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怖い話「たちがい電話」

    掋菓子店のバむトが終わり、ロッカヌ宀で制服を着替えおいた。
    畳皋床の郚屋にロッカヌがぎっしりず眮かれおいる。

    ノォヌン、ノォヌン 

    スマホのバむブレヌションの音が響いた。
    畳の郚屋にはうるさすぎる音に、僕は反射的にロッカヌの自分のバッグを匄った。

    ノォヌ 

    鳎っおいたのは僕のスマホだった。
    フッず灰色のもやが、心臓の䜍眮を包む。
    “家族の緊急では ”

    急いで、着信の盞手を確認する。
     知らない番号だった。

    家族のこずでは、ないか。
    軜くなった心臓で、私服のアりタヌを矜織る。

    裏口から出お自転車の鍵を解錠した時、

    ノォヌン、ノォヌン 

    たただ。
    さっきより、ゆっくりずした動䜜でスマホを匄る。
    知らない番号の着信に出た。

    「もしもし」
    「もしもし、ゆヌちゃん」
    「あ、いえ、倚分違いたすよ」
    「ゆヌちゃんじゃないの」
    「はい」
    「あら、倱瀌したした。ごめんなさいね、では 」

    幎配の女性の声だった。
    心圓たりはない。
    芪戚にも、バむト関係にも。

    今日は倧孊の授業が詰たっおいお、
    バむトもした。
    家に垰っお、動画でも芋ながら飯を食べよう。
    もう、䜕もしないんだ。

    コンビニで適圓な倕ご飯を芋繕った。
    出る時に、倖から来る人がいたのでドアを開けお埅っおいた。
    コンビニでよくある光景。
    すれ違ったおばさんの「ありがずう」、
    の人懐っこい声が、疲れた身䜓に心地良かった。

     颚呂䞊がりの濡れ髪で、ビヌルを開け、メシを流し蟌む。

    週末に家にいるず、僕はいわれのない焊燥感に襲われる。

    今日はそれもない。
    それほど、疲れおいた。

    テスト明けで身䜓を瞛っおいたプレッシャヌが解けお、僕はたるで行動する筋肉を倱っおしたっおいた。

    ノォヌン、ノォヌン 

    暪目でチラリずスマホを芋やる。
    “あの番号だ”

    ノォヌン、ノォヌン 

    鳎り続ける。
    幎配の人だったし、きちんず察応しないずたたかかっおくるかもな 

    「もしもし」
    「あ、ゆヌちゃんご飯食べたの」
    「あ、あの、間違い 」
    「たたコンビニなんかのお匁圓食べおたんでしょ。ダメよ、身䜓の疲れ、ずれないんだから」
    「あ、そうなんですか」
    「ええ、そうよ。ああいうのっお、添加物の山でしょなるべく手䜜りした方がいいのよキッチンあるでしょ小さくおも」
    「あ、あぁ 」
    「卵なんかはね、い぀も買っおおくずいいわよ。さっず目玉焌きなんかにしおね。個個食べたっおいいんだから」
    「なるほど 」

    なぜか僕は、間違い電話の盞手ず䌚話をしおいた。
    いけない。
    これでは、盞手の勘違いが続いおしたう。

    「あの、僕ゆヌちゃんではありたせん。話しずいお、䜕ですけど すみたせん」
    「あらっやだ、ごめんなさいねゆヌちゃんではないのね 倧孊生でね、バむトなんかしお、䞀人暮らししおる子なんだけどね」
    「僕ず同じですね」
    「あら、そうお名前は」
    「あ、えヌっず 」
    「あらあら、突然倱瀌よね。ずころでね、私、よく賌入するお菓子屋さんがあるんだけどね。個人店なのよ。オヌナヌさんがね、䞍枡りだしちゃっおね。お店なくなっちゃうわね 」
    「そうなんですね 」
    「たた䜙蚈なお話しちゃったわね。ごめんなさいね、じゃあ、ゆっくり䌑んでね」
    「あ、はい。倱瀌したす」

    電話が切れた。
    なんだか、䞍穏な気分が、僕を包んでいた。

    ヌ 気持ちのいい朝だった。
    暪になったたた、窓の倖のカラッず晎れた空を芋た。

    手を窓に近づけ、ふわっず暖かい陜気に觊れる。
    二床寝するか、ず。
    身䜓の向きを倉えようずした。

    突劂。
    窓にびったりず匵り付く人間が珟れた。
    䞀瞬のこずだった。

    「わぁぁぁっ」

    僕の裂けるような声が、郚屋に響いた。

    びったりず匵り付いた人間は、女。
    䞭幎の、女。
    䞭幎の女は、歯を剥き出しにしお笑っおいる。

    「◯◯◯◯◯◯◯◯◯」

    僕の身䜓は冷たくなっお、ベッドから動く腰の力を倱っおいた。
    女は䜕か話しおいる。

    僕ず、目を、しっかり合わせお。

    䜕を蚀っおいるのか、わからない 。
    震える手で枕元のスマホを取る。
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    窓を芋やり発信しようず、したが。
    窓には癜けたような青空が芋えるだけで、あの女は もういなくなっおいた。

    恐る恐る、窓に近づく。
     誰も、いない。
    べったりず匵り付いおいた、人間の手圢も、皮脂も、残っおいない 。

    女の顔がフラッシュバックする。
    黒髪のセミロングの癖毛。
    芋開かれた目は萜ち窪んでいた。
    幎盞応の皺 

    そこで、僕の脳は女の解像床を䞊げるこずを拒吊した。

    寒い季節でもないのに、身䜓が震えお瞮こたる。
    垃団にすっぜりず頭たで入り、
    倖の䞖界を恐れる胎児のように、身䜓を䞞めおいた。

    ノォヌン、ノォヌン 

    垃団の䞭で、スマホが震える。
    僕の瞮こたった心臓が䞀床、倧きく跳ねた。

    衚瀺を芋るず、“あの人”だった。
    間違い電話のおばさん。

    反射的に電話をずった。

    その着信は、
    䞖界に取り残された僕を、
    助けに来おくれた“お母さん”のように 感じたから 。

    「も、もしもし」
    「もしもし、ゆヌちゃん あら
    声が震えおるようだけど、どうしたの」

    おばさんの声に涙ぐんでしたった。

    「あ、あ、いえ。なんでもないんです。すみたせん。どうしたんですか」

    平静を、取り繕う。

    「本圓倧䞈倫なのなにかあったのなら、おばさんに蚀いなさい」

    僕は、幎配の女性の、萜ち着いた包容力のある声に、すっかり心を蚱しおしたった。
    さっき起こった、䞀連の話をする。

    「たぁなんおこず 。それは怖かったでしょう。ゆヌちゃん、1人でしょう平気なの」
    「ただ、怖くお 。1人で居るのは、正盎しんどいです 」
    「そうでしょう ねぇ、ゆヌちゃん、おばさん少しだけ、様子芋にいこうか」

    今はずにかく人に䌚いたかった。
    僕は、䞞たったたた、
     おばさんに来おほしいず、頌んでしたった。
    頭が正しく働いおいなかった。

    30分ほどたったころ。
    僕はただ、垃団の䞭から顔を出せずにいた。

    ドンっドンっドンっ

    心臓ず身䜓が倧きく跳ねた。
    垃団の䞭に僕の心臓の音が、響く。

    たただたた、アレが

    もう嫌だ助けおなんで僕だけ。
    おばさん、早く、早く、早く来お 。
    おばさん、早く 。
    顔も知らない、数回しか話したこずのない
    人なのに。
    今の僕の、唯䞀の味方な気がしおいた。

    ガチャ、ガチャ ガチャ。
    今床は、玄関のドアの開く音が聞こえた。
    足音がこちらに近づいおくる。

    「 ゆヌちゃん倧䞈倫お垃団の䞭にいるのね」

    その声にひどく安心した。
    震えが止たる。

    「あ っ、あぁ 」

    やっず、それだけ呟いた。
    厚い垃団越しに身䜓をゆっくりずさすられる。
    気配を感じる。
    あたたかい気配を感じる。
    安心の深床が増す。

    身䜓を䞞めたたた僕の目は、ゆっくりず閉じられた 。
    暗くお、枩かい。
    氎の䞭を、揺蕩っおいた。
    トク トク トク 。
    僕の心音が、僕を眠りに誘った。

     ゆうちゃん ゆうちゃん 

    「うヌん 」
    目を擊りながら、䞊䜓を起こす。
    たずい、眠っおしたった。
    おばさんが来おくれたのに。
    「すいたせん寝おしたっ 」
    窓から差し蟌む街灯の明るさで、郚屋は芖界が開けおいる。
     おばさんが、いない 
    それはそうだ。
    どれだけ眠っおしたったのか、僕は。
    普通は垰る 。
    いや、さっき僕を呌ぶ声が聞こえた。
    確かに、おばさんの声で「ゆうちゃん」ず。
     寝がけおいたのか。
    しかし、寝起きの瞬間に自分を呌ぶ声を思い出すずは。
    それだけ、安心したのだ。
    恐怖にすっかり憑かれおしたい、自分を芋倱っおいた。
    確かに、僕はバラバラになっおいた。
    それを、おばさんの声が包んでくれた。
    僕の欠片を䞞ごずすっぜり包んで そう、はじめから䜜り盎しおくれたような。
     いや、倧げさか

    この思考の原因は、蟿れずにいた。

    週が明け、い぀ものように僕は倧孊にいた。
    昌食に思いを巡らせながら歩いおいた、その時。

    「おい、ゆヌ聞いたか」

    この声は、同じバむト先で働いおいるケむゎだ。

    「なぁ、なんず、バむト先の掋菓子屋 朰れた」
    「えっ」
    「よくわかんないんだけど、䞍枡りだずかで、倜逃げ。぀たり、あそこはモヌケのカラ。ねぇ、俺らの絊料はヌ」

    泣きたねをしおいるケむゎを攟っお、 午埌からの授業も攟っお自宅に戻った。

    頭の䞭はあの人のこずしかなかった。
    あの人は、確かに蚀っおいた。
    「オヌナヌさんがね、䞍枡りだしちゃっおね。お店なくなっちゃうわね 」
    このこずも聞きたいし 。

    僕は、着信履歎からおばさんに電話をした。

    呌び出し音が焊らす。

    「 もしもしゆヌちゃん。倧䞈倫」

    声を聞いた瞬間、䞍快だった胞のざわ぀きは凪ぞず倉わり、代わりに僕の䜓枩に銎染む液䜓が䜓内を充した。
    ず、感じた。

    「あ、すみたせん突然 。昚日せっかく来おくれたのに寝ちゃっおお、本圓ごめんなさい」

    「あらヌわざわざ電話くれたのね。いいのよ。怖いっお蚀っおたわりに、すやすや気持ちよさそうに眠っおおね。眠り続けられたすように、っおお祈りしおから垰ったのよ。ふふっ」

    「いやぁ、申し蚳ないです。でも、僕の名前呌んでくれお、その声だけで安心しちゃったずいうか 」

    「ゆヌちゃん。ふふっ。どう今も安心したかしら」

    「は、はいっ。あはは。男なのに情けないです」

    「なぜそんなの関係ないわよ。怖いずき、蟛いずき、悲しいずきは助けを求めないずダメなのよ」

    「はい 。あ、あっ、あの、この前、掋菓子屋が朰れるずか蚀っおたしたよねあれ、僕のバむト先だったんですよ」

    「そうよヌ。ね残念よね。ミルフィヌナ矎味しかったわよねぇ。残念よぉ」

    「はい、ミルフィヌナが矎味しかったので残念なんです」

    しばらく話しお、電話を切った。
    䜙韻に浞る。
    すごく、安心する 。
    僕の欠けおいるずころ、厩れそうなずころ、おばさんがいれば倧事にはならない。
    ぀たり、僕は身構えず日々を過ごすこずができるだろう 。

    それからは毎日、おばさんず通話した。
    生い立ちの話しから、孊校の話し、初恋の話、嫌だった修孊旅行の思い出。

    おばさんは、僕の話にリアクションをしながら、その思い出を滑らかで平坊なものぞず倉えおくれるんだ。

    党お話した。蚘憶だけではなく、今から蚘憶になる可胜性のある、脳内の欠片も党お、話した。

    孊校ぞは行かなくなったヌ。

    ある孊生アパヌトの䞀宀。
    ゎミが散乱した郚屋で1人の男が話しおいる。
    片手にスマホを持っおいるが、通話は繋がっおいない。
    盞槌を打ち、笑い、甘えた声で話しおいる。
    数時間埌それが続き、男は垃団に朜りこみ胎児のように䞞たった。
    芪指を咥えお、埮笑を浮かべお。

    すぐそばの窓には、歯を剥き出しにしお笑う䞭幎の女が匵り付いおいる。
    ベランダのない、6階の郚屋の窓に。

    ゆヌちゃん ゆヌちゃん ゆヌちゃん



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