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Photo by100tomo777

【エッセイ】うちのママは有袋類/母の日によせて。

    「お母さん、前世は有袋類だったんじゃないかしら」
     
     母は、そう言って紙袋を畳んでいる。
     母の日に贈ったスープセットの、少し厚手のやつだ。
     
     角をぴし、と合わせて、空気を抜く。
     その手つきは妙に丁寧で、まるで何かの祈りみたいだった。
     
    「……何の話ですか」
     
     聞き返すと、母は顔も上げずに言う。
     
    「だって、袋って落ち着くのよ」
     
     意味がわからない。
     
     けれど、わからないままでも、別に困らない。
     そういう会話が、この人とはよくあるのだから。
     
     ああ、そういえば。
     
     バッグ、紙袋、風呂敷。
     そういうものを、母は昔からよく持っていた。
     
     
     
     夕方、赤い影が伸びる頃。
     保育園は、いつも声で溢れていた。
     
     子供達の甲高い笑い声と、母親達の、少し疲れた、それでもよく通る声。
     子供達は名を呼ばれると、ペンギンの雛のように、母親のもとへ駆けてゆく。
     
     その中で、うちの母はすぐに見つかった。
     袋を、たくさん提げていたから。
     
     スーパーのロゴが入ったビニール袋が腕に食い込んで。
     紙袋は持ち手が少しよれていた。
     
     オレンジ、牛乳、お得用コーンフレーク。
     
     中身はずっしり重たくて、それでも母は平気な顔で。
     むしろ、少し誇らしげだった。
     
     ――どうぶつの おかあさんは こどもたちの えさを もってかえってきます。
     
     うちのママもおんなじだ。
     保育園で読んだ絵本の言うとおりだった。
     
     あの頃、母のお腹には、見えない袋がついているのだと、私は信じていた。
     
     
     
     年老いた母は、今でも袋を捨てない。
     きれいに畳んで、しまっておく。
     
     また何かを入れるために。
     
     何を入れるのかは知らない。
     
     ――やっぱり、この人は有袋類なのかもしれない。
     
    〈おわり〉
     
     

     
     

    Jem

     
     
    こんにちは😃Jemです!  小説と着物と漫画にアニメ、映画、バレエ、たまに編み物。いろいろ好きです。  こちらでは、主に小説と創作ノートを発表していきます。    よろしくお願いします。

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