
連載小説『翡翠の破片』|No.15
わかってはいた。
俺が、継ぐことは。でも今じゃない。独り立ちできるほど、できていない。たどり着いていない。
本当はあの時、そう言いたかった。
ーでも言わなかった。
それが、父に対して自分ができる唯一の思いやりだと思ったから。
(光の先に、たどり着けるのか。)
信号待ちの間、点滅と呼応するように響き渡る音に、過去が見え隠れする。
ーでも、あの人は違う。
あの人というのは、去年の夏、大西の元にやってきた齋藤茜である。彼女は言葉通り変わっていた。なぜなら、自分の工房があるのに、俺の下で働きたいというのだから。
「あ、あぶね。」
反射的にブレーキを踏んだ。ゆっくりと前進したつもりが、いつもの街並みがせわしなく眼前を通り過ぎていく。
「破壊と再生の間の熱量を、どれだけ作品に込められるか。それが職人として生きていけるかを左右する。そして、5日しかそれが第二の才能になるんだ。」
彼女の作品を初めて見たとき、確かにそれを感じた。
「初めてじゃ、ないですよね。」
彼女はすぐには答えなかった。工房に初めてやってきた日のことを回想する。熱を帯びたガラスの小さな塊が目の前でシャボン玉のように大きくなっていった。内から生み出される無邪気さと、その瞬間にしか味わえない輝きの粒は、彼女そのものだった。ぐるぐると回ってその世界に浸る時間は、永遠の幸せかと思えるほどだった。
いつから彼女はこの世界を作り、守り抜いてきたのだろうか。
しばらくして、ようやく言葉を繋いだ。
「十二年。」と。
ーー次回へ続く。