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正しい返事を探しすぎてしまう私へ

    「ゴールデンウイークはどこか出掛けて来ましたか?」

     知り合い程度の私に対して、雑談を振ってくれた。話しかけられて嬉しいと思う反面、私は会話するのが苦手で、表情がかたくなる。そのためか「冷静だよね」とよく言われることが多い。自分では冷静だと思ったことはなく、むしろ、あがり症、人見知りの方がしっくりきていた。こんな私だが自分のことをあまり話さずにいると、相手も心を開いてくれないと知っている。だから敢えて私は自分の情報を小出しにして伝えるのだ。

    「旅行とかは行ってないですけど…(ライトな)オタ活のためにイオンモールへ行ってきました」

     どうだ!「オタ活」という言葉で私は自分がどういう感じの人間なのか伝えたぞ!最近はオタクという存在に変なイメージを持たなくなったというし、言っても差し支えないだろう。

    「オタ?オタ…ん?何?」

     途端に、ひぃと心が悲鳴を上げた。さっきまでの威勢は急速にしぼんでいく。

    「ちいかわが好きで。ポップアップショップがイオンモールで開かれていまして…興味があったので…あはは」

     一人で焦って相槌が駆け足になる。ここで笑っていいのか分からなかったけど、私は盾を構えるように笑ってしまった。ちいかわのポップアップショップに行ったのは嘘じゃないから、まあ、いいだろう。心の中で思い描く自分はあんなにスラスラ話しているのに現実は全く違う。

    「シール人気ですもんね」

     すると相手からシールの話題を振られた。

    (えっと…いきなりシールの話?)

     私は困惑しながらも、すぐに理解する。ちいかわと言えば「ちいかわのシール、人気だよね」こういう事に違いない。だから私は相槌を打った。

    「あぁ、シール!人気みたいですね。私、シールはちゃんと見て来なかったけど、ショップにもシールコーナーありましたし…」

     あ…。シールが人気という話なのに、「ちゃんと見なかった」なんて言わなければ良かった。なんでそんなことを言ったのか、自分よ。チクリと胸が痛む。

    「我が家でもシール、シール言っていますよ。シール集めに夢中でね。うーん、でもねぇ、シールねぇ」

     だんだん相手の歯切れが悪くなっているが、シール集めがなぜ人気なのか理解できないということか。うん、そういう人もいる。分かる。分かるぞ、うん、分かる…だけどこれに対して何と返したら良いのか分からない。私で会話を止めたくないし、えっと…こういう時、お話上手な人は何て言うんだろう?「シール集めたところでどうせ捨てますもんね!」ダメだ、こんなことは言えない。この人の家庭ではシール集めに熱中しているのに、相応しくない返事だ。じゃあ、ベストな返事は何だろう?相手を不快にさせなくて、相手が求めている返事は…あぁ、分からない。
     話をきちんと受けとめたと相手に伝わる返事を探し続けることに疲れて、途中で私は会話から逃げ出したくなる。会話の相手が私でなければ、この人はもっと楽しそうに話し、本音も吐露したんじゃなかろうか。なんだか、私がここにいるのが良くない気がする。自信がない私ではとても会話の相手になれない。一人で焦って相槌だけが駆け足になっていくし、話せば話すほど、もうここから出たいと思ってしまうのだ。
     この間、西洋占星術の本を見ながら、自分のホロスコープを読んでみた。(とても難しく、分かったことはほんの少しだけだった…)私が一番気になった星は土星だ。分かる範囲で読み解いてみたら、私の土星は魚座にいて、ハウスで見ると2ハウスにいた。それからアセンダントというのがある。アセンダントとは自分が産まれた時の東の地平線で、とても重要な意味を持つそうだ。私の場合はアセンダントは山羊座であった。この星座の守護星はホロスコープ全体を統括し、導くと考えられているらしい。山羊座の守護星は土星…となると私のホロスコープは土星に導かれているということになる。そしてこの土星、私の双子座の太陽と90度の角度をとっていた。90度は不調和と緊張の角度だ。自我である太陽が土星に引っ張られている、私はそう感じたのだ。
     面白いなと思ったので、ここで少し土星の説明を…土星は凶星、試練の星とも呼ばれ、制限、忍耐、努力を表し、人生における課題を突き付ける。こんなことができるといいなぁと、夢や理想が広がっていくところに、ちょっと待ってルールを決めよう、現実と向き合いなさいと、土星は厳しく詰め寄るのだ。土星の守護神はクロノス。(サートゥルヌス)彼は自分の父から王座を奪い、支配者となった。しかし自分が父を追いやったように、自分の子に王座を奪われるかもしれないと怯えたクロノスは生まれた子を次々と飲み込んでいったらしい。この神話を聞けば、土星はなんと恐ろしい星なのかと思ってしまう。

     少しだけではあるが、私は自分のホロスコープを読んだ時、腑に落ちた。そういうことか。私の生きづらさはここにあったのかもしれない。

     会話の途中で逃げ出したくなるのは相手が嫌いだからではない。話をしてくれた相手の気持ちに沿った言葉を返したい、相手を不快にさせたくない、楽しそうな雰囲気を壊したくない、話を止めたくない、そんなことを考え、考えまくっている。

    「これ言ったら変かも」
    「こんなこと言ったら怒られるかも」
    「違うと否定されるかな」

     相手の気持ちに沿った言葉を探し、たくさんの予測を立て、相手の反応を想像する——相手が満足する正しい返事は何か。正しく答えなきゃ、ミスはできない、相手の期待に応えなきゃ——するとだんだんと変な圧を感じて耐え難くなっていくのだ。その間に相手は私の反応や言葉を待っている。まるで、これから何が始まるのだろうと期待する大勢のお客が待つステージに無理やり立たされてしまったような気分だ。いつの間にか、私にとって会話とは自分が試され、評価される場のようになり、私は逃げたくて、逃げたくて堪らなくなるのだ。

     冒頭の会話は結局、私が良い返事を返せなくて有耶無耶に終わった。私がスムーズに答えられなかったせいで…なんて考えてしまう。あの人がシール人気の話で煮え切らない様子だったのは、なぜ人気なのか理解できないからだと私は考えた。でも本当にそうだったのか。もしかしたら、子どもがシールのことでトラブルに巻き込まれ、親として思うところがあったとか、トラブルじゃなくてもシールに夢中になりすぎていて心配とか…理由は様々ありそう。そこまで考えられていたなら、何か変わっていただろうか、相手の気持ちに沿った言葉を返すことができていただろうか——私はハッとして止まる。そこまで考えたとしても、きっとあの会話は止まっていたはずだ。なんで相手が言葉を濁したかなんて考えたって分かるはずがない。全ては私の想像であって、時に相手の気持ちがどこにあったのか探る方が野暮というものだ。
     あぁ、またやってしまった。
     私は自他との境界線が分からなくなることが多い。全て自分のせいだと考えがちである。あの人の機嫌が悪そうなのは、さっきの私の発言のせいかもしれないと、すぐに疑ってしまうのだ。会話がどこで終わりなのか分からない、この沈黙は何なのだろうか、私変なこと言ったのかもしれない…逡巡している内に緊張が体を駆け巡り動けなくなってしまう。もはや人が怖いと思う域にまで到達してしまいそう。
     こういった経験を積んできたからか、私は人を前にすると強い緊張感に襲われる。人前で何かを発表する場面だけじゃなく、職場の人との会話、レジでのやり取り、何気ない雑談、親戚との会話、日常生活のいろんな場面で私はいつも緊張を纏っている。いよいよ、私は自分のことを何らかの病気ではないかと感じる程で、いっそのこと「あなたは〇〇病です」と言われた方が楽なんじゃないかとさえ思うのだ。
     時々思うのは、私はここにいていいのだろうかという不安の混じった疑問だ。常に自信がなくて仕方がない。しつこい程のプレッシャーがそうさせているのかもしれないが、突如として感じる自分の存在否定の理由は自分でもなぜなのか分かっていない。前に「ねぇ、なんでそんなに自信がないのー?」とギャルっぽい雰囲気の人に軽く言われたことがある。うーんとしか言えず答えられなかったが、もし緊張の呪いが解けるのならば「自分でも分からんのだよ!」と盛大に言い放ってみたい。
     さて、これを読んでいる人は「うわぁ、この人すごくめんどうくさそう」と思うだろう。うん、私自身もそう思う。(開き直り)人を前にしても自然体で話せる自分であったなら…と何度も願う。そんな自分を目指して、次は声を出すようにしようだとか、落ち着いて深呼吸をしてから話そうだとか、様々な対策を考えるが、私は自分をコントロールできたことがない。こうありたいと自分の意思で進むが、なぜか重すぎる荷物を常に背負っているようで葛藤している——まさに自分である太陽と制限をかける土星が葛藤の角度、90度になっていることを感じさせられているようだ。
     魚座は共感能力が高く寛容であるが、境界線をぼやかす性質がある。そこに土星があるということは物事をぼんやりさせるなと厳しく問いかけているということか。相手が望む返事を正しく答えなければいけない、どこで会話が終わりなのか分からないと思ってしまう自分は土星の影響を思いっ切り受けているのかもしれない。たまには日々を頑張る私に少しは休憩をくれないものだろうか…と土星に訴えたくなる。この調子だと土星はこれからも私の人生をややこしくするために付きまとってきそうである。まるで私の人生は土星と共にあるみたいだ。考えると気が遠くなりそうだが、逃げてもきっと土星は問いかけてくるだろう。それならばとことん向き合ってみるしかない。手始めに自分が感じる苦しみを口では吐き出せないので記すのだ。

     冒頭の会話、私が「ちいかわ」と言うと相手は「シール」と言ってきた。私は一言も「ちいかわのシールを目的にイオンモールへ行って来た」とは言っていない。相手は「ちいかわ」と聞いて、「ちいかわのシール」だと勝手に思い込んだのだ。会話は合っているようで、実は合っていなかったということになる。
     ほら、文字に起こして考えてみれば自分だけが背負う必要なんてどこにもなかったのである。

     
     
    はじめまして! こいそべと言います。日記と創作小説を投稿しています。どうぞよろしくお願いします( ¨̮ ) 鯉子の日記、を不定期で更新中。読む順番は特になし。気になったタイトル、目に留まった記事ありましたらどうぞ( ¨̮ )❁︎創作 天使の話、ゆっくり執筆中です。

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