感謝された男の末路
どうも。
かつてバスケ部に所属し、
『いつかはダンクを』
と夢見ていたKONGです。
しかし40歳となった今、
リングは高く、膝は痛く、重力も昔より確実に強い。
夢は…
"ひらり"と舞い散る桜のように、優しく地面に着地した。
そう。
完全に終わったはずだった…。
数日前までは…。
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遡ること数日前。
その日のKONGには重大な任務があった。
ミッション:ハガキをポストに入れる。
……以上。
難易度はE。
いや、もはや難易度という概念すら必要ない。
歯を磨くとか、靴を履くとか、そのレベルの話である。
このハガキはというと、
先日KONGは、目に見えない電波の精霊と新たな契約を交わした。
精霊は快適さをもたらす代わりに、月々の供物(料金)を要求する。
その契約書を返送するため、ハガキを投函する必要があったのだ。
どうせなら、ついでに『送ろう』と思ってずっと放置していた私用のハガキも1枚。
合計2枚。
一つの行動で2つのミッションがクリア出来る案件。
完璧。
非の打ち所がない。
こうしてKONGは家を出た。
ポストという名のゴールリングへ向かって。
数分歩いていると、
ふと、父親から"免許証のコピーを送ってくれ"と頼まれていた事を思い出す。
(ついでにやっとくか。)
出た。
"ついでにやっとくか"という最凶の罠。
KONGの7割はこれで失敗する。
だがKONGは迷わない。
むしろあの時は、『今日の俺は冴えている』とさえ思っていた。
なぜならコンビニがそこにあるから。
寄れるから。
それが運命。
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コンビニに入ると、コピー機の前に一人の婦人がいた。
彼女は明らかに困っており、パネルを見つめ、少し焦り、そして…KONGと目が合う。
「これ……データ、消えてますよね?」
高度文明の産物、スマホ連携コピー。
KONGは一瞬だけ『俺でいいのか?』という顔をしたが、次の瞬間には頷いていた。
男には、引けない時がある。
『瓶の蓋を"開けて"と言われた時』
『コピー機の操作を聞かれた時』
結果——
データは消えていた。
むしろ、何もしていない。
軽くのぞいただけ。
だが、KONGは七福神の一柱のような穏やかな笑みで伝える。
「消えてますね。大丈夫ですよ」
その一言で彼女は救われたに違いない。(多分)
そしてKONGは自分のコピーを開始し"ウィ〜ン"と用紙が顔を出した時、先ほどの婦人は買い物の去り際に小声で言った。
「ありがとうございました」
KONGは軽く振り返る。

「あ、いえいえ」
……この一瞬である。
この"ちょっといい人になった俺"の余韻。
これが全てを狂わせた。
KONGは颯爽と店を出て数歩く。
そして覚醒。
「……げぇ」
免許証がコピー機に置き去り。
完全に忘却。
感謝されるとIQが3になる。
小走りで帰還。
コピー機前には別のプレイヤーがスタンバイしていた。
「すみません。忘れ物してました。」
華麗なカットイン。
免許証回収成功。
そのままカバンにサッと入れる。
スマートなリカバリー。
この時点で普通の人間なら、
"今日は危ない日だな"と気付くだろう。
だがKONGは違う。
"やはり今日の俺は冴えている"とミッション継続。
再びポストへ。
あと数メートルでミッションの完遂。
すると。
ポストの手前に、三つの影。

夫婦と子犬が、のんびり歩いている。
ふと違和感。
遅い。
丸い。
低い。
(ん?)
ちょうどKONGのゴール地点(ポスト)で三つの影が止まった。
ほぼ同時にKONGもポストに到着。
足元を見る。
……。
……ふぇ?!
小豚さんだった。
(いや待て待て待て)
頭の中でツッコミが三連発で炸裂する。
この街では小豚が散歩していたのか。
そんなコトより
……。
『可愛い…』
KONGの脳は一瞬で支配された。
完全に集中力は切れた。
その状態でもKONGは行動する。
カバンに手を入れ、ハガキを取り出す。
確認?
するわけがない。
なぜならKONGは今、
子豚さんに夢中だったのだ。

そして
ポストへ。
ガシャン!!
数秒後。
KONGの脳内に緊急アラート。
「……待て」
カバンチェック。
財布。
スマホ。
……終了。
「……いやいやいやいや」
もう一度チェック。
ない。
ない。
ない。
「まさか…」
だが…指先での感覚は確かにハガキだけだった。
もし偶然にもカバンに投げ入れた免許証がハガキに挟まれていたら……。
自分の免許証を…
ポストに…。
ダンク!!!!
ポストを見つめる。
無言。
ただの鉄の箱。
赤くなりやがって。
照れてるのか?
しかし今のKONGにはこう見える。
人工的に作られたブラックホール。
すぐさま回収時刻確認するが、
本日分:終了。
終わってるのは俺の方だ。
厄介なのは万が一落とした"かもしれない"。
という点だ。
KONGは、歩いた道を逆走。
キョロキョロ。
「落ちてるかもしれない」
ない。
「いや、あるかもしれない」
ない。
「いや、ワンチャン…」
KONGが見たのはワンチャンではなくブタさん。
完全敗北。
本日のスコア。
免許証、ポストダンク成功。
しかもノールック。
観客ゼロ。
リプレイ不可。
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その夜。
KONGはベッドの上で天井を見つめる。
「落としたかもしれない」
「いや、ポストの中かもしれない」
「でももしかしたら…」
"かもしれない地獄"開幕。
無限ループ。
思考が止まらない。
眠れない。
完全にボス戦。
厄年のKONGに新たなスローガンが更新される。
「"ついでにやる"は、やるな」
「可愛い動物を見ながら作業をするな」
「感謝された直後の自分を信用するな」
翌朝。
無課金の追加ミッション
"免許証奪還作戦"が幕をあけるのであった。
それでは!
また!
あとがき
郵便局員様。
大変お世話になりました。
