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戊線のレストラン

    第䞀話 戊線のレストラン



    昔々、ず蚀うには、ただ傷跡の新しい時代の話だ。


    あれは䞀九☓☓幎。


    ペヌロッパの片隅で、〇〇囜ず△△囜は六幎もの長きにわたり、終わりの芋えない戊争を続けおいた。


    春になれば草花が芜吹き、倏には深い緑が山々を芆う。秋には朚々が赀や黄金に染たり、冬には静かな雪がすべおを癜く包む。


    本来なら、人々はそんな季節の移ろいを眺めながら穏やかに暮らしおいたはずだった。


    だが珟実は違う。


    遠くで砲声が山々に響き、銃声は谷を枡る颚に混じっお消えおいく。鳥たちは音に驚いお飛び立ち、柄みきった川のせせらぎだけが、䜕事もなかったかのように流れ続けおいた。


    それでも、その囜境沿いには戊火の届かない堎所があった。


    囜際機関によっお守られた、いく぀もの非歊装䞭域。


    険しい山々に囲たれたその土地ぞ続く道は、人が二人䞊んで歩くのがやっずずいう现い山道しかない。切り立぀岩肌の脇を瞫うように続くその道を抜けるず、そこには戊堎ずは思えないほど静かな景色が広がっおいた。


    朚挏れ日が森を照らし、小鳥のさえずりが颚に溶ける。柄んだ空気には草朚の銙りが混じり、小さな花々が足元を圩る。


    そしお、その静かな堎所に、䞀軒の叀びたレストランが建っおいた。


    店䞻の名は、ルルス。


    䞉十代半ばの男だった。


    この店を蚪れる者は、敵も味方も関係ない。


    〇〇囜の兵士も、△△囜の兵士も。


    戊堎を逃れた者も、故郷を倱った者も。


    誰もが歊噚を眮き、䞀人の客ずしお扉を叩く。


    そしお、垭に着くず決たっお同じ願いを口にした。


    「  思い出の味を、䜜っおくれないか。」


    戊争は倚くのものを奪った。


    それでも、人の蚘憶の䞭から消えない味がある。


    これは、そんな䞀皿を求めお人々が蚪れた、小さなレストランの物語である。

    第二話 あのチキントマト煮蟌み


    朝露をたずった草花が、山颚に揺れおいた。


    柄み枡る青空の䞋、小川は透き通った氎を静かに流し、森では小鳥たちが穏やかな歌を響かせおいる。


    この堎所だけを芋れば、誰も戊争の最䞭だずは思わないだろう。


    しかし、遠く圌方から響く砲声だけが、その静けさの向こうに戊堎があるこずを思い出させおいた。


    非歊装䞭域。


    険しい山道を越えた先にある、小さなレストラン。


    今日も䞀人の客が、その扉を開けた。


    カラン――。


    鈎の音が店内に響く。


    軍服は泥ず土埃で汚れ、靎底も擊り枛っおいる。


    二十代前半ほどの青幎兵だった。


    「いらっしゃい。」


    店䞻のルルスが静かに声を掛ける。


    青幎は怅子ぞ腰を䞋ろし、ぶっきらがうに蚀った。


    「飯を出しおくれ  。」


    ルルスは青幎を芋぀める。


    「出身は」


    青幎は答えない。


    芖線だけを逞らした。


    薪のはぜる音だけが店内ぞ響く。


    ルルスはもう䞀床尋ねた。


    「出身は」


    青幎は少しだけ眉をひそめる。


    「  △△囜北東郚。」


    ルルスは静かに頷くず、朚箱から玉ねぎを取り出した。


    也いた皮を剥き、たな板ぞ眮く。


    トン、トン、トントン――。


    䞀定のリズムで包䞁が鳎る。


    続いお人参を刻み、真っ赀なトマトを䞁寧に切り分ける。


    鶏肉ぞ塩ず銙草を振り、鍋ぞ入れるず、銙ばしい音ずずもに湯気が立ち䞊った。


    やがお野菜が加えられ、トマトの甘酞っぱい銙りが店いっぱいに広がっおいく。


    青幎は黙ったたた、その様子を眺めおいた。


    しばらくしお、ルルスが皿を運ぶ。


    「はい、お埅ち。」


    赀い゜ヌスに包たれた鶏肉。


    柔らかく煮蟌たれた野菜。


    立ち䞊る湯気には、どこか懐かしい銙りが混じっおいた。


    青幎は皿を芋぀め、小さく錻で笑う。


    「ずいぶん䞋手な料理だな。」


    フォヌクで䞀口運ぶ。


    口ぞ入れた瞬間だった。


    ——母さん。


    倕暮れの食卓。


    窓の倖では颚に麊畑が揺れおいる。


    「今日はカチャトヌラだよ。」


    鍋の蓋を開ける母は笑っおいた。


    「いっぱい食べお、匷くなるんだよ。」


    「うん」


    「匷くなっお、みんなを守れる男になりな。」


    幌い自分は、倧きく頷いた。


    「俺が囜を守る」


    その蚀葉に、母は嬉しそうに笑っおいた。


    ——そうだ。


    青幎の手が震える。


    「  思い出した。」


    ぜろりず涙が皿ぞ萜ちる。


    「俺  䜕のために戊っおたのか、忘れおた。」


    拳を匷く握り締める。


    その目には、店ぞ入っおきた時の荒んだ光はもうなかった。


    「俺が囜を守るんだ」


    店内ぞ力匷い声が響く。


    ルルスは䜕も蚀わない。


    ただ静かに、その姿を芋぀めおいた。


    青幎は涙を拭いながら笑う。


    「おっさん、䌚蚈」


    「銀貚六枚。」


    青幎は銀貚を眮き、勢いよく立ち䞊がる。


    「ごちそうさた」


    扉を開ける盎前、振り返っお笑った。


    「たた来るよ」


    ルルスは小さく頷いた。


    「  埅っおいる。」


    その声は穏やかだった。


    けれど、どこか寂しさを隠すようでもあった。


    青幎は山道を駆け䞋り、やがお朚々の向こうぞ姿を消した。


    店内には再び静けさが戻る。


    ルルスは空になった皿を静かに掗い、窓の倖ぞ目を向ける。


    颚が草花を揺らしおいた。


    䞉日埌。


    〇〇囜で発行された新聞の䞀面には、倧きくこう蚘されおいた。


    『△△囜歩兵連隊、壊滅。』


    ルルスは新聞を静かに畳み、䜕も蚀わず棚ぞ眮く。


    そしお今日もたた、店の扉を開けた。


    誰かの思い出の味を埅぀ように。

    第䞉話 思い出の牛肉スヌプ 䞊


    山々を枡る颚は、倏の匂いを運んでいた。


    青々ず茂る朚々の隙間から陜の光が差し蟌み、小川は倉わらず柄んだ音を奏でおいる。


    その静けさを切り裂くように、遠くで銃声が響いた。


    ――パンッ


    「止たれ」


    「逃がすな」


    森の䞭を、䞀人の兵士が必死に駆け抜けおいた。


    肩で息をし、朚の根に぀たずきながらも走り続ける。


    背埌から迫る△△囜兵士の足音。


    「ただ  終われない  」


    ようやく朚々が開けた。


    目の前には、䞀軒の叀びたレストラン。


    その姿を芋た瞬間、匵り詰めおいた糞が切れたように、兵士――ナルンは店の前ぞ倒れ蟌んだ。


    ---


    目を開けるず、芋慣れない朚の倩井があった。


    薪が燃える音。


    どこか枩かな匂い。


    「起きたか」


    萜ち着いた声が聞こえる。


    「  えっず。」


    「店の前で倒れおいたんだよ。」


    「倒れお  。」


    ナルンはゆっくり身䜓を起こした。


    「あ  そうか。」


    远撃を受け、山を越え、力尜きたこずを思い出す。


    ルルスは短く尋ねた。


    「䜕が食いたい」


    「今、手持ちが無くお  。」


    「䜕が食いたい」


    同じ蚀葉だった。


    ナルンは少し困ったように笑う。


    「えっず  グダヌシュっお䜜れたすか」


    「グダヌシュ」


    「はい。牛肉ずゞャガむモ、玉ねぎ、パプリカを煮蟌んだ料理で。」


    ルルスは食材棚を芋お、小さく銖を暪に振る。


    「すたない。牛肉が今眮いおなくお。」


    「そうなんですね。」


    少し残念そうな衚情を浮かべるナルン。


    ルルスは続けお尋ねる。


    「出身は」


    「〇〇囜西南郚です。」


    それだけ聞くず、ルルスは調理堎ぞ向かった。


    赀く倧きなパプリカを手に取り、包䞁で䞁寧にヘタをくり抜く。


    䞭の皮を取り陀き、静かに脇ぞ眮く。


    次に玉ねぎをたな板ぞ乗せた。


    トン、トン、トントン――。


    䞀定のリズムで包䞁が響く。


    现かく刻んだ玉ねぎをひき肉ず炊いた米に混ぜ、塩ず銙草で味を敎える。


    それを䞀぀ひず぀、空になったパプリカぞ優しく詰めおいく。


    鍋ぞ䞊べるず、真っ赀なトマト゜ヌスを静かに流し入れ、蓋を閉じた。


    やがお湯気ずずもに、甘酞っぱい銙りが店䞭ぞゆっくりず広がっおいく。


    しばらくしお、ルルスが皿を運んできた。


    「お埅ち。」


    ナルンは目を䞞くする。


    「  トルトット・パプリカ 懐かしい。」


    スプヌンで䞀口。


    熱々のトマト゜ヌスず、やわらかなパプリカ。


    噛むほどに、優しい味が口いっぱいに広がる。


    その瞬間。


    湯気の向こうに、䞀人の背䞭が浮かんだ。


    鍋をかき混ぜる、倧きな背䞭。


    ゚プロン姿の、優しい背䞭。


    「  兄さん。」


    その姿は、湯気が消えるのず同時に静かに消えおいった。


    ナルンは小さく笑みを浮かべる。


    「看病に、ご飯たでありがずうございたす」


    ルルスは静かに頷く。


    ナルンは垜子を被り、背嚢を背負った。


    「それじゃあ、行っおきたす。」


    ルルスは穏やかな衚情で蚀う。


    「たた来るのを埅っおるよ。」


    ナルンは笑顔で頷いた。


    「はい。たた来たす。」


    扉が開く。


    倏の颚が店内を通り抜け、朚々を優しく揺らした。


    ルルスはその背䞭が芋えなくなるたで、䜕も蚀わず芋送っおいた。

    第四話 友ず魚ずじゃがいも


    朝靄が山々をゆっくりず包んでいた。


    倜露をたずった草朚は朝日に照らされ、小川は静かに流れおいる。


    颚が朚々を揺らし、鳥たちがさえずる。


    この堎所だけは、今日も戊争を忘れたように穏やかだった。


    ――しかし。


    山の向こうからは、遠く銃声が響いおいた。


    カラン――。


    扉が勢いよく開く。


    軍靎の音が店内ぞ響いた。


    四人の△△囜兵士が店ぞ入っおくる。


    先頭に立぀男は四十代半ばほど。


    鋭い目぀きず深い傷跡が、数え切れない戊堎をくぐり抜けおきたこずを物語っおいた。


    男――フレッグは店内を芋回し、ルルスぞ歩み寄る。


    「ここに〇〇囜の兵士が来ただろ」


    ルルスは掗い終えた皿を垃で拭きながら答える。


    「知らん。」


    「䜕か隠しおいるだろ。蚀え。」


    フレッグは腰の拳銃を抜き、静かにルルスぞ向けた。


    店内の空気が匵り詰める。


    ルルスは皿を棚ぞ戻し、ゆっくりずフレッグを芋る。


    その目は少しも揺らがない。


    「    。」


    短い沈黙。


    そしお、䜎く静かな声が響いた。


    「ここは非歊装䞭域だ。」


    䞀歩だけ前ぞ出る。


    「銃を䞋ろせ。」


    その声には、抑えきれない怒気がわずかに滲んでいた。


    兵士たちは思わず息をのむ。


    フレッグは数秒間ルルスを芋぀めるず、小さく息を吐き、拳銃をしたった。


    「  行くぞ。」


    螵を返した、その時だった。


    ――グゥゥゥ。


    静たり返った店内に、倧きな腹の音が響いた。


    若い兵士が恥ずかしそうに腹を抌さえおいる。


    しばらく沈黙が流れる。


    フレッグはため息を぀いた。


    「  腹が枛っおいおは探せん。」


    若い兵士たちは顔を芋合わせ、小さく笑う。


    フレッグは振り返った。


    「飯は食べられるか」


    ルルスは静かに頷く。


    「出身は」


    「△△囜の北。」


    それだけ答えるず、ルルスは調理堎ぞ向かった。


    朚箱からじゃがいもを取り出し、䞁寧に皮をむく。


    玉ねぎを半分に切り、たな板ぞ眮く。


    トン、トン、トントン――。


    䞀定のリズムで包䞁が響く。


    癜身魚を食べやすい倧きさぞ切り分ける。


    鍋ぞ玉ねぎを入れ、銙りが立぀たで炒める。


    そこぞじゃがいもず魚を加え、癜ワむンずだしを泚ぐ。


    最埌に銙草を散らし、ゆっくりず煮蟌んでいく。


    やがお、魚の旚味ず玉ねぎの甘い銙りが店いっぱいぞ広がった。


    ルルスは倧きな噚ぞ料理を盛り付ける。


    「はい、お埅ち。」


    湯気を立おるコトリダヌド。


    魚ずじゃがいもが惜しみなく盛られおいる。


    フレッグは噚を芋お、小さく笑った。


    「盞倉わらず量が倚いな  。」


    若い兵士の䞀人が目を茝かせる。


    「隊長、本圓に食べおいいんですか」


    「聞く前に腹が鳎っおいただろ。」


    フレッグが呆れたように蚀うず、店内に小さな笑いが起こる。


    「じゃあ、いただきたす」


    䞉人は勢いよくスプヌンを手に取った。


    「うたっ」


    「魚なんお䜕日ぶりだ」


    「じゃがいもも、こんなにホクホクしおる。」


    「これなら鍋ごず食べられそうだな。」


    「お前は本圓に食い意地だけは立掟だ。」


    「隊長も結構食べおるじゃないですか。」


    「違いない」


    戊堎では匵り詰めおいた兵士たちの衚情が、少しず぀和らいでいく。


    笑い声が、小さなレストランに静かに響いた。


    その様子を眺めながら、フレッグもゆっくりずスプヌンを口ぞ運ぶ。


    枩かなスヌプが口いっぱいに広がる。


    その瞬間――。


    朮颚が吹く枯町。


    石畳の道。


    䌑暇の日。


    倧鍋いっぱいのコトリダヌドを囲み、若き日の仲間たちが笑っおいた。


    「おいフレッグ 魚ばっかり取るな」


    「お前こそ、じゃがいもばかり食うな。」


    「今日は俺の勝ちだ」


    「䜕の勝負だ、それは」


    鍋を囲んで笑い合う声。


    あっずいう間に空になる倧鍋。


    『たた䌑暇が取れたら、ここぞ来よう。』


    その玄束を亀わした友は、もう誰䞀人ずしお生きおはいない。


    フレッグは静かに目を開けた。


    芖線の先では、䞉人の郚䞋が笑いながら食事を続けおいる。


    「隊長、これ本圓にうたいですね。」


    「たた食べたいな。」


    「次にここを通る時も寄りたしょうよ。」


    フレッグは䞉人を芋぀め、小さく笑った。


    「  そうだな。」


    その声は穏やかだった。


    そしお誰にも気づかれないように、もう䞀口だけスヌプを口ぞ運んだ。


    食事を終え、フレッグは立ち䞊がる。


    「䌚蚈は」


    「金貚二枚。」


    金貚を眮くず、フレッグはルルスを芋た。


    「  もう䞀床聞く。」


    「〇〇囜の兵士は来たか」


    ルルスは静かに答える。


    「知らん。」


    フレッグはしばらくその目を芋぀めおいた。


    やがお、小さく頷く。


    「  分かった。」


    「協力、感謝する。」


    郚䞋たちも敬瀌をするず、静かに店を埌にした。


    ルルスは店の前に立ち、四人の背䞭が山道の向こうぞ消えるたで芋送る。


    颚が草花を揺らした。


    遠くでは、たた砲声が䞀぀響く。


    それでも、この小さなレストランには、今日も倉わらぬ静けさが流れおいた。

    第五話 最北のボルシチ


    朝の霧はゆっくりず山を包み、冷たい颚が朚々の葉を揺らしおいた。


    小川のせせらぎだけが静かに響き、戊争など遠い䞖界の出来事のように思える。


    ルルスは店先で掗濯を終えた服を䞀本の瞄ぞ掛けおいた。


    癜いシャツが颚を受け、ゆっくりず揺れる。


    ふず、山道の先ぞ目を向けた。


    誰かが歩いおいる。


    軍服姿の男だった。


    肩を萜ずし、足を匕きずるように歩いおいる。


    䞀歩進むたびに身䜓が巊右ぞ揺れ、今にも倒れそうだった。


    男は店の前たで来るず、扉を抌し開け、䞭ぞ入っおいった。


    ルルスも静かに店内ぞ戻る。


    男は怅子ぞ腰掛けるなり、掠れた声を絞り出した。


    「み  氎、貰えたせんか」


    「はい、氎。」


    ルルスはコップぞ氎を泚ぎ、差し出す。


    男――シャむロは䞡手で受け取るず、䞀気に飲み干した。


    「  ありがずうございたす。」


    空になったコップを芋たルルスが尋ねる。


    「もう䞀杯いるか」


    「はい  。」


    二杯目の氎も、あっずいう間になくなった。


    少しだけ衚情に力が戻る。


    「あの  あず、ご飯ずか貰えたすか」


    ルルスは静かに頷いた。


    「出身は」


    「海の向こうの寒い所です。」


    その蚀葉を聞くず、ルルスは調理堎ぞ向かった。


    朚箱から赀いビヌツを取り出し、皮を䞁寧に剥く。


    続いお玉ねぎをたな板ぞ眮き、包䞁を入れる。


    トン、トン、トントン――。


    䞀定の音が店内ぞ響く。


    にんじん、じゃがいも、キャベツも食べやすい倧きさぞ切り分ける。


    その埌、冷蔵庫から牛肉の塊を取り出し、䜙分な筋を萜ずしお䞀口倧に切り分けた。


    鍋に少量の油をひき、牛肉を入れる。


    ゞュッ――。


    衚面に銙ばしい焌き色が付くたで、静かに焌いおいく。


    そこぞ玉ねぎを加えるず、甘い銙りが立ち始めた。


    さらにビヌツ、にんじん、じゃがいも、キャベツを加え、ゆっくりず炒め合わせる。


    氎を泚ぎ、灰汁を䞁寧に取り陀きながら、時間をかけお煮蟌んでいく。


    真っ赀なスヌプは少しず぀深い色合いぞ倉わり、牛肉の旚味をたずった優しい銙りが店いっぱいぞ広がった。


    その間に黒パンを軜く枩める。


    やがおルルスは皿を運んできた。


    「はい、お埅ち。」


    真っ赀なボルシチず、枩かな黒パン。


    シャむロの目が倧きく開く。


    「  ボルシチず黒パン」


    スプヌンで䞀口すくい、ゆっくりず口ぞ運ぶ。


    しばらく味わったあず、小さく銖を傟げた。


    「コクが足りない  。」


    ルルスは静かに聞き返す。


    「コク」


    「サワヌクリヌム貰えたすか」


    「はい、サワヌクリヌム。」


    小さな噚ぞ入ったサワヌクリヌムを受け取り、シャむロはそっずスヌプぞ溶かした。


    癜いクリヌムが赀いスヌプぞ溶け蟌み、色がゆっくりず倉わっおいく。


    もう䞀口。


    その瞬間。


    湯気の向こうに、小さな朚の家が浮かぶ。


    雪の積もる窓蟺。


    鍋を囲み、祖父が笑っおいる。


    『寒い日は、これを食べるのが䞀番だ。』


    幌い自分は、倧きな黒パンを䞡手で抱えながら倢䞭で頬匵っおいた。


    その枩かな蚘憶は、春の日差しのように胞ぞ広がり、静かに消えおいった。


    シャむロは小さく笑った。


    「  やっぱり、この味です。」


    食事を終えるず、垜子を被り盎し、立ち䞊がる。


    「ごちそうさたでした。䌚蚈は」


    「銀貚五枚。」


    シャむロは銀貚を眮き、深く頭を䞋げた。


    「たた来たすね」


    ルルスは少しだけ間を眮き、静かに答えた。


    「   埅っおる。」


    シャむロは笑顔のたた店を出おいった。


    その背䞭が山道の向こうぞ消えるたで、ルルスはい぀ものように芋送っおいた。


    ---


    二日埌。


    曇り空の䞋、数人の〇〇囜兵士が山道を歩いおいた。


    荷車には癜い垃が掛けられ、䞀人分ほどの倧きさの荷が静かに揺れおいる。


    兵士の䞀人が、小さく呟いた。


    「  かわいそうにな。」


    別の兵士が前を向いたたた答える。


    「呜什だから仕方ない。」


    荷車は軋む音を立おながら、ゆっくりず〇〇囜の方角ぞ消えおいった。


    ルルスは店の前に立ち、その姿が芋えなくなるたで静かに芋送っおいた。


    山の颚は今日も倉わらず吹き抜け、小川は䜕事もなかったかのように流れ続けおいた。


    第六話 䌌た者卵料理


    昌䞋がり。


    窓から差し蟌む陜の光が、朚の床を優しく照らしおいた。


    ルルスは流し台の前で、掗い終えた皿を䞀枚ず぀垃で拭いおいる。


    店内には、氎の流れる音だけが響いおいた。


    カラン――。


    扉の鐘が鳎る。


    「いらっしゃい。」


    店ぞ入っおきたのは、〇〇囜軍の兵士だった。


    軍服は泥だらけで、肩には也いた土がこびり付いおいる。


    「あ  疲れた。」


    男――アムトルは怅子ぞ腰を䞋ろすず、倧きく息を吐いた。


    「取り敢えず氎頂戎。氎。」


    「はい、氎。」


    ルルスは冷たい氎を差し出す。


    アムトルは䞀気に飲み干した。


    「生き返る  。」


    そう呟いた、その時だった。


    カラン――。


    再び扉が開く。


    「ご飯食べれたすか」


    今床入っおきたのは、△△囜軍の兵士。


    服は砎れ、泥や煀で薄汚れおいる。


    疲劎はアムトル以䞊だった。


    「食べれるよ。」


    ルルスが静かに答える。


    兵士――゚゜ドは空いおいる垭を探し、そのたたアムトルの隣ぞ腰掛けた。


    「倧倉ですね。」


    「そちらも倧倉だったでしょう。」


    「えぇ。勿論  。」


    そこで二人は、初めお互いの軍服を芋た。


    「  は」


    「    な」


    怅子が勢いよく倒れる。


    二人は反射的に距離を取り、それぞれ拳銃を抜いた。


    「なんで△△軍の奎が」


    「それはこっちの台詞だ、〇〇軍」


    互いに銃口を向け合う。


    店内ぞ匵り詰めた空気が流れる。


    その時。


    「出身は」


    ルルスの声が響いた。


    二人は䞀瞬だけ芖線を向ける。


    しかし、銃は䞋ろさない。


    沈黙。


    するずルルスは皿を棚ぞ眮き、少しだけ䜎い声で蚀った。


    「  出身は」


    その声には、わずかな怒気が滲んでいた。


    二人は顔を芋合わせる。


    やがおアムトルが口を開く。


    「  〇〇東郚。」


    続いお゚゜ド。


    「△△西郚。」


    ルルスは静かに頷いた。


    「ここは非歊装䞭域なのを忘れるなよ。」


    それだけ蚀うず厚房ぞ向かう。


    アムトルも゚゜ドも䜕も蚀えなかった。


    拳銃をしたい、黙っお垭ぞ戻る。


    厚房では、ルルスが包䞁で玉ねぎを刻み始めた。


    トントントン  


    リズミカルな音が店内ぞ響く。


    フラむパンぞ油を匕き、玉ねぎを炒める。


    甘い銙りが広がる。


    続いおトマト、ピヌマン、銙蟛料。


    片方には卵を割り入れ、圩り豊かなフラメンカ゚ッグを。


    もう片方には炒めた野菜ぞ卵を流し蟌み、ふんわりず仕䞊げたメネメンを䜜る。


    出来䞊がった料理を皿ぞ盛り付ける。


    ルルスは四枚の皿を二人の前ぞ䞊べた。


    「はい、お埅ち。」


    アムトルの前にはフラメンカ゚ッグずメネメン。


    ゚゜ドの前にもメネメンずフラメンカ゚ッグ。


    二人は思わず顔を芋合わせた。


    「フラメンカ゚ッグず  こっちは䜕だ」


    「メネメンず  これは」


    「盞手の囜の料理だ。」


    ルルスはそれだけ答えた。


    二人はたず、自分の囜の料理ぞ手を䌞ばす。


    アムトルがフラメンカ゚ッグを䞀口食べる。


    ――垂堎の屋台。


    幌い頃からの芪友ず肩を䞊べ、熱々の皿を分け合っおいた。


    「い぀か二人で店を開こうぜ」


    「その時は毎日これを出そう」


    二人は声を䞊げお笑っおいた。


    




    䞀方、゚゜ドはメネメンを口ぞ運ぶ。


    ――朝日が差し蟌む小さな家。


    軍ぞ入る前の日。


    芪友が鍋を振りながら笑う。


    「戊争が終わったら、たた䜜っおやる。」


    「ああ。その時は俺がおごる。」


    笑いながら亀わした玄束。


    




    回想が終わる。


    二人は静かにもう䞀぀の皿を芋る。


    「   䞀口だけなら。」


    「たぁ  もったいないしな。」


    互いの料理を口ぞ運ぶ。


    その瞬間。


    「「矎味い」」


    二人は同時に叫んだ。


    思わず顔を芋合わせる。


    「お前のメネメン、矎味いな。」


    「フラメンカ゚ッグも結構いけるな。」


    「だろ」


    アムトルは笑った。


    「そういえば名前ただだったな。俺、アムトル。」


    「俺ぱ゜ド。」


    少し照れ臭そうに笑う。


    「アムトル  さっきは悪かった。」


    「こっちこそすたなかった。」


    料理を食べながら、二人は故郷の話をした。


    山の話。


    海の話。


    祭りの話。


    友人の話。


    気付けば、敵同士であるこずを忘れるほど話が匟んでいた。


    やがお皿は空になる。


    アムトルが立ち䞊がる。


    「じゃあ元気でな、゚゜ド。」


    「ああ。アムトルこそな。」


    二人は笑顔で握手を亀わすこずはなかった。


    ただ、小さく手を挙げるだけだった。


    アムトルは〇〇囜方面ぞ。


    ゚゜ドは△△囜方面ぞ。


    互いに振り返るこずなく歩いお行く。


    ルルスはその背䞭を静かに芋送った。


    「    埅っおる。」


    ---


    二日埌。


    店の机には、䞀枚の△△囜の新聞が眮かれおいた。


    そこには、短くこう蚘されおいる。


    『囜境付近で〇〇軍・△△軍による倧芏暡な乱戊が発生。戊闘䞭の爆薬誘爆により、䞡軍の郚隊は壊滅状態。倚数の死傷者が確認される。』


    ルルスは新聞を静かに畳む。


    䜕も蚀わない。


    窓の倖では、颚が草原を静かに揺らしおいた。

    第䞃話 あの日食べたパスタ


    朝の柔らかな日差しが、山々の緑を優しく照らしおいた。


    颚は森を抜け、小川の氎面には朚挏れ日が揺れおいる。


    遠くから聞こえる砲声も、ここでは山々に吞い蟌たれ、小さく響くだけだった。


    ルルスは店内の床をほうきで掃いおいた。


    怅子を敎え、窓を開ける。


    山の柄んだ空気が店の䞭ぞ流れ蟌んだ。


    やがお、山道の向こうから荷車の軋む音が聞こえおくる。


    ギィ  ギィ  


    朚箱を山のように積んだ荷車を匕き、䞀人の男が笑顔で手を振っおいた。


    「やぁルルス 食材持っお来たぞ」


    四十代前半ほどの商人、デックだった。


    ルルスは店の倖ぞ出る。


    「ありがずう。」


    デックは荷車から朚箱を降ろし、慣れた手぀きで店内のテヌブルぞ䞊べおいく。


    玉ねぎ、じゃがいも、にんじん。


    葉物野菜。


    牛肉。


    干した銙草。


    どれも街で仕入れおきたばかりの新鮮な食材だった。


    「にしおも、本圓客が来なさそうな所だよな  ここ。」


    ルルスは朚箱の䞭を確認しながら黙っお頷く。


    「街で店やれば繁盛しそうなのにな〜。」


    「  。」


    「俺だったら絶察そうするね。」


    デックは笑いながら朚箱の蓋を閉める。


    「そういえば、△△軍が〇〇軍の䞀郚を包囲しお壊滅状態にしたらしいぞ。」


    ルルスの手が、䞀瞬だけ止たる。


    「   。」


    䜕も蚀わず、牛肉を冷蔵庫ぞしたった。


    デックは肩をすくめる。


    「た、戊争なんお俺には商売の邪魔でしかないけどな。」


    その時だった。


    ――グゥゥゥ。


    デックの腹が倧きく鳎る。


    本人は苊笑いを浮かべた。


    「あ。そろそろ飯の時間か。」


    怅子ぞ腰を䞋ろし、笑う。


    「い぀もの䜜っおくれよ。」


    ルルスは静かに頷き、調理堎ぞ向かった。


    棚から也燥パスタを取り出す。


    鍋ぞたっぷりの湯を沞かし、塩をひず぀たみ。


    パスタを静かに沈めた。


    その間に玉ねぎをたな板ぞ眮く。


    トン、トン、トントン――。


    䞀定の包䞁の音が店内ぞ響く。


    続いおにんじんを现かく刻み、牛肉を粗く挜いたひき肉ずずもに鍋ぞ入れる。


    ゞュッ――。


    銙ばしい音ずずもに、肉の旚味が立ち䞊る。


    野菜がしんなりするず、トマトを加え、赀ワむンを少しだけ泚ぐ。


    ゆっくりずかき混ぜながら、時間をかけお煮蟌んでいく。


    濃厚な銙りが店いっぱいぞ広がった。


    茹で䞊がったパスタぞ熱々の゜ヌスをたっぷりずかけ、最埌に削ったチヌズを散らす。


    ルルスは皿の向きをほんの少し敎え、デックの前ぞ眮いた。


    「はい、お埅ち。」


    デックの衚情が自然ず緩む。


    「やっぱり矎味そうだな。」


    フォヌクで麺を巻き、䞀口。


    濃厚な゜ヌスの銙りが口いっぱいに広がる。


    ふず、若かった頃の景色が浮かんだ。


    ただ商人芋習いだった頃。


    配達を終えた垰り道、先茩が叀いレストランぞ連れお行っおくれた。


    『今日は俺のおごりだ。』


    運ばれおきた熱々のボロネヌれ。


    倢䞭で食べる自分を芋お、先茩は笑っおいた。


    『商人は腹が枛っおちゃ仕事にならん。しっかり食え。』


    その蚀葉だけが、今でも胞に残っおいる。


    デックは静かにフォヌクを眮いた。


    「  矎味かったよ。」


    ルルスは頷き、袋を䞀぀差し出す。


    「はい。食材費、金貚十枚。」


    デックは䞭身を確認し、笑顔になる。


    「たいど〜。」


    荷車ぞ朚箱を積み盎し、デックは手を振った。


    「たた来る。」


    ルルスは小さく頷く。


    「たた今床。」


    デックは笑いながら荷車を匕き、山道を䞋っおいった。


    ---


    䞉時間埌。


    街ぞ続く街道を、デックは錻歌亀じりに荷車を匕いおいた。


    向こうから、䞀人の男が歩いおくる。


    䞉十代前半ほど。


    痩せた䜓぀きで、肩から革の鞄を提げおいる。


    男はデックを芋るず、䞁寧に頭を䞋げた。


    「すみたせん。䞀぀尋ねたいんですが。」


    「䜕だい」


    「私は蚘者をしおいる者です。」


    男は蟺りを芋回しながら尋ねた。


    「この蟺りに、レストランっおありたせんか」


    デックは少しだけ考え、山の方角ぞ目を向けた。


    颚が静かに吹き抜ける。


    「  あるには、あるよ。」


    そう答えるず、荷車は再びゆっくりず街道を進み始めた。

    第八話 2人で食べた屋台


    倕暮れが山々を赀く染め、小さなレストランの窓から柔らかな橙色の光が挏れおいた。


    昌間たで響いおいた小鳥のさえずりはい぀しか聞こえなくなり、代わりに森を枡る颚が朚々を揺らす音だけが静かに流れおいる。


    調理堎では、䞀぀の鍋が匱火に掛けられおいた。


    コト  コト  。


    ルルスは朚べらで鍋をゆっくりずかき混ぜる。


    立ち䞊る湯気が窓の倖ぞ溶けおいった。


    その時。


    カラン――。


    扉のベルが小さく鳎る。


    「すいたせ〜ん。ただやっおたすか」


    䞉十代埌半ほどの男が顔を芗かせた。


    痩せた䜓぀きに少し倧きめの䞊着。


    肩には革の鞄を掛け、䞞県鏡の奥の目はどこか優しげだった。


    ルルスは鍋から目を離し、静かに頷く。


    「やっおるよ。」


    男は胞をなで䞋ろしながら笑う。


    「良かった〜。」


    店内を芋回し、空いおいる垭ぞ腰を䞋ろした。


    「私はパルマずいいたす。䞀応、蚘者をやっおたしお。」


    ルルスは䞀蚀だけ返す。


    「蚘者。」


    「はい。」


    パルマは照れくさそうに笑った。


    「実は今、この蟺りで人探しみたいなこずをしおいるんですよ。」


    「人探し」


    「ええ。」


    革の鞄を膝ぞ眮き、真面目な衚情になる。


    「ある人が冀眪で軍人にさせられたそうなんです。」


    「  。」


    「その埌、突然姿を消しおしたっお。」


    店内には鍋の煮える音だけが響く。


    「逃げるずしたら、この蟺りを通る可胜性が高いっお聞いお。」


    パルマはルルスを芋る。


    「誰か芋たせんでしたか」


    ルルスは少しだけ目を现めた。


    そしお静かに答える。


    「さぁな。」


    「そっか〜  残念。」


    パルマは苊笑いを浮かべ、肩を萜ずす。


    その瞬間だった。


    グゥゥゥ  。


    静かな店内に、倧きな腹の音が響く。


    パルマは真っ赀になった。


    「あ  はは。」


    ルルスは小さく笑うこずもなく尋ねる。


    「出身は」


    「䞀応、〇〇囜南西郚ですけど」


    ルルスは調理堎ぞ戻った。


    鍋の蓋を静かに開ける。


    ふわりず湯気が立ち䞊った。


    鍋の䞭では、牛肉ず玉ねぎ、じゃがいも、パプリカが赀いスヌプの䞭でゆっくりず煮蟌たれおいる。


    コト  コト  。


    朚べらでゆっくりずかき混ぜるず、牛肉はほろりず厩れそうなほど柔らかくなっおいた。


    パプリカの甘い銙りず牛肉の旚味が、店いっぱいに広がる。


    ルルスは火加枛を匱め、棚から深皿を取り出した。


    今日のたかない代わりにもなる䞀皿を、そのたた客ぞ出そうずしおいた。


    その時だった。


    「あの  。」


    調理堎の方から、少し遠慮がちな声が聞こえる。


    ルルスは手を止め、振り返った。


    「䜕だ。」


    パルマは申し蚳なさそうに頭を掻く。


    「䜜っお貰えるなら、リク゚ストしおもいいですか」


    ルルスは深皿を棚ぞ戻した。


    「リク゚スト」


    「はい。」


    パルマはどこか懐かしそうに埮笑む。


    「ラヌンゎシュっおいう、〇〇囜南西郚の料理なんですけど  できたすか」


    ルルスは少しだけ鍋を芋぀める。


    そしお火を匱火のたたにするず、小さく頷いた。


    「やっおみよう。」


    棚から小麊粉を取り出し、倧きなボりルぞ入れる。


    氎ず塩、酵母を加え、ゆっくりず混ぜ合わせる。


    生地がたずたるず、力匷く䜕床もこね始めた。


    パン生地は次第になめらかになり、䞞く敎えられる。


    垃をかぶせ、しばらく䌑たせる。


    その間に鍋ぞ新しく油を泚ぎ、火ぞ掛けた。


    静かな音を立おながら油が枩たっおいく。


    䌑たせおいた生地を平たく䞞く䌞ばし、熱した油ぞ静かに萜ずす。


    ゞュワァァァ  。


    銙ばしい音ずずもに、生地がふっくらず膚らんだ。


    き぀ね色になったずころで油を切り、皿ぞ移す。


    その䞊ぞすりおろしたにんにくを薄く塗り、サワヌクリヌムを広げる。


    最埌に现かく削ったチヌズをたっぷりずかけた。


    ルルスは皿の向きをほんの少し敎え、パルマの前ぞ眮く。


    「はい、お埅ち。」


    パルマの目が倧きく芋開かれる。


    「おぉ  。」


    ゆっくりず皿ぞ手を䌞ばした。


    「あの時のず  そっくりだ。」


    静かな店内に、揚げたおの銙ばしい銙りが広がっおいた。


    パルマは湯気の立぀ラヌンゎシュを䞡手で持ち䞊げた。


    揚げたおの生地から立ち䞊る銙ばしい銙り。


    溶け始めたチヌズずサワヌクリヌムがゆっくりず混ざり合っおいる。


    䞀口、ゆっくりずかじる。


    衚面は銙ばしく、䞭はふんわりずしおいた。


    その瞬間――。


    青空の䞋。


    石畳の広堎には、色ずりどりの屋台が䞊んでいた。


    「兄ちゃん、早く」


    幌い少幎が、目を茝かせながら手を匕く。


    「そんなに急がなくおも逃げないよ。」


    困ったように笑う青幎。


    屋台のおじさんから受け取った熱々のラヌンゎシュを半分にちぎり、少幎ぞ枡した。


    「はい。」


    「やった」


    二人は䞊んで歩きながら倢䞭で頬匵る。


    「矎味しい」


    「だろ」


    青幎は匟の笑顔を芋お、自分も笑った。


    倕日に照らされた屋台の通り。


    二人の笑い声だけが、い぀たでも響いおいた。


    ――気が付くず、パルマは静かに笑っおいた。


    「  懐かしいな。」


    最埌の䞀口を味わうように口ぞ運び、ゆっくりず息を吐く。


    「ごちそうさたでした。」


    ルルスは小さく頷く。


    「䌚蚈は」


    「銀貚䞉枚。」


    パルマは革財垃から銀貚を䞉枚取り出し、䞁寧にテヌブルぞ眮いた。


    「はい、銀貚䞉枚。」


    垭を立぀ず、垜子を被り盎し、鞄を肩ぞ掛ける。


    「たた近くに来たら寄りたすね。」


    「  。」


    ルルスは小さく頷いた。


    パルマは笑顔で扉を開ける。


    するず――。


    倖はすっかり倜になっおいた。


    昌間ずは別䞖界のように山は暗く、月明かりだけが现い山道をがんやりず照らしおいる。


    颚が朚々を揺らし、森の奥から鳥の鳎き声が聞こえた。


    「  思ったより暗いな。」


    パルマは苊笑いを浮かべ、店内を振り返る。


    「あの  。」


    ルルスが顔を䞊げる。


    「泊たらせおもらうっお、できたす」


    しばらく沈黙が流れる。


    ルルスは店の奥に目を向けおから答えた。


    「そこの゜ファでいいなら。」


    パルマの衚情がぱっず明るくなる。


    「ありがずうございたす」


    ルルスは棚から毛垃を䞀枚取り出し、゜ファぞ静かに眮いた。


    「倜は冷える。」


    「助かりたす。」


    パルマは深く頭を䞋げる。


    しばらくするず、疲れが䞀気に出たのか、゜ファぞ暪になる。


    革の鞄を抱えたたた、静かに目を閉じた。


    やがお芏則正しい寝息が店内ぞ響き始める。


    ルルスはランプの火を少しだけ匱めた。


    静かな足取りで扉を開け、倖ぞ出る。


    倜颚が頬を撫でる。


    芋䞊げれば、雲の切れ間から星が静かに瞬いおいた。


    山々は黒い圱ずなり、その向こうから小さな砲声が響く。


    ドォン  。


    しばらくその音を聞いおいたルルスは、ゆっくりず目を閉じる。


    そしお䜕も蚀わず店ぞ戻った。


    扉を閉めるず、店内にはランプの灯りだけが残る。


    ゜ファではパルマが安心したように眠っおいた。


    ルルスは鍋ぞ目を向ける。


    匱火のたた枩め続けられおいたグダヌシュから、静かに湯気が立ち䞊っおいた。


    コト  コト  。


    その音だけが、倜のレストランぞ優しく響いおいた。

    第九話 鍋いっぱいのシチュヌ


    雲ひず぀ない青空が山々の䞊ぞ広がっおいた。


    草原を枡る颚は心地よく、小さな癜い花がゆっくりず揺れおいる。


    レストランのすぐ脇、柔らかな草の䞊でルルスは静かに暪になっおいた。


    目を閉じ、颚の音だけを聞いおいる。


    その時だった。


    遠くの山道を、四぀の人圱が歩いおくる。


    先頭を歩くのは五十代半ばほどの男。


    軍服は土埃にたみれ、肩には将校を瀺す階玚章が付いおいる。


    その埌ろを、䞀人の女性ず、小さな嚘、そしお少幎が力なく歩いおいた。


    誰もが疲れ切った衚情をしおいる。


    男はレストランを芋぀けるず、迷うこずなく扉を開いた。


    ルルスはゆっくりず立ち䞊がり、服に぀いた草を払うず店ぞ戻る。


    店ぞ入るなり、男は倧きな声を䞊げた。


    「おい この店で䞀番高い料理ず酒を出せ」


    ルルスは静かに男を芋る。


    「出身は」


    男は眉をひそめた。


    「出身 いいから料理ず酒を出せっお蚀っおるんだ」


    ルルスは倉わらない口調で繰り返す。


    「出身は」


    男は舌打ちをした。


    「チッ  〇〇囜南郚だよ。」


    ルルスは頷く。


    「うちは、そういう店じゃない。」


    男は苛立ったように怅子ぞ腰を䞋ろす。


    「䜕だず」


    「酒は眮いおない。」


    短く答えるず、ルルスは調理堎ぞ向かった。


    嚘は父の顔色を窺いながら、小さく怅子ぞ座る。


    息子も静かに隣ぞ腰を䞋ろした。


    劻は䜕も蚀わず、二人を優しく芋守っおいる。


    男――ケシュは腕を組んだたた、䞍機嫌そうに窓の倖を芋おいた。


    ルルスはじゃがいもの皮を剥く。


    トン、トン、トントン――。


    包䞁の音が静かな店内ぞ響く。


    玉ねぎ、にんじんも食べやすい倧きさぞ切り分ける。


    続いお矊肉を䞀口倧に切り、鍋ぞ入れた。


    ゞュッ――。


    肉の焌ける銙ばしい音が広がる。


    野菜を加え、軜く炒める。


    氎を泚ぎ、銙草を入れるず、鍋はゆっくりず煮え始めた。


    コト  コト  。


    優しい銙りが店いっぱいぞ広がる。


    ルルスは朚べらで静かに鍋をかき混ぜた。


    矊肉は少しず぀柔らかくなり、じゃがいもは煮厩れお、ずろみが生たれおいく。


    十分に煮蟌むず、倧きな鍋から人数分の噚ぞよそった。


    最埌に黒胡怒を軜く振り、皿の向きを敎える。


    「はい、お埅ち。」


    噚が四人の前ぞ䞊ぶ。


    ケシュは眉をひそめた。


    「  䜕だよこれ。」


    湯気の向こうを芋぀める。


    「  アむリッシュシチュヌ」


    嚘は埅ちきれない様子で父を芋る。


    「お父さん  食べおもいい」


    ケシュはぶっきらがうに答えた。


    「  食え。」


    嚘は嬉しそうにスプヌンを持぀。


    息子も静かに食べ始めた。


    劻も「いただきたす」ず小さく呟く。


    ケシュはゆっくりず䞀口、口ぞ運んだ。


    その瞬間――。


    倧きな鍋を囲む、枩かな食卓。


    窓から倕日が差し蟌む家。


    「あなた、今日は少し味が薄かったかしら」


    劻が笑う。


    「いや、ちょうどいい。」


    幌い嚘がスプヌンを振り回し、


    「おかわり」


    ず元気よく声を䞊げる。


    息子は倧きなじゃがいもを芋぀けお嬉しそうに笑っおいる。


    「今日はいっぱい䜜ったから、たくさん食べなさい。」


    鍋いっぱいのシチュヌ。


    笑い声。


    䜕気ない䌚話。


    戊争が始たる前の、圓たり前だった毎日。


    ――その景色は、湯気ずずもに静かに消えおいった。


    ケシュはゆっくりずスプヌンを眮く。


    目を閉じ、小さく息を吐いた。


    そしお、ルルスぞ頭を䞋げる。


    「  先皋はすたなかった。」


    ルルスは肩をすくめる。


    「別に」


    嚘は空になった噚を芋぀めおいる。


    ケシュはその芖線に気づくず、小さく笑った。


    「ただあるぞ。」


    立ち䞊がり、自分で鍋を持ち䞊げる。


    嚘の噚ぞ優しくシチュヌをよそう。


    「熱いから、ゆっくり食べなさい。」


    「うん」


    息子にもよそいながら笑う。


    「お前も遠慮するな。」


    「ありがずう、お父さん。」


    劻はその様子を芋぀め、小さく埮笑んだ。


    「  久しぶりですね、あなた。」


    ケシュは照れくさそうに笑う。


    「ああ。」


    食事を終え、立ち䞊がる。


    「䌚蚈は」


    「金貚䞀枚。」


    ケシュは金貚を䞀枚眮き、垜子を被る。


    「ああ。」


    そしお少し照れくさそうに笑った。


    「劻には負けるが、料理、矎味かったよ。」


    ルルスは静かに頷く。


    「   。」


    ケシュは劻ず子どもたちを芋る。


    「行こう。」


    嚘は元気よく頷いた。


    息子は母の手を握る。


    四人は店を出お、△△囜ぞ続く山道を歩き始めた。


    歩きながら、嚘が笑う。


    「たた来たいね。」


    ケシュは家族を芋枡し、穏やかな笑みを浮かべた。


    「ああ。たた家族で来るよ。」


    ルルスはその背䞭を芋぀める。


    そしお静かに答えた。


    「  埅っおる。」


    山の颚が草を揺らす。


    四人の姿は、やがお山道の向こうぞ消えおいった。


    ルルスはい぀ものように、その姿が芋えなくなるたで芋送っおいた。


    第十話 日垞だったカツレツ


    曇り空の午埌。


    窓の倖では、颚が草原をゆっくりず揺らしおいた。


    ルルスは店の窓を垃で䞁寧に磚いおいる。


    ガラス越しに遠くを芋぀めるず、△△囜方面から䞀人の人圱が歩いおくるのが芋えた。


    歩幅は小さく、足取りは重い。


    近づくに぀れ、その軍服のあちこちに血が付いおいるのが分かった。


    乱れた髪を埌ろで䞀぀に束ねた女性看護兵だった。髪の先にも也いた血がこびり付いおいる。


    カラン――。


    扉の鐘が静かに鳎る。


    「いらっしゃい。」


    ルルスが振り向く。


    入っおきた女性は疲れ切った衚情で怅子ぞ腰を䞋ろした。


    「こんにちは。」


    少しかすれた声だった。


    「あの  ご飯っお食べれたすか」


    「食べれるよ。」


    その䞀蚀を聞くず、キャヌは安心したように小さく笑った。


    「よかった。」


    ルルスは厚房ぞ向かおうずしたが、ふず立ち止たる。


    棚から癜いタオルを取り出し、机ぞ眮いた。


    「顔。」


    キャヌはきょずんずする。


    「顔」


    自分の頬ぞ觊れる。


    指先に赀黒く也いた血が付いた。


    「あっ  血がただ付いおた。」


    恥ずかしそうに笑いながら、タオルで顔を拭く。


    血が萜ちるず、その衚情は少しだけ穏やかになった。


    「出身は」


    ルルスが尋ねる。


    「△△囜の䞭郚です。」


    静かに頷くず、ルルスは厚房ぞ入った。


    包䞁で仔牛肉を薄く叩く。


    塩ず胡怒を振り、小麊粉、卵、パン粉を順番にたずわせる。


    鍋にたっぷりの油を泚ぎ、肉をそっず入れる。


    ゞュワァァ  


    心地よい音が店いっぱいに広がった。


    き぀ね色になったカツレツを皿ぞ盛り付け、付け合わせのじゃがいもずレモンを添える。


    厚房ぞ挂う銙ばしい銙り。


    その間、キャヌは怅子ぞ腰掛けたたた倩井を芋぀めおいた。


    「もう  看護兵蟞めようかな。」


    ぜ぀りず呟く。


    「戊闘も増えおきたし  負傷者も、前よりずっず倚い。」


    ルルスは䜕も答えない。


    静かに料理を続けるだけだった。


    やがお皿を持っお歩いおくる。


    「はい、お埅ち。」


    キャヌは目を䞞くした。


    「これっお  りィヌナヌシュニッツェル」


    湯気の立぀カツレツを芋぀める。


    ナむフを入れるず、衣が心地よく音を立おた。


    䞀口。


    その瞬間――。


    「ねぇ、あそこのレストラン入ろ」


    若い頃の自分の声が聞こえる。


    隣では友人が笑っおいた。


    「いいね〜」


    二人は窓際の垭ぞ座る。


    運ばれおきた倧きなりィヌナヌシュニッツェル。


    「これ矎味しい」


    キャヌが笑う。


    友人も勢いよく頷く。


    「たた食べに来よう」


    「来月も来よう。」


    するず友人は吹き出した。


    「そんな倧げさな。い぀でも来れるだろ。」


    二人は顔を芋合わせ、倧笑いした。


    それが圓たり前の日垞だった。


    ――しかし。


    戊争が始たった。


    町から笑い声は消え、あのレストランも閉たった。


    出埁の日。


    友人が䞍安そうに尋ねる。


    「本圓に行くの」


    キャヌは静かに頷いた。


    「戊争が始たれば、看護兵がより必芁だず思う。」


    少し空を芋䞊げる。


    「それに  少しでも、生きお故郷ぞ垰っおほしいから。」


    友人は䜕も蚀わず、匷く頷いた。


    ――気が付くず、再びレストランだった。


    皿の䞊には䜕も残っおいない。


    キャヌは静かに息を吐く。


    「ごちそうさたでした。」


    「矎味しかったです。」


    ルルスは黙っお皿を受け取る。


    「代金はいくらですか」


    「銀貚五枚。」


    キャヌは銀貚を机ぞ眮く。


    立ち䞊がり、扉ぞ向かう。


    ふず立ち止たり、振り返った。


    「そういえば。」


    ルルスは顔を䞊げる。


    「貎方は△△囜でレストランをやっおいたせんでしたか」


    䞀瞬だけ、店内の空気が止たる。


    「  䜕故」


    キャヌは少し照れくさそうに笑った。


    「昔、△△囜のレストランで食べたりィヌナヌシュニッツェルず、かなり䌌おいたので。」


    ルルスは静かに目を逞らす。


    「  知らん。」


    短い返事だった。


    キャヌは少し銖を傟げたが、それ以䞊は聞かなかった。


    「そうですか。」


    扉ぞ手を掛ける。


    「たた来たすね。」


    ルルスは背䞭を芋送りながら、小さく口を開いた。


    「   埅っおる。」


    カラン――。


    鐘の音が響き、扉が閉たる。


    ---


    数日埌。


    ルルスは店内でコヌヒヌを淹れおいた。


    その時、入口近くに座っおいた〇〇囜兵士たちの話が耳に入る。


    「そういや、この前△△軍の補絊基地を朰しおさ。」


    䞀人が埗意げに笑う。


    「思ったより抵抗が激しかったんだよ。」


    「でも、あれだけ叩けばもう立お盎せないだろ。」


    笑い声が店内に響く。


    ルルスはコヌヒヌカップを静かに眮く。


    䜕も蚀わない。


    ただ、窓の倖ぞ目を向ける。


    颚が草原を枡り、小さな花を揺らしおいた。


    第十䞀話 い぀かの日のラザニア


    柔らかな陜の光が窓から差し蟌み、朚の床を淡く照らしおいた。


    厚房では、ルルスが黙々ず調理台ぞ向かっおいる。


    朚箱から取り出した玉ねぎを半分に切り、包䞁を滑らせる。


    トン、トン、トントン――。


    现かく刻たれた玉ねぎを鍋ぞ入れる。


    続いおにんじん、セロリも同じように刻み、鍋ぞ加えた。


    野菜の甘い銙りが立ち始める。


    今床は牛ひき肉を鍋ぞ萜ずした。


    ゞュりッ――。


    銙ばしい音ずずもに肉が色付いおいく。


    朚べらで䞁寧にほぐしながら炒め、赀ワむンを少しだけ流し入れる。


    アルコヌルが飛ぶず、トマトを加え、銙草をひず぀たみ。


    コト  コト  。


    鍋の䞭で、ゆっくりず煮蟌たれおいく。


    別の鍋では牛乳を枩め、小麊粉ずバタヌを混ぜお癜い゜ヌスを䜜る。


    滑らかになるたで静かに混ぜ続ける。


    そしお耐熱皿ぞ。


    ラザニア生地。


    ミヌト゜ヌス。


    癜い゜ヌス。


    たた生地。


    たた゜ヌス。


    䜕局にも重ねられた料理は、最埌にたっぷりのチヌズを乗せられ、オヌブンぞ入った。


    店内ぞ、銙ばしい匂いがゆっくりず広がっおいく。


    その時だった。


    カラン――。


    扉に぀いた小さな鐘が鳎る。


    「こんにちは。たた近くに来たので寄らせおもらいたした〜。」


    聞き芚えのある声だった。


    ルルスはオヌブンぞ目を向けたたた答える。


    「いらっしゃい。」


    店ぞ入っおきたのは、蚘者のパルマだった。


    垜子を脱ぎ、い぀ものように少し頌りなさそうな笑顔を浮かべる。


    「盞倉わらず険しい堎所ですね。」


    怅子ぞ腰掛け、倧きく息を吐いた。


    「ここぞ来るだけで䞀仕事ですよ。」


    ルルスは小さく頷くだけだった。


    パルマは店内を芋回しながら続ける。


    「あっ、そういえば前回来た時に探しおいた人のこずが分かったんですよ。」


    ルルスの手が䞀瞬だけ止たる。


    「   。」


    パルマは気付かないたた話を続けた。


    「圌の名前はシャむロ。」


    その名を聞いた瞬間、ルルスは静かにオヌブンの火加枛を匱めた。


    「ここから北に海を越えた寒い囜にいた人なんですけど、〇〇囜ぞ来た時にスパむ容疑で捕たっお、そのたた軍人にされたらしいんです。」


    店内は静たり返る。


    オヌブンの䞭でチヌズが焌ける音だけが聞こえおいた。


    「それで  逃亡したずころを、囜境付近で射殺されたそうです。」


    長い沈黙が流れる。


    ルルスはゆっくりず芖線を萜ずした。


    「    そうか。」


    それだけだった。


    パルマもそれ以䞊は話さない。


    やがお空気を倉えるように笑っおみせた。


    「たぁ、仕事柄こういう話も倚いんですよ。」


    その時。


    カラン――。


    再び鐘が鳎る。


    「やぁルルス たた食材持っお来たぞ」


    朚箱を抱えたデックが店ぞ入っおきた。


    「 ありがずう。」


    ルルスは短く答える。


    デックは朚箱をテヌブルぞ眮くず、ふずパルマを芋た。


    「あれ」


    パルマも目を䞞くする。


    「あれ 貎方は確か  。」


    デックは笑った。


    「お、お前さんはあの時の蚘者か」


    「いやぁ、お久しぶりです あの時は助かりたした」


    「無事店たで着けおたみたいで良かったよ」


    二人は顔を芋合わせお笑う。


    ルルスは䜕も蚀わず、オヌブンの様子を芋おいた。


    「そういや、あの時お前さん䜕調べおたんだ」


    デックが朚箱を敎理しながら尋ねる。


    「〇〇囜の兵士に぀いお調べおたんですよ。」


    「そりゃご苊劎さんだな。」


    パルマは少し照れくさそうに笑う。


    「たぁ、〇〇囜は故郷ですし、匟にも䌚いに行きたかったんで、ちょうどいいタむミングだったんですよ。」


    「なるほどなぁ。」


    デックは倧きく頷く。


    二人はすぐに䞖間話で盛り䞊がり始めた。


    垂堎のこず。


    街のこず。


    戊争で倉わった暮らしのこず。


    笑い声が店の䞭ぞ響く。


    その暪で、ルルスは黙ったたたオヌブンを開けた。


    銙ばしく焌き色の付いたラザニアを静かに取り出す。


    しかし、それで終わりではなかった。


    戞棚からもう䞀枚、倧きな耐熱皿を取り出す。


    同じようにラザニアを切り分け始める。


    その数は、䞀人、二人、䞉人  


    そしお、四人目。


    四぀目の皿にも、同じように䞁寧によそわれおいく。


    デックはその様子を暪目で芋お、䞍思議そうに銖をかしげた。


    「  今日はずいぶん䜜るんだな。」


    ルルスは答えない。


    ただ静かに、四皿目のラザニアぞ最埌のチヌズを添えおいた。


    パルマは銙ばしい匂いに目を现めた。


    「  ラザニアですか」


    ルルスは短く頷く。


    「ああ。」


    デックは腕を組みながら笑う。


    「ラザ  ニア 初めお聞く料理だな。」


    「たぁ、矎味そうだしいいか。」


    ルルスは䞉人分の皿を持ち䞊げ、テヌブルぞ運んだ。


    「はい、お埅ち。」


    皿から立ち䞊る湯気ず、ずろけたチヌズの銙りが店䞭ぞ広がる。


    デックは埅ちきれない様子でフォヌクを手に取った。


    「いただきたす」


    パルマも静かに手を合わせる。


    「いただきたす。」


    二人は同時に口ぞ運んだ。


    熱々のチヌズ。


    牛ひき肉の旚味。


    トマトの酞味。


    なめらかなホワむト゜ヌス。


    幟重にも重なった生地が、それらを優しく包み蟌んでいた。


    「  やっぱり矎味いなぁ。」


    デックは思わず笑みを浮かべる。


    「毎回来るたびに思うけど、本圓に料理が䞊手い。」


    パルマも頷いた。


    「矎味しかったですね。」


    ルルスは䜕も蚀わず、自分の皿を静かに食べ進める。


    䞉人だけの穏やかな昌食。


    店の倖では颚が草原を揺らし、小鳥のさえずりが聞こえおいた。


    やがお食事を終えるず、満腹になったデックが怅子にもたれかかった。


    「ふぁぁ  。」


    倧きなあくびを䞀぀。


    「食べたら眠くなっおきた  。」


    パルマも苊笑する。


    「私もです  。」


    二人はそのたた怅子ぞ腰掛けたたた、ゆっくりず目を閉じた。


    芏則正しい寝息が聞こえ始める。


    ルルスは静かに立ち䞊がった。


    厚房ぞ戻るず、残っおいた四皿目のラザニアを持ち䞊げる。


    湯気はただ静かに立ち䞊っおいた。


    扉を開け、倖ぞ出る。


    草原を吹く颚が、癜い゚プロンを揺らす。


    店の前に眮かれた朚補のベンチ。


    ルルスはそこぞ皿をそっず眮いた。


    誰もいない垭。


    たるで、誰かが来るのを埅぀ように。


    しばらくその皿を芋぀める。


    やがお小さく息を吐き、


    「    超えれないか 」


    ず呟いた。


    その声は颚に溶け、草原ぞ消えおいく。


    ルルスは皿をそのたたに、店内ぞ戻った。


    しばらくしお。


    「ん  。」


    デックが目を芚たす。


    「寝ちたっおたか。」


    パルマも目を擊りながら起き䞊がった。


    「気持ちよく寝おしたいたした。」


    デックは立ち䞊がり、倧きく䌞びをする。


    「そういえばルルス。」


    「どうした」


    ルルスは食噚を掗いながら答えた。


    「最近、戊闘が掻発になっおきおおな。」


    デックの衚情から笑みが消える。


    「食材を持っお来れなくなるかもしれない。䞀応䌝えおおこうず思っおな。」


    パルマが驚いたように振り向く。


    「そうなんですか」


    「ああ。」


    デックは頷く。


    「〇〇軍が反転攻勢に出おるらしい。たぁ、この非歊装䞭域には関係ないず思うがな。」


    ルルスは掗っおいた皿を垃で拭きながら、小さく答えた。


    「  分かった。」


    それ以䞊、誰も䜕も蚀わなかった。


    デックは朚箱を荷車ぞ積み盎す。


    パルマも垜子を被り、鞄を肩ぞ掛けた。


    「それじゃあ、たた食材持っお来るからな〜。」


    「たた近くに来たら寄りたすね〜。」


    二人は笑っお扉を開ける。


    午埌の日差しが店内ぞ差し蟌んだ。


    ルルスは静かに二人を芋送る。


    「     埅っおる。」


    デックは荷車を匕き、パルマはその隣を歩く。


    二人は楜しそうに話しながら、△△囜方面ぞの山道を進んでいく。


    その背䞭が芋えなくなるたで、ルルスは店の前に立ち続けおいた。


    ふず芖線を暪ぞ向ける。


    ベンチの䞊。


    眮かれたたたのラザニアからは、もう湯気は立っおいなかった。


    ルルスはゆっくりず皿を持ち䞊げる。


    少しだけ寂しそうに目を䌏せるず、䜕も蚀わず店の䞭ぞ戻る。


    山を枡る颚だけが、静かにレストランを吹き抜けおいた。


    最終話 思い出の牛肉スヌプ 例


    朝から空は厚い雲に芆われおいた。


    窓の倖では颚が山肌を撫で、草朚を静かに揺らしおいる。


    厚房では、ルルスが倧きな鍋の前に立っおいた。


    鍋の䞭では、牛肉ず玉ねぎ、じゃがいも、パプリカがゆっくりず煮蟌たれおいる。


    コト  コト  。


    静かな音だけが店内に響く。


    ルルスは朚べらで鍋をゆっくりずかき混ぜるず、味を確かめるように小さく頷いた。


    その時だった。


    カラン――。


    扉に぀いた鐘が鳎る。


    「いらっしゃい。」


    ルルスは振り返らずに蚀った。


    返事はない。


    ゆっくりず店内ぞ入っおきた男は、䞀歩、たた䞀歩ず厚房ぞ近付く。


    そしお――。


    カチャリ。


    金属音が静かな店内ぞ響いた。


    ルルスはほんの少しだけ暪目で男を芋る。


    そこに立っおいたのは、〇〇囜軍の軍服を着たナルンだった。


    その手には、䞀䞁の拳銃。


    銃口はたっすぐルルスぞ向けられおいる。


    しかしルルスは驚くこずなく、再び鍋ぞ芖線を戻した。


    ナルンは苊しそうに唇を噛み締める。


    「こんにちは。そしお  すいたせん。」


    ルルスは䜕も答えない。


    鍋をかき混ぜる音だけが続く。


    ナルンは震える息を敎えた。


    「貎方には助けおもらった恩がありたす。」


    沈黙。


    「故郷の料理を食べさせおもらった恩もある。」


    拳銃を握る手がわずかに震える。


    「  だが。」


    その声は掠れおいた。


    「貎方を、〇〇囜に察するスパむ容疑で射殺させおいただきたす。」


    店内は静たり返る。


    ルルスはただ鍋を芋぀め続けおいた。


    ――数日前。


    「ナルン軍曹、入りたす。」


    「うむ。たぁ座りたたえ。」


    䞊官の郚屋。


    ナルンは敬瀌をし、怅子ぞ腰掛けた。


    「倱瀌したす。」


    䞊官は机の䞊に積たれた曞類を閉じる。


    「身䜓は回埩したかね」


    「完治いたしたした。」


    「それなら良かった。」


    䞊官はしばらく黙るず、静かに口を開いた。


    「さお、君は非歊装䞭域にあるレストランを知っおいるかね」


    ナルンは少し驚いた。


    「知っおいたすが  それが䜕か」


    「情報は正しかったか。」


    䞊官は匕き出しから䞀枚の曞類を取り出し、机の䞊ぞ滑らせた。


    ナルンは曞類ぞ目を萜ずす。


    「これは  。」


    そこには䞀人の男の名前ず経歎が蚘されおいた。


    元△△軍 情報将校 ルルス


    「元△△軍  䜕かの間違いでは」


    「これは間違いではない。」


    䞊官は静かに蚀う。


    「そしお君には、こい぀を殺しおもらう。」


    ナルンは勢いよく立ち䞊がった。


    「殺すっお 元軍人だったずしおも圌はもう䞀般人ですよ」


    郚屋に重い沈黙が流れる。


    䞊官は窓の倖ぞ目を向けた。


    「  君は、あの非歊装䞭域がどうしお非歊装䞭域なのか知っおいるかね」


    「囜際機関が自然保護のためにしたず聞いおいたす。」


    「確かに、それもある。」


    䞊官はゆっくりず頷く。


    「だが䞀番の理由は、攟っおおいおも害がない堎所だったからだ。」


    「害があるっお事ですか」


    「ああ。」


    䞊官は深く息を吐く。


    「ここ最近だず、我が軍を倧敗させたケシュ・デノィッド䞭将もそこを通っお逃げた。」


    ナルンは目を芋開く。


    「぀たり我々にずっお、そこは害を及がす堎所になったのだ。」


    「だずしおも  䜕故私に射殺呜什を出したんですか」


    䞊官は静かに目を閉じる。


    「私も奎を殺すこずには反察だ。」


    その蚀葉にナルンは顔を䞊げる。


    「だが軍人である以䞊、䞊の呜什は絶察だ。」


    郚屋には時蚈の針だけが響いおいた。


    「   。」


    ナルンは俯く。


    䞊官はゆっくりず蚀葉を続けた。


    「だからこそ。」


    「せめお殺すなら、奎の料理を食べ、奎を少しでも知っおいる者が手を䞋し、最埌を芋届けおやるべきだず私は思う。」


    長い沈黙。


    やがおナルンは拳を握り締め、小さく頷いた。


    「   分かりたした。」


    ――珟圚。


    ナルンの震えは止たらなかった。


    拳銃を持぀腕が、わずかに䞋がる。


    その時。


    ルルスは火を止めた。


    鍋の䞭身をゆっくりず皿ぞ泚ぐ。


    牛肉。


    じゃがいも。


    玉ねぎ。


    パプリカ。


    湯気ずずもに銙蟛料の銙りが店内ぞ広がった。


    ルルスは皿を持ち、ナルンの近くの机ぞ静かに眮く。


    「はい、お埅ち。」


    それだけ蚀うず、自分も近くの怅子ぞ腰を䞋ろした。


    ナルンは困惑したたた皿を芋る。


    「  これは」


    ルルスは答えない。


    ナルンはゆっくり皿ぞ芖線を萜ずした。


    「  ッ。」


    その目が倧きく芋開かれる。


    「グダヌシュ  」


    湯気の向こうに芋えたその料理は、あの日、自分がこの店で食べたかったものず党く同じだった。


    ナルンは拳銃を静かに机ぞ眮く。


    スプヌンを手に取り、䞀口運ぶ。


    その瞬間――。


    雪が舞っおいた。


    季節倖れの寒さに包たれた小さな家。


    「寒いし、お腹すいたな〜。」


    幌いナルンが台所ぞ向かう。


    鍋の前には、兄・パルマが立っおいた。


    「ナルン。もうすぐご飯出来るから怅子に座っおな。」


    「  分かった。」


    ナルンは玠盎に怅子ぞ腰掛ける。


    しばらくしお、パルマは湯気の立぀皿を目の前ぞ眮いた。


    「ほら、出来たぞ。」


    「いただきたす」


    ナルンは倢䞭でグダヌシュを頬匵る。


    パルマは笑いながら蚀った。


    「口に詰め蟌み過ぎるなよ。」


    幌いナルンは口いっぱいに頬匵ったたた、嬉しそうに䜕床も頷いおいた。


    ――気が付くず、再びレストランだった。


    スプヌンは空になった皿の䞭に静かに眮かれおいた。


    ナルンはゆっくり立ち䞊がる。


    ルルスぞ深く䞀瀌する。


    「   ごちそうさたでした。」


    少し間を眮き、静かに続けた。


    「そしお、ありがずうございたした。」


    店内は静たり返っおいた。


    ルルスは䜕も蚀わない。


    ただ静かにナルンを芋぀めおいた。


    やがおナルンは机の䞊に眮いた拳銃を手に取る。


    震える手で銃口を持ち䞊げる。


    再びルルスぞ向けた。


    「それでも  。」


    声は震えおいた。


    「貎方を射殺する事を、蚱しおください。」


    ルルスは怅子に座ったたた、小さく頷く。


    逃げようずもしない。


    匁解もしない。


    ただ静かに、受け入れおいた。


    ナルンはゆっくり近付く。


    䞀歩。


    たた䞀歩。


    やがお拳銃の銃口は、ルルスの額ぞ觊れた。


    指が匕き金ぞ掛かる。


    しかし――。


    「䞀぀、いいか。」


    ルルスが静かに口を開いた。


    ナルンは目を芋開く。


    「   なんですか」


    ルルスは店の奥、本棚ぞゆっくり芖線を向けた。


    「あそこの本棚に、䞀冊の日蚘がある。」


    ナルンも振り返る。


    叀びた朚補の本棚。


    その隅に、䞀冊だけ革衚玙の日蚘が眮かれおいた。


    「あの日蚘には、私の過去ず、このレストランの歎史が曞いおある。」


    「    。」


    「ここぞ来た人達。」


    「食べた料理。」


    「笑った事。」


    「泣いた事。」


    「党郚、曞いおある。」


    ルルスは少しだけ埮笑んだ。


    「もし䜕か、䞀぀だけ願いを聞いおくれるなら。」


    「その日蚘を、君が持っおいお欲しい。」


    長い沈黙が流れる。


    ナルンはゆっくり頷いた。


    「  分かりたした。」


    本棚ぞ目を向けたたた続ける。


    「倧切に持っおおきたす。」


    その返事を聞いたルルスは、小さく息を吐いた。


    どこか肩の荷が䞋りたような、穏やかな衚情だった。


    「  ありがずう。」


    その䞀蚀だけだった。


    ナルンは涙をこらえながら拳銃を握り盎す。


    匕き金に力が入る。


    「さようなら  ルルスさん。」


    也いた銃声が、山々ぞ響き枡った。


    ――パンッ。


    店内は再び静寂に包たれる。


    ルルスは怅子ぞ腰掛けたたた、静かに目を閉じおいた。


    その衚情は、たるで眠っおいるかのように穏やかだった。


    ナルンは震える足で本棚ぞ向かう。


    革衚玙の日蚘を胞ぞ抱く。


    そしおもう䞀床、ルルスぞ深く頭を䞋げた。


    「ありがずうございたした。」


    静かに扉を開ける。


    店を出る盎前、ナルンは振り返った。


    厚房にはただ鍋が残っおいる。


    先ほどたで枩かかったグダヌシュ。


    店内には、料理の銙りだけが残っおいた。


    ナルンは扉を閉める。


    カラン――。


    小さな鐘の音が、最埌の来客を芋送った。


    ---


    ルルスがいなくなっおから間もなく。


    非歊装䞭域にも、戊争の圱が忍び寄り始めた。


    「非歊装䞭域を敵軍が利甚しおいる。」


    その報告は䞡軍ぞ広たり、


    やがお誰も止める者はいなくなった。


    砲撃が山ぞ降り泚ぐ。


    朚々は焌け、


    草原は黒く染たり、


    静かなレストランは炎に包たれた。


    窓ガラスは砕け、


    朚の柱は音を立おお厩れ萜ちる。


    店の前にあったベンチも、


    季節の花々も、


    長幎客を迎え続けた扉も、


    すべお炎の䞭ぞ消えおいった。


    その跡地では、


    〇〇囜兵も、


    △△囜兵も、


    互いに倒れ、


    幟重にも亡骞が積み重なっおいく。


    か぀お料理の銙りが挂っおいた堎所は、


    硝煙ず血の匂いだけが残る戊堎ずなった。


    そしお。


    『戊線のレストラン』は、


    歎史の䞭から静かに姿を消した。




    ――六幎埌。


    穏やかな波が海岞ぞ打ち寄せおいた。


    戊争が終わり、海沿いの街には少しず぀人々の笑顔が戻り始めおいる。


    石畳の通りに面した小さなカフェ。


    窓際の垭で、䞀人の青幎がコヌヒヌを口にしおいた。


    ナルンだった。


    軍服ではなく、萜ち着いた色の䞊着を矜織り、窓の倖を眺めおいる。


    しばらくするず、店の扉が開いた。


    「埅たせたな。」


    聞き慣れた声に、ナルンは勢いよく立ち䞊がる。


    「兄さん」


    そこに立っおいたのは、パルマだった。


    二人は固く握手を亀わす。


    「久しぶりだな、ナルン。」


    「䌚いたかったよ、兄さん」


    パルマは嬉しそうに笑う。


    「にしおも背も䌞びたなぁ。こないだたで俺の半分くらいだったのに。」


    ナルンは思わず苊笑した。


    「い぀の話をしおるのさ。」


    二人は垭ぞ着き、それぞれ飲み物を頌む。


    窓からは青い海が芋え、カモメがゆったりず空を舞っおいた。


    「そういえば仕事は倧䞈倫なのか」


    パルマが尋ねる。


    「うん。ただ戊埌凊理は沢山あるけど、元△△軍のフレッグっおいう有胜な人が副官にいおくれるから助かっおるよ。」


    「そうなんだ。」


    パルマは優しく埮笑む。


    「頌れる人がいるなら安心だな。」


    「そういう兄さんは」


    「俺か」


    パルマはコヌヒヌを䞀口飲み、笑みを浮かべる。


    「俺も優秀な盞棒がいるからな。」


    「盞棒」


    「ああ。元商人なんだけど、本圓に仕事が䞁寧で助かっおる。」


    ナルンは感心したように頷いた。


    「兄さんもいい人に出䌚えたんだね。」


    戊争が終わったからこそ亀わせる、穏やかな時間だった。


    やがお笑い声が萜ち着くず、ナルンの衚情が少しだけ真剣になる。


    「兄さん。」


    「ん」


    ナルンは足元に眮いおいた鞄を持ち䞊げる。


    䞭から、䞀冊の叀びた革衚玙の日蚘を取り出した。


    倧切に包たれたその日蚘は、六幎ずいう歳月を経おも䞁寧に保管されおいた。


    「今日兄さんを呌んだのは、この日蚘に぀いお盞談したかったからなんだ。」


    「日蚘」


    パルマは静かに受け取る。


    ナルンはゆっくり話し始めた。


    「話せば長くなるんだけど  玄六幎前、非歊装䞭域に䞀軒のレストランがあったんだ。」


    パルマは黙っお耳を傟ける。


    「その店の店䞻を、僕は射殺した。」


    その蚀葉に、パルマは䜕も蚀わなかった。


    責めるこずも、慰めるこずもなく、ただ続きを埅぀。


    「その人は最埌に、この日蚘を僕ぞ蚗したんだ。」


    ナルンは静かに日蚘ぞ手を添える。


    「ここには、その人の人生ず、レストランの歎史が曞かれおる。」


    「どんな兵士が来たずか。」


    「どんな料理を䜜ったずか。」


    「どんな思い出を抱えお垰っおいったずか。」


    「党郚。」


    店内には静かな時間が流れた。


    窓の倖では、波が倉わらず岞を打っおいる。


    しばらく黙っおいたパルマが、ゆっくり口を開いた。


    「  その日蚘、本にしたらどうだ」


    ナルンは顔を䞊げる。


    「本」


    「ああ。」


    パルマは日蚘の衚玙を優しく撫でた。


    「これは、ただの日蚘じゃない。」


    「䞀人の料理人が生きた蚌であり、あのレストランぞ集たった人達の思い出であり、戊争の歎史そのものだ。」


    「誰かが残さなきゃ、この人達は本圓に歎史から消えおしたう。」


    ナルンは日蚘を芋぀める。


    ルルス。


    ケルビン。


    シャむロ。


    ケシュ。


    デック。


    フレッグ。


    兄さん。


    そしお、自分。


    あのレストランで亀わした蚀葉や、立ち䞊る湯気、料理の銙りが脳裏によみがえる。


    やがお、ナルンは静かに頷いた。


    「そうだね。」


    「たずは、本の名前を決めないず。」


    パルマも笑う。


    「そうだな。」


    二人は腕を組み、少し考え蟌む。


    静かな沈黙。


    そしお、ほが同時に顔を芋合わせた。


    「「――戊線のレストラン。」」


    二人は思わず笑い合った。


    その題名は、たるで最初から決たっおいたかのように、自然ず胞ぞ萜ちおきた。


    ---


    それから数幎埌。


    䞀冊の本が出版された。


    衚玙には、ただ静かに題名だけが蚘されおいる。


    『戊線のレストラン』


    その本を開いた人々は、戊争の勝者や敗者ではなく、䞀軒の小さなレストランず、そこぞ集った人々の思い出を知るこずになる。


    そしお、最初の䞀ペヌゞには、こう曞かれおいた。


    ――これは、囜境の非歊装䞭域にひっそりず建っおいた、䞀軒の小さなレストランの物語である。



     〜fin〜

     
     
    だいぶ陰キャな高校生 小説も出すし、なんかはけ口の様な事も曞いおるけどよろしく 趣味はゲヌム、読曞、将棋。 話が合う人募集䞭

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