
スミレと色眼鏡24
家の前にいつもの軽が止まる。
外に出るといつものノリで手を挙げるカエデがいた。
カエデ「よ!調子はどうよ」
私は無言でシートベルトをして前方を指さす。
カエデ「へいへい」
しぶしぶ車は発進した。
スミレ「仕事は?」
カエデ「早退、一緒だね?」
スミレ「何で知ってんの」
カエデ「秘密の連絡網」
スミレ「何それ」
車はいつものコースに入り、雪道が続く。
会話は相変わらずなかった。流行りの音楽にカエデの鼻歌が混じる。
最後のわずかな希望だったが、やはり私の何かはもう壊れてしまったらしい。カエデがいつも通り振舞えば振舞うほど無理をしているように見える。
もう私を無言が救ってくれることも無くなった。
スミレ「わざわざありがと。もう大丈夫だから。家帰ろ」
私は外の曇天を眺める。
カエデ「わかった」
カエデの鼻歌が止まり、重々しい雰囲気が車内に流れる。
家の前に着いた。
カエデは私を救ってくれる一発逆転の言葉をくれなかった。
私が扉を開けようとした時
カエデ「俺、待ってるから」
意味が理解できず、思わず振り向き聞き返す。
カエデ「だから、待ってるって。ここで。だからいっぱい考えてきて。その後いっぱい教えて。いつもみたいに」
スミレ「もう私変だから。カエデの期待に応えられないかもしれない」
私は思わず涙が滲む。
カエデ「それでもいいよ。とにかく待ってるから」
私は扉を閉め家に入る。振り返るとカエデの車はまだ止まっていた。
暗い階段を上がり部屋に入る。ベッドの上でキナコが丸くなっているのが見え静かに近寄る。
さっき流れなかった涙はとめどもなく溢れだし、制御が効かなくなった。
スミレ「キナちゃん。みんな私を支えてくれようと頑張ってるのに。私変なんだ。全然元に戻らないんだ。私どうしたらいいの」
キナコのお腹に顔をうずめ全身を手で覆い、抱きしめる。
スミレ「キナちゃんだけしかもういないのかもしれない。私の支えは。私は私を支えたいのに。私。キナコみたいにみんなを支えたいのに」
顔を上げキナコと目が合う。キナコは何も言わずジッとこちらを見つめる。
何かが解け、涙は止まった。
ああ、そうか。そうだったのか。
私はキナコの頭を撫で「行ってきます」と言い車に飛び乗った。
2年かかった。
科長「そしたらね、2人のプリセプターを紹介しますから」
新人の2人がキョロキョロしながらこちらに近づいてくる。
科長「ちょっと二人とも今いいかしら。今年の新人さん連れてきたから挨拶して」
サクラ「多田サクラです、よろしくお願いします」
スミレ「藤田スミレです。2人のこと、ちゃんと見てるからね。よろしくお願いします」
伸びてた背筋はさらに伸び、新人さんは挨拶を返してくれる。
2人がいなくなってからサクラちゃんと懐かしいねと笑い合う。
月に1回は実家に帰りキナコに会う。
丸くなって眠るキナコに近寄りジッと目を見る。
「キナちゃん。私の眼鏡は今何色ですか?」
おわり