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倜のクゞラは誰に歌う14歳だったころの話 完党版

    井䞊 14歳 図曞委員 成瞟優秀の優等生
    芪も厳しく、い぀も控えめ。

    浅井 14歳 図曞委員 成瞟はなぜか䞊䜍
    い぀も自由奔攟、芪もうるさくない。

    埌藀 30歳 非垞勀講垫 叞曞
    井䞊や浅井の話し盞手。おだやか


    倧人になれば忘れるず思っおいた。

    僕たちの心の奥に沈めたものを、たるで探すように  


    攟課埌。

    陜の光が窓ガラスに反射しお、教宀を朱色に染める。

    郚掻に行くクラスメむトを暪目に、遠ざかっおいく賑やかな足音を、ただ聞いおいた。

    揃えたノヌトを、静かにカバンぞ滑らせる。
    僕ず浅井は、移動の準備を始める。

    二人ずも図曞委員だからだ。

    図曞宀は校舎の䞀番奥にある。

    攟課埌になるず、そこたで行く生埒はほずんどいない。

    誰もやりたがらない。

    図曞委員なんお、そんなものだ。

    たぁ、いいや。

    掚薊された。

    断れなかった。

    それだけ。


    浅井は隣で猫の様に䌞びをしながら、あくびをしおいる。

      少し矚たしい。

    準備を終えたカバンを机に眮き、浅井に芖線を送る。

    気づいた浅井が、怅子の脚を小さく鳎らしお立ち䞊がった。

    「行こうぜヌ」

    䞭身の詰たった重いカバンを、浅井は無造䜜に肩ぞかける。

    気楜そうだ。

    浅井は、䜕でも簡単に決める。

    図曞委員だっおそうだった。

    「誰もやんないなら俺やる」

    本圓に、それだけだったらしい。

    僕にそんなこずが出来るだろうか

    呚囲の芖線や断った時の空気を、瞬間的に感じおしたうのに。

    浅井らしい、ず思った。


    話 井䞊



    英単語、数孊、図曞委員が終われば、䞉十分遅くなるかな。

    はヌ  もっず時間がほしい。

    図曞委員なんお、断ればよかった  

      でも、違う返事をしおいたらどうなっおいただろう。


    図曞通ぞず続く長い廊䞋を進む。

    それぞれの郚掻のナニフォヌムを着たり、゚ナメルバッグを提げたりしおいる。

    カバンが、すれ違う生埒ずぶ぀かりそうになる。

    掻気にあふれた、笑い声が飛び亀う姿が通り過ぎる。

    どこかの教宀から、䜎く響くチュヌバず、ぎこちないサックスの音が聞こえおくる。

    吹奏楜郚が基瀎緎習を始めおいるみたいだ。

    肩に食い蟌むい぀ものカバンが、劙に重い。

    詰め蟌んだ参考曞のせいなのか、図曞委員ずいう圹目のせいなのか。

    それずも、もっず別の、もののせいなのか分からない。

    浅井はい぀も少し遅れお぀いおくる。

    い぀の間にか浅井の足音が遠くなっおいる。

    振り返っおみるず、浅井は寝癖がただ治っおない。

    「腹枛ったよヌヌ、垰りにファミマ行こヌぜ」

    勝手なこずばかり蚀っおいる。

    「はヌヌ  」ため息がでる。

    吐き出したため息は、冷え始めた廊䞋の空気に溶けお消えた。


    扉を開けるず、埌藀先生がいた。

    「し぀れいしたす」

    「先生ヌおいっす」

    「やあ。二人ずも元気だね」

    埌藀先生が声をかけおくれる。

    「本は片付けおおいたから、ゆっくりしおおいいよ」

    「ありがずうございたす」

    「先生、さすが」

    これで、宿題を終わらせる時間が出来た。

    い぀もの窓際の垭に座り、カバンを隣に眮く。

    重いファスナヌを開け、ノヌトず教科曞を広げお宿題をはじめる。

    浅井は頬杖を぀きながら、グラりンドを眺めおいる。

    時折り䜕かに反応したかず思うず、すぐあくびをする。

    「宿題っお、めんどくさいよなヌ」

    「誰か代わりにやっおくれねヌかな」

    無芖しよう。僕はシャヌプペンの芯を小さくノックした。

    そのうち浅井は、怅子を匕いお立ち䞊がり、図曞宀を芋お回った。

    本を芋おいるようで、そうでないような気がした。

    そのうち飜きたのか、埌藀先生の読んでいる本をのぞき蟌んでいるようだ。

    「先生、その本なに」

    埌藀先生はゆっくりず、芖線を浅井に向けた。

    「んクゞラの本だよ」

    「クゞラ」

    「そう」

    ペンの動きを止め、埌藀先生をみた。

    「面癜いんですか」ふっず聞いおみた。

    「面癜いよ」

    「どこが」

    「遠くたで声が届くずころかな」

    「クゞラはね、海の底で歌を歌うんだよ」

    「歌  ですか」

    「ぞヌ  」

    「読んでみるかい」

    「んヌ、いい  先生、勉匷っおたのしい」

    「浅井は」

    「んヌ」

    「井䞊は勉匷たのしいの」

    いきなり振られた、い぀もこうだ。

    浅井は郜合のわるいこずは、い぀も振っおくる。

    「楜しい時もありたす  」

    「俺も楜しいずきもありたヌす」

    合わせんなよ、調子のいい奎だな。

    「そうか」

    埌藀先生が、めくっおいたペヌゞの手を止める。

    「先生は䜕で、図曞  」

    「叞曞」

    小声でいう。

    「叞曞になったの」

    埌藀先生は答えず、僕たちの顔を亀互に芋぀めおきた。

    「井䞊はなんで、図曞委員になった」

    うわっ振られた  なんで

    「掚薊されたからです」

    「別に嫌じゃなかったですし  」

    本圓は違う  

    嫌じゃなかったわけじゃない。

    断れなかっただけだ  

    「それっお、自分で決めたこずになるの」

    「  」

    理由はある。

    でも、それを理由ず呌んでいいのか分からない。

    「じゃあ、浅井はなんで委員になったんだよ」

    「んヌなんずなく」

    「楜そうだったし」

    やっぱり浅井はそう蚀う。

    「二人は自分で決めたの」

    埌藀先生の静かな声が、図曞宀に響く。

    「俺は自分で決めたした」

    「僕も自分で決めたした  」

    蚀った瞬間、自分で嘘だず分かった。

    でも、蚀葉にしおしたった  

    「井䞊は、決めおないじゃん」

    浅井の芖線が、僕のノヌトに萜ちる。

    「掚薊で抌されただけじゃん」

    その䞀蚀だけは、聞きたくなかった  

    「  」

    「じゃあ、自分で決めるっおなんだよ」

    「うヌん  気分」

    「気分だけじゃ決めらるわけないだろ」

    ペンを持぀手がふるえた。

    胞の奥で、䜕かに締め付けられるようだ。

    「じゃあ、井䞊はなにで決めおんだよ」

    「   」

    蚀葉が出ない。

    頭では分かっおいるのに、口たで届かない。

    「浅井は  」

    「ん」

    「断ればよかったじゃん、っお簡単に蚀うけど」

    声が裏返りそうになるのを、必死で抑える。

    「理由がなきゃ、断れない  」

    「やりたくないから、なんお理由にならないだろ」

    ペンをノヌトに叩き぀けた。

    パチン、ず也いた高い音だけが図曞宀に響き、ペンが床ぞず転がっおいく。

    家に垰れば勉匷、遊ぶ時間もかぎられる。

    「理由なんお、いらないじゃん」

    誰も喋らない。

    窓の倖で野球郚の声だけが聞こえる。

    「結局さ」

    「やりたかったんじゃなくお、断れなかっただけじゃん」

    「そうじゃない  」

    違う。

    そう蚀いたいのに、自分でも䜕が違うのか分からない。

    お前なんかに  䜕が  

    ずっさに声が出た。

    「浅井みたいに  」

    「䜕も考えおないわけじゃないよ」

    うわっ  蚀いすぎた。でも、ずたらない  

    膝が震える。力がはいらない。

    どうしお良いのか分からない  

    「考えおるよ、俺だっお  」

    い぀もず声が違う  䜎く、掠れおいる。

    「でも理由なんか分かんねヌよ」

    「そうしたいから、そうしおるだけだろ」

    「䜕が悪いんだよ」

    「  」

    「浅井はいいよね  」

    「自分が奜きでいられお」

    口にした瞬間、自分が猛烈に嫌になる。

    そんな自分に腹がた぀。

    浅井の蚀う通りだ  

    自分で決めたなんお、倧嘘だ  

    ただ、呚りが怖かっただけ  

    「奜きなわけないじゃん」

    「じゃあなんで」

    「   」

    「わかんねヌよ」

    浅井が声を荒げた。

    「でもさ、これでいいっお思わなきゃ、やっおらんないじゃん」

    浅井の肩が、埮かに震えおいる。

    「井䞊はいいよなぁ、理由があるんだからさ」

    「その理由のせいにできるじゃん」

    浅井ず目があった。その瞬間、浅井は目を䌏せた。

    衚情が曇るのがわかった。

    それは、投げやりずいうより、諊めたようにも感じた。

    浅井は乱暎にカバンを匕ったくり肩に掛け、背を向けた。

    ガタタ、ず怅子が鳎り、図曞宀の匕き戞が倧きな音を立おお閉たる。

    動けなかった。喉がカラカラに也いおいた

    理由のせいにできるじゃん

    その蚀葉が、自分のこれたでの努力。

    ぜんぶ吊定されたような気がした。

    埌藀先生は䜕も蚀っおくれない。

    埌藀のペヌゞをめくる音だけが、静かに響いおいた。


    「今日はもう垰っおいいよ」

    埌藀先生が静かに蚀う。

    僕は小さくうなずく。

    蚀葉をうたく返せなかった  

    宿題は垰っおからやろう  

    床に萜ちたペンを拟い、ノヌトをカバンに詰める。

    重い匕き戞を開けお廊䞋に出るず、倖はもうすっかり薄暗くなっおいた。

    パチパチず音を立おお蛍光灯が灯り、誰もいない廊䞋を等間隔に照らし出す。

    向こうから、誰かが近づいおくる足音が聞こえた。

    浅井だった。

    垰ったず思っおたのに  

    心臓が跳ね、手にじっずりず汗がにじむ。

    「  垰っおなかったの」

    「トむレだよ  」

    「  」

    䜕を蚀えばいいのか分からない。

    さっきたで蚀葉は止たらなかったのに、

    今は䞀蚀も出おこない。胞が苊しい。

    「垰るか」

    「うん  」

    小さくうなずく。

    「ファミマ行く」

    「うん  少しだけ」

    䞊んで歩くのは、ひさしぶりだ。

    「さっきさ  むか぀いた」

    浅井がぜ぀りず蚀った。

    「井䞊じゃない、自分に」

    「  」

    「僕も、あんなこず蚀う぀もりじゃなかった  」

    「  」

    「  」

    浅井はカバンの玐を片手で握り盎し、小さく錻を鳎らした。

    沈黙の間、ファミマの自動ドアが開く音がした。

    「たっいいか腹枛ったし」

    袋を提げた浅井が、い぀ものように笑った。

    ぀られお僕も少しだけ笑う。

    さっきたで鉛のように重かった足が、少しだけ軜くなった気がした。


    攟課埌のこずは、家では話さなかった。

    「ただいた」

    リビングぞそのたた向かう。

    「おかえり。遅かったのね、テスト返っおきた」

    キッチンから母の声がする。

    カバンから答案を出す。

    九十四点。

    赀ペンで曞かれた数字を、母は芖線だけで小さくうなずくように芋぀めた。

    「あず六点だったわね」

    「  うん」

    「次は頑匵りなさい。お父さんには、埌でメヌルしおおくわ」

    ペラリ、ず頌りない音を立おお、答案甚玙が食卓の端ぞ眮かれた。

    「図曞委員はどう」

    「普通  」

    「せっかく掚薊されたんだから、期埅に応えなさい」

    「あなたは、責任感がある子なんだから」

    「はい  」

    それだけだった。

    今日、図曞宀で䜕を話したか。

    浅井ずケンカしたこず。

    「理由がなきゃ断れない」ず叫んだこず。

    䜕䞀぀、この郚屋の空気からは蚀えなかった。

    父が海倖ぞ単身赎任しおから、この家は少し倉わった。

    「ご飯が出来たら、呌ぶわ」

    「それたでに、宿題をやりなさい」

    やわらかく、逃げ道のない冷たい蚀葉が苊しかった。

    「はい  」

    その返事だけは、幎々䞊手くなっおいった。

    郚屋に戻る。

    机の䞊には、今日の宿題。

    英単語、数孊、問題集を開き、シャヌプペンを握る。

    でも、頭の䞭では、

    単語や数匏を解いおも、䜕䞀぀頭に入らない。

    「理由のせいにできるじゃん。」

    図曞宀で聞いた浅井の声だけが、䜕床も響いおいた。


    話 浅井


    この前のテストを返すぞヌ。

    䞊䜍者を発衚する、各自取りに来るように。

    「浅井、九四点。」

    「井䞊、  」

    クラスがざわ぀く。

    䞀斉に芖線が集たるのが分かった。

    「マゞかよヌ」

    クラスメむトが俺の垭を小突く。

    「お前、勉匷しおないっお蚀っおたじゃん。」

    「しおねヌよ」

    どっず笑いが起きる。

    「井䞊も九四点じゃん」

    「うん  」

    「難しかったよなぁ」

    「  」

    「浅井の蚀い方、なんかむか぀く」

    「なんでだよ」

    二人で笑う。

    昌䌑み。

    「浅井、ご飯食べないの」

    井䞊が声を掛ける。

    「あヌ俺、今日、お金無いんだわ」

    「なんで」

    「うちの父さん、昌飯代、甚意するの忘れおさ  」

    「そうなんだ  よかったら食べおよ」

    菓子パンを差し出しおくる。

    「いいよ  腹枛るだろ」

    「いいから、食べなっお」

    机の䞊に菓子パンが眮かれる。

    「ありがずな」

    「『菓子かし』だよ」

    「  ぀たんねヌよ」

    二人で笑う。

    攟課埌。

    「九四点か  」

    「これだけ家に持っお垰るか  」

    鞄の䞭で、折れ曲がった答案甚玙を芋぀める。

    家に぀き、鍵を開け靎を揃える。

    「ただいたヌ」

    返事は無い。

    スマホのラむト機胜を䜿い、暗い玄関を照らす。

    リビングは真っ暗だった。

    壁のスむッチを抌しお電気を぀けるず、ラップをしたカレヌが、ぜ぀んずテヌブルに眮かれおいる。

    その隣に、メモず、千円札。
    千円は明日の昌食代だ。

    メモには、䞍噚甚な字で、今日も遅くなる。

    䞀蚀だけ曞いおあった。
    い぀もの事だ。

    「りょヌかい」

    誰もいない郚屋で、小さく蚀う。

    昌飯代のこずは、たぶん本圓に忘れたんだろう。

    「た、いっか」

    代わりに、九四点のテストをテヌブルにおく。
    これが、俺たちの挚拶の代わりだ。

    電子レンゞの重い無機質な音がリビングにひびく。

    カレヌを、スプヌンでひず口すくい、口に運ぶ。
    ぀けたたたのの音が、誰もいないリビングに虚しくこだたする。

    画面の䞭で盛り䞊がっおいるお笑い番組の声も、どこか遠い䞖界の出来事のように感じる。 

    あたり味がしなかった  

    食べた皿をシンクで掗う。

    「なんか飲むか  」

    濡れた手から、マグカップが滑り萜ちた。

    パキン、ず也いた高い音ず共にカップが床で匟けお割れる。

    「あヌヌ  やっちたった」

    「  お気に入りだったのに」

    玄関のドアが開く音がした。

    ただいた、ずいう父の掠れた声が聞こえる。

    キッチンぞやっおきた父が、床を芋お目を芋開いた。

    「怪我はないか」

    「倧䞈倫だよ。心配すんなっお」

    「そうか  ならいいが」

    人でしゃがみ蟌み、黙々ず砎片を拟っおゎミ袋に入れお捚おる。

    「飯は食ったか」

    「食べた  」

    「父さん  」

    「んヌヌ」

    「俺  高校  」

    䞀息眮いお、俺は蚀葉を続けた。

    「決めなきゃいけないんだけどさ」

    父さんは、ネクタむをゆるめながら時蚈を芋た。

    短い針はもう遅い時間を指しおいる。

    スヌツを脱ぎながら

    「今日は本圓にき぀かった」

    「あぁ  すたん」

    「明日も早い、先に䌑たせおもらう」

    「䌑みの日に、ゆっくり話そう」

    「  わかった  おやすみ」

    「おやすみ」

    郚屋に戻り、ゲヌム機の電源を入れる。

    賑やかな効果音が郚屋に響く。

    机の䞊の宿題を開く。

    ペンを走らせるず、䞉十分で終わっおしたった。

    時間だけが、足早にただ過ぎおいく。

    ベッドに転がり、スマホを閉じ、癜い倩井をみる。

    郚屋の空気は䜕も倉わらない。

    「぀たんね」


    翌日

    「おはよ」

    井䞊が声をかけおくれた。

    「ういっす」

    い぀もの垭にカバンを眮きながら、あくびをする。

    「井䞊、おたえ朝぀えヌよな」

    「なんで」

    「俺くるず、い぀もいるじゃん」

    「予習しないずね」

    ほんず、真面目だよなヌヌ

    勉匷っお、そんなにおもしろいもんか

    井䞊は迷わない。

    毎日やるこずが決たっおいる。

      いいよな。

    頬杖぀きながら、教科曞に向かう井䞊をがヌっずみる。

    「なに」

    井䞊が怪蚝そうにこちらを芋た。

    「朝から、よくやるな―っお思っおさ」

    井䞊はすぐに手元のノヌトに芖線を萜ずす。

    うわ、無芖かよ  


    「来幎からは、受隓に入る」

    「ただ曞いおないや぀は、今週䞭には必ず提出するように」

    担任の声が、朝の隒がしい教宀にひびく。

    配られた志望校ぞの進路衚の玙をみる。

    少しざらざらずしおいお、萜ち着かない。

    「井䞊は、もう高校きたっおんの」

    「うん  たぶん」

    「浅井は」

    「んヌヌ  ただヌヌ」

    「そっか  」

    「行きたい高校あるの」

    「ない」

    「そっか  」

    昌䌑み、担任によばれた。

    「浅井、䞉者面談、芪埡さんはこれそうか」

    「わかりたせん」

    「調敎はしおみるが、䞀床、盞談しおおいおくれ」

    「はヌヌい」

    気の抜けた返事をしお、職員宀を出る。

    ――『進路、困ったら盞談しろよ』

    い぀か、珍しく早く垰っおきた日があった。

    父さんがそう蚀っおいたのを思い出す。

    でも、䜕を盞談すればいいのかすら分からない 

    どうしたいんだよ、俺は。

    䞀人で、静たり返った枡り廊䞋を歩く。

    窓の倖には、ただ広いだけの、秋の青空が広がっおいた。

    『浅井はいいよね  自分が奜きでいられお』

    図曞宀で、井䞊は拳を握りしめお怒っおいた。

    俺の足元を、颚が冷たく通り過ぎおいく。

    「奜きなわけねヌじゃん  」

    小さく笑った。

    その笑い声は、誰もいない枡り廊䞋に吞い蟌たれおいった。


    第郚 埌藀


    終業のチャむムが鳎る。
    陜が沈みかけ、少しず぀郚屋の枩もりが消えおいくように感じた。

    倕闇が忍び寄るに぀れお、本棚の本たちがそれぞれの圱を長く䌞ばしおいく。

    もうそんな時間か  

    本を片付ける手を止め、時蚈に目を合わせる。

    静たり返った宀内で、秒針の刻む音だけが、やけに倧きく響いおいた。

    旧刊の入った段ボヌルを、バックダヌドに片付ける。

    叞曞である私は、この孊校の非垞勀をしおいる。

    ここに来お、もう半幎になる。

    そこたで倧きくない図曞宀だ。
    番奥にあるからか、あたり人が来ない。

    カヌテンを閉め、スむッチを入れるず、
    宀内を明るく照らし、昌間ずは別の雰囲気をかもしだしおいく。

    癜い蛍光灯の光が、冷えかかった朚の机を無機質に照らした。

    さっきたで湯気を垯びおいた液䜓が、也いた喉に苊く萜ちおいく。

    コヌヒヌをひず口飲み、本を開く。

    読み始める前に、時蚈を芋る。

    もうすぐ、あの二人が来る。

    二人は正反察だ。

    でも、䞍思議ずよく䌌おいる。

    自分が決しお持おない光ず圱を、芋぀めおいるのだろう。

    今日は、どんな話をするのだろう。

    あどけなさが残る足音が聞こえる。

    たるで、迷いながら進んでくる響きを持っおいた。

    扉がゆっくりず開き、二人がはいっおくる。

    「し぀れいしたす」

    「先生、元気か」

    「やぁ、人ずも、今日も元気そうだね」

    カバンを机の䞊に眮き、窓際の垭に察角線䞊にすわる。

    お互いに少しだけ距離を眮くその絶劙な䜍眮取りに、14歳特有の繊现な距離感が透けお芋えた。

    本をずじお、ゆっくりず二人に目を合わせる。

    私はただ、静かに埅぀。

    「あの  先生」

    「なんだい」

    「先生は、埌悔したこずありたすか」

    井䞊からは、はじめおの質問だった。

    たっすぐ向けられたその瞳は、たるで救いを求めるように 

      あるいは倧人の嘘を暎くように、小さく揺れおいる。

    「あるよ、䜕床も」

    浅井もたた、井䞊に向けられおいた芖線を、私に向けた。

    曖昧な返事に、二人の芖線を感じる。

    「どんなこずを、埌悔したんですか」

    「忘れられないこずかな」

    胞の奥に、か぀おの苊い蚘憶が、かすかな柱おりのように沈んでいく。

    浅井は頬杖を぀きながら、きいおいる。

    「具䜓的には  どういう  」

    「昔ね  」

    「盞談を受けたこずがあったんだ」

    「その子が欲しかった蚀葉を、私は蚀えなかった」

    「それだけだよ」

    それを隠すように、ふっず埮笑んで芋せる。

    「  」

    浅井が手をあげる。

    「はい」

    「先生っお、䜕でも知っおそうだよね」

    「そうみえるかい」

    「い぀も萜ち着いおるしさ」

    「俺ずは逆だもん」

    「知らないこずのほうが倚いよ」

    「そうなの」

    「先生でも」

    「そうだよ」

    浅井の真っ盎ぐな瞳が、私の蚀葉を远いかける。

    「先生っお  い぀も本読んでたすよね」

    「なんでですか」

    「本が奜きだからだよ」

    「それだけですか  」

    「そうだね」

    本は奜きだ、それだけは、昔から倉わらない。

    机の䞊で手をくむ。

    「二人ずも、クゞラの話は芚えおる」

    「なんか歌を歌うっおや぀」

    「歌の話」

    「海の底で歌っおいるのに、遠くたで届くらしいよ」

    浅井はゆっくりずのびをしながら。

    「先生はどうやっお、高校決めたの」

    人の芖線が向けられる。

    「なんずなく、かな」

    「友達も行くっお蚀っおたしね」

    コヌヒヌを飲みかけたがやめた。

    冷めきったカップの底を芋぀める。

    「それだけ」

    「それだけだよ」

    「先生も俺たちず䞀緒じゃん」

    「そうなんですか」

    「そうだね」

    「井䞊、あんた無理すんなよ」

    「浅井は適圓すぎるんだよ」

    「ちゃんず決めなきゃ」

    「わかったよヌヌ」

    䞍噚甚な、けれど圌らなりの蚀葉のやり取り。

    䞋校のチャむムが鳎る。

    それは倕暮れの終わりの合図であり、冷たい倜の埌の始たりを告げる音だ。

    「二人ずも今日はよく喋ったね」

    二人からの返事は無い。

    ただ静かに笑うだけだった。

    蚀葉にできない䜕かを分かち合ったような、柔らかな沈黙が流れる。

    「忘れ物がないようにね」

    「し぀れいしたす」

    「先生、たたねヌヌ」

    「気を付けお」

    圌らを芋送り、鍵をかける。

    静たり返った校内に、冷たい倜の気配が満ちおいく。

    廊䞋の先から、二人の笑い声が聞こえた気がした。

    埌藀は少しだけ笑った。

    机の䞊には、開いたたたのクゞラの本。


    倜のクゞラは誰に歌う


    「ただいた」

    玄関のドアを開け、廊䞋からリビングにいる母に声を掛ける。

    「おかえりなさい。今日は早いのね」

    母はキッチンから振り返りながら、手元のタオルでゆっくりず拭いた。

    「うん  テスト勉匷しに行っただけだから  」

    「そう  」

    い぀もなら「早く宿題をしなさい」ず返っおくるはずの堎所に、静かな空癜だけが広がる。

    「今日ね、お父さんからメヌルが来おたわ」

    母の声は、い぀もより少し小さかった。

    「お父さんに怒られちゃった  」

    そう蚀っお、母は困ったように、う぀むく。

    「ちゃんず耒めおやったのか」

    「あの子の䜕を芋おるんだ。ずか ね」

    「  」

    「ごめんね  」

    小さくなった母の肩を芋お、胞の奥がぎゅっず締め付けられる。

    「違うよ、お母さん」

    ずっさに声が出おいた。

    「僕もごめん  期埅に応えられなかった  」

    僕の本圓の気持ちだった。

    「あなたは、本圓に責任感の匷い子ね  」

    母がそっず僕の手を包んだ。

    その手は、昔ず倉わらず枩かかった。


    土曜日のホヌムセンタヌ。

    也いた冬の颚が吹き抜ける店内を、父ず二人で歩く。

    「これなんかどうだ」

    父が無骚で、倧きめのステンレスカップを手に取っお枡しおくる。

    「それ、父さんの趣味だろ」

    「そんなこずは無い」

    「これから寒くなる。保枩も効いお、良いだろ」

    仕事䞭の険しい顔ずは違う、子䟛のように無邪気な衚情で勧めおくるのが可笑しかった。

    「じゃあこれにする」

    「そうか。じゃあ、぀買おう」

    「どっちのか分かんなくなるだろ」

    「そうか  そうだな」

    少し照れくさそうに頭をかく父の姿を、新鮮な気持ちで芋぀めおいた。

    重くなった買い物袋を提げお、マグカップを二個、家に持ち垰る。

    テヌブルを挟んで、新しいカップに淹れた枩かい飲み物を眮き、二人で座った。

    「高校は決めたのか」

    䞍意に、父がカップを芋぀めたたた蚊ねおきた。

    「ただ  」

    「  」

    時蚈の秒針だけが、やけに耳に流れおくる。テレビの音もない。

    「奜きにしろずは蚀わん」

    「ただ、友達は倧切にしおほしい」

    ゆっくりず蚀葉を遞ぶように、父は続けた。

    「喧嘩しおも良い、考え方も違っおも良い」

    「これから、長い人生だ」

    「少しでも倧事な物を芋぀けおほしい」

    「  」

    お気に入りのカップが割れた、あの倜。

    あの時は聞けなかった蚀葉だった。

    「なんだよそれ、完党にオダゞじゃん」

    照れ隠しにそう蚀うず、父さんは少し驚いたあず、嬉しそうに目元を和らげた。

    リビングに、二人の静かな笑い声が溶けおいく。



    昌䌑み

    「井䞊、俺、高校決めたぜ」

    「えっどこ」

    「お前ず同じんずこ」

    「なんでだよ」

    「ちゃんず、遞ばないず」

    「遞んだじゃん」

    「そういう意味じゃなくお」

    「だっおさ」

    「高校いったら䜕か倉わるかもしれねヌじゃん」

    「な」

    「  倉わるかな」

    「倉わるっお」

    浅井が笑う。

    「  そうかも」


    「お母さん」

    「なぁに」

    「高校決めた  よ  」

    「そう  どこぞ行くの」

    「友達ず䞀緒のずころぞ行きたい」

    「そう  がんばっおね」

    「うん」


    「今日は䞀緒にマグカップを買いに行こう」

    「いいよ今床で」

    「お前ず話したいんだ  」

    「わかったよ、䞀緒に行こう」



     
     
    ファンタゞヌ、青春、ヒュヌマンドラマを曞いおいたす。 人が誰かず出䌚い、䟡倀芳を揺らし、少しず぀倉わっおいく物語が奜きです。 くすっず笑えるラブコメから少し切ない矀像劇たで、読み終えたあずに小さな䜙韻が残る䜜品を目指しおいたす。

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