
【エッセイ】うちのママは有袋類/母の日によせて。
「お母さん、前世は有袋類だったんじゃないかしら」
母は、そう言って紙袋を畳んでいる。
母の日に贈ったスープセットの、少し厚手のやつだ。
角をぴし、と合わせて、空気を抜く。
その手つきは妙に丁寧で、まるで何かの祈りみたいだった。
「……何の話ですか」
聞き返すと、母は顔も上げずに言う。
「だって、袋って落ち着くのよ」
意味がわからない。
けれど、わからないままでも、別に困らない。
そういう会話が、この人とはよくあるのだから。
ああ、そういえば。
バッグ、紙袋、風呂敷。
そういうものを、母は昔からよく持っていた。
夕方、赤い影が伸びる頃。
保育園は、いつも声で溢れていた。
子供達の甲高い笑い声と、母親達の、少し疲れた、それでもよく通る声。
子供達は名を呼ばれると、ペンギンの雛のように、母親のもとへ駆けてゆく。
その中で、うちの母はすぐに見つかった。
袋を、たくさん提げていたから。
スーパーのロゴが入ったビニール袋が腕に食い込んで。
紙袋は持ち手が少しよれていた。
オレンジ、牛乳、お得用コーンフレーク。
中身はずっしり重たくて、それでも母は平気な顔で。
むしろ、少し誇らしげだった。
――どうぶつの おかあさんは こどもたちの えさを もってかえってきます。
うちのママもおんなじだ。
保育園で読んだ絵本の言うとおりだった。
あの頃、母のお腹には、見えない袋がついているのだと、私は信じていた。
年老いた母は、今でも袋を捨てない。
きれいに畳んで、しまっておく。
また何かを入れるために。
何を入れるのかは知らない。
――やっぱり、この人は有袋類なのかもしれない。
〈おわり〉