
朽ちてなお、咲く

木は消えても、根はまだ土を離さない。
腐りながら、それでも何かを押さえている。
雨の気配が残る午後だった。切り株がひとつ、草の中に座っていた。どこに向かって伸びていたかも忘れたかのように、ただそこにあった。

壊れた場所にしか生えてこないものがある。
傷口は、光が差し込む穴でもある。
朽ちた根の隙間から、小さな草が顔を出していた。痛みの跡は、同時に、何かが始まる場所でもあった。

境界は、隔てるためにあるのか。
それとも「ここから先は別の世界だ」と教えるためにあるのか。
丸太を組んだ柵が斜面に並んでいた。柵の向こうに、ぼんやりとピンクが滲んでいた。

誰かに見られることを期待していない顔をしていた。
それでも咲いている。見られなくても咲くことを、花はずっと知っていた。
紫の花が、木陰の縁で咲いていた。暗い側から見ると、光の中の花は少し遠い。それでも、そこにあることがわかれば十分だった。

落ちたのではなく、降りてきた、という感じがした。
苔の上に広がる赤は、終わりというより、別の始まりの色だった。
赤い花びらが地面を覆っていた。木の幹の根元、苔の緑の上に、鮮やかな赤が静かに積もっていた。

足元ばかり見ていると気づかないが、
顔を上げれば、道はまだある。
道は、暗い手前から光の奥へ続いていた。花びらが散らばる路面を、誰かが歩いたのか、風が通ったのか。
朽ちたものの隣で、何かが咲いていた。それだけのことが、今日の全部だった。
写真・文 Noboru
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