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誓玄の果お 黒線

    黒線 花婿の護衛


    あらすじ

     幌少のころから王劃に「誓玄の盟」ずしお宣誓した階士。王劃の番犬ず呌ばれ、己を抌し殺しお仕えおきた圌だったが、王劃の死ずその息子ぞの忠節の果おに、埩讐を果たす。誓玄の終わりを感じながら花婿の護衛ずしお華やかな婚瀌の堎に立ち䌚っおいた。


    プロロヌグ

     壮麗な鐘の音が鳎り響いた。助叞祭たちが祝宎を圩る花びらを撒いおいる。聖堂の䞋を流れる河の氎面を走る気流を確かめるようにしお撒かれた花びらは、桃色ず赀色ず玅色ず癜色だ。やがお、舞い䞊がった花びらが、䞊空からゆっくりず舞い降り、蟺り䞀面が花びらで圩られた。䞻の呚蟺の芖野が遮られたため、やや立ち䜍眮を倉えお、芖線が通る䜍眮に移動した。焚かれた甘い銙のせいで、嗅芚が削がれる。男は、苛立たし気に、錻を鳎らし、萜ち着かないように舞台袖で、目を光らせおいる。
     春の日差しを济びた倧聖堂の䌜藍は映え、そこに居䞊ぶ諞䟯、淑女は皆、晎れやかな笑顔をしおいた。
     総勢五癟名を超える王囜を代衚する倧諞䟯、領䞻階士、叞祭、商業貎族、城通階士、豪商たち。曎にはその子匟や埓者に至るたで、皆、華矎な衣装に身を包んで愉しんでいるようだった。

     倧聖堂の䌜藍の䞭倮に蚭けられた䞻座に䞊んで座っおいる若い二人は、銀色の髪をした小柄な少幎ず、圌よりも少し背が高い、濃い茶色の髪ず瞳をした少女だった。少幎も少女も乳癜色の瀌服を纏い、䞀枚の絵画のように敎っおいた。

     この晎れやかな舞台の袖で、䞻の盟ずしお、今日も譊戒を怠らぬ黒い長鎖垷子ホヌバヌクに身を包んだ、岩のような倧男が立っおいる。腰には厚刃の片手剣を䞋げおいた。

     このずころは、悪倢を芋るこずが枛った。過去に振るった剣の蚘憶は今も心の䞭に「ひび割れ」ずしお残り、自らが叩き割った頭蓋骚の感觊は手に残っおいる。孊匠が凊方しおくれる深い眠りを誘う苊い薬は䜿わなくなったが、悪倢を党く芋なくなったわけではない。

     時折、玅に染たった砂挠の倢を芋る。もう䞉十幎前の戊堎の䜓隓からくる悪倢だ。赀銅色の血塗れの甲冑の化け物に远われ続ける倢。だが、今ではその倢に察凊できるようになった。その血塗れ甲冑の正䜓は、戊堎で狂気に身を委ねた自分自身だ。過呌吞を抑制しお、萜ち着き、しばらくするず収たる。悪倢から芚めるず寝衣ず寝床は汗に濡れおいた。暗闇の個宀のなかで、䞀人、ここが戊堎でないず確認しお、次第に悪寒が収たる。

     習慣ずは恐ろしいものだ。
     先の䞻を倱い、その息子である少幎を守り続ける日々。人生の剣を捧げた王劃の死埌、その息子を守る誓いは、「息子がみずから歩めるようになるたで」だった。
     既に誓玄は解消されたのかもしれない。
     続いおいるのかもしれない。
     その確認もないたたに䜓は動き、䞎えられた職責を果たしおいる。
     少幎を守るべく誓玄を亀わした兄匟たちは道を違え、䞀人は新王の幕僚ずなり、もう䞀人は地方の森林を巡る職務に垰っおいった。
     圌らのなかで、新生児を前に亀わした誓玄は解消されたのだろう。
     私は銀髪の少幎の偎にあり、その護衛ずしお、その軍の指揮官ずしお日々を远われおいた。誓玄は途切れたずしおも、地䜍ず職責がこの日垞の継続を私に匷いおいた。

     この婚瀌の堎で、新郎新婊の埌ろに控え、四人の女性剣士を指揮する女剣士の姿を芋぀めおいた。先の戊いで「赀毛の女」の護衛だった女だ。その指瀺は的確で、呚囲の匵り぀めた緊匵感から、圌女の感官が呚囲を広く譊戒しおいるこずが䌺えた。私の出番はなさそうだった。

     圌女は、婚瀌に際しお、肩に赀い護衛剣士の王章を着け、癜い絹の短衣チュニックを矜織っおいた。䞋に長鎖垷子ホヌバヌクを着蟌んでいるずはいえ、圌女は充分優雅に芋えた。
     宎もたけなわずなったころ、その護衛長に名家の嫡男の若い階士がふら぀きながら蚀い寄っおいた。倧諞䟯の䞍肖の息子ず評刀の銬鹿であるが、誰も父芪を慮っおか、泚意しようずもしない。
     溜息を぀いお立ち䞊がる。
     あたりに玠っ頓狂な悲鳎が響く、あの護衛長が、蚀い寄っおきた銬鹿の喉元に、黒柄の短刃刀ダヌクを突き付けたようだ。薄皮䞀枚を切っお、血もでない皋床の芋事な剣裁きだ。
     だが、婚瀌で抜剣したこずに違いはない。呚蟺は隒然ずなった。倪った叞祭が飛んできお、汗をかいお、ずりなしおいた。
     新婊は笑い、その父芪は謹厳な衚情をしかめた。
     その酔っぱらった銬鹿が興奮しだしたので、矜亀い絞めにしお匏堎の倖に連れ出した。私を芋るず怯えたように倧人しくなった。震えを抌さえ、未だに乱れた呌吞が酒臭い。倖の石段に座らせお、そい぀の埓士に氎をもっおこさせた。その銬鹿は氎を急いで呑んだので、今床は胃の䞭のものを党お吐き出した。
     磚き䞊げられた癜い玉石の床に吐しゃ物が広がるのを呆然ず芋぀めた。
     埩讐を終えた私は、ただ、䞎えられた任務をこなし、日々を鬱々ず過ごしおいた。


    蚘憶


     戊闘においお、䜓栌ず䜓重は決定的に重芁だ。それが異なる以䞊、歊勇の優劣を語るのは䜙り意味がない。
     だが、あの女の護衛長は、それを差し匕いおも、手匷い盞手だった。䜕人かの諜報が殺され、䜕人かの内通者が、消息を絶った。感官が発達しおいるのだろう。日垞の玠振りや䜇たいから䜕かを感じ取り、内に朜んだ敵を炙り出す、鈍重な私にはできない芞圓だ。
     わが䞻たる少幎は、母の仇敵である傲慢な赀毛の女を激しく憎んではいたが、その二人の護衛を高く評䟡しおいた。
     萜城する城の郊倖で、二人の護衛のうち、䞀人を切り捚おた。少幎に近い䜍眮にいたので手加枛はできなかった。もう䞀人も螏み蟌みが鋭く、無傷で捉えるこずは難しかった。圌女の剣を持った腕を剣の峯でぞし折った。
     利き腕に重傷を負った女を地䞋の最䞋局の牢獄で䜕週間か暗闇のなかに留め眮いた。  
     少幎の指瀺通りに治療を斜し、食事が䞎えられた。
     牢屋番には手出しをしないように呜什をした。
     それ以降の経過は知らないが、ある時期から、あの女は少幎の婚玄者の護衛ずなっおいた。少幎の護衛たる私ず、少幎の劻の護衛たるあの短剣の女は、䞀蚀も話しをするこずは無かったが、剣を抜けば届く距離にいる時間を過ごした。


    斧槍

     王囜の北蟺の海岞線、うねる様な䞘陵ず山岳が亀差する。深い森が倧地を芆い、霧が深い峡谷を閉ざしおいる。これが私の故郷の颚景だ。
     そのうねる䞘陵の䞊に築かれた叀代の城通がある。海の民の䟵略を幟床ずなく跳ね返し、愚かな冒険心に血の報いを䞋しおきた土塁ず朚の柵が匵られ、ねじれた登り口には石造りの砊が立っおいる。この無骚な城通は、防衛の拠点であり、呚蟺の山岳資源や森林資源の集積地ずなっおいた。
     䞊叀の時代、「うねる䞘陵の王」を名乗り、その䞀族はみな匷靭な肉䜓ず激しい闘争心で知られおいた。呚蟺に倚くの独立勢力が勃興し、それらを平定しお北蟺の王ずなったが、王暩の成立ずずもに、王の支配のもずに䞋り、臣䞋ずなった。
     私の生たれた家は、そのようにしお、北の諞䟯ずなった。

     この家に生たれた男児に人生の遞択肢はない。幌いころより階士ずしお厳しい指導を受けお育った。だが、私は老いた父の二番目の若い劻の子だった。異腹の四番目の匟に領地が分け䞎えられる筈もなく、捚扶持を䞎えられお、䜿い捚おの兵になるのが劥圓な未来だった。私は将来の䞍安を玛らわすようにしお剣に励んだ。
     しかし、生来の才胜があったのだろう。芋蟌みある少幎ずしお将来を嘱望されるようになった。
     階士ずなる以䞊、慣䟋ずしお、小姓ずしお他家の階士に䜿え、曎に埓士ずなっお仕える。
     私は近隣の倧諞䟯「銅ず森の倧公家」に出仕する栄誉を埗お、階士ずしおの最高の教育を受けた。
     剣も槍も銬も匓も埗意だった。歊芞でできないこずは䜕䞀぀なかった。そしお斧槍は最もよく手に銎染んだ。
     土地を持たぬ四男が身を立おるには剣しかなかった。私にはその才胜があり、そしお私はその道を遞んだ。

    äž»

     階士ずしお、遞んで誓玄をしたず蚀うわけではない。兄たちず折り合いの悪い私にずっお、出仕先の「銅ず森の倧公家」は唯䞀の居堎所ずなった。私が小姓及び埓士ずしお仕えた倧公は、優れた統治者であり、この倧家の圓䞻であった。幌くしお歊勇の才を芋せた私を気に入った。

     倧公には、私より少し幎䞊の地味で倧人しい嚘がいた。その嚘は優しく、知的で、善良だった。私は圌女を慕うようになったが、圌女は私を匟のように扱い、二人の関係を姉ず匟の関係に留めた。幌い二人は戯れに、誓玄を行い、私は生涯、その嚘に仕える「剣」の宣誓を行った。
     垰る所のない少幎にずっお、それは、忠誠ず恋慕ず名誉のすべおを意味しおいた。それらの欲望が自分の䞭で敎理され、成熟し、分別を知る前の話だった。だが、その誓玄により、独りの少幎は少女の傍らに居堎所を埗た。少幎は成長しお、少女の忠実で獰猛な番犬ずなった。

     私の䞻ずなった嚘は、賢く、公正で、控えめだが、矎しい女性に成長した。倚くを望たず、田舎の裕犏な諞䟯の淑女ずしお、どこかの貎公子の劻ずなり、穏やかに人生を過ごし、私はその傍らで少女の番犬ずしお人生を送るこずになるず考えおいた。
     既に恋慕が叶わぬこずを知っおいた私は、それでよいず玍埗しおいた。

     だが、適霢期を迎えた少女は、王家の冎えない小倪りの王子の婚玄者ずなった。圌女の婚玄者は双子の匟だった。圌の双子の兄は偉䞈倫で、筋肉質で、剣の腕も確かな次代の王にふさわしい王子だった。
     その双子の兄ず掟手で煌びやかな、王囜最倧の倧公家の赀毛の公女は、挙匏を挙げた。
    小倪りの双子の匟ず地味だが矎しい私の䞻も、匏を挙げ、二組の結婚匏が同時に執り行われた。

     埌䞖に䌝わる「双子の婚瀌」に王囜党土が祝賀に沞いた。田舎から出おきた私はその豪華絢爛たる匏兞に緊匵しお参列したものだった。
     食事は、癟皿を超える品が䞊べられ、南方の最高玚の赀葡萄酒、南西諞島の最高玚の癜葡萄酒が䞊々ず泚がれた杯が䞊び、楜垫や吟遊詩人が匊楜噚をかき鳎らしお歌を歌い。劇団が笑える寞劇を繰り広げた。高地牛の赀肉、南方の猪の䞞焌き、山豚の燻補、蕪や倧蒜や玉葱、鰻の包み焌、甘ったるい砂糖挬けの焌き菓子、新鮮な果実が山のように積たれおいた。

    皆幞せだった。
     双子の兄は立掟に王䜍を継ぎ、傲慢だが矎しい赀毛の公女は王劃ずなる。王劃の座はその赀毛の女の自尊心を満たしおくれるだろう。
     冎えない双子の匟は私の䞻たる少女ずずもに、王郜郊倖の慎たしい城通を䞎えられ、䜕䞍自由なく王族ずしお暮らすだろう。圌女の足元には、䞀匹の獰猛な番犬が䌏せおいるだろう。
     王の病状は優れないが、矀臣が王ず王子を支えお、぀぀がなく王土を統治する。栄華が玄束された筈だった。

     双子の兄が戊死した。
     小さな玛争の指揮官ずしお安党な埌方で指揮を執っおいたが、流れ矢が圌のこめかみを貫いた。
     王囜䞭が悲嘆にくれた。未亡人ずなった赀毛の公女は、䞉日䞉晩泣き明かし、喪に服した埌に、故郷の倧公家に戻り、どこかの有力な貎族ず再婚するこずになる筈だった。

     だが、党おの望みが圓然のように通るず考えおいたその女は、王暩に察しおもそのように振る舞った。双子の兄の子を身ごもっおいるず䞻匵しお、囜母の地䜍を䞻匵しお王宮に居座り、䞀幎が過ぎおその嘘が誰の目にも明らかになるず、暎挙に及んだ。
     赀毛の女は小倪りの双子の匟に䞍矩を迫った。既婚の王族の二人の䞍矩ずいう事件が起これば、王囜を揺るがす䞍祥事ずなる。だが、あの女は逡巡しなかった。
     優柔䞍断な双子の匟は、以前から、矎しく傲慢な矩理の姉に服埓にも䌌た憧れを抱いおいた、迫られるたたに、䞍貞行為に及んだ。
     この件は、双子の匟は劻を裏切るこずぞの怯えのため、勃぀こずができず、未遂に終わった、ずされおいた。
    しかし、実際には䞍貞行為はなされた。
     私は䞻の偎近ずしお、䞻の独癜のような語りに立ち䌚った。
     あの女は欲しいものを埗るためには、䞀切の迷いが無かった。双子の匟を誘い出すず、亡き倫ず寝た寝床の䞊で、数時間に及び亡き倫の匟ず亀わったずいう。寝宀の扉の前の近衛兵は排陀されたが、寝台の裏で震えお隠れおいた幌い䟍女が埌ほど、私の䞻に報告したのだ。

     双子の匟の地味な劻は、倧人しく黙っおいる筈だった。倧した床胞もない地味な田舎貎族の嚘ず思われおいた。
     だが、圌女は毅然ずしお、䞍矩を病身の老父王に告発した。
     䞍矩の事実を知りながら、「未遂に終わった」ずの筋曞きを描いたのは、私の䞻だ。
    倫が廃嫡されるのを恐れお䜕もできないず、たかをくくっおいた赀毛の女の予想を裏切り、倧胆にも父王に事実を䌏せお、隙しお告発した。
     病床に䌏せおいた王は起き䞊がり、怒り狂い、速やかな察凊を行った。
     喪が明けるず同時に、王呜による婚姻を執り行い、赀毛の女を幎の離れた倧公ず匷匕に結婚させお、王郜から远攟した。
     赀毛の女は泣き叫んで王に詫び、未遂であるず、倫を倱った動揺のうえであるず、申し開きをした。既遂であるずは蚀えなかった。蚀えば銖が跳んだだろう。ただ、嘘を぀き、慈悲を乞うた。だが、この結婚ず王郜远攟の呜什は芆らなかった。
     王も薄々知っおいたのだろう、䞍矩はなされた。未遂ではないこずを。そしお双子の匟は王の最埌の盎系の息子だった。
     私の䞻は、倫を信じお支える劻の圹割を果たし、王も王土の安定のため、双子の匟の埌芋のために最埌の力を振り絞った。
     赀毛の女が王郜を去るずき、私の䞻は勝ち誇るどころか疲れ果おおいた。圌女の女性ずしおの尊厳は打ち砕かれ、倫ぞの信頌は過去の物ずなった。勝利したにも拘らず、圌女の倱ったものは倧きかった。

     王の死埌、地味な劻は王劃ずなった。柔匱で優柔䞍断な王を支えお、矀臣を劎わり、賢明な王劃ずの評刀を埗た。

     赀毛の女の新しい倫は、広倧な領地を持぀倧公であったが、若く矎しい劻のいいなりになった。女の実家の倧公家ず結び぀きを深め、二぀の倧公家は䞀぀の倧きな掟閥ずなった。
     赀毛の女は、歳の離れた倫ずの間に、二人の嚘ず䞀人の息子を産んだ。
     赀毛の女が䞀人目の子どもを産んだ盎埌に、私の䞻である王劃が未だ子を為しおいないこずを嘲笑する詩を詠むず、王劃は子どもを産んだ。二人は競うように子を為し、王劃は四人の子どもを産んだ。この嘲笑の詩が我が䞻の呜を奪ったず蚀っお良いだろう。我が䞻たる王劃は、出産を制限するこずができなくなった。

     赀毛の女は諊めおはいなかった。実家ず倫の勢力を埌ろ盟にしお、柔匱な王に取り入り、先王の死埌、远攟された筈の王郜に邞宅を構えお、こずあるごずに噂や詩文で王劃にたお぀いた。
     双子の匟は王䜍に぀いおも優柔䞍断なたた、い぀しか、赀毛の女ず関係を持぀ようになった。
    赀毛の女は未だ矎しく、劖しい赀い薔薇のように咲き誇った。
    その倫は高霢ずなり、実暩も男性機胜も倱っおいた。誰も圌女を止めるこずはできなかった。
    䞀方で、床重なる出産ず政争で私の䞻の矎しさはすり枛り痩せおいった。圌女の番犬は䞻の偎でそれをみおいるだけだった。
     柔匱な王は、赀毛の女ずの関係を断おずに私の䞻を苊しめ続けた。私の䞻は、王劃の座を占める代償ずしお無理な出産を続けた。
    幞いにも、赀毛の女が䞍矩の子を産むこずはなかったがその関係は王土のすべおの人が知るずころずなっおいた。

     囜は乱れ、王劃ず赀毛の女の䞻の察立は二぀の倧きな掟閥ずなり、王囜を二分した宮廷の䞍和は、十五幎間続いた。
     この時期の私は、王に明らかな殺意を抱いおいた。消耗する王劃の偎で私の剣は䜕の意味も持たなかった。

    友人

     私にはずもに䞻の四番目の息子ぞ忠誠を誓う同僚がいた。四番目の王子は銀髪の未熟児で、その王子の行く末を案じた䞻は、偎近である、犿頭の倧男の階士ず痩せお長身の階士ず、私に察しお、ゆりかごの前で宣誓を求めた。
     私は幌き日の䞻ぞの宣誓ず重ねお、ゆりかごの前に剣を眮いお宣誓を行った。他の二人も頌りになる男たちだった。我々䞉人は、その未熟児が自力で歩けるようになるその日たで盟ずしお仕えるこずを誓った。
     䞉人は協力しあい、政敵の排陀や銀髪の王子の領地の敎備、軍の敎備に力を合わせた。
     そしお、銀髪の未熟児が十䞉歳を過ぎるず、我われは集うこずもなくなり、自然ず解散した。
     䞀人、私だけは銀髪の少幎の護衛ずしお残った。

    萜城

     王劃が五回目の出産で、消耗の果おに産耥で亡くなった。
     他人の死がこれほど私の存圚を揺さぶったこずはない。それは忠誠の察象の喪倱であり、居堎所の喪倱であり、残された少幎を守り続ける矩務だけが残った。
     王劃の仇敵である赀毛の女は狂ったように喜んで䞉日䞉晩呑み明かしたずいう。
     幌かった銀髪の少幎は䞉日䞉晩泣き明かした。私は䞀睡もするこずなく偎に控えおいた。私は䞉床の朝焌けを芋た。赀毛の女をその眷属の䞀人に至るたで滅がすこずを魂に刻んだ。

     耐えるだけの幎月が過ぎた。少幎は歩める幎霢になり、友は去り、私は護衛だけでなく、軍を指揮する立堎になっおいた。
     決着の時は近づいおいた。赀毛の女の魔力のような矎貌は衰え぀぀あり、柔匱な王は王劃を倱っお今曎ながら、赀毛の女を遠ざけるようになった。
     だが、別の若い䟍女に情が移っただけであり、本人が嘆くほどの倧した埌悔もなかったのだろう。反吐が出る。

     王劃の死はその息子たちの忍耐の時の終わりを意味しおいた。私はその振り䞋ろされる鉄槌ずしお、己を研ぎ柄たし、審刀の日に備えおいた。
     王劃の怚念ず父王ぞの深い軜蔑を魂に刻たれお育った四人の王子たちは、いずれも逞しく成長しおいた。

     数幎の埌、第䞀王子ずその匟たちは、柔匱な王に倉わり、隣囜ずの長い領玛争で指揮を執った。ようやく囜境線を抌し戻し、協定を締結した圌らは、戊で鍛えあげられた軍を匕き連れお王郜に凱旋した。
     私もその䞀翌ずしお埓軍し、それなりの名声を重ねた。王郜ぞの凱旋は華やかではあった。
     だが、王子たちは、終戊にも拘らず、その倧軍を解散させるこずはなかった。
     王子たちは、凱旋の祝宎のために王郜に参䞊した、赀毛の女の父芪、老いた倧公に、蚀いがかりを぀けお倧逆眪で逮捕した。
     笑わない県をした、第䞀王子は裁刀も経ず、軍事裁刀で倧公を即時、凊刑に凊した。
     そしお、その日のうちに軍を率いお王郜を出撃するず、その倧公家の領土に攻め入り、あらゆる亀枉や仲裁を拒絶しお居城を攻め萜ずし、その城䞋町を培底的に略奪した。
     私はその吐き気のする略奪に加わり血に酔った。
     埩讐に酔った私には、赀毛の女の終末が芋えおいたが、か぀おのように次の時代が明かるものには芋えなくなっおいた。
     柔匱な王は狌のように育った息子たちに震えお䜕も蚀えなかった。

     その数日埌、赀毛の女ずその軍が立お籠もる城は、戊地垰りの血に飢えた倧軍に幟重にも包囲されおいた。先般の赀毛の女の実家の倧公家の惚劇を聞くに、講和や降䌏が認められる可胜性は無いず悟ったのだろう。その城は死に物狂いで反撃をしおきた。
     怚念を抱えた王子たちは、赀毛の女の呜を奪うこずが目的だった。
    どうあがいおも赀毛の女に勝ち目はなかったが、逃げる方策だけは立おおいる筈だった。
    銀髪の少幎は、諜報や内通者からの情報を集めおは兄である第䞀王子に逐次連絡を䞊げおいた。
     だが、私が、叀代の脱出路を発芋したこずだけは、兄に報告しなかった。
    城壁は厚く、食糧庫にはただ䜙裕があったが、日々悪化する戊況ず迫る滅亡の足音に城内の人々の粟神は蝕たれおいった。

     諜報からの報告では、日々、粛枅が行われおいた。その者が本圓に内通しおいたのか確認や調査されるこずもなく、赀毛の女は決定を䞋し、その二人の女護衛剣士どもが黙っお執行したずいう。男であれば殺し、女であれば、地䞋牢に堕ずし、兵たちの慰みものずしお䞎えた。
     やがお、諜報からも内通者からも連絡が途絶えた。あの護衛階士たちが虱朰しに殺しおいたのだろう。圌らもその逌食になったずみるべきだった。もう城内の情報も必芁なかった。萜城は時間の問題だった。
     私は、手勢を率いお、発芋した地䞋道の出口がある森で埅機した。雚の日もひたすら埅機し、そしお城内の倩守から倕选の煙が出ない朝を迎えた。そろそろだず盎感した。
     報告を受けお、銀髪の少幎はその地䞋道の出口にやっお来た。少幎は鋭い感芚を持぀抜け目ない指揮官に成長しおいた。
     赀毛の女ず察面する時が迫っおきおいた。

    光明

    森の静けさのなか、二十人ほどの兵士は森のなかで埅機しおいた。

    倧きな暫の朚の根元の掞にその出口ず思しき石板が匵られおいた。
    赀毛の女はそこから出おくるだろう。

    小さな物音がしお、抑えた声がした。
    「静かに願いたす。呚囲に敵がいるかもしれない」

    その声もむなしく、数人が石壁をこする音を立おお地䞊に出おくる音は倧きかった。どうやら、暫の朚の根元の掞に集たっお朜んでいるらしい。

    私は既に指揮䞋の兵に指瀺をしお掞の呚囲を包囲するように配眮しおいた。

    蟺りは静たっおいる。
    䞀人の女剣士が剣を手に飛び出しおきた。報告にあった頑匷な槌の女だろう。
    すぐさた、数人の兵士が呚囲を囲む。
    だが、予想以䞊に女の動きは早く、兵に列が乱れた。女は銀髪の少幎の近くたで迫った。

     女は、剣を抜くず、斜め埌ろの朚の䞊から飛び掛かっおきた兵士に振り返りざたに切り぀けた。
     女は死角からの攻撃に瞬時に反応しお䞀撃を加えた。
     女の剣は兵の鎧を打ち、鈍い金属音がしお、兵士が厩れ萜ちた。

     近すぎる。
     私は舌打ちをするず、捕瞛を諊め、少幎ず女ずの間に割っお入った。
     女は私の螏み蟌みにも反応しお䞀撃を攟っおきた。女の䞀撃を片手剣で薙ぎ払うず、返す剣で、真䞊から女を切り䞋げた。
     この䞀撃にも女は反応したが、受け止めようずした。力に自信があるゆえの刀断ミスだろう。
     戊闘においお䜓栌ず䜓重は決定的に重芁だ。

    分厚い刃の剣を力任せに振り䞋ろす。女の長剣は折れ曲がり、そのたた切り䞋げた。
     手に肉を叩き぀けたような感觊が䌝わる。鎖骚から胞たで、厚刃の剣は鎖垷子の装甲の䞊から叩き぀けるように切り䞋げた。
     おそらく即死だろう。だが、護衛の女はもう䞀人いたはずだ。玠早い短剣の女が。

     埌ろで絶叫する女の声がした。瞬時に振り返り、䞀気に螏み蟌んで距離を詰めた。
     銀髪の少幎は既に埌ろに䞋がり安党な距離にいた。
     長身の女の攟぀鋭い䞀撃を巊に螏み蟌んで躱す。予想以䞊に鋭い。手加枛はできない。
     片手剣を翻しお、刃の無い嶺でその女の剣を持った腕に叩き぀けた。小手をしおいた腕を、ぞし折った感芚が䌝わる。そのたた螏み蟌み、剣の柄を女の腹に手加枛せずに叩き぀けた。女は匓なりに折れ、そのたた厩れ萜ちた。
     短剣の女は顔を䞊げるず、気のふれたように䜕かを呟いおいる赀毛を女を芋぀めおいた。女の肩を螏み぀けお抌さえる。
     それは赀毛の女の最期の姿だった。い぀の間にか銀髪の少幎は赀毛の女の前に立っおいた。止める぀もりはなかったが、少幎は迷いなく王劃の圢芋の短剣を抜き、巊から右ぞ無造䜜に薙ぎ払った。赀毛の女は喉笛から鮮血をほずばしらせお、螊るように回り、そしお厩れ萜ちた。
     足の䞋の護衛の女は、目から涙を流しながら、気を倱っおいた。
     この女は兵に呜じお拘束させお、城ぞ運ばせた。
     泣いおばかりの嚘たちも、助呜はされるだろうが、修道院送りになるだろう。
     赀毛の女の息子は、銀髪の少幎の呜什で始末するこずになった。既に兄匟で申し合わせおいたずいう。第䞀王子に匕き枡しおも結果は同じだっただろう。
     憂鬱な䜜業だ。私は䜕も考えず、赀毛の姉効の目の前で厚刃の剣を振り䞊げお、そのたた振り䞋ろした。


    砎戒

     短剣の女はしばらく鎮静ず治療が必芁になるため、城の地䞋深く、二人の兵士に呜じお厳重に䞡脇を抑えお、運びこたせた。地䞋最䞋局の独房を指定した。䞡脇を抱える兵たちは蹎られたり、嚙たれたりしたため、抵抗する女の顔を殎り぀けた。止めはしたが、興奮しお抵抗する盞手を抑える方法が他にある蚳でもない。
     牢番の兵二人を呌び぀けお手を出すなず厳呜した。銀髪の少幎はこの女を護衛ずしお出仕させるこずを考えおいた。
     女の折れた腕も治療が必芁だった。骚が繋がるのに数週間はかかるだろう。

     赀毛の女の嚘たちは地䞋の䞭階局の貎賓甚の牢獄に入れた。赀毛の姉効は抵抗するこずもなく、泣きながら牢屋に入った。
     赀毛の姉効の凊遇に぀いお、銀髪の少幎は䜕も呜じなかった。
     私は䞉日間、薄暗い地䞋牢から出るこずなく、氎ず酒だけを口にしお、牢番を務めた。赀毛の姉効の泣き声は、䞉日間、止むこずはなかった。

     赀毛の女ずその赀毛の息子は死に、赀毛の嚘たちは修道院に送られた。
     私は埩讐を果たし、誓玄は既に終えおいた。

     あの護衛剣士の女は少幎の婚玄者の護衛ずなっおいた。
     少幎の護衛たる私ず、少幎の劻の護衛たるあの女は、蚀葉を亀わすこずはなかったが、剣を抜けば届く距離にいる時間を過ごした。

     幟床か匷く殺意を感じるこずがあった。
     あの女は殺意が私に䌝わるのを知っおいた。
     私もそれを知っおいた。
     圌女は誓玄をした。だが、私ず同様、どこか虚ろに芋えた。

    「兵士が二人、殺されたした」
     ある日の昌䞋がり、城内でおきた事件の報告を副官から受けた。
     兵士二人の名前ですぐに分かった。
     あの女の牢番を務めた兵士たちだ。
     黒い鎖垷子を着蟌み、分厚い刃の片手剣を䞋げる。

     少幎の劻の城通は癜の城の東通にあった。
      私は通垞であれば立ち入るこずを蚱されない東通ぞ抌し入り、護衛剣士隊の隊長のもずぞ向かった。四人の女剣士たちから誰䜕されたが無芖をしお睚み぀けた。
     私の手には抜き身の剣が握られおいた。

    「䞋がれ。甚はあるのは私だろう」
     奥から短剣の女が珟れた。肩に護衛の王章が無い。

    「やったのはお前だな」
      女に問うた。

    「報埩だ」
     酷く荒んだ笑顔で応じた。

    「あの二人には手出しをするなず呜じた」

    「ご䞁寧に、䞭たで掗っおくれたよ」

    「  申し立おは保蚌する。認められるだろう」

    「公劃に誓玄砎棄を䌝えおきた。了承しおくれた 優しく賢い人だ」
     女は穏かに蚀った。

    「  」

    「あの䞉日間、聞こえたよ」

    「  私も、随分ず遠くたで来おしたった」

    自嘲気味に笑った。埗たものは、
    望たないものばかりだった。

    「お前の友の剣を故郷に返しに行く。来るか」
    女はしばらく黙っお私を芋぀めた。

    女は眉を䞊げお応じた。
    「英雄が倱螪か」

    女は笑った。

    私も笑った。

    花嫁の護衛 完


    察線





     
     

    GOMM

     
     
    「氷ず炎の歌」の䞖界のファンフィクションを曞いおいたす。 最近は疲れお、戊囜時代ものを少し曞いおたす。 ※連茉「獅子の仔」は原䜜の 五十幎前の西郚が舞台です。 ※原皿の䞍備は随時修正しおいたす。 ※原䜜が執筆の動機なので シリアルナンバヌの削陀に螏み切れず。

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