メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

結婚の話だけ、圌はしなかった

    画像


    付き合っお、もうすぐ䞉幎になる。

    「来月、矎咲が結婚するんだっお」

    土曜の倜、い぀もの居酒屋でそう蚀うず、悠介は焌き鳥を皿に眮きながら笑った。

    「ぞえ。早いな」

    「早くないよ。私たちず同じくらい付き合っおるし」

    「そうなんだ」

    それだけだった。

    私はグラスの氷をストロヌでかき混ぜた。

    カラカラ、ず劙に倧きな音がした。

    少し前なら、こんな䌚話に深い意味なんお探さなかったず思う。

    でも最近、気づいおしたった。

    結婚の話になるず、悠介はほんの少しだけ話をそらす。

    友達が結婚したず蚀えば、

    「匏っお最近高いらしいね」

    同棲の話をすれば、

    「今の郚屋、曎新い぀だっけ」

    子どもの話になれば、

    「俺、甥っ子にめちゃくちゃ嫌われおるからな」

    冗談に倉える。

    話題を倉える。

    でも、「自分がどう思っおいる」ずは蚀わない。

    「悠介っおさ」

    「ん」

    「結婚したくないの」

    自分でも驚くくらい、たっすぐ聞いおいた。

    悠介の箞が止たった。

    ほんの䞀秒だったず思う。

    「なんで急に」

    その蚀葉を聞いた瞬間、胞の奥が少し冷えた。

    答えじゃない。

    「急じゃないよ」

    「そう」

    「私の䞭では、党然急じゃない」

    「  そっか」

    たた、それだけだった。

    私は笑っおごたかした。

    「別に、今すぐ結婚しおっお蚀っおるわけじゃないよ」

    「分かっおる」

    「うん」

    その日は、それ以䞊聞けなかった。

    聞いたずころで、たた少し違う方向ぞ話が流れおいく気がしたから。

    垰り道、悠介はい぀も通り私の手を握った。

    駅で別れるずきも、

    「真垆、着いたらLINEしお」

    ず蚀った。

    優しい。

    浮気を疑うようなこずもない。

    連絡だっお普通に来る。

    䌑日も䌚っおいる。

    だから䜙蚈に分からなかった。

    愛されおいないようには思えない。

    でも、未来の話だけがない。

    奜きな人ず䞉幎付き合っおいおも、結婚を考えない人はいる。

    結婚そのものを望たない人だっおいる。

    それは悪いこずじゃない。

    ただ、もしそうなら。

    私は、そろそろ知りたかった。

    私は結婚したい。

    それを抌し぀けたいわけではない。

    でも、もう䞉幎䞀緒にいる。

    もし芋おいる未来が違うのなら、それを知らないたた時間だけ重ねおいくのは違うず思った。



    それから二週間ほど経った日。

    私は悠介の郚屋にいた。

    倕飯を食べお、悠介がお颚呂に入っおいる間に、食噚を流しに運んだ。

    テヌブルに戻るず、足元に䞀冊のノヌトが萜ちおいるのに気づいた。

    「こんなのあったっけ」

    拟い䞊げた拍子に、ペヌゞが開いた。

    芋ようずしたわけじゃない。

    でも、倧きく曞かれた文字が目に入った。

    「奚孊金 残り」

    その暪に、金額。

    私は手を止めた。

    ただ、こんなに残っおいるんだ。

    その䞋には、

    「実家」

    「毎月」

    ずいう文字も芋えた。

    ほんの数秒だったず思う。

    それでも、芋おしたった。

    そしおその数字ず、悠介が結婚の話を避けおいたこずが、頭の䞭で぀ながった。

    お颚呂のドアが開く音がした。

    「䜕しおんの」

    振り向くず、悠介がタオルで髪を拭きながら立っおいた。

    「ごめん」

    自分でも、ずいぶん唐突だった。

    「䜕が」

    「これ、萜ちおお。拟ったずきに開いちゃっお  芋えた」

    ノヌトを芋せるず、悠介の顔から笑顔が消えた。

    「ああ  」

    責められるず思った。

    けれど、悠介はノヌトを受け取るず、しばらく衚玙を芋おいた。

    「芋た」

    「ちょっずだけ。ごめん。読む぀もりじゃなかった」

    「うん」

    沈黙が続いた。

    私は耐えきれずに聞いた。

    「これが理由だったの」

    「䜕の」

    「結婚の話」

    悠介はすぐには答えなかった。

    それで、ほずんど答えが分かった。

    「私、お金があるかないかを聞きたいんじゃないよ」

    そう蚀った瞬間、悠介が小さく息を吐いた。

    「ただ結構残っおるんだ。奚孊金」

    「うん」

    「倧孊のずき借りたや぀。あず、実家にも毎月少し入れおお」

    「うん」

    「別に、生掻できないほどじゃない。でも、結婚っおなるずさ」

    悠介はノヌトを開いお、今床は自分から私の前に眮いた。

    返枈額だけじゃなかった。

    家賃、光熱費、食費、保険。

    现かい数字がびっしり䞊んでいる。

    別のペヌゞには、

    二人暮らしをした堎合。

    匕っ越した堎合。

    結婚匏をした堎合。

    いく぀もの蚈算が残っおいた。

    「  こんなの蚈算しおたの」

    「しおた」

    「い぀から」

    「結構前から」

    「じゃあ、結婚する気はあったの」

    悠介は困ったように笑った。

    「その聞き方されるず、なんか詊隓みたいだな」

    「だっお、ずっず分からなかったから」

    「ごめん」

    私はノヌトを芋た。

    悠介は䜕も考えおいなかったんじゃない。

    むしろ、考えすぎおいた。

    「ちゃんず考えおるよ」

    悠介が蚀った。

    「結婚のこずも、真垆ずのこずも」

    「  考えおる、だけ」

    「いや」

    悠介は少し黙っおから、私を芋た。

    「したいず思っおる。真垆ず。ずっず前から」

    「じゃあ、なんで蚀っおくれなかったの」

    「蚀える状態になっおから蚀おうず思っおた」

    「蚀える状態っお」

    「もう少し返枈が枛っお、貯金も増えお。これなら倧䞈倫っお思えおから」

    「い぀」

    「え」

    「それ、い぀になったら倧䞈倫っお思えるの」

    悠介が黙った。

    「あず癟䞇円返したら 二癟䞇円貯たったら それずももっず」

    「  分からない」

    「でしょう」

    少し匷い蚀い方になった。

    でも、止められなかった。

    「私、奚孊金が残っおるから怒っおるんじゃないよ」

    「うん」

    「必芁だったから借りたんでしょ。実家のこずだっお、事情があるんだろうし」

    「うん」

    「そうじゃなくお、私は  」

    蚀葉が詰たった。

    声が少し震えおいるのが、自分でも分かった。

    「䜕も知らないたた、ずっず埅っおたんだよ」

    悠介は黙っお聞いおいた。

    「結婚したくないのかなっお思っお。私ずは無理なのかなっお思っお。聞いおも話倉えられるし」

    「  ごめん」

    「䞀人で党郚ちゃんずしおから蚀おうずしないでよ」

    悠介が顔を䞊げた。

    「私にも、半分考えさせおよ」

    「半分」

    「返枈を半分するっお意味じゃないよ」

    思わず笑った。

    悠介も少しだけ笑った。

    「そうじゃなくお。二人のこずなら、二人で考えたかっただけ」

    しばらくしお、悠介が蚀った。

    「栌奜悪いず思っおたんだよ」

    「䜕が」

    「䞉十過ぎお奚孊金ただ返しおお、芪にも金入れおお。そんなや぀が結婚したいっお蚀っおも、ちゃんず生掻できるのかっお」

    「それ、私が決めるこずでもあるよ」

    悠介が黙った。

    「䞀人で決めないでよ。それじゃ私、䜕も遞べない」

    やがお、悠介がぜ぀りず蚀った。

    「怖かったのかも」

    「䜕が」

    「党郚話しお、じゃあ結婚は無理っお蚀われるのが」

    私は少し考えおから蚀った。

    「私も怖かったよ」

    「え」

    「結婚する気ないっお蚀われたらどうしようっお。だから、本圓は聞くのも怖かった」

    悠介が、ああ、ず小さく笑った。

    「  同じじゃん」

    「うん。同じだった」

    「でもね」

    「うん」

    「もし悠介が結婚したくない人だったずしおも、それならそれで、い぀かは蚀っおほしかった」

    悠介が私を芋る。

    「結婚したくないっお考え方が悪いずは思わない。でも私は結婚したい。そこが違うなら、知らないふりしおずっず付き合い続けるこずはできないず思う」

    「うん」

    私は開いたたたのノヌトを指でなぞった。

    「だから、こういう話をしたかったの」

    悠介はしばらく黙っおいた。

    それから蚀った。

    「じゃあ、する」

    「䜕を」

    「ちゃんず。これからの話」



    悠介はそう蚀ったけれど、その倜に党郚を話せたわけではなかった。

    私もただ少し腹が立っおいたし、悠介も䜕をどこから話せばいいのか分からないようだった。

    結局その日は、奚孊金があずどれくらい残っおいるのかず、実家に毎月いくら入れおいるのかを聞いた。

    それだけで、思っおいたより時間がかかった。

    垰る時間になっお、私はバッグを持った。

    駅たでの道で、悠介がい぀ものように私の手を握ろうずした。

    私は䞀瞬だけ迷った。

    それから、握り返した。

    仲盎りしたわけじゃない。

    でも、離したいずも思わなかった。



    次の週末。

    私たちはもう䞀床、悠介の郚屋で向かい合った。

    テヌブルの真ん䞭には、あのノヌトが眮いおあった。

    悠介が電卓を出しお蚀った。

    「今日は逃げないから」

    「ほんずに」

    「たぶん」

    「そこは蚀い切っおよ」

    久しぶりに、二人で笑った。

    それから、少しず぀話した。

    貯金はいくらあるのか。

    毎月䜕に䜿っおいるのか。

    奚孊金の返枈はい぀頃たで続くのか。

    実家ぞの仕送りは今埌どうなるのか。

    今床は、私の収入や貯金のこずも話した。

    結婚匏は絶察にしたいのか。

    家は買いたいのか。

    子どもはどう考えおいるのか。

    話しおみるず、決められないこずだらけだった。

    「家なんお、今決めなくおもよくない」

    「俺も途䞭からそう思っおた」

    「じゃあ、なんで蚈算したの」

    「䞍安だったから」

    「蚈算したら安心した」

    「党然」

    「じゃあ意味ないじゃん」

    「それ蚀う」

    たた笑った。

    もちろん、笑っお枈たせられないこずもあった。

    実家ぞの仕送りをこれから䜕幎続けるのか、悠介にも分からなかった。

    結婚匏をしたい私ず、できるだけお金をかけたくない悠介。

    話せば党郚解決するわけじゃなかった。

    むしろ、話したから初めお分かった違いもあった。

    それでも、ようやく同じテヌブルに座れた気がした。



    時蚈を芋るず、もう日付が倉わりそうだった。

    テヌブルの䞊には、電卓ずノヌトず二本の猶コヌヒヌ。

    私は数字だらけのペヌゞを芋ながら蚀った。

    「ねえ」

    「ん」

    「幞せになるのに、いくらいるんだろうね」

    「分からないから、こうやっお話しおるんじゃない」

    「そうかも」

    二人で笑った。

    私はもう䞀床ノヌトを開いた。

    そこにはただ、返さなければならない数字が残っおいる。

    実家のこずも、結婚匏のこずも、ただ決たっおいない。

    悠介がペンを取った。

    そしおペヌゞの䞀番䞊に、小さく曞き足した。

    「二人で盞談する」

    私はその文字を芋お、悠介からペンを受け取った。

    その暪に、䞞を぀けた。

    Fin.


    最埌に

    ここたで読んでくださっお、ありがずうございたす。

    結婚の話を避けられるず、
    「私ずの未来は考えおいないのかな」ず䞍安になるこずがありたす。

    でも、蚀わないこずず、考えおいないこずは同じではありたせん。

    ただ、蚀わないたたでは、䌝わらないのも本圓です。

    今回の二人も、
    すべおが決たったわけではありたせん。

    それでも、䞀人で抱えおいたこずを、
    ようやく二人で話せるようになりたした。

    次回の「恋のヒント」では、

    結婚を考え始めたずき、お金のこずはい぀、どこたで話したらいいのか。

    奚孊金や貯金、実家ぞの仕送りなど、
    少し蚀いにくいお金のこずを、どう盞手に䌝えたらいいのか。

    珟実の恋愛ずしお、もう少し掘り䞋げおみたいず思いたす。

     
     
     
    はじめたしお。堂安 咲和です。 「奜き」なのに、どこか安心できない倜はありたせんか。 恋の綺麗な嘘も、醜い本圓も。 倧人の恋愛の、蚀えない本音を物語ず蚀葉にしおいたす。🪞

    あなたぞのおすすめ