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あの、マッチの匂い

    夜、仕事を終えて一息ついた。
    間接照明のゆったりとした部屋で、いつものようにキャンドルに灯す。

    マッチを消す。煙が立ち上る。
    ふわっと漂う、マッチを消した時の、あの独特な匂い。

    ふと、おばあちゃんを思い出した。
    数年前に天国へ旅立った、大好きだったおばあちゃん。
    毎日、お仏壇の前でお経を唱えていた。
    仏間から漂う、ロウソクの匂い、お線香の匂い。
    そうだ、あの匂いだ。

    共働きの両親に代わって、私たち姉弟を育ててくれた、おばあちゃん。
    口うるさくて、門限も厳しくて、きらいだったおばあちゃん。
    嫌いなものが食卓に並んだ日は、絶望だった。
    食べ切るまで、席を外すことはできない。
    背後から、お皿が飛んできたこともあった。
    1分でも門限を過ぎれば、玄関の鍵が閉まっていた。

    でも、毎日、温かい一汁三菜のご飯が、食卓には並んでいた。
    きれいに畳まれた洗濯物があった。
    大人になってから、抱えきれないほどの愛をもらっていたのだと知った。

    おばあちゃんのお葬式で、人一倍泣いた。
    わんわん泣いた。止まらなかった。
    ありがとう。
    言っても、言っても、言い足りない。
    ありがとう。ありがとう。

    おばあちゃんの骨を拾った、帰りのバス。
    窓から見た青空が、今も忘れられない。
    びっくりするくらい、とても蒼くて。
    それまでぐちゃぐちゃだった心の中が、すっと晴れた気がした。
    無事に天国に行けたね、と、そう思えた。心から。

    匂いで思い出す、思い出。
    今夜は、もう少しだけこの匂いに浸っていたい。

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