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Photo bytsuka_joji

照射|アリザリンクリムソンの花|あわいの掌編集15|シロクマ文芸部《自由帳》

    「自由帳、ですか?」

    ある日の昼下がり、師の言葉が、どこか遠くの波のように聞こえた。

    「じゆうちょう」という言葉は、真っ白なページの綴りを思いださせた。まだ何ものも詰まっていない余白に、来る日も来る日も思いつく限りの絵ぶつけていた日々。みっちゃんが決まって付けてくれた、アリザリンクリムソンの花丸。──あの滴るような原初の赤がノートの余白を満たすたび、わたしの世界はひとつだけ肯定された。

    来る日も来る日も、白いカンバスに色を載せては消し、消してはまた色を載せる日々。──その行為が、今やどんな意味があるのか分からなくなっていた。

    「いや、自由長だ。言わばバネの余白だな」

    幼い頃から絵を教え続けてくれた師が、そう補足した。

    「弛みがあるからこそ、バネは瞬時に伸縮できる」

    我々には似つかわしくない凡庸な比喩で申し訳ないが、そう言って師は続けた。

    「──今のキミは、余尺を失ったバネみたいに見える」

    わたしの中の弛み。そして張り。わたしの中でさざ波が喫水を越えた。
    その行為は、絵描きとしては如何にも在り来たりで、つまらなくて、退屈の極みであったかも知れない。

    しかし、わたしは、モノクロームのわたしのキャンバスに、バーガンディーをぶちまけた。鮮烈な赤とは違う赤黒い染みが、布地の片隅の黒猫の影を溶かすように汚染していった。
    その残滓が心の余白にどこまで広がっていくのか、その時のわたしには分からなかった。

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