
小人たちに 会いました
夕暮れ前、森の中にいました。
昨夜降り続いた雨に、地表や樹幹は濡れたままです。
それでも、どれだけかの雨水は、昼間の陽光で目に見えない水の粒になったようです。
どおりで空気はしっとりとして、うすいうすい葛湯の中にいる感じがしました。
笹を踏みかけた足を止め、横にいる太いコナラの幹に手の平を当てました。
雨水を保った木肌は柔らかく、樹皮には名前の分からない淡い緑の苔がポツンポツンと広がっています。その苔に交じってほんの少し赤みを帯びた薄い焦げ茶色のキノコが点々と生えていました。
よく見れば点々どころか、二十も三十も生えています。
丸いニット帽のような傘をかぶったキノコたちはコナラの樹を棲み家にしている小人たちに見えました。
小人たちの名前は分かりません。
名前は分かりませんが、これ以上は大きくならないんじゃないかと思えました。
自分たちが今いるコナラの幹に飛んできたように、新しい胞子を飛ばす時を静かに待っているように見えました。
ゆっくり進むと、空気のしっとりさと微かなとろみを感じます。
ケンポナシの樹の横で立ち止まりました。
ぼくの背丈よりも少し高いところに、白く丸い実が枝葉から垂れ下がっています。
エゴノキの実でした。
エゴノキの花は枝葉の陰で下を向いて咲きます。3センチにも満たない小さな白い花たちは枝葉を離れると、落ち葉で焦げ茶色だった地表を真っ白に変えます。
その花たちに代わって、今は白く丸い実が膨らみ始めています。
その実の先端には天ボタンのようなポッチがあって、白い帽子に見えました。

少し離れてエゴノキを見ると、小人たちのお揃いの帽子が枝葉に掛けられているようです。たくさんの小人たちは、何処へ遊びに行ったのでしょうか。
エゴノキから少し進むと落ち葉の上に倒木が一本。
かがんで見ると、幹の割れ目から小さなキノコが四、五本出ています。
また小人だなと地面に膝をつけて、キノコに目を近づけました。
倒木の割れ目から伸びたキノコの柄は細く半透明で2,3センチしかありません。
その細い柄の上には直径が1センチほどの傘がついています。傘の中央はわずかにへこみ、うすい茶色でした。
その中央から放射線状に浅い溝がたくさん走っています。
まるで三度笠をかぶった小人が立っているようです。
時代劇にでも出るつもりなのでしょうか。

倒木をまたぎ越して、ケンポナシの樹を振り返ります。
緑の葉の中に小さな花がたくさん見えました。
枝葉を離れた花が地面にもたくさんありました。
手に取ると、小指の爪ほどの花はうすい水色でした。
しっとりとした空気が、小人たちに会わせてくれたような気がします。
天井をつくる背の高い樹々を見上げ、ぼくも小人になったような気がしました。