これがノロナオキだ〜覚醒編〜
中国へ無事に降り立ったその日から、KONGは誰よりも快適な旅をするつもりだった。
前回の教訓を踏まえ、今回の準備は万端。
通信も完璧。
財布も完璧。
気合いも完璧。
――のはずだった。
人間というのは、ほんの少し慣れてくると急に冒険者になるものである。
日に日にテンションが上がっていく者、今回ひときわ輝いていたのはノロナオキである。
この滞在期間の数日で、彼はアプリを駆使し、ついに1人でタクシーを呼べるようになったのだ。
『もう世界は俺のもの。』
そんな自信に満ち溢れていたノロナオキ。
ライブが終わった帰り、KONG、カワコウ、ノロの3人は、彼の自信満々な宣言とともに移動の段取りを任せた。
遠くにタクシーが見えた瞬間、
ノロは探偵のように目を細め、
「アレだ。」
ノロは鋭い目つきで指をさす。
完全に刑事ドラマの最終回で見せる"真犯人指差し"である。

そして近づいてきたタクシーに向かいながら、
「KONGさん、中国語で4.5.2.2って何て言うんですか?」
「スゥー、ウゥー、リュー?、アル、かな。」
KONGが教えた途端、ノロは“我、中国語マスター也”という顔で歩き出した。
運転手に近づくなり、
中国語(らしきもの)をキレッキレに発射。
運転手も意味が分かっているのか、分からないのか不明だがノリだけ合うらしく、
謎のテンションで二人は
「スゥーー!」
「ウゥーー!!」
「リューー!!!」
「アルゥゥゥ!!」
と、ハイタッチしそうな勢いで盛り上がっている。
カワコウは困惑しながら聞く。
「ノロちゃん、これ……乗っていいの?」
ノロはキメ顔でリュックを下ろし、
『任せてください』という顔だけを武器に荷物を積み始めている。
もはや説明ゼロ。
気持ちだけでタクシーに乗ろうとしている。
(なんか楽しそうだし…まぁ乗るか。)
我々は荷物をトランクに詰め、後部座席に乗り込んだ。
だが、走り出して数分。
「KONGさん…ホテルって…こんなに遠かったでしたっけ?」
カワコウが言う。
徒歩20分のところを、すでに車は10分以上走っていた。
景色は完全に知らない街。
もはや我々の脳裏には一つの単語しか浮かばない。
――絶対違う。
「ノロちゃん!止めてもらおう!絶対違う!」
だがノロは余裕の微笑みで、
「まぁ一方通行の道が多いんで、まぁ待ちましょう。」
この男のどこからこの沈着冷静の余裕が湧いてくるのか。
KONGは翻訳アプリで「場所違う!!」と作り、ノロに渡す。
しかし、ノロはそれを運転手に見せず、
自分のスマホで黙々と地図を確認している。
もうその情報はいらない。
(早く見せろよ翻訳!)
暫くKONGのスマホを握りしめたまま、地図を見ているノロナオキ。
その瞬間、車は高速道路らしきワープゾーンの入口へ一直線。
ノロナオキ、ついに悟る。
「あ!!コレはヤバいぞ!!!」

どうやらノロナオキに言葉を伝えるアプリを搭載するのが先だったかもしれない。
そのままタクシーはグングン進み、豪華なホテルへと滑り込まれていった。
無言の3人。
すると、
ピシッと決めたホテルマンが機敏に我々の荷物をハンガーラック的なやつに積み上げていく。
降るやいなや
「違う違う違う!」
と必死に伝えるが、いまいち通じない。
最終的には、KONGが宿泊ホテルのカードキーを見せることで事態は収束。
ホテルマンが我々のホテルへ連絡し、運転手に道順を伝えてくれた。
なんとも紳士な対応だ。
カッコ良すぎる。
だが、その間も悪魔の呼吸のようにメーターは容赦なく回り続けている。
結果、徒歩20分で10元のところを60元(高級ホテル観光込み)
無事に辿り着けたことを思えば、安い勉強代…かもしれない。
そこでノロナオキが言った。
「僕たちが乗ったのは…たまたま来たタクシーだったんです…。」
だろうよ。
「僕が伝えた数字に似ている発音のホテルがあそこだったんです。」
なるほど。
「KONGさん。無知って罪ですね。」
やかましい。
しかし、こうして無事ツアーメンバーとも合流できて、最終日のライブもビシッと迎える事ができた。
-----------------------------------------------------
翌朝。
同じ階だったノロとKONGはエレベーターで遭遇する。
ノロの第一声。
「大変な事が起きました。」
KONGは言い返す。
「聞きたくない。」
だがノロはチラチラこちらを見ながら「うあぁ…やべぇ…」を連発する。
しかも半笑い。
むしろ楽しそう。

この男が"やべぇ"と言う時は、九割五分の確率で"本人以外に被害が及ぶやつ"なのだ。
KONGは観念して聞く。
「んで、何がないん?」
ノロはハニカミながら言った。
「僕の衣装知りませんか?」
知らねぇよ。
「いやぁ…wやっちゃいましたぁw」
(ウィーン…)
静かにエレベーターの扉が開き、ロビーに着くと、全員が集合していた。
KONGからノロちゃんにパスをだす。
「ノロちゃんから面白い話があるってよ。」
ノロは、まるで好きな子に告白するように、モジモジしながら口を開く。
「僕の衣装…多分ライブハウスにありますwッツー…」
全員が同じハニワ顔で固まった。
見事なブレイクだ。
中国で培われた演奏のおかげで、ライブ以外でもこんなに息が合うものなのだと実感する。
和田さんがライブハウスに連絡を試みるも、
「そもそも今日営業するのか?」「返事はいつなのか?」
何もかも不明だった。
結果、予定通り空港前のホテルへ移動することになる。
しかし移動後まもなく、吉報が届く。
“ライブハウス、夕方に開きます”
ノロナオキは一人、移動先ホテルから衣装を取りに戻る旅へ出たのであった。
そして、その夜。
彼はまるで"コンビニにチュッパチャップスでも買いに行ってきただけ"みたいな顔で何事もなかったかのように合流し、
普通に夕食をうまそうに食べていた。
衣装を忘れて知らない土地を往復した男の帰還に、誰も突っ込まなかった。
そう。
突っ込んだら負けな気がしたからである。
中国の街を駆け回り、タクシーを呼び、道を間違え、衣装を忘れ――
それでも笑って帰ってくる男、ノロナオキ。
旅はトラブルがあってこそ思い出深くなるのだろう。
そしてこれからも、我々はそれを体験する度に笑っていくのであろう。
ありがとうノロナオキ。

それでは!
また!
