
エンドレス・インスタント・サマー|#04 「同じとこ」
あらすじ
世界は壊れ、人は姿を消した。
少女と男の、ふたりを残して。
終わることを知らない夏。
静まり返った街の中――自由気ままな少女 「ニナ」は、カセットプレーヤーを再生し、
ボリュームを上げる。
気だるげな男「ロン」は、煙草に火を点け、
煙を燻らせる。
ふたりは、先々の廃墟を遊び場に変え、
今を歩いてゆく。
ニナとロンの永い夏休みを収録した、
終末の一片。
04. 同じとこ
淡い水色とオレンジ色が移り変わる空。草が生い茂り、ゴミが散乱する荒れた河川敷を真夏の夕日が包む。風は、ない。
サングラスをかけたロンが、小石の敷かれた川沿いに寝転がっている。ニナは、川に向かって小石を投げる。リュックから顔を覗かせたぬいぐるみが、投げるたびに揺れた。
水面に、ちゃぽんと落ちる小石の音。
ニナは、新たな小石を探しながら、
「ねえ。どうする?今日」
「どこだっていい」
顔を上げ、ロンの方を見たニナが、
「テキトーすぎ」
「寝れれば、どこも同じだろ」
「全然違うし」
仏頂面のニナが、また川に小石を投げた。
ちゃぽん。
波紋が広がり、水に落ちた音が消えた。
ロンが、ゆっくり起き上がってサングラスを上げると、しゃがんで川を眺めるニナの姿があった。ぬいぐるみの間の抜けた目が、ロンを見つめる。
「……」
ロンが周囲に目をやると、住宅地が見えた。
「おい」
その声に呼ばれて、ニナが振り返る。
ロンは、大きなグレーの一軒家を親指でさした。
「あの家でいいだろ」
ニナは、立ち上がった。ロンが指さした家をじっと見る、その猫目。
「やだ。ださい」
「だる……」
ふと川沿いを離れると、ニナは階段を駆け上がっていく。ロンは、その姿を一瞬目で追うが、すぐ川に視線を戻した。
周囲をぐるっと見回す、ニナ。変わり映えのない家々。やがて、川沿いの方を向き、
「ロン。あっち行こ」
「まだ歩くのかよ」
「このへん、やだ。全部同じ」
「……」
ロンは、くしゃくしゃになったパッケージをポケットから取り出すと、煙草に火を点けた。吐き出されていく煙が、漂う。
「はぁ……」
ロンは、重い腰を上げて歩き始める。
カセットプレーヤーの再生ボタンが、ニナの指に押された。ヘッドフォンから、口笛のようなイントロが流れてくる。
ロンが、だらだらと階段を上がっていく。ニナは、河川敷の道を静かに歩き出す――リュックの中のぬいぐるみが、歩くたびに小さく揺れた。
先を行くニナと、後をついて行くロン。
ふたりの影が、夕日に長く伸びた。
〈了〉
〜誰かのミックステープ〜
ニナが、河川敷を歩く時に聴いていた曲。
cero
「Orphans」
【#05】
【マガジン】