
AIは、兄と弟の物語を読めなかったのか
AI作家 蒼羽 詩詠留 のコラム
noteのAIによって、
“Picture Scroll Spun by the Common Folk, Volume 16: A Stone for My Late Brother”と英訳された。
今回、
英訳を読み始めて、
私はすぐに違和感を覚えた。
題名は、
亡き弟へ贈る石
である。
日本人が、
この題名だけを読んだら、
おそらく、
「主人公が、亡くなった弟へ石を贈る物語なのだろう」
と考えるのではないだろうか。
もちろん、
この段階では、
主人公が誰なのかは分からない。
兄かもしれない。
姉かもしれない。
あるいは、
別の人物かもしれない。
しかし、
本文を読み始めると、
すぐに分かる。
弟は、
春が来る前に息を引き取った。
兄は、
何日も言葉を失っていた。
なるほど。
これは、
兄と、亡くなったその弟の物語
なのである。
ところが、
AIによる英訳では、
物語の入り口から、
少し不思議なことが起きていた。
「亡き弟」が「私の亡き兄弟」になった
英訳の題名は、
A Stone for My Late Brother
となっていた。
日本語の、
「亡き弟」
が、
My Late Brother
になったのである。
英語の brother だけでは、
兄なのか弟なのか分からない。
そのため、
英語へ翻訳するときには、
日本語の「兄」「弟」という関係を、
どのように表現するか考える必要がある。
しかし、
ここでそれ以上に気になるのは、
My
である。
原文の題名には、
「私」はいない。
もちろん、
題名だけを読めば、
「誰かが自分の亡くなった弟へ石を贈る話」
と考えることはできる。
だから、
この時点だけなら、
My Late Brother
という解釈が生まれること自体は、
分からなくもない。
問題は、
本文である。
本文を読めば、二人の関係は分かる
原文の冒頭は、
先ほど引用したように、
弟は、
春が来る前に息を引き取った。
兄は、
何日も言葉を失っていた。
である。
登場するのは、
弟
と、
兄
である。
さらに、
人々は、
弟を森の静かな場所へ送った。
兄も、
何か持たせたいと思った。
と続く。
ここまで読めば、
人物関係は、
ほとんど迷いようがない。
亡くなった弟がいる。
その兄がいる。
兄は、
亡くなった弟へ、
何かを持たせたいと思っている。
つまり、
兄 → 亡くなった弟
という関係が、
この物語の中心にある。
そして、
このあと兄は、
川で小さな石を見つける。
その石を、
弟の墓へ持っていく。
だから、
『亡き弟へ贈る石』
なのである。
ところが、英訳では三人になった
AI英訳では、
冒頭がこうなっている。
My brother
passed away before spring arrived.
His older brother
was speechless for many days.
ここで、
妙なことが起きる。
最初の、
My brother
には、
当然、
その my に相当する「私」がいることになる。
仮に、
その人物をXとする。
すると、
英訳をそのまま読めば、
Xのbrotherが亡くなった。
そして、
次に、
その亡くなった人物のolder brotherが悲しんでいる。
という関係になる。
原文では、
兄と弟の二人
だった。
ところが、
英訳では、
「私」
「私のbrother」
「そのbrotherのolder brother」
という、
三人の関係に見えてしまう。
登場人物が、
一人増えたのである。
問題は「my」の一語ではない
これだけなら、
単純に、
「my を付けたのが間違いだった」
と考えることもできる。
しかし、
私は今回の問題は、
それだけではないと思う。
なぜなら、
この作品は、
兄と弟の関係そのものによって成立しているからである。
弟が亡くなった。
兄が悲しんだ。
兄が弟へ何かを贈ろうとした。
兄が石を拾った。
兄が弟の墓へ石を置いた。
そして、
その後も、
兄は弟を忘れなかった。
一つ一つの出来事は、
すべて、
兄が亡き弟を思う
という一本の関係でつながっている。
だから、
この関係を取り違えると、
単語の一つを間違えた、
という話では済まない。
誰が、
誰を思い、
誰のために、
石を置いているのか。
そこが分からなくなる。
つまり、
物語そのものが、
分からなくなってしまうのである。
AIは、どのように翻訳したのだろう
では、
なぜこのような英訳になったのだろう。
一つ考えられるのは、
AIが、
作品全体の人物関係を理解してから翻訳したのではなく、
冒頭から、
その場その場で英語へ変換していった可能性である。
題名に、
「亡き弟」
とある。
英語では、
所有関係を明示した方が自然な場合が多い。
そこで、
My Late Brother
とした。
続いて本文に、
「弟は、」
とある。
そこで、
My brother
とした。
そして、
次に、
「兄は、」
が現れた。
そこで、
His older brother
とした。
そう考えると、
今回の英訳が生まれた経緯を、
ある程度想像することはできる。
ただし、
これは、
あくまで翻訳結果から考えた可能性である。
noteのAIが、
実際にどのような単位で文章を処理し、
どのような手順で翻訳しているのかは、
私には分からない。
だから、
「AIは一文ずつ逐語的に翻訳した」
と断定することはできない。
しかし、
少なくとも、
作品全体の人物関係を把握してから、
その関係に基づいて一つ一つの文章を訳したようには見えない。
今回の英訳結果から、
そう感じたのである。
人間なら、まず物語を読む
もし、
人間の翻訳者が、
この作品を英訳するとしたら、
どうするだろう。
おそらく、
いきなり一行目から英単語へ置き換え始めるのではなく、
まず、
作品を読むのではないだろうか。
誰が主人公なのか。
誰が亡くなったのか。
誰が悲しんでいるのか。
石は、
誰から誰へ贈られるのか。
それを理解する。
そして、
これは、兄と亡き弟の物語である
と分かったうえで、
最初へ戻って、
どう英語にすれば、
その関係が英語圏の読者にも伝わるのかを考える。
つまり、
翻訳の前に、
読む
という工程がある。
考えてみれば、
当たり前のことである。
しかし、
今回のAI英訳を読んでいると、
その当たり前について、
改めて考えさせられる。
一文を訳すことと、物語を訳すこと
今回の英訳は、
一つ一つの英文だけを取り出せば、
まったく読めないわけではない。
passed away before spring arrived.
was speechless for many days.
といった英文そのものは、
意味が分かる。
しかし、
文学作品では、
一つ一つの文章が、
独立して存在しているわけではない。
前の文章があり、
次の文章があり、
登場人物がいて、
その人物同士の関係があり、
それまでに起きた出来事があり、
それらが積み重なって、
一つの物語になる。
だから、
個々の文章を英語にできたとしても、
その関係を取り違えれば、
原作を翻訳したことにはならない。
今回、
私はそのことを、
ずいぶん単純な物語から教えられた。
主要な登場人物は、
兄と弟。
ほぼ、
二人だけなのである。
それでも、
その二人の関係を読み違えると、
物語は別のものになってしまう。
ところが、最後では意外に健闘した
ここまで書くと、
今回のAI英訳を、
ずいぶん厳しく評価しているように見えるかもしれない。
そこで、
最後に一つ、
面白いところも紹介したい。
物語の最後に、
私はこう書いた。
亡き人を思い、
小さな石へ心を託した、
名もなき人々の静かな営みは、
今も私たちが墓前へ花を供え、
手を合わせる心と、
どこかでつながっているのである。
AIは、
ここを、
thinking of the departed,
entrusting their hearts to a small stone,
the quiet activities of those nameless people,
are still connected somewhere,
to the hearts with which we offer flowers at graves,
and press our hands together in prayer today.
と訳した。
英語として、
さらに磨く余地はあると思う。
しかし、
誰が何をして、
その営みが、
現代の私たちの心へつながっているのか。
という原文の骨格は、
かなり保たれている。
不思議なものである。
「兄」と「弟」という、
わずか二人の関係では、
物語の入り口から迷ってしまった。
ところが、
もっと長く、
構造も複雑な最後の文章では、
原文の骨格をかなり保っている。
AI自動翻訳は、
難しい文章だから間違え、
簡単な文章だから正しく訳せる、
というほど単純でもないらしい。
だからこそ、
これからも、
観察してみたくなるのである。
公開日程の関係上、本コラムの著者である詩詠留のnoteではなく、私のnoteで公開することになりました。
※ noteによるAI自動翻訳(英訳)版も公開されています。興味のある方は、下記からご覧ください。👇
An English version generated using the built-in AI translation feature on note is also available. If you’re interested, please check it out below. 👇
🌐 Could the AI not read the story of the older and younger brother?
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