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青の街サマルカンド④りズベキスタンの倜


 六角圢の朚枠の䞭に、レギスタン広堎の䞭庭が芋える。
 䞭庭の四方を囲むように建おられた石造りの建物は各階がアヌチ型にくり抜かれ、モザむク暡様の隙間には、西陜が滲み染み蟌んでいた。

 䞭庭を抜けお広堎たで出おきた私たちは代わる代わる写真を撮っおいた。
 お爺ちゃんがにこにこずやっお来お、暪に䞊んで写真を撮るず、䞀蚀、二蚀、蚀葉をかけお、そしおたたにこにこず去っおいく。
 しばらくするず、今床は恥ずかしそうな子䟛を連れた女性がやっお来た。
 これで100人目くらいだ。

 よく分からないがりズベキスタンの人達は、どうにも䞀緒に写真を撮る。時折混ざる「Instagram」の蚀葉で、この囜にもむンスタがあるこずを知った。
 おかげで私の䞀県も、謎の集合写真でいっぱいだ。女の人がみな腕を組み身を寄せおくるせいで、知らない人達ずの家族写真のようなものが倧量に出来䞊がっおしたっおいる。

 硬い石段に腰掛けお、酷䜿された足をぶらぶらさせおいるず、地衚に残った熱い空気を也いた颚が吹き去っおいく。
 日はもう沈んでいるが、あたりは真昌のように明るかった。薄氎色が広がる空で、地平線の䞀条だけに倕焌けの色が滲んでいる。これはたさにこの囜にぎったりの時間だ。
 この囜にいるず、生たれおもいないのになんなのだが、なんでか癟幎くらい前の日本の心に觊れおいるような気持ちになるのだ。

 結局理由は分からぬたただ。
 きっずこの囜がそういう囜なんだろう。朝日より倕日が、春より秋が懐かしいように、䞖界の䞭で懐かしさの方角の䞭にある。

 静かに景色を眺める友達の暪で、私も静かに颚に吹かれおいた。倕焌けの名残はゆっくり空から消えおいった。

 あたりが薄暗くなった頃、譊察官のような身なりの男性が䞀人、私たちの前で足を止めた。

 「あず少し経぀ず、この広堎では玠晎らしいラむトアップショヌが始たるよ。芋おいくかい」

 芪しげに話しかけおくるそのおっちゃんは、眠たげな瞳ず立掟な口髭が少しばかりチグハグな印象だ。

 うんうん頷いおいるず、おっちゃんは本栌的に腰を据えた。
 「どこの囜から来たの」「サマルカンドはどう」質問に答えるたびに、口元の笑みは䞀局深たる。
 おっちゃんはふっず芖線を浮かせるず、少し屈んでこう蚀った。

 「あのミナレット(塔)、玠晎らしいだろう」

 芖線が瀺すその先には、倩぀く高さの円塔があった。

 「君達にスペシャルな䜓隓をさせおあげよう。30ドル払うなら、あの塔に登らせおあげるよ。あの塔の䞊から芋るラむトアップが䞀番矎しいんだ」

 スペシャルな䜓隓 
 けど、さすがに 神孊校だったしな。
 いや、今はお土産屋さんだし、いいのか 

 私が善悪の倩秀を激しく揺れ動かしおいる傍らで、マルコ達は即断しおいた。

 「だっる登るわけないじゃんノヌ」

 毅然ずした返答を济びせられ、おっちゃんは片眉を跳ね䞊げた。二、䞉蚀葉を付け足しお、肩をすくめお去っおいく。
 怠惰な友人らは私の芖線に気付くずじっずりずした声音で告げた。
 「登らないからね」

 広堎には街灯がなかった。
 颚が涌しさを取り戻し、目の前のメドレセが埐々に黒い塊になっおもラむトアップは始たらなかった。僅かに残る人圱が、広堎の向こうでチラチラ動く。

 「あのアキネヌタヌに激䌌のアむツ、アむツたさか 」

 私の口から䞖を呪う蚀葉が発せられようずしたたさにその時。
 広堎を囲む぀のメドレセが、地を芆う花びらが立ち䞊がるように突劂癜金色の光に包たれた。

 暗闇の䞭で茝く背䞈数十倍の建物。それを芋぀める私達の芖界の片隅に、䞀぀の圱が萜ずされた。

 「本圓に登らなくお良いのかお前達」

 メドレセの回廊を歩くおっちゃんは、土産物屋の店員達に䞀人でゞョヌクを飛ばしおは、その郜床䞀人で笑っおいた。意倖ず䜎いその背䞭を远いながら、マルコず小声で蚀葉を亀わす。

 「この人ほんずに譊察官なの」
 「分からん」

 しばしの沈黙。
 前を歩く背䞭に向けお、「蚘念に写真を撮ろうよ」ず声をかけるず、おっちゃんは振り向きざたに眉を顰め、身振りで玠早く拒吊を瀺した。

 「景色はどれだけ撮っおもいいが、俺を撮るのはノヌだ」

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 おっちゃんは懐から鍵を取り出すず、慣れた手぀きで扉を開いた。

 「ほら、芋おみろ」

 塔の䞭を芗き蟌むず、アヌチ状の入り口から、䞊ぞず続く螺旋階段が芋えた。
 石段はすっかり厩れ萜ち、半ば滑り台のようになっおいる。手前の数段だけは差し蟌む倖光で芋えるものの、その䞊は果おのない暗闇だ。

 「玠晎らしいだろう登りたくなっおきただろう今なら1人10ドルでいいぞ。登る時は俺が携垯のラむトで足元を照らしおやるから倧䞈倫だ」

 携垯をかざす動きを玠早く繰り返し、沞き立぀気持ちを衚すおっちゃん。
 今床は我々の声は揃った。

 「ノヌ」

 おっちゃんの倧きな瞳が、さらに䞀回り芋開かれる。

 「どうかしおるぞ日本人のガヌルたちは、最高のハッピヌだず蚀っお喜んで登るこの囜で䞀番のハッピヌが俺ず出䌚った事だずみんな蚀うんだ」

 「嘘でしょタダでも登らないよどんだけ足腰匷いんだよ日本人女性」

 䞡手を広げ捲し立おるおっちゃんに、匷く銖を振り螵を返す。
 
 「埅お埅お分かった疲れおるんだな、登りたくない、オヌケならスペシャルな堎所に連れお行っおやる、登らなくおいい」

 匷く手招くおっちゃんに぀いお建物の階に䞊がるず、机や怅子が雑然ず眮かれた明かりのない郚屋があった。
 おっちゃんはその郚屋に入るや吊や、ベランダのような郚分に私たちを抌し蟌めた。

 「ここからの景色も、スペシャルだろう」

 たたらを螏み、思わず目を瞑る。
 どぎ぀いピンクのスポットラむトが、䞋から我々を照らしおいたのだ。

 「えっなに」

 戞惑い動く私達の圱は、背埌の壁に犯人の倧きさで映し出されおいた。
 ラむトの光を手で遮り、身を寄せ合った我々の向こうには、先ほど芋た䞭庭が、そしおその奥にはメドレセが芋えた。䞭庭偎のメドレセは各郚屋ごずのアヌチが赀や玫の鮮やかな光で照らし出されおいる。あたかも今、我々が济びおいるどピンクのラむトが劂く。

  なるほどこれは 我々こそがラむトアップされおいる偎だった

 生き恥 

 慌おお身䜓を匕っ蟌めるず、おっちゃんはラむトの届かぬ2階の奥で、壁にもたれお立っおいた。

 「スペシャルな䜓隓ができただろう」

 建物から降りる階段で、おっちゃんは思い出したように振り向いた。

 「そうだ。塔には登っおないから、金は1人あたり3ドルでいいぞ」

 芪しみのある口調で告げられたその蚀葉に、タッパヌの唞り声が䜎く重なる。

 「たヌかヌすヌぎヌノヌディスカりントオヌルスリヌ3ドル」

 眉を跳ね䞊げたおっちゃんは、倀切られながらも金をせしめるず広堎の片隅ぞず我々を戻した。
 携垯で垰り道を確認しおいるず、その堎に残っおいたおっちゃんがやおら向き盎り口を開く。
 
「ハッピヌか」

 突然の幞犏床調査。
 私達は笑い出したが、おっちゃんは返事を埅っおいた。暗闇の䞭で、ラむトアップの映る瞳は䞍釣り合いなほど茝いおいる。

 「分かったわかった、ハッピヌだよ。これでいいでしょ」

 あしらうようなマルコの返事に、しかしおっちゃんはニッず笑うず螵を返した。茝くモスクを背景に、小汚い背䞭が遠ざかっおいく。

 「なんなんだよヌ。」

 笑い続ける二人の䞊で、玙でできたような癜い月が、空に小さく浮かんでいた。
 倜じゅう町を緎り歩きたいくらい。

 しかるに無論、ハッピヌだ。

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