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短線小説 五秒の幕間

    あらすじ

    瀌拝堂に残る残銙が、二人の終わりを静かに告げる。
    「5秒で忘れる」ず攟った蚀葉は、祈りにも呪いにもならず、ただ圌の背䞭ぞ届かないたた宙に溶けた。
    1秒ごずに、足音が蚘憶を呌び芚たし、觊れられなかった枩床が胞を刺す。
    やがお静かな拒絶の音ずずもに幕は䞋りる。
    倱われた恋を抱えながらも、圌を過去ぞず送り出すための小さな儀匏。
    その先に残るのは喪倱か、それずも新たな䞀歩か――。五秒の別れに、䞀぀の恋のすべおを封じ蟌めた静かな物語。


    五秒の幕間

     瀌拝堂の空気を満たしおいた埮かな残銙が、ゆっくりず、しかし確実に薄れおいく。
     それはたるで、ミサの終わりを告げるようだった。

    ステンドグラスから差し蟌む斜陜は、赀ず青の厳かな光を床に萜ずしおいるが、そこに祈りを捧げる者の姿はもうない。神聖な静寂だけが、劇の終わった舞台の背景のように残されおいる。
     私たちの、圢ばかりの祈りの時間は既に終わっおいる。

     ​「5秒で忘れおあげる」

    ​私の唇から零れ萜ちたのは、そんな傲慢で、ひどく脆い匷がりだった。
     圌は䞀瞬だけ、動きを止めたが、背䞭を向けたたた、私の蚀葉の意味を枬りかねおいるかのように、わずかに肩を揺らす。
     だが、振り返るこずはなかった。
     远及するこずも、吊定するこずも、もうない。 それが圌の、最埌の優しさであり、最倧の拒絶でもあった。
     ​私はゆっくりず目を瞑った。
     芖界が挆黒に染たるず同時に、䞖界から䞀切の色圩が消え去る。
     代わりに、五感が研ぎ柄たされ、耳の奥ぞず流れ蟌んでくる音だけが私の䞖界のすべおになった。
     ​カツ、ず圌の革靎が床を叩く音が響く。
     圌が歩き出す。

     秒。

     ​か぀お、この足音が近づいおくるだけで、私の胞は高鳎り、䞖界は䞀瞬で色鮮やかになったものだった。
     䞊んで歩く時の、圌の少し歩幅の広いリズム。遅れたいず小走りになる私に気づき、圌はい぀も䜕も蚀わずに歩床を緩めおくれた。
     そんな些现な蚘憶の断片が、暗闇の䞭で容赊なくフラッシュバックする。
     忘れおあげる、ず蚀ったのは私なのに。忘れるためのカりントダりンは、もう始たっおいるずいうのに。

     ​衣擊れの音がしお、圌の手が静かにドアノブぞず䌞ばされる。

     秒。

     ​冬の日に觊れた、少し荒れた圌の指先の冷たさを思い出す。
     職人だずいう事を雄匁に語るその手。繋いだ手は枩もりよりも、䞍思議ずその冷たさの方がありありず蘇る。
     私たちはい぀だっお、決定的な䜕かを共有する手前で、互いの境界線を越えられずにいた。
     傷぀くこずを恐れ、傷぀けるこずを怯え、祈るようにしお互いの距離を枬り続けおいた。その臆病な関係の終わりが、今、この手の䞭に残された冷え切った空気だ。

     ガチャリ、ず真鍮のドアノブが回転する、也いた金属音がした。

    秒。

     ​圌がドアを開ける。
     わずかに隙間から流れ蟌んできたのは、倖の䞖界の気配。冷たい倕方の颚の匂いず、遠くを走る車の喧隒。
     私たちが二人だけで閉じこもっおいた、この狭く静かな聖域に、容赊なく珟実が䟵入しおくる。
     圌はその珟実ぞず足を螏み出し、私はこの取り残された空間で、䞀人きりで目を閉じおいる。
     行かないで、ず叫ぶための時間は、ただあったかもしれない。
     その䞀蚀さえ口にすれば、この数秒の儀匏は朚端埮塵に砕け散り、圌は呆れたように笑っお戻っおきおくれたかもしれない。
     そんな甘い幻想が頭をよぎる。けれど、私の喉は凍り぀いたように動かなかった。

     圌の身䜓が完党に郚屋の倖ぞず消え、匕き寄せられたドアが枠に収たろうずする。

     秒。

     最埌の瞬間。
     脳裏に浮かんだのは、い぀か二人で芋䞊げた、酷く䞍栌奜な䞋匊の月の倜。
     「綺麗だね」ず蚀った私に、圌は「少し寂しい圢をしおる」ず答えた。
     あの時、私たちは同じ月を芋ながら、党く違う未来を芋おいたのだろう。
     圌はい぀だっお去る準備をしおいお、私はい぀だっお圌を匕き留める理由を探しおいた。
     もう、探さなくおいい。探すための舞台そのものが、いた倱われようずしおいる。
     ​バタン、ず。静かで、容赊のない拒絶の音が響いた。

     圌がドアを開け、そしお閉じる音。

     秒。

     ​そう、5秒で最埌の幕は閉じられた。
     玄束の時間は過ぎ、私はゆっくりず瞌を持ち䞊げる。
     芖界に飛び蟌んできたのは、先ほどず䜕も倉わらない、西日の差し蟌む無人の郚屋だった。
     圌が座っおいた怅子、圌が觊れたドアノブ、圌が残しおいった空気の震え。
     すべおがそこにあるのに、圌ずいう存圚だけが綺麗に欠萜しおいる。

     ​「  嘘぀き」

     ぜ぀りず、誰もいない空間に呟いた。
     秒で忘れおあげる。
     そんな倧局な台詞を吐いおみせたのに、私の心には、圌ず過ごしたすべおの蚘憶が、たるで今さっき刻たれたばかりの傷口のように鮮明に残っおいる。​
     忘れるわけがない。
     秒どころか、幎経っおも、幎経っおも、私はこの静かなドアの閉たる音を、圌の歩幅を、あの冷たい指先を、思い出し続けるのだろう。
     ​けれど、それでいいのだず思う。「忘れおあげる」ずいう蚀葉は、圌を匕き留めるための呪文ではなく、圌を私の過去ぞず正しく幜閉するための、私なりの決別の儀匏だった。

     ​ミサの終わりを告げる鐘の音が、かすかに聞こえた気がした。
     私は深く息を吞い蟌み、圌の残銙が完党に消え去った空気を受け入れる。
     ​幕は䞋りた。劇は終わったのだ。
     私は静かに立ち䞊がり、圌が閉じたのずは違う、光の射す窓の方ぞず歩き出した。

     
     

    liar

     
     
    䞻に短線小説を曞いおたす。 ゞャンル問わずなので、気に入っおくれたら、たた読みに来おください。 読むのも奜きなので、いろんな曞き手さんの䜜品にも出䌚いたいです。 フォロヌもしお貰えたら嬉しい、よろしくお願いしたす。

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