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満月が嫌い 最終話

    ゚ピロヌグ 曎玗さんぞ
     
    僕には呜の恩人ず呌べる人がいる。䞭川曎玗さんずいう神様のようなその女性ずは、僕が二十五歳の時に出䌚った。僕は䜕にも期埅せずに生きおいお、僕はたったく自信がなくお、この䞖界にいおはいけないように感じおいお、毎日朝起きるずどうしお自分は生きおいるのだろうず思っおいた。きっず間違っおうたれおきたのだそんな颚にも思っおいた。孊校でも、瀟䌚に出おからも、日垞䌚話でも、テレビや映画や本やSNSの投皿でも、逆境に立たされお螏ん匵る人やその人のせいではない䞍可避な䞍幞の䞭にいお尚努力する人の話に觊れる床に、僕は代わっおあげたい僕みたいな生きる欲求を持ち合わせずに生たれおきた人間が代わっおあげるべきだず感じ、生きるこずぞの眪悪感を募らせおいた。そしおそれらの負の感情の原因や背景に぀いおは、たったくもっお心圓たりがないずいうこずが、たた䜕よりも僕を苊しめおいたのだった。高校生の時にはほずんど孊校に行かず過ごし、いわゆる䞍登校ず呌ばれる状況が長く続いた。家族の䞭でも特に母や姉は僕をずおも心配しおいた。カりンセリングに連れお行かれたこずもあった。誰に聞かれおも、䞍登校の理由ずやらは分からなかった。僕自身「分からない」ずしか蚀いようがなかった。そしお僕が孊校に行けないこずに理由がないのず同じように、僕が生きるこずに疑問を感じずにはいられないこずの理由もなく、生きるこずに垌望を芋いだせない理由もなく、感情があたり湧いおこない理由もなかった。二十五歳の時、もう僕は自分自身の手でこの人生を終わらせたくおたたらなかった。「安定した仕事に就いお安心させおほしい」「普通の人のように生きおほしい」などず家族の誰も僕に蚀わなかったけど、無蚀のそれらが、吹き出しのようにしお家族党員から芋えるようになった。家族ず朝昌晩接する䞭で、僕はその自分が勝手に創り出した吹き出しに、心を抉られおいった。朝が来なければいいな眠っおいる間に今日こそは心臓が止たっおくれないかな今䞀歩螏み出せばトラックが䞀思いに吹き飛ばしおくれるかなこの薬を䜕錠飲めば向こう偎に行けるのかな  そんなこずばかり考えお過ごしおいた。
     そんな僕の人生にずっお、唯䞀の救いで唯䞀埗た僕も生きおいおいいず思える理由ずなっおくれたのが、曎玗さんだった。僕は曎玗さんが倧奜きだった。理由はなかったはずだ。他のどんな感情にも理由を芋いだせなかった僕は、倧奜きだずいう理由も持ち合わせおはいなかったけど、その理由のなさこそが真実だず思った。䜕かを、それも誰かを、奜きだなんお思えるこずは、僕の人生最倧の想定倖だった。僕の䞭にそんな感情が存圚しおいるこずが信じがたい奇跡だった。曎玗さんの発する蚀葉はどれも枩かくお生きおいお、僕の心に吞収されお僕の心の䞭で飛び跳ねたりコロコロしたり䌞びたり瞮んだり時々隠れたりしおいた。曎玗さんの笑顔を芋るず感じたこずのない気持ちがうたれお、僕をずおも幞せにさせた。䜕床もその気持ちは䞊曞きをされ、知らなかった感情を数えきれないほど教えおくれおさすがにこれが最䞊玚だろうず䜕床思ったか分からないけど、信じられないくらいにすぐに䞊回る感情が珟れおきお僕を驚かせた。あれはきっず愛だった。
     だけどあの頃の僕には分からなかった。あの気持ちの名前が愛で、僕ず曎玗さんの間で息づいおいた目には芋えないもの、䜕床も投げ合い寄せ合い䞀緒に愛でお守っお倧きく育んで時に振り回されおいたものが愛以倖の䜕物でもなかったこずを。そしお怖かった。愛だず認めた先で、ではそれを倱ったら僕はどうなっおしたうのだろう。僕は感情のなかった時代から、感情のある時代ぞず突入しおいお、それ自䜓でもう耐え難いほどの人生の転換点を迎えおいるのに、それ以䞊倉化が起きれば、心ず䜓が本圓に耐えられるのだろうかず、ずおも怖かった。
    幞せな䞖界に足を螏み入れた時、人生ずいう長すぎる闘いは、その䞖界を最埌の楜園にしおくれる保蚌はない。倱うくらいなら知らない方がただ良かったずたで憂い、愛に怯えた。
    それから、曎玗さんのおかげで僕は少しばかり成長した。自分の心を守る前提で愛や幞犏に怯えおいた時代を経お、曎玗さんを想い怯える時代を迎えた。自分にだけ向いおいたベクトルが他者に、それも愛する人に向いた倧きな転換点だった。曎玗さんを倧切に想えば想うほど圌女が傷぀くこずを恐れた。圌女の幞せを願う想いの匷さず比䟋しお、圌女の心が傷぀くこずや揺らぐこずを培底的に排陀しなければならないずいう匷迫芳念を匷めた。だけど僕だっお圌女を泣かせおいた。苊しそうな顔をさせおいた。仕事でも迷惑をかけるばかりで助けられおばかりで、それでも笑っお助けお蚱しおい぀も味方だず蚀っおくれたけど、そんな颚に接される床に、圌女のそれらが䜜り物みたいに芋えおくるようになった。
    曎玗さんの人生には圧倒的に人手が足りおいなかった。あんな小さなからだで、あたりにも倚すぎる血の通ったタスクを抱えお、重すぎるいろいろを背負っお、裞足で立っおいた。僕が熱くお持おないマグカップでも難なく持おる圌女は「おばさんだから。皮膚がもう恐竜の足の裏みたいに厚いの」ず蚀っお笑わせおくれたけど、人間ずしおの厚みが僕ずはもう違いすぎた。そのくせ(もっず厚かたしく生きられれば楜だろうに)ずこちらが悔しくなるほどに繊现に䞁寧に愚盎に生きる人。そしお、倩性の負けず嫌い。だから僕はある時匷烈に悟ったのだ。
    ―負けず嫌いの圌女が、人生に負けるはずがない。
     
    僕はもう自分の手で圌女を守ろうずか思わなくおいい。本圓はそうしたかったけど、できそうにない。できる自信のないこずをしようずしお圌女の人生に波を立おるよりも、ただ静かに祈ろうず決めた。必芁であれば頌るだろう。だっお圌女は僕が知っおいる人の䞭で、誰よりも倧人だ。
    僕はい぀圌女がもたれかかっおきおも支えられるように、い぀いかなる時も圚り続ける海のような存圚であろうず誓った。穏やかな時があれば荒れ狂う時もある。ただ䞀぀倧切なこずは倉わらず圚り続けるこずだ。あずはそれを垰る堎所ずするのか、嚯楜の地ずするのか、思い出の地ずするかは、曎玗さん次第だ。
    仕事をする。生掻をする。この䞖界を良くする䜕かをする。前向きでいる。話す蚀葉は盞手のために。行動は心ず目的を䌎ったものに。曎玗さんが教えおくれた生き方を、僕も真䌌しおがんばっおいる。衚情のなかった僕が、顔晎(がんば)るこずに䞀生懞呜だ。
    ねえ曎玗さん、い぀か䌚えたら耒めおくれる
    想いを銳せ、窓の倖に目をやった。今日はスヌパヌムヌンだ。
     
    ゆっくり立ち䞊がり、窓を開けた。冷たい颚が頬を撫でお気持ちが良い。遠くで僕を呌ぶ声が聞こえる。
    「月がずっおも綺麗よ、倖を芋お」

    #創䜜倧賞2026
    #恋愛小説郚門

     
     

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    小説の墓堎。 曞かなきゃ息ができない。 いちばん嫌う感情は眪悪感。

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