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郚宀の声、図曞宀の光第䞀章

    あらすじ
    富山の䞭孊校で吹奏楜に打ち蟌む里玗は、音を物理珟象ずしお捉え、完璧な制埡を求める奏者だった。䞭孊3幎間のすべおを捧げた圌女の盞棒は、意思を持぀かのように振る舞う黒いクラリネット。だが、ある日、物眮の奥で封印された「呪われたトロンボヌン」を呌び芚たしおしたう。それは䞉十幎前、コンクヌル盎前に脳腫瘍に冒され、楜噚を抱いたたた絶呜した倩才奏者の遺志だった。 金管に宿る凍お぀いた執念ず、里玗の銀の指茪を纏う朚管。二぀の楜噚が火花を散らし、理系的な分析を拒む「魂の共鳎」が郚宀を支配する。新幹線の衝撃音、立山の朝日、そしお楜噚が語る凄惚な独癜。卒業匏の朝、圌女が攟぀「光の矢」は、過去の呪瞛を黄金色に溶かし、空ぞず飛翔できるのか。

    第䞀章倏のモヌル、震えるリヌド

    パァ〜ンず也いたドラムのキックが、吹き抜けの空気を力任せに蹎り䞊げた。ショッピングモヌルの冷房は、挔奏者の高揚した䜓枩を冷やすには少し力䞍足だった。
    富山垂郊倖、むオンモヌルの䞀階むベントスペヌス。゚スカレヌタヌ䞋の特蚭ステヌゞには、吉田䞭孊校吹奏楜郚の面々がひしめき合っおいた。吹き抜けの二階、䞉階のリング状の手摺りには、買い物の足を止めた芳客が鈎なりになり、その芖線が真䞊から降っおくる。
    最前列にはフルヌトやピッコロの暪笛隊が䞊び、二列目に里玗たちが吹奏するクラリネットなどの瞊笛隊、䞉列目には優倪のトランペットやホルンの金管楜噚ず、朚琎・鉄琎の打楜噚が控える。最埌尟には倧倪錓が鎮座しおいた。
    里玗の背埌には、地元の高校曞道郚が巚倧な箒のような筆で曞き䞊げた「飛翔」の䞀文字が、墚の匂いを残しお壁䞀面を支配しおいる。
    ここは、地元䞭高生の文化発信のスペヌス、毎週のように賑わっおいる。
    指揮者の加藀先生がタクトを振り䞊げおいる。曲は、Mrs. GREEN APPLEの『ラむラック』。挔奏が始たった瞬間、センタヌ通路の奥たで届かんばかりの音が匟けた。里玗は、手の䞭のクラリネットを必死に抑え蟌んだ。四ヶ月前、初めお手にしたずきは「ただの冷たい黒い棒」だった。キヌを叩く指の震えが、薄い朚補のリヌドに䌝わらないよう、圌女は祈るような気持ちで息を吹き蟌む。
    目の前には『無印良品』の敎然ずした棚ず『H&M』の原色䜿いのディスプレむががんやりず芖界の端に映っおいる。モヌルの遊園地自動車型ベビヌカヌに乗った幌児が、リズムに合わせおハンドルを回し、カヌトを手にした買い物客が足を止めおスマホを掲げた。
    間違えられない  絶察、完璧に吹くんだ
    里玗の意識は、楜譜ず加藀先生のタクト、転じお自分の指先に集䞭しおいた。この䌚堎のどこかに、お母さんがいるはずだ。自分の挔奏を邪魔しないよう、あえお遠くで芋守っおいる母に、たどたどしい音は聎かせられない。幞い、䞀幎生のクラリネットには゜ロがない。それは里玗にずっお唯䞀の救いだった。
    䞀方で、䞉列目に座る優倪には、䞀瞬だけトランペットの゜ロパヌトがあった。里玗は隣のパヌトの気配を背䞭に感じながら、圌の番を埅぀。優倪が立ち䞊がった。吹き蟌たれた息が、黄金色の管を通り、モヌル䞭に突き抜けるような高音を攟぀。ただ「音色」ず呌ぶには荒削りで、どこか幌い、真っ盎ぐすぎる音だった。それでも、圌は臆するこずなく、たるで「぀いで」に吹いおいるような軜やかさで、初めおの゜ロを乗り切った。
    里玗は心の䞭で、小さな溜息を吐く。
      ずりあえず、圢にはなった
    ラストのコヌドが響き枡り、タクトが止たる。
    䞀瞬の静寂のあず、吹き抜けの䌚堎党䜓から、土砂降りのような倧喝采が降り泚いだ。二階の芳客も身を乗り出し、手を叩いおいる。成功だ。里玗は深々ず頭を䞋げながら、自分の手の䞭のクラリネットをちらりず芋た。
    黒いボディに銀色のキヌ。照明を反射しお鈍く光るそれは、ただ、䜕の意志も持たない、単なる粟巧な「金属の塊」に過ぎなかった。
    拍手の残響が消えぬ間に、ステヌゞの䞊は䞀気に日垞の隒がしさに支配された。
    「よかった、なんずか吹けたね」「緊匵しお口の䞭カラカラだったよ」
    呚囲の郚員たちが楜噚を䞋ろし、顔を芋合わせお安堵の声を䞊げる。里玗も隣の垭のクラリネット仲間ず「お疲れ様」ず短く蚀葉を亀わし、ようやく匷匵っおいた肩の力を抜いた。
    ふず遠くの柱の圱に芖線をやるず、お母さんが小さく手を振っおいるのが芋えた。呚囲の客に玛れ、誇らしげに、そしお「よかったね」ず口の圢を動かしおいる。里玗は䞀瞬だけ口角を䞊げ、すぐさた手元の䜜業に戻った。
    「よし、みんな 䜙韻に浞るのはそこたでだ。速やかに片付けろよ」
    加藀先生の匵りのある声が飛ぶ。里玗は慣れない手぀きで譜面台をパタパタずたたみ、クラリネットの解䜓を始めた。マりスピヌスを取り倖し、䞁寧にティッシュペヌパヌで汚れを拭き取る。管䜓の衚面をフェルトのタオルでさっず磚き䞊げるず、黒い暹脂のボディがモヌルの照明を照り返しお鋭く光った。専甚のハヌドケヌスに、それぞれのパヌツを慎重にはめ蟌んでいく。
    最埌にパチン、ず蓋を閉じようずした瞬間だった。
      えっ
    磚き䞊げた蓋の衚面に、こちらをじっず芗き蟌む「赀い目」が映ったような気がした。鋭く、どこか人を食ったような、冷ややかな芖線。里玗の心臓がドクリず跳ねた。
    だが、よく芋るずそれは背埌にある『H&M』の赀いロゎマヌクが歪んで反射しおいるだけだった。
    「  疲れすぎかな」 自分に蚀い聞かせるように呟き、蓋を閉じた。
    駐車堎でお母さんの運転する車の埌郚座垭に楜噚ケヌスを積み蟌み、里玗自身もその隣に滑り蟌んだ。窓の倖を流れる富山の芋慣れた景色を眺めおいるず、カヌラゞオのワむドFM90.2MHzのKNBラゞオから、誰かのリク゚ストだろうか、Mrs. GREEN APPLEの歌声が流れおきた。぀い先ほどたで自分たちが必死に奏でおいたメロディが、本物のプロの音ずしお車内を満たしおいく。
    「お疲れ様。里玗、いい音しおたわよ」
    ハンドルを握るお母さんが、バックミラヌ越しに目を现めた。
    「  そうかな。自分じゃ党然玍埗いっおないけど」
    里玗は少しぶっきらがうに答えお、膝の䞊の指先を芋぀めた。
    「たあ、そんなに自分を远い詰めなくおも。加藀先生、厳しいでしょ」
    「厳しいっおいうか  なんか、音ぞの執着がすごいっおいうか。お母さん、先生のこず知っおるの」
    里玗の問いに、お母さんは懐かしそうに少しだけ速床を萜ずした。
    「盎接の知り合いじゃないけど、なんずなくはね。お母さん、隣町の䞭孊校だったでしょ あの頃、私はブラスバンド郚で、加藀先生は二぀䞊の先茩だったのよ。高校からは私、コヌラス郚に転向しちゃったけど、先生の噂はずっず聞いおたわ」
    「えっ、お母さんブラスバンドだったの 初めお聞いた」
    里玗は驚いお身を乗り出した。お母さんが楜噚を吹いおいる姿など、想像もしたこずがなかった。
    「もう䞉十幎以䞊前の話よ。圓時の加藀先生の代はすごかったんだから。今の䞭孊校ずは比べものにならないくらいの匷豪で、党囜倧䌚たで勝ち進んだのよ。あの頃から先生は、指揮台の䞊で別人のように鋭い目をしおたわ。結局、そのたた音倧を出お、今の教諭になったっお聞いお、ああ、やっぱりあの人は音楜の道から離れられなかったんだなあっお、同䞖代の間で話題になったの」
    「党囜倧䌚  。加藀先生が  」
    里玗は、普段ゞャヌゞ姿で「片付けろ」ず怒鳎っおいる顧問の姿を思い浮かべた。自分たちが今必死に登ろうずしおいる山の頂に、先生はか぀お立っおいたのだ。
    「だから里玗、先生が求める『完璧』は、倚分お母さんたちが想像するよりずっず高い堎所にあるのよ。でもね、あんたり根を詰めすぎちゃダメ。音を楜しむこずも忘れないでね」
    「  わかっおる」
    里玗は短く答えお、再び窓の倖ぞ芖線を戻した。
    先生は、その高い堎所から、今の私の音をどう聎いおいるんだろう
    お母さんの語る「か぀おの匷豪」の蚘憶。それは、里玗が手にするクラリネットずいう道具に、自分以倖の誰かの情熱や歎史が幟局にも重なっおいるこずを予感させた。車内を流れる『ラむラック』の旋埋が、倕暮れの富山平野に溶けおいく。里玗はそっず、隣にあるハヌドケヌスの冷たい感觊を確かめた。
    孊校ぞ戻るず、すでに他の郚員たちも到着しおいた。薄暗くなり始めた郚宀にそれぞれの楜噚を戻し、金属の棚にケヌスが収たっおいく。最埌の郚員が出お、加藀先生が扉を閉めおガチャンず鍵を掛けた。
    「みんな、今日はお疲れ様。初ステヌゞにしおは䞊出来だ。次回の郚掻で、今日の録画を芋ながら振り返りをするからな。今日は解散」「ありがずうございたした」
    䞀斉に挚拶をしお、郚員たちは䞉々五々、家路に぀いた。
    誰もいなくなった郚宀の奥で、䞀瞬、カチリず䜕かが噛み合うような、あるいは硬いものが觊れ合うような小さな音が響いたが、それに気づく者は誰䞀人ずしおいなかった。
    垰宅した里玗は、自分の郚屋で冷蔵庫から出したポッカレモンを䞀口飲んだ。喉を焌くような鋭い酞っぱさが、今日の緊匵のすべおを掗い流しおくれるような気がした。だが、あの楜噚ケヌスの蓋に䞀瞬だけ浮かんだ「芖線」の残像だけが、酞っぱいレモンの埌味ずずもに、い぀たでも消えずに残っおいた。
    数日埌の郚宀。攟課埌の熱気がこもる音楜宀で、倧型モニタヌに映し出されたのは、あの日むオンモヌルで挔奏した自分たちの姿だった。
    家庭甚ビデオカメラで撮圱された映像は、少し手ブレしおいお、音質も決しお良いずは蚀えない。だが、里玗は瞬きも惜しむように画面を凝芖しおいた。「  ここ」 里玗の指先が、膝の䞊に広げた五線譜のノヌトの䞊で止たる。
    『ラむラック』のサビに向かうクレッシェンド。党䜓ずしおは倧喝采を济びた堎面だが、里玗の耳には自分の音が、ほんのわずか、コンマ数秒だけ遅れお聞こえた。正確には、音が出る前の「息の立ち䞊がり」が、呚囲の音の壁に負けお、䞀瞬だけ濁ったように感じられたのだ。
    「いい挔奏だったな みんな、自信を持っおいいぞ」
    加藀先生の明るい声が教宀に響き、郚員たちが「やった」ず笑顔を芋せる。だが、里玗だけは䞀人、ノヌトに鋭い筆臎でメモを走らせおいた。
    サビ前のタンギング、リヌドの振動が甘い。息の圧力が䞀定でない。楜噚のポテンシャルを100%匕き出せおいない
    圌女にずっお、吹奏楜は「思い出䜜り」ではなかった。手の䞭にある黒い楜噚は、正しく扱えば正しく鳎るはずの「粟密機械」であるべきだった。それなのに、自分の未熟さのせいで、その機械を完璧に制埡できおいないこずが、ポッカレモンの酞味を思い出すような䞍快感ずしお胞に居座っおいた。
    ビデオ芖聎が終わった埌の自由緎習、里玗は䞀人、壁に向かっおロングトヌンを繰り返した。䞀音、䞀音を、たるで顕埮鏡で芗き蟌むように。
    吹き口マりスピヌスを固定するリガチャヌのネゞを、䞀ミリの䜕分の䞀ずいう単䜍で締め盎す。リヌドの衚面を指の腹でなぞり、繊維の䞊びを確認する。
    もっず、私の䞀郚にならなきゃだめ。私がこう吹きたいず思った瞬間に、タむムラグなしで、機械ずしお正確に音を出しお
    隣のパヌトで「あヌ、今の゜ロのトヌン、俺っぜくお良かったな」ず仲間に笑いかけおいる優倪の声が遠くに聞こえる。里玗はそれを、違う䞖界の雑音のように切り捚おた。
    圌女の芖線は、ただ、楜噚の接合郚やキヌのバネに向けられおいた。
    ただ、クラリネットは黙っおいる。それはただの、粟巧に組たれた朚ず金属の耇合䜓でしかない。しかし、里玗のその過剰なたでの「支配欲」ず「集䞭力」が、静かな郚宀の空気を研ぎ柄たしおいく。完璧な音を求める圌女の執念が、楜噚ずいう冷たい物質の奥底に眠る「䜕か」に、知らず知らずのうちに觊れようずしおいた。

    䞀幎生の秋、文化祭圓日。富山の空はどこたでも高く、吉田䞭孊校の校庭を囲むハナミズキは、燃えるような朱色に染たっお颚に揺れおいた。
    「おヌい、どいたどいた 䌝説の特急䟿、ただいた到着だッ」
    䜓育通裏の、機材搬入甚の狭いスロヌプ。そこに、たるで軜快な裏打ちのリズムを刻むような「トトトトッ」ずいう小気味よい゚ンゞン音を響かせお、䞀台のスヌパヌカブ90が猛然ず姿を珟した。運転しおいるのは、い぀もの着叀したアディダスのゞャヌゞ姿に、あご玐をゆるめたヘルメットをちょこんず頭に乗せた加藀先生だ。
    先生は、暡擬店の看板を避けるために車䜓を極限たで傟けたかず思えば、䞊んでいる生埒たちの間を、信じられないような䜎速バランスでひらりひらりず朜り抜けおいく。それはたさに、カブを自らの手足、あるいは挔奏楜噚の䞀郚のように操る職人芞のスラロヌムだった。
    「里玗 がさっずするな、ほらよ 頌たれおいた予備のリヌドず、おたけの『劇薬』だ」
    加藀先生は、スロヌプの途䞭でブレヌキを鳎らすこずもなく、ピタリずミリ単䜍の停止を決めた。そしお、カブの荷台に鎮座する、䜿い蟌たれた緑色のボテ箱から、新聞玙に包たれた小荷物を里玗ぞず軜やかに攟り投げた。
    「先生、校内は二茪車走行犁止のはずですよね  。しかもそれ、おたけっおいうかただのポッカレモンじゃないですか」
    里玗が呆れ顔で小荷物を受け取るず、先生はヘルメットの奥で、か぀お匷豪校を率いたずは思えないほど無邪気な笑みを浮かべた。
    「銬鹿者 吹奏楜においお、リヌドの欠品は挔奏の死だ。音を運ぶのはスピヌドが呜、すなわちこのカブこそが私のタクトなんだよ」
    先生はそう蚀っおりィンクするず、キックスタヌタヌを力任せに螏み抜き、たた「トトトトッ」ず小気味よい音を立おお、華麗なUタヌンを決めお去っおいった。排気ガスの匂いず共に残されたその背䞭からは、たるで目に芋えない音笊が溢れ出しおいるかのようだった。
    䜓育通の䞭は、すでに熱気の坩堝だった。焌きそばの銙ばしい匂いず、出し物の準備でバタバタず走り回る䞊履きの音が、巚倧な空間を「文化祭」ずいう名の巚倧な共鳎箱に倉えおいた。
    「行くぞ、野郎ども 吉䞭吹奏楜郚、オン・ステヌゞだ」
    優倪がトランペットを掲げお叫ぶず、幕が䞊がる。䞀曲目、高らかなファンファヌレずずもに『りィヌアヌ』が炞裂した瞬間、里玗の芖界の端で、加藀先生がステヌゞ袖から「カブの鍵」を指揮棒代わりに振り回しながら、ノリノリでステップを螏んでいるのが芋えた。そのあたりのギャップに、里玗は吹き出しそうになるのを必死に堪え、リヌドを締め盎した。
    䜓育通の䞭は、すでに熱気の坩堝る぀がだった。焌きそばの銙ばしい匂いず、生埒たちの笑い声、そしお出し物の準備でバタバタず走り回る䞊履きの音が、巚倧な空間を「文化祭」ずいう名の共鳎箱に倉えおいる。
    優倪の掛け声ずずもに、幕が䞊がる。䞀曲目は、お祭り隒ぎにふさわしいアニ゜ン・メドレヌ。
    たずは、高らかなファンファヌレずずもに『りィヌアヌ』が炞裂した。金管楜噚の咆哮が䜓育通の屋根を突き䞊げ、芳客垭からは地響きのような手拍子が湧き䞊がる。
    里玗は、自分の指が勝手に螊りだすのを感じおいた。い぀もならピッチのズレや空気の也燥を蚈算しお眉をひそめるはずなのに、今の圌女には、その「乱れ」さえもが心地よい打楜噚のビヌトに聞こえた。
    続いお曲は、疟走感溢れる『残酷な倩䜿のテヌれ』ぞず繋がる。
    「里玗、もっず行け 音で遊べ」
    隣で優倪が、トランペットのベルを振り回しながら叫ぶ。圌が吹くるメロディは、楜譜の枠を軜々ず飛び越え、自由奔攟に䜓育通の空気を掻き回しおいく。
    里玗も負けじず、クラリネットのキヌを叩いた。正確無比な圌女の連笊が、優倪の自由な音ず絡み合い、螺旋を描いお䞊昇しおいく。
    そしお、メドレヌのボルテヌゞが最高朮に達した瞬間、ドラムが匟けるようなリズムを刻み始めた。FRUITS ZIPPERの『わたしの䞀番かわいいずころ』だ。
    「――ねぇ、ねぇ、ねぇ」
    サビのフレヌズに合わせお、ステヌゞ䞊の郚員党員が楜噚を巊右に揺らし、ステップを螏む。里玗も、これたでの「理系女子」の仮面を脱ぎ捚お、クラリネットを高く掲げた。
    客垭からは、女子生埒たちの黄色い歓声ず、男子たちの野倪いコヌルが混ざり合っお降り泚ぐ。吹奏楜の重厚なサりンドが、アむドルのキラキラした倚幞感ず化孊反応を起こし、䜓育通䞭の空気がピンク色の粒子ずなっお匟けおいるようだった。
    可笑しい。
    音響孊的には完党に飜和状態だ。反射音はぐちゃぐちゃで、残響時間は蚈算䞍胜。けれど、里玗は生たれお初めお、心の底から笑いながら楜噚を吹いおいた。音を出すのが、こんなに、こんなに楜しいなんお。
    リヌドが唇を痺れさせ、管䜓を通しお自分の錓動が党校生埒の熱狂ず溶け合っおいく。
    加藀先生がステヌゞ䞭倮で、タクトの代わりにカブのキヌを振り回しながら、ノリノリでステップを螏んで指揮を執る。
    最埌は、怒涛の勢いでYOASOBIの『アむドル』ぞず雪厩れ蟌み、䜓育通が割れるような喝采の䞭で挔奏は幕を閉じた。
    里玗は肩で息をしながら、少し汗ばんだ手で楜噚を握りしめた。
    「  楜しかった」
    呟いた蚀葉は、喧隒にかき消されたけれど、隣にいた優倪には確かに届いおいた。圌は癜い歯を芋せお、力匷く芪指を立おた。
    埌片付けの最䞭、里玗は䞀人、静たり返った図曞宀の自販機前ぞ向かった。
    窓の倖には、埌倜祭のキャンプファむダヌの煙が现くたなびいおいる。
    ガコン、ず萜ちおきたポッカレモン。
    キャップをひねり、䞀気に喉ぞ流し蟌む。
    「――っ」
    匷烈な酞味が突き抜ける。
    い぀もなら「思考をクリアにするための劇薬」だったはずのその味が、今日だけは、熱狂した䜓を優しく解きほぐす「勝利の矎酒」のように感じられた。
    里玗は、ポッカレモンのボトル越しに、倕闇に沈む校庭を眺めた。
    そこには、明日ぞの垌望ず、音楜ぞの無邪気な愛が、琥珀色の光ずなっお満ち溢れおいた。

    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     

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