
【労働衛生小説】クサいモノにはフタをシロ シリーズ②「なんともないですよ」 第二十四話 研究者って
第二十四話
研究者って
香島はすぐには口を開かなかった。
再び試験室の中をゆっくり歩く。
一人ひとりの研究員へ静かに視線を向けている。
中村も後ろからついて歩いた。
ドラフトチャンバーの中で、
研究員がビーカーを手に化学物質を混ぜている。
少し離れた実験台では、
別の研究員が化学物質の量を量っている。
その隣では、
自席で事務作業だろうか、
椅子に深く座り、パソコンの画面を見つめている。
さらに奥では、
分析装置の前に座り、
測定結果を確認している人もいた。
誰もが忙しそうだった。
自身の学生時代を思い出した。
かなり前なので明確には思い出せない。
ただ、研究室は少しにおいがしていたような気もする。
その時はそこまで気にはしていなかった。
それは、においだけではない。
化学物質自体に明らかに無知だったと今は思う。
しかし、研究員たちはその道の専門家だ。
必要なことは当然理解したうえで仕事をしているのだろう。
中村はそう思っている。
「研究者って、その道のプロですから」
「化学物質の取り扱いをよく分かっていると思います」
中村は自信で確認するように香島に話した。
香島は少し口を結んだ。
「……そうですね」
それだけだった。
何か言いたげだった。
だが、それ以上は話さなかった。
香島は再びゆっくりと歩き始めた。
中村も後を追う。
香島は試験室の端まで歩くと、振り返った。
研究員たちは、それぞれ自分の実験に集中している。
その様子を見渡しながら、小さくつぶやく。
「典型的ですね。」
中村は香島の顔へ視線を向けた
「...…何がですか?」
思わず質問した。
香島の表情は変わらない。
「いえ。」
少し間を置いて続けた。
「順番に見ていきましょう。」
香島が何を見ようとしているのかは分からない。
ただ、そこには理由がある。
中村は、いつの間にか香島ならどう考えるのかを知りたいと思うようになっていた。
次の話
第二十五話 いつもここで
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