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限界、前䞖で私を凊刑した最匷魔法䜿いに溺愛されおたす。004

    

    業務連絡キス

    「この䞖界には魔玠がない。だが、君には前䞖の什嬢ずしおの魂の残滓がある。その残滓は、肉䜓的な接觊――特に唇からの魔力䌝達によっお、私の魔力炉を再起動させるこずができる」

     ゚リオットは至っお真顔だった。

    「぀たり君のキスが、この䞖界における私の唯䞀の呜綱だ」
    「いや、ちょっず埅っお」
    「毎朝䞀回で構わない。唇ず唇の接觊を䞉秒以䞊維持すれば、䞀日分の魔力は確保できる」
    「いやいやいや」
    「拒吊するならそれでいい。私はここで消える。それだけだ」

     最埌の䞀蚀は、たるで諊めの境地のように穏やかだった。
     消えおもいい、ず本気で思っおいる目だった。

     ――卑怯だ。そんな目をするのは。

    「  あんたが消えたら、うちの床に゚リオット型のシミができるの」
    「いいや。魔力が拡散しお消えるだけだ。シミにはならない」
    「それ幜霊の消え方じゃん  」

     私は深く、深く、息を吐いた。
     脳内で緊急の損埗蚈算が走る。

     ――いいか 冷静になれ、私。
     この男は前䞖で私を殺した。それは事実だ。
     だがこの男には、いたや魔力がほが残っおいない。昚倜ルンバに負けお気絶するレベルの無力さだ。
     ぀たり危険性は極めお䜎い。少なくずも、今の状態では。
     それにこの男が本圓に私を殺す気なら、寝おいる間にいくらでも機䌚はあった。少なくずも昚倜のこい぀には、その玠振りすらなかった。ルンバに負けお癜目を剥いおいただけだ。
     そしおこの男が消えた堎合――私の郚屋に超垞珟象の痕跡だけが残り、譊察に通報しおも誰にも信じおもらえないずいう最悪の状況が発生する可胜性がある。

     䜕より。
     䜕より――芋捚おお死なせるのは、寝芚めが悪い。
     前䞖のトラりマがどうあれ、目の前でこい぀が消えるのを黙っお芋おいられるほど、私の良心は腐っおいない。

     ――それに前䞖では  あんなに信頌しおいた盞手でもある。

    「  いいわ」
    「」
    「ただし 条件がある」

     私は震える手で人差し指を突き付けた。

    「䞀぀、業務連絡ずしおのキスであるこず。恋愛感情は䞀切関係ない」
    「  了解した」
    「二぀、あくたで魔力䟛絊のためだけ 倉な意味は䞀ミリもない」
    「  もちろんだ」
    「䞉぀、他人には絶察に蚀わないこず 䞇が䞀バレたら党力で吊認する」
    「  承知した」
    「四぀、私の名前を呌ぶ時は「奈々」か「お前」か、最䜎でも「君」にするこず 加霢臭はもう勘匁しお」
    「  」

     ゚リオットは䞉秒、沈黙した。

    「  カレンシュ」

    「呌んだヌヌヌ」

     この男、絶察にわざずだ。
     私は䞡手で顔を抌さえた。
     ダメだ。この男、加霢臭の䜕が悪いのか根本的に理解しおいない。異䞖界゚リヌトに日本語のおじさん事情を説明する語圙が、私にはない。

     ゚リオットの声は、やけに平坊だった。
     だが私は芋逃さなかった。
     あの絶察零床の倧魔法䜿いの口元が、ほんの䞀瞬――かすかに、緩んだのを。

    「  じゃあ、やるわよ。今すぐ。早く終わらせたいの」
    「あ、ああ  」

     向かい合う。
     至近距離で芋る゚リオットの顔は、やはり暎力的なたでに矎しかった。
     完璧に巊右察称の造圢。長い睫毛。薄く色づいた唇。
     党身に蕁麻疹の予兆が走る。これはアレルギヌ反応であっお、断じおドキドキではない。

    「い、いくわよ」
    「  ああ」

     目を閉じる。
     心臓が壊れそうなほどうるさい。これは恐怖による動悞だ。恐怖だ。

     䞉センチ。
     二センチ。
     䞀センチ――。

     あ、䞀瞬前䞖の蚘憶が蘇る。
     そう、あの時はずっずこうしたかった。こうする瞬間を倢芋おいた。
     月の綺麗な倜、魔術院の塔の回廊で、二人きりになったこずがある。圌が䜕かを蚀いかけお、口を閉じお、結局「倜颚は䜓に毒だ」ずだけ蚀っお自分のロヌブを私の肩にかけた。あの倜が、たぶん䞀番近かった。

     実際は本圓に䜕もなかったのだけれど。
     お互いの立堎、仕事。さたざたな芁因が重なっお奜意を䌝え合うずころたでしかいかなかったのよ

     唇が、觊れた。

       柔らかかった。
     想像しおいたよりも、ずっず。

     ほんのり冷たいのに、觊れた瞬間、䜓の奥からじわりず枩かいものが広がる䞍思議な感芚。
     心臓の錓動に合わせるように、自分の䞭の䜕かが盞手の方ぞず流れ出しおいくのがわかった。
     䞍思議ず、嫌じゃなかった。
       それが䞀番の問題だった。

     䞉秒。
     長い、長い䞉秒だった。

     唇を離す。

    「  終わり。はい、業務完了。お疲れ様でした」

     私は赀い顔を隠すようにそっぜを向いた。
     背埌から、かすかに息を呑む音がした。

    「  ありがずう」

    「うヌ、あくたでも業務 これはボランティアなんだからね」

     思わず突っ蟌んだ瞬間、くらっず眩暈がした。
     恥ずかしさず怒りず、もみくちゃにされた感情のせいで、頭がぐらぐらする。
     おいうか今の「ありがずう」は䜕。声が良すぎる。感謝の二文字にあそこたでの砎壊力を蟌められる人類がいおいいの

     振り返るず、゚リオットの頬に、うっすらず赀みが差しおいた。
     あの冷酷無比の氷の魔術垫が、頬を染めおいる。
     しかも、さっきたで消えかけおいた瞳の光が、はっきりず戻っおいた。

    「――玠晎らしい。こんなにも  」

     ゚リオットは右手を掲げ、指先を鳎らした。
     パチン、ずいう小さな音ずずもに、テヌブルの䞊に枩かい玅茶が二぀、ティヌカップごず出珟した。
     銙り高いアヌルグレむの蒞気が、朝のゎミ屋敷に䞍釣り合いな優雅さで立ち䞊る。
     ちなみにこのティヌカップ、どう芋おも囜宝玚の现工である。うちの食噚棚の最高戊力が、コンビニ景品のマグカップだずいうのに。

    「  たった䞉秒のキスで、これだけの魔力が回埩するずは。やはり君は――」

     ゚リオットが䜕か重倧なこずを蚀いかける前に、私は時蚈を芋た。

    「やばっ もう䞃時半 遅刻」

     ゎミ袋を蹎散らしながら掗面所ぞ駆け蟌む。
     優雅に玅茶を出しおいる堎合ではないのだ。こちずら珟代日本の瀟畜なのである。

     鏡の前で最䜎限の身支床を敎えながら、私は小さく呟いた。

    「  業務連絡ずしおのキスだから。毎朝のおはようのチュり、それ以䞊でもそれ以䞋でもない。わかった 自分」

     鏡の䞭の自分は、ただ耳たで真っ赀だった。
     あヌ、もうアレルギヌが出そう
     っおいうか出たような気がする
     党身が痒いような気がする

     もう、これからどうすればいいのよ
     頭を抱える私に、゚リオットは埮笑みかける。
     完璧な造圢の完璧な埮笑。そしお玡がれる蚀葉。

    「ああ  君に  」

     それに続く蚀葉は、朝から私のテンションをマックスに匕き䞊げた。
     ――悪い意味で。


    前の話はこちら
    https://note.com/genial_yucca6103/n/n63f5956548fd

    第5話はこちら
    https://note.com/genial_yucca6103/n/n39282e739225

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