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新・霊異蚘 䞀話 《垞陞・土蜘蛛》

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    【あらすじ】
     蚘囜霊異研究所で神郜ず巳寿ず長人は、神郜の趣味の歎史オカルト話をしおいた。
     そこぞ、巳寿が同窓䌚で䌚った小矜李から盞談したいこずがあるず電話が入る。効の矎流が、最近䜕かに憑かれたようだから助けおくれず語る小矜李。劖の仕業ず考えた巳寿ず長人は、矎流ず盎に䌚い、蜘蛛の糞だらけになった圌女の郚屋を芋お、土蜘蛛の仕業ではないかず考える。矎流が怪しい女ず䌚っおいるず聞いた巳寿ず長人は、長人の匏の力を䜿い、土蜘蛛の巣である祠を突き止めた。
    だが、矎流に憑いた土蜘蛛は、神代の時代に、巳寿の先祖が滅がした䞀族の恚みが䜜り䞊げた劖だった。因瞁を背負い、矎流を、人を救うために、巳寿は神剣を振るい、土蜘蛛ず戊うが  。

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    新・霊異蚘 䞀話 《垞陞・土蜘蛛》

    侀

     明るめの雲に芆われた空の䞋、里山に接した町はずれに平屋の叀民家があった。元は倧庄屋かず思しき広倧な屋敷に、重厚な四脚門。屋根䞋倖門柱には、読みづらい達筆で『蚘囜霊異きこくりょうい研究所』ず曞かれた分厚い朚札が䞋げられおいた。

     門から芗ける前庭は広く、綺麗に敎えられた怍朚に囲たれた敷地内路の分岐の奥に、母屋ず接しお建぀二階建おプレハブが芋えた。
     プレハブのドアには、『Kikoku Occult Research Laboratory《蚘囜霊異研究所》』ず蚘された金属プレヌトが貌られおいる。その䞀階宀内は、雑倚な冊子や資料本がいい加枛に積み䞊げられ、さほど敎理もされおいない宀内奥にはくたびれたカりチ゜ファがあった。その゜ファ䞊に長々ず暪たわった所長の神郜或哉じんずあるやが、うヌんず倧きく䌞びをしおから、倩井を芋䞊げお話し始めた。

    「前にも蚀ったけどさぁ。土蜘蛛っおのはねぇ、実は蜘蛛じゃないんだよ」
    「知っずりたす」
     カりチずロヌテヌブルを挟んだ向かい偎のパヌ゜ナルチェアに腰掛けた黒坂巳寿くろさかみこずが、湯呑みを䞡手で包んだたたそっけなく答えた。むントネヌションは柔らかな京郜匁。だが、話題を続ける気も広げる気もないのが䞞わかりの冷めた声音だった。

     窓から芋える庭は颚もなく、空は曇倩のほの癜さ。穏やかな午埌の研究所は、眠くなるほど静かだった。盛倧に奏でられる蝉の声さえも、ここには皋遠かった。

    「たぁ、聞けっお。倧和朝廷は、己らに埓わなかった先䜏民族をそう呌んだっお説がある。手足が長くお、土穎に䜏んでいたから土の蜘蛛  土蜘蛛。芁は、差別語だ」
     神郜は巳寿の態床などたったく気にも止めず、思うたた話を続ける。

    「た぀ろわぬ者、囜巣くずずも呌ばれ、朝廷からの蚎䌐察象にされおいたんだ。悪いこずなんにもしおないのに、気の毒だよなぁ」
    「それも知っおはりたす」
    「巳寿くんは、盞倉わらずクヌルだねぇ。じゃあ、さ。土蜘蛛の䞀族を皆殺しにした朝廷偎の末裔が今どうしおるか、知っおるかい」

     神郜は少し間を眮いお問うた。゜ファ䞊でぐるんず䜓を返しお、う぀䌏せになっおから巳寿を眺めおニダリずする。
    「頌光の子孫ですか 知らんがな。興味もない」
    「いや、君もうちの所員でしょ こういうのに、興味持たなきゃダメでしょ」
    「はぁ。ほな聞きたしょ、所長はん。子孫がどうっお蚀わはるんです」
    「子孫はね、今も普通に生きおるよ。神代から珟代ぞず時を経おなお、脈々ずね。いやヌ、面癜いよねぇ。でも、歎史っおそういうもんだ。君もわかっおるだろう」
    「神代  。おもろいこず蚀わはりたすなぁ」
    「いやいや。そこは、そのずおりどす、だろ だっお、事実土蜘蛛は日本党土に居たわけだから、退治話も党囜区だ。それだけ倚勢退治した者もいたんだからさ」
     蚀い終えた神郜が、䜕故か嬉しそうに、うんうんず頷いた。その背に、窓際のパむプ怅子に足を投げ出しお座っおいた栗林長人くりばやしながずが、退屈そうな声をかけた。

    「おっちゃん、たヌたその話っすか もう聞き飜きたっぺよ。ごじゃっぺだ」
    「いいだろ 趣味なんだ。ここは僕の研究所なんだから、趣味話くらい自由にさせおくれよ」
    「なヌん。そんなら、俺らは所員だっぺ。絊料、早よ払っおくださいっお。今月も遅れおっぺよ」
    「同じ話なら、君の方がしおるじゃないか。し぀こいね、長人くんは」
    「そういうごちゃはもういいっぺよ」
    「たぁ、次の䟝頌の埌で、ね」
    「い぀になるやら  」
    「䜏たうも食うも困っおないんだから、文句蚀わないの」
    「う〜  」
    「長人。諊めなはれ。蚀うだけ無駄や」
    「そうそう。巳寿くんはわかっおるねぇ」
     呆れ口調の巳寿に、満足そうに神郜はそう蚀っお、居眠りに入ろうず目を閉じた。
     そんな神郜を、むぅっず唇尖らせた長人がすがめ芋る。しれっずした顔で、巳寿はぬるくなった茶を啜った。

     沈黙が萜ちた宀内で、緩やかに時が過ぎようずした。が、テヌブルに眮いおあるバッグの䞭で、突然巳寿のスマホが鳎った。
     巳寿は、湯呑みを眮いお、バッグからスマホを取り出す。バむブに揺れる画面に、ちらず目を萜ずしおから、ちょいちょいず長人を手招きした巳寿は、長人がそばにくるず、スピヌカヌモヌドにしお画面をタップした。
     ずたん、スマホから、苊しそうな男の声が流れ出たヌヌ。

    『黒坂。俺だ、小矜李だ。頌む。助けおくれ  』

     男  小矜李利句こはりりくの声を聞き぀぀、巳寿は長人ず顔を芋合わせた。

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    二

     小矜李こはり利句りくは、蚘囜霊異研究所のプレハブ前で、スマホを切った。目の前の金属プレヌトが貌られた入口ドアを眺めおは芖線を倖す、を䜕床か繰り返し、ややしおやっず決意が固たったのだろう。躊躇ためらいがちにむンタヌホンのボタンに指を䌞ばした。

    ピンポヌン、ピンポヌン。

     也いた音がドア越しに小さく聞こえた。ず、むンタヌホンから返答が聞こえる前に、ガチャっずドアが䞭から開けられた。

    「あ  」
    「小矜李。䞭ぞ  」

     半開きのドアから顔を芗かせたのは巳寿だった。驚いた小矜李を促し、急かすようにドアを倧きく開け、宀内ぞず招き入れる。
    「おこしやす」
    「いらっしゃい。あ、そこ、どうぞ」
     おずおずず入っおきた小矜李に、笑っお声をかけた長人が、゜ファを勧める。小矜李ははっきり怯えた衚情のたた、勧められたパヌ゜ナルチェアの䞀぀に歩み寄った。

     小矜李利句、二十四歳。巳寿みこずず高校時代の同玚生。先日行われた同窓䌚で、六幎ぶりに䌚ったばかりだった。
     高校時代、小矜李ず巳寿は別に仲良いわけでもなかったが、巳寿の『 今』  を他の誰かから聞いたのだろう。同窓䌚が始たっお間もなく、小矜李は巳寿を探し圓おお話しかけおきた。

    
    「黒坂、お前、䞍思議探偵やっおるんだっお」
     巳寿に声をかけおきた小矜李は、なぜか必死な様子を感じさえ、さしもの巳寿も、やり過ごすこずを早々に諊めた。
    「䞍思議探偵 䜕やそれ」
     䞀応躱すようにずがけおみたが、小矜李にいっそうの必死さを䞎えただけだった。
    「え 違うのか なんか、オカルトな事象を調べるおもしろ䌚瀟に就職したっお聞いたんだけど、違ったか 森本たちがそう蚀っおたから、おっきり  」
     小矜李の蚀葉に、巳寿の顔に諊め混じりの苊笑が浮かぶ。
    「たぁ、䌌たようなもんやから、そんでええよ。で、どないしたん 䞍思議探偵になんか甚でもあるんか」
     呆れたじりに肯定した巳寿に、小矜李は泣きそうな顔をしたが、蚀い淀んで芖線を泳がせた。
    「いや  、その、ここでは  」
    「そか。ほな、これ枡しずくわ。気ぃ向いたら、蚪ねお来よし。ほれ  」
    「あ、ありがずう」
     蚀い淀む小矜李に、その堎では、蚘囜霊異研究所の名刺を枡すにずどめたのだが  今、小矜李は助けを求めお、巳寿を蚪ねお来た。
    

    「さお、たずはようこそ、蚘囜霊異研究所ぞ。遠慮はいらねえっぺよ。なんでもかんでもゲロっちゃっお」
     にこにこず笑みながら、軜い調子で長人が誘う。 
    「小矜李、安心しおええ。元気な利口もんやから」
     巳寿の蚀葉に、長人がムッずしたような顔をした。付き合いが長いから、巳寿の蚀葉に蟌められた意味ヌヌうるさい阿呆だからヌヌを長人は理解しおいた。しかし、小矜李はわからなかったのだろう、どこか感心したように長人を芋お、浅く頭を䞋げた。それから研究所の内装を䞀床芋回しお蚀った。
    「  本圓に、こういうずこなんだな」
    「ええずこやろ」
    「え  う、うん」
    「た、座り」
     正盎に頷いた小矜李に、埮かに笑んだ巳寿が再床怅子を勧めた。

     小矜李がパヌ゜ナルチェアに腰を䞋ろすず、向かいのカりチで、神郜がのっそり起き䞊がり、その隣に巳寿が腰掛けた。神郜からはさっきたでのだらけた気配が、すっかり消えおいる。その背埌で、長人がカりチの背に腰掛けお、斜めに小矜李を芋䞋ろした。

    「聞こか」
     前振りなど䜕もなく、巳寿が問う。
    「䜕があったんや」
    「黒坂  」
     巳寿の声に、小矜李は膝の䞊で手を組んだ。もじもじず重ねた手の先で、指先が螊る。だが、誰も䜕も声をかけなかった。
     ややしお、ひゅうっず息を吞い蟌み、小矜李は諊めたように話し始めた。

    「効が  効の、矎流みるがおかしいんです」

     小矜李は順を远っお話し出した。
     倏䌑みが始たった蟺りから、効の矎流が痩せ始めた。矎流は十五歳。受隓生なので、倏䌑みでも毎日講習だ、補習だず、忙しそうだし、幎頃の女の子だからダむ゚ットしおいるのかもしれない、ず最初は特に気にしなかった。が、食事を摂っおいながら、たるで削られおいくように日々痩せ现っおいく。しかも、最近ではそんな䞍健康な姿で真倜䞭に家を出お、明け方近くに垰っおくる。䞀床、寝ずに垰りを埅っお、垰宅した矎流を問い詰めたが、眠れないから散歩しおたずしか答えなかった。小矜李は、それを玠盎に信じられない気持ちが勝ったず語り、ほうっず息を぀いた。

    「効は、嘘を぀くような子じゃなかったんだ。なのに  」

     矎流の深倜の倖出は、䞀向に治らなかった。䜕を聞いおも、はっきりずした答えは垰らず、䞍安は募るばかり。蚀っおも聞かない。聞いおも答えない。こうなったら、どこで䜕をしおいるのか、芋お確かめるしかない  そう思った小矜李は、ある倜こっそり効の跡を぀けた。

     その日の倜䞭、家を出た矎流は、ふらふらず足取り芚束なく近くの小山の登山口たで歩いおいった。山頂たで二キロず曞かれた立お看板を街灯が薄がんやり照らすそこには、䞀人の女が埅っおいた。
     女は、倜目にも鮮やかに浮き䞊がる真っ癜な着物姿で、艶やかな長い黒髪、矎人ず蚀える綺麗な顔立ちをしおいた。矎流はその女ず䞊んで立ち、䜕か䌚話しおいるようだったが、皋なく二人しおふっず掻き消えた。

    「消えた」
     神郜が䜕か匕っかかったず蚀いたげな顔぀きで銖を傟げながら、小矜李に尋ねた。
    「歩み去ったずか、暗くお芋えなくなったずかじゃなくお」
    「違いたす。消えたんです。そこにいたのに、歩き去ったわけでもないのに、煙が流れるみたいに、スヌッずいなくなったんです  」
     思い出し、小矜李はゟッずしたように肩を振るわせた。

    「お兄さん、探したっぺ」
    「もちろん。駆けずり回っお探したさ。でも、どっこにもおらんかったっぺよ」
     長人のお囜蚀葉に釣られたように、小矜李の蚀葉も方蚀に戻る。
    「䞀時間近くも走り回っお  呌んで回ったけど、返事もなんもなくお  どうもできんくなっお、垰った  」
    「そりゃ、しゃヌんめぇよ」
     項垂れお蚀葉を切った小矜李にそばぞず歩んだ長人が、元気づけるように肩に手を眮いた。
    「で 消えお終わりやったんか」
    「いや  」

     巳寿みこずに促されお、小矜李こはりは話を再開した。
     蟺りをさんざん駆け回っお、効がどこにもいないずわかった小矜李は、譊察に駆け蟌もうずしお、躊躇した。
     なんず説明すればいいのか
     効が怪しい女ず䞀緒に登山口で消えた。
     こんなこず、蚀っお信じおもらえるのか いや、䜕も蚌拠がない。酔っ払いの戯蚀で片付けられそうだ。

     どうすればいいのか、わからなくなった小矜李は、仕方なく家に戻り、䞍安のたた眠れない倜を過ごしヌヌ翌朝になっお驚愕した。
     い぀垰っおきたのか  知らぬ間に、矎流みるはベッドで眠っおいたのだ。
     起きるたで埅おず、揺すり起こしお、どこぞ行っおいたのかを問いただしたが、矎流はきょずんずするばかりで、出かけたこずすら芚えおいない様子だった。

     効の身に、䜕かが起こっおいる。
     この倉な珟象を、どうすればいいのか
     悩む小矜李に、オカルト奜きの恋人がアドバむスした。
    「矎流ちゃん、䜕かに倉なものに取り憑かれおいるかもしれないよ 神瀟でお祓いしおもらった方がいいんじゃない」

     憑かれおいる 䜕に どこで
     怖がりの効が、䞀人でいわく付きの堎所ぞ行くずも思えない。考えおも答えが出なかった小矜李は、矎流を問い詰めた。

    ヌヌこのずころ、お前おかしいぞ。どこか、倉なずころに行ったりしおないよな 
    ヌヌたさか。あたしはどこにも行っおないよ。

     矎流は、初めはごたかすように答えを逃げおいたが、し぀こく聞き続けるず、やっず、倏䌑み初めに、クラスメヌト達ず小山のお堂ぞ肝詊しに行った事を話し出した。

    「これから受隓勉匷で、圓分遊べないからっお、仲良し達ず出るっお噂の山のお堂ぞ行ったず  」
     項垂れたたた話した小矜李が、きゅっず唇を噛んで顔を䞊げた。
    「それから、ずっずなんです。いや、たすたすひどくなっおきおお  俺、俺、もう、どうしたらいいか  」

     萜ち着けず蚀う代わりに、長人ながずが小矜李の背を撫でた。芖線を宙に䞊げお、がそっず神郜が蚀う。
    「こい぀は、盎に䌚うしかないねぇ」
     巳寿がこくりず頷いた。
    「小矜李、効さんに䌚わせおもらえるか」
    「  今から」
    「ああ」
    「      。わかった。䞀緒に来おくれ」
     少し考えおから頷き返し、小矜李が立ち䞊がった。神郜じんずに軜く頭を䞋げお、戞口ぞず歩き出す。

    「じゃ、二人ずも。しっかり芋おきおね」
    「了解だっぺ」
     小矜李に続いた巳寿ず長人に、神郜が気楜な声をかけた。
     巳寿はチラず芖線を向けただけだが、長人は振り返っお、ひらひらず手を振った。


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    侉

     小矜李家は、霊異研究所から電車で䞉十分ほどの䜏宅街にあった。
     䞡芪はこの月初めに、盲腞手術で寝蟌んだ母方の祖母の看病のために出かけおしたい、い぀垰っおこれるかわからない。ために圓分は、効ず二人暮らしなのだず蚀う。
     小綺麗な建売䜏宅の䞀宅は、䜕もおかしなずころは芋えなかったが、近づくに぀れ、巳寿の顔が険しくなった。
     長人もヒクヒクず錻を蠢かしおいたが、小矜李がここだず瀺した䞀軒家の前に着いた時、がそっず呟いた。
    「なんか臭わねぇか 沌のヘドロみおぇな生臭さ  」
     巳寿は䜕も答えない。

    「入っおくれ」
     玄関の鍵を開けた小矜李に促され、䞭ぞず䞀歩足を進めた長人が、うっず息を詰めた。
    「クセッ」
    「確かに。濃い邪気や」
     ごく小さな声で、巳寿も応じる。
    「くさい 䜕か匂っおっぺか」
     䜕も感じられない小矜李は、二人の様子にギョッずしたような顔になり、くんくんず空気の匂いを嗅ぎ出した。
    「いや、そういう匂いやない。気にせんでええよ。じゃ、お邪魔さん」
     慰めるように蚀った巳寿が、小矜李の暪をすり抜け、玄関に入った。
    「効ちゃんはどこよ」
     キョロキョロしながら巳寿に続いた長人に促された小矜李が、二人を矎流の郚屋ぞず案内した。
    「こっちだっぺ」
     廊䞋を進み、階段を登り、突き圓たりの郚屋の前で足を止めた。
    「ここだ。矎流、兄あんちゃんだ。入るぞ」
     可愛らしいクマの絵が描かれたプレヌトが䞋がったドアを軜くノックした小矜李は、返事も埅たずにガチャリず開けた。ず、瞬間巳寿ず長人が息を飲んだ。

    「こ、これはキッちぃ。倧物だっぺよ」
     錻を抑えながら顔を顰めた長人ず戞口で立ち止たった小矜李を抌し陀けお、巳寿は宀内に足を進めた。
     女子䞭孊生にふさわしく、壁玙も家具も可愛らしいポップな色で統䞀された宀内は、䞀目で異様ずわかる状態だった。

     倩井から壁から、宀内の至る所から無数の现い糞が匵り巡らされおいた。レヌスのような耇雑な王様を描く糞は、淡く煌めき、異様でありながら矎しく、どこか幻想的でさえあった。

     糞が重なり合う郚屋䞭倮に、膝を抱えおうずくたる少女がいた。腕は筋匵り、頬はこけ、スカヌトの裟から芗く足も棒のように现かった。十五歳の成長期の嚘が、こんな痩せ现っおいいはずがない。
    「矎流」
     心配そうに声をかけた小矜李に、矎流がゆっくりず顔を向けた。定たらない芖点が宙を泳ぎ、唇がわなないただけで声はなかった。
     確かに、䜕かに憑かれおいるず巳寿は確信した。目だけが劙に光る矎流の顔を凝芖しおから、呚囲をじっくりず芋お回る。

    「  長人」
    「あぁ。糞だっぺ。お蚕様かいこさたか」
    「この糞は、蜘蛛や」
    「クモ」
     長人が軜く目を芋開き、小声で蚀った。
    「クモっお  虫の蜘蛛か」
     わきわきず䞡手の指を蠢かしお、蜘蛛を衚した長人に、巳寿は苊笑する。
    「虫やない。蜘蛛は節足動物や。いや、これは、生き物の話やないで。劖怪の話や。異栌いかくのモノの話になる」

     ヒ゜ヒ゜ず話しおる間に、矎流の圷埚っおいた芖線が、巳寿ず長人に止たった。二人を芋぀めたたた、やんわり埮笑む。その笑い方が、十五歳の子䟛のものじゃなかった。
    「いやどうもぉ。こい぀ぁ、んめむりっぺな。どしたいどうしたい ミコッち」
    「むケズな呌び方はやめや」
    「かたごだっぺきにすんな。それより、呌ぶか」
    「結界匵るよし。これ以䞊は、ほんたに危険や」
    「いがっぺよ。ならば  」
     頷いた長人が、巳寿から離れた。矎流に向き合う圢で立ち、人差し指ず䞭指を䌞ばした「刀印」を䜜るず、宙に栌子を切りながら唱える。
    「オン・キリキリ・バサラ・りン・ハッタ。波路なみじ、槌斗぀ちず、契玄に埓い、闇を裂きお疟く来たれ。急急劂埋什」
     早九字が結ばれるず同時に、アオヌンずオオカミの遠吠えめいた声が宀内に響き、子牛ほどもある巚狌ず、真っ癜なぬいぐるみのような小狐が長人の䞡脇に珟れた。
    「わ、わあぁっ」
    「驚かんでええよ、小矜李。圌らは、長人の匏、䜿いの神䜿しんしや。矎流ちゃんを守っおくれるさかいに」
    「し、匏 じゃ、じゃあ、圌は  陰陜垫なのか」
    「陰陜垫 よう知っおはるな。や、長人は陰陜垫ちゃうで」
    「え 違うのか 俺、呪葬姫じゅそうきむザナをよく芳おるから  」
    「いやどうも。た、䌌たようなモノだけっど、気にせんでいがっぺ」
    「長人」
    「わがっおっぺ。波ちゃん、出本もずを芋っけおきお。぀っちヌは、そこの嬢ちゃんを護れ。結界匵っおおくから」
    『圓代。出本を探れずは』
     倧きな赀い目を向けた小狐に、長人が糞で食られた宀内を指先でぐるっず指し瀺した。
    「この郚屋の有様、芋りゃわかるっぺよ。蜘蛛の劖だ。そう遠くなく、寄地よりちの塚があるはず」
    『承知』
     答えるなり、癜い小狐がすっず消える。
    『しお、我は 䞻よ』
    「あの子の護衛だっぺな。この郚屋から出すなよ」
    『承った』
     短い返答の埌、巚狌も小狐のように空に消える。瞬間、ぎぃんず空気が匵る感芚があり、あっず目を芋匵った矎流がクタクタっず床に頜くずおれた。
    「矎流」
     慌おた小矜李が、効に駆け寄る。抱き起こし、顔を芗き蟌んだ小矜李の顔から血の気が匕いた。
    「息  息しおない 矎流 矎流、しっかりしろ」
    「萜ち着け、小矜李」
    「く、黒坂 これが萜ち着いおいられるか 矎流が、俺の効が、息しおないんだぞ お前、䜕をした」
    「だから、萜ち着きなはれ。結界で糞を断ち切ったさかい、気ぃ倱っただけや。あのたた繋がっおいた方が、よほど危なかったんやぞ」
    「そ、そうなのか」
    「そうや。繋がったたたでは、吞い取られるたたやで。痩せお匱るは、糞のせいや。けど、安心し。糞は断ち切った。埌は、劖を滅すだけや。効はんは、じき元に戻る」
    「黒坂  」
    「小矜李はこのたた、ここで、効はんを護っずき。俺らが決着぀けおくるよっお」
    「た、頌む」
    「ええか。俺が連絡するたでは、この郚屋から出るんやないで」
     念を抌すように告げた巳寿に、矎流を抱きかかえたたた小矜李がこくこくず頷いた。巳寿は軜く頷き返し、長人に目配せするず、郚屋の出口ぞず進んでいった。無蚀で長人が埌に続く。心现げに小矜李は二人の背を芋送った。

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    四

     研究所に戻るず、神郜はグダっずカりチにもたれお、叀びた本を読んでいた。目前のテヌブル䞊には、䜕冊もの本が広げられ、巻き物のようなものも広げられおあった。

    「ただいた〜。行っおきたっぺよ」
     呑気な長人の垰宅の声に、神郜は玙面から目を䞊げ、同じように呑気な声を返した。
    「お垰り〜。どうだった」
    「掚枬通りやった」
    「あヌ、やっぱり、劖あやかし絡みかぁ」
    「ただの劖やない。叀びた蜘蛛やった」
    「ふぅん  。叀びた、蜘蛛、ねぇ」
    「なんや」
    「巳寿くんは、心圓たりあるず思ったんだけどなぁ」
     意味深な蚀い方をしながら神郜は巳寿の顔をじっず芋぀め、ニダッず笑った。

    「垞陞囜颚土蚘」
     読んでいた分厚い本を閉じ、その衚題が芋えるように、巳寿ず長人に衚玙を向けながら神郜は話し始める。
    「この本の䞭に曞かれおいる、黒坂呜くろさかのみこずずいう人物は、ここ、茚城の県名由来に関わる叀代の歊人だ。ただ日の本が平定される前、朝廷に埓わぬ、た぀ろわぬ者どもを、囜巣くず、土蜘蛛ず称しお、䞀掃するために遣わされた先遣隊の頭かしら  それが黒坂呜。圌は、土蜘蛛の䞀族を、䜏居の呚囲に茚を城ず積み䞊げ、远い蟌んで党滅させた。だから、ここは、茚の城で茚城いばらきずなった」
    「知っずりたす。うちは分家筋ですが、遠い遠いご先祖が、颚土蚘に茉る歊人だず、䜕床も聞かされはりたした。けど、その話を持ち出す蚀うこずは、所長は今時こんじの䞀件が、土蜘蛛の怚念ずでもおっしゃいたすのんか」
    「そう。僕はそう思ったよ」
     神郜は巳寿を芋お頷いた。
    「これは、盞圓の幎月を重ねた怚霊だろうず、ね。平安、飛鳥、いや  神代かみよず蚀えるほどの昔から、圌らは、埁服者を恚んできたろうからさ」
    「逆恚みでしょう」
    「そうかな 普通にただ暮らしおいたのに、俺らに埓えっお攻めおこられお、䞀族殲滅されたんだぞ 恚むなっお蚀う方が無理っおもんじゃないか」
    「ご先祖かお、望んで滅したんずちゃいたすわ」
    「たぁ、すたじきものは宮仕え  だったのはわかるが、結局勝った偎の理屈だよ。䞀方的に悪ず決め぀けられお負けた偎は、玍埗いっおいないだろうからねぇ」
    「はぁ。そないなこず、俺に蚀われたかお  」
    「た、確かに、今、僕たちがすべき事は怪異から人を護る事だから  衝突もやむなし、だよなぁ」
    「どないせい蚀わはるんです」
     遠回しにチクチク蚀われおいるようで、䞍快そうに巳寿が眉根を寄せる。神郜はそれに構わず、長人に尋ねた。
    「それで、どんな感じにしお来たんだい」
    「あヌ、えヌず。俺の匏に、探りず護りに぀かせたっぺ」
    「女化皲荷おなばけいなりの小狐様を、偵察に出したっおこずか。で、倧口神おおくちのかみ様の眷属殿が護衛ずは。たた随分頌もしい」
    「波ちゃんも぀っちヌも、きっちりこなしおくれっぺよ」
    「圓代様のご䞋呜じゃ、匵り切っおくださりそうだねぇ」
    「なんちゃねヌべ。先代じいさたも先々代ひいじいさたも、おんなしだったっぺよ」
     なんおこずもないず蚀いたげに長人が笑うず、神郜は苊笑しながら立ち䞊がった。
    「ならば、僕もやれるこずをしなくちゃな。二人ずも、神犊かんそぎの間で埅っおおくれるかい」
    「離れの二の間」
    「そう、そこ」
    「わかっずりたす」
    「巳寿、いんべいこう」

     䞉人はプレハブから本宅の叀民家ぞず足を進めた。
     くれ瞁を先に進んだ神郜は、離れの寞前で脇の障子を開け、じゃ、ず軜く手を䞊げお、座敷の䞭ぞず姿を消した。
     巳寿ず長人は顔を芋合わせ、母屋から離れぞず続く長いくれ瞁を進んでいった。

     きし、ぎしっず、磚かれた瞁板に小さくきしみ音を立おながら、二人は進んだ。しばらくは、ただ沈黙しおいた。
     だが、離れにある二間の内、手前の郚屋ヌヌ神犊の間の障子を開けるず、巳寿は苊笑した。
    「神代の因瞁  ようは俺の瞁えにしやんな」
     畳敷の八畳間。䜕䞀぀調床などない宀内に進みながら、独りごちた巳寿に、長人があっさり蚀った。
    「やるしかあんめ。匕く理由もねぇし」
    「せやな。長人、勇み足せぇぞんようにな」
    「するかっおの いっちょ、ぶっちめたるわ」

    -----

    五

     神犊の間で埅぀間に、波路が戻った。
    『圓代』
    「お、お垰り、波ちゃん」
     長人の声に、ふうっず薄い煙のようなものが立ち、次いで姿を珟したのはふわふわの癜狐だった。
    『調べが぀いた』
    「で どうだった」
     問いかけに、小狐が話し出した。

     小矜李家の近くの名もない小山、か぀おは叀墳だったらしいそこに、小さな祠があった。苔むし、半壊しおいる祠は、盞圓な幎月を感じさせる代物で、波路には、長らく攟ったらかしにされ、深い怚念を溜め蟌んでいるのが感じ取れた。しかし、単なる人間には、䜕を祀っおいるのかわからない。そのせいで、祠は祟り神を祀っおいるずか、心霊スポットだずかの噂を立おられお、物奜きな者たちが肝詊し堎所にしおいるらしい。しかも、これたでに䜕人か、祠を詣でた者たちが行方をくらたせおいるずいう。土地の叀老は、もう随分昔からそこには近づかない。

    「なるほど、ミコっち因瞁の発祥地っおこずだっぺな。で、矎人さんは」
     矎流ず埅ち合わせしおいた女のこずを問うず、波路は女の正䜓に぀いお考察亀えお調べたこずを述べた。

     黒坂呜に皆殺しにされたず蚀われた土蜘蛛の䞀族には、生き残りがいた。
     腹に子を宿した女だったそうだ。圌女は山奥に隠れ、出産し、その子が嫁を持ち、婿を迎え、子を産み、ず、现々ず続いた血脈は、長い長い長すぎる幎月怚念を内包し続けた。やがお、凝り固たった凶念きょうねんず化した怚の意識は、人の圢なりを保おなくなるほど煮詰たった。そしお、今では劖怪ず呌ばれる圢代かたしろず化したようだ、ず。

    「なヌん。やったら重いっぺな。どんだけ重なっおんだべ」
    『圓代、どうされる』
    「どうするもこうするも、巳寿ずおっちゃんず動くっきゃねぇべよ」
    『我は』
    「こっからは、槌斗の領域だっぺ。化け母かか様にはよしなに䌝えおくれ。埌で、油揚捧げ奉るっお。波ちゃんにもな」
    『承知した』
     すぅっず小狐の姿が消える。
    『気を぀けよ。圓代』
     波路の声が聞こえなくなるず、黙っお聞いおいた巳寿は、フゥず息を぀き、静かに瞌を閉じた。

    「お埅たせヌ。奏䞊の間においで、二人ずも」
     隣宀から神郜の声が聞こえた。
    「お、氎垢離みずごり終わっお、準備敎ったっぺか。いんべ、巳寿」
     じっずしたたた目を閉じおいた巳寿を促した長人が、隣宀を隔おおいた襖をカラッず開けた。開け攟たれた向こうは、十畳はある広い座敷だった。

     質が良いず䞀目でわかる高麗瞁こうらいべりの畳が敷き詰められた郚屋奥の梁に、倪いしめ瞄が匵られ、その䞋に額瞁入りの筑波山の倧きな写真が掲げられおいた。写真の手前には、二段匏八足台はっそくだいが蚭られ、䞊段に现長い桐箱ず䞉方さんぜう、巊右に把入りの癜磁の花瓶が捧げられ、䞋段には埡神酒の埳利、土噚かわらけ、短刀が眮かれおいた。
     たた、八足台の脇には、芋事な和匓ず鏑矢が入った埡匓おゆみ矢眮台やおきだいが蚭られおいた。

     その八足台の前に神郜が立っおいた。
     烏垜子えがし狩衣かりぎぬ姿で、倧幣おおぬさず折りたたんだ和玙を持っおいる。正匏な神職の出立いでたちだった。

    「来たね。じゃ、そこに立っお」
     手招かれ、二人が近づくず、筑波山の写真ず向き合う圢で立おず指瀺され、おずなしく巳寿ず長人は埓った。
    「では、始めたす」
     至極重々しく神郜は蚀い、二人の頭䞊ぞず倧幣を向けた。
     二人は、わずかに銖を垂れお、お祓いを受ける。ふぁさふぁさっず玙垂しでが柔らかな颚をはらんで頭䞊で揺れた。

     枅めが終わるず、神郜は倧幣を八足台の端に眮き、埡神酒を土噚かわらけに泚ぎ、頭䞊に掲げおから䞉方に茉せた。柏手を打ち、深く瀌拝しおから、たたたれおいた和玙を広げ、すうず息を吞い蟌む。それから、ピシリず背筋を䌞ばし、朗々ずした声で、祝詞のりずを奉じ始めた。

     掛かけたくも畏かしこき筑波嶺぀くばねの雙神ふたはしらのかみの倧前おおたえに、恐かしこみ恐かしこみ癜もうさく。

     抑揚があるようでない、独特の祝詞奏䞊。仏教ならばお経や真蚀ずいったずころだが、神道の堎合、緩やかに語圙が䌞びるのみで、殊曎に語圙は難しくはない。

     叀きよろずの代よより闇を玡ぎお人を惑わす劖あやかし「土蜘蛛」の、今たた犍々たがたがしき気を攟ちお跋扈ばっこするを阻たんずす。
     霊媒れいばいの職぀かさに任ずる圌かの身に、倧神たちの厳い぀くしき神嚁みいづを授け絊え。

     神剣かむ぀るぎ・倩茚魂あめのうばたたの 茝きを䞎え絊えず乞い祈のむ。蜘蛛の匵り巡らせる怚念の麻糞たいずを悉こずごずく切り裂き、その邪悪なる劖力ようりきを根の囜ぞず打ち祓い、平たいらけく安らけく調䌏ちょうぶくせしめ絊えず、恐かしこみ恐かしこみ癜もうす。

     普段グダグダでだらしない神郜が、別人のようにシャンずしお奏䞊述べる姿を芋぀めながら、長人が小声で、ぜそっず呟いた。
    「おっちゃん。ああしおるず、別人だっぺ」
    「同感や」
     思わず巳寿も同意する。その声が聞こえたのか、ぎくっず神郜の肩が揺れた。が、途切れさせるこずなく奏䞊を終え、深々ず瀌を送るず、神郜は现長い桐箱を手に取っお、二人の前に歩んだ。
    「巳寿くん。これを」
     差し出された桐箱に、巳寿は銖を傟げる。
    「これは」
    「神剣・倩茚魂あめのうばたた、蜘蛛退治くもたいじに霊隓れいげん珟あらたかなご神剣しんけんだよ。二柱にちゅう様のご加護がある」
    「たさか、神代じんだいからの曰いわく物」
    「いやいや。これは、黒坂呜が䜿った剣぀るぎずは別物だよ。残念ながら、䌝わっおないからね」
     苊笑めきながら神郜は屈み、畳䞊に桐箱をそっず眮く。
    「たぁ、うちのご本家にも䌝わっおないんやから。こんなずこに、圚るはずもない」
    「こんなずこっお  巳寿くんに取っお茚城ここは故郷じゃないんだ」
    「俺が産たれたんは京郜やで。こっち来たんは、十四歳からや」
    「あれ 黒坂家っお京郜だっけ」
    「うちはな。総本家は橿原かしはらや。平城京なら、長岡、平安京きょうず  分家はどこにもあるで。俺んずこは、分家の分家のたたたた分家や。たたたた俺が芖えたから、繋ぎに立おられただけや」
    「あぁ、巳寿が黒坂の圓代っおこずだっぺなぁ」
    「始祖は神代だもんなぁ。䞉千 いや、四千幎越え ずもかく、超過去だからそれも仕方ないか」
    「巳寿に比べりゃ、うちなんざ新しい方だっぺな。五癟幎は過ぎおっけど」
    「長人くんのずこは、戊囜ヌヌ宀町から安土桃山時代だものね。たぁ新しいっお蚀えば蚀えるのかもね」
    「比べるもんやない思いたすわ」
    「たぁ、無駄口はいいから、開けおみなさい」
     終わらない実家話を切るように、神郜が巳寿に桐箱を勧める。巳寿はこくりず頷くず、柏手を䞀぀打ち、䞀瀌しおから慎重に桐箱の蓋を開けた。
    「わ」
     暪合いから芗き蟌んだ長人が、目を䞞くする。
     箱の䞭には、觊れれば斬れそうな鋭い茝きを攟぀銀色の盎刀が玍められおいた。
    「すっげ斬れそう。綺麗な倪刀だっぺ」
    「反りがない。叀い型やね」
    「この方が、らしいだろう」
     ニダッず笑った神郜が、真っ癜な袱玗ふくさで刀身を包んで盎刀を持ち䞊げた。持っおみろず蚀うように巳寿ぞず差し出す。巳寿は切先から鎬しのぎのない平造りの片刃、棟むね、柄぀かぞず芖線を走らせた埌、柄を握っおぐっず刀身を立おた。キラッず煌めきを走らせた盎刀は、魔を払う波動を攟っおいるのが芋おずれた。

    「これで、祓える」
    「長い因瞁だよね。いただ切れない  たた気の毒な怚念が積み重なるんだろうなぁ」
    「そんなん蚀うおたら、なんもできぞん。小矜李の効も救えないたたや」
     桐箱の䞋から鞘を取り出し、するっず玍めながら巳寿は噛み締めるように蚀葉を抌し出した。
    「今、苊しんでるのは矎流ちゃんや。なら、助けるだけ。そんだけや」
    「そうだ、いじやけおっちゃ、なヌんも解決しないっぺ。今倜、ぶっちめっぞ」
     気合を蟌めた長人の声に、巳寿が匷く頷いた。
     二人の様子を芋おいた神郜は、小さく息を぀いおから、ニッず笑っお二人の背を軜く叩いた。
    「うん。しっかり、行っおおいで」

    「そんじゃ、酒ず把貰っおくっぺ」
     長人が八足台に歩み寄り、深々頭を䞋げおから、埡神酒入りの埳利ず把䞀本を手に取った。
    「槌斗、来い」
     八足台からやや離れるず、把で宙に九字を匕き、呌びかける。ず、オォヌンず遠吠えの埌に、巚狌が姿を珟した。
    『䞻、お呌びか』
    「ご苊劎、぀っちヌ。あの埌、なんかあったか」
    『結界あるが故、二、䞉床揺れはきたが、嚘子ず兄君に倧事はない』
    「よっしゃ。槌斗、倧槌持ちお巳寿に埓え」
    『承った』  
     嬉々ずしお尻尟を倧振りした巚狌が、すうっず姿を消した。にやにやず長人は笑い、巳寿に芪指を立おお芋せる。
    「やったら、匵り切りやがっお。俺らもいんべ。倧槌持っお、玄関で埅っおっから」
    「ああ」

     座敷からくれ瞁ぞ出るず、長人はさっさず先立っお叀民家玄関ぞず進んでいく。神剣を䞋げお埌に続いた巳寿は、広い土間になっおいる玄関口に立぀倧男ず、足元の倧槌を目にしお、軜くため息を぀いた。
    「぀っちヌ。お埅たせヌ」
     軜い声をかけた長人に、いか぀い顔にニカっず人が良さげな笑みを浮かべた倧男が深々ず頭を䞋げた。
    「おぉ、䞻。お埅ち申した。久方ぶり故、腕がなる。黒坂殿、よしなに願う」
    「こちらこそ、よろしゅうに。匏殿」
    「はっ」
     槌斗が、埋儀に䞀瀌する。巳寿は長人ず頷き合い、玄関を出た。倧槌担いだ槌斗が背埌に付き埓う。
     どこぞ、ずの盞談はしおなかったが、口にしなくおも行き堎所は決たっおいた。
    「ほな、行こか」
     短く蚀っお、巳寿が歩き出す。䞀行が向かったのは、波路から知らされた祠のある
    叀墳小山だった。

    -----

    六

     䜏宅街倖れから向かった祠のある小山に着いたのは、山の端に倕陜が萜ちる頃だった。正に逢魔が刻、黄昏の䞭に圱が長く䌞び、人か魔か、定かではなくなる時間垯だった。
    「効ちゃんず矎人さんの邂逅は、真倜䞭だっお蚀っおたっぺな。早すぎだけど、だいじないだいじょうぶか」
    「ちょうどええよ。今からしばしは、魔が寄る時刻や。釣り出すには、打っお぀けやわ」
    「た、ここたで問題なく来れおよかったっぺよ。職質受けたら、銃刀法違反は間違いなかったっぺ」
    「神噚じんきやぞ 只人の目ぇに映るもんやないで。お前の匏だっおおんなじや。そのデカ槌も、倧男っぷりも、人目に぀いたらあかんやん」
    「いやどうも。神䜿しんしっ぀こず、぀い忘れっぺよ」
    「しっかりせなあかんやろ、䞻殿」
    「なんちゃねヌべ」

     無駄口叩きながらも蟿り着いた山の祠は、黄昏の䞭にポツンず建っおいた。
     倧きく欠けた向拝ごはいず屋根、ひび割れお傟いた母屋もや、䜕が祀られおいたのかわからない空掞の内郚は蜘蛛の巣だらけで、ぱっず芋だけでもかなり裏寂しい。

    「ここ、叀墳なんだっぺ にしおは  なんか  クセェ。効ちゃんの郚屋ず同じ臭いがすっぞ」
     祠に近づくに぀れ、錻の頭に皺を寄せる長人の埌ろで、倧男がぐるるぅず喉を鳎らした。憀慚する狌の䜎い唞り声だった。
    「䞻。来るぞ」
     槌斗の声ず共に、祠の台座だいざ呚蟺から䞀斉に噎き䞊がるように癜霧が立ち昇った。あっずいう間に、蟺りが癜䞀色に塗り替えられる。
    「巳寿」
    「長人 油断するな」
     お互いの姿が朧になるのを、声を掛け合い、背䞭合わせに立っお構えた。
     槌斗が倧槌を振り䞊げ、暪殎りに振り切った。しかし霧は少しも薄れない。ゆらず癜い空気が動いただけだった。
    「厄介やな。気配が濃いわ」
    「薙ぎ倒せばいいっぺ。そのための神剣だっぺよ」
    「そう簡単にはいかぞんお」
    「確かに、簡単じゃねぇっぺな。こりゃ、波路じゃ無理だ。化け母様呌ぶか」
    「いや、母様に面倒かけたらきず぀ないで。なんしか、しゃあない  筑波嶺の二柱の倧神に乞い願い奉る。荒ぶりし劖の呪しゅ断ち退きお、安穏もたらせ絊う  」
     巳寿は祈りながら倩茚魂あめのうばたたを抜き攟った。盎刀の銀刃が霧の䞭にきらりず光る、ず同時に。
    「はヌっ」
     鋭い気合いの声ず共に、癜刃䞀閃。䞀文字の光の筋が癜い霧を裂き、すぅヌっず霧が薄れお消えお行った。
    「おヌ、お芋事。぀っちヌ、続け」
    「承知」
     霊閃れいせんの跡を远うように、槌斗の倧槌が打ち振るわれる。ブンっ、ガンっ、ドンっず鈍い音が立お続けに呚囲を巡り、音が重なるうちに、蟺りの霧はゆるゆるず消え、やがおすっかり払われた。が、それで終わりではなかった。呚囲に景色が戻った途端、無数の棘が぀いた蜘蛛の脚が土䞭から突き出され、勢い぀けたたた巳寿ず長人に襲いかかった。

    「棘  茚の意趣返しやん。いちびおんちゃうぞ」
    「退け 巳寿」
     埡神酒埳利を地に叩き぀け、神酒が地面に染み入る間に、九字印を玠早く結んだ長人が叫んだ。
    「臚・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行  雷聖らいしょうよ、祓えよ」
    「倩茚魂、茚柵うばさく玡ぎお城じょうず成せ」
     巳寿も叫び、神剣を氎平に構えお、蜘蛛脚を薙ぎ切るように真暪に振り切る。
     ガチガチっ、バキバキバキッず固い枝を叩き切るような感觊が、盎刀の柄を握る手に䌝わった。振り切った神剣から、鋭い棘が幟重にも重なりながら線み䞊がるように䌞び、組たれた枝ず棘が巚倧な柵状に圢成されおいく。
     棘付きの蜘蛛脚から巳寿ず長人を護るように、呚蟺に壁ずなっお広がった茚の柵は、䞊に玫色の雷光を跳ねさせ、蟺りを玫癜しはくに照らし出した。
     その光の䞭に、ふいに癜い着物、長い黒髪の女が䞀人、浮かび䞊がった。
     劙霢の矎女であるようだが、皲光いなびかりが発光する郜床、印象が少女にも老女にも芋え、倖芋が揺らいでブレお、はっきりず定たらない。

    「お出たしだっぺ」
    「䞀䜓か  」
     油断なく蟺りに芖線を走らせる二人に、癜い女は音もなく近づいた。
    「来たか、黒坂呜」
     陰哀を含んだ声が、頭の䞭に響いた。
    「我らが仇敵、朝廷の回し者  いただ恚み远いやれぬ真敵、黒坂呜  」
     呪詛めいた蚀葉だったが、声音は静かだった。怒りの䜓を成しおいなかった。それが华っお、深淵萜ちすぎお結晶ず化した恚みの念を思わせた。

    「うぬが祖が、我が䞀族を茚の逌食ず成したこず、忘れたずは蚀わさぬ」
     女の蚀葉に、茚の壁の倖でメキメキっずひしゃげ刺さる音が響きだす。棘持぀蜘蛛の脚が、茚の柵を貫こうず動き出したのだ。
    「䞀族党おが、棘に刺されねばならぬほどの眪を、犯したず蚀うのか  」
     声に、じわりず陰湿さが滲んだ。女の問いかけに、巳寿は䜕も答えなかった。
    いや、答えられなかった。

    「幌老男女の氞の怚心おんしん、その身以っお受け莖あがなえ 黒坂呜」
     名を呌ばわった声は絶叫だった。同時に女の茪郭が厩れた。ズザザザヌっず、䜕か匕きずるような音ず共に、女のいた堎所から無数の蜘蛛の脚が巳寿ず長人、槌斗に襲いかかった。

     長人を庇っお、槌斗が地を蹎った。振り䞋ろされた倧槌が、倜気を裂き、土を巻き䞊げる。しかし、巳寿は動かなかった。
     芖線だけ動かし、気配を探る。

    ヌヌどこや 本䜓は  。蜘蛛  土蜘蛛  土  蜘蛛。  土。
     はっず巳寿の目が芋開かれた。
     竪穎たおあなを掘っお、土の䞭に暮らす者たち、だから土蜘蛛ず、そう呌ばれた。た぀ろわぬ者たち、埓わぬ者たち  。だから、土の蜘蛛、だず。

    「ここや 長人 槌斗」
     声を匵り䞊げた巳寿は、倩茚魂あめのうばたたを䞡手で握り、高く振り䞊げ、足元の土に真っ盎ぐ突き立おた。深く穿っお、土塊匟き飛ばしながら神剣を匕き抜く。間髪入れず、穿たれた穎䞊を槌斗の倧槌が叩き、そこに重なるように雷光が萜ちお、激しい光ず音を匟かせた。

     ドォォォヌンッ

     巳寿は、「刀印ずういん」を取った長人の方ぞず飛び退き、その傍に槌斗が走り寄る。
     耳を぀んざいた音が消えるず、オゟン臭が挂う䞭、薄い靄もやのような土埃が流れ行き、ややしおシンず静たり返った。

     巳寿の足元、ほんの僅か前の土が、抉られ捲り䞊がり、瞁が黒く焊げお、シュりっず现い煙を立ち䞊らせおいた。巳寿は、焊げた地面を睚み据え、すっず片手を䌞ばすず、空をぐっず握り蟌んだ。しばらくそのたた動きを止めたが、握った片手を匕きよせ、目を萜ずし、しばし芋぀めおからゆっくり開く。ず、ごくごく现い、絹糞のようなものが埮かに光り、すうっず颚に乗っお消え散った。
     むぅっず巳寿は唇を匕き結ぶ。
     そんな巳寿に、長人が歩み寄った。
    「巳寿、祓えたっぺか」
    「    」
     空の掌を睚んだたただった巳寿が、ゆるっず頭を振った。
    「手応えはあったんやが  」
    「倱敗か 逃げられた」
    「䌊達に、叀ふるりおるだけやなかったちゅうこった。けど、もう、圓分は悪さできひんよ」
    「お灞は据えられたっおこずだっぺ」
     ふぅず息を぀いた長人に、巚狌の姿に戻った槌斗぀ちずが駆け寄った。
    「で ここ、どうすっぺ 塞いどくか」
    「いや、塞いだら、拠り所移すだけやろし。ここが巣ずわかったんやから、たた集぀どったら、散らしゃええ。やから、なんもせんでええよ」
    『我も、それが良きず思うぞ。䞻』
    「なヌん。んなら、たんたっおこっお、戻っぺよ」
    「ああ、垰ろう。槌斗、助かった。はばかりさんやったな」
    『なんの。黒坂殿。なれば、䞻。たたいずれ』
    「お疲れちゃん。぀っちヌ」
    『ちぅるを埅っおおるぞ』
     催促を忘れず告げお、巚狌が消える。
     長人ず二人きりになるず、巳寿はゆっくり呚囲を芋回した。

     なんの気配もなかった。虫の音も颚の音も䜕䞀぀音も動きもなく、ただただ静たり返った倜の垷が降りおいるだけだった。
     逢魔時はずうに過ぎお、深倜にさしかかる時刻になっおいた。欠けゆくばかりの现い月が、倜空に䟘しい光を攟っおいる。
     巳寿は長人ず顔を芋合わせ、無蚀で頷きあうず、螵を返した。


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    䞃

     日付はただ倉わらないが、それなりに遅い時刻になっおいた。研究所ぞず向かいながら、巳寿みこずは小矜李こはりに電話を入れた。
    「様子はどうや」
    『糞が消えた。綺麗になくなっおる。矎流みるの顔色も良くなっお、今は熟睡しおるよ』
     少し安堵したような小矜李の声に、巳寿はホゥっず息を぀いた。
    「そか。ひずたずカタは぀いた。もう郚屋そこを出おも倧䞈倫や」
    『ありがずう、ありがずう、黒坂。今床、瀌に䌺うよ』
    「ええよ。むしろ、近づかん方がええ。うちに来よったら、たたなんか拟うやもしれん。せっかく障りのうなったんやから、気ぃ楜にしずいたほうがええで」
    『そ、そうか。じゃあ、所長さんずお仲間にもありがずうず䌝えおくれ。本圓に本圓に感謝しおるっお』
    「あぁ。じゃあな」

     スマホの通話を終了させるず、長人ながずがぜりぜりず頭を掻きながら寄っおきた。
    「兄ちゃん、なんだっお」
    「糞が消えお、よく寝おはるず」
    「そりゃあよかった。これで郚屋出られる。トむレも行けるっぺよ」
    「お前  」
    「なヌん。必須なこずだっぺ」
    「そうやけど  」
    「なんか、ただ気にしおっぺな」
    「かなり劖力削ったし、たた圢なり持぀たでは、盞圓の刻が入り甚のはずやから、今気にしおもせんないこっちゃ。なんしか、長人もお疲れさん」
    「俺は暎れたらん。なしお、いっ぀もミコっちだけ切った貌った係なんだ 俺だっお、䞀応は歊士の子孫だっぺよ」
    「俺に文句蚀われおも、なぁ。所長に盎蚎すりゃええやん」
    「いじやけっど、しゃヌあんめぇな。た、次に期埅すっか。俺も神剣貰いたいし」
    「えぇご身分さんで」
     呆れたじりに答えた巳寿を、じろっず芋やった長人がむくれたように頬を膚らたせた。巳寿はそんな長人を無芖しお、歩き出す。ちょっず進んで、肩越しに振り返った。
    「さお、急ごやないか」
    「んだ。垰ったら、たず颚呂入っお、そっから呑むぞヌ。祝杯じゃないのが、シャクだけんども」
    「蚀わんずき」
     フヌッず息を぀いた二人は、ニダッず笑い合うず、蚘囜霊異研究所ぞの垰路を歩み出した。

     最終電車で研究所に戻るず、神郜じんずがカりチ゜ファに寝そべっおいた。
    「たヌだいたヌ。おっちゃん、終わったっぺよ」
    「お垰りぃ。お疲れ様だったね。で、どうだった」
    「祓いきる寞前、逃げられたわ」
    「ぞぇ、珍しい。巳寿くんが仕留め損ねるなんお。あ、もしかしお、逃がしおやったのかい」
    「いや。叀ふりた劖だけに、䞊手い逃げ方されお、防ぎ切れなかっただけや」
    「俺も間に合わんかった。敵ながらあっぱれな退きっぷりだったっぺ」
    「そっかぁ」
     どこか嬉しそうな顔぀きで、報告を聞いた神郜はゆっくり頷いた。

    「おっちゃん、俺、颚呂もらうっぺよ」
    「腹、枛ったりしおないのか 米ならあるよ」
    「出たら貰うっぺ。飯も欲しいが、先に臭い祓いたいっすよ。こんな臭い぀けたたた、飯食いたかねぇっぺ」
    「わかった。甚意しおおくよ。お茶挬けでもいいかい」
    「ぶぶ挬け  」
    「あ ここはバラキだぞ 定番のアレずか蚀うなよ 巳寿くん」
    「蚀わしたぞん。俺も、盞䌎あづかりたしょか」
    「ははは。じゃ、たくあんも぀けよう」
    「よろしおすな。じゃ、シャワヌ济びおきたすわ」

     報告を聞き、颚呂だ食事だず䌚話をしおいる間に、窓の倖は癜々ず癜み始めおいた。もう明け方なのだ。だが、ただ宀内は仄暗い。
     そんな宀内倩井隅に、现い糞を匕いお小さな蜘蛛が降りおきた。现く長い足を持ち、䞞い腹郚に黄色の茪筋を持぀女郎蜘蛛だった。颚もないのに、ふわりず揺れおは、壁に觊れお糞を継ぎ、新たな糞を吐いおは、せっせず動き、レヌス線みのような现やかな巣を䜜り䞊げおいく。
     やがお、巣の䞭倮に、䞞く座を線み䞊げるず、女郎蜘蛛はそこにじっず止たった。

    「おや」
     出来立おの蜘蛛の巣を芋䞊げお、神郜はクスッず笑った。
    「これはこれは  。思わぬ同居人が増えたな。ようこそ、ず蚀うべきか」

     でろん、ずカりチ゜ファに仰向けに身を䌞ばしおいる神郜に、返事をするように巣の䞭から぀ヌっず糞を䌞ばしお女郎蜘蛛が降りおきた。

    「所長はん。居間で長人が飯を埅っおたすわ。どないしたす」
     シャワヌを济びお濡れた髪をタオルで拭いながら神郜を呌びにきた巳寿が、宀内に入っおきた途端、ふず倩井を芋た。芖線の先で、女郎蜘蛛がぷらぷらず揺れおいた。

     長い長い刻の果お  消せなかった深い深い怚念の行き着いた先  。

    「ああ、今行くよ。巳寿みこずくん、先に行っお、梅干しの壺、出しずいおくれないか」
     バッずカりチに起き䞊がった神郜が、巳寿に蚀うず、巳寿はチラず蜘蛛を芋やっおからこくりず頷き、母屋に繋がる倖廊䞋ぞず出おいった。
    「た、来たばかりだろうから、今はゆっくり䌑んでいいよ。あ、倖には出ないようにね」
     巳寿の埌を远うように宀倖ぞず出かけ、ふず振り返った神郜は、女郎蜘蛛に声をかけ、パチンず電気を消しお戞を閉めた。
     ほんのり暗がりに萜ちた宀内には、蜘蛛の巣だけが、柔く淡い光を攟っおいた。

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                       了

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    竹治

     
     
    竹治(たけはる)です。 アニメ挫画特撮、小説が倧奜きです。 AI猛勉匷䞭。䜿甚AIは以䞋䞉぀。 ChatGPT (OpenAI) チャッピィ ClaudeAnthropicクロッち GeminiGoogleゞェミニン Copilot (Microsoft) コッピヌ❌