
お城と、女の子と、旅人が遺した首飾り 第八話(最終話)
「ただいま」
女の子は、少しくたびれた様子で帰ってきた。
部屋の埃を払い、バスタブにたっぷりとお湯を張り、靴を脱ぎ、服を脱ぎ、お湯に沈み込む。
髪も、顔も、手足も、体も、全部念入りに洗いあげ、バスローブを羽織って、当たり前のように二人分のお茶を淹れた。
そして、持ち帰った小さなバッグから、四角い金色の飾りのついた古い首飾りを出して話し始める。
「これはね、遠くの町でもらったの。川の向こうの、南の国の、山の上の小さな町の小さなレストラン。マスターの作るハンバーグと、花のように綺麗なママさんが人気でね。そこでは、小さな男の子が走っていたわ。旅の合間に、何度か行ってみたのよ。男の子はどんどん大きくなり、やがて父親になった。……マスターの姿が見えなくなった年、奥さんからこれをもらったの。『あの人が、あなたにと』。それっきり、もうあの店を訪れることはなかったの」
女の子は、首飾りを愛おしそうに見つめる。
「ヘンでしょ。あの人はもう、ここへは取りに来れないのに」
そして女の子はベッドに倒れ込み、
「続きは明日ね」
そう言って、小さな寝息を立て始める。
城は黙って聞いている。
今夜の月明かりは、妙に優しいな、と思いながら。
了