記憶の中に建つ、透明な離宮。『追憶の箱根離宮』
『追憶の箱根離宮』
今回描いたのは、
箱根の緑の中に静かに佇む一棟の洋館です。
けれど、普通の洋館ではありません。
白く繊細な建物そのものを、
光を通す飴細工のような質感に。
柱や窓枠、壁を彩る細かな装飾まで、
陽の光を受けてきらめく
儚い建物として描きました。

箱根という場所には、
私の中でどこか特別な空気があります。
山に囲まれた景色。
深い緑。
少しひんやりとした空気。
日常から離れて、
ほんの少し違う時間が流れているような感覚。
何度訪れても、
帰ったあとには旅の景色が
少しずつ「記憶の中の箱根」へ変わっていきます。
写真には、その瞬間の景色が残ります。
けれど人の記憶に残る景色は、
必ずしも写真と同じではありません。
光が実際より綺麗だったように思えたり、
建物がもっと輝いていたように感じたり。
時間が経つほど、
現実と記憶の境界は少しずつ曖昧になっていく。
今回の作品では、
そんな「記憶の中で幻想へ変わっていく景色」を
描いてみたいと思いました。
そこで選んだのが、飴細工。
ガラスよりも少し柔らかく、
宝石よりも儚い。
光を通して輝いているのに、
どこか溶けて消えてしまいそうな質感です。
ずっと同じ形では残らないものだからこそ、
「追憶」という言葉にも似合う気がしました。
建物の周囲に広がる庭は、
あえて同じ質感にはしていません。
木々は木々として。
芝生は芝生として。
現実の景色の中に、
ひとつだけ幻想の建物が存在する。
そうすることで、
現実と記憶が重なったような風景を目指しました。
『追憶の箱根離宮』
実際に存在する場所をそのまま再現するのではなく、
旅の記憶をたどった先に現れる、
もうひとつの箱根。
いつか見た景色なのか。
それとも、
記憶の中で生まれた景色なのか。
その境界が少し曖昧になるような、
静かな一枚になりました。
