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『灰色決算人』

    # 灯町の始末人

    ## 第一章 トイチの女

     南灯町(みなみともりちょう)の裏路地に、その看板は、ひっそりと出ている。

    「灯町相談所」

     弁護士でも、司法書士でもない。だが、この街で、金にまつわるトラブルを抱えた人間は、みな、まず、この事務所の扉を叩く。

    「──獅子堂さん、いてはります?」

     扉を開けて入ってきたのは、二十代半ばの女だった。化粧は濃いが、目の下には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。

    「──いるよ。座りな」

     デスクの奥から答えたのは、獅子堂錬(ししどうれん)、三十五歳。仕立てのいいスーツを、着崩したような着こなしで、纏っている。元は、灘見中央銀行の融資担当だった男だ。

    「相談って、金のことか」

    「はい……。実は」

     女は、震える手で、一枚の借用書を、テーブルに置いた。獅子堂は、それを一瞥し、眉をひそめた。

    「──『とかしや』、か。……相変わらず、汚い商売してんな、あそこは」

    「知ってるんですか」

    「南灯町じゃ、有名なヤミ金だ。……いくら借りた」

    「十万、です。……でも、もう、返済総額が、六十万を超えてて」

     獅子堂は、借用書の日付と金額を、指でなぞった。

    「トイチ、だな。十日で一割の利息。……年利に換算すると、三百六十五パーセント超えだ」

    「そんなに……!?」

    「ああ。……法律で決まってる上限金利、知ってるか」

    「いえ……」

    「出資法じゃ、年百九パーセント超えの金利は、刑事罰の対象になる。利息制限法じゃ、十万未満の貸付は、年二十パーセントが上限だ。……トイチなんて、その十八倍近い」

     獅子堂は、借用書を、指で弾いた。

    「つまり、これは──完全に、違法金利だ。あんたが、返す義務がある金額は、法律上、もっと、ずっと少ない」

    「本当、ですか」

    「ああ。……悪いようにはしない。俺に、任せてみるか」

     女の目に、初めて、微かな希望の色が、灯った。獅子堂は、静かに、しかし、確かな余裕を纏って、笑った。

    「──こういう手合いを、黙らせるのが、俺の商売だ」


    ## 第二章 出資法という武器

     依頼人の名は、田村美咲(たむらみさき)、二十六歳。南灯町のスナックで働きながら、実家の借金の肩代わりで、ヤミ金に手を出してしまったのだという。

    「──『とかしや』の事務所は、どこにある」

    「南灯町の、雑居ビルの三階に」

    「よし。……まず、内容証明郵便を、送るところから始める」

    「内容証明、ですか」

    「ああ。……法的な意思表示を、確実に、証拠として残すための、郵便の制度だ。『いつ、誰が、誰に、どんな内容の文書を送ったか』を、郵便局が証明してくれる」

     獅子堂は、慣れた手つきで、書面を作成し始めた。

    「この文書で、まず、二つのことを、通告する。一つは、出資法違反の高金利での貸付は、無効であること。もう一つは、以後の取り立てを、一切、拒否するという意思表示だ」

    「そんなことで、あの人たち、大人しくなりますか」

    「──なるかどうかは、こっちの、詰め方次第だ」

     獅子堂は、書面を書き終えると、美咲に、詳しく説明した。

    「いいか。……ヤミ金業者は、法律の知識がない人間を、狙う。逆に言えば、こっちが、法律を、正しく振りかざせば、向こうは、簡単には、手を出せなくなる」

    「なぜですか」

    「出資法違反は、刑事罰の対象だ。……つまり、あいつらは、警察に、捕まるリスクを、常に、抱えてる。下手に強引な取り立てをすれば、その証拠が、こっちに、渡ることになる」

    「証拠、ですか」

    「録音、書面、なんでもいい。……脅迫めいた取り立てがあれば、それだけで、恐喝罪の立件材料になる」

     獅子堂は、内容証明郵便を、その日のうちに、発送した。

    「──さて。……向こうが、どう出るか、見物だな」

     美咲は、不安そうな顔をしながらも、獅子堂の、落ち着いた態度に、僅かながら、安堵の色を浮かべていた。


    ## 第三章 取り立て屋の逆襲

     内容証明郵便を送った、その翌日。獅子堂の事務所に、いかつい男が二人、押し入ってきた。

    「──おい、獅子堂とかいうのは、お前か」

    「──ああ、俺だ。……『とかしや』の、若い衆かい」

     獅子堂は、動じる様子もなく、椅子に座ったまま、男たちを見上げた。

    「田村美咲の、借金の件で、余計な口を、挟んでくれたそうだな」

    「余計、じゃない。……法律の話をしただけだ」

    「法律なんぞ、俺たちには、関係ねえんだよ」

     男の一人が、デスクを、乱暴に叩いた。獅子堂は、僅かに、口の端を上げた。

    「──いいのか、それ。……今の、録音してるぜ」

    「な……!?」

     獅子堂は、デスクの引き出しから、小型のICレコーダーを、取り出した。

    「『法律なんぞ関係ねえ』、ね。……立派な、証拠になる」

    「てめえ……!」

    「まあ、待て」

     獅子堂は、落ち着いた声で、続けた。

    「──ここで、俺に、手を出せば、それこそ、傷害罪だ。しかも、こう見えて、俺も、それなりに、しぶとい。……あんたら、それで、割に合うと思うか」

     男たちは、獅子堂の、余裕の態度に、僅かに、たじろいだ。

    「──それとも、社長に、伝えるか。『灯町相談所』が、出資法違反の証拠を、集めてる、と」

    「……社長に、話す」

    「そうしな。……それが、賢明だ」

     男たちが、渋々、引き上げていった後、獅子堂は、静かに、レコーダーの録音を、確認した。

    「──さて。……これで、脅迫罪の、材料も、揃った」

     獅子堂は、この録音データを、今後の交渉の、切り札として使うつもりだった。法律の知識と、冷静な立ち回り。それこそが、獅子堂の、最大の武器だった。


    ## 第四章 弁護士、桐生雅子

     翌日、獅子堂は、録音データを持って、旧知の弁護士、桐生雅子(きりゅうまさこ)の事務所を訪れた。

    「──また、あんたか。……今度は、何の厄介事」

     桐生は、書類から顔を上げることなく、そう言った。灘見中央銀行時代からの同期で、今は、南灯町で、消費者問題を専門に扱う弁護士として、名を馳せている。

    「ヤミ金の、証拠固めだ。……正式に、代理人になってもらいたい」

    「──また、無登録の癖に、首を突っ込んで」

     桐生は、呆れたように、溜息をついた。

    「あんたのやってることは、非弁行為すれすれだって、何度言えば分かるの」

    「調停の、橋渡しをしてるだけだ。……最終的な、法的手続きは、いつも、あんたに、任せてるだろう」

     獅子堂の言葉に、桐生は、渋々、頷いた。

    「──非弁行為(ひべんこうい)、というのは、弁護士資格を持たない者が、報酬目的で、法律事務を行うことだ。弁護士法で、禁じられている」

     獅子堂は、美咲に、そう説明を加えた。

    「俺がやってるのは、あくまで、当事者同士の、話し合いの、仲介と、情報提供。……法的な代理行為は、必ず、桐生のような、正式な弁護士に、任せる」

    「──そのグレーゾーンの、線引きが、危なっかしいのよ、あんたは」

     桐生は、そう言いながらも、獅子堂の持ってきた証拠を、丁寧に確認し始めた。

    「──出資法違反、恐喝未遂の疑い。……これなら、十分、こちらの、交渉材料になる」

    「頼めるか」

    「──仕方ないわね。……今回も、付き合ってあげる」

     桐生は、そう言いながら、正式な、受任通知の準備を、始めた。獅子堂と桐生、この、凸凹コンビの連携が、南灯町の、数々の金融トラブルを、解決へと導いてきた、確かな実績があった。


    ## 第五章 受任通知の威力

     桐生が、正式に、代理人として、「とかしや」に、受任通知を送付した、その日の夕方。獅子堂の事務所に、「とかしや」の社長を名乗る男から、電話が入った。

    「──獅子堂さんかい。……話が、あるんだが」

    「聞こう」

    「うちの若い衆が、失礼をしたようで。……その件は、水に流してもらえないか」

    「水に流す、流さないは、そっちの、今後の対応次第だ」

     獅子堂は、淡々と、続けた。

    「弁護士からの、受任通知は、受け取ったな。……あれが届いた時点で、法律上、貸金業者は、直接、本人への、取り立て行為が、禁止される。貸金業法二十一条だ」

    「……知ってるよ、それくらい」

    「なら、話は早い。……田村美咲への、今後の請求は、すべて、桐生弁護士を、窓口にしろ。直接の連絡は、一切、禁止だ」

    「──それで、借金は、どうなる」

    「出資法違反の、高金利部分は、そもそも、無効だ。……利息制限法に基づいて、再計算すれば、実際の、残債務は、大幅に、減額される」

    「そんな……」

    「文句があるなら、裁判で、争えばいい。……だが、その場合、こっちは、出資法違反と、恐喝未遂の証拠を、揃えて、刑事告発も、視野に入れる」

     電話の向こうで、社長は、しばらく、沈黙した。

    「──分かった。……減額の件、応じる」

    「賢明だな」

     電話を切った後、獅子堂は、美咲に、経緯を説明した。

    「──受任通知ってのは、こういう風に、使うんだ。弁護士が、正式に代理人になったことを、業者に、法的に通告する。……これで、直接の、取り立ては、止まる」

    「本当に、止まるんですね」

    「ああ。……法律を、正しく使えば、こういう連中は、案外、あっさり、引き下がる」

     獅子堂の、静かな自信に満ちた言葉に、美咲は、深く、安堵の息を、漏らした。


    ## 第六章 解決、そして報酬

     数週間後、桐生の交渉により、田村美咲の借金問題は、正式に、解決した。

    「──最終的な、和解内容だ」

     桐生が、書類を、獅子堂と美咲に見せた。

    「出資法違反の、高金利部分は、全額無効。……利息制限法の、上限金利で、再計算した結果、美咲さんの、実際の債務残高は、ゼロ。むしろ、過去の、払い過ぎ分──過払い金として、十二万円が、戻ってくることになった」

    「──戻ってくる、んですか、お金が」

     美咲は、信じられない、といった様子で、桐生の言葉を、聞き返した。

    「ああ。……グレーゾーン金利で、払い過ぎた分は、法律上、取り戻せる。……これを、過払い金請求、という」

     獅子堂が、補足するように、説明した。

    「過払い金請求権にも、時効がある。……最終取引から、十年だ。今回は、まだ、時効にかかってなかったから、間に合った」

    「本当に、ありがとうございます」

     美咲は、深々と、頭を下げた。

    「──礼はいい。……ただ、これからは、簡単に、借金に、手を出すな。困った時は、まず、ちゃんとした、相談窓口に、行くことだ」

    「はい……! そうします」

     美咲が、帰った後、獅子堂は、桐生に、報酬の相談を、持ちかけた。

    「──今回の、俺の取り分は」

    「あんたの、取り分ね。……美咲さんからは、取らないんでしょう」

    「ああ。あの子から、これ以上、金を取るつもりはない」

    「──じゃあ、いつものように、『とかしや』から、迷惑料、名目で、頂戴するとするか」

     桐生の、悪戯っぽい提案に、獅子堂は、ニヤリと、笑った。

    「──弱者からは、安く。悪徳業者からは、がっつり、取る。……それが、俺のやり方だ」

     こうして、獅子堂の、南灯町での、最初の「仕事」は、鮮やかな、解決を見た。だが、この街には、まだまだ、数え切れないほどの、金融トラブルが、渦巻いていた。


    ## 第七章 連帯保証人の悲劇

     数日後、獅子堂の事務所に、初老の男が、疲れ切った表情で、訪れた。

    「──獅子堂さん、でしょうか。……知人に、紹介されて」

    「ああ。座ってくれ。……で、どうした」

    「息子の、連帯保証人に、なってしまって……。息子が、事業に失敗して、蒸発しました。今、私のところに、五百万の、請求が」

     男の名は、中村(なかむら)といった。獅子堂は、詳しい経緯を、丁寧に聞き取った。

    「──連帯保証人と、保証人の違いは、知ってるか」

    「……同じようなものじゃ、ないんですか」

    「全然、違う。……普通の保証人には、『催告の抗弁権』と、『検索の抗弁権』がある。つまり、まず、借主本人に、請求しろと、主張できる権利だ」

    「連帯保証人には」

    「ない。……連帯保証人は、借主と、ほぼ同じ立場で、いきなり、全額を、請求される可能性がある。だからこそ、連帯保証人には、絶対に、安易に、なっちゃいけない」

     獅子堂は、中村が持ってきた、契約書を、確認した。

    「──いつ、この契約書に、サインした」

    「三年前です」

    「──民法改正の、前か後か、これが、重要になる」

    「改正、ですか」

    「二〇二〇年に、民法が改正されて、個人が、事業性の融資の、保証人になる場合、公証人による、意思確認の手続きが、必須になった。……この手続きを、経ていない契約は、無効になる可能性がある」

     獅子堂は、契約書を、隅々まで、確認した。

    「──案の定だ。……この契約、公正証書による、保証意思の、確認手続きを、踏んでいない。改正民法の、施行後の契約なのに、だ」

    「それって……」

    「保証契約、そのものが、無効になる可能性がある、ということだ」

     中村の顔に、初めて、僅かな、希望の色が、浮かんだ。


    ## 第八章 貸金業者との交渉

     獅子堂は、中村を伴い、融資を行った貸金業者──「灘見商事」の事務所へと、乗り込んだ。

    「──獅子堂と申します。中村さんの、代理として、伺いました」

    「代理人? 弁護士ですか」

    「いえ、代理人ではなく、あくまで、話し合いの、仲介です。……正式な、法的手続きは、こちらの弁護士に、依頼しています」

     獅子堂は、桐生の名刺を、担当者に、渡した。

    「今回の、保証契約について、確認したいことが、あります。……この契約、改正民法に基づく、公正証書による、意思確認の、手続きを、経ていますか」

     担当者の顔が、僅かに、強張った。

    「──それは……」

    「経ていない、ということですね。……であれば、この保証契約自体、無効の可能性が、高い」

    「し、しかし、中村様は、契約書に、サインを」

    「サインしただけでは、不十分だ。……事業性融資の、個人保証には、契約前一ヶ月以内に、公証人による、保証意思宣明公正証書の作成が、義務付けられている。この手続きがなければ、保証契約は、無効になる」

     獅子堂は、淡々と、法的根拠を、突きつけていった。

    「これは、灘見商事さんの側の、重大な、手続き違反です。……このまま、五百万円の、請求を続けるなら、こちらとしても、法的手段を、検討せざるを得ません」

    「──少々、お待ちください。上と、相談します」

     担当者は、慌てた様子で、奥へと、引っ込んでいった。

     中村は、隣で、震える声で、獅子堂に、尋ねた。

    「──本当に、これで、支払わなくて、済むんでしょうか」

    「保証契約が、無効になれば、な。……ただし、油断は禁物だ。向こうも、簡単には、認めないだろう」

     獅子堂の予想通り、しばらくして、戻ってきた担当者は、渋い顔で、告げた。

    「──社内で、確認しましたところ……確かに、手続きに、不備が、あったようです」

    「──では」

    「保証契約は、無効とし、中村様への、請求は、取り下げます」

     中村は、その場で、崩れ落ちるように、安堵の息を、漏らした。


    ## 第九章 情報屋、疋田

     中村の一件が解決した夜、獅子堂の事務所に、一人の男が、ふらりと、姿を現した。

    「──おう、獅子堂。今日も、繁盛してるみたいやな」

    「──疋田(ひきた)か。……何の用だ」

     疋田は、南灯町の、裏の情報に精通した、情報屋だった。かつて、獅子堂が、銀行員時代に、世話になった、因縁の相手でもある。

    「ちょっと、面白い話、持ってきてん」

     疋田は、椅子に、勝手に腰掛けながら、切り出した。

    「南灯町で、最近、結婚詐欺が、流行っとるらしい。……ターゲットは、金を持った、独身女性」

    「──よくある話じゃないか」

    「いや、今回のは、ちょっと、質が悪い。……マッチングアプリ経由で、近づいてきて、投資話まで、絡めてくる、複合型の詐欺や」

     獅子堂は、腕を組んで、考え込んだ。

    「──被害者は、どれくらいいる」

    「儂が掴んどるだけで、五人。……総額、二千万は、下らんやろな」

    「その男、名前は」

    「──『高瀬(たかせ)』を名乗っとるが、たぶん、偽名や」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──情報料は、いつも通りでいいか」

    「もちろんや。……今回は、儂も、義憤に駆られとるからな。安くしといたる」

     疋田は、ニヤリと、笑った。獅子堂と疋田、表と裏、それぞれの立場から、南灯町の悪を、追い詰める、この凸凹コンビの連携もまた、獅子堂の、大切な武器の一つだった。

    「──さて。……次の獲物は、結婚詐欺師、か」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。

    ## 第十章 被害者との面談

     翌日、獅子堂は、疋田から紹介された、被害者の一人、佐伯裕子(さえきゆうこ)と、面談した。

    「──高瀬という男との、経緯を、詳しく、聞かせてくれ」

    「はい……。マッチングアプリで、知り合って。……最初は、本当に、優しい人で」

     裕子は、ハンカチを、握りしめながら、語り始めた。

    「三ヶ月ほど、付き合って……結婚も、視野に、って言われて。それで、彼が、『いい投資話がある』って。……仮想通貨の、案件だと」

    「金額は」

    「──三百万、振り込みました」

    「その後、連絡は」

    「一ヶ月前から、ぱったり。……電話も、繋がらなくて」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──典型的な、『ロマンス詐欺』の、手口だ。恋愛感情を利用して、投資話に、誘導する」

    「取り戻せる、可能性は」

    「振込先の、口座情報は」

     裕子が、通帳の写しを、差し出した。獅子堂は、それを、確認しながら、続けた。

    「──振り込め詐欺救済法、というのがある。……詐欺に使われた口座を、凍結して、被害額を、分配してもらう制度だ」

    「振り込め詐欺、じゃないと、駄目じゃないんですか」

    「投資詐欺でも、対象になり得る。……ただし、口座が、まだ、凍結されずに、残っていることが、条件だ」

     獅子堂は、すぐさま、金融機関への、被害申告の手続きを、進めることにした。


    ## 第十一章 振り込め詐欺救済法

     獅子堂は、桐生と共に、金融機関に、被害申告の手続きを、進めた。

    「──振り込め詐欺救済法の、正式名称は、『犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律』、という、長ったらしい名前だ」

     獅子堂は、裕子に、丁寧に、説明した。

    「この法律のポイントは、口座が、凍結されている間に、被害の申告をすれば、口座に残っている残高から、被害額に応じた、分配金が、支払われるということだ」

    「口座に、お金が、残ってないと、駄目なんですよね」

    「そうだ。……だから、スピードが、命になる。詐欺に気付いたら、すぐに、警察と、金融機関に、連絡することが、何より、重要だ」

     桐生が、金融機関との、正式なやり取りを、担当した。数週間後、朗報が届いた。

    「──口座、まだ、生きてたわよ。……全額とは、いかないけど、百八十万円ほど、戻ってくることに、なりそう」

    「本当ですか!」

     裕子は、涙ぐみながら、喜びの声を、上げた。

    「全額じゃ、ないのが、残念だが……早めに、動いたのが、功を奏したな」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──犯人自体は、まだ、捕まってないんですか」

     裕子の問いに、獅子堂は、少し、表情を、引き締めた。

    「疋田の情報網で、追ってる。……こういう連中は、必ず、次のターゲットを、狙う。……野放しには、しておけない」

    ## 第十二章 結婚詐欺師との対決

     疋田からの情報で、「高瀬」の、次のターゲットが、判明した。獅子堂は、被害者本人に、協力を仰ぎ、囮捜査まがいの、罠を、仕掛けることにした。

    「──いいか、俺が、合図を出すまで、絶対に、金の話には、乗るな」

     獅子堂は、次のターゲットとなっていた女性に、事前に、事情を説明し、協力を、取り付けていた。

     待ち合わせの、喫茶店。高瀬を名乗る男が、姿を現した。

    「──お待たせしました」

     人当たりの良い、優男風の男だった。だが、獅子堂は、店の隅から、その一挙一動を、注意深く、観察していた。

     しばらくの雑談の後、男は、案の定、投資話を、切り出し始めた。

    「──実は、いい話が、あるんです。……仮想通貨の、案件で」

     その瞬間、獅子堂は、席を立ち、男の前に、姿を現した。

    「──『高瀬』さんとやら。……その話、詳しく、聞かせてもらおうか」

    「な、なんだ、あんたは」

    「灯町相談所の、獅子堂だ。……あんたの、これまでの、被害者たちの、代理人でもある」

     男の顔色が、みるみる、青ざめていった。

    「詐欺罪の、構成要件は、知ってるか。……『人を欺いて、財物を交付させる』こと。あんたの、これまでの、手口は、すべて、この要件に、合致してる」

    「し、証拠なんて……」

    「ある。……佐伯裕子さんへの、投資勧誘の、メッセージ履歴。振込記録。そして、今日の、この会話の、録音」

     獅子堂は、静かに、スマートフォンの、録音アプリの画面を、男に、見せつけた。

    「──さて。……このまま、警察に、突き出されるか。それとも、被害者たちへの、返済に、応じるか。選ぶのは、あんただ」

     男は、その場に、崩れ落ちるように、項垂れた。


    ## 第十三章 詐欺師の末路

     男は、後日、正式に、警察に、出頭することとなった。獅子堂と桐生の、丁寧な証拠固めが、決め手となった。

    「──詐欺罪は、十年以下の懲役だ。……執行猶予が、つくかどうかは、被害弁償の、状況次第だな」

     獅子堂は、事後処理を、桐生に、引き継ぎながら、そう説明した。

    「被害者の方々への、返金は」

    「男の、資産を、可能な限り、差し押さえた。……全額とは、いかないが、それなりの、金額は、戻る見込みだ」

     佐伯裕子と、他の被害者たちにも、順次、事情が、伝えられた。

    「──獅子堂さん、本当に、ありがとうございました」

     裕子は、深々と、頭を下げた。

    「礼はいい。……ただ、今後は、投資話には、くれぐれも、慎重になれよ。『美味しい話には、裏がある』ってのは、いつの時代も、変わらない真理だ」

    「肝に、銘じます」

     裕子は、静かに、微笑んだ。獅子堂の、南灯町での、また一つの「仕事」が、こうして、幕を閉じた。

     だが、この街の、金融トラブルは、まだまだ、尽きることが、なかった。


    ## 第十四章 保険金詐欺の影

     ある日、獅子堂の元に、思わぬ相談が、舞い込んだ。相談者は、南灯町で、小さな飲食店を営む、老齢の店主だった。

    「──獅子堂さん。……うちの、常連客のことで、相談が」

    「どうした」

    「その客、最近、やたらと、事故に、遭ってるんです。……交通事故、転倒事故、店での、食中毒騒ぎまで」

    「──それで」

    「そのたびに、保険金を、請求してるようで。……なんだか、様子が、おかしいんです」

     獅子堂は、眉を、寄せた。

    「──保険金詐欺の、可能性が、あるな」

    「もし、そうだとして……うちの店で、また、何か、仕組まれたら」

    「分かった。……その客の、素性を、調べてみよう」

     獅子堂は、疋田に、連絡を取り、その客の、身辺調査を、依頼した。数日後、疋田から、詳細な報告が、届いた。

    「──獅子堂、こら、思った以上に、悪質やで」

     疋田は、資料を、テーブルに、広げながら言った。

    「この男、過去五年で、七件の、保険金請求をしとる。全部、違う保険会社や。……典型的な、『保険金詐欺常習犯』のパターンや」

    「手口は」

    「わざと、店で転んで、怪我をしたように、見せかけたり……食中毒も、自作自演の、疑いが濃い」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──保険金詐欺は、詐欺罪に、該当する。……立証するには、故意性を、証明する必要がある」

    「そこが、難しいとこやな」

    「だからこそ、次の犯行を、未然に、防ぐ必要がある」

     獅子堂は、飲食店の店主に、協力を仰ぎ、防犯カメラの、増設と、証拠保全の、準備を、進めることにした。


    ## 第十五章 罠と証拠

     数日後、その常連客が、再び、店を訪れた。獅子堂は、店の奥に、身を潜め、様子を、窺っていた。

    「──おっちゃん、今日の、日替わりは、なんや」

     客は、いつものように、馴れ馴れしく、店主に、話しかけた。店主は、緊張を、悟られないよう、平静を、装いながら、応対した。

     しばらくして、客は、店の床に、わざとらしく、足を、滑らせた。

    「──いてて!! なんや、この床、滑るやんけ!」

     その瞬間、獅子堂は、店の奥から、姿を現した。

    「──なかなか、堂に入った、転び方だな」

    「な、なんや、お前は」

    「灯町相談所の、獅子堂だ。……あんたの、これまでの、保険金請求の、記録、拝見させてもらったよ」

     獅子堂は、疋田が、集めた資料を、男の前に、突きつけた。

    「過去五年で、七件。……今日の、この『転倒』が、八件目に、なるはずだったんだろうな」

    「……知らねえよ、そんなこと」

    「防犯カメラの、映像がある。……今の、あんたの、転び方、明らかに、不自然だ。専門家に、見せれば、一発で、わかる」

     男の顔が、みるみる、青ざめた。

    「──保険金詐欺は、詐欺罪、及び、保険法違反にあたる。……過去の、全ての請求について、再調査が入れば、それこそ、実刑を、免れないだろうな」

    「や、やめてくれ……」

    「今すぐ、この店への、請求を、取り下げろ。……それと、過去の、不正請求についても、各保険会社に、自主的に、申告することだ。自首は、量刑に、大きく、影響する」

     男は、震えながら、獅子堂の言葉に、頷くしかなかった。

    ## 第十六章 保険業界の裏側

     事件解決後、獅子堂は、店主に、保険金詐欺についての、基本的な知識を、改めて、説明した。

    「──保険金詐欺は、保険業界全体の、大きな問題になってる。……こういう不正請求が、増えれば増えるほど、保険料は、上がっていく。真面目に、保険料を、払ってる人間が、割を食う構造だ」

    「そうなんですね」

    「保険会社にも、『損害保険調査員』という、専門の調査員がいる。……不審な請求パターンは、業界内の、データベースで、共有されてることも、多い」

    「じゃあ、あの男も、いつかは」

    「時間の問題だっただろうな。……今回、少し、早めることに、なっただけだ」

     店主は、深く、頭を下げた。

    「──ありがとうございました。……本当に、助かりました」

    「礼はいい。……今後も、何か、おかしなことがあれば、いつでも、相談に来い」

     獅子堂は、そう言い残し、店を後にした。南灯町の、また一つの、闇が、こうして、明るみに、出ることとなった。


    ## 第十七章 フランチャイズ詐欺の相談

     ある週末、獅子堂の事務所に、中年の男性が、憔悴しきった様子で、訪れた。

    「──獅子堂さん、でしょうか。……脱サラして、フランチャイズの、飲食店を、始めたんですが」

    「──話を、聞こう」

     男の名は、木下(きのした)といった。退職金を、注ぎ込んで、あるフランチャイズ本部と、契約を結んだが、開業後、本部からの、支援が、まったくなく、経営が、行き詰まっているという。

    「契約書、持ってきてるか」

    「はい、これです」

     獅子堂は、契約書に、丁寧に、目を通した。

    「──この、『ロイヤリティ』の項目、随分と、高いな。……売上の、三十パーセントか」

    「はい……。それに、本部が、約束していた、集客支援も、看板の設置も、まったく、行われませんでした」

    「契約前の、説明では」

    「口頭で、『開業後は、しっかりサポートする』と、言われてました。……でも、契約書には、そんな文言、書かれてなくて」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──フランチャイズ契約で、よくあるパターンだ。……口頭での、説明と、契約書の内容が、食い違ってる場合、『不実告知』にあたる可能性がある」

    「不実告知、ですか」

    「消費者契約法や、中小企業庁のガイドラインに、抵触する可能性がある。……フランチャイズ本部には、契約前に、重要事項を、書面で、開示する義務があるんだ」

    「それが、なされて、なかったら」

    「契約の、取り消しや、損害賠償請求の、根拠になり得る」

     木下の顔に、僅かな、希望の色が、浮かんだ。

    「──本部の、実態を、もう少し、詳しく、調べてみる必要が、あるな」

     獅子堂は、疋田に、連絡を取ることにした。


    ## 第十八章 フランチャイズ本部の実態

     疋田の調査により、木下が契約した、フランチャイズ本部の、実態が、明らかになっていった。

    「──獅子堂、これ、相当、悪質やで」

     疋田は、資料を、テーブルに広げながら、言った。

    「この本部、同じような、被害者が、他にも、十人以上、おる。……全員、契約前の、説明と、契約後の実態が、まるで違うと、訴えとる」

    「典型的な、詐欺的商法、だな」

    「せや。……本部側は、加盟金と、ロイヤリティで、荒稼ぎしといて、開業後の、サポートは、ほぼ、放置。加盟店が、潰れても、痛くも痒くもない、いう、ビジネスモデルや」

     獅子堂は、木下と共に、桐生の事務所を、訪れた。

    「──桐生、こういう、フランチャイズ詐欺、対応できるか」

    「もちろん。……悪質な、フランチャイズ本部への、対応は、専門分野の一つよ」

     桐生は、木下の契約書を、細かく、確認した。

    「──この契約書、確かに、中小企業庁の、ガイドラインが、求める、重要事項の開示が、不十分ね。……開業前に、本部が、開示すべき、収益予測や、既存店の状況について、まともな、説明がない」

    「契約の、取り消しは、できるか」

    「不実告知が、認められれば、消費者契約法に基づく、契約の取り消しか、あるいは、民法の、詐欺・錯誤による、取り消しが、主張できる。……被害者が、これだけ、多いなら、集団での、訴訟も、視野に入れられる」

    「集団訴訟、か」

    「木下さんだけじゃなく、他の被害者にも、声をかけて、まとめて、対応しましょう」

     桐生の提案に、木下は、力強く、頷いた。

    「──ぜひ、お願いします。……このまま、泣き寝入りは、したくありません」

     こうして、獅子堂と桐生は、フランチャイズ詐欺の、被害者たちを、まとめる、大掛かりな、対応に、乗り出すこととなった。


    ## 第十九章 集団での対抗

     桐生の呼びかけにより、フランチャイズ本部の、被害者たちが、十五名、集まることとなった。獅子堂の事務所の、狭い会議室は、久しぶりに、満員となった。

    「──皆さん、それぞれ、辛い思いを、されてきたと思います」

     桐生は、集まった被害者たちに、静かに、語りかけた。

    「今回、皆さんで、力を合わせて、本部側に、対応していきます。……一人では、難しくても、複数人で、まとまれば、大きな力になります」

    「──具体的には、どうするんですか」

     一人が、そう、尋ねた。

    「まず、内容証明郵便で、契約の取り消しと、損害賠償を、正式に、請求します。……本部側が、応じなければ、集団での、訴訟に、踏み切ります」

     獅子堂も、補足するように、続けた。

    「──こういう、悪質な本部は、個々の被害者には、強気に出るが、集団での、対応には、弱い。……メディアに、取り上げられるリスクを、何より、嫌うからだ」

    「メディア、ですか」

    「消費者被害の、集団訴訟は、ニュースにも、なりやすい。……本部にとっては、企業イメージの、大きな打撃になる。それを、交渉材料として、使う」

     被害者たちは、獅子堂の言葉に、力を得たように、頷き合った。

    「──皆さん、それぞれの、被害額と、証拠となる資料を、まとめて、桐生弁護士に、提出してください」

     獅子堂の指示に、被害者たちは、次々と、書類の準備に、取り掛かり始めた。南灯町の、また一つの、大きな戦いが、静かに、幕を、開けようとしていた。

    ## 第二十章 本部の抵抗、そして和解

     桐生からの、正式な、内容証明郵便を受け取った、フランチャイズ本部は、当初、強気の姿勢を、崩さなかった。

    「──契約は、契約です。……我々に、落ち度は、ありません」

     本部の顧問弁護士は、そう、突っぱねた。だが、桐生は、怯むことなく、対応を、続けた。

    「──では、こちらとしても、正式に、集団訴訟に、踏み切らせていただきます。……それと、消費者庁への、通報も、あわせて、行います」

    「消費者庁、ですって」

    「フランチャイズ契約における、重要事項の、不開示は、行政指導の対象にも、なり得ます。……御社の、これまでの、営業実態を、まとめて、報告させていただきます」

     本部側の、顧問弁護士の表情が、初めて、僅かに、動揺した。

     数日後、本部側から、態度を一変させた、和解の申し入れが、届いた。

    「──裁判沙汰は、避けたい、ということね」

     桐生は、和解案を、確認しながら、獅子堂に、報告した。

    「加盟金の、一部返還と、ロイヤリティの、減額。……それと、被害者全員への、慰謝料の、支払いも、含まれてる」

    「木下さんたちの、反応は」

    「概ね、満足してるわ。……完全な、勝訣とは、言えないけど、十分な、成果だと思う」

     木下は、桐生からの報告を受け、涙ながらに、感謝の言葉を、述べた。

    「──獅子堂さん、桐生先生。……本当に、ありがとうございました」

    「礼はいい。……これに懲りたら、契約書は、しっかり、読み込むことだ。口約束を、鵜呑みにするな」

     獅子堂の、厳しくも、温かい言葉に、木下は、深く、頷いた。


    ## 第二十一章 給与ファクタリングという抜け穴

     ある日、獅子堂の元に、若い会社員、松岡(まつおか)という男が、追い詰められた表情で、相談に訪れた。

    「──『給与ファクタリング』、という、サービスを、使ったんですが」

    「──給与ファクタリング、ね。……最近、増えてきた、新手の、グレー商法だな」

     獅子堂は、眉を、寄せた。

    「仕組みを、説明してくれ」

    「給料日前に、お金が、必要になって……。『給与債権を、買い取ります』という、業者を、見つけたんです。……来月の給料、二十万円分を、十五万円で、買い取ってもらいました」

    「差額の、五万円が、実質的な、手数料、というわけか」

    「はい。……でも、給料日になっても、業者から、『まだ、返済が、済んでない』って、追加の請求が」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──典型的な、『給与ファクタリング詐欺』だ。……この商法、法律上の、位置づけが、非常に、グレーでな」

    「グレー、というのは」

    「本来、『債権譲渡』という、形式を、取ってる。……つまり、貸金じゃなく、『あなたの給料債権を、買い取っただけ』という、建前だ。だから、貸金業登録が、なくても、営業できると、業者側は、主張する」

    「でも、実質は」

    「実質は、高利貸しと、変わらない。……最高裁判所も、令和二年の判決で、給与ファクタリングは、実質的に、貸金業に該当すると、判断してる」

    「じゃあ、あの業者は」

    「無登録での、貸金業、つまり、貸金業法違反の、可能性が、高い。……しかも、実質金利を、計算すれば、出資法の、上限も、大幅に、超えてるはずだ」

     獅子堂は、松岡の、契約書類を、確認しながら、続けた。

    「──この手の、業者は、法律の、抜け穴を、悪用してくる。だが、最高裁の判例が、出た以上、こちらにも、十分な、対抗手段がある」

    ## 第二十二章 悪徳業者への反撃

     獅子堂は、桐生と共に、給与ファクタリング業者との、交渉に、乗り込んだ。

    「──御社の、給与ファクタリングサービス、実質的には、貸金業に、該当します」

     桐生は、冷静に、最高裁判決を、引用しながら、業者側に、対峙した。

    「令和二年三月、最高裁は、給与ファクタリングについて、『経済的機能や、実質からみて、貸付けに該当する』と、判断しています。……つまり、御社の営業は、貸金業法違反の、無登録営業に、あたります」

    「し、しかし……」

    「無登録での、貸金業は、十年以下の懲役、または、三千万円以下の罰金。……法人の場合は、一億円以下の、罰金です」

     業者の担当者は、明らかに、動揺していた。

    「今回の、松岡さんへの、追加請求。……これは、取り下げていただきます。それと、これまでの、他の利用者への、対応についても、詳しく、確認させていただきます」

    「わ、分かりました……。追加請求は、取り下げます」

    「それだけでは、足りません。……御社の、営業実態について、金融庁への、情報提供も、検討させていただきます」

     業者は、真っ青な顔で、平謝りに、謝罪を、繰り返した。

     交渉を終えた後、獅子堂は、松岡に、改めて、注意を促した。

    「──今の時代、こういう、新手のグレー商法が、次々と、出てくる。……『給料日前でも、お金が、借りられます』みたいな、甘い言葉には、くれぐれも、注意しろ」

    「はい……。本当に、勉強に、なりました」

     松岡は、深く、頭を下げた。獅子堂の、法律知識を武器にした、戦いは、こうして、また一つ、成果を、収めていった。


    ## 第二十三章 会社乗っ取りの相談

     ある日、獅子堂の元に、小さな町工場の、二代目社長、井上(いのうえ)が、切迫した様子で、訪れた。

    「──獅子堂さん。……うちの会社が、乗っ取られそうなんです」

    「──詳しく、聞かせてくれ」

     井上の話によれば、経営が、一時的に、悪化していた際、ある投資家を名乗る男から、融資の話を、持ちかけられたという。

    「その融資と、引き換えに、株式の、一部を、担保として、差し出しました。……でも、最近になって、その男が、少しずつ、株を、買い増して、気付けば、過半数近くを、握られてしまって」

    「──会社法上の、乗っ取り、そのものだな」

     獅子堂は、険しい表情で、言った。

    「株式の、過半数を、握られれば、取締役の選任や、解任も、相手の、意のままだ。……最悪、井上さん自身が、会社から、追い出される可能性もある」

    「そんな……! どうにか、ならないんですか」

     獅子堂は、井上が持ってきた、株主名簿や、契約書類を、丁寧に、確認した。

    「──この、株式の、担保設定の契約、条件が、随分と、不自然だな」

    「不自然、というと」

    「担保権の、実行条件が、極めて、曖昧に、書かれてる。……これじゃ、いつでも、相手の都合で、株式を、取得できる、仕組みになってる」

    「意図的、ということですか」

    「最初から、乗っ取りを、目的とした、契約だった、可能性が、高い」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。

    「──こういう、『企業舎弟』まがいの、乗っ取り屋は、南灯町にも、何人か、いる。……疋田に、探りを、入れてもらおう」

    ## 第二十四章 乗っ取り屋の正体

     疋田の調査により、井上の会社に、融資を持ちかけた男の、正体が、明らかになった。

    「──獅子堂、この男、要注意人物や」

     疋田は、資料を、テーブルに、広げながら、言った。

    「表向きは、投資家やが、裏では、反社会的勢力と、繋がりのある、乗っ取り屋。……過去にも、何件も、同じ手口で、中小企業を、乗っ取っとる」

    「手口は、いつも、同じか」

    「せや。経営難の会社に、目をつけて、融資を持ちかけて、株式を、担保に取る。……その後、じわじわと、株を、買い増して、最終的に、経営権を、乗っ取る」

     獅子堂は、井上と共に、桐生の元へと、向かった。

    「──桐生、この、株式担保設定契約、無効に、できないか」

     桐生は、契約書を、丹念に、確認した。

    「──この契約、担保権の、実行条件が、著しく、不公正ね。……民法上の、公序良俗違反、あるいは、暴利行為として、無効を、主張できる可能性がある」

    「暴利行為、というのは」

    「相手の、窮迫や、無知に、乗じて、著しく、不公正な、利益を得る行為のことよ。……今回のケースは、経営難に、付け込んだ、悪質な契約と、言える」

    「勝算は」

    「──証拠次第ね。……この乗っ取り屋の、過去の、同様の手口についての、証拠があれば、より、主張が、強くなる」

    「疋田の情報が、役に立つな」

     獅子堂は、静かに、頷いた。井上の会社を守るための、法廷での、戦いの準備が、静かに、進められていった。


    ## 第二十五章 法廷での攻防

     井上の会社を巡る、株式担保契約の、無効確認訴訟が、正式に、提起された。桐生が、代理人として、法廷に、立つこととなった。

    「──暴利行為による、契約の無効を、主張します」

     桐生は、法廷で、堂々と、主張を、展開した。

    「被告は、原告の会社が、経営難に、陥っていることを、知りながら、著しく、不公正な条件で、株式担保契約を、締結させました。……これは、民法九十条の、公序良俗違反、及び、暴利行為に、該当します」

     相手側の、弁護士も、反論を、試みた。

    「──契約は、双方の合意の下、締結されたものです。……後になって、条件が、不利だったと、主張するのは、身勝手な、話です」

    「では」

     桐生は、疋田が集めた、証拠資料を、提出した。

    「被告が、過去にも、同様の手口で、複数の、中小企業を、実質的に、乗っ取ってきた事実が、確認されています。……これは、単なる、投資契約ではなく、計画的な、乗っ取り行為であることを、示しています」

     法廷内に、僅かな、ざわめきが、走った。裁判官も、証拠資料を、じっくりと、確認していた。

     数週間後、判決が、言い渡された。

    「──株式担保設定契約は、公序良俗に反し、無効とする」

     裁判官の、その一言に、井上は、思わず、涙を、流した。

    「──獅子堂さん、桐生先生……本当に、ありがとうございました」

    「良かったな」

     獅子堂は、静かに、井上の肩を、叩いた。

    ## 第二十六章 乗っ取り屋、末路

     判決確定後、乗っ取り屋の男は、他の被害企業からも、次々と、同様の訴訟を、提起されることとなった。

    「──獅子堂の、狙い通り、や」

     疋田が、笑いながら、報告した。

    「あの男の、これまでの、悪事が、次々と、明るみに、出とる。……もう、この街じゃ、二度と、商売できんやろうな」

    「──当然の、報いだ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「乗っ取り屋みたいな、連中は、法律の、隙間を、狙って、稼いでる。……だが、こっちが、正しく、法律を、使いこなせば、必ず、隙が、見える」

    「せやな。……お前のような、奴がおる限り、南灯町の、悪党どもも、うかうか、してられんやろ」

     疋田の言葉に、獅子堂は、僅かに、笑みを、浮かべた。

    「──さて。……次は、どんな、悪党が、出てくるやら」

     獅子堂の、南灯町での、戦いは、まだまだ、続いていく。だが、この街の、金融トラブルの、根の深さには、実は、獅子堂自身の、過去にも、深く、関わる、ある因縁が、静かに、潜んでいた。


    ## 第二十七章 獅子堂の過去

     ある夜、事務所で、一人、資料の整理をしていた獅子堂の元に、桐生が、ふらりと、訪れた。

    「──珍しいな、こんな時間に」

    「──ちょっと、聞きたいことが、あってね」

     桐生は、缶ビールを、二本、テーブルに置いた。

    「あんたが、灘見中央銀行を、辞めた、本当の理由。……まだ、ちゃんと、聞いたこと、なかったな、と思って」

     獅子堂は、しばらく、沈黙した後、静かに、語り始めた。

    「──八年前、俺は、融資課で、働いてた。……ある日、上司の、火野(ひの)から、『この案件、審査を、通せ』と、指示された」

    「不正融資、だったのね」

    「ああ。……明らかに、返済能力のない、企業への、不正な、融資だった。……裏で、火野が、その企業から、リベートを、受け取ってたことも、後で、分かった」

    「あんたは」

    「内部監査に、告発した。……だが、証拠は、いつの間にか、握り潰されて。……逆に、俺の方が、『不正融資の、実行者』として、責任を、押し付けられた」

     獅子堂の声に、僅かな、苦さが、滲んだ。

    「──結局、俺は、懲戒解雇。……火野は、涼しい顔で、出世を、続けてる。今じゃ、灘見中央銀行の、常務取締役だ」

    「──許せない、わね、それは」

    「ああ。……いつか、必ず、あの男の、化けの皮を、剥いでやると、決めてる」

     獅子堂は、静かに、缶ビールを、呷った。

    「この、『灯町相談所』の、活動も……ある意味じゃ、その日のための、準備でもある」

    「──どういうこと」

    「法律の、抜け穴を、知り尽くしてる連中を、これまで、何人も、追い詰めてきた。……その経験と、人脈が、いつか、火野を、追い詰めるための、武器になる」

     桐生は、獅子堂の、静かな決意に、深く、頷いた。

    「──手伝うわ、私も。……あんたの、その戦い」

    「──ありがとよ」

     獅子堂は、珍しく、素直に、礼を、述べた。南灯町の、日々の戦いの、その先に、獅子堂自身の、最大の因縁が、静かに、待ち受けていた。


    ## 第二十八章 商工ローンの罠

     ある日、獅子堂の元に、小さな印刷会社の社長、堀口(ほりぐち)が、訪れた。

    「──獅子堂さん。……商工ローンで、借りた金が、返せなくなって」

    「──商工ローン、ね。……いくら、借りた」

    「三百万円です。……でも、連帯保証人に、従業員を、二人、立てさせられていて」

     獅子堂は、眉を、ひそめた。

    「──従業員を、保証人に、するのは、悪質な、商工ローン業者の、常套手段だ。……従業員は、社長からの、頼みを、断りにくい。それに、付け込んでる」

    「契約書には、他にも、色々な、特約が」

    「見せてくれ」

     獅子堂は、契約書を、丹念に、確認した。

    「──『根保証』の、条項が、入ってるな。……これは、将来にわたる、継続的な、取引について、包括的に、保証させる仕組みだ」

    「根保証、ですか」

    「本来、根保証には、極度額──保証する、上限額を、明記することが、義務付けられてる。……この契約書、極度額の、記載が、曖昧だ」

    「それって」

    「極度額の定めのない、根保証契約は、無効になる。……民法四百六十五条の二だ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──従業員の、保証人たちも、この契約の、無効を、主張できる可能性が、高い」

    「本当ですか……!」

     堀口は、僅かな、希望を、見出したように、表情を、明るくした。

    ## 第二十九章 従業員を守る戦い

     獅子堂は、堀口の会社の、保証人となっていた従業員二人にも、事情を、説明することにした。

    「──あなたたちは、社長に、頼まれて、保証人に、なったんですよね」

    「はい……。断りづらくて」

    「今回の、根保証契約、極度額の、記載が、不備で、無効になる可能性が、高いです。……つまり、あなたたちが、保証債務を、負う必要は、ないかもしれません」

     従業員たちは、安堵の表情を、浮かべた。

     獅子堂は、桐生と共に、商工ローン業者との、交渉に、乗り込んだ。

    「──この、根保証契約、極度額の、定めがない。……民法上、無効です」

     桐生は、冷静に、法的根拠を、突きつけた。

    「し、しかし、契約は、契約です」

    「無効な契約は、いくら、双方が、合意していても、法的な、効力を、持ちません。……このまま、従業員の方々に、保証債務の、履行を、迫るなら、こちらとしても、法的手段を、取らせていただきます」

     商工ローン業者は、渋々、従業員二人の、保証債務について、無効を、認めることとなった。

    「──堀口さん自身の、債務については、どうする」

     獅子堂は、堀口に、尋ねた。

    「──正直、会社の、経営自体、厳しい状況です」

    「──民事再生や、任意整理も、視野に、入れよう。……今すぐ、破産しか、ないわけじゃない」

     獅子堂は、堀口の、今後の、事業再建に向けて、丁寧に、道筋を、示していった。

    「──会社を、立て直すための、選択肢は、いくつもある。……諦めるのは、まだ、早い」

     堀口は、獅子堂の、力強い言葉に、深く、勇気づけられた。


    ## 第三十章 民事再生という選択肢

     堀口の会社の、今後について、獅子堂は、桐生と共に、詳しい、再建プランを、検討することにした。

    「──自己破産と、民事再生の、違いは、知ってるか」

     獅子堂は、堀口に、丁寧に、説明した。

    「自己破産は、基本的に、会社を、清算する手続きだ。……事業を、続けることは、できない」

    「民事再生は」

    「事業を、続けながら、債務を、大幅に、圧縮して、再建を、目指す手続きだ。……裁判所の、監督の下、債権者との、合意で、返済計画を、作る」

    「うちの会社でも、可能なんでしょうか」

    「収益力が、ある程度、見込めるなら、可能性は、十分にある。……印刷業は、まだ、需要のある、業種だ。無理な借り入れさえ、なければ、立て直せる」

     桐生も、補足するように、続けた。

    「──民事再生法に基づく、手続きは、専門的な、書類作成が、必要になる。……その部分は、私が、サポートするわ」

    「本当に、ありがとうございます」

     堀口は、深々と、頭を下げた。

    「──もう一つ、大事なことがある」

     獅子堂は、真剣な表情で、続けた。

    「今後は、二度と、無理な、商工ローンに、頼るな。……資金繰りに、困ったら、まず、商工会議所や、公的な、支援制度を、当たれ。民間の、高利貸しは、最後の、最後の手段だ」

    「肝に、銘じます」

     こうして、堀口の会社は、民事再生の手続きを通じて、再建への、道を、歩み始めることとなった。

    ## 第三十一章 高齢者を狙う、点検商法

     ある日、獅子堂の元に、南灯町に住む、高齢の女性、山本(やまもと)が、息子と共に、相談に訪れた。

    「──母が、変な業者に、高額な、リフォーム契約を、させられて」

     息子が、憤慨した様子で、説明した。

    「『無料で、屋根を、点検します』って、業者が、訪ねてきて。……点検の結果、『このままでは、危険です』と、言われて、慌てて、三百万円の、リフォーム契約を、結んでしまったんです」

    「──典型的な、『点検商法』だな」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「契約から、何日、経ってる」

    「五日、です」

    「──それなら、まだ、クーリングオフが、使える」

    「クーリングオフ、ですか」

    「訪問販売の場合、契約書面の、交付から、八日以内なら、無条件で、契約を、解除できる。……特定商取引法の、規定だ」

     獅子堂は、山本親子に、丁寧に、手続きを、説明した。

    「──書面で、『クーリングオフします』という、通知を、内容証明郵便で、送る。……これだけで、契約は、無条件で、解除できる。理由も、不要だ」

    「本当に、それだけで、いいんですか」

    「ああ。……クーリングオフは、消費者を守るための、強力な、制度だ。業者側は、これを、拒否できない」

     獅子堂は、すぐさま、内容証明郵便の、作成に、取り掛かった。


    ## 第三十二章 クーリングオフの徹底

     内容証明郵便を、送付した、数日後。リフォーム業者から、山本親子の元に、連絡が入った。

    「──契約を、解除したい、とのことですが……もう、工事の、準備を、進めてますので」

    「関係ない」

     獅子堂は、電話越しに、業者に、対峙した。

    「クーリングオフは、業者側の、事情に、関わらず、無条件で、認められる。……工事に、着手していても、関係ない。特定商取引法、九条だ」

    「し、しかし……」

    「それと、点検の際の、説明。……『このままでは、危険です』という、脅すような、言い方をしたと、聞いている。……不実告知や、威迫による、勧誘があった場合、そもそも、契約自体が、取り消しの、対象にもなる」

     業者は、しばらく、沈黙した後、渋々、契約解除に、応じることとなった。

    「──支払った、手付金は、全額、返金してください」

    「わ、分かりました……」

     電話を切った後、獅子堂は、山本親子に、経緯を、説明した。

    「──今回は、うまく、解決した。……だが、この手の、点検商法は、後を絶たない。特に、高齢者は、狙われやすい」

    「気を付けます」

    「一番、大事なのは、その場で、即決しないことだ。……『家族に、相談してから』と、一旦、持ち帰る。それだけで、大抵の、悪質業者は、諦める」

     山本の息子は、深く、頷いた。

    「──母には、これからも、目を、光らせておきます」

    「それが、一番の、予防策だ」

     獅子堂は、静かに、微笑んだ。南灯町の、高齢者を、狙う悪徳業者への、また一つの、対抗策が、こうして、示された。


    ## 第三十三章 火野の影

     ある夜、獅子堂の事務所に、見知らぬ、スーツ姿の男が、訪れた。

    「──獅子堂錬さん、ですね」

    「──ああ、そうだが。……あんたは」

    「灘見中央銀行、常務取締役、火野の、秘書を、務めております」

     獅子堂の、目つきが、僅かに、鋭くなった。

    「──火野が、俺に、何の用だ」

    「最近、あなたの、活動が、目立ちすぎている、と。……南灯町での、色々な、トラブル解決、それ自体は、結構なことです。……ですが」

    「ですが、何だ」

    「あまり、目立ちすぎると、灘見中央銀行としても、色々と、困ることが、あるのでは、と。……火野は、そう、申しております」

     獅子堂は、静かに、笑った。

    「──脅しの、つもりか」

    「まさか。……ただの、忠告です」

     秘書は、慇懃な態度を、崩さずに、続けた。

    「昔のことは、もう、水に流されては、いかがでしょう。……あなたにも、それなりの、お礼は、用意できると、思いますが」

    「──口止め料、ってことか」

     獅子堂の声に、怒りが、僅かに、滲んだ。

    「──帰れ。……俺は、あんたらの、金なんぞ、必要としてない」

     秘書は、しばらく、獅子堂を、見つめた後、静かに、頭を下げて、去っていった。

    「──とうとう、動いてきたか、火野の奴」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。この街での、地道な戦いが、いよいよ、獅子堂自身の、最大の因縁へと、近づきつつあることを、確かに、感じていた。


    ## 第三十四章 相続トラブルの相談

     火野の秘書が訪れた、数日後。獅子堂の元に、姉妹の相談者が、訪れた。

    「──父が、亡くなって……遺産分割で、揉めていて」

     姉の方が、疲れた表情で、切り出した。

    「弟が、生前、父から、多額の、援助を、受けていたようなんです。……それなのに、法定相続分通りに、分けろと、主張していて」

    「──特別受益、というやつだな」

     獅子堂は、静かに、言った。

    「生前に、特定の相続人だけが、多額の、贈与や、援助を、受けていた場合、それは、『特別受益』として、相続分の、計算に、考慮される。……民法九百三条だ」

    「特別受益、というのは」

    「簡単に言えば、『生前に、もらった分は、先取りした、相続財産』とみなす、仕組みだ。……弟さんが、生前、家の購入資金として、援助を、受けていたなら、その金額を、相続財産に、持ち戻して、計算し直す必要がある」

    「証拠は、どうすれば」

    「銀行の、振込記録、贈与契約書、当時のやり取りが分かる、メールなど、何でもいい。……まずは、集められるだけ、集めよう」

     姉妹は、獅子堂の、丁寧な説明に、僅かな、希望を、見出したようだった。

    「──こういう、相続トラブルは、法律の、細かい規定を、知ってるかどうかで、結果が、大きく変わる。……焦らず、証拠を、揃えていこう」

     獅子堂は、桐生とも、連携しながら、この、相続トラブルの、解決に、取り掛かることとなった。

    ## 第三十五章 特別受益の証明

     数週間かけて、獅子堂は、姉妹と共に、弟の、生前の、援助の証拠を、集めていった。

    「──これは、確実な、証拠だな」

     獅子堂は、見つかった、銀行の、振込記録を、確認しながら、言った。

    「父親の口座から、弟さんの口座へ、五百万円の、振込がある。……摘要欄に、『住宅資金』と、明記されてる」

    「これで、特別受益が、認められますか」

    「桐生に、正式な、遺産分割協議の、代理を、頼もう。……この証拠なら、十分、主張が、通る」

     桐生が、正式に、代理人として、弟側との、交渉に、あたることとなった。

    「──五百万円の、住宅資金援助は、特別受益として、遺産分割の際に、考慮されるべきです」

     桐生は、証拠を、示しながら、冷静に、主張した。弟側も、明確な、証拠を、突きつけられ、渋々、この主張を、受け入れることとなった。

     最終的に、遺産は、特別受益を、考慮した、公平な形で、分割されることとなった。

    「──獅子堂さん、本当に、ありがとうございました」

     姉妹は、深く、感謝の言葉を、述べた。

    「相続のトラブルは、こじれると、家族の絆まで、壊しかねない。……早めに、専門家に、相談することが、何より、大事だ」

     獅子堂の、静かな言葉に、姉妹は、深く、頷いた。


    ## 第三十六章 オレオレ詐欺の予兆

     ある日、疋田が、獅子堂の元に、緊急の情報を、持ち込んできた。

    「──獅子堂、南灯町の、老人ホーム周辺で、特殊詐欺の、下見らしき、動きが、あるんや」

    「特殊詐欺、というと、オレオレ詐欺の、類か」

    「せや。……名簿屋から、高齢者の、リストが、出回っとる、いう情報も、掴んどる」

     獅子堂は、険しい表情で、頷いた。

    「──放っておけないな。……荒木に、連絡を、取ろう」

     荒木は、灘見署の、刑事だった。獅子堂の、グレーな活動を、黙認しつつ、時に、協力関係にある、間柄だった。

    「──荒木、南灯町周辺で、特殊詐欺の、下見らしき、動きが、ある」

    「──獅子堂か。……ああ、こっちにも、その情報、入ってきてる」

     荒木は、電話越しに、そう応じた。

    「実は、最近、『還付金が、あります』系の、電話詐欺の、被害相談が、増えてる。……ATMを、操作させて、振り込ませる、典型的な、手口だ」

    「──還付金詐欺、か」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「──役所や、銀行が、還付金の手続きで、ATMの操作を、指示することは、絶対にない。この、基本原則を、周知するだけでも、被害は、かなり、防げるはずだ」

    「そこが、難しいんだよな。……高齢者ほど、丁寧な、口調で、話されると、信用しちまう」

     獅子堂は、疋田からの情報と、荒木の、捜査情報を、突き合わせながら、南灯町の、高齢者たちへの、注意喚起を、進めることにした。

    「──地域の、老人会や、自治会に、声をかけて、勉強会を、開こう」

    「勉強会、か。……お前らしいな」

     荒木は、苦笑しながら、そう言った。

    ## 第三十七章 地域での啓発活動

     獅子堂は、桐生と共に、南灯町の、老人会館で、特殊詐欺への、注意を、呼びかける、勉強会を、開くことにした。

    「──皆さん、こんにちは。……今日は、最近、増えている、特殊詐欺について、お話しさせていただきます」

     獅子堂は、集まった、高齢者たちに、分かりやすく、説明を、始めた。

    「オレオレ詐欺、還付金詐欺、架空請求詐欺……手口は、色々ありますが、共通してるのは、『慌てさせる』ことです。……『今すぐ』『急いで』という、言葉には、まず、疑ってかかってください」

    「──でも、本当に、息子が、困ってたら」

     一人の、高齢女性が、不安げに、尋ねた。

    「その場で、即決しないことです。……一度、電話を切って、必ず、本人の、携帯電話に、直接、かけ直してください。……電話番号が、変わった、という話も、まず、疑ってください」

    「──なるほど」

    「それと、ATMで、還付金の、手続きは、絶対にありません。……役所や、銀行の職員が、電話で、ATM操作を、指示することは、法律上も、業務上も、あり得ないんです」

     桐生も、補足するように、続けた。

    「──もし、少しでも、怪しいと感じたら、迷わず、警察や、私たちのような、相談窓口に、連絡してください。……一人で、抱え込まないことが、一番、大事です」

     勉強会に、参加した高齢者たちは、真剣な表情で、獅子堂と桐生の、説明に、耳を傾けていた。

    「──こういう、地道な、啓発活動が、実は、一番、効果があるんだ」

     獅子堂は、勉強会を終えた後、桐生に、そう、語った。

    「法律で、悪党を、追い詰めることも、大事だが……そもそも、被害に、遭わせないことが、何より、大切だからな」

     桐生も、静かに、頷いた。南灯町の、地道な、防犯の輪が、こうして、少しずつ、広がっていった。


    ## 第三十八章 疋田の、極秘情報

     ある夜、疋田が、珍しく、緊張した面持ちで、獅子堂の事務所を、訪れた。

    「──獅子堂。……お前が、ずっと、探しとった、あれ、出てきたかも、しれん」

    「──火野の、不正融資の、証拠か」

     獅子堂の目つきが、鋭くなった。

    「せや。……八年前、お前が、告発しようとした、あの案件。……当時の、内部資料の、コピーが、見つかった」

     疋田は、一枚の、古びた書類を、テーブルに置いた。

    「これ、当時の、稟議書の、控えや。……火野の、直筆の、サインが、入っとる」

     獅子堂は、震える手で、その書類を、手に取った。

    「──これは……」

    「あの時、お前が、告発した、不正融資案件。……融資先の企業から、火野に、裏で、リベートが、流れとった証拠が、この書類には、記されとる」

    「どこで、手に入れた」

    「──言えん。……情報屋にも、義理と、仁義がある」

     獅子堂は、静かに、書類を、見つめ続けた。

    「──だが、これだけじゃ、まだ、足りない。……火野を、完全に、追い詰めるには、もっと、確実な、証拠が、必要だ」

    「分かっとる。……儂も、引き続き、探ってみるわ」

     疋田は、そう言い残し、静かに、事務所を、後にした。獅子堂は、一人、残された書類を、じっと、見つめ続けていた。

    「──火野。……もう少しだ。もう少しで、あんたの、化けの皮を、剥いでやる」

     獅子堂の、静かな決意が、事務所の、薄暗い明かりの中に、確かに、宿っていた。


    ## 第三十九章 未公開株詐欺

     ある日、獅子堂の元に、退職したばかりの、初老の男性、加藤(かとう)が、訪れた。

    「──退職金を、注ぎ込んで、未公開株を、買ってしまって……」

    「──未公開株、ね。……いくら、注ぎ込んだ」

    「八百万円です。……『上場確実』と、言われて」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──典型的な、未公開株詐欺だ。……そもそも、上場していない企業の株を、一般の個人に、勧誘すること自体、金融商品取引法で、厳しく、規制されてる」

    「規制、というと」

    「未公開株の、勧誘は、原則として、禁止されてる。……例外は、限られた、専門家や、機関投資家向けの、場合だけだ。……一般の個人に、『儲かりますよ』と、電話や、訪問で、勧誘する時点で、違法性が、高い」

    「詐欺として、訴えられますか」

    「金融商品取引法違反に加えて、詐欺罪の、立件も、視野に入る。……ただ、こういう業者は、すぐに、法人を、畳んで、逃げることが多い。スピードが、重要だ」

     獅子堂は、加藤の、契約書類と、振込記録を、確認した。

    「──疋田に、この業者の、実態を、調べてもらおう」

    ## 第四十章 消えた業者

     疋田の調査により、加藤に、未公開株を、売りつけた業者の、実態が、判明した。

    「──獅子堂、この業者、もう、もぬけの殻や」

     疋田は、渋い顔で、報告した。

    「登記上の、住所には、もう、誰も、おらん。……典型的な、『飛ばし』の、手口や」

    「──資産の、追跡は」

    「一部、口座に、金が、残っとる、可能性は、ある。……せやけど、時間との、勝負や」

     獅子堂は、すぐさま、桐生と共に、振り込め詐欺救済法に基づく、口座凍結の、手続きを、進めることにした。

    「──加藤さん。……全額とは、いかないかもしれないが、できる限りの、回収を、目指そう」

    「よろしく、お願いします」

     数週間後、桐生からの、報告が、届いた。

    「──口座に、二百万円ほど、残ってたわ。……分配金として、加藤さんに、戻ることに、なりそう」

    「全額には、程遠いが……」

    「それでも、何もしないより、ずっと、いいわ」

     加藤は、獅子堂と桐生に、深く、感謝の意を、示した。

    「──こういう、『美味しい話』には、必ず、裏がある。……これからは、絶対に、飛びつかないように、気を付けます」

    「その通りだ。……特に、退職金みたいな、まとまった金は、狙われやすい。……何か、勧誘があったら、まず、俺たちのような、相談窓口に、確認することだ」

     獅子堂の、静かな忠告に、加藤は、深く、頷いた。


    ## 第四十一章 火野の妨害工作

     ある朝、獅子堂の事務所に、灘見市の、行政書士会から、一通の、通知が届いた。

    「──『非弁行為の、疑いに関する、照会』……?」

     獅子堂は、通知の内容を、確認し、眉を、ひそめた。

    「──誰かが、俺の活動を、非弁行為だと、通報したらしいな」

     獅子堂は、すぐさま、桐生に、連絡を取った。

    「──桐生、面倒なことに、なった」

     桐生は、通知の内容を、確認し、険しい表情を、浮かべた。

    「──明らかに、嫌がらせね。……あんたの、活動内容を、見れば、非弁行為に、当たらないことは、明白よ」

    「非弁行為の、線引きは」

    「弁護士法七十二条は、『報酬を得る目的で、訴訟事件、その他、一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、若しくは、和解、その他の法律事務を取り扱い、又は、これらの周旋をすることを、業とすること』を、禁じてる」

    「──俺が、やってるのは」

    「あんたは、あくまで、情報提供と、交渉の、仲介。……最終的な、法的手続きは、必ず、私のような、正式な弁護士に、繋いでる。……これは、非弁行為には、あたらないわ」

     桐生は、静かに、続けた。

    「──でも、こういう、行政への、通報は、面倒よ。……調査が、入れば、それだけで、活動に、支障が出る」

    「──誰が、こんな、嫌がらせを」

     獅子堂の脳裏に、すぐに、一人の男の顔が、浮かんだ。

    「──火野か」

    「可能性は、高いわね。……あんたが、動き出したことに、気付いて、先手を、打ってきたのかも」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。

    「──だとしたら、こっちも、急がないとな」

    ## 第四十二章 証拠固めの加速

     火野からの、間接的な、妨害を受け、獅子堂は、疋田と共に、証拠固めを、加速させることにした。

    「──疋田、あの、稟議書の、出所、もう少し、詳しく、辿れないか」

    「──慎重に、やっとる。……ただ、火野も、警戒し始めとる、可能性が、高い」

     疋田は、険しい表情で、続けた。

    「儂の、情報網にも、最近、変な、動きがある。……火野の、息のかかった連中が、探りを、入れとる、いう話も、聞こえてきた」

    「──向こうも、必死、ってことか」

    「せやろな。……八年前の、不正融資が、明るみに出れば、常務取締役の、椅子どころか、逮捕も、あり得る話や」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──だからこそ、証拠は、完璧に、揃えなきゃならん。……生半可な、証拠じゃ、逆に、こっちが、名誉毀損で、訴えられかねない」

    「分かっとる。……もう少し、時間を、くれ」

     疋田は、そう言い残し、再び、情報収集に、動き出した。獅子堂もまた、桐生と共に、法的な、準備を、着々と、進めていった。

    「──もう、後戻りは、できない、な」

     獅子堂は、静かに、そう、呟いた。八年越しの、因縁の決着が、いよいよ、近づきつつあった。


    ## 第四十三章 闇バイトの罠

     ある日、獅子堂の元に、一人の、大学生の母親が、青ざめた顔で、飛び込んできた。

    「──息子が、『闇バイト』に、手を出してしまって……!」

    「──落ち着いて、詳しく、聞かせてくれ」

    「SNSで、『高収入、日払い』という、求人を見つけて、応募したら……『荷物の、受け取りと、運搬』という、仕事を、指示されて。……でも、それが、特殊詐欺の、受け子だったと、後で、気付いて」

    「──今、息子さんは」

    「怖くなって、辞めたいと、伝えたら……『個人情報を、押さえてる。辞めたら、家族に、危害を、加える』と、脅されて」

     獅子堂は、険しい表情に、なった。

    「──典型的な、闇バイトの、手口だ。……最初は、軽い仕事のふりをして、犯罪に、加担させ、後から、抜けられないよう、脅迫する」

    「息子は、逮捕、されてしまうんでしょうか」

    「──状況次第だが……重要なのは、今すぐ、行為を、止めて、警察に、正直に、相談することだ」

    「でも、脅されてて」

    「脅迫による、強要は、それ自体が、犯罪だ。……刑法二百二十三条の、強要罪にあたる。……息子さんは、加害者であると同時に、脅迫の、被害者でもある」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「自首すれば、量刑にも、大きく、有利に、働く。……このまま、続けさせる方が、よほど、危険だ」

    「どうすれば……」

    「まず、俺が、荒木という、信頼できる刑事に、連絡を取る。……早期の、自首と、保護の手続きを、進めよう」

    ## 第四十四章 自首という選択

     獅子堂は、すぐさま、荒木に、連絡を取った。

    「──荒木、闇バイトの、案件だ。……未成年に近い、大学生が、巻き込まれてる」

    「──分かった。……こっちで、対応する。自首の、手続きも、こっちで、フォローするから、安心しろ」

     荒木の、協力もあり、大学生の息子は、無事に、自首の手続きを、進めることが、できた。脅迫の、証拠となる、SNSのやり取りも、しっかりと、保全した上での、対応だった。

    「──息子さんの、これまでの、脅迫の、証拠がある。……これは、情状酌量の、大きな材料になる」

     荒木は、母親に、そう、説明した。

    「本当に、感謝します……」

     母親は、涙ながらに、頭を下げた。

     事後、獅子堂は、母親に、改めて、闇バイトの、危険性について、丁寧に、説明した。

    「──『高収入、日払い』みたいな、甘い言葉には、必ず、裏がある。……SNSでの、求人には、くれぐれも、注意が必要だ」

    「息子にも、しっかり、言い聞かせます」

    「一度、手を出すと、抜け出すのが、本当に、難しい。……周りの大人が、早めに、気付いてやることが、何より、大事だ」

     獅子堂の、言葉に、母親は、深く、頷いた。南灯町の、若者を、蝕む、新たな闇にも、獅子堂の、目は、確かに、向けられていた。


    ## 第四十五章 罠にかけられる

     ある夜、獅子堂の元に、見知らぬ女から、電話が入った。

    「──獅子堂さんですよね。……借金のことで、今すぐ、相談したくて」

    「──今夜は、もう、遅い。……明日、事務所に、来てくれ」

    「お願いします。今夜じゃないと、駄目なんです。……今、南灯町の、外れの、倉庫街にいて」

     獅子堂は、僅かな、違和感を、覚えたが、切迫した声の様子に、渋々、応じることにした。

    「──分かった。……場所を、教えてくれ」

     指定された、倉庫街に、獅子堂が、足を運ぶと、そこには、誰もいなかった。

    「──罠、か」

     獅子堂が、そう、気付いた瞬間、暗がりから、複数の、男たちが、姿を現した。

    「──獅子堂錬。……ちょっと、痛い目、見てもらおうか」

    「──やっぱり、火野の、差し金か」

     獅子堂は、冷静に、周囲を、見渡した。多勢に、無勢の状況だった。

    「──話し合いの、余地は、ないのか」

    「話し合い? ……お前を、痛めつけて、二度と、余計なことを、しゃべれなくすんのが、俺らの、仕事だ」

     男たちが、一斉に、獅子堂に、詰め寄った。だが、その時。

    「──動くな! 警察だ!」

     暗がりから、複数の、懐中電灯の光が、一斉に、照らし出された。荒木率いる、警察官たちが、姿を現したのだった。

    「──荒木……!?」

    「──お前が、怪しい呼び出しに、応じたって、疋田から、連絡が、あってな。……念のため、張ってたんだ」

     荒木は、不敵に、笑った。男たちは、あっという間に、取り押さえられていった。

    「──助かった、な」

    「礼はいい。……お前が、無事で、何よりだ」

     荒木は、そう言いながら、逮捕された男たちを、見据えた。

    「──こいつらを、締め上げれば、火野との、繋がりも、はっきりするだろう」

     獅子堂は、静かに、頷いた。八年越しの、因縁の決着が、確かな、手応えと共に、近づいてきていた。


    ## 第四十六章 繋がる糸

     数日後、荒木から、獅子堂の元に、報告が、入った。

    「──獅子堂、あの晩の、連中、口を、割ったぞ」

    「──火野との、繋がりは」

    「間違いない。……火野の、息のかかった、企業舎弟の、連中だった。……お前を、痛めつけて、活動を、やめさせるよう、依頼を、受けてたそうだ」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。

    「──直接の、指示が、火野本人から、あったという、証拠は」

    「そこまでは、まだ、確認できてない。……依頼は、間に入った、仲介者を、通じてのものだったらしい」

    「巧妙、だな」

    「せやな。……直接、手を汚さんように、常に、間に人を、挟んどる」

     疋田が、報告に、割り込んできた。

    「──せやけど、獅子堂。……儂の方でも、ようやく、決定的な、証拠を、掴んだで」

     疋田は、分厚い、資料の束を、テーブルに、広げた。

    「これは……」

    「八年前の、不正融資案件の、全容や。……融資先の、企業の、当時の、経理担当者を、探し出して、証言を、取り付けた」

     獅子堂は、震える手で、資料を、めくった。

    「──融資の見返りに、火野個人の、口座に、リベートが、振り込まれた、証拠。……振込記録まで、揃ってる」

    「これなら……」

    「刑事告発の、材料としても、十分や。……あとは、桐生に、正式な、法的手続きを、頼むだけや」

     獅子堂は、深く、息を、吸い込んだ。

    「──八年、待った。……いよいよ、決着の時だな」


    ## 第四十七章 マルチ商法の被害

     ある日、獅子堂の元に、若い女性、宮田(みやた)が、思い詰めた表情で、訪れた。

    「──友人に、誘われて、健康食品の、マルチ商法に、入ってしまって……」

    「──いくら、注ぎ込んだ」

    「百万円分の、商品を、購入させられました。……『友達を、紹介すれば、紹介料が、入る』と、言われて」

    「──典型的な、連鎖販売取引、いわゆる、マルチ商法だな」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「特定商取引法で、規制されてる、取引形態だ。……この法律には、『クーリングオフ』の、特例がある」

    「特例、というと」

    「通常の、訪問販売は、八日以内だが……連鎖販売取引の場合、契約書面を、受け取ってから、二十日以内なら、クーリングオフが、できる」

    「もう、一ヶ月、経ってしまってて……」

    「──それなら、『中途解約』という、制度がある」

     獅子堂は、丁寧に、説明を、続けた。

    「連鎖販売取引は、クーリングオフの、期間を、過ぎても、いつでも、将来に向かって、契約を、解除できる。……それと、既に購入した、在庫商品についても、一定の条件下で、返品が、認められる」

    「本当ですか」

    「特定商取引法、四十条だ。……ただし、返品には、商品の、返還や、購入額の、一部を、業者側が、差し引ける、規定もある。……細かい条件を、確認しながら、進めよう」

     獅子堂は、宮田と共に、業者との、交渉の、準備を、進めることにした。

    ## 第四十八章 連鎖販売取引との決着

     獅子堂は、桐生と共に、宮田が加入していた、マルチ商法の、統括会社との、交渉に、乗り込んだ。

    「──連鎖販売取引の、中途解約を、申し出ます」

     桐生は、特定商取引法の、条文を、示しながら、冷静に、交渉を、進めた。

    「──在庫商品の、返品にも、応じていただきます。……法律上、購入から、一年以内の、商品は、返品の対象です」

    「し、しかし、当社の、規約では」

    「法律の規定より、消費者に、不利な、規約は、無効です。……特定商取引法は、強行規定なので、契約で、これを、上回ることは、できません」

     業者側は、渋々、宮田の、中途解約と、在庫の返品に、応じることとなった。

    「──ありがとうございました。……もう二度と、こういう話には、乗りません」

     宮田は、深く、頭を下げた。

    「──『友達を紹介すれば、儲かる』みたいな、話には、大抵、裏がある。……友人関係まで、壊しかねない、危険な商法だ。今後は、くれぐれも、気をつけろ」

     獅子堂の、忠告に、宮田は、深く、頷いた。


    ## 第四十九章 奨学金という名の借金

     ある日、獅子堂の元に、大学を卒業したばかりの、青年、竹本(たけもと)が、相談に訪れた。

    「──奨学金の、返済が、苦しくて……。督促状が、届くように、なりました」

    「──いくら、借りてる」

    「四百万円ほどです。……卒業後、就職が、うまくいかなくて、非正規で、働いてるんですが、月々の、返済が、追いつかなくて」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──奨学金の、返済猶予や、減額返還の、制度は、知ってるか」

    「いえ……」

    「日本学生支援機構の、奨学金には、経済的な、困難がある場合、返還を、一時的に、猶予する、『返還期限猶予』という、制度がある。……最大、通算十年まで、猶予が、認められる」

    「そんな制度が」

    「それと、『減額返還』という、制度もある。……月々の、返済額を、二分の一、または、三分の一に、減額して、その分、返済期間を、延ばす仕組みだ」

    「知りませんでした……」

    「督促状が、来ると、慌てて、無理な、返済計画を、立てがちだが……まずは、こういう、公的な、救済制度を、確認することだ」

     獅子堂は、竹本と共に、日本学生支援機構への、申請書類の、準備を、進めることにした。

    ## 第五十章 連帯保証人だった、親の苦悩

     竹本の件を、進める中で、もう一つの、問題が、浮かび上がった。

    「──奨学金の、連帯保証人に、なってる、親御さんは」

    「──父です。……もし、僕が、返せなくなったら、父にも、請求が、いくんですよね」

    「そうだ。……だからこそ、早めの、対応が、重要になる」

     獅子堂は、竹本の父親にも、同席してもらい、詳しい説明を、行った。

    「──奨学金の、保証制度には、実は、二種類ある。人的保証と、機関保証だ」

    「機関保証、というのは」

    「保証機関に、保証料を、支払うことで、連帯保証人を、立てずに、済む制度だ。……竹本さんの場合は、お父さんが、人的保証人に、なってる、人的保証だな」

    「人的保証だと、どうなるんです」

    「返還が、滞れば、保証人である、お父さんに、直接、請求がいく。……ただ、今回のように、返還期限猶予や、減額返還の、制度を、正しく使えば、そもそも、滞納自体を、防げる」

     竹本の父親は、安堵の表情を、浮かべた。

    「──こういう、公的な、救済制度は、意外と、知られていない。……困った時は、まず、貸し手側の、正式な、相談窓口に、確認することだ」

     獅子堂の、丁寧な説明に、竹本親子は、深く、感謝の意を、示した。


    ## 第五十一章 告発への準備

     疋田が集めた証拠と、荒木が確保した、証言。獅子堂は、桐生と共に、いよいよ、火野への、本格的な、告発の準備に、取り掛かることとなった。

    「──刑事告発の、要件は、整ってるか」

     獅子堂は、桐生の事務所で、資料を、確認しながら、尋ねた。

    「──背任罪と、贈収賄に、準ずる、罪状が、成立する見込みよ」

     桐生は、法律的な、整理を、進めながら、説明した。

    「銀行の、常務取締役という、立場にありながら、融資先から、個人的な、リベートを、受け取っていた。……これは、会社法上の、特別背任罪に、該当する可能性が、高い。……法定刑は、十年以下の、懲役、または、千万円以下の、罰金よ」

    「──証拠の、信憑性は」

    「元経理担当者の、証言と、振込記録。……客観的な、証拠として、十分な、強度がある。……ただ、相手は、大手銀行の、常務よ。当然、優秀な、弁護団が、つくでしょうね」

    「それでも、勝算は」

    「証拠が、これだけ、揃っていれば、十分よ。……あとは、告発状の、正式な、作成と、提出のタイミングね」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──もう一つ、大事なことがある」

    「何?」

    「マスコミへの、リークだ。……刑事告発と、同時に、灘見中央銀行の、不正融資の実態を、報道機関に、伝える」

    「──銀行への、ダメージを、最大化する、ってことね」

    「ああ。……火野は、これまで、揉み消しの、繰り返しで、ここまで、生き延びてきた。……今回も、内々に、処理されるのを、防ぐ必要がある」

     桐生は、静かに、頷いた。

    「──分かったわ。……信頼できる、記者に、心当たりが、あるの。今回の、告発と、タイミングを、合わせましょう」

     獅子堂と桐生、二人の、周到な準備が、静かに、進められていった。

    ## 第五十二章 最後の警告

     告発の、準備が、大詰めを迎えた頃、獅子堂の元に、再び、火野の秘書が、訪れた。

    「──獅子堂さん。……最後の、忠告に、参りました」

    「──もう、話し合いの、余地は、ないはずだが」

    「火野は、今回の件、本気で、対応する、覚悟のようです。……あなたと、あなたの周りの人間、両方に、相応の、対処を、するとのことです」

     秘書の、慇懃な口調の裏に、明確な、脅迫の色が、滲んでいた。

    「──脅すなら、脅すで、はっきり、言えばいい」

     獅子堂は、静かに、笑った。

    「あんたら、もう、後がないんだろう。……そういう時ほど、人間、必死に、なるもんだ。……だが、悪いが、こっちも、もう、後には、引けない」

    「──後悔、しますよ」

    「それは、火野の方だろうな」

     秘書は、しばらく、獅子堂を、睨みつけた後、静かに、去っていった。

    「──いよいよ、だな」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。八年前の、あの日から、ずっと、待ち続けてきた、決着の時が、確かに、近づいていた。


    ## 第五十三章 告発状、提出

     告発の日、獅子堂は、桐生と共に、灘見地方検察庁を、訪れた。

    「──特別背任罪、及び、贈収賄に、準ずる罪状での、告発状です」

     桐生は、分厚い、証拠資料と共に、正式な、告発状を、提出した。検事は、資料に、目を通しながら、静かに、頷いた。

    「──内容は、確認させていただきます。……証拠の、信憑性次第では、正式な、捜査が、開始されるでしょう」

    「よろしく、お願いします」

     告発状の、提出と、同時に、桐生の、伝手を通じて、報道機関にも、灘見中央銀行の、不正融資の実態が、伝えられた。

     翌日、地元紙の、朝刊に、大きな見出しが、躍った。

    「──『灘見中央銀行、常務取締役に、不正融資疑惑』」

     記事は、匿名の、情報提供を元に、八年前の、不正融資案件の、詳細と、その、揉み消しの、疑いについて、詳細に、報じていた。

     銀行本店には、その日のうちに、報道陣が、押し寄せることとなった。

    「──獅子堂さん、見ました? 今朝の、新聞」

     桐生から、電話が入った。

    「ああ。……予想以上の、反響だな」

    「銀行の、株価も、朝から、急落してるらしいわ。……金融庁も、動き出すはずよ」

    「──いよいよ、逃げ場が、なくなるな、火野も」

     獅子堂は、静かに、そう、呟いた。

    ## 第五十四章 火野、追い詰められる

     報道から、数日後、灘見中央銀行は、緊急の、記者会見を、開くこととなった。

    「──今回の、報道内容について、社内調査を、開始いたしました」

     銀行の、広報担当者は、青ざめた表情で、そう、発表した。

     同時期、検察による、正式な、捜査も、開始されることとなった。獅子堂と桐生の、提出した、証拠資料が、大きな、突破口となった。

    「──火野の、様子は」

     獅子堂は、疋田に、尋ねた。

    「──かなり、追い詰められとる、いう話や。……銀行内でも、責任問題に、なっとるらしい」

    「──向こうから、接触は」

    「今のところ、ない。……さすがに、これだけの、騒動になれば、下手に、動けんのやろう」

     数週間後、検察の、捜査により、当時の、融資先企業の、経理担当者の、証言や、振込記録の、裏付けが、正式に、取れることとなった。

    「──獅子堂さん、桐生先生」

     検事から、正式な、連絡が、入った。

    「──火野氏について、特別背任罪での、逮捕状が、発付されました」

     その報告を受けた瞬間、獅子堂は、静かに、目を、閉じた。八年間、待ち続けた、決着の、瞬間だった。


    ## 第五十五章 逮捕、そして対面

     火野の逮捕は、大々的に、報道された。灘見中央銀行の、常務取締役が、特別背任の、容疑で、逮捕される様は、地域社会に、大きな、衝撃を、与えた。

     逮捕から、数日後、獅子堂は、荒木の、計らいで、勾留中の、火野との、面会が、許されることとなった。

    「──随分と、変わり果てた、姿だな」

     アクリル板越しに、獅子堂は、静かに、火野を、見据えた。かつての、自信に満ちた、表情は、そこには、もう、なかった。

    「──獅子堂……お前が、これを、仕組んだのか」

    「仕組んだ、というより……あんたが、蒔いた種を、ようやく、刈り取っただけだ」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「──八年前。俺が、告発した、あの日のことを、覚えてるか」

    「……」

    「あんたは、俺を、切り捨てて、涼しい顔で、出世を、続けた。……その間、俺が、どんな思いで、この八年を、過ごしてきたか、想像したことは、あるか」

     火野は、俯いたまま、何も、答えなかった。

    「──あんたを、憎んで、恨んで……その気持ちだけで、ここまで、来たわけじゃない」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「不正を、揉み消して、平然と、生きていける社会が、間違ってると、そう、思ったからだ。……あんたのような人間を、野放しにしてたら、この街の、真面目に生きてる人間が、報われない」

    「──綺麗事、を」

    「綺麗事で、結構だ。……だが、その綺麗事を、貫き通した結果が、これだ」

     獅子堂は、静かに、席を、立った。

    「──罪は、罪として、償え。……それが、あんたに、できる、最後の、けじめだ」

     獅子堂は、それ以上、振り返ることなく、面会室を、後にした。


    ## 第五十六章 裁判、そして判決

     火野の、裁判は、数ヶ月にわたり、続けられた。桐生も、被害企業側の、代理人として、法廷での、手続きに、関わることとなった。

    「──特別背任罪の、立証は、順調に、進んでるか」

     獅子堂は、桐生に、経過を、尋ねた。

    「──証拠が、揃ってるからね。……検察側の、立証は、かなり、有利に、進んでる」

    「──火野の、弁護側の、主張は」

    「『融資判断は、正当な、経営判断だった』と、主張してるわ。……でも、リベートの、振込記録という、動かぬ証拠がある以上、苦しい、主張ね」

     数ヶ月後、判決の日が、訪れた。

    「──被告人を、懲役三年、罰金五百万円に、処す」

     裁判官の、判決に、傍聴席が、静かに、ざわめいた。実刑判決だった。

    「──執行猶予は、つかなかったのね」

     桐生が、静かに、呟いた。

    「──計画的かつ、悪質な、犯行と、判断されたんだろう」

     獅子堂は、静かに、判決を、受け止めた。

     判決後、灘見中央銀行は、正式に、火野を、懲戒解雇とし、当時の、獅子堂に対する、処分についても、改めて、調査を、行うこととなった。

     数週間後、銀行から、獅子堂の元に、正式な、通知が、届いた。

    「──『貴殿に対する、過去の、懲戒解雇処分について、事実誤認があったことを、認め、撤回いたします』……」

     獅子堂は、その、通知書を、静かに、見つめた。

    「──八年、経って……ようやく、か」

     獅子堂の、胸に、複雑な、感慨が、こみ上げてきた。名誉の、回復。だが、それは、単なる、過去への、区切りに、過ぎなかった。獅子堂の、これからの、道は、この、南灯町での、日々の中に、確かに、あった。


    ## 第五十七章 新たな依頼、日常の再開

     火野との、決着から、しばらく経った、ある日。獅子堂の事務所には、いつも通り、新たな、依頼人の姿があった。

    「──獅子堂さん、実は、ネットの、副業に、騙されて」

     依頼人は、パート勤めの、主婦、木村(きむら)だった。

    「──『スマホで、簡単に、月収三十万』という、広告を見て、登録したら、最初に、『情報商材』を、買わされて。……五十万円分」

    「──情報商材詐欺、だな。……よくある、パターンだ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「広告に、書かれてた、収益の実績は、確認したか」

    「『実績多数』としか……具体的な、数字は、見てません」

    「──特定商取引法では、副業の、勧誘広告にも、規制がある。……著しく、誇大な、収益実績を、示して、消費者を、誤認させる行為は、不当表示に、あたる可能性がある」

     獅子堂は、木村の、契約書類を、確認した。

    「──それに、この、情報商材、クーリングオフの、対象にも、なり得る。……『特定継続的役務提供』に、該当する場合もあるからな」

    「取り戻せますか」

    「業者の、実態を、まず、調べよう。……疋田に、頼んでみる」

    ## 第五十八章 情報商材詐欺との対峙

     疋田の調査により、木村を騙した、情報商材業者の、実態が、明らかになった。

    「──獅子堂、この業者、他にも、大勢、同じ手口で、やっとる」

    「──被害者の会、みたいなのは」

    「ネット上に、既に、被害者の、掲示板が、立っとる。……儂の見立てじゃ、少なくとも、五十人以上は、おるはずや」

     獅子堂は、桐生と共に、この、集団での、対応を、進めることにした。

    「──今回も、集団での、内容証明と、返金請求ね」

    「ああ。……被害者の会の、代表とも、連携しよう」

     数週間の、交渉の末、業者は、被害者たちへの、一定額の、返金に、応じることとなった。完全な、勝利とは、言えなかったが、多くの、被害者が、救済されることとなった。

    「──獅子堂さん、本当に、ありがとうございました」

     木村は、深く、頭を下げた。

    「──礼はいい。……『簡単に稼げる』って話には、大抵、裏がある。これからも、気を付けろよ」

     獅子堂の、日常は、こうして、変わらず、続いていった。派手な、決着の後にも、この街には、まだまだ、数え切れないほどの、小さな、トラブルが、待ち受けていた。


    ## 第五十九章 敷金返還のトラブル

     ある日、獅子堂の元に、引っ越したばかりの、若い男性、佐藤(さとう)が、相談に訪れた。

    「──アパートを、退去したんですが……敷金が、ほとんど、戻ってこなくて」

    「──いくら、預けてた」

    「十万円です。……でも、戻ってきたのは、一万円だけで。『原状回復費用』として、九万円、差し引かれました」

    「──明細は、もらったか」

     獅子堂は、佐藤が、持ってきた、精算書を、確認した。

    「──『クロスの、全面張替え』、『フローリングの、補修』……随分と、大掛かりな、費用が、計上されてるな」

    「普通に、住んでただけなんですが……」

    「──国土交通省の、『原状回復をめぐる、トラブルと、ガイドライン』、というのが、ある。……これによれば、通常の、使用による、経年劣化や、通常損耗は、借主の、負担にはならない」

    「経年劣化、というと」

    「日焼けによる、クロスの変色や、家具の設置による、床のへこみなど、通常の、生活で、生じる、劣化のことだ。……これらは、家賃に、含まれてる、と考えられてる」

    「じゃあ、この、九万円は」

    「借主の、故意や、過失による、損傷でない限り、負担する、必要はない。……不当な、原状回復費用の、請求だ」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「──大家、または、管理会社に、内容証明で、正式に、返還を、請求しよう」

    ## 第六十章 原状回復ガイドラインの力

     獅子堂は、佐藤に代わって、管理会社との、交渉に、あたった。

    「──この、原状回復費用の、請求、国土交通省の、ガイドラインに、照らして、不当です」

    「し、しかし、当社の、契約書には」

    「契約書に、『借主の、負担とする』と、書かれていても、それが、借主に、一方的に、不利な、特約であれば、消費者契約法により、無効となる可能性が、あります。……過去の、最高裁判例でも、同様の、判断が、示されています」

    「──最高裁判例、ですか」

    「平成十七年の、判決で、通常損耗の、原状回復費用を、賃借人に、負担させる、特約は、その旨が、契約書に、具体的に、明記され、借主が、明確に、認識していない限り、無効と、されています」

     管理会社の、担当者は、渋々、精算内容の、見直しに、応じることとなった。

    「──最終的に、五万円ほど、追加で、返還されることに、なったよ」

     獅子堂は、佐藤に、結果を、報告した。

    「──ありがとうございます! ……知らなかったら、泣き寝入り、するところでした」

    「賃貸契約の、退去時のトラブルは、本当に、多い。……敷金の、精算内容には、しっかり、目を通すことだ」

     獅子堂の、地道な、アドバイスが、また一つ、市民の、権利を、守ることとなった。


    ## 第六十一章 未払い残業代の請求

     ある夜、疲れ切った表情の、青年が、獅子堂の事務所を、訪れた。

    「──ブラック企業に、勤めていて……。残業代が、一切、支払われなくて」

     青年の名は、遠藤(えんどう)。飲食チェーンの、店長として、月に、百時間を超える、残業を、強いられていたという。

    「──タイムカードは、残ってるか」

    「会社が、『店長は、管理職だから、残業代は、出ない』と、言われてて。……タイムカード自体、つけさせてもらえませんでした」

    「──『名ばかり管理職』の、典型例だな」

     獅子堂は、険しい表情で、言った。

    「労働基準法上の、管理監督者は、経営者と、一体的な、立場にある、極めて、限定的な、存在だ。……単に、『店長』という、肩書があるだけで、実際の、権限や、待遇が、伴っていなければ、管理監督者には、該当しない」

    「じゃあ、残業代は」

    「請求できる。……ただし、証拠が、重要になる。……メールの、送信時刻、業務用の、LINEのやり取り、シフト表、給与明細……何でもいい、集められるだけ、集めよう」

    「時効は、ないんでしょうか」

    「未払い賃金の、消滅時効は、三年だ。……令和二年の、法改正で、二年から、延長された。急ぐに、越したことはないが、まだ、間に合う範囲だ」

    ## 第六十二章 労働基準監督署との連携

     獅子堂は、遠藤と共に、証拠を、集めながら、労働基準監督署への、相談も、並行して、進めることにした。

    「──労基署は、どこまで、動いてくれるんですか」

    「──悪質な、労働基準法違反には、是正勧告や、場合によっては、刑事告発も、行う。……ただ、動きが、遅いこともある。だからこそ、こっちでも、独自に、証拠を、固めておく必要がある」

     獅子堂は、桐生と共に、未払い残業代の、計算を、進めた。

    「──遠藤さんの、実労働時間を、業務用LINEの、送信履歴から、逆算すると……月平均、九十時間の、残業が、確認できる」

     桐生が、丁寧に、計算した、未払い残業代の、総額は、二年分で、およそ、四百五十万円に、上った。

    「──こんなに、あったんですね……」

     遠藤は、驚きの声を、上げた。

    「──会社に、正式な、請求書を、送りましょう。……応じなければ、労働審判、あるいは、訴訟も、視野に入れる」

     桐生の、正式な、請求により、会社側は、当初、抵抗を、見せたものの、証拠の、強固さに、最終的に、和解に、応じることとなった。

    「──全額とは、いかなかったけど……三百八十万円の、支払いで、和解することに、なったわ」

    「──ありがとうございます、本当に」

     遠藤は、涙ながらに、感謝の言葉を、述べた。

    「──次の職場では、ちゃんと、労働条件を、確認しろよ。……『名ばかり管理職』には、二度と、なるな」

     獅子堂の、忠告に、遠藤は、深く、頷いた。


    ## 第六十三章 疋田の過去

     ある夜、事務所で、二人きりになった時、獅子堂は、ふと、疋田に、尋ねたことがある。

    「──お前、なんで、情報屋なんか、やってるんだ」

    「──急に、何や」

     疋田は、少し、驚いたように、答えた。

    「いや、ずっと、気になってた。……お前ほどの、情報網と、腕があれば、もっと、まっとうな、商売も、できるだろうに」

     疋田は、しばらく、黙った後、静かに、語り始めた。

    「──昔、儂も、堅気の、商売、しとったんや。……小さな、金融会社を、経営しとった」

    「──今の、お前からは、想像も、つかないな」

    「せやろな。……でも、大手の、乱暴な、取り立て屋に、商売を、潰されてな。……法律を、知らんかったばっかりに、なす術もなく、全部、失った」

     獅子堂は、静かに、耳を、傾けた。

    「──それから、儂は、決めたんや。……法律を、知らん人間が、食い物にされる、この世の中の、仕組みを、儂なりに、利用してやろう、と。裏の情報を、集めて、それを、正しく使える、人間に、渡す。……それが、儂の、贖罪、いうか、生き方や」

    「──だから、俺に、協力してるのか」

    「──せやな。……お前は、儂と、違って、法律を、正しく使える。……儂の、集めた情報が、お前を通じて、誰かを、救うことに、なるなら……それで、十分、意味がある」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──ありがとよ、疋田」

    「──礼なんぞ、要らんわ。……儂らしくもない、殊勝なこと、言わせるな」

     疋田は、照れくさそうに、話を、逸らした。二人の、凸凹な、しかし、確かな、信頼関係が、そこには、あった。

    ## 第六十四章 荒木の、密かな敬意

     ある日、荒木が、珍しく、酒を、片手に、獅子堂の事務所を、訪れた。

    「──おい、獅子堂。……付き合え」

    「──珍しいな、お前が、誘うなんて」

     二人は、事務所の、隅で、静かに、酒を、酌み交わした。

    「──なあ、獅子堂。……お前、なんで、そこまで、この街の、連中のために、動くんだ」

     荒木の、率直な問いに、獅子堂は、しばらく、考えた後、答えた。

    「──銀行員だった頃、俺は、数字と、規則の中で、生きてた。……でも、あの、告発の一件で、気付いたんだ。……法律や、制度っていうのは、本来、弱い立場の人間を、守るために、あるはずなのに……実際には、それを、知ってる人間だけが、得をする仕組みに、なってる」

    「──それを、正したい、ってことか」

    「大層な、話じゃない。……ただ、目の前の、困ってる人間を、放っておけない、それだけだ」

     荒木は、静かに、杯を、傾けた。

    「──俺も、正直、お前の、やってることは、グレーだと、思ってる。……だが、お前が、この街に、いてくれて、助かってる人間が、大勢いるのも、事実だ」

    「──珍しく、褒めるじゃないか」

    「──調子に、乗るな。……今日だけだぞ」

     荒木は、そう言いながらも、僅かに、笑みを、浮かべていた。刑事と、グレーな、街の便利屋、立場は違えど、確かな、信頼関係が、そこには、育まれていた。


    ## 第六十五章 桐生の、譲れない一線

     ある日、獅子堂は、桐生から、珍しく、厳しい、叱責を、受けることとなった。

    「──獅子堂、この前の、示談交渉、ちょっと、やりすぎじゃない?」

    「──何のことだ」

    「相手の、業者に、『警察に、垂れ込むぞ』って、脅すような、真似、したでしょう」

     獅子堂は、少し、バツが悪そうに、視線を、逸らした。

    「──脅しじゃない。……事実を、伝えただけだ」

    「言い方の、問題よ。……あんたの、やり方は、時々、危うい。……脅迫まがいの、言動は、こっちが、逆に、法的な、リスクを、負うことになる」

     桐生は、真剣な、表情で、続けた。

    「──私たちが、悪徳業者と、同じ土俵に、立っちゃ、意味がない。……あくまで、正しい、法律の力で、勝負する。それが、私たちの、譲れない、一線よ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──分かった。……気を付ける」

    「分かればいいのよ」

     桐生は、少し、表情を、和らげた。

    「──あんたの、やってることは、確かに、意義がある。……だからこそ、正当な、手段で、きっちり、結果を、出してほしいの」

    「──了解した」

     獅子堂は、桐生の、その、真っ直ぐな、姿勢に、改めて、深い、信頼を、抱いていた。この、凸凹な、コンビの、確かなバランスが、南灯町の、数々の、トラブルを、正しく、解決へと、導いてきた、大きな、支えとなっていた。

    ## 第六十六章 名義貸しの罠

     ある日、獅子堂の元に、初老の、男性が、困り果てた様子で、訪れた。

    「──知人に、頼まれて、会社の、代表者に、名前だけ、貸したんですが……多額の、借金の、責任を、負わされそうで」

    「──名義貸し、というやつだな」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「知人に、頼まれて、法人の、代表取締役に、名前だけ、なった、ということか」

    「はい……。『名前だけで、実務は、一切、任せない』と、言われて」

    「──それが、一番、危険な、パターンだ」

     獅子堂は、険しい表情で、続けた。

    「会社法上、代表取締役は、会社の、対外的な、責任を、負う、重要な、立場だ。……名前を、貸しただけのつもりでも、法律上は、正式な、代表者として、扱われる」

    「じゃあ、責任は」

    「原則として、逃れられない。……ただし、実質的な、経営に、一切、関与していなかったことを、証明できれば、責任の、範囲が、限定される、可能性はある」

    「証明、できますか」

    「業務への、関与の、有無を、示す、証拠を、集めよう。……給与の受け取りが、なかったこと、実際の、意思決定に、関わっていなかったことなど」

     獅子堂は、静かに、その、対応方針を、示した。

    「──今回は、教訓として、覚えておいてくれ。……どんなに、頼まれても、安易に、名前を、貸すもんじゃない」


    ## 第六十七章 名義貸しからの脱却

     獅子堂は、桐生と共に、名義貸しの、男性の、実質的な、経営への、不関与を、証明するための、証拠集めを、進めた。

    「──給与の、振込記録が、一切ない。……それに、取締役会の、議事録にも、一度も、出席の、記録がない」

     桐生は、集めた、証拠を、確認しながら、言った。

    「──これなら、実質的な、経営者ではなく、名目上の、代表者に、過ぎなかったことが、十分、立証できる」

     債権者との、交渉の場で、桐生は、これらの証拠を、示しながら、主張を、展開した。

    「──こちらの、依頼人は、実質的な、経営に、一切、関与していません。……名義貸しの、被害者と、言えます。全額の、責任を、負わせるのは、著しく、不公平です」

     債権者側も、証拠の、明確さに、最終的に、責任の、範囲を、大幅に、縮小することに、合意した。

    「──獅子堂さん、桐生先生。……本当に、助かりました」

     男性は、深く、安堵の息を、漏らした。

    「──こういう、名義貸しの、トラブルは、後を絶たない。……『名前だけでいいから』という、言葉には、絶対に、乗るな。……それが、全ての、責任を、背負い込む、入り口になる」

     獅子堂の、厳しい忠告に、男性は、深く、頷いた。

    ## 第六十八章 中古車ローンの、二重価格

     ある日、獅子堂の元に、若いカップルが、相談に、訪れた。

    「──中古車を、購入したんですが……ローンの、契約内容が、おかしくて」

    「──見せてくれ」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──車両価格に対して、ローンの、総支払額が、不自然に、高いな。……金利は、何パーセントに、なってる」

    「契約書には、『実質年率、十五パーセント』と、あります」

    「──それ自体は、利息制限法の、範囲内だ。……だが、この、『諸費用』の、項目、随分と、細かく、水増しされてる、可能性がある」

     獅子堂は、細かい、費目を、一つ一つ、確認した。

    「──『納車整備費用』、『書類作成費用』、『保証料』……これらが、車両価格に、上乗せされて、実質的な、金利負担を、水増ししてる、疑いがある」

    「そんなこと、できるんですか」

    「本来の、車両価格を、偽って、ローンの、元本を、水増しする、いわゆる、『二重価格』の、手口だ。……これは、消費者契約法上の、不実告知に、あたる可能性がある」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「──販売店に、正式な、内訳の、開示を、求めよう。……不当な、水増しが、確認できれば、契約の、取り消しか、減額の、交渉ができる」


    ## 第六十九章 二重価格の決着

     獅子堂と桐生は、中古車販売店との、交渉に、乗り込んだ。

    「──車両価格の、内訳を、正式に、開示してください」

     桐生が、冷静に、要求した。販売店側は、当初、渋っていたが、消費者契約法違反の、可能性を、指摘されると、渋々、応じることとなった。

    「──やはりだ。……本来、八十万円の、車両を、百二十万円と、偽って、査定していた」

     獅子堂は、開示された、内訳を、確認しながら、言った。

    「──四十万円分の、水増しは、明らかな、不実告知だ。……契約の、一部無効を、主張できる」

     交渉の結果、販売店は、水増し分の、返還と、ローン契約の、見直しに、応じることとなった。

    「──ありがとうございました。……知らずに、契約してたら、と思うと、ぞっとします」

     若いカップルは、深く、感謝の言葉を、述べた。

    「──中古車の、購入時は、必ず、車両価格の、内訳を、細かく、確認しろ。……それと、複数の、販売店で、相場を、比較することも、大事だ」

     獅子堂の、実践的な、アドバイスに、二人は、深く、頷いた。

    ## 第七十章 振り込め詐欺、高齢者の危機一髪

     ある日、疋田からの、緊急の、一報が、獅子堂の元に、届いた。

    「──獅子堂、南灯町の、高齢者宅に、還付金詐欺の、電話が、かかっとる、いう情報や!」

     獅子堂は、すぐさま、荒木に、連絡を取り、現場へと、急行した。

     現場に、到着すると、既に、高齢の女性が、銀行のATMに、向かおうと、していた。

    「──待ってください!」

     獅子堂は、慌てて、女性に、声をかけた。

    「──市役所から、電話が、あって……還付金の、手続きだって」

    「──それ、詐欺です。……市役所や、税務署が、ATMの、操作を、電話で、指示することは、絶対に、ありません」

     女性は、一瞬、戸惑った様子を、見せた。荒木も、駆けつけ、状況を、確認した。

    「──奥さん、本当に、危ないところでした。……こういう電話は、まず、一度、電話を切って、家族や、警察に、確認してください」

     女性は、震える手で、電話を切り、深く、安堵の息を、漏らした。

    「──ありがとうございます……。もう少しで、大変なことに」

    「──こういう、詐欺は、本当に、巧妙になってる。……地域全体で、注意を、呼びかけることが、大事だ」

     獅子堂は、改めて、南灯町での、防犯活動の、重要性を、噛み締めていた。


    ## 第七十一章 悪質リフォーム業者、再び

     ある日、獅子堂の元に、また一人、高額なリフォーム契約に、苦しむ、老夫婦が、訪れた。

    「──屋根の、修理で、五百万円も、請求されて」

    「──見積書は」

    「これです」

     獅子堂は、見積書を、確認した。

    「──相場の、三倍以上だな。……この、業者、以前にも、噂を、聞いたことがある」

     獅子堂は、疋田に、確認を、依頼した。すぐに、報告が、返ってきた。

    「──獅子堂、この業者、複数の、高齢者から、同様の、苦情が、出とる。……典型的な、次々販売の、手口や」

    「次々販売、というのは」

    「一度、契約した、高齢者に、『ここも、直した方がいい』、『あそこも、危ない』と、次々に、契約を、迫る、悪質な、商法のことだ」

     獅子堂は、老夫婦に、丁寧に、説明した。

    「──契約から、まだ、八日以内なら、クーリングオフが、使える。……それと、著しく、不当な、価格設定は、消費者契約法上の、問題にも、なり得る」

     桐生と共に、内容証明郵便を、送付し、業者との、交渉に、乗り込んだ結果、契約は、無事に、解除され、既払金も、返還されることとなった。

    「──ありがとうございます。……もう少しで、老後の、蓄えが、全部、なくなるところでした」

     老夫婦は、深く、感謝の言葉を、述べた。

    「──次々販売の、被害は、高齢者に、特に、多い。……一度、契約した業者からの、勧誘は、二回目以降、より、慎重に、対応することだ」

    ## 第七十二章 訪問販売、次々被害の連鎖を断つ

     この、リフォーム業者の一件は、単独の、事件では、終わらなかった。疋田の調査により、同様の被害者が、南灯町周辺で、十人以上、見つかることとなった。

    「──獅子堂、これ、集団で、対応した方が、ええんちゃうか」

     疋田の提案を受け、獅子堂は、桐生と共に、被害者説明会を、開くことにした。

    「──皆さん、それぞれ、辛い思いを、されてきたと思います。……今回は、皆さんで、力を合わせて、この、悪質な業者に、対応していきます」

     桐生の、呼びかけに、被害者たちは、次々と、名乗りを、上げた。

     集団での、内容証明と、消費生活センターへの、通報、そして、地元紙への、情報提供。獅子堂たちの、周到な、対応により、この、悪質リフォーム業者は、最終的に、営業停止処分を、受けることとなった。

    「──皆さんの、勇気ある、声が、この結果を、生んだんです」

     桐生は、被害者たちに、そう、伝えた。

    「──獅子堂さん、桐生先生……本当に、ありがとうございました」

     被害者たちは、口々に、感謝の言葉を、述べた。獅子堂は、静かに、頷きながら、この街の、地道な、正義の積み重ねを、確かに、実感していた。


    ## 第七十三章 スマホ決済詐欺

     ある日、大学生の女性が、スマホの、フリマアプリで、代金を、支払ったのに、商品が、届かないという、相談に、訪れた。

    「──『先に、直接、振込を、してくれれば、安くします』と、言われて」

    「──それは、フリマアプリの、規約違反の、取引だ。……プラットフォーム外での、直接振込は、詐欺の、典型的な、誘導手口だ」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「アプリの、公式決済システムを、使えば、商品が、届かない場合、返金保証の、制度がある。……だが、直接振込では、その保護が、一切、受けられない」

    「取り戻すのは、難しいですか」

    「振込先の、口座情報が、分かれば、振り込め詐欺救済法の、対象になる、可能性がある。……すぐに、警察と、金融機関に、連絡しよう」

     獅子堂の、迅速な対応により、一部の、返金が、実現した。

    「──今後は、必ず、プラットフォーム内の、正規の、決済方法を、使うことだ。……『安くするから』という、誘いには、絶対に、乗るな」

    ## 第七十四章 偽装請負のトラブル

     建設現場で、働く、若い男性が、労災事故に遭ったが、会社から、「個人事業主だから、労災は、適用されない」と、言われたという、相談が、寄せられた。

    「──契約形態は」

    「業務委託契約、という、形に、なってます。……でも、実際は、会社の指示通りに、動いてるだけで」

    「──偽装請負の、疑いが、濃いな」

     獅子堂は、険しい表情で、言った。

    「実態が、雇用契約と、変わらないなら、労働基準法上の、労働者として、扱われるべきだ。……指揮命令の、有無、勤務時間の、拘束、報酬の、性質……これらを、総合的に、判断する」

     労働基準監督署への、相談と、証拠の、積み重ねにより、最終的に、労働者性が、認められ、労災保険の、適用が、認められることとなった。

    「──『業務委託』という、契約形態だからといって、実態が、雇用なら、労働者としての、権利は、守られる。……諦めずに、専門家に、相談することだ」


    ## 第七十五章 獅子堂事務所、日常の一コマ

     火野の一件から、数ヶ月が過ぎた頃、獅子堂の事務所には、いつも通りの、平穏な日常が、戻っていた。

    「──獅子堂さん、今日の、相談の予約、三件、入ってます」

     最近、獅子堂の事務所には、パートの、事務員として、かつての、依頼人の一人であった、田村美咲が、働くようになっていた。

    「──美咲、ありがとな。……お前が、来てくれてから、随分、助かってる」

    「──恩返しのつもりです。……あの時、獅子堂さんに、助けてもらったから」

     美咲は、明るく、笑った。かつて、ヤミ金に、苦しめられていた、彼女の面影は、もう、そこには、なかった。

     午前中の、相談は、比較的、簡単な、案件だった。午後、少し、複雑な、遺言書の、有効性を巡る、相談が、入っていた。

    「──獅子堂さん、次の、依頼人の方、お見えです」

    「──通してくれ」

     獅子堂の、南灯町での、日々は、こうして、変わらず、続いていった。派手な、大事件だけでなく、こうした、地道な、日常の積み重ねこそが、この街の、確かな、平和を、支えていた。

    ## 第七十六章 桐生からの、思わぬ提案

     ある日、桐生が、獅子堂の事務所に、思わぬ、提案を、持ちかけた。

    「──獅子堂、あんた、そろそろ、正式に、資格を、取る気は、ないの」

    「──資格、というと」

    「行政書士でも、司法書士でも、いい。……そうすれば、もっと、堂々と、活動できるでしょう」

     獅子堂は、少し、考え込んだ。

    「──今更、か」

    「今更でも、遅くはないわ。……あんたの、知識と、経験があれば、十分、合格できるはずよ」

    「──考えて、おくよ」

     獅子堂は、曖昧に、そう答えたが、内心では、桐生の、提案を、真剣に、検討し始めていた。この街での、活動を、より、確かな、形に、していくこと。それもまた、これからの、獅子堂の、新たな、目標になるのかもしれなかった。

    「──まあ、今は、まだ、目の前の、依頼人たちを、優先させてくれ」

    「──分かってるわよ。……気長に、待つわ」

     桐生は、静かに、微笑んだ。獅子堂の、これからの、道のりには、まだまだ、多くの、可能性が、広がっていた。


    ## 第七十七章 三つの相談、一日の記録

     ある日の、獅子堂の事務所には、立て続けに、三件の、相談が、舞い込んだ。

     午前中の、一件目は、フリーランスの、デザイナーからの、相談だった。

    「──クライアントから、納品後に、突然、『契約を、なかったことに』と、言われて、報酬が、支払われません」

    「──業務委託契約でも、既に、完了した、業務については、報酬請求権が、発生する。……下請法や、フリーランス保護新法の、対象になる、可能性もある」

     獅子堂は、契約内容と、納品の証拠を、確認し、内容証明での、請求を、進めることにした。

     二件目は、ネットショップでの、詐欺的な、返品対応に関する、相談だった。

    「──不良品を、返品しようとしたら、『返品不可』の、一点張りで」

    「──特定商取引法では、通信販売の、返品特約は、明確に、表示されていなければ、無効になる。……表示の有無を、確認しよう」

     三件目は、高齢の女性からの、投資詐欺の、相談だった。

    「──『元本保証で、月利十パーセント』という、話に、乗ってしまって」

    「──それは、明らかな、詐欺だ。……そんな、高利回りを、元本保証で、謳う、金融商品は、この世に、存在しない」

     獅子堂は、それぞれの、相談に、丁寧に、対応しながら、南灯町の、一日を、また一つ、乗り越えていった。

    「──今日も、忙しい、一日だったな」

     夕方、事務所に、静けさが、戻った頃、獅子堂は、疲れた身体を、椅子に、預けながら、そう、呟いた。だが、その、疲労の中にも、確かな、充実感が、あった。

    ## 第七十八章 地域からの、信頼

     獅子堂の、地道な、活動は、いつしか、南灯町の、多くの人々からの、確かな、信頼を、集めるようになっていた。

    「──獅子堂さんの、事務所に、相談すれば、大抵の、金融トラブルは、解決してくれる」

     そんな評判が、口コミで、広がり、事務所には、連日、多くの、相談者が、訪れるようになっていた。

    「──最近、随分と、忙しそうね」

     桐生が、事務所の、様子を見て、そう言った。

    「──ああ。……ありがたいことだ」

    「一人で、抱えすぎないようにね。……疋田や、荒木、そして、私も、いつでも、頼っていいんだから」

    「──分かってる」

     獅子堂は、静かに、頷いた。かつて、一人で、抱え込んで、告発の代償を、払った、あの日から、獅子堂は、確かに、変わっていた。信頼できる、仲間たちと、共に、この街の、正義を、支えていく。それこそが、獅子堂の、新たな、生き方だった。


    ## 第七十九章 個人再生という道

     ある日、多重債務に、苦しむ、中年男性が、獅子堂の元を、訪れた。

    「──五社から、借り入れがあって……総額、六百万円に、なってます」

    「──収入は、安定してるか」

    「はい。……正社員として、働いてます」

    「──なら、自己破産より、個人再生が、適してるかもしれない」

     獅子堂は、丁寧に、説明した。

    「個人再生には、二種類ある。……小規模個人再生と、給与所得者等再生だ。……どちらも、債務を、大幅に、圧縮できる。最大で、五分の一まで、減額される場合もある」

    「家は、残せますか」

    「──『住宅資金特別条項』を、使えば、住宅ローンは、別枠で、返済を続けながら、他の、借金だけを、圧縮できる。……家を、手放さずに、再建する道が、ある」

    「自己破産との、違いは」

    「自己破産は、原則、財産を、手放す必要がある。……ただし、個人再生は、継続的な、収入が、条件になる」

     獅子堂は、桐生と共に、個人再生の、申立て準備を、進めることにした。数ヶ月後、裁判所の、認可を得て、男性の、債務は、大幅に、圧縮されることとなった。

    「──本当に、ありがとうございました。……もう一度、頑張れる、気がします」

    「──二度と、無理な、借金には、頼るなよ」

     獅子堂の、忠告に、男性は、深く、頷いた。

    ## 第八十章 特定調停という、もう一つの選択肢

     自己破産にも、個人再生にも、踏み切れない、というケースも、あった。ある、自営業の、女性からの、相談が、そうだった。

    「──借金は、あるんですが……できれば、裁判所の、手続きは、大げさに、したくなくて」

    「──なら、『特定調停』という、方法もある」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「簡易裁判所で、調停委員を、介して、債権者との、話し合いを、進める制度だ。……手続きが、比較的、簡易で、費用も、抑えられる」

    「効果は、あるんですか」

    「利息の、減免や、返済期間の、延長など、柔軟な、合意が、期待できる。……ただし、強制力は、個人再生ほど、強くはない」

     獅子堂は、女性の、状況を、丁寧に、聞き取りながら、特定調停の、申立てを、支援することにした。数ヶ月後、無理のない、返済計画での、合意が、成立した。

    「──ありがとうございました。……これなら、続けられそうです」

    「──状況に、応じて、色んな、選択肢がある。……一人で、抱え込まず、まず、相談することだ」

     獅子堂の、幅広い、知識と、経験が、また一人の、人生を、支えることとなった。


    ## 第八十一章 仮想通貨投資の罠

     ある日、若い会社員が、仮想通貨の、自動売買システムへの、投資で、大金を、失ったという、相談に、訪れた。

    「──『AIが、自動で、稼いでくれる』という、話で、三百万円、投資しました」

    「──よくある、投資詐欺の、手口だ。……金融商品取引法上、こうした、自動売買システムへの、投資勧誘には、厳格な、登録と、開示義務がある」

     獅子堂は、契約書類を、確認した。

    「──この業者、金融庁への、登録が、確認できない。……無登録での、金融商品の、勧誘は、違法だ」

     疋田の調査により、業者の、実態を、追跡し、振り込め詐欺救済法に基づく、口座凍結の、手続きを、進めた結果、一部の、資金を、回収することが、できた。

    「──『AIが、自動で、儲けてくれる』なんて、話に、簡単に、乗るな。……仮想通貨も、投資も、必ず、リスクがある。うまい話には、必ず、裏がある」

    ## 第八十二章 賃貸保証会社とのトラブル

     家賃の、滞納を、理由に、鍵を、勝手に、交換された、という、相談も、あった。

    「──追い出し行為、というやつだな」

     獅子堂は、険しい表情で、言った。

    「賃貸借契約は、いくら、家賃を、滞納していても、正当な、法的手続きを、経ずに、勝手に、鍵を交換したり、荷物を、撤去したりすることは、違法だ。……これは、いわゆる、『自力救済の禁止』の、原則に、反する」

    「そんな……勝手に、追い出されたのに」

    「不法行為として、損害賠償を、請求できる。……それと、賃貸保証会社への、業務停止処分の、申立ても、視野に入る」

     獅子堂は、桐生と共に、保証会社への、正式な、抗議と、損害賠償請求を、進めることにした。数週間後、保証会社は、非を認め、慰謝料の、支払いに、応じることとなった。

    「──こういう、乱暴な、追い出し行為は、絶対に、許してはいけない。……泣き寝入りせず、必ず、専門家に、相談することだ」

    ## 第八十三章 偽ブランド品の、詐欺被害

     ネットオークションで、購入した、高級腕時計が、偽物だった、という、相談も、寄せられた。

    「──代金は、三十万円。……鑑定に出したら、偽物だと、判明しました」

    「──詐欺罪、及び、商標法違反にあたる、可能性が、高い」

     獅子堂は、出品者の、情報を、確認した。

    「──匿名性の高い、取引だが……振込先の、口座情報から、追跡は、可能だ」

     疋田の調査により、出品者の、実態が、判明し、警察への、被害届と、振り込め詐欺救済法に基づく、手続きを、進めた結果、一部の、返金が、実現した。

    「──ネットオークションでの、高額商品の、取引は、必ず、信頼できる、鑑定書付きの、出品者を、選ぶことだ」

     獅子堂の、実践的な、アドバイスが、また一つ、市民の、財産を、守ることとなった。


    ## 第八十四章 高齢者の、財産管理トラブル

     認知症の、母親の、財産を、勝手に、使い込まれていた、という、相談が、姉妹から、寄せられた。

    「──弟が、母の、通帳を、管理してるんですが……使途不明な、出金が、多くて」

    「──成年後見制度は、使ってるか」

    「いえ、まだ」

    「──成年後見制度は、判断能力が、不十分な人の、財産を、法的に、保護する制度だ。……家庭裁判所が、選任した、後見人が、財産管理を、行う」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「今の状態だと、弟さんが、事実上、自由に、財産を、使える状態だ。……まず、成年後見の、申立てを、進めよう。それと、これまでの、不明な、出金についても、記録を、精査する必要がある」

     桐生と共に、成年後見の、申立てを、進め、専門の、後見人が、選任されることとなった。使途不明金についても、詳細な、調査が、行われ、一部、返還の、合意が、成立した。

    「──家族間の、お金のトラブルは、感情的に、こじれやすい。……早めに、公的な、制度を、活用することが、大事だ」

    ## 第八十五章 労働組合との連携

     ブラック企業での、パワハラと、不当解雇に、苦しむ、青年からの、相談も、あった。

    「──突然、『明日から、来なくていい』と、言われて」

    「──解雇には、正当な、理由と、手続きが、必要だ。……労働契約法十六条、解雇権濫用の、法理だ」

     獅子堂は、青年に、地域の、労働組合、いわゆる、『合同労組』への、加入を、勧めた。

    「──一人での、団体交渉には、限界がある。……労働組合を、通じた、団体交渉権を、使えば、会社側も、無視できなくなる」

     労働組合との、連携により、団体交渉が、実現し、不当解雇の、撤回と、未払い賃金の、支払いで、合意が、成立した。

    「──一人で、抱え込まず、労働組合のような、味方を、見つけることも、大事な、戦略の一つだ」

    ## 第八十六章 国民生活センターとの連携

     獅子堂は、日頃から、南灯町の、消費生活センターとも、密接に、連携を、取っていた。

    「──獅子堂さん、今日は、こちらから、情報提供です」

     消費生活センターの、相談員が、獅子堂の、事務所を、訪れた。

    「最近、新手の、点検商法の、被害相談が、急増してます。……情報を、共有させてください」

    「ありがたい。……こっちも、把握してる、情報を、共有しよう」

     こうした、公的機関との、連携もまた、獅子堂の、活動を、支える、重要な、要素だった。個人の力だけでなく、地域全体で、悪徳業者に、対抗する、確かな、ネットワークが、南灯町には、育まれつつあった。


    ## 第八十七章 美咲の、その後

     獅子堂の、事務所で、働くようになった、田村美咲は、日々、着実に、成長を、続けていた。

    「──獅子堂さん、この、相談者の方、事前に、簡単な、整理を、しておきました」

    「──随分、様になってきたな」

     美咲は、獅子堂の、仕事ぶりを、間近で、見続けるうちに、自らも、法律の、基礎知識を、学び始めていた。

    「──いつか、私も、行政書士の、資格でも、取ろうかな、って」

    「──いいじゃないか。……なりたいものに、なればいい」

    「獅子堂さんの、影響、かもしれません」

    「──悪い影響じゃ、なきゃいいがな」

     獅子堂は、苦笑しながら、そう言った。かつて、ヤミ金に、苦しめられていた、一人の女性が、今では、この、南灯町の、正義を、支える、一員へと、成長しつつあった。

    ## 第八十八章 中村の、その後

     連帯保証人の、契約無効の、一件で、救われた、中村もまた、その後、獅子堂の元を、時折、訪れるように、なっていた。

    「──獅子堂さん、息子から、連絡が、あったんです」

    「──蒸発してた、息子さんが、か」

    「はい。……色々、あって、更生施設で、真面目に、働いてるらしくて。……少しずつ、借金も、返し始めてると」

    「──それは、良かったな」

     獅子堂は、静かに、微笑んだ。

    「──家族の、絆っていうのは、簡単には、切れないもんだ。……焦らず、見守ってやれ」

    「はい……。ありがとうございます」

     中村は、深く、頭を下げた。獅子堂の、解決してきた、事件の一つ一つには、こうした、その後の、確かな、人生の、続きが、静かに、育まれていた。

    ## 第八十九章 井上の、会社、その後

     乗っ取り屋から、会社を、守り抜いた、井上の、町工場も、その後、着実に、業績を、回復させていた。

    「──獅子堂さん、おかげさまで、新しい、取引先も、増えて」

    「──良かったな。……あの時、諦めずに、戦って、正解だったな」

    「はい。……従業員たちも、みんな、安心して、働いてくれてます」

     井上は、感謝の印として、時折、獅子堂の事務所に、自社製品の、小さな、金属加工品を、差し入れに、持ってくるようになっていた。

    「──こういう、地道な、繋がりが、実は、一番、嬉しいもんだ」

     獅子堂は、静かに、そう、呟いた。派手な、事件の裏には、こうした、確かな、人々の、日常の、再生が、積み重ねられていた。


    ## 第九十章 最後の相談、そして、これから

     ある、穏やかな、午後。獅子堂の事務所に、また一人、若い女性が、緊張した面持ちで、訪れた。

    「──あの……友人から、聞いて。……借金のことで」

    「──座りな。……話を、聞こう」

     獅子堂は、いつものように、静かに、そう、応じた。この街には、まだまだ、数え切れないほどの、金融トラブルが、渦巻いている。だが、獅子堂は、もう、一人では、なかった。

     桐生という、頼れる、弁護士。疋田という、情報網に、精通した、相棒。荒木という、信頼できる、刑事。そして、美咲のような、かつての、依頼人が、今度は、共に、働く、仲間として、この事務所を、支えてくれている。

    「──獅子堂さん、次の、依頼人の方も、お待ちです」

    「──分かった。……すぐ、行く」

     獅子堂は、静かに、席を、立った。窓の外には、南灯町の、賑やかな、街並みが、広がっている。この街の、光と、影。その、両方を、見つめ続けながら、獅子堂は、これからも、法律という、武器を手に、弱き者たちの、味方であり続けることだろう。

    「──さて。……今日も、一仕事、始めるとするか」

     獅子堂は、静かに、そう、呟き、事務所の、扉を、開けた。灯町相談所の、変わらぬ、日常が、こうして、また、静かに、続いていく。



    ## 目次

    - 第一章 トイチの女
    - 第二章 出資法という武器
    - 第三章 取り立て屋の逆襲
    - 第四章 弁護士、桐生雅子
    - 第五章 受任通知の威力
    - 第六章 解決、そして報酬
    - 第七章 連帯保証人の悲劇
    - 第八章 貸金業者との交渉
    - 第九章 情報屋、疋田
    - 第十章 被害者との面談
    - 第十一章 振り込め詐欺救済法
    - 第十二章 結婚詐欺師との対決
    - 第十三章 詐欺師の末路
    - 第十四章 保険金詐欺の影
    - 第十五章 罠と証拠
    - 第十六章 保険業界の裏側
    - 第十七章 フランチャイズ詐欺の相談
    - 第十八章 フランチャイズ本部の実態
    - 第十九章 集団での対抗
    - 第二十章 本部の抵抗、そして和解
    - 第二十一章 給与ファクタリングという抜け穴
    - 第二十二章 悪徳業者への反撃
    - 第二十三章 会社乗っ取りの相談
    - 第二十四章 乗っ取り屋の正体
    - 第二十五章 法廷での攻防
    - 第二十六章 乗っ取り屋、末路
    - 第二十七章 獅子堂の過去
    - 第二十八章 商工ローンの罠
    - 第二十九章 従業員を守る戦い
    - 第三十章 民事再生という選択肢
    - 第三十一章 高齢者を狙う、点検商法
    - 第三十二章 クーリングオフの徹底
    - 第三十三章 火野の影
    - 第三十四章 相続トラブルの相談
    - 第三十五章 特別受益の証明
    - 第三十六章 オレオレ詐欺の予兆
    - 第三十七章 地域での啓発活動
    - 第三十八章 疋田の、極秘情報
    - 第三十九章 未公開株詐欺
    - 第四十章 消えた業者
    - 第四十一章 火野の妨害工作
    - 第四十二章 証拠固めの加速
    - 第四十三章 闇バイトの罠
    - 第四十四章 自首という選択
    - 第四十五章 罠にかけられる
    - 第四十六章 繋がる糸
    - 第四十七章 マルチ商法の被害
    - 第四十八章 連鎖販売取引との決着
    - 第四十九章 奨学金という名の借金
    - 第五十章 連帯保証人だった、親の苦悩
    - 第五十一章 告発への準備
    - 第五十二章 最後の警告
    - 第五十三章 告発状、提出
    - 第五十四章 火野、追い詰められる
    - 第五十五章 逮捕、そして対面
    - 第五十六章 裁判、そして判決
    - 第五十七章 新たな依頼、日常の再開
    - 第五十八章 情報商材詐欺との対峙
    - 第五十九章 敷金返還のトラブル
    - 第六十章 原状回復ガイドラインの力
    - 第六十一章 未払い残業代の請求
    - 第六十二章 労働基準監督署との連携
    - 第六十三章 疋田の過去
    - 第六十四章 荒木の、密かな敬意
    - 第六十五章 桐生の、譲れない一線
    - 第六十六章 名義貸しの罠
    - 第六十七章 名義貸しからの脱却
    - 第六十八章 中古車ローンの、二重価格
    - 第六十九章 二重価格の決着
    - 第七十章 振り込め詐欺、高齢者の危機一髪
    - 第七十一章 悪質リフォーム業者、再び
    - 第七十二章 訪問販売、次々被害の連鎖を断つ
    - 第七十三章 スマホ決済詐欺
    - 第七十四章 偽装請負のトラブル
    - 第七十五章 獅子堂事務所、日常の一コマ
    - 第七十六章 桐生からの、思わぬ提案
    - 第七十七章 三つの相談、一日の記録
    - 第七十八章 地域からの、信頼
    - 第七十九章 個人再生という道
    - 第八十章 特定調停という、もう一つの選択肢
    - 第八十一章 仮想通貨投資の罠
    - 第八十二章 賃貸保証会社とのトラブル
    - 第八十三章 偽ブランド品の、詐欺被害
    - 第八十四章 高齢者の、財産管理トラブル
    - 第八十五章 労働組合との連携
    - 第八十六章 国民生活センターとの連携
    - 第八十七章 美咲の、その後
    - 第八十八章 中村の、その後
    - 第八十九章 井上の、会社、その後
    - 第九十章 最後の相談、そして、これから
    - 特別付録 灯町相談所式・使える法律知識三十選
    - 外伝一 疋田、情報屋になった日
    - 外伝二 荒木、刑事としての矜持
    - 外伝三 桐生雅子、弁護士としての原点
    - 外伝四 火野、獄中での述懐
    - 外伝五 美咲、資格への挑戦
    - 第九十一章 外国人労働者からの相談
    - 第九十二章 クレジットカードの、不正利用
    - 第九十三章 電子マネーのチャージ詐欺
    - 第九十四章 空き家を狙う、地面師まがいの手口
    - 第九十五章 ペット霊園の、悪質商法
    - 第九十六章 NFT・暗号資産がらみの新型詐欺
    - 第九十七章 夜逃げした、貸金業者
    - 第九十八章 悪質な探偵業者
    - 第九十九章 悪質な、リース契約
    - 第百章 灯町相談所、これからも
    - 第百一章 新たな依頼、生命保険金の受取人トラブル
    - 第百二章 パワハラ上司との闘い
    - 第百三章 消費者金融の、過剰貸付
    - 第百四章 悪質な、就活サイト
    - 第百五章 結婚相談所の、退会トラブル
    - 第百六章 偽の、税務署からの電話
    - 第百七章 地面師事件、疑惑の再燃
    - 第百八章 悪質な、退去立会いトラブル
    - 第百九章 ネットの、誹謗中傷被害
    - 第百十章 太陽光発電の、悪質商法
    - 第百十一章 偽の、警察官を名乗る詐欺
    - 第百十二章 葬儀費用を巡るトラブル
    - 第百十三章 脱毛エステの、中途解約トラブル
    - 第百十四章 個人間売買の、詐欺
    - 第百十五章 悪質な、探偵まがいの、興信所
    - 第百十六章 太陽光パネルの、撤去義務トラブル
    - 第百十七章 悪質な、電話勧誘、光回線の乗り換え詐欺
    - 第百十八章 中小企業の、資金繰り相談
    - 第百十九章 偽の、当選詐欺
    - 第百二十章 悪質な、リフォーム、瑕疵担保責任
    - 第百二十一章 悪徳、家庭教師派遣業者
    - 第百二十二章 美咲、独り立ちへの一歩
    - 第百二十三章 疋田の、引退話
    - 第百二十四章 荒木の、昇進
    - 第百二十五章 桐生の、独立
    - 第百二十六章 新たな事務所の風景
    - 第百二十七章 次世代への、継承
    - 第百二十八章 地域からの、表彰
    - 第百二十九章 変わらぬ、日常
    - 終章 灯町相談所、続く物語
    - 特別付録二 灯町相談所式・使える法律知識 実践編二十選
    - 外伝六 獅子堂、銀行員時代の矜持
    - 外伝七 美咲、初めての依頼
    - 外伝八 疋田、最後の一仕事
    - 外伝九 荒木、若手刑事への教え
    - 外伝十 桐生、若手弁護士への薫陶
    - 外伝十一 獅子堂と美咲、事務所の、その後
    - 第百三十章 新人時代の、ある依頼
    - 第百三十一章 老人ホームの、不当請求
    - 第百三十二章 三者の連携、深まる絆
    - 第百三十三章 若手情報屋、颯太の見習い
    - 第百三十四章 颯太、初めての仕事
    - 第百三十五章 獅子堂、後進への想い
    - 特別付録三 灯町相談所式・トラブル回避の心得十選
    - 外伝十二 獅子堂と、田村美咲、初対面の裏側
    - 外伝十三 荒木、若かりし日の、失敗談
    - 外伝十四 桐生、多忙な日々の、息抜き
    - 外伝十五 疋田、颯太への最後の教え
    - 外伝十六 疋田の、引退式
    - 外伝十七 颯太、正式な、後継者へ
    - 第百三十六章 颯太、初の大仕事
    - 第百三十七章 大規模投資詐欺グループの、摘発
    - 第百三十八章 疋田、久しぶりの再会
    - 第百三十九章 新たな案件、フェイク動画詐欺
    - 第百四十章 技術の進歩と、法律の追いつき
    - 第百四十一章 獅子堂、初心を思う
    - 第百四十二章 これからの、灯町相談所
    - 巻末付記 灯町相談所 登場人物・用語集
    - 外伝十八 獅子堂、初めての法廷傍聴
    - 外伝十九 颯太と美咲、初めての共同作業
    - 外伝二十 桐生と獅子堂、はじめの一件
    - 第百四十三章 ドローン点検商法という、新手口
    - 第百四十四章 サブスクリプション、解約困難トラブル
    - 第百四十五章 灯町相談所、変わらぬ使命
    - 第百四十六章 クレーム代行業者との対峙
    - 第百四十七章 偽の、労働組合を名乗る、示談屋
    - 第百四十八章 災害便乗商法
    - 第百四十九章 灯町相談所、今日も
    - 特別付録四 獅子堂錬の、法律格言集
    - 外伝二十一 獅子堂、火野との、最後の文通
    - 外伝二十二 灯町相談所、開業記念日
    - 第百五十章 灯町相談所、その先の、物語
    - 外伝二十三 颯太と、次の世代
    - 外伝二十四 美咲、独立事務所の、開業日
    - 第百五十一章 灯町相談所、変わらぬ、扉
    - 外伝二十五 獅子堂錬、ある日の独白
    - 外伝二十六 南灯町、街の声

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    ## 特別付録 灯町相談所式・使える法律知識三十選

     本作に登場した、法律知識を、改めて、実生活で、役立つ形に、まとめました。あくまで、一般的な、解説であり、個別の、事案については、必ず、弁護士等の、専門家に、ご相談ください。

    **一、出資法と利息制限法**
     利息制限法は、貸付額に応じて、年十五〜二十パーセントを、上限金利と、定める。出資法は、年百九パーセントを超える金利を、刑事罰の対象とする。この二つの、隙間にあった「グレーゾーン金利」は、現在、法改正により、ほぼ、解消されている。

    **二、過払い金請求**
     グレーゾーン金利で、払い過ぎた、利息は、取り戻せる可能性がある。ただし、最終取引から、十年で、時効になる。心当たりがあれば、早めに、専門家へ。

    **三、内容証明郵便**
     「いつ、誰が、誰に、どんな文書を送ったか」を、郵便局が、証明してくれる制度。法的な、意思表示を、確実な、証拠として、残したい時に、有効。

    **四、貸金業法二十一条(取り立て規制)**
     貸金業者は、正当な、理由なく、深夜早朝の、取り立てや、勤務先への、しつこい連絡などを、行うことを、禁じられている。

    **五、受任通知の効力**
     弁護士が、正式に、代理人になったことを、通知すると、貸金業者は、以後、本人への、直接請求が、禁止される。

    **六、連帯保証人と保証人の違い**
     普通の保証人には、「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」があるが、連帯保証人には、これがない。安易に、連帯保証人には、なるべきではない。

    **七、事業性融資の保証、公正証書の義務**
     個人が、事業性融資の、保証人になる場合、原則として、公証人による、保証意思の確認手続きが、必要。これを怠った、保証契約は、無効になり得る。

    **八、詐欺罪の構成要件**
     「人を欺いて、財物を交付させる」ことが、詐欺罪の、基本的な、成立要件。投資詐欺、結婚詐欺、いずれも、この要件に、照らして、判断される。

    **九、振り込め詐欺救済法**
     詐欺に使われた、口座を、凍結し、残高から、被害者へ、分配金を支払う制度。口座が、生きているうちの、早期申告が、鍵。

    **十、保険金詐欺**
     故意に、事故を、装って、保険金を、請求する行為は、詐欺罪、及び、保険法違反にあたる。損害保険業界では、不審な、請求パターンが、共有されている。

    **十一、フランチャイズ契約の重要事項開示義務**
     フランチャイズ本部には、契約前に、収益予測や、既存店の状況など、重要事項を、書面で開示する義務がある。これが、不十分な場合、契約の取り消しを、主張できる可能性がある。

    **十二、給与ファクタリングの実態**
     最高裁は、令和二年、給与ファクタリングは、実質的に、貸付けに該当すると、判断した。無登録営業は、貸金業法違反となる。

    **十三、暴利行為と公序良俗違反**
     相手の窮迫や、無知に、乗じた、著しく不公正な、契約は、民法九十条により、無効を、主張できる。

    **十四、根保証と極度額**
     将来にわたる、継続的な、保証契約(根保証)には、極度額の、明記が、義務付けられている。これがない、契約は、無効になる。

    **十五、民事再生と自己破産の違い**
     自己破産は、原則、財産を、清算する手続き。民事再生は、事業や、住宅を、維持しながら、債務を、大幅に圧縮する手続き。

    **十六、特定調停**
     簡易裁判所で、調停委員を、介して、債権者と、話し合う、比較的、簡易な、債務整理手続き。

    **十七、クーリングオフ**
     訪問販売等では、契約書面の交付から、八日以内、連鎖販売取引(マルチ商法)では、二十日以内なら、無条件で、契約を解除できる。

    **十八、特定商取引法の中途解約**
     連鎖販売取引は、クーリングオフの、期間を過ぎても、将来に向かって、いつでも、解約できる。

    **十九、特別受益**
     生前に、特定の相続人だけが、受けた、多額の贈与や援助は、相続分の計算に、考慮される。

    **二十、成年後見制度**
     判断能力が、不十分な人の、財産を、法的に、保護する制度。家庭裁判所が、選任した、後見人が、財産管理を行う。

    **二十一、名ばかり管理職**
     肩書だけの「管理職」には、残業代が、支払われないという、誤解が、多い。実質的な、権限や、待遇が、伴わなければ、管理監督者には、該当しない。

    **二十二、未払い賃金の消滅時効**
     未払い賃金の、請求権の、消滅時効は、三年(令和二年法改正により、二年から延長)。

    **二十三、原状回復ガイドライン**
     賃貸物件の、退去時、通常の、使用による、経年劣化や、通常損耗は、原則、借主の負担にならない。

    **二十四、偽装請負と労働者性**
     「業務委託」という、契約形態でも、実態が、雇用と変わらなければ、労働基準法上の、労働者として、扱われる。

    **二十五、闇バイトと強要罪**
     脅迫されて、犯罪に、加担させられた場合、それ自体が、強要罪の、被害でもある。早期の、自首と、相談が、量刑にも、有利に働く。

    **二十六、非弁行為の禁止**
     弁護士資格のない者が、報酬目的で、法律事務を、代理で行うことは、弁護士法で、禁じられている。

    **二十七、特別背任罪**
     会社の、役員が、自己や第三者の、利益を図り、会社に、損害を与える行為。十年以下の、懲役等が、科される。

    **二十八、名義貸しのリスク**
     代表者の、名前だけを、貸しても、法律上は、正式な、責任を負う立場として、扱われる。安易な、名義貸しは、厳禁。

    **二十九、二重価格表示**
     実際の、販売価格を、偽って、高く見せかける行為は、不当景品類及び不当表示防止法や、消費者契約法上の、問題となり得る。

    **三十、少額訴訟制度**
     六十万円以下の、金銭トラブルについて、原則、一回の、審理で、判決が出る、簡易な、訴訟制度。弁護士なしでも、利用しやすい。

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    ## 外伝一 疋田、情報屋になった日

     疋田が、まだ、堅気の、金融会社を、経営していた頃の話である。

     小さいながらも、地道に、地域の、中小企業に、融資を行う、まっとうな、会社だった。だが、ある日、大手の、乱暴な、取り立て屋が、疋田の、顧客を、次々と、奪っていった。

    「──法律なんぞ、知らんでも、力ずくで、なんとでもなる」

     当時の、疋田は、そう嘯く、相手に、なす術もなく、会社を、畳むことに、なった。

    「──あの時、儂が、もっと、法律を、知っとったら」

     疋田は、その後、裏社会の、情報網に、身を投じることとなった。だが、その、心の奥底には、いつも、あの日の、悔しさが、燻り続けていた。

     獅子堂と出会ったのは、そんな、疋田が、燻り続ける、日々を、送っていた頃だった。

    「──お前、法律に、詳しいんやな」

     初めて、獅子堂の、仕事ぶりを、目の当たりにした時、疋田は、静かに、そう、呟いた。

    「──儂が、集める、裏の情報と、お前の、法律の知識。組み合わせりゃ、面白いことが、できそうやな」

     こうして、疋田と、獅子堂の、凸凹な、しかし、確かな、協力関係が、始まることとなった。

    ## 外伝二 荒木、刑事としての矜持

     荒木が、まだ、若手の、刑事だった頃、ある、詐欺事件の、捜査で、大きな、挫折を、味わったことがある。

     証拠不十分で、悪質な、詐欺師を、取り逃がしてしまったのだ。

    「──法律って、いうのは、時々、悪党を、守るための、道具にも、なっちまう」

     荒木は、当時、そう、上司に、愚痴を、こぼしたことがある。

    「──だからこそ、俺たちが、正しく、証拠を、集めなきゃならんのだ」

     上司の、その言葉が、荒木の、刑事としての、矜持の、原点となった。

     獅子堂と、出会ったのは、それから、何年も経った後のことだった。グレーな、活動をする、獅子堂に対して、荒木は、当初、複雑な、思いを、抱いていた。

    「──あんたのやり方、正直、危なっかしい」

    「──分かってる。……だが、法律の、抜け穴を、悪用する連中を、追い詰めるには、時に、こういう、際どい、動き方も、必要だ」

     二人は、時に、ぶつかり合いながらも、互いの、矜持を、認め合う、確かな、信頼関係を、築いていった。

    「──お前が、法律の、光の部分を、担うなら……俺は、その、光を、支える、影の役目を、果たす」

     荒木の、静かな、決意が、獅子堂の、活動を、いつも、確かに、支えていた。


    ## 外伝三 桐生雅子、弁護士としての原点

     桐生が、弁護士を、志した、きっかけは、学生時代に、遡る。

     実家が、小さな、商店を、営んでいたが、悪質な、契約に、巻き込まれ、大きな、損害を、被ったことが、あった。

    「──あの時、うちには、頼れる、専門家が、いなかった」

     桐生は、その、悔しさを、胸に、法律を、学び、弁護士と、なった。

     獅子堂とは、その、灘見中央銀行時代の、同期であり、当時から、互いに、信頼を、寄せ合う、間柄だった。

    「──あんたの、やり方、危なっかしいけど……その、根っこにある、想いは、分かる」

     桐生は、獅子堂の、活動を、当初から、複雑な、思いで、見守ってきた。

    「──弱い立場の、人間を、助けたい、その、想いは、同じだ。……でも、私は、あくまで、正当な、法律の、手続きで、それを、成し遂げたい」

     桐生の、その、確かな、信念が、獅子堂の、グレーな、活動に、確かな、法的な、裏付けを、与え続けてきた。二人の、凸凹な、コンビネーションは、こうした、それぞれの、原点にある、確かな、想いに、支えられていた。

    ## 外伝四 火野、獄中での述懐

     服役中の、火野の元に、ある日、担当の、刑務官から、一冊の、法律書が、差し入れられた。

    「──獅子堂という、男から、伝言だ。……『これでも、読んで、罪と、向き合え』、とのことです」

     火野は、しばらく、その本を、見つめた後、静かに、開いた。

     かつて、自分が、踏みにじってきた、法律の、条文の、数々。それを、改めて、読み返すことは、火野にとって、耐え難い、苦痛だった。だが、同時に、それは、確かな、贖罪の、始まりでもあった。

    「──俺は……本当に、間違っていたのか」

     獄中での、静かな、時間の中で、火野は、少しずつ、自らの、罪と、向き合い始めていた。出所後の、人生が、どのようなものに、なるかは、まだ、分からない。だが、少なくとも、その、贖罪の、第一歩を、火野は、確かに、踏み出し始めていた。

    ## 外伝五 美咲、資格への挑戦

     獅子堂の、事務所で、働き始めて、数年。田村美咲は、ついに、行政書士試験への、挑戦を、決意した。

    「──獅子堂さん、私、試験、受けてみようと、思います」

    「──いいじゃないか。……応援するよ」

     美咲は、仕事の、合間を縫って、猛勉強を、続けた。獅子堂も、時折、実務的な、知識を、教えることで、その、勉強を、後押しした。

     数ヶ月後、美咲は、見事、試験に、合格した。

    「──やりました、獅子堂さん!」

    「──おめでとう。……よく、頑張ったな」

     獅子堂は、心から、その、成長を、喜んだ。

    「──いつか、私も、獅子堂さんみたいに、誰かの、力になれる、人間に、なりたいです」

    「──もう、十分、なってるよ」

     獅子堂の、静かな、言葉に、美咲は、涙ぐみながら、深く、頷いた。かつて、ヤミ金の、被害者だった、一人の女性が、今では、確かな、専門知識を持つ、一人の、専門家へと、成長を、遂げていた。


    ## 第九十一章 外国人労働者からの相談

     ある日、日本語が、まだ、不慣れな、外国人技能実習生が、通訳を、伴って、獅子堂の元を、訪れた。

    「──実習先の、会社で、給料を、勝手に、天引きされていて」

    「──天引きの、内訳は」

    「『寮費』、『管理費』、『日本語講習費』……色々、引かれてます」

     獅子堂は、静かに、給与明細を、確認した。

    「──技能実習制度には、厳格な、規則がある。……不当に、高額な、天引きは、技能実習法や、労働基準法違反に、あたる可能性が、高い」

     獅子堂は、外国人技能実習機構への、相談も、並行して、進めることにした。

    「──実習生の方々は、言葉の壁で、声を、上げにくい。……だからこそ、悪質な、受け入れ企業に、狙われやすい」

     数週間の、交渉の末、不当な、天引き分の、返還と、待遇の、改善が、実現した。

    「──ありがとうございます。……日本で、安心して、働けそうです」

     実習生は、たどたどしい、日本語で、深く、感謝の言葉を、述べた。

    ## 第九十二章 クレジットカードの、不正利用

     ある日、クレジットカードの、不正利用の、被害に、遭った、女性からの、相談が、あった。

    「──身に覚えのない、高額な、利用明細が」

    「──カード会社には、連絡したか」

    「はい。……でも、『本人の、過失もある』と、言われて、全額の、補償は、されないと」

    「──クレジットカードの、不正利用被害には、原則、カード会社の、補償制度がある。……ただし、本人の、重大な、過失があった場合、補償が、制限されることもある」

     獅子堂は、女性の、状況を、詳しく、確認した。

    「──パスワードの、使い回しなど、していないか」

    「していません。……フィッシングサイトに、引っかかったみたいで」

    「──フィッシング詐欺による、被害であれば、通常、本人の、重過失には、あたらない。……カード会社に、改めて、正式な、補償の、申し立てを、しよう」

     桐生を通じた、正式な、申し立ての結果、全額の、補償が、認められることとなった。

    「──ネットでの、買い物や、ログインの際は、送られてきた、リンクを、安易に、クリックしないことだ。……公式サイトを、直接、検索して、アクセスする、習慣を、つけろ」

    ## 第九十三章 電子マネーのチャージ詐欺

     高齢の、男性が、「未払いの、料金がある」という、電話を受け、コンビニで、電子マネーを、購入させられた、という、相談も、あった。

    「──『すぐに、電子マネーで、支払わないと、裁判になる』と、脅されて」

    「──典型的な、架空請求詐欺だ。……電子マネーでの、支払いを、求める時点で、まず、詐欺と、疑うべきだ」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──公的機関や、正規の、企業が、電子マネーでの、支払いを、要求することは、絶対にない。……電子マネーは、匿名性が高く、足がつきにくいから、詐欺師に、好まれる」

     既に、購入した、電子マネーの、番号を、伝えてしまった、というケースだったが、番号が、まだ、使用されていなかったため、発行会社への、連絡により、被害を、未然に、防ぐことができた。

    「──『電子マネーで、払って』という、電話や、メールは、百パーセント、詐欺だと、思っていい」

     獅子堂の、明快な、忠告に、男性は、深く、安堵の息を、漏らした。


    ## 第九十四章 空き家を狙う、地面師まがいの手口

     ある日、地方に住む、相続した空き家の、売却を、検討していた、男性から、相談が、あった。

    「──不動産業者を、名乗る男から、『すぐに、買い取ります』と、言われて、契約しかけたんですが……なんだか、様子が、おかしくて」

    「──契約書、見せてくれ」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──この、不動産業者、宅地建物取引業の、免許番号が、記載されてない。……そもそも、無免許で、営業してる、可能性がある」

    「無免許だと、どうなるんですか」

    「宅地建物取引業法違反だ。……無免許での、不動産取引の、媒介や、代理は、違法行為にあたる。……こういう、業者との、取引は、極めて、危険だ」

     疋田の調査により、この、業者は、過去にも、複数の、地方の、空き家所有者を、狙って、不当に、安い、価格で、買い叩く、手口を、繰り返していたことが、判明した。

    「──空き家は、所有者が、遠方に住んでいたり、高齢だったりすることが、多い。……そこに、付け込む、悪質な業者が、後を絶たない」

     獅子堂は、契約を、白紙に戻し、正規の、不動産業者を通じた、適正価格での、売却を、進めることを、勧めた。

    「──空き家の、売却を、検討する時は、必ず、免許番号を、確認し、複数の、業者から、見積もりを、取ることだ」

    ## 第九十五章 ペット霊園の、悪質商法

     愛犬を、亡くした、女性が、ペット霊園との、トラブルで、相談に、訪れた。

    「──『永代供養』という、契約だったのに、数年後、勝手に、合祀されて、遺骨が、見つからなくなって」

    「──契約書の、内容は」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──『永代供養』の、定義が、曖昧に、書かれてる。……この手の、ペット霊園の、トラブルは、実は、消費者契約法の、対象になりにくい、グレーな、領域だ」

    「泣き寝入りするしか、ないんですか」

    「──いや、契約時の、説明と、実際の、対応が、著しく、食い違っているなら、債務不履行、あるいは、不法行為として、損害賠償を、請求できる可能性はある」

     獅子堂は、桐生と共に、霊園側との、交渉に、あたった。最終的に、慰謝料の、支払いで、和解が、成立した。

    「──ペットの、供養に関する、契約は、法整備が、追いついていない、部分も多い。……契約前に、『永代供養』の、具体的な、内容を、必ず、書面で、確認することだ」

    ## 第九十六章 NFT・暗号資産がらみの新型詐欺

     最新の、投資詐欺の、手口として、NFT(非代替性トークン)を、使った、詐欺の、相談も、寄せられるように、なっていた。

    「──『限定NFTを、購入すれば、将来、高値で、売れる』と、言われて」

    「──よくある、手口だな」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「NFTや、暗号資産は、法律上の、位置づけが、まだ、発展途上の、分野だ。……だからこそ、詐欺師にとって、規制の、隙間を、突きやすい、格好の、標的になってる」

    「取り戻せますか」

    「振込先が、判明していれば、これまでと、同様の、手続きが、可能だ。……ただ、暗号資産の、場合、追跡が、より、困難なことも、多い」

     獅子堂は、疋田と共に、資金の、流れを、丹念に、追跡し、一部の、資金回収に、成功した。

    「──『必ず、値上がりする』なんて、投資は、この世に、存在しない。……新しい、技術や、仕組みほど、慎重に、見極めることだ」

    ## 第九十七章 夜逃げした、貸金業者

     ある日、ある、消費者金融会社が、突然、夜逃げ同然に、事業を、停止したという、ニュースが、南灯町を、駆け巡った。

    「──あそこ、うちも、借りてたのに……返済は、どうなるんですか」

     多くの、利用者が、不安を、抱えて、獅子堂の元に、押し寄せた。

    「──落ち着け。……貸金業者が、いなくなっても、借金が、自動的に、消えるわけじゃない。……だが、逆に言えば、過払い金が、あった場合、その、回収が、難しくなる、可能性がある」

     獅子堂は、桐生と共に、破産管財人への、対応を、支援した。

    「──債権届出を、忘れずに、行うこと。……それと、これまでの、取引履歴を、必ず、保管しておくことだ」

     混乱の中でも、獅子堂の、冷静な、対応により、多くの、利用者たちが、適切な、手続きを、進めることが、できた。


    ## 第九十八章 悪質な探偵業者

     浮気調査を、依頼した、探偵業者に、高額な、追加料金を、請求された、という、相談も、あった。

    「──最初の、見積もりは、二十万円だったのに……最終的に、百万円、請求されて」

    「──契約書は」

    「これです」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──探偵業法では、探偵業者は、契約前に、書面での、重要事項の、説明が、義務付けられてる。……この契約書、追加料金の、発生条件が、極めて、曖昧だ」

    「不当な、請求ってことですか」

    「──探偵業法違反の、可能性が、高い。……都道府県の、公安委員会に、苦情を、申し立てることもできる」

     獅子堂は、桐生と共に、業者との、交渉に、あたり、不当な、追加料金の、大幅な、減額を、実現した。

    「──探偵業者を、利用する時は、必ず、事前に、上限料金を、明確にした、契約書を、交わすことだ」

    ## 第九十九章 悪質な、リース契約

     小さな、飲食店の、店主が、業務用の、コピー機の、リース契約で、トラブルを、抱えていた。

    「──『無料で、コピー機を、設置します』と、言われたのに……解約しようとしたら、高額な、違約金を、請求されて」

    「──リース契約の、内容は」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──リース期間、五年。……中途解約の、違約金が、残りの、リース料、全額と、なってる」

    「そんな、酷い契約が」

    「──リース契約は、法律上、消費者契約とは、異なる、扱いを、受けることが、多い。……ただし、契約時の、説明が、著しく、不十分だった場合、不実告知として、争う、余地はある」

     獅子堂は、契約時の、勧誘の、経緯を、詳しく、確認した。

    「──『無料』という、説明と、実際の、契約内容が、食い違ってる。……この点を、突いて、交渉しよう」

     交渉の結果、違約金の、大幅な、減額で、合意が、成立した。

    「──『無料』を、謳う、営業トークには、必ず、裏がある。……契約書の、細部まで、必ず、確認することだ」

    ## 第百章 灯町相談所、これからも

     数々の、事件を、乗り越えてきた、灯町相談所には、今日も、変わらず、新たな、相談者が、訪れる。

    「──獅子堂さん、今日も、よろしく、お願いします」

     美咲の、明るい声が、事務所に、響く。

    「──ああ。……今日も、一つずつ、片付けていこう」

     獅子堂は、静かに、そう、応じ、また一つ、新たな、相談に、耳を、傾け始める。

     南灯町という、街には、光もあれば、影もある。だが、その、影の中で、苦しむ、一人一人に、確かな、光を、届け続けること。それこそが、獅子堂の、そして、灯町相談所の、変わらぬ、使命だった。

     法律という、武器を、正しく、使いこなし、弱き者たちの、味方であり続ける。獅子堂錬の、南灯町での、戦いは、これからも、静かに、しかし、確かに、続いていく。


    ## 第百一章 新たな依頼、生命保険金の受取人トラブル

     夫を、亡くしたばかりの、女性が、生命保険金の、受け取りを巡る、トラブルで、相談に、訪れた。

    「──保険金の、受取人が、前妻の、子供に、なっていて」

    「──離婚後、受取人の、変更手続きを、しなかった、ということか」

    「はい……。再婚してから、十年も、経つのに」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──生命保険金は、原則として、契約上の、受取人に、支払われる。……相続財産とは、別の、扱いになる」

    「じゃあ、私は、一切、受け取れないんですか」

    「──受取人の、変更手続きを、忘れていた、というのは、よくあるケースだ。……ただ、遺留分の、侵害額請求など、別の、法的手段が、ある場合もある」

     獅子堂は、桐生と共に、詳しい、事情を、確認しながら、対応方針を、検討した。

    「──今後、同じ、悲劇を、繰り返さないためにも……離婚や、再婚といった、人生の、節目には、必ず、保険金の、受取人を、確認する、習慣を、つけることだ」

    ## 第百二章 パワハラ上司との闘い

     職場で、執拗な、パワーハラスメントを、受けている、女性からの、相談も、あった。

    「──上司から、毎日のように、人格を、否定するような、言葉を、浴びせられて」

    「──証拠は、残ってるか」

    「録音を、始めました」

    「──それは、良い、判断だ。……パワハラの、立証には、継続的な、証拠の、積み重ねが、重要になる」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「労働施策総合推進法、いわゆる、パワハラ防止法により、企業には、パワハラ防止の、措置義務がある。……まずは、社内の、相談窓口、それでも、改善しなければ、労働局への、相談を、検討しよう」

     女性は、録音データと共に、正式に、会社への、改善要求を、行った。会社側も、重い、腰を、上げ、加害者への、処分と、被害者への、配置転換が、実現した。

    「──一人で、我慢し続ける、必要は、ない。……証拠を、残しながら、然るべき、機関に、相談することだ」

    ## 第百三章 消費者金融の、過剰貸付

     総量規制を、超える、借り入れを、させられていた、という、相談も、あった。

    「──年収の、三分の一を、超える、借入を、してしまって」

    「──貸金業法の、総量規制、超えてるな」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「貸金業法では、個人の、借入総額は、原則、年収の、三分の一までと、定められている。……これを、超える、貸付は、貸金業者側の、違反行為だ」

    「借りた、私にも、責任が、あるのでは」

    「──もちろん、借主にも、責任は、ある。……だが、総量規制に、違反した、貸付自体が、業者側の、義務違反である以上、その点を、踏まえた、交渉が、できる」

     獅子堂は、業者との、交渉により、返済条件の、大幅な、見直しを、実現した。

    「──自分の、年収に対して、どれくらいまで、借りられるのか。……この、基本的な、目安を、知っておくことも、大事な、自衛策だ」


    ## 第百四章 悪質な、就活サイト

     就職活動中の、大学生が、ある、就活サイトに、登録した後、高額な、「就活サポート費用」を、請求された、という、相談も、あった。

    「──『無料相談』のはずが、途中から、『特別プランです』と、言われて、三十万円の、契約書に、サインしてしまって」

    「──その場での、契約か」

    「はい……。断りにくい、雰囲気で」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──特定商取引法上の、訪問販売や、電話勧誘販売に、該当する可能性がある。……その場合、クーリングオフの、対象になる」

    「まだ、契約から、五日です」

    「──十分、間に合う。……すぐに、内容証明で、クーリングオフの、通知を、送ろう」

     手続きの結果、契約は、無事に、解除され、全額が、返金された。

    「──就職活動中は、精神的に、不安定になりやすい。……そこに、付け込む、悪質な業者が、いることを、忘れないでくれ」

    ## 第百五章 結婚相談所の、退会トラブル

     結婚相談所を、退会しようとしたら、高額な、違約金を、請求された、という、女性からの、相談も、あった。

    「──『成婚料』の、名目で、五十万円の、違約金を」

    「──契約書の、確認が、必要だな」

     獅子堂は、契約内容を、丁寧に、確認した。

    「──結婚相談所の、サービスも、特定商取引法上の、『特定継続的役務提供』に、該当する。……この場合、契約から、八日以内なら、クーリングオフ、それ以降も、中途解約が、認められている」

    「違約金の、上限は」

    「法律で、上限額が、定められてる。……この、五十万円という、金額は、明らかに、法定の、上限を、超えてる」

     獅子堂の、指摘により、違約金は、法定の、上限額まで、大幅に、減額されることとなった。

    「──結婚相談所のような、継続的な、サービス契約は、特定商取引法の、保護対象に、なることを、覚えておくと、いい」

    ## 第百六章 偽の、税務署からの電話

     「税金の、未払いがある」という、電話を受け、慌てて、対応しようとした、自営業の、男性からの、相談も、あった。

    「──『今すぐ、払わないと、差し押さえになる』と、脅されて」

    「──それは、確実に、詐欺だ」

     獅子堂は、断言した。

    「税務署が、電話一本で、いきなり、差し押さえを、通告することは、絶対にない。……差押えには、必ず、事前の、書面による、通知と、正式な、法的手続きが、必要だ」

    「じゃあ、本物の、税務署からの、連絡だったら」

    「必ず、書面で、通知が来る。……電話だけで、即座の、支払いを、求められたら、まず、疑うことだ。不安なら、税務署の、代表番号に、自分から、かけ直して、確認すればいい」

     獅子堂の、明快な、説明に、男性は、深く、安堵の息を、漏らした。


    ## 第百七章 地面師事件、疑惑の再燃

     ある日、獅子堂の元に、以前、空き家の、売却トラブルで、相談に訪れた、男性から、再び、連絡が入った。

    「──獅子堂さん、また、同じような、被害者が、出てるみたいで」

    「──あの、無免許業者か」

    「はい。……別の、地域で、同じ手口を、繰り返してるようです」

     獅子堂は、疋田に、連絡を取り、この、業者の、その後の、動向を、調査してもらうことにした。

    「──獅子堂、この業者、名前を、変えて、しぶとく、営業を、続けとる」

     疋田の、報告を受け、獅子堂は、桐生と共に、宅地建物取引業の、監督官庁である、都道府県への、正式な、通報を、行うことにした。

    「──行政処分が、下れば、営業自体、できなくなる」

     数ヶ月後、監督官庁による、調査の結果、この、業者は、無免許営業として、正式に、摘発されることとなった。

    「──こういう、悪質な業者は、名前を、変えて、何度でも、出てくる。……だからこそ、地道な、監視と、通報の、積み重ねが、大事なんだ」

     獅子堂は、静かに、そう、噛み締めた。

    ## 第百八章 悪質な、退去立会いトラブル

     賃貸物件の、退去時、立会いに、来なかった、管理会社から、一方的に、高額な、原状回復費用を、請求された、という、相談も、あった。

    「──立会いなしで、勝手に、見積もりを、出してきて」

    「──立会いは、必須ではないが……借主側の、意見を、聞かずに、一方的に、決めた、見積もりは、争う余地が、十分にある」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──退去時の、写真を、自分でも、撮っておくべきだった、というのが、教訓だが……今からでも、遅くない。国土交通省の、ガイドラインに、照らして、不当な、部分を、洗い出そう」

     交渉の結果、請求額は、大幅に、減額されることとなった。

    「──退去時には、必ず、自分でも、部屋の、状態を、写真に、残しておくことだ。……それが、後々の、トラブルを、防ぐ、一番の、証拠になる」

    ## 第百九章 ネットの、誹謗中傷被害

     インターネット上で、事実無根の、誹謗中傷を、受け、精神的に、追い詰められている、という、相談も、あった。

    「──匿名の、掲示板に、根も葉もない、悪口を、書き込まれて」

    「──発信者情報の、開示請求が、できる」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「プロバイダ責任制限法に基づき、投稿者の、情報を、開示させることができる。……令和四年の、法改正で、手続きも、以前より、迅速化された」

    「特定できたら、どうなりますか」

    「名誉毀損罪での、刑事告訴、あるいは、民事の、損害賠償請求が、できる」

     獅子堂は、桐生と共に、発信者情報開示の、手続きを、進め、最終的に、投稿者を、特定し、損害賠償請求を、実現した。

    「──ネット上の、誹謗中傷も、決して、泣き寝入りする、必要はない。……匿名だからと、油断してる、投稿者を、法律は、ちゃんと、追跡できる」


    ## 第百十章 太陽光発電の、悪質商法

     「屋根を、無料で、貸すだけで、電気代が、安くなる」という、太陽光発電の、勧誘で、トラブルに、巻き込まれた、高齢者からの、相談も、あった。

    「──契約書に、サインしたら、実は、高額な、リース契約だったと」

    「──典型的な、不実告知だな」

     獅子堂は、契約書を、確認した。

    「──『無料』という、説明と、実際の、契約内容が、大きく、食い違ってる。……消費者契約法上の、不実告知として、契約の、取り消しを、主張できる」

     交渉の結果、契約は、白紙撤回され、既に、設置された、パネルの、撤去費用も、業者側が、負担することとなった。

    「──『無料』を、強調する、勧誘には、特に、注意が必要だ。……契約書の、隅々まで、必ず、目を通すことだ」

    ## 第百十一章 偽の、警察官を名乗る詐欺

     「銀行口座が、犯罪に、使われている。……確認のため、キャッシュカードを、預からせてほしい」という、電話を受け、実際に、自宅を訪れた、男に、カードを、渡してしまった、という、高齢女性の、相談が、あった。

    「──暗証番号も、聞かれましたか」

    「はい……。教えてしまいました」

    「──最悪の、パターンだ。……すぐに、カードの、利用停止手続きを」

     獅子堂は、すぐさま、金融機関への、緊急連絡を、支援した。幸い、被害額は、最小限に、抑えられた。

    「──警察官が、自宅まで、カードを、受け取りに来ることは、絶対にない。……この、基本原則を、地域全体で、周知することが、何より、大切だ」

     この件を、きっかけに、獅子堂は、南灯町の、警察署とも、連携し、より、広範な、防犯啓発活動を、展開することにした。

    ## 第百十二章 葬儀費用を巡るトラブル

     葬儀社との、契約内容を巡り、遺族が、想定外の、高額請求に、悩まされている、という、相談も、あった。

    「──最初の、見積もりより、二百万円も、上乗せされて」

    「──見積書と、最終的な、請求書、両方、確認させてくれ」

     獅子堂は、丁寧に、内訳を、確認した。

    「──葬儀直後の、混乱に、乗じた、不透明な、追加請求だな。……葬儀サービスも、特定商取引法の、対象になり得る」

     桐生と共に、葬儀社との、交渉を、進めた結果、不当な、追加請求分は、大幅に、減額されることとなった。

    「──葬儀は、突然のことで、冷静な、判断が、難しい。……事前に、複数の、葬儀社の、見積もりを、比較しておくことも、一つの、備えになる」


    ## 第百十三章 脱毛エステの、中途解約トラブル

     脱毛エステの、長期契約を、途中で、解約しようとしたら、高額な、解約手数料を、請求された、という、女性からの、相談が、あった。

    「──残り、回数分の、代金を、全額、請求されて」

    「──エステティックサービスも、特定商取引法上の、特定継続的役務提供に、あたる」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「中途解約の際の、精算方法は、法律で、上限が、定められている。……未提供分の、代金全額を、請求することは、認められていない」

     交渉の結果、解約手数料は、法定の、上限額まで、大幅に、減額されることとなった。

    「──長期の、美容契約を、結ぶ時は、必ず、中途解約の、条件を、事前に、確認しておくことだ」

    ## 第百十四章 個人間売買の、詐欺

     フリマアプリでの、高額商品の、個人間取引で、代金を、支払ったのに、商品が、届かないという、相談が、また、寄せられた。

    「──今度は、ブランドバッグ、四十万円分」

    「──また、直接、振込での、取引か」

    「はい……。『手数料が、安くなるから』と、言われて」

     獅子堂は、少し、呆れたように、言った。

    「──何度も、同じ、手口の、被害が、出てる。……プラットフォーム外での、直接取引は、絶対に、避けるべきだ、と、改めて、伝えていくしかないな」

     振込先の、追跡と、振り込め詐欺救済法の、手続きにより、一部の、資金を、回収することができた。

    「──『手数料が、安くなる』という、甘い言葉には、絶対に、乗るな。……プラットフォームの、保護制度を、手放す、リスクの方が、遥かに、大きい」

    ## 第百十五章 悪質な、探偵まがいの、興信所

     結婚を、考えている、相手の、身元調査を、依頼したところ、根拠の、薄い、悪評を、報告され、追加料金を、次々と、請求された、という、相談も、あった。

    「──『もっと、詳しく、調べれば、真実が、分かります』と、言われ続けて」

    「──不安を、煽って、追加契約を、迫る、悪質な、商法だな」

     獅子堂は、静かに、指摘した。

    「探偵業法上、こうした、不当な、勧誘は、規制の、対象になる。……報告内容の、根拠も、含めて、精査しよう」

     調査の結果、報告書の、内容は、ほとんど、根拠のない、憶測だったことが、判明した。

    「──不当な、追加請求分は、返還させよう。……不安に、付け込む、業者には、くれぐれも、注意が必要だ」

    ## 第百十六章 太陽光パネルの、撤去義務トラブル

     空き家の、相続に伴い、以前の、所有者が、設置した、太陽光パネルの、撤去費用を、巡る、トラブルも、あった。

    「──パネルの、リース契約が、まだ、残っていて」

    「──契約は、相続の、対象になる」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──相続放棄という、選択肢もあるが……他の、財産も、含めて、慎重に、検討する必要がある。……リース会社との、交渉で、契約内容の、見直しが、できないか、まず、確認しよう」

     交渉の結果、リース契約の、一部条件が、緩和され、負担が、軽減されることとなった。

    「──相続には、プラスの、財産だけでなく、マイナスの、負債も、含まれる。……相続放棄には、期限があることも、覚えておくといい」

    ## 第百十七章 悪質な、電話勧誘、光回線の乗り換え詐欺

     「今の、インターネット回線が、もうすぐ、使えなくなる」という、電話を受け、慌てて、新しい、契約を、結んでしまった、という、高齢者からの、相談も、あった。

    「──実際は、今の、回線、まだ、普通に、使えるんですよね」

    「はい……。何が、なんだか」

    「──典型的な、不安を、煽る、勧誘手口だ。……電話勧誘販売も、クーリングオフの、対象になる」

     獅子堂は、すぐさま、クーリングオフの、手続きを、進めた。

    「──『今すぐ、切り替えないと』という、電話には、まず、疑ってかかることだ。……本当に、必要な、手続きなら、書面での、確認も、できるはずだ」


    ## 第百十八章 中小企業の、資金繰り相談

     コロナ禍の、影響で、経営が、悪化した、小さな、旅館の、女将から、資金繰りの、相談が、あった。

    「──ゼロゼロ融資の、返済が、始まって、資金繰りが、苦しくて」

    「──リスケジュールの、相談は、してるか」

    「まだです」

    「──まず、金融機関に、返済猶予や、返済計画の、見直しを、相談しよう。……中小企業の、資金繰り支援には、様々な、公的制度がある」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「経営改善計画の、策定支援など、商工会議所や、よろず支援拠点を、活用する道もある。……いきなり、破産を、考える前に、使える、制度は、全部、使うべきだ」

     獅子堂の、助言により、女将は、金融機関との、返済計画の、見直しに、成功し、旅館の、経営を、立て直すことができた。

    「──諦めるのは、まだ、早い。……使える、制度は、すべて、使い切ることだ」

    ## 第百十九章 偽の、当選詐欺

     「懸賞に、当選しました」という、メールを受け、手数料を、振り込んでしまった、という、若い女性からの、相談も、あった。

    「──『受取手数料』として、五万円、振り込みました」

    「──応募した、覚えのない、懸賞なら、まず、詐欺と、疑うべきだ」

     獅子堂は、静かに、指摘した。

    「本物の、懸賞で、当選者に、追加の、手数料を、要求することは、まず、ない。……振込先を、確認して、救済法の、手続きを、進めよう」

     一部の、資金回収に、成功した。

    「──『当選しました』という、身に覚えのない、連絡には、絶対に、応じないことだ」

    ## 第百二十章 悪質な、リフォーム、瑕疵担保責任

     リフォーム工事後、すぐに、雨漏りが、発生し、業者に、連絡しても、対応してもらえない、という、相談も、あった。

    「──契約から、どれくらい、経ってる」

    「三ヶ月です」

    「──民法上、請負契約の、瑕疵担保責任、正確には、『契約不適合責任』は、通常、引き渡しから、一年以内なら、追及できる」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「業者には、修補や、損害賠償の、義務がある。……対応しないなら、法的手続きも、視野に入れよう」

     内容証明での、正式な、請求により、業者は、無償での、修理に、応じることとなった。

    「──工事後の、不具合は、早めに、業者に、正式な、書面で、伝えることが、重要だ」

    ## 第百二十一章 悪徳、家庭教師派遣業者

     子供の、家庭教師を、依頼したが、実際には、資格のない、学生が、派遣され、高額な、月謝を、請求され続けている、という、母親からの、相談も、あった。

    「──契約時の、説明と、全然、違う、内容で」

    「──不実告知、及び、特定商取引法上の、問題が、考えられる」

     獅子堂は、静かに、対応方針を、示した。

    「契約内容の、見直しと、既払い金の、一部返還を、求めよう」

     交渉の結果、契約は、適正な、内容に、見直され、一部返金も、実現した。

    「──子供の、教育に関わる、契約ほど、慎重に、内容を、確認する必要がある」


    ## 第百二十二章 美咲、独り立ちへの一歩

     行政書士試験に、合格した、美咲は、ある日、獅子堂に、思い切って、相談を、持ちかけた。

    「──獅子堂さん。……いつか、自分の、事務所を、持ちたいと、思ってます」

    「──いいじゃないか。……いつ頃を、考えてる」

    「まだ、数年、先の話ですけど。……獅子堂さんの、下で、もっと、経験を、積んでから」

    「──分かった。……お前が、独り立ちする時は、俺も、全力で、応援する」

     獅子堂は、静かに、そう、約束した。かつて、ヤミ金の、被害者だった、一人の女性が、今では、この街の、未来を、担う、専門家へと、育ちつつあった。

    「──いつか、私も、獅子堂さんみたいに、南灯町の、誰かの、力に、なりたいです」

    「──もう、なってるよ、十分に」

     獅子堂の、静かな、言葉に、美咲は、涙を、堪えながら、深く、頷いた。

    ## 第百二十三章 疋田の、引退話

     ある日、疋田が、珍しく、しみじみとした、口調で、獅子堂に、話しかけてきた。

    「──獅子堂、儂も、そろそろ、この稼業、引退しようかと、思っててな」

    「──急に、どうした」

    「歳には、勝てんわ。……それに、お前や、美咲ちゃんみたいな、若い連中が、育ってきた。……儂の、役目も、そろそろ、終わりかな、思ってな」

     獅子堂は、静かに、疋田の、言葉を、受け止めた。

    「──引退しても、たまには、顔を出せよ。……お前がいないと、この事務所、締まらない」

    「──分かっとるわ。……まあ、当分は、まだ、現役や。もう少し、付き合え」

     疋田は、そう言いながら、いつものように、ニヤリと、笑った。この街での、確かな、絆は、これからも、変わらず、続いていくことだろう。

    ## 第百二十四章 荒木の、昇進

     荒木が、警部補への、昇進を、果たした、という、知らせが、獅子堂の元に、届いた。

    「──おめでとう、荒木」

    「──ああ。……お前との、連携も、少しは、評価されたのかもな」

     荒木は、少し、照れくさそうに、そう、言った。

    「──これからも、よろしく、頼むぞ、獅子堂」

    「──こちらこそだ」

     二人は、静かに、握手を、交わした。刑事と、グレーな、街の便利屋。立場は、違えど、この街の、平和を、守るという、確かな、想いで、結ばれた、二人の、絆が、そこには、あった。

    ## 第百二十五章 桐生の、独立

     桐生もまた、大手の、法律事務所から、独立し、南灯町に、自らの、事務所を、構えることとなった。

    「──これで、もっと、身軽に、動けるわね」

    「──おめでとう。……これからも、よろしく、頼む」

    「──こちらこそ。……あんたと、組んでるおかげで、私も、随分、鍛えられたわ」

     桐生は、静かに、微笑んだ。獅子堂と、桐生、疋田、荒木、そして、美咲。それぞれの、道を、歩みながらも、確かな、絆で、結ばれた、この、南灯町の、仲間たちの、物語は、これからも、静かに、続いていく。


    ## 第百二十六章 新たな事務所の風景

     桐生の、独立を機に、獅子堂の事務所と、桐生の、新しい事務所は、同じ、雑居ビルの、上下階に、移ることとなった。

    「──これで、連携も、より、スムーズに、なるな」

     獅子堂は、新しい、事務所の、内装を、眺めながら、そう、呟いた。

    「──美咲さんも、正式に、行政書士として、独立の、準備を、進めてるみたいですし」

     桐生が、そう、付け加えた。

    「南灯町の、法律サービスの、ネットワークが、少しずつ、広がってきてるわね」

    「──悪くない、流れだ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。かつて、たった一人で、始めた、灯町相談所の、活動は、今では、多くの、仲間たちと共に、この街の、確かな、支えへと、育ちつつあった。

    ## 第百二十七章 次世代への、継承

     ある日、獅子堂の元に、法学部の、学生が、インターンシップの、依頼に、訪れた。

    「──獅子堂さんの、活動に、憧れて。……少しでも、学ばせて、いただけないでしょうか」

     獅子堂は、静かに、その、青年を、見つめた。かつての、自分自身の、姿が、僅かに、重なった。

    「──いいだろう。……ただし、生半可な、覚悟じゃ、務まらないぞ」

    「はい……! よろしく、お願いします」

     こうして、獅子堂の元には、また一人、若い、志を持った、学生が、加わることとなった。南灯町での、法律知識と、正義の、リレーは、こうして、次の世代へも、確かに、受け継がれ始めていた。

    ## 第百二十八章 地域からの、表彰

     獅子堂の、これまでの、地域への、貢献が、認められ、灘見市から、感謝状が、贈られることとなった。

    「──獅子堂さん、こういうのは、柄じゃないんですが」

     市の、担当者が、苦笑しながら、そう言った。

    「──いや、ありがたく、受け取っておくよ」

     獅子堂は、意外にも、素直に、その、感謝状を、受け取った。

    「──俺一人の、力じゃない。……桐生、疋田、荒木、美咲。……みんなの、支えが、あっての、結果だ」

     式典の後、獅子堂は、事務所の、壁に、その、感謝状を、そっと、飾った。派手な、勲章では、ないが、この街での、確かな、歩みの、証だった。

    ## 第百二十九章 変わらぬ、日常

     様々な、出来事を、経てもなお、獅子堂の、南灯町での、日常は、変わらず、続いていった。

    「──獅子堂さん、次の、相談者の方、お見えです」

    「──分かった。……通してくれ」

     今日も、また、新しい、悩みを抱えた、誰かが、灯町相談所の、扉を、叩く。

     獅子堂は、静かに、その、依頼人と、向き合い、法律という、確かな、武器を手に、また一つ、この街の、小さな、正義を、積み重ねていく。

     南灯町という、街の、光と、影。その、両方を、見つめ続けながら、獅子堂錬と、その、仲間たちの、戦いは、これからも、静かに、しかし、確かに、続いていくことだろう。


    ## 終章 灯町相談所、続く物語

     季節は、巡り、南灯町にも、また、新しい、一年が、訪れようとしていた。

     獅子堂の、事務所には、今日も、変わらず、様々な、悩みを抱えた、人々が、訪れる。ヤミ金に、苦しむ、若者。悪徳業者に、騙された、高齢者。理不尽な、契約に、泣き寝入りしそうになっている、家族。

     その、一人一人に、獅子堂は、静かに、しかし、確かな、力で、寄り添い続けてきた。

    「──獅子堂さん、今年も、一年、お疲れ様でした」

     大晦日の、夜。事務所には、桐生、疋田、荒木、そして、美咲が、集まっていた。

    「──ああ、みんなも、お疲れさん」

     獅子堂は、静かに、杯を、掲げた。

    「──今年も、色々、あったな」

    「本当に。……でも、乗り越えられたのは、みんなで、力を、合わせてきたからよ」

     桐生の、言葉に、皆が、静かに、頷いた。

    「──来年も、きっと、色々な、トラブルが、この街に、生まれるだろう」

     獅子堂は、静かに、続けた。

    「──だが、俺たちが、いる限り、誰も、一人には、させない。……法律という、確かな、武器を手に、これからも、この街の、正義を、守っていこう」

    「──獅子堂さんらしい、締めくくりの、言葉ですね」

     美咲が、優しく、微笑んだ。

     窓の外では、南灯町の、賑やかな、街並みが、変わらず、輝いている。この街には、これからも、数え切れないほどの、金融トラブルが、生まれ続けるだろう。だが、そのたびに、獅子堂錬と、その、仲間たちは、法律という、正しい、武器を手に、弱き者たちの、味方として、立ち続けることだろう。

     ──灯町相談所の、扉は、今夜も、そして、これからも、この街の、誰かのために、静かに、開かれ続けている。


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    ## 特別付録二 灯町相談所式・使える法律知識 実践編二十選

     本編の、後半で、扱った、事例に関連する、法律知識を、さらに、まとめました。

    **三十一、宅地建物取引業法**
     不動産の、売買や、賃貸の、媒介・代理を、業として行うには、免許が必要。無免許での、営業は、違法。免許番号の、確認は、必須。

    **三十二、技能実習法**
     外国人技能実習生の、保護のため、賃金からの、不当な、天引きや、劣悪な、労働環境を、規制する、法律。実習実施者には、厳格な、遵守事項がある。

    **三十三、クレジットカードの、不正利用補償**
     多くの、カード会社は、規約上、不正利用による、損害を、補償する制度を、設けている。ただし、会員の、重大な過失がある場合は、対象外となることもある。

    **三十四、フィッシング詐欺への対応**
     偽サイトへの、誘導により、パスワード等を、盗まれる手口。公式サイトへの、アクセスは、必ず、正規の、URLを、直接、入力するか、ブックマークから行う。

    **三十五、電子マネーによる、支払い要求への警戒**
     公的機関や、正規の、企業が、電子マネーでの、即時支払いを、要求することは、ない。この要求自体が、詐欺の、明確な、兆候。

    **三十六、探偵業法**
     探偵業を営むには、公安委員会への、届出が、必要。契約前の、書面による、重要事項の、説明も、義務付けられている。

    **三十七、リース契約と消費者契約**
     事業用の、リース契約は、消費者契約法の、直接の、対象外となることが多いが、著しい、不実告知があれば、別途、争う余地がある。

    **三十八、生命保険金の受取人**
     生命保険金は、原則、契約上の、受取人固有の、権利として、支払われる。離婚・再婚時は、受取人の、変更手続きを、忘れずに。

    **三十九、パワハラ防止法**
     労働施策総合推進法により、事業主には、パワーハラスメント防止のための、雇用管理上の、措置義務がある。

    **四十、貸金業法の総量規制**
     個人の、借入総額は、原則として、年収の、三分の一までと、定められている。これを超える、貸付は、業者側の、違反となる。

    **四十一、特定継続的役務提供**
     エステ、語学教室、結婚相談所、家庭教師派遣など、継続的な、サービス提供契約は、特定商取引法により、中途解約時の、違約金に、上限が、定められている。

    **四十二、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)**
     請負契約において、完成した、仕事の内容に、不具合があった場合、注文者は、修補や、損害賠償を、請求できる。

    **四十三、プロバイダ責任制限法**
     インターネット上の、権利侵害に対し、発信者情報の、開示請求ができる。令和四年の、改正で、手続きが、迅速化された。

    **四十四、リスケジュール(返済条件の変更)**
     資金繰りが、悪化した際、金融機関に、返済猶予や、返済計画の、見直しを、相談できる。早めの、相談が、選択肢を、広げる。

    **四十五、相続放棄**
     被相続人の、負債が、資産を、上回る場合などに、相続人が、一切の、相続を、放棄する手続き。原則、相続開始を知った時から、三ヶ月以内。

    **四十六、消費者契約法の不実告知**
     契約の、重要事項について、事実と異なる、説明をすることで、消費者を、誤認させ、契約させた場合、その契約は、取り消せる。

    **四十七、宅建業者との、複数見積もりの重要性**
     不動産取引は、一社だけでなく、複数の、業者から、見積もりや、査定を、取ることが、適正価格を、見極める、基本。

    **四十八、地域の公的相談窓口**
     消費生活センター、法テラス、労働基準監督署、警察の、生活安全課など、無料で、相談できる、公的窓口を、まず、活用することが、第一歩。

    **四十九、時効の中断・更新**
     債務の、承認や、裁判上の、請求などにより、時効の、進行が、リセットされる制度。安易な、支払いの、約束が、時効を、更新してしまうことも、ある。

    **五十、弱者ほど、専門家に相談すべき理由**
     法律の、知識がないことは、決して、恥ではない。だが、それに、付け込む、悪意ある業者が、確かに、存在する。困った時は、一人で、抱え込まず、専門家に、相談することが、何より、大切だ。

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    ## 外伝六 獅子堂、銀行員時代の矜持

     獅子堂が、まだ、灘見中央銀行の、若手行員だった頃の話である。

     ある日、小さな、町工場の、社長が、融資の、相談に、訪れた。

    「──どうしても、この、設備投資のための、融資が、必要なんです」

     審査基準的には、やや、厳しい、案件だった。だが、獅子堂は、社長の、事業計画を、丁寧に、聞き取り、上司を、説得して、融資を、実現させた。

    「──獅子堂さん、本当に、ありがとうございました」

     その、町工場は、その後、着実に、業績を、伸ばし、地域の、雇用を、支える、優良企業へと、成長した。

    「──数字だけじゃ、分からない、事業の、価値がある」

     獅子堂は、当時、そう、信じて、融資業務に、真摯に、向き合っていた。だからこそ、火野からの、不正融資の、指示に、強い、違和感を、覚えたのだ。

    「──俺が、大事にしてきた、融資という、仕事の、意味を、汚すわけには、いかない」

     その、確かな、矜持が、獅子堂を、告発へと、突き動かした。銀行員としての、キャリアは、失われたが、その、矜持だけは、獅子堂の中に、確かに、生き続けていた。

    ## 外伝七 美咲、初めての依頼

     行政書士として、独立した、美咲の元に、初めて、依頼が、舞い込んだ、日のことである。

    「──美咲先生、初めまして。……相続の、手続きの、相談に」

    「──先生」、と、呼ばれることに、まだ、慣れない、美咲は、少し、緊張しながら、対応した。

     その夜、美咲は、獅子堂の元に、報告に、訪れた。

    「──獅子堂さん、今日、初めての、お客様が」

    「──どうだった」

    「緊張、しました。……でも、獅子堂さんの、仕事ぶりを、思い出しながら、丁寧に、対応できたと思います」

    「──それで、十分だ」

     獅子堂は、静かに、微笑んだ。

    「──お前は、もう、俺の、教え子じゃない。……一人の、専門家として、堂々と、やっていけばいい」

    「──ありがとうございます」

     美咲は、深く、頭を下げた。かつて、ヤミ金の、被害者だった、一人の女性の、新たな、人生の、一歩が、こうして、確かに、始まっていた。

    ## 外伝八 疋田、最後の一仕事

     引退を、口にしていた、疋田だったが、ある日、獅子堂に、思わぬ、依頼を、持ちかけられた。

    「──疋田、最後に、一つ、頼まれてくれないか」

    「──なんや、改まって」

    「南灯町の、若手の、情報屋を、育ててほしい。……お前の、後を、継げる人間が、必要だ」

     疋田は、しばらく、考えた後、静かに、頷いた。

    「──ええで。……儂の、この道の、知恵を、次に、繋ぐんも、悪くない」

     こうして、疋田は、引退までの、最後の、一仕事として、若手の、情報屋の、育成に、取り組むこととなった。

    「──儂も、まだまだ、やることが、ありそうやな」

     疋田は、そう、呟きながら、どこか、嬉しそうな、表情を、浮かべていた。


    ## 外伝九 荒木、若手刑事への教え

     昇進した、荒木の元には、新人の、刑事が、配属されることとなった。

    「──荒木警部補、よろしく、お願いします」

    「──ああ。……まず、一つ、教えとく」

     荒木は、若手刑事に、静かに、語りかけた。

    「法律は、時に、悪党を、守る、盾にもなる。……だが、それを、恨むより、正しく、証拠を、積み重ねる、地道な、努力の方が、大事だ」

    「──荒木警部補は、そういう、経験が、あるんですか」

    「ああ。……昔、証拠不十分で、詐欺師を、取り逃がしたことがある。……それ以来、俺は、証拠集めに、人一倍、こだわるようになった」

     荒木は、遠くを、見つめながら、続けた。

    「──それと、南灯町には、獅子堂って、便利屋がいる。……グレーな、やり方だが、あいつの、情報と、行動力は、時に、俺たち以上の、成果を、上げる」

    「──連携するんですか、その人と」

    「時々、な。……お前も、いずれ、会うことになるだろう」

     荒木の、教えは、こうして、また、次の世代へと、確かに、受け継がれていった。

    ## 外伝十 桐生、若手弁護士への薫陶

     独立した、桐生の事務所にも、新人の、弁護士が、加わることとなった。

    「──桐生先生、よろしく、ご指導、お願いします」

    「──まず、一つ、言っておくわ」

     桐生は、静かに、その、新人弁護士に、語りかけた。

    「法律の、知識は、大事。……でも、それ以上に、目の前の、依頼人の、気持ちに、寄り添うことを、忘れないで」

    「──先生も、そうやって、来られたんですか」

    「私にも、原点があるの。……昔、実家が、悪質な、契約に、巻き込まれて、助けを、求められる人が、いなかった。……その、悔しさが、私の、原点よ」

     桐生は、静かに、続けた。

    「──それと、南灯町の、獅子堂という、便利屋とも、いずれ、関わることになると思う。……危なっかしい、ところもあるけど、彼の、依頼人への、想いは、本物よ」

    「──楽しみです」

     新人弁護士の、素直な、言葉に、桐生は、静かに、微笑んだ。南灯町の、正義の、リレーは、こうして、様々な、立場の、人々の中に、確かに、根付き続けていた。

    ## 外伝十一 獅子堂と美咲、事務所の、その後

     数年後、美咲は、正式に、独立し、獅子堂の事務所の、近くに、自らの、行政書士事務所を、構えることとなった。

    「──近くに、いてくれると、心強いな」

    「──獅子堂さんこそ。……何かあったら、いつでも、頼ってくださいね」

    「──こっちの、台詞だよ、それは」

     獅子堂は、苦笑しながら、そう、返した。かつての、師弟関係は、今では、対等な、専門家同士の、確かな、信頼関係へと、変わっていた。

    「──これからも、この街のために、それぞれの、持ち場で、頑張ろう」

    「はい!」

     美咲の、明るい、返事が、南灯町の、空に、静かに、響いた。


    ## 第百三十章 新人時代の、ある依頼

     美咲の、独立から、しばらく経った頃、獅子堂の事務所に、育成中の、若手情報屋を、伴った、疋田が、新たな、案件を、持ち込んできた。

    「──獅子堂、今度は、高齢者施設がらみの、案件や」

    「──詳しく、聞かせてくれ」

    「入居してる、高齢者から、契約時の、説明にない、追加費用を、次々と、請求されてる、いう、相談が、複数、あるんや」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──有料老人ホームの、契約は、老人福祉法や、消費者契約法の、対象になる。……重要事項説明書との、齟齬が、あれば、争える」

     獅子堂は、桐生、そして、独立した、美咲とも、連携し、この、施設の、調査に、乗り出すことにした。

    「──今回は、みんなで、力を合わせての、仕事に、なりそうだな」

    「──望むところです」

     美咲の、力強い、返事に、獅子堂は、静かに、頷いた。

    ## 第百三十一章 老人ホームの、不当請求

     調査の結果、この、老人ホームでは、複数の、入居者から、重要事項説明書に、記載のない、費用を、徴収していたことが、判明した。

    「──『レクリエーション参加費』、『特別食加算』……こんな、費目、契約書には、一切、書かれてない」

     獅子堂は、資料を、確認しながら、険しい表情を、浮かべた。

    「──老人福祉法上の、届出施設として、重要事項説明書の、記載内容と、実際の、請求が、著しく、乖離することは、大きな、問題だ」

     桐生と、美咲が、正式な、文書作成と、行政への、通報を、分担して、進めた。

    「──行政への、通報は、私が、担当します」

     美咲が、そう、申し出た。

    「──頼んだぞ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。三者の、連携により、この、老人ホームは、行政指導を、受け、不当な、請求分の、返還と、契約内容の、適正化を、行うこととなった。

    「──こういう、施設のトラブルは、入居者本人が、声を、上げにくい。……家族や、周囲が、契約内容を、しっかり、確認してあげることが、大事だ」

     獅子堂の、言葉に、桐生と、美咲は、深く、頷いた。

    ## 第百三十二章 三者の連携、深まる絆

     この、老人ホームの、一件を、通じて、獅子堂、桐生、美咲、三者の、連携は、より、確かなものへと、深まっていった。

    「──こうやって、それぞれの、専門性を、活かして、連携できるのは、心強いな」

     獅子堂は、静かに、そう、感想を、漏らした。

    「──獅子堂さんが、最初に、蒔いた、種が、こうして、育ってきたんですね」

     美咲の、言葉に、獅子堂は、少し、照れくさそうに、笑った。

    「──俺一人じゃ、何も、できなかった。……お前たちが、いたからこそ、ここまで、来られた」

    「──それは、お互い様よ」

     桐生も、静かに、微笑んだ。南灯町での、正義の、輪は、こうして、確かな、人と人との、繋がりの中で、着実に、広がり続けていた。


    ## 第百三十三章 若手情報屋、颯太の見習い

     疋田が、育成していた、若手情報屋の、名は、颯太(そうた)といった。

    「──颯太、今日は、獅子堂のところに、同行しろ」

    「──はい、疋田さん」

     颯太は、緊張した面持ちで、獅子堂の事務所を、訪れた。

    「──お前が、疋田の、後継ぎ、候補か」

    「はい……! よろしく、お願いします」

     獅子堂は、静かに、颯太の、様子を、見つめた。

    「──疋田の、情報網は、ただの、噂話じゃない。……裏付けと、確認を、徹底することが、何より、大事だ。……いい加減な、情報は、時に、人を、傷つける」

    「肝に、銘じます」

     颯太は、深く、頷いた。疋田から、そして、獅子堂から、確かな、知恵と、心構えを、学びながら、南灯町の、新たな、情報屋として、着実に、成長を、始めていた。

    ## 第百三十四章 颯太、初めての仕事

     数ヶ月後、颯太は、初めて、単独で、情報収集の、任務を、任されることとなった。

    「──悪徳な、投資勧誘業者の、実態調査、頼めるか」

     疋田の、指示に、颯太は、緊張しながらも、力強く、頷いた。

     数日間、丹念な、調査の末、颯太は、業者の、詳細な、実態を、まとめ上げた。

    「──よくやった。……この、精度なら、十分、使える」

     疋田は、その、報告書に、満足げに、頷いた。

     この、情報を元に、獅子堂と、桐生は、被害者たちの、救済に、乗り出すこととなった。

    「──颯太、お前の、仕事のおかげで、また一人、救われる人間が、いる」

     獅子堂の、言葉に、颯太は、誇らしげに、笑った。南灯町の、正義の、リレーは、こうして、また、新たな、担い手を、迎えることとなった。

    ## 第百三十五章 獅子堂、後進への想い

     ある夜、獅子堂は、静かに、事務所の、窓から、南灯町の、夜景を、眺めていた。

    「──美咲、颯太、そして、これから、加わるだろう、多くの、若い人たち」

     獅子堂は、静かに、呟いた。

    「──俺一人の、力には、限界がある。……でも、こうして、想いを、受け継いでくれる、人間が、いる限り、この街の、正義は、これからも、続いていく」

     窓の外には、変わらぬ、南灯町の、賑やかな、街並みが、広がっている。この街には、光もあれば、影もある。だが、その、影の中で、苦しむ、誰かのために、確かな、光を、届け続ける人間が、これからも、この街には、必ず、現れることだろう。

    「──さて。……明日も、また、一仕事だな」

     獅子堂は、静かに、そう、呟き、事務所の、明かりを、消した。灯町相談所の、変わらぬ、日々が、こうして、また、静かに、続いていく。


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    ## 特別付録三 灯町相談所式・トラブル回避の心得十選

    **一、即決しない**
     その場での、契約は、絶対に、避ける。「一度、持ち帰って、家族や、専門家に、相談します」の、一言が、多くの、被害を、防ぐ。

    **二、契約書は、隅々まで読む**
     小さな、文字の、特約条項にこそ、重要な、落とし穴が、隠れている。分からない、専門用語は、必ず、確認する。

    **三、「無料」「必ず儲かる」を疑う**
     「無料」を、強調する、勧誘、「元本保証で、高利回り」を、謳う、投資話。……いずれも、高い、確率で、裏に、何かが、隠れている。

    **四、電話・訪問での、金銭要求は、まず疑う**
     役所、銀行、警察を、名乗る、電話や、訪問での、金銭や、キャッシュカードの、要求は、まず、詐欺と、考えていい。

    **五、複数の、業者や、専門家に、相談する**
     一社だけの、話を、鵜呑みにせず、複数の、見積もりや、意見を、比較することが、適正な、判断への、近道。

    **六、証拠を残す習慣**
     契約書、領収書、やり取りの、メールや、メッセージ。……これらは、いざという時の、最大の、武器になる。

    **七、公的な、相談窓口を、まず活用する**
     消費生活センター、法テラス、労働基準監督署。……無料で、相談できる、公的機関は、想像以上に、頼りになる。

    **八、家族や、周囲との、情報共有**
     特に、高齢者は、一人で、判断せず、家族に、相談する、習慣を、つけることが、被害の、未然防止に、繋がる。

    **九、「今すぐ」「今日だけ」に、惑わされない**
     急かす、営業トークは、冷静な、判断を、奪うための、常套手段。……焦らず、時間を、置いて、考える。

    **十、専門家への、相談を、恐れない**
     法律の、知識がないことは、恥ではない。……分からないことは、分からないままにせず、必ず、専門家に、確認することだ。

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    ## 外伝十二 獅子堂と、田村美咲、初対面の裏側

     美咲が、初めて、獅子堂の事務所を、訪れた、あの日。実は、その、少し前に、獅子堂は、既に、美咲の、存在を、知っていた。

    「──獅子堂さん、実は、あの、スナックの、ママから、聞いたんですが」

     疋田が、事前に、そう、情報を、伝えていたのだ。

    「美咲ちゃん、ヤミ金に、追い詰められて、思い詰めた、様子やったらしい。……そろそろ、限界かもしれん、いう話や」

    「──そうか」

     獅子堂は、静かに、頷いた。だからこそ、美咲が、事務所を、訪れた、あの日、獅子堂は、既に、心構えを、していたのだ。

    「──獅子堂さんが、最初から、あんなに、冷静だったのは、そういう、事情も、あったんですね」

     後に、この、経緯を、知った、美咲は、少し、驚いたように、言った。

    「──お前の、力になれるかどうかは、その時、初めて、分かることだ。……だが、少なくとも、準備だけは、していた」

     獅子堂の、地道な、準備と、疋田の、確かな、情報網。この、二つが、揃っていたからこそ、美咲は、あの日、救われることが、できたのだった。

    ## 外伝十三 荒木、若かりし日の、失敗談

     荒木が、まだ、駆け出しの、刑事だった頃、ある、詐欺事件の、捜査で、被疑者を、取り逃がした、苦い、経験がある。

    「──あの時は、本当に、悔しかった」

     荒木は、後輩の、刑事に、そう、語ったことがある。

    「証拠不十分で、逮捕状が、取れなかった。……その、数ヶ月後、同じ、被疑者が、また、別の、被害者を、生んだと、知った時は、自分の、無力さを、痛感したよ」

    「──それで、証拠集めに、こだわるように、なったんですね」

    「ああ。……あの、悔しさが、今の、俺の、原点だ」

     荒木の、その、確かな、経験と、教訓が、獅子堂との、連携の中で、これまで、何度も、活かされてきた。過去の、失敗を、糧に、変える。それもまた、荒木の、刑事としての、確かな、矜持だった。

    ## 外伝十四 桐生、多忙な日々の、息抜き

     多忙な、日々を、送る、桐生にも、ささやかな、息抜きの、時間があった。週末の、朝、南灯町の、小さな、喫茶店で、コーヒーを、飲みながら、読書を、するのが、桐生の、密かな、楽しみだった。

    「──桐生先生、今日も、いつもの、席ですか」

     馴染みの、喫茶店の、マスターが、そう、声をかける。

    「──ええ、お願い」

     桐生は、静かに、頷き、窓際の、席に、腰を、下ろした。

     この、静かな、時間だけは、南灯町の、様々な、トラブルから、離れ、桐生自身の、心を、整える、大切な、ひとときだった。

    「──さて。……今週も、また、色々、あるでしょうね」

     桐生は、静かに、コーヒーを、口に、運びながら、そう、呟いた。多忙な、日々の中にも、こうした、小さな、余白を、大切にすることもまた、桐生の、確かな、生き方だった。


    ## 外伝十五 疋田、颯太への最後の教え

     疋田が、正式に、引退を、迎える、少し前のこと。颯太に、最後の、大切な、教えを、伝えることとなった。

    「──颯太、これだけは、忘れるな」

    「──なんでしょう、疋田さん」

    「情報いうんはな、力にも、なるし、凶器にも、なる。……使い方次第や」

     疋田は、静かに、続けた。

    「──儂は、若い頃、法律を、知らんばっかりに、全部、失った。……その、悔しさを、糧に、この道を、歩んできた。……お前は、その、情報を、誰かを、傷つけるためやなく、誰かを、救うために、使え」

    「──肝に、銘じます」

     颯太は、深く、頭を下げた。

    「──獅子堂は、その、良い、お手本や。……あいつと、これからも、しっかり、連携していけ」

     疋田の、その、確かな、教えは、颯太の中に、深く、刻まれることとなった。

    ## 外伝十六 疋田の、引退式

     疋田の、正式な、引退の日、獅子堂の事務所では、ささやかな、送別会が、開かれた。

    「──疋田さん、本当に、お疲れ様でした」

     美咲が、真っ先に、労いの言葉を、かけた。

    「──長い、付き合いだったな、疋田」

     獅子堂も、静かに、そう、言った。

    「──せやな。……お前が、まだ、告発された直後の、荒んどった頃から、儂は、お前を、見てきた」

     疋田は、しみじみと、続けた。

    「──今のお前を見て、儂は、安心して、引退できる。……颯太も、育ってきたし、後は、若い、お前らに、任せるわ」

    「──ありがとう、疋田」

     獅子堂は、深く、頭を下げた。

    「──礼なんぞ、いらんわ。……たまには、飲みに、付き合え。それで、十分や」

     疋田は、そう言いながら、いつものように、ニヤリと、笑った。この街での、確かな、絆は、疋田の、引退後も、変わらず、続いていくことだろう。

    ## 外伝十七 颯太、正式な、後継者へ

     疋田の、引退後、颯太は、正式に、南灯町の、情報屋としての、役割を、引き継ぐこととなった。

    「──颯太、これからは、お前が、疋田の、後を、継ぐんだな」

     獅子堂の、言葉に、颯太は、緊張しながらも、力強く、頷いた。

    「──はい。……疋田さんに、負けないよう、頑張ります」

    「──気負う必要は、ない。……お前らしい、やり方で、いい」

     獅子堂の、その、温かい、言葉に、颯太は、深く、勇気づけられた。南灯町の、正義の、リレーは、こうして、また、確かに、次の世代へと、受け継がれていった。


    ## 第百三十六章 颯太、初の大仕事

     疋田の、後を継いだ、颯太の元に、ある日、大きな、案件が、舞い込んだ。

    「──獅子堂さん、南灯町で、大規模な、投資詐欺グループが、暗躍してる、いう情報を、掴みました」

    「──颯太、お前が、掴んだのか」

    「はい……! 疋田さんの、教え通り、丁寧に、裏付けを、取りました」

     颯太が、持ち込んだ、詳細な、資料は、疋田の、全盛期にも、劣らない、精度を、誇っていた。

    「──やるじゃないか」

     獅子堂は、静かに、感心した。

    「──この情報を元に、桐生、美咲とも、連携して、対応しよう」

     こうして、颯太の、確かな、成長と共に、灯町相談所の、ネットワークは、また一段と、確かなものへと、育っていった。

    ## 第百三十七章 大規模投資詐欺グループの、摘発

     颯太の、情報を元に、獅子堂、桐生、美咲、そして、荒木が、連携し、この、大規模な、投資詐欺グループへの、対応が、進められることとなった。

    「──被害者の、数は」

    「──儂の、把握してる限りで、五十人以上や。……総額、数億円に、上るかもしれん」

     颯太が、緊張した、面持ちで、報告した。

     荒木を、通じた、警察の、正式な、捜査と、桐生による、被害者たちへの、法的な、支援が、並行して、進められた。

     数ヶ月に及ぶ、捜査の末、この、投資詐欺グループは、摘発され、首謀者たちは、逮捕されることとなった。

    「──獅子堂さん、皆さんの、おかげで、多くの、被害者が、救われました」

     颯太は、深く、頭を下げた。

    「──お前の、情報が、あったからこその、結果だ。……疋田も、きっと、喜んでるだろうな」

     獅子堂は、静かに、そう、言った。南灯町の、正義の、リレーは、こうして、また、確かな、成果を、積み重ねていった。

    ## 第百三十八章 疋田、久しぶりの再会

     摘発の、報告を受け、引退後の、疋田が、久しぶりに、獅子堂の事務所を、訪れた。

    「──聞いたで、颯太。……ようやった、な」

    「──疋田さん!」

     颯太は、嬉しそうに、駆け寄った。

    「──お前の、成長ぶり、大したもんや。……儂の、目に、狂いは、なかったな」

     疋田は、満足げに、頷いた。

    「──獅子堂、桐生先生、美咲ちゃんも、みんな、変わらず、いい仕事、しとるようやな」

    「──お前が、育てた、颯太のおかげだ」

     獅子堂の、言葉に、疋田は、少し、照れくさそうに、笑った。

    「──まあ、たまには、こうして、顔を、出すのも、悪くないもんやな」

     疋田の、その、穏やかな、笑顔に、獅子堂たちは、皆、温かい、気持ちに、包まれていた。南灯町での、確かな、絆は、こうして、これからも、変わらず、続いていくことだろう。


    ## 第百三十九章 新たな案件、フェイク動画詐欺

     ある日、獅子堂の元に、新しい、種類の、相談が、舞い込んだ。

    「──有名な、経営者の、フェイク動画を、使った、投資広告を、見て、契約してしまって」

    「──フェイク動画、というと、AIで、生成された、偽の、映像か」

    「はい……。本人が、本当に、話してるように、見えて」

     獅子堂は、険しい表情に、なった。

    「──最新の、技術を、悪用した、極めて、悪質な、手口だな。……本人の、肖像権や、名誉権の、侵害にも、あたる」

     獅子堂は、颯太に、この、フェイク動画の、出所と、投資話の、実態調査を、依頼した。

    「──こういう、新しい、手口には、常に、警戒が、必要だ。……技術が、進歩すればするほど、悪用の、手口も、巧妙になる」

     獅子堂は、桐生と共に、被害者への、対応と、業者への、追及を、進めていった。

    ## 第百四十章 技術の進歩と、法律の追いつき

     フェイク動画詐欺の、調査を、進める中で、獅子堂は、改めて、法律と、技術の、追いかけっこの、現実を、実感していた。

    「──こういう、新しい、手口には、既存の、法律だけじゃ、対応しきれない、部分も、出てくる」

     獅子堂は、桐生に、そう、語った。

    「──それでも、詐欺罪の、基本的な、構成要件、名誉権の、侵害、金融商品取引法……既存の、法律を、組み合わせれば、対応できる、部分は、多いはずよ」

     桐生の、冷静な、分析に、獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──法律は、常に、後追いに、なりがちだ。……だからこそ、俺たちのような、現場の、人間が、既存の、知識を、柔軟に、組み合わせて、対応していく、必要がある」

     この、フェイク動画詐欺の、案件は、最終的に、業者の、摘発と、被害者への、一定の、賠償で、決着を、見ることとなった。

    「──新しい、技術には、常に、新しい、悪用の、手口が、生まれる。……だが、それに、対抗する、知恵と、経験も、俺たちには、蓄積されていく」

     獅子堂の、静かな、決意が、また一つ、確かな、形と、なっていた。


    ## 第百四十一章 獅子堂、初心を思う

     ある、静かな、夜。獅子堂は、一人、事務所で、これまでの、道のりを、振り返っていた。

    「──銀行員時代、告発、懲戒解雇、そして、この、灯町相談所」

     獅子堂は、静かに、呟いた。

    「──あの時、火野を、告発しなければ、俺は、今も、平穏な、銀行員として、生きていたかもしれない」

     だが、獅子堂は、その、選択を、後悔したことは、一度も、なかった。

    「──不正を、見て見ぬふりする、生き方より……こうして、目の前の、困ってる人間を、助ける生き方の方が、俺には、性に合ってる」

     獅子堂は、静かに、窓の外に、目を、向けた。南灯町の、夜景が、変わらず、輝いている。

    「──桐生、疋田、荒木、美咲、颯太……こいつらと、出会えたことも、きっと、あの選択の、先にあった、確かな、恵みだ」

     獅子堂は、静かに、微笑んだ。この街での、日々は、これからも、続いていく。だが、その道のりは、もう、決して、一人ではない。

    ## 第百四十二章 これからの、灯町相談所

     翌朝、いつものように、事務所の、扉を開けると、既に、美咲が、来客の、準備を、進めていた。

    「──おはようございます、獅子堂さん」

    「──おはよう。……今日も、頼むな」

     窓の外では、南灯町の、朝の、喧騒が、始まっている。この街には、今日もまた、新たな、悩みを抱えた、誰かが、訪れることだろう。

     だが、獅子堂と、その、確かな、仲間たちは、法律という、正しい、武器を手に、これからも、その、一人一人に、寄り添い続けていくことだろう。

     ──灯町相談所。この街の、光と、影を、見つめ続ける、小さな、事務所の、扉は、今日も、また、静かに、開かれた。


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    ## 巻末付記 灯町相談所 登場人物・用語集

    **【獅子堂錬(ししどうれん)】** 主人公、三十五歳。元・灘見中央銀行、融資担当。不正融資の告発により、懲戒解雇された過去を持つ。現在は、無登録ながら、法律知識と交渉力で、金融トラブルを解決する「灯町相談所」を営む。二つ名は「灯町の始末人」。

    **【桐生雅子(きりゅうまさこ)】** 弁護士。獅子堂の、灘見中央銀行時代からの、同期。堅実な、法的手続きで、獅子堂の、グレーな活動を、支える。後に、独立し、南灯町に、自らの事務所を構える。

    **【疋田(ひきた)】** 情報屋。かつては、堅気の、金融会社を、経営していたが、乱暴な、取り立て屋に、商売を、潰された過去を持つ。裏社会の、情報網に、精通し、獅子堂の、活動を、情報面で、支える。後年、引退。

    **【荒木(あらき)】** 刑事、後に、警部補に昇進。獅子堂の、グレーな活動を、黙認しつつ、時に、協力する。証拠集めに、こだわる、地道な、捜査姿勢を持つ。

    **【火野(ひの)】** 灘見中央銀行、元・常務取締役。獅子堂の、告発を、揉み消し、出世を続けた、獅子堂の、最大の因縁の相手。後に、特別背任罪で、逮捕・実刑判決を受ける。

    **【田村美咲(たむらみさき)】** 元・依頼人。ヤミ金による、被害から、獅子堂に、救われる。後に、獅子堂の事務所で、事務員として働きながら、行政書士試験に合格し、独立を果たす。

    **【颯太(そうた)】** 疋田の、後継者となる、若手情報屋。丁寧な、裏付け調査を、身上とする。

    **【灘見市(なだみし)】** 本作の舞台となる、架空の都市。歓楽街「南灯町(みなみともりちょう)」が、金融トラブルの、多発地帯として知られる。

    **【灯町相談所(ともりちょうそうだんじょ)】** 獅子堂が営む、南灯町の、金融トラブル相談窓口。無登録ながら、法律知識と、交渉力で、数々のトラブルを、解決してきた。

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    ## 外伝十八 獅子堂、初めての法廷傍聴

     銀行員時代、獅子堂は、ある研修で、初めて、裁判の、傍聴を、経験したことがある。

    「──法律っていうのは、こんな風に、実際の、人生に、関わってくるものなんだな」

     その時、傍聴した、民事裁判は、小さな、商店主が、悪質な、取引先に対し、代金の、支払いを、求める、地味な、事件だった。だが、傍聴席で、獅子堂は、その、商店主の、必死な、表情に、強く、心を、動かされた。

    「──法律を、知ってるかどうかで、こんなにも、人生が、変わるのか」

     この、経験が、獅子堂の中に、確かに、根付いていた。後に、告発を経て、灯町相談所を、立ち上げた時、獅子堂の、心の奥底には、あの日、傍聴席で、感じた、確かな、想いが、静かに、息づいていた。

    「──あの、商店主の、その後、どうなったんだろうな」

     獅子堂は、時折、そんなことを、思い出す。名前も、顔も、もう、はっきりとは、覚えていない。だが、あの日の、感情だけは、獅子堂の中に、確かに、生き続けていた。

    ## 外伝十九 颯太と美咲、初めての共同作業

     颯太と、美咲は、それぞれ、獅子堂の元で、育った、若い、専門家同士として、ある日、初めて、一つの、案件を、共同で、担当することとなった。

    「──情報屋と、行政書士の、コンビか。……珍しい、組み合わせだな」

     獅子堂は、そう言いながら、二人の、様子を、見守った。

    「──颯太くん、この、業者の、登記情報、確認、お願いできる?」

    「はい、任せてください、美咲さん」

     颯太の、集めた、裏の情報と、美咲の、正式な、法的知識。この、二つが、組み合わさることで、案件は、驚くほど、スムーズに、解決へと、導かれていった。

    「──いいコンビじゃないか、お前ら」

     獅子堂の、言葉に、二人は、少し、照れくさそうに、笑い合った。

    「──獅子堂さんと、桐生先生の、後を、追っていけたら、嬉しいです」

     美咲の、素直な、言葉に、獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──俺たちの、やり方を、そのまま、真似する必要は、ない。……お前たちなりの、やり方で、この街を、支えていけばいい」

     獅子堂の、その、温かい、言葉に、颯太と、美咲は、深く、勇気づけられた。南灯町の、正義の、輪は、こうして、また、新しい、形へと、確かに、育ちつつあった。

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    ## 外伝二十 桐生と獅子堂、はじめの一件

     桐生と、獅子堂が、初めて、正式に、連携して、案件を、解決したのは、灯町相談所を、開いて、間もない頃の話だった。

    「──あんたの、やり方、危なっかしいけど……悪くない、着眼点ね」

     当時、まだ、獅子堂の、活動を、半信半疑で、見ていた、桐生は、ある、ヤミ金トラブルの、案件で、初めて、獅子堂と、正式に、手を組むこととなった。

    「──俺の、集めた、証拠を、あんたの、法的な、手続きで、仕上げてほしい」

    「──いいわ。……ただし、私のやり方に、口出しは、しないでね」

     二人の、凸凹な、しかし、確かな、連携は、この、最初の一件から、驚くほど、鮮やかな、成果を、上げることとなった。

    「──思ったより、やるじゃない、あんた」

    「──そっちこそ、な」

     互いに、素直に、認め合うことのなかった、あの日の、やり取りが、今では、二人の、確かな、信頼関係の、原点として、語り継がれることとなる。

    「──あれから、随分、長い付き合いに、なったな」

     獅子堂が、しみじみと、そう、呟くと、桐生も、静かに、微笑んだ。

    「──これからも、まだまだ、続くわよ、この、腐れ縁」

    「──そいつは、光栄だな」

     南灯町の、数々の、事件を、共に、乗り越えてきた、この、確かな、二人の、絆が、これからも、この街の、正義を、支え続けることだろう。

    ---

    ## 第百四十三章 ドローン点検商法という、新手口

     ある日、獅子堂の元に、「ドローンで、屋根を、点検した」という、業者から、高額な、工事契約を、迫られた、という、相談が、訪れた。

    「──ドローンの、映像を、見せられて、『ここまで、ひどい状態だとは』と、驚かされて」

    「──映像自体の、信憑性は、確認したか」

    「言われるがまま、信じてしまって」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──最新の、技術を、使った、点検商法だな。……本質は、従来の、点検商法と、変わらない。まず、複数の、専門業者に、セカンドオピニオンを、求めよう」

     獅子堂の、手配で、別の、信頼できる、業者に、再点検を、依頼したところ、実際には、軽微な、補修で、済む程度の、状態であることが、判明した。

    「──最新の、技術を、使った、演出ほど、かえって、疑ってかかる、必要がある。……映像や、データは、いくらでも、加工や、誇張が、できてしまうからな」

     獅子堂の、冷静な、対応により、不要な、高額契約を、未然に、防ぐことができた。

    ## 第百四十四章 サブスクリプション、解約困難トラブル

     動画配信サービスの、無料お試し期間のつもりが、いつの間にか、有料契約に、切り替わり、解約方法も、分かりにくい、という、相談も、寄せられた。

    「──解約ページが、見つからなくて」

    「──『ダークパターン』と、呼ばれる、消費者を、意図的に、混乱させる、ウェブデザインの、手法だな」

     獅子堂は、静かに、説明した。

    「──特定商取引法の、改正により、定期購入契約の、解約は、より、分かりやすく、表示することが、義務付けられている。……解約を、著しく、困難にする、設計自体が、問題視される」

     獅子堂は、消費生活センターとも、連携し、この、サービス提供元への、改善要求を、進めた。

    「──分かりにくい、解約導線は、それ自体が、問題だ。……無料期間の、契約時は、必ず、解約方法も、事前に、確認しておくことだ」

    ## 第百四十五章 灯町相談所、変わらぬ使命

     こうして、時代と共に、新しい、手口の、トラブルが、次々と、生まれる中でも、獅子堂と、その、仲間たちは、変わらぬ、姿勢で、この街の、人々に、寄り添い続けていた。

    「──技術が、進歩しても、悪意を持つ、人間が、いなくならない限り、俺たちの、仕事も、なくならないな」

     獅子堂は、静かに、そう、呟いた。

    「──だからこそ、私たちが、いる意味が、あるのよ」

     桐生の、静かな、言葉に、獅子堂は、深く、頷いた。

     南灯町という、街の、光と、影を、見つめ続けながら、獅子堂錬と、その、仲間たちの、戦いは、これからも、静かに、しかし、確かに、続いていくことだろう。

    ---

    ## 第百四十六章 クレーム代行業者との対峙

     ある、小さな、飲食店の、店主が、悪質な、「クレーム代行業者」に、金銭を、要求されている、という、相談も、あった。

    「──『お宅の、料理で、食中毒になった』と、主張する、代理人を、名乗る男から、示談金を、要求されて」

    「──被害の、実態は、確認できてるか」

    「保健所にも、確認しましたが、該当する、届出は、ないと」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──典型的な、恐喝まがいの、示談金詐欺だ。……正当な、被害の、証拠がないまま、金銭を、要求する行為は、恐喝罪に、あたる可能性が、高い」

     獅子堂は、荒木とも、連携し、この、男の、実態を、調査することにした。案の定、同様の、手口で、複数の、飲食店から、金銭を、騙し取っていたことが、判明し、正式な、刑事事件として、立件されることとなった。

    「──理不尽な、クレームには、決して、慌てて、応じないことだ。……まずは、事実確認と、専門家への、相談を、優先することだ」

    ## 第百四十七章 偽の、労働組合を名乗る、示談屋

     会社との、労働トラブルの、解決を、謳う、「労働組合」を、名乗る、団体に、高額な、手数料を、請求された、という、相談も、あった。

    「──正式な、労働組合には、見えないんですが」

    「──労働組合法上の、要件を、満たしているか、確認しよう」

     獅子堂は、静かに、調査を、進めた。案の定、この、団体は、正式な、労働組合としての、実態を、伴わない、金銭目的の、示談屋であることが、判明した。

    「──こういう、紛らわしい、団体には、注意が必要だ。……本当に、信頼できる、労働組合や、労働局、弁護士に、相談することが、大切だ」

     獅子堂の、丁寧な、対応により、被害者は、不当な、手数料の、支払いを、免れることとなった。

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    ## 第百四十八章 災害便乗商法

     台風の、被害を受けた、住宅の、修理を巡り、「災害支援」を、謳う、業者に、高額請求された、という、相談も、あった。

    「──『自治体の、補助金が出るから』と、言われて、契約したんですが……補助金の話は、なくて」

    「──災害に、便乗する、悪質な、商法だな」

     獅子堂は、険しい表情で、言った。

    「自治体の、被災者支援制度は、実在するが……業者が、勝手に、『補助金が出る』と、断定的に、説明することは、不実告知にあたる。……補助金の、対象条件を、自治体に、正式に、確認しよう」

     調査の結果、この、業者の、説明は、事実と、大きく、異なることが、判明し、契約は、取り消され、既払金も、返還されることとなった。

    「──災害の、混乱に、乗じる、悪質な業者は、残念ながら、後を絶たない。……り災証明書の、発行や、公的な、支援制度の、確認は、必ず、自治体の、窓口で、行うことだ」

    ## 第百四十九章 灯町相談所、今日も

     様々な、事件を、経て、南灯町という、街には、これからも、変わらず、新たな、金融トラブルが、生まれ続けることだろう。

    「──獅子堂さん、また、新しい、相談者の方が」

    「──ああ、通してくれ」

     獅子堂は、今日も、静かに、その、依頼人と、向き合う。法律という、確かな、武器を手に、この街の、小さな、正義を、また一つ、積み重ねていく。

     灯町相談所の、扉は、これからも、この街の、誰かのために、静かに、開かれ続けている。

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    ## 特別付録四 獅子堂錬の、法律格言集

     作中で、獅子堂が、依頼人たちに、語ってきた、言葉の、一部を、ここに、まとめます。

    「──知らないことは、恥じゃない。……知らないままで、いることが、一番の、リスクだ」

    「──『美味しい話』には、必ず、裏がある。……それは、いつの時代も、変わらない、真理だ」

    「──契約書は、隅々まで、読め。……小さな、文字にこそ、大事なことが、書かれてる」

    「──焦らせる、営業トークほど、疑ってかかれ。……本当に、大事な、話ほど、時間を、置いて、考えられるはずだ」

    「──法律は、弱い立場の、人間を、守るための、道具だ。……それを、正しく、使いこなすことが、俺の、仕事だ」

    「──一人で、抱え込むな。……困った時は、専門家に、相談することが、何より、大事な、第一歩だ」

    「──証拠は、力だ。……日頃から、記録を、残す、習慣を、つけておけ」

    「──悪徳業者は、法律を、知らない人間を、狙う。……だからこそ、こっちが、正しく、法律を、知っておくことが、一番の、防御になる」

    「──即決するな。……その場での、契約は、大抵、後悔の、種になる」

    「──公的な、相談窓口は、想像以上に、頼りになる。……まずは、そこから、始めればいい」

     これらの、言葉が、読者の、皆様の、日常における、確かな、指針の、一つとなれば、幸いである。

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    ## 外伝二十一 獅子堂、火野との、最後の文通

     服役中の、火野から、ある日、獅子堂の元に、一通の、手紙が、届いた。

    「──獅子堂へ。……お前が、差し入れてくれた、あの、法律書、最後まで、読んだ」

     手紙は、そう、始まっていた。

    「──俺は、長い間、法律を、自分の、利益のためだけの、道具だと、思っていた。……だが、お前の、これまでの、活動を、人づてに、聞くうちに、気付かされたことがある」

     獅子堂は、静かに、手紙を、読み進めた。

    「──法律というのは、本来、弱い立場の、人間を、守るための、ものなんだな。……それを、俺は、踏みにじり続けてきた。……出所したら、償いの、道を、探したいと、思っている」

     獅子堂は、しばらく、その、手紙を、見つめた後、静かに、机の、引き出しに、しまった。

    「──あんたの、その、想いが、本物かどうかは、これからの、行いで、示せばいい」

     獅子堂は、静かに、そう、呟いた。過去の、因縁は、決して、簡単には、消えない。だが、人は、いつからでも、変わることが、できる。獅子堂は、その、可能性を、静かに、信じることにしていた。

    ## 外伝二十二 灯町相談所、開業記念日

     灯町相談所が、開業してから、ちょうど、十年目の、節目の日。獅子堂の事務所には、これまで、関わってきた、多くの、人々が、集まることとなった。

    「──獅子堂さん、十周年、おめでとうございます」

     美咲が、真っ先に、祝いの、言葉を、述べた。田村美咲、桐生雅子、疋田、荒木、颯太。それぞれの、道を、歩みながらも、この日ばかりは、揃って、獅子堂の元に、集まっていた。

    「──みんな、ありがとう。……俺一人じゃ、ここまで、来られなかった」

     獅子堂は、静かに、そう、感謝の、言葉を、述べた。

    「──これからも、まだまだ、続けるんでしょう?」

     桐生の、問いに、獅子堂は、力強く、頷いた。

    「──ああ。……この街に、俺たちを、必要としてくれる人間がいる限り、な」

     窓の外には、変わらぬ、南灯町の、賑やかな、街並みが、広がっている。この街の、光と、影を、見つめ続ける、灯町相談所の、確かな、歩みは、これからも、静かに、しかし、着実に、続いていくことだろう。

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    ## 第百五十章 灯町相談所、その先の、物語

     十周年の、集まりの後、獅子堂は、一人、事務所に、残り、静かに、これまでの、日々を、振り返っていた。

    「──随分、遠くまで、来たもんだな」

     銀行員だった頃の、自分。告発と、懲戒解雇。灯町相談所の、立ち上げ。数え切れないほどの、依頼人たち。桐生、疋田、荒木、美咲、颯太との、出会い。そして、火野との、長い、因縁の、決着。

     その、すべてが、今の、獅子堂を、確かに、形作っていた。

    「──これから、この街には、また、新しい、悪徳業者が、現れるだろう。……新しい、技術を、悪用した、新手の、詐欺も、次々と、生まれるだろう」

     獅子堂は、静かに、拳を、握りしめた。

    「──だが、俺たちが、いる限り……この街で、法律を、知らないばかりに、泣き寝入りする人間を、一人でも、減らしていく」

     それが、獅子堂錬という、一人の男の、そして、灯町相談所という、小さな、事務所の、変わらぬ、使命だった。

     翌朝、いつものように、事務所の、扉を開けると、既に、一人の、依頼人が、緊張した面持ちで、待っていた。

    「──獅子堂さん、でしょうか」

    「──ああ、俺だ。……座りな」

     獅子堂は、静かに、そう、応じ、また、新しい、一日を、始める。この街の、光と、影を、見つめ続けながら、獅子堂錬の、そして、灯町相談所の、物語は、これからも、静かに、しかし、確かに、続いていく。

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    ## 外伝二十三 颯太と、次の世代

     颯太も、やがて、自らの、後継者を、育てる、立場になった。

    「──お前が、儂の、後継者、か」

     颯太は、かつて、疋田に、言われた、その言葉を、今度は、自分自身の、言葉で、若い、見習いに、語りかけていた。

    「──情報は、力にも、凶器にも、なる。……お前は、それを、誰かを、救うために、使え」

    「はい、颯太さん」

     見習いの、若者は、緊張しながらも、力強く、頷いた。

    「──獅子堂さんや、疋田さんから、教わったことを、俺なりに、次に、繋いでいく。……それが、俺の、役目だと、思ってる」

     颯太は、静かに、そう、語った。南灯町の、正義の、リレーは、こうして、世代を超えて、確かに、受け継がれ続けていく。

     法律という、確かな、武器と、それを、正しく、使いこなす、人間たちの、絆。この、二つが、ある限り、この街の、光は、これからも、決して、絶えることは、ないだろう。

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    ## 外伝二十四 美咲、独立事務所の、開業日

     美咲の、行政書士事務所の、開業日。小さな、事務所の、入り口には、真新しい、看板が、掲げられていた。

    「──『田村行政書士事務所』……いい、名前じゃないか」

     獅子堂は、その、看板を、見上げながら、しみじみと、呟いた。

    「──獅子堂さんの、事務所名を、真似したかったんですけど……さすがに、それは、烏滸がましいかな、と思って」

     美咲は、少し、照れくさそうに、笑った。

    「──いや、お前らしい、いい名前だ」

     獅子堂は、静かに、頷いた。

    「──かつて、ヤミ金に、追い詰められて、この街の、片隅で、震えてた、あの日の、お前を、思い出すよ」

    「──あの日が、なかったら、今の私は、いません」

     美咲は、真っ直ぐに、獅子堂を、見つめた。

    「──獅子堂さんが、教えてくれた、法律の、力と、それを、使う、想い。……私も、これから、この街の、誰かのために、その、力を、使っていきます」

    「──期待してるぞ」

     獅子堂は、静かに、そう、告げ、美咲の、新しい、門出を、祝った。かつて、救われた、一人の女性が、今、確かに、誰かを、救う側へと、その、歩みを、進め始めていた。

     南灯町という、街の、正義の、物語は、こうして、これからも、多くの、人々の手によって、静かに、紡がれ続けていくことだろう。

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    ## 第百五十一章 灯町相談所、変わらぬ、扉

     美咲の、開業から、しばらく経った、ある日。獅子堂の元に、また、新しい、相談者が、訪れた。

    「──あの、友人から、聞いて……借金の、ことで」

    「──座りな。……話を、聞こう」

     獅子堂は、いつものように、静かに、そう、応じた。デスクの上には、これまでと、変わらぬ、法律書と、資料の、山が、積まれている。

     この、南灯町という、街には、これからも、数え切れないほどの、金融トラブルが、生まれ続けることだろう。ヤミ金、詐欺、悪質な、契約……その、形は、時代と共に、変わっていくかもしれない。だが、そこに、苦しむ、人間が、いる限り、獅子堂と、その、仲間たちの、戦いも、また、続いていく。

    「──獅子堂さん、次の、依頼人の方も、お待ちです」

     美咲の、後任として、事務所を、手伝うようになった、新しい、スタッフの、声が、響く。

    「──分かった。……すぐ、行く」

     獅子堂は、静かに、席を、立った。窓の外には、南灯町の、賑やかな、街並みが、変わらず、広がっている。

     法律という、確かな、武器を手に、弱き者たちの、味方であり続けること。それこそが、獅子堂錬の、そして、灯町相談所の、変わらぬ、使命だった。

     ──灯町相談所の、扉は、今日も、そして、これからも、この街の、誰かのために、静かに、開かれ続けている。

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    ## 外伝二十五 獅子堂錬、ある日の独白

     夜、事務所の、明かりを、消す前。獅子堂は、いつも、静かに、一日を、振り返る、習慣を、持っていた。

    「──今日も、いくつかの、トラブルを、片付けた」

     獅子堂は、静かに、そう、呟く。派手な、勝利も、あれば、地味な、和解も、ある。だが、そのすべてに、確かな、意味が、あった。

    「──法律っていうのは、本当に、面白いもんだ」

     獅子堂は、静かに、微笑んだ。

    「──知ってるだけで、人を、救えることが、ある。……知らないだけで、人が、苦しむことが、ある。……その、境目に、俺は、いつも、立ち続けてる」

     獅子堂は、窓の外の、南灯町の、夜景を、眺めながら、静かに、続けた。

    「──桐生、疋田、荒木、美咲、颯太。……みんなが、いてくれるから、俺は、今日も、ここに、立っていられる」

     獅子堂は、静かに、事務所の、明かりを、消した。

    「──さて。……また、明日も、一仕事だな」

     灯町相談所の、変わらぬ、一日が、こうして、また、静かに、幕を、閉じる。そして、また、新しい、朝と共に、この街の、物語は、確かに、続いていく。

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    ## 外伝二十六 南灯町、街の声

     南灯町で、暮らす、人々にとって、獅子堂の事務所は、いつしか、確かな、安心の、象徴となっていた。

    「──困ったことがあったら、灯町相談所に、行けばいい」

     商店街の、寄合でも、そんな、会話が、自然と、交わされるように、なっていた。

    「──あそこの、獅子堂さんは、本当に、頼りに、なるからね」

     高齢の、店主たちが、そう、口を揃える。かつて、悪徳業者に、食い物にされていた、この街は、今では、確かな、法律知識と、地域の、絆によって、守られる街へと、変わりつつあった。

    「──獅子堂さん、今日も、お疲れ様です」

     街を、歩けば、誰もが、獅子堂に、気さくに、声を、かける。かつて、銀行員として、数字の中で、生きていた、獅子堂にとって、この、確かな、人との、繋がりは、何よりも、得難い、宝物だった。

    「──この街に、来て、本当に、良かった」

     獅子堂は、静かに、そう、噛み締めながら、今日も、南灯町の、賑やかな、街並みを、歩いていく。この街の、光を、これからも、守り続けるために。

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    ### あとがき

     本作は、法律知識を武器に、街の金融トラブルを、解決していく、勧善懲悪の物語として、完全オリジナルの、舞台と、人物、事件を、一から作り上げたものである。

     登場する、都市、人物、企業名、事件の、詳細は、すべて、架空のものであり、実在する、いかなる、人物・団体とも、関係ない。作中で、解説した、法律知識は、令和年間の、日本の、法制度を、基に、一般的な、知識として、まとめたものだが、個別の、事案については、必ず、弁護士等の、専門家に、ご相談いただきたい。

     法律という、知識は、正しく使えば、弱い立場の人間を、守る、確かな、武器になる。獅子堂錬という、一人の男の、戦いの物語が、読者の、皆様にとっても、身近な、法律知識への、確かな、入り口となれば、幸いである。

     この街の、光と、影を、見つめ続ける、灯町相談所の、扉は、これからも、静かに、開かれ続けている。

     

    #創作大賞2026 #ビジネス部門

     
     

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