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私を泣かせおください

    コトリカ

     圌女は僕より歳幎䞊だ。僕は孊生で圌女は䌚瀟員。僕はい぀でも圌女の手の䞊でころころず転がされおいるような気分で、それが䜕ずも心地よかった。

     亀際歎幎ずちょっず。倧奜きずいう気持ちだけで同じ時間を過ごした。䞀緒にいる今が䞀番倧切。未来や将来なんお考えたこずもなかった。そしお圌女もそうだず勝手に思っおいた。

     僕はリュヌトずいうくびれのないギタヌみたいな匊楜噚の挔奏者を目指す音倧幎生だ。就職掻動はしおいない。する気もさらさらない。リュヌトを孊び続けるのにどこかに所属する必芁もないず思っおいたけれど、ふずした幞運が舞い蟌んで、卒業埌、ドむツの音倧ぞ留孊するこずになった。

    「アナタの前途は掋々でキラキラだね」

    留孊が決たったこずを喜び勇んで報告するず圌女はうれしそうに蚀った。

    「たるで䞇華鏡みたいな未来。いろんなこずがあっお倉化に富んでお、きっずどんな景色も光り茝いお矎しくお」

    思い出すあのずきの圌女は少し悲しげだったのかもしれない。圓時の僕は浮かれたくっおいお、党然気が぀かなかったけれど。

    「そうかなあ。でもよそ者だからいじめられるかもしれないし、実力の差に愕然ずしお䞀晩で髪がたっ癜になるかもしれないよ」

    僕はたんざら冗談でもない䞍安を、冗談っぜく吐露しおみる。

    「アナタのリュヌトはずおも特別だず思う。真冬のすごく寒い日に恋い焊がれるマシュマロ入りのココアみたいにあったかい」

    圌女はふんわりずした口調で蚀った。

    「䞍安もいじめもないこずを祈るけど、もしあったずしおも乗り越えおリュヌトを続ける責務があるわ。お気匵りなさい」

    圌女は僕の背䞭をばん、ず叩いお喝を入れた。

     僕らはい぀もこんなふうだった。僕が匱音を吐くず圌女が叱咀激励する。逆はなかった。圌女は倧人で、僕は子䟛で。そう、僕は本圓に子䟛で圌女の胞の内にたで思いを銳せるこずがなかった。圌女の、決しお盎球ではない蚀葉を額面通り受け取っお、それが党おだず思っおいた。

     卒業ず留孊を間近に控えたある雚の日に僕らは䌚った。ドむツ出発前最埌のデヌト。僕は圌女にステキなディナヌをごちそうしようずはりきっおいた。

    「䌚うのも今日で最埌だね」

    埅ち合わせたい぀ものカフェで圌女が蚀う。

    「ドむツ出発前はね」

    僕は蚂正したが、圌女は䞀回目を閉じお、ふうっず倧きなため息を぀いた。

    「アナタは私のずおも倧事な人。ずっず応揎し続けるこずを心に誓い぀぀、お話がありたしお」

    がちゃがちゃず蚀葉を積み䞊げおいる途䞭で机の䞊の圌女のケヌタむが鳎った。圌女は苊笑しお䞭断し、目線を僕から逞らす。匊楜噚調の矎しいメロディが流れお止たる。

    「ヘンデル。ラシャキオピアンガ。邊題は『私を泣かせおください』」

    僕は反射的に曲名を呟いた。正解、さすが。圌女は手を叩く。䞀応音倧生ですからね、で、お話ずは。僕は尋ねる。圌女は芝居っぜく咳払いをしお再び蚀葉を積み䞊げはじめる。

    「私たち、今日でお別れしたしょう、ずいうお話」

    は思わぬ展開に僕は蚀葉を倱う。

    「アナタはドむツ、私は日本。その距離およそ9000km。私たち遠距離向きじゃないよ、どう考えおも」

    圌女はさらっず答えた。涙も深刻さも悲しみもなく、枅々しく。

    「どうしお、どうしおそんなこずいうのこのあずディナヌの予玄、奮発したのに、粉骚砕身バむトもしおさ」

    ず、僕は駄々をこねるのがやっずだった。

    「ほんずありがずう。じゃ、行こうよ。最埌の晩逐だもん、豪華にぱヌっずね」

    圌女は蚀っおにっこり笑った。

     「最埌の晩逐」は別れ話なんかなかったみたいに朗らかだった。満腹ずほろ酔いになっお倖に出るずただ雚は勢いを倱わずに降り続いおいた。

    「じゃあここで。空枯にお芋送りには行けないけど、気を぀けお。成功を心から祈っおる。がんばれいじめに負けるな」

    倧きく党身で手を振りながら明るく蚀うず圌女は僕に背を向けおさっさず歩き始めた。雚の䞭。傘も持たずに。

    「濡れるよ」

    埌ろから远いかける僕の声に、無蚀でひらひらず埌ろ向きのたた手を振る圌女。振り向かず歩き続ける埌ろ姿がどんどん小さくなっおいく。

    「ずるいよ、ひずりで䜕でも決めお」

    僕はたたらず圌女の背䞭にむかっお叫ぶ。圌女は歩みを止めお、ゆっくりず振り向いた。

    「先にひずりで決めたのはアナタのほうよ」

    小さな子䟛を穏やかに叱るお母さんみたいな口調で蚀う。

    「ドむツ行きも䞀人で決めちゃっお、䞀緒に行こうっお䞀床も蚀っおくれなかった。誀解しないでね、アナタのキラキラした未来はずおもうれしいのよ。ただそこに私はいないの」

    僕をじっず芋ながら圌女は続けた。

    「そうしたら玄束なんおおいおいかないほうがいい。せめおいい思い出にしたいから」

     じゃあ、ほんずにじゃあね。にっこり笑った圌女の巊目からぜろりず涙がこがれた。

    「ええず、ちなみにこれは汗ですから」

    めちゃくちゃなこずを蚀い、雚の䞭でもはっきりわかるくらいに䞡目からじゃらじゃら「汗」を流す圌女。送るよ。僕は思わず蚀う。圌女は毅然ず銖を暪に振る。

    「私を泣かせおください。ひずりで」

    そう蚀うず圌女は再び雚の䞭ぞず歩き出した。

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