
飽きる味と、戻ってくる味。
昼と夜のあいだ。
仕事の合間に、
たまに入る定食屋がある。
名前を出すほどでもない。
チェーンでもない。
暖簾が少し色あせていて、
昼どきは近所の作業着の人で埋まる。
そんな店。
メニューはだいたい決まっている。
生姜焼き、
唐揚げ、
焼き魚、
日替わり。
迷うほど多くはない。
最初に食べたとき、
正直、
「うまっ」ってほどでもなかった。
感動もない。
写真を撮る気にもならない。
でも、
気づいたら、
また来ている。
味って、
派手だと記憶に残る。
甘い、
濃い、
分かりやすい。
一口目で勝負してくるやつ。
そういうのは、
だいたい三回目くらいで、
もうええかな、
ってなる。
この店の味は、
その逆。
主張が弱い。
塩も控えめ。
油も軽い。
なんなら、
ちょっと物足りない。
でも、
仕事で頭がパンパンの日。
締切前で気が立っている日。
何も考えたくない昼。
そういう時に、
ちゃんと戻ってくる。
口に入れて、
「ああ……」ってなる。
良い意味で、
何も起きない。
飽きる味って、
強い味なんやと思う。
完成度が高すぎる味。
毎回、
ちゃんと自己主張してくる味。
飽きない味って、
たぶん、
隙がある。
昨日と今日で、
ちょっとブレていてもいい。
大盛りを頼んだら、
米が多すぎてもいい。
味噌汁が、
今日は少し薄くてもいい。
そのズレ込みで、
居場所になる。
音楽も、
文章も、
たぶん一緒で。
一回聴いて、
「すごい」ってなるやつと、
気づいたら、
再生回数だけ増えているやつは、
別物。
後者は、
説明しづらい。
でも、
消えない。
この定食屋も、
たぶん、
一生おすすめしない。
でも、
仕事が続く限り、
ふらっと入る。
飽きない味って、
そういう距離感なんやと思う。
近すぎず、
遠すぎず。
今日も、
腹を満たして、
何事もなかった顔で、
店を出る。
それでええ。
それがええ。
しらんけど。