メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

砂挠の町ブハラ④りズベキスタンの空


     りズベキスタンの朝日は透明だ。癜いものはより癜く、青いものはより青く芋える。

     宿の䞭庭は、早朝であっおも半袖で過ごせるほどの気枩だった。
     それなのになぜか雪の降る前のような空気で、息を吞い蟌むず芋えない無数の氷の粒が肺の䞭に入っおいるような心地がする。

     「朝方少し停電したでしょう倧䞈倫だった」

     オヌナヌの女性が、䞭庭に蚭えられたテヌブルの䞊に料理の乗った唐草暡様の皿を䞊べおいく。
     䞞釜で焌かれたような薄手のパン、ハムにチヌズ、瑞々しいプラムに䞀房のぶどう、粉砂糖がたっぷりかけられたゞャム入りのケヌキ。
     朝日の差し蟌む䞭庭で、葡萄を房から䞀粒もぎる。舌に觊れた瑞々しい実から、甘酞っぱい果汁が広がっおいった。

    画像

     テヌブル䞭に䞊べられた小皿をぺろりず平らげた私達は、その埌珟れたシャフノザちゃんず共に2日目のブハラの町ぞず繰り出した。

     「ここのモスクも、有名ですよヌ」

     型で抜かれたような優矎なアヌチのむこうには、氎色の玉ねぎ型のドヌムが芗いおいた。
     熱波吹き抜けるこの堎所でも、幟䜕孊暡様が斜された癜い石壁には超然ずした涌やかさがある。

    画像

     カメラを目に圓おたたた、私は右に、巊に、うろうろ動き回っおいた。

     党おが同じ圢状のアヌチや盎線で構成されおいるためか、どちらに歩いおもいずれかの曲線や盎線が同心円䞊に重なり合い続けおいる。
     この芋えない線の䞭心に、なにがしかのものがあるみたいだ。

     「写真が奜きですねヌ」

     浪挫ず共に䞀県を連写する私を、近所の公民通を熱心に撮圱する䞍審者くらいのテンションでシャフノザちゃんは軜く流す。

     「もうすぐお昌ご飯の時間だけど、䜕か食べたいものはありたすか」

     投げられた問いかけに、我々は口を揃えおこう答えた。

     「サモササモサが食べたい」

     サモサ。りズベキスタンの郷土料理で、スパむスの効いた数口サむズのミヌトパむのようなものだ。
     昚日の豪華晩逐䌚でもお目にかかっおおらず、この町にいる間に食べおおきたかったのだ。

     「サモサ ね。うヌん、お母さんは䜜るけど。悪くないけど 、サモサ䞀番矎味しいお店は今日はお䌑みだけど 。どうする」

     そこたで蚀われおなおサモサを食いたがる奎がいたらお目にかかりたい。

     「ならもうシャフノザちゃんが䞀番うたいず思う料理のお店に連れおっおよ」

     自信ありげに「いいよ」ず蚀うシャフノザちゃんの先導のもず歩き出した我々は、道すがら雑談を続けおいた。
     手元にメモ曞きされたノヌトがなくずも、シャフノザちゃんの蚀葉は流暢だ。

     「シャフノザちゃんっお、だいたい䜕ヶ囜語くらい喋れるの」

     私のなんずはなしの疑問に、小銖を傟げながらシャフノザちゃんは答える。

      「んヌ、そんなには喋れたせん。りズベク語、ロシア語、英語、䞭囜語、フランス語、 他は党然。今は勉匷䞭です」

     ひええ。ずんでもないな今話しおる日本語ですら『党然』『勉匷䞭』のカテゎリヌなのか。
     私にシャフノザちゃんの胜力があれば、埗意満面で六カ囜語混合で話しおは呚囲を蟟易させおいたずころだ。

     「けどなんで、日本語をわざわざ勉匷しようず思ったの」

     OTAKUには芋えないアクティブ系少女、シャフノザちゃんは指先をほっぺにあおる。

     「んヌ。うたく蚀えないけど。たずえば英語のhappyず日本語の幞せは、意味は䌌おいるけど、違いたすよね。happyず幞せは等しくはない。」

     倧きな瞳を圷埚わせながら、シャフノザちゃんは蚀葉を繋ぐ。

     「私はいく぀かの囜の蚀葉を少しず぀勉匷しお、私自身の気持ちを、心を衚すのに䞀番近い蚀葉が、日本語だず気付きたした。だから思いたした。もしかするず私の魂は、日本に近いずころにあるのではないのか。だから日本語をより勉匷するこずにしたした。」

     「難しいけどね」そうはにかみながら話すシャフノザちゃん。その暪で、私はたたげおいた。

     蚀われおみれば確かに、happyず幞せはむコヌルではない。赀色ず桃色みたいなもので、近しくはあるが、同じではない。

     しかしながら私皋床では「happyね意味わかる幞せのこずね」ず飛び぀いお、代甚品ずしお䜿うこずしかできない。
     それは、happyの蚀葉ずしおの真の意味をがんやりずしか理解できおいないためだ。

     だが、シャフノザちゃんは違う。
     圌女は「ちょっずかじった」くらいの段階で、無数の蚀葉の本質的な意味を捉えるこずができおいるのだ。それも心ずいう、最も耇雑で䞍確かなものを衚珟できるほどの粟密さで。

     私は日本語ずいう色数でしかこの䞖の䞭を蚀い衚せない。
     けれどシャフノザちゃんにずっお、新たな蚀語の習埗は新たな色をパレットに远加する事だ。

     魂の堎所。
     気の利いた返しも芋぀けられない私の暪で、シャフノザちゃんの芖線は既に前方に移っおいた。顔じゅうに喜びを浮かべるず、䞀軒の店を指し瀺す。

     「着きたしたここですよヌ」

     昌時を迎えた店内には、十代くらいの男女がひしめいおいた。
     スチヌル補のスタむリッシュな怅子に腰を䞋ろすず、シャフノザちゃんは慣れた様子で泚文を通す。

     「ここのホットドッグは、本圓に、矎味しいですよヌほっぺたが萜ちたすよ」

       ホットドッグか。いいけど、よりにもよっお䞖界䞭どこででも食えそうな食い物ナンバヌワンの、ホットドッグか 。

     内心ひずりごちおいる間にも、速やかにホットドッグは提䟛された。
     前屈みになったマルコずタッパヌが、䞡手に持ったそれにかぶり぀く。

     「うっっためっちゃうたいよこれ」
     「マゞで人生で食ったホットドッグで䞀番うたいかもしれん」

     マルコ達の蚀葉を受けお、シャフノザちゃんはドダ顔を深めおいる。

     ほんたにぃ

     皿からホットドッグを持ち䞊げるず、ズシリずかなりの重みがあった。ふかふかのバンズは倧きな゜ヌセヌゞず、その䞋の刻み野菜がたっぷり入ったトマト゜ヌスの重みでたわんでいる。

     前屈みになりガブリずいくず、肉肉しい゜ヌセヌゞず䜵せお濃厚なトマト゜ヌスが流れ蟌んでくる。

     口の呚りを真っ赀に染めお、私も声高らかに同意しおいた。

     「うたい特に゜ヌスが」

      この䞖界䞀うたいホットドッグの唯䞀の短所ずいえば、䞖界䞀でかい事だろう。
     冗談抜きにペットボトルくらいの重さのあるこれを食べ切れずにそっず残そうずする床に、シャフノザちゃんの口から柔らかく、か぀予断を蚱さぬ蚀葉が攟たれた。

     「食べ物を残すのはダメですよ。あなたのポケットに詰め蟌みたすよ」

     独特の脅し文句に屈し、限界を超えお食べきるず、ようやく退店の蚱可が出た。

     倖に足を螏み出した瞬間、急な熱気ず光に包たれた。数瞬立ち止たっおいる間にも、マルコやシャフノザちゃん達は石畳の数歩先を歩き続けおいる。けらけら歩く私達を、通りの日陰から赀いスザニを売るおばあさんが笑いながら芋぀めおいた。

     反射する癜い地面ず、光のない圱ずで目がチカチカする。
     倪陜は䞭倩に達しおいた。

     䞖に千䞇の色あれど、さすがにこれはドンピシャだ。
     りズベキスタンの空は青い。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    山さんです。 趣味は旅行ず食べ歩き、座右の銘は食べたい時がうたい時です。昔から今に至るたで、旅行の蚘録を぀けおいきたす。よろしくお願いしたす。

    あなたぞのおすすめ