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「舎利子」〜新月の朝、宇宙はあなたの名前を呼んでいる〜

今日は新月明けの朝。

昨日の夜空に月はなかった。

漆黒の闇の中で、宇宙はひっそりと息をひそめていた。

その闇の中を、パンスターズ彗星が静かに通り過ぎている。

17万年ぶりに地球へ接近したこの彗星は、今週末も明け方の東の空に現れている。

17万年の旅の果てに、今この空を過ぎていく光。

新月。

彗星。

春の夜明け。

宇宙が何かを告げようとしているような、そんな気配が漂う朝だ。

木村さん(38歳)は今朝、珍しく早起きして窓を開けた。

特に理由はなかった。

ただ目が覚めて、なんとなく外の空気を吸いたかっただけだ。

ひんやりした朝の空気が頬に触れた。

空はまだ藍色で、東の端がほんの少しだけ白みはじめていた。

「ああ、今日も始まるんだな」と思った。

その次の瞬間、なぜか胸が少し締め付けられた。

最近、自分が「誰かに必要とされているのか」わからなくなっていた。

仕事でも、家庭でも、どこかで「自分でなくてもいい」という感覚が積み重なっていた。

誰かに、ただ「あなたに話しかけている」と言ってほしかった。

そのとき、般若心経のある言葉が浮かんだ。

「舎利子(しゃりし)」

これは、言葉ではない。呼びかけだ。

「シャーリプトラよ」——観自在菩薩が、一人の人間の名前を呼んでいる。

262文字の中で、智慧の言葉でも哲学の話でもなく——まず、「あなた」に語りかけることから始まっている。

この呼びかけに、今日という朝に、どんな意味があるのだろうか——。

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