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月の丘

    父が死んだ。
    満月の夜、急に死んだ。

    あと8分で二月だという、一月の出口だった。

    二月には鬼が来ると言う。
    季節の変わり目の中でも、「1番ゆらぐこの時期には気をつけなさい」と、昔の人たちが考えた風習が「節分」なのだと小学生の時に習った。

    父は鬼に負けたのかもしれない。
    だとするとあまり強い桃太郎ではないなんて、くだらないことを思った。

    鬼が来るその時期に、父は静かにいなくなっていた。
    父がいなくなった数時間後、私は日課の早朝ランニングで同じ月を見た。いつもの小高い、お月さまがよく見える場所。黄金でまんまるに大きく輝く美しい月だった。ほかの星を消さんばかりのあの光を、私はよく覚えている。

    父の死の知らせをもらったのは、その死から一週間後だった。母がこちらの忙しさに気を遣い、お葬式が終わるまで知らせなかったのだ。
    彼女は昔からそういう人。
    家族の絆より、目の前の現実を優先する人だ。
    その価値観には小さいころから振り回されてきたからよくわかる。
    大人になった今、家庭を回す身としてその気持ちはよくわかるが、お陰様で「家族は足枷」であるようなそんな価値観が私の中にあるのはきっと、母のこの哲学のせいであろう。

    それでも、あの美しい満月の夜を思うと、不思議と責める気持ちは浮かばない。

    父が死んだその時、あの月はきっと、すべてを見ていたのだと思う。

    父が死んで、お月さまがもっと好きになった。
    もしかしてあのお月さまなら、父が死んだのを見ていたかもしれない。父の心臓が急に止まった時、近くにいた弟が蘇生しようと頑張った姿も、母がうろたえている姿も、すべて見てくれていたんじゃないかと思ってしまう。そして満月が見守る中、空を軽く飛んで、違う世界へ行けたのではないかと、少しうらやましささえ感じる。それは私が幼い頃から大好きな『魔女の宅急便』のキキのようで、新しい旅たちを祝福してくれているようにしか感じなかった。

    あの日から、月を追うのが前よりももっと好きになった。早朝の、夜の帳が下りる街を一人駆け抜けるのがもっと心地良くなった。それはきっと、お月さまが見ているから大丈夫だと、どこかで思っているからかもしれない。あのお月さまならきっと、私に何も起きないようにしてくれるとすら思ってしまうのかもしれない。何度も何度もその位置を確認しながら、夢中で走り続ける朝、ふと時々空を見て、またお月さまをさがしてしまう。もしかしてこの空を見たくなる気持ちは、『星の王子さま』の操縦士の彼が、あの子の笑い声が聞こえる気がして、夜空を見上げて探すのと同じ気持ちなのだろうか。また会えるかもしれないなど、淡い期待を抱いているのだろうか。

    幼い頃「お父さんそっくり!」と言われる度、どうしてこんなに小さくてかわいい女の子の私がこのおじさんとそっくりと言えようかとイライラしたものだ。「迷子になってもすぐに見つかるね」なんていうジョークだって散々聞き飽きた。そして見た目に関する感想を聞かされる度、自分の未来を見せられるようで怖かった私は、どんどん父を嫌いになった。

    閉鎖的で、小さな田舎特有の「ほぼ全員知り合い」状態で生まれ育ち、特に祖父母の代から自営業を営むわが家の事は、みんながよく知っていた。あの町から飛び出したくて、遠くの町の中学受験も希望した。高校だってそう。でも母からの「18歳までここにいなさい」の一点張りに毎度跳ね返された。その度に、私の知らない世界への憧れは強くなっていったに違いない。その憧れは、もっと幼い頃から私の中にあったものだ。 たとえば――ただの帽子を『大蛇を飲み込んだ象』に見立ててしまうような、 まだ無垢で幼い子どもの頃の私が持っていた外の世界への憧れに近いものだった。つまらない大人の世界から逃れたくて空へ飛んだ操縦士の彼のように、 私もまた、見た目ですぐに分かってしまうほど強く嫌いだったDNAから遠く離れたくて、 誰も私を知らない場所で「私だけ」を見てほしくて海を越えた。そんな思いが積み重なって、大学は恐ろしく遠いイギリスを選んだのかもしれない。19歳の私は単身で渡英した。

    何も怖くなかった。むしろ地元よりも呼吸がしやすく快適だった。

    父とは、家を出た19歳くらいからそんなに話をしなくなった。
    小さいころはとても仲が良かったが小学生の高学年になる頃には、自分の価値観もしっかりしてきた所為か、どこか人として尊敬できない部分がある父を疎く思っていた。学校の優等生でおしゃれな私には、絵に描いたように完璧な父でなくてはいけない。私の人生のパズルのピースが足りないのなら、きっとそれは、私の出生の部分だとすら思っていた。そして、その完璧に尊敬できない血が、私の見えない血管にも流れていると思うとゾッとした。
    こどもなんてそんなもんだろう。
    大きくなれば親から巣立つためにも、そうやって離れてゆくものだ。
    それに母の「家族は足枷」の価値観も加わり、私の外に出たい欲はきっと同世代の誰よりも強かったに違いない。

    英国はとてもいい故郷になった。
    第二の私は、ここが故郷であると言いたがっている。私は英国で学び、生まれ変わったと信じていた。古い価値観を捨て、体ごと新しい細胞になり、過去すら溶けてなくなったと思っていた。生まれ変わった私は、また新しい町でバイリンガルとして生き始めた。そして結婚、出産を経ても、イギリスのバックボーンはずっと、新しい私を力強く支え続けてくれた。

    何も変わらず続く日常。新しい私はその強さを増し、生活は順風満帆だった。

    そんな平和な生活が続く中、急に父が死んだ。
    いつか別れがやってくるのは知っていたが、あまりにも突然だった。
    薄々父の命の灯(ともしび)が消えそうなのは、コロナ禍を経てご近所の目を気にすることなく、あの閉鎖的で小さな町に6年ぶりに帰った時にひしひしと感じた。「次に会うのはきっとお葬式に違いない」と直感がそういったのに、私はそれを見なかったふりをした。まだ時間はある。私の理想の父みたいになってくれないと嫌だと、まるでイヤイヤ期の子供の理不尽な思考を押し付けるように、私はあえて父とは話をしなかった。

    大して話すこともない。どうせ子供たちの話で終わる。別にいい。

    いつまでも子供の思考のままでいる私に、きっと罰が当たったのだ。

    父の死の知らせを聞いてから、しばらくは実感がなかった。
    そんなに近い関係でもなかった私には、悲しいかな、現実にさほど影響がなかった。大丈夫、きっと大丈夫。このまま納骨さえも涙が出ないで終わり、きっと数年後、数十年後、ふとした思い出にふれて涙が出たりするのかもしれない。あたたかい思い出も今は思い出せない。目の前の現実が忙しすぎる。むしろその忙しさが、私の心の深いところに蓋をしてくれ、ちょうどいいのかもしれない。今じゃない。こんなに忙しい今、泣いている暇なんて一刻もない。英国に久しぶりに出かけるのだ。準備をさせてくれ。

    父は英国が嫌いだった。その代わりではないが、アメリカが好きだった。家に呼ぶ友人たちもアメリカの方が多かった。もしかしてそれも私が英国を選んだ理由に入るのかな、とロンドンに向かう飛行機の中でぼーっと考えた。いや違う。私の現実の逃げ口が、英国文学だったのが大きい。絶対に父は関係ないと、なぜか必死で自分に言い聞かせた。でもどこか、反抗の一部だった気がして幼稚な自分にまた嫌気がさす。19歳で宇宙に飛び出し月に住むことができないなら、うんと遠くのあこがれの国へ行けば逃げられると思っていたのだろうか。いや、私は「私だけ」で見てほしかったに違いない。そんないつまでも子供のようなダメな私をダメだと言わず、英国はまた受け入れ、新しい物語を紡いでくれた。

    帰国してからも、忙しさは変わらなかった。むしろ加速したかのように、あれこれスケジュールをこなす日々だった。

    そんな時、次男が大切に飼っていたヤゴが死んだ。
    1年で二回目の死。

    命に重い軽いなんてない。父の死の次の死。

    あんなに大切に育ててトンボにしようねって話をしたのに、目の前で動かなくなっているその抜け殻は、もはや積んである古本と同じような、無機質なものに見えた。

    水草を必死で掴んで離さなかったあの手は、1番すわりが良さそうな位置で固まってしまっている。あちこちウロウロしていた小さな体が、ひっくり返って水に揺られている。これが星の王子さまが残していった体か。遠い星へ帰るため、地球に置いていった体なのか。身軽にならなければ行けぬ場所へ戻るため、あの塀の向こうで脱ぎ捨てた殻なのか。
    父が動かなくなったのを見ていない私はヤゴのその無機質な体に、死んだばかりの父を重ねてみていた。

    小さい頃、髭が嫌いでよく泣いた。小さくて柔らかな私を抱っこしてくれていたあの体はもう動かない。もはや灰となり、すっかり形を失っている。器用になんでも作れたあの手は、もう体温も色もなくカチコチに固まっていたのだろうか。好奇心から生まれた私の疑問に、どこまでも丁寧に答えを出してくれた脳も、すっかり焼けてなくなった。父は最期、どんなことを思ったんだろう。私のこともちゃんと思い出してくれただろうか。私との思い出って、ちゃんと残っていただろうか。

    私を生んだ後しばらく実家で過ごしていた母の元に、しつこいくらい何度も何度も訪ねて来ては、私をずっと抱っこしていた話も聞いた。1歳の時に映画の魔女の宅急便に触れ、キキに夢中な私に赤いラジオを与え、名前も書いてくれた。幼稚園生の頃、私が好きな曲をちゃんと知っていて、ドライブに出るたびに「あの曲かける?」と聞いてくれ、一番にかけながらドライブにでていた。卒業式に着たい服を絵に描いて、それの通りにならないか二人であちこちお店を巡った。「この歌が好き!」と言えば、どの国の誰が歌っている曲かを調べ上げてくれた。制服が最後の日、「それはもう2度と着ない服だから、今写真を撮っておこうよ。」と声をかけ、写真を撮ってくれた。

    あるじゃないか。父とのあたたかい思い出が。
    あるじゃないか。あの時受け取った優しさが。
    あるじゃないか。ちゃんと感謝している気持ちが。
    何が溶けてなくなった、だ。
    この血にしっかりと、温度を宿して流れているではないか。
    19歳で離れ、久しぶり会うたびに老いが見える父が嫌だった。
    父がダメになったんじゃない。父が理想通りじゃなかったからじゃない。
    父の老いた姿を受け入れたくなくて、あたたかな思い出にふたをしていたのは、愚かで深くものを考えられない、私自身じゃないか。

    目を閉じて、私の恥ずかしい行動の数々を思い出そうとする。ぼんやりした視界の先に何かが見える。白い点?いや、線。それは少しずつ輪郭を作っていって、私の中心に向かっているのがよく見えた。伸びているその白い糸は途中から色を変え、オレンジ色になっているように見える。触ってみたい。でも、糸を辿っていくのが怖くて仕方がなかった。それを辿れば、きっと父との温かな思い出に繋がると、なんとなく直感していた。それは絶対に触ってもいけない。見てもいけない。触れば、ぐっと糸に引っ張られて、悲しみの底に引き摺り込まれる。

    回していかなければならない日常があるのだ。私の選んだ人たち、私の元にやってきた子供達、私が選んだ仕事がある。悲しみに触れている暇なんて一刻もないのだ。
    父の死の知らせを聞いたあの日そう強く決意したはずなのに、2度目の死との触れ合いに、私の心が激しく揺らいでいるのを感じた。

    蛇に噛んでもらった星の王子さまは、体がなくなっても問題なかったのだろうか。ちゃんと信じていた通り無事に、薔薇が待つあの星に帰れたのだろうか。そしてバオバブを抜いて、また平和に朝日と夕日をみて一日を過ごしているのだろうか。私の父は、おじいちゃんおばあちゃんが待っている世界に行けたのだろうか。道中を満月が明るく照らし、助けてくれたのだろうか?それとも生者からの祈りが足りないと、いけない場所だったりするのだろうか。

    残された体を見て、触れ、あの操縦士の気持ちがようやっと分かってきた。あちらの時間が止まってしまった今、もうあの声が聞けない。この顔は皺を寄せて笑ってはくれない。手の温度はどのくらいだったっけ?背中が1番痒くなる場所、またかいてあげられるのに。

    喉仏に大きな石を詰め込まれたような痛みが走る。水を飲むのも呼吸をするのも、何をするにも苦しい。本当に石が入っているんじゃないかとすら思えてしまう不快な痛み。赤ずきんちゃんのオオカミならお腹の中に直接石を入れられるのに、罰当たりな私には喉からしか入れてもらえないのだろう。そしてこれは、私の心から出ているあの白い糸の仕業。目を閉じる。やっぱりそうだ。近くにいる。そろそろ引っ張れと言わんばかりに、喉元にまとわりついてくる。
    今じゃない。

    振り払えば払うほど糸の締め付けが強くなり、ある日の午後、不意にそれに手を伸ばした。

    白い糸はのどを離れ、手に巻き付いたかと思うと、ぐんぐん心の奥底へ私を引っ張っていった。暗く長いトンネルの先、奥底に静かな湖畔が見える。薄暗い森。トンネルを抜けると一頭の鹿がこちらを見ていて、会釈をしているように見えた。ここ、知ってる。小さなときに、嫌な気持ちになると何度も逃げ込んだ森。確か奥に小さな家があったはずと踏み込んだら、一気に風
    が強くなってきた。静かだった森がざわめき、小さな湖の水面が波を立て始める。あまり状況がよろしくないのが明らかだった。

    手に絡みついていた糸が、その色を白からオレンジに変えていた。ゆっくり太くなったり細くなったりして、まるで呼吸をしているようにすら見える。この糸は一体何なのだろう。私をなぜここに連れてきて、どうしてほしいのか、何が起こるのか不安でいっぱいで見つめていると、急に声が聞こえた。懐かしい声。遠い。私を探して、優しく呼んでいる声。建物の中から聞こえていそうな声。きっとあの家の中だ。家に入ろう。また会える。また話ができる。今度はちゃんと話そう。今度こそ、もとの仲が良かったあの頃みたいに話そう。そう思い、家があったと思われる方向に目をやった。―――だがそこには何もなく、森が続いているだけだった。煙突から煙を出して、あたたかく私を待っていたあの家がない。そこにいるはずの父ごと消えている。その空白が、父の不在と重なった。

    私はやっと、父がいなくなった事に気がついた。
    父が死んで、初めて涙が出た。

    喉の奥から焼けるような痛みと共に、目頭も一気に熱くなった。これが喪失感。手の届かないその先へ行ってしまった者を、返して欲しいと願う想い。あの操縦士も、星の王子さまを想えば致し方ない選択だったと分かっていたはずなのに、きっとこの悲しみに襲われただろう。それまでの当たり前が目に見えなくなると悲しみに包まれて、髪の毛が全て白になるんじゃないかというくらい激しい頭痛に襲われる。泣いたって戻らない。時間を戻してほしいと願ってきた人が、かつてどのくらいいただろう。でも誰かを想い、流した涙の量で奇跡は起こったりしないの?大切なものは目に見えないって、これもそうなの?目に見えないのにそこにあるって、どういう事?

    祖母に一度質問したのを思い出した。死んだらどこにいくのか、幽霊ってどういう事なのか、オブラートなんて知らない小学生の私から飛び出した質問に、驚きもせずゆっくりひとつずつ答えてくれた。お仏壇屋さんだった私の実家は当然宗教には詳しく懇切丁寧に教えてもらったけど、1番覚えているのは、やっぱり、結局死者がよみがえってきたことがないのでよく分かってない、という事だけだった。

    古い思い出を脳に映し出し、夜空の星をみて死者を想うのは、この地球にいきている生物だけがやることなのだろうか。ほかの惑星に住んでいるかもしれない生き物たちも、同じように空を見上げ、遠すぎる時間を見せている宇宙の星々に、その想いを重ねたりするのだろうか。

    母と電話する。まだ父宛の手紙が届くらしい。
    きっと2月に入る前に死んでしまうとは思ってもいなかったのは、ほかの誰でもなく本人に違いない。入会の案内など、明らかに父が請求して取り寄せたものもあるらしい。

    終活なんて言葉は父の辞書にはまだなかったからだろう、母は父の部屋の片づけで忙しいと愚痴をこぼしていた。もう誰も着ないおしゃれが大好きな父の洋服、父の代名詞にも近いギターの数々、器用に使っていた小さな工具類。「お金もプライドも、何もかも天国には持っていけないのよ」と祖母が言っていたのが今ならよくわかる。天国には持っていけないだろうな。だって星の王子さまだって、体を捨てて星へ帰ったくらいだもの。エンマ様の前ではどんなに偉い人もその人の人となりでしか判断されないらしいし。父は頼りがいはなかったが、いい人ではあった。人よりも迷惑をかけているかもしれないけれど、根っこの良さは、きっとエンマ様も見抜いてくれるだろう。

    今は、そんなお人よしの子供でよかったと少し思う。 あの温度はきっと、いい伝染をする。そっと残せる人を想う温度は、私の手のひらに確かに残っている。

    また目を閉じてみる。あの白い糸はまだあるだろうか。

    ーいや、もうない。
    役目を終えて、いなくなってしまったのだろうか。じっとしていたらあの森に行けるかもと思い、まぶたの裏の黒い世界に集中してみる。しばらくすると、あの森が黒のトンネルの向こうに見えてきた。

    まだ森はある。相変わらず薄暗い。
    小さな湖も見える。今はまだ穏やかで、水面はしずかだ。

    足を踏み入れる。また風が強くなるかもしれない。でもその恐れは消え、少しだけ柔らかな光が空から差す。風もほとんどなく、穏やかな森。あの鹿もまたこちらを見ている。

    もしかして、あの家があるかもしれない。
    いつも逃げ込んでいたあの家。この間は消えてしまっていた、あの小さな家。

    ーーあった。
    やっぱり少し奥のほうにある。
    今日もおだやかに、森の木々の間から顔を出し、空に伸びた煙突から、やさしく煙を出している。 見えた瞬間、胸の奥の緊張がふっとほどけた。ああ、私のあの世界はちゃんとここにある。
    家に向かおうとする。けれど足が止まる。
    今日は、その扉の向こうに行かなくていい気がした。 あちらの時間は止まるが、こちらの時間は刻一刻と前に進む。今は今しかない。この一刻を、生に向けて大切にしたい。

    私はまた、忙しい日常に戻ることにした。
    父が確かにいたこの世界で、また物語を紡いでいくことにした。

    今は空の向こうで、何の責任もなく笑っているあなたにこの気持ちを文にして伝えよう。私は元気です。楽しいこともありますが、そうでない事も勿論あります。自分だけのものじゃなくいろんな問題を抱えながら生きていますが、それこそが生きることだとある人が言っていたから、それを信じて前に進み続けています。あなたが消えてもなお時間は止まらず、宇宙はふくらみ、物語は複雑になっているけれど、これはこれで楽しいです。あなたが第二の死を迎えることの無いよう、今日もまたあなたを想います。

    まだ夜の帳が下りている街を駆け抜ける。今日もお月さまがきれい。
    月がよく見える丘の上で、また会いましょう。

    父が見た光を、私はまた見つけに行く。


     
     
    東京都立川市にある、ちいさな翻訳アトリエです。イギリスの大学で学んだ経験をもとに、ことばと感性を紡ぐ翻訳をしています。こちらでは、英国ヴィクトリア時代に特化した【文学サロン|手紙とハーブとひと休み】を運営しています。そのほか英国の詩なども翻訳しておりますので、ぜひご覧ください。

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