入れた。これを読めば我々とは何かがすぐわかるから。

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    式が始まる前、お庭で写真を撮られていると、なぜか涙が止まらなくなった。結婚が嫌なわけじゃない。むしろ嬉しいはずなのに、心の何かがオーバーフローして、堰を切ったように溢れてきた。泣き笑いで大丈夫と伝える。

    「そういうのよくありますよ、一世一代のイベントですもの」と優しくされる中で、
    辻さんだけは真面目な顔で
    「また無理に何かを飲み込んでるんじゃないですか?」と踏み込んでくる。そして小声で
    「式は始まってない。延期も中止もできるんだから」
    と言われた。

    時間がきて、会場に行くのを促される。
    その時には涙がひいて、スイッチを切り替えたようにいつもの私に戻っていた。

    父に手を引かれるのではなく、辻さんと二人で入場する。

    拍手の中、前をいく辻さんが、何度も振り返る。

    客席から笑いが起きる。いつもの挙動不審な辻さんだ!
    式でも緊張してるねえって。

    でも私は知ってる。
    ここにきても後ろを振り返って、
    「これでいいですか?」
    「本当にあなたは僕と結婚していいんですか?」
    って私に聞いてくれてるって。

    ●

    ああ、辻さんだなあと思った。
    結婚式の日も、辻さんでしかない。

    結局私は恋がわからなかった。
    でも、恋じゃない全部をこんなに回せたのは辻さんだからなんだって。トキメキもドキドキもないけど、愛なら私もわかるから。

    だから、彼に向かって少しだけ笑った。

    これから「これがいいです」って答えを勝手に伝えなきゃと思った。





    医学生時代の辻さんが
    短歌に出会うまでの漫画はこちら