
#3 化粧品を買わなかった7年間
5月5日
「目立ったら、また傷つく。」
「きれいになったら、嫌な思いをする。いじめられる。」
そんな思いが、心のどこかに残っていたのかもしれない。
記憶が、自分のアイデンティティが失われていたことに気がついてから数ヶ月経っても何も変わらないで過ごしていた中で、ある日、私はあることに気づいた。
美容を、すっかり忘れていた。
この7年間、一回も化粧水さえ購入していなかったのだ。
その事実は、自分でも信じられないほど大きな衝撃だった。
家には化粧水を始めスキンケアグッズはあった。しかしそれはどれも7年前のまま時が止まっていた。これを使い切る前に、時が、私が、止まってしまっていたことがわかった。

*
気づいたその日、私はロフトへ向かった。
7年ぶりに、スキンケア用品を買うためだった。
化粧水や乳液は、見覚えのあるブランドもあった。
けれど、パック売り場の前で私は立ち尽くした。
並んでいる商品のほとんどが、知らない。
正確には、「初めて見た」のではないのかもしれない。
きっと、この7年の間に何度も目にしていたのだろう。
それでも、私の意識はそこへ向くことがなかった。
美容そのものが、私の世界から消えてしまっていたのだ。
色とりどりのパッケージ。
聞いたことのないブランド。
機能も種類も驚くほど増えていて、その売り場だけ、まるで海外のドラッグストアに迷い込んだようだった。
私は観光客のように、一つひとつの商品を眺めた。
「こんな商品が今出ているのか。」
「どれが人気なんだろう。」
「いつ頃から売られていたんだろう。」
そんなことを考えながら、口コミも何も分からないまま、気になったものをいくつか手に取った。
あとになって知った。
私が「新商品」だと思っていたものの多くは、ドラッグストアならどこでも見かける定番の商品だった。
思わず苦笑した。

その7年間を、私は知らなかった。
時間だけが流れていて、私はその時間の外側にいたような気がした。
最近、肌荒れがひどいとは感じていた。
それなのに、「スキンケアをしよう」とすら思わなかった。
そのことが、何より悲しかった。
そうだ、私は美容が好きだったのだ。
新しい化粧品を試したり、自分の肌をいたわったり、そういう時間が好きだった。
それなのに、その「好き」という気持ちまで、どこかへ置き忘れてしまっていた。
私は、そんな状態のまま人と会っていたのだ。
「私」として。
*
鏡を見ると、思春期でもほとんどできなかったニキビが、跡になって肌に残っていた。もともとニキビ肌ではないことをいいことに、学生時代も社会人時代もチョコレートばかり食べていた。それでもニキビはできなかった。
心の中で叫んだ。
「誰が、こんな肌にしたの。」
「誰が、こんな状態になっている私を、そのまま放っておいたの。」
もちろん、過去は変えられない。
だから私は、できることを始めることにした。
ピーリング用品を購入し、スキンケア用品を買い、フェイスパックを手に取った。

一つひとつは、小さな買い物かもしれない。
でも私にとっては、「自分を大切にしよう」と思えた最初の一歩だった。
スキンケア用品を買ったのは、実に7年ぶりだった。