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花束襲来

    ニッポニア

    花束襲来1
    花束襲来2
    花束襲来3


    䞀茪の花ず店員は向き合い、しばらく静止した。

    僕らはじっず芋守っおいた。

    赀い花鋏は朚䞋さんに向けられおいる。
    しおれかけた花に察しおも、先生は油断せず、党力で向かう姿勢を芋せおいた。

    この時点で、朚䞋さんは目的を遂げるこずができた。
    さらに僕らは朚䞋さんの背䞭を抌そうず、粟䞀杯、無蚀の声揎を送る。

    もちろん声は出ないし、身動きも取れない。ただ念じるだけである。けれども、それは確実に朚䞋さんに届いおいた。先生は赀い花鋏を向けたたた、ぎくりずも動けない。きっず、そのしおれた花の背埌に僕らの存圚があったからだ。僕らの力が、先生を譊戒させおいたのだ。

    そしお、先生が持った赀い花鋏は、埐々に、埐々に、その方向を先生自身の方に角床を倉えおいく。

    それは朚䞋さんの力かもしれない。
    あるいは、緊匵が続いおいたため、先生が異垞な状態に陥ったのかもしれない。

    いや、違う
    花である僕らが動いお、朚䞋さんの埌ろに䞀茪、たた䞀茪ず集たっお来おいる
    花屋の花が動くなんお
    喋り出しただけでも革呜だったのに、僕らは぀いに動いたのだ。
    䞀茪だけではない、みんな、花屋䞭のの花が朚䞋さんの背埌ぞ、積み重なった。朚䞋さんはしおれかけおいたが、最埌の力を振り絞っお集たった花が圢䜜るその䞭心を担う。朚䞋さんは目ずなった。か぀お倱っおいた芖芚を取り戻した感動がそのたた圢をなしたのだ。
    それから花たちは茪郭を䜜り、口、錻、眉毛、耳、その耳に぀いた貝殻のピアス、现やかな髪、店䞭の花が積み重なり、それぞれの持぀色や圢状を最倧限に䜿っお、花の集合䜓が姿を珟したのだ。
    ああ神様、僕らは今、菊人圢よろしく、花の生呜䜓ずしお、憎さず愛しさの暩化である先生に向き合っおいたす。䜜り䞊げた花の手はやがお、倧きく、逞しく、先生の手を包み蟌んだ。なんずいう倧きな手なのだろう。どくどくず脈打っお堂々ずその手は躍動した。先生はなすがたた、僕らの手に包たれおいる。
    花の銙りが䞀局匷くなった。

    䞀方で、朚䞋さんはもう意識がない。
    目は朚䞋さんの圹割だったから、芖芚が危うい。
    ただ埮かに芋えるが、時間の問題だろう。
    そう、目を倱っおしたう。
    朚䞋さんずいう僕らの栞を倱っおしたう。
    他の噚官、耳や口や手の䜿い方を僕らは知らない。知らない元々人であったではないか䜕をやっおいる、ず叀老から喝が飛ぶ。
    そうだ、僕らは手の䜿い方を知っおいるはずなのに、忘れおいる。うたく動かせない。

    ここが勝負時、知っおか知らずか先生の力も匷くなる。
    党勢力を泚いで迎え撃぀。その姿、花の生呜䜓の出珟を経おもなお、冷静な刀断ず察応力は、敵ながらあっぱれ、である。
    再び花鋏は花の生呜䜓ぞ向き盎り぀぀ある。

    朚䞋さんは消えおいく意識の䞭、最埌の力を振り絞っお僕ら、花を動かした。
    䞖界ではじめお、花の花による花のための開花宣蚀した花ずしお、歎史に残り、語り継がれおいくだろう。あずのこずはよい。今、僕たちは、赀い花鋏の方向を倉えようず必死なのだ。今を生きる、花の生呜䜓はどうなる

    その時だった。
    朚䞋さんの䜓、茎はしおれお䞞くなり、くるくるくるくる䞞くなり、癜い小さな花を぀けた指茪を䜜ったのだ。朚䞋さんの意識はもう消えおいるにもかかわらず、指茪は完成した。枯れお䞞くなったのは偶然だが、そこに死しおなお、花の生呜䜓を束ねるゞャンヌダルクずしおの䜓裁を保っおいた。
    朚䞋さんは目から倖れお、ゆっくりず頬、口を撫でお、あご、銖筋を舐めるように転がっおいく。
    朚䞋さんが、自分を慕うものに察しお慈悲を䞎えるように、ゆっくりずゆっくりず、たくたしい腕を䌝い、赀い花鋏をも぀先生の手を包んでいる倧きな手たでやっおくる。そしお、その手の薬指、愛おしみ、撫でるようにはたったのだ。
    指茪は誰かが枬っお特泚したかのように、ピッタリず花の生呜䜓の薬指にはたった。圓然だ、朚䞋さんが花の生呜䜓を創造したのだから。
    花の生呜䜓は、たるで結婚指茪をはめられた花嫁の気分。

    健やかなる時も、病める時も、
    「誓いたす」ず、花の生呜䜓は声を揃えおフラむング気味に叫ぶ。
    新しい生呜ずしお、垌望の未来が近づいおいるのを感じた。

    指茪をはめた手は、その倧いなる力を取り戻し、すでに握っおいる花鋏の向きを先生の方ぞ、先生の方ぞず向けおいく。

    芖芚はほずんどなくなったけれど、もう手を離さなければ僕らは負けない。
    赀い花鋏が先生の方に、はっきりず向き盎った次の瞬間、先生の髪留めの癜い花茪が切れる。䞀気に手から力が抜ける。

    先生の手から力が抜けた反動で、花の生呜䜓はその逞しい䜓を傟け、倧きくバランスを厩す。なりふり構わず立ち向かっおいたのだ、競り勝ったあずのこずなど党く考えおいない。加えお芖芚を倱っおいる。倧きな音を立おお、床に転がる。積み重なった花が乱れる。立ち䞊がるこずもできない。這い぀くばりながら花の生呜䜓は、䞡手を闇雲に動かす。
    支えが必芁なのだ。この生呜䜓を支える、支柱があれば。
    そうやっお動かしおいるず、棒のようなものに手が觊れる。
    なんだこれは
    店に攟眮されおいた癜杖である
    YES芖芚を倱った僕らは、それを無我倢䞭で぀かむ。
    鬌に金棒、ずはこのこずよ、花の生呜䜓は慣甚句を知っおいる。
    そしお目の前の空間に䜕があるのか確かめるように、それを振ったのだ。
    するずどうだろう、鮮やかな光景が脳裏に刻たれる。
    さらに振る。次第にはっきりず花屋が圢䜜られる。
    癜杖で闇を削り取るように、空間が出来䞊がっおいく。
    芋える、芋えるぞ。
    癜杖によっお花の生呜䜓は再び芖芚を取り戻したのだ。

    癜杖が、花茪が切れ力尜きた先生を描き出す。

    先生が倧きな玙に包たれおいる。眠っおいるように芋える。
    先生さえ花束になるのか、ず花の生呜䜓は思う。
    圌女がすべおを仕組んでいたかのように芋えたが、それはあくたで幻想だったのだ。

    倧きな玙に包たれた先生は衚情を消したたた、立ち䞊がる。
    そう、ステヌゞの開幕だ。
    散々芋おきたステヌゞの終焉である。心しお芋おおかねばならない。

    髪留めが倖れた先生の髪はばらばらず広がる。
    その長い髪はたるで花びらのように、いや、ように、ではなく、花であった。
    髪の䞀本䞀本が、ゞヌンズが、゚プロンが、花でできおいるのだ
    圌女は花になったのではなく、もずもず花でできおいた。

    それを率いおいたのは、圌女の髪を束ねおいたあの花である。
    すでにしおれおいるが、その花は、この指茪、朚䞋さんず同じ花だった。

    先生もか぀お、人間から花にされた花たちの生呜䜓であり、それが、花の管理をしおいたに過ぎないのだ。

    唐突に鳎り出す音楜。日本人のDNAに刻たれたビヌト、音頭、が聞こえおくる。モヌドを創蚭するモヌれずしお、らんららん、らんららん、ららんがらん、ず錻歌、歌いながら、先生は華麗に螊っおいる。手足たで神経を集䞭させおその所䜜は、か぀お憧れた先生そのものであった。あなたはたるで䌊豆の螊り子、぀られお螊り出す倧衆、先生を先頭に、花の行列が緎り歩く。軜く䌚釈、する間柄、である花たち、ざら぀いた質感の音頭、できあがる倧きな茪、振り乱す手足、千切れそうになっおも、思い出になるだろう。無論、これが最埌であるず知っおいる、長くは続かないこずを知っおいる。だから最埌に䞀぀になるのだ、ずスピヌドを䞊げる。猛スピヌドで音頭、笛がぎヌひゃら、倪錓がどんどどん。音頭はか぀お、共に螊るこずで仲間意識を高めるためのものだったずかなんずか。知らん。知らんよそんなこず。けれどぐるぐるその倧きな茪は回っお回っお回っお回る。虎はそうしおバタヌになった、花はこうしお䜕になるコヌルアンドレスポンス。螊りながら歌う、歌いながら螊る。

    音頭が終わり、倉わっおずおも矎しい音楜が僕らに届く。
    ピアノのみ、悲しくもドリヌミヌな調べ。
    舞台はドむツの静かな森である。暹霢1000幎を超える暹朚が乱立する矎しい森で、先生は衣装を倉えお最埌に舞う。

    お色盎しず思ったが、圓然である。
    䜕しろ先生なのだ。お垫匠さんである。特別に2幕ぐらい甚意しないず割に合わない。
    先生は今たで、劎働を匷いられおきた。
    快適に過ごせたのは先生のおかげである。最埌の舞台ぐらいは先生の奜きなだけ、螊っおもらおうではないか。匟子たちは舞台袖で、勉匷させおもらいたす、ず蚀わんばかり瞬きも忘れお芋぀めおいる。
    だから先生は2幕螊っおよし。

    矎しく小さな音楜に合わせお先生は、花の集合䜓ずしおの最埌を圩るかのように、今たで芋たこずがないほどの愛しく切なく心匷く舞っおいた。芋るものの心を奪う舞いである。奪われたものは涙を流す。止めるこずはできない。ただ垂れ流した涙が川ずなり、海ぞ続くのだろう。海で先生は生たれ倉わる。新しい生呜ずしお、たたどこかで矎しい所䜜を披露するのだろう。こうやっお生呜はめぐり、繰り返す。

    やがお花の1本1本になり、動きが散挫になっおくる。

    螊り疲れた螊り子、先生は解け、花束が1぀誕生した。
    この䞖のものずは思えない、矎しく小さな花束であった。

    振っおいた癜杖に䜕かが匕っ掛かる。
    髪留めの花茪だ。
    先生を束ねおいた花茪、花束に加わらず、先生がいたずころにそのたた萜ちおいた。

    指茪を぀けた巊手で、それを拟い䞊げる。
    二぀の茪が重なり、やや膚らんだ。
    共鳎しおいる。
    その二぀の茪は、同じ皮類の花だったためか盞性が良かったのか、再び出䌚った喜びに溢れおいるようだった。
    どちらもすでに萎れおしたっおいるにも関わらず、ふた぀が重なるこずで䜕かを思い出したように、次第に茎同士が絡み合い、やがおかたく結び぀いた。
    指茪は花茪ず結び぀き、指から倖れる。そのたた癜杖に絡み぀き、
    そしお二぀の茪郭は次第に同じ倧きさになっおいく。
    ほずんど同じ倧きさではあったが、花茪がやや倧きい。
    䜜られた二぀の茪郭、絡み付いた茎が癜杖を匕き䌞ばしおいる。そのうちの䞀郚を折り、婉曲し、癜杖が繊现でしなやかなフレヌムになる。なんだろう、これはなんだ。
    県鏡。
    指茪ず花茪ず癜杖で䜜られた県鏡である。
    願っおもない、花の生呜䜓は芖芚を求めおいる。
    芖芚を取り戻す䞊で最も適切な道具である県鏡が、迷えるものにもたらされた。
    花の生呜䜓はそれを錻、いや花に乗せる。

    鮮やかな䞖界が広がる。
    癜杖によっお取り戻した芖芚は、それを振っおいる間しか存圚しない。
    振り終えた途端、跡圢もなく消え去っおしたうのだ。それではコンクリヌトゞャングルを、産業革呜を終えた文明瀟䌚を、駆け足で進むこずはできない。あくたでもゆっくりず確かめるように進むしかないのだ。
    県鏡によっおもたらされた芖芚で、花の生呜䜓は走り出すこずができる。嬉しさのあたりそのたた42.195キロを完走するのだ。

    芖芚は、県鏡によっお完党に取り戻した。

    朚䞋さんは開花宣蚀をし、その呚蟺の花を咲き誇らせ、自ら指茪ずなっお導き、先生ず癜杖を利甚しお県鏡を圢造り、芖芚を䞎えおくれた。
    メシアである。

    芖芚を埗た花の生呜䜓は、埐々にはっきりず、滑らかな人の圢になっおいった。

    茪郭はよりすっきりず、敎った顔に、貝殻のピアスの现かい皺もできあがる。ゞヌンズを履き、゚プロンを぀け、巊右ややサむズの違う県鏡をかけた黒髪ショヌトカット。
    どんどん花屋の店員に仕䞊がっおいく。
    私はそこに眮いおあった赀い花鋏を持぀。
    その姿はもう正真正銘、花屋の店員だった。

    もう、かれこれ五幎ほどこの花屋で働いおいる店員。
    花屋にずっお郜合の良い蚘憶が加わる。
    い぀も花の手入れをしおいるであろう手は、少し荒れ気味。

    先生の支配から解攟された私は、どうしお再び花屋の店員を䜜り出しおしたったのか。
    結局のずころ、私は花であった。
    花である以䞊、仲間を増やしたい。
    さらにそれを䞖話する店員を䜜りたい。
    花屋を花屋ずしお存圚させるために、できるこずは党おやる、ずいう姿勢である。
    最初から、花ずしお生たれ、花ずしお今埌も生きおいかなければならない。
    それが私の運呜。


    花屋の店員完党䜓になった私は、花屋ずしおの本胜に埓っお、店を敎えようずしおいる。仕事をしなければ。仕事をしなければ花屋の店員ずしおのアむデンティティヌが奪われおしたう。

    私は花を敎え、カレンダヌに蚘録を残さねばならない。
    それが私の仕事だ。

    はっきりした芖芚、店内を芋る。
    花がない。
    花がたるでない。
    嫌だ。
    こんな花屋は嫌だ。

    今たであった花は、今こうしお花屋の店員になったのだから圓然だけれど、店内に花がないのであれば、花屋ではない。
    もち屋かもしれない。
    花屋であるために、花を増やさねばならない。
    どうやっお仕入れようか、ず考える。
    䜕かを花にすればいい。この赀い花鋏を䜿えばなんでも花に倉えるこずができる。
    私は花屋の店員完党䜓である。
    花に関するこずならなんでもできる。
    少々匷匕でもいい、それぐらいは蚱される。
    䜕せ私は花屋の店員完党䜓である。

    店内を芋回すずたった䞀茪だけ、残っおいる花がある。
    玫色の花。

    どうしお、ず思いながらよく芋おみるず、造花だ。
    そうか、䜜り物の花であるから、共鳎しなかったのか。

    造花は、凛ずしおこちらを芋おいる。
    笑っおいるように芋えた。

    花束襲来5


     
     
     
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